八 日 目 。 令 ノ 。 …。 令? …え。 そんなところで何をしているの? あ、蓉子さま。 ごきげんよう。 ごきげんよう。 お裁縫? あ、はい。 お姉さまの装束がほつれてしまっていたので… 見せてもらっても良い? 良いですよ。 これ、なんですけど。 有難う。 …令は本当に器用ね。 ありがとうございます。 だけどまだまだです。 然うなの? こんなに上手に縫えているのに。 私だとこうは行かないわ。 そんなコト無いですよ。 前、当主さまのお着物を縫っていらしたのを見た時、 生意気で恐縮なんですけど、お上手だなぁって思ったんです。 だけど私はこんなに真っ直ぐな縫い目には出来なかったもの。 それに私はいつか、一から作ってみたいんです。 一から? 装束を? はい。 私に妹ができた時、妹に作ってあげたいな、て。 あ、自分の妹でなくてもいいんです。 お姉さまにとか、蓉子さまや当主さまの子供にとか ……。 …て、あれ、蓉子さま? 私、何か変なコトでも言いましたか…? …いいえ。 然うね、令ならば出来ると思うわ。 今のように真摯な姿勢でいれば、いつか、屹度。 はい、頑張ります! …此処はあったかいわね。 この時間になると丁度、日が当たるんですよ。 ここ、私のお気に入りなん、で…? あ、あの、蓉子さま…? 令の手も温かい。 とても優しい手をしているわ。 あ、いや、其の… 大丈夫。 屹度、出来る。 だってこんなにあったかいんだもの。 あ、あ、あの…! うん? 私も好きです…! …えと? 蓉子さまの手、私も好きですから! だから! ……。 だから、当主さまもお喜びになったのだと思います! …聖、が? 私も蓉子さまのように、誰かを当主さまのような笑顔にしたいです! ……。 だ、だから…。 くす。 有難う、令。 あ、や、え、えと… …令? 顔、真っ赤だけれど大丈夫? だ、大丈夫です! だけど わ、私、縫い物に戻ります! では! あ、令、何処に行くの? そこは蓉子さまに差し上げます! ぜ、是非とも、当主さまとご一緒なさってください! じゃ! え、ええ。 九 日 目 。 マ タ 聖 ノ 。 …。 ……。 ………。 ……ああ。 今日は久々に静かだわ。 おかげで本が、久しぶりに心行くまで本が読め 蓉子ーーーー! な、何…?! 肩ンとこ破れたー! 縫ってー! ……。 蓉子、蓉子。 ほら、肩、肩。 確かに破れてるわね。 見事に。 でしょ?でしょ? だから縫って縫って。 イツ花に縫ってもらいなさい。 やだ、蓉子が良い。 私は忙しいの。 イツ花に縫ってもらって。 えーどこがー? どうせ本でも読もうとしてたんでしょ? 本でも、とか言うな。 大体、聖は書物を何だと思って ねぇー蓉子ぉー、縫ってよーぅ。 鬱陶しい。 ほら、ここスースーするのよ。 ね、ね? と言うか、何をしたら破れたの。 んー、ゴロンタと少々。 引っ掻かれたの? いや、寧ろ引っ掛けた。 何に。 枝。 は? いや、さぁ。 登ったのは良いけど、下りられなくなっていてねぇ。 ま、仔猫に良くあるコトだね。 で、貴女も登ったと。 だって、みーみー鳴いているんだもん。 放っておけないでしょや? 其れは…然うだろうけど。 私、なく子に弱いのかも。 蓉子然り。 どうして其処で私の名が出てくるのよ。 ……ふふ。 一寸。 何よ、其のいやらしい笑いは。 ないしょー。 はぁ? てか、後で教えてあげる。 今はこれを直してー。 私は本が読みたいの。 出来るなら、心静かに。 うん。 だから着物はイツ花に、寧ろ自分で 蓉子じゃなきゃ、やだ。 私は貴女の母親じゃない。 当たり前じゃん。 だったら、 蓉子は私の想い人よ。 大事な、さ。 ……。 ね、蓉子。 縫って、縫って。 ……嫌よ。 えぇ。 えぇ、じゃない。 じゃ、前払い。 まえ…? …あ。 …。 ……せ ね、縫って? 聖…!! ん、何? な、何って 後でもっと深いのを上げるね。 蓉子が泣くくらい。 …ッ ば、莫迦……ッ 十 日 目 。 由 乃 ノ 。 …。 …。 …ふ。 …乃。 …れ、ぃ …由乃。 