五 日 目 。

   
デ コ チ ビ ノ 。










   …。


   …。


   ……。


   …蓉子。


   ………。


   蓉子。


   …え。


   今日は風の術、やるって言った。
   まだやらないの。


   ああ、然うだったわね。
   今、行くわ。


   …。


   待たせてしまってごめんなさいね。


   …ねむったの。


   うん?


   せい。


   ああ。
   ええ、今やっと。


   あ、そう。
   ……。


   江利子?


   私、今日はちがうのがやりたいわ。


   違うの?


   私、蓉子が知りたい。


   …え?


   教えてよ。


   一寸待って。
   江利子、何を言っているの。


   蓉子が知りたい、て言った。


   私が、て。


   ああ、まちがった。


   そ、然うよね。


   蓉子のコトが知りたい、だった。


   ……は、い?


   教えて。


   ま、待って。


   教えてくれないの。


   私の事、て。
   私は私で、私の何が


   蓉子は。
   せいがスキなの?


   は…?


   だっていつもせいのそばにいるわ。
   今だってねるまではなれなかった。


   其れは聖が泣くから。
   其れにいつもじゃないわ。


   でも私といっしょにいるより、長いわ。
   せいが来るまでは二人でいたのに。


   だけど泣いている聖を。
   放っておく事なんて、出来ないわ。


   蓉子じゃないとだめなんでしょ。
   だからそばにいるんでしょ。


   …。


   ねぇ、どうして蓉子じゃないとだめなの。
   せいは蓉子がスキなの?


   な…ッ


   それで。
   蓉子は私より、せいがスキなんだわ。


   ち、ちが、


   …なぜかしら。
   すごく、おもしろくないわ。


   え、江利子!


   なに?


   わ、私は貴女も好きよ?


   知ってるわ。
   だけど知らないの。


   ……は?


   蓉子、今日は風じゃなくて水が良いわ。


   え、え?


   においがするから。


   匂いって、何の…?


   雨の。


   だけど晴れて


   いいえ、ふるわよ。
   水のにおいがこんなにするもの。










  六 日 目 。

   
 ノ 。










   …。


   ふふ。


   ……。


   へへー。


   …一寸、聖。


   ん、なに?


   先刻から。
   人の頭に手を乗っけるの、止めてくれないかしら。


   どして?


   鬱陶しいから。


   私は楽しいけどなぁ。


   私は楽しくない。


   ね?
   私、どこまで大きくなると思う?


   知らないわよ。
   それより早く手をどけて。


   あ。


   全く。
   人の頭を何だと思ってるの。


   ……。


   …何よ。


   いや、可愛いなぁと思って。


   は…ちょ、きゃっ


   きゃっ、だって。
   かーわい。


   ふ、ふざけないで聖…!


   ふざけてないよ。


   離して…!


   不思議だなぁ。
   あの蓉子が私の腕の中に収まるだなんて。
   前は逆だったのに…


   ん…。


   …ね?


   …ね、じゃないわよ。


   どきどきした?


   しない。
   離して。


   えー。


   えー、じゃなひゃッ


   ん、何?


   い、今、何を…


   でこちゅーじゃどきどきしないって言うから。
   舐めてみたんだけど?


   何よ其れ…!


   ん?
   もっとして欲しい?


   して欲しくない…!


   遠慮なんてしなくて良いよ。


   してないか、やぁ…ッ


   …敏感。


   せ、聖…ッ


   だっておでこ以外が良いって言うから。


   言ってないから…!


   我侭だなぁ。


   何をどうとったら我侭だ、と…


   でもたまには我侭言って欲しい。


   あ、も…ぅ。


   …やっぱ、耳が一番?


   聞かないで…よ。


   未だ大した事してないのに、こんなに真っ赤にして。
   たまんない。


   …人で遊ばない、で。


   若しも、立ってられないのなら。
   運んであげるけど?


   …真昼間から何を考えてるの。


   いや、殊更何も。
   あ、でも何?若しかして期待しちゃってる?


   な…ッ


   良いよ、其の期待に応えて上げる。
   私の、大好きな蓉子さま。










  七 日 目 。

   
 チ ビ ノ ?










   聖。


   ……。


   ねぇ、聖。


   ………。


   聖ってば。


   ……なに。


   これ。


   ……なに、それ。


   お八つ。
   きんつば、と言うそうよ。
   甘くて美味しいんですって。


   …。


   イツ花が町内会で貰ってきてくれたの。
   元々は一つだったのを三等分にしてしまったから小さくなってしまったけれど。
   どちらが良い?


   …いらない。


   え…?


   ……。


   待って、聖。


   ついてくるな。


   でも…


   いらない、って言ってる。


   どうして?


   ……。


   江利子は美味しいって言っていたわ。


   だから?
   私とでこちんをいっしょにしないで。


   ねぇ、聖。
   本当に