れい…ちゃ 由乃ちゃん。 ……? 目、覚めた? よぅ…こさ、ま…? …うん。 熱は下がったみたいね。 あ、あの… うん? れいちゃん、は…? ああ。 そばにいてくれるって…いった、のに。 れいちゃんの、うそつ 由乃ちゃん。 令は嘘なんか吐くような子じゃないわ。 で、も… 由乃ちゃん、隣を見てごらんなさい。 とな、り…? 然う。 左の、ね。 ……あ。 ね? 令は嘘吐きなんかじゃないでしょう? …けど、ねてる。 心の底から心配しすぎて、力尽きてしまったみたいなの。 だからお願い、眠らせてあげて? ……ようこさまが、そう、いうのなら。 有難う。 由乃ちゃんも優しい子ね。 べ、べつに、そんなんじゃ… 由乃ちゃん、喉、渇いていない? のど、ですか…? …えと、すこし。 お水、持ってきているのだけど…起きられる? それとも匙の方が良いかしら。 おきづかい、ありがとうございます。 だけど、おきられます。 無理はしないで。 は、い…? 矢っ張り辛い? いえ…というか、れいちゃんが… 令? 令がどうかしたの? …きもの、を。 ……あら、本当。 ………。 令は本当に貴女が好きなのね。 …もう。 れいちゃんの、ばか。 ねぇ、由乃ちゃん。 はい…? 私も貴女の事が好きよ。 …え? 私だけじゃないわ。 聖も祥子も志摩子も…それから、今は居ないけれど江利子も。 ……ようこさま。 ん? お水、のんでもいいですか。 ええ。 …おいしい。 うん、良かった。 ……。 熱は下がったけれど、未だ寝ていた方が良いわね。 食欲はある? …すこし。 然う。 じゃあ後で何か持ってくるわね。 令の分も一緒に。 ようこさま。 ん、何? 何か食べたいものでもある? わたしもようこさまがすきです。 …有難う。 だけど私だけ? みんな、すきですよ。 …いちおう、もいますけど。 ふふ、其れは良かった。 ようこさまはせわやき、て、ほんとうなんですね。 其れは…聖が? ……でこ、が。 然う…。 十 一 日 目 。 三 度 聖 ノ 。 …。 …。 …あー。 ……。 …うー。 ………。 喉が、喉が痛いよーぅ…。 …水、飲む? うん。 零さないようにね。 口移しが良いなー。 伝染るから、嫌。 …ですよねー。 飲んだら大人しく寝て。 はーい…。 …。 ……よぅこー。 あたまー… はいはい。 手拭、冷やすわね。 おー。 はい。 冷たーぃ。 其れは良かった。 じゃあ、くれぐれも大人しく寝て。 へーい。 …。 …。 ……。 …よっこー。 今度は、何? お腹でも空いた? 添い寝して。 嫌。 眠れない。 だから傍に居るでしょう。 貴女が熱を出した、昨日から。 おかげで自分の部屋にも戻れない。 一緒のお布団で寝て。 つまり、私に伝染したいのね? んーん。 子供じゃないんだから。 熱があると。 怖い夢を見るんだよ。 ……見たの? 未だ。 けど見るんだ…くしょい! ああ、もう。 あー、垂れるー。 全く、本当に手の掛かる人ね。 はい、拭くわよ。 へへ、ありがと。 さぁ、お願いだから大人しく寝て。 今日一日寝ていれば、明日には屹度熱も下がるわ。 其の為にも一緒に寝てよ。 あのね、私にはやる事があるの。 其れに昨夜は隣で寝たでしょう? 隣、じゃ、やだ。 一緒が良い。 聖、いい加減にしなさい。 我侭ばかり言わないで。 ……。 拗ねても駄目なものは駄目。 …私だったら。 蓉子が一緒にって言ったら絶対に叶えてあげるのに。 …。 …もう、良い。 此処に居るのも嫌なら良いよ、出て行って。 聖。 自分の部屋に戻れば良い。 私は、寝る。 聖。 うるさ …絶対に伝染すような事、しないで。 …。 あと、薬はちゃんと飲んで。 ……。 良いわね。 約束よ。 ……うん。 そっち、向いてもい…? ……。 蓉子…。 ……あぁ、もう。 其れは、駄目。 ちぇ。 でも、良いや。 …。 蓉子の匂い…安心する。 …これで眠れるのでしょう? さぁ眠って、聖。 …ん。 おやすみ、蓉子。 おやすみ、聖。 ……。 ……。 ………。 …全く。 ……んん。 つくづく、甘いわね…私。 次 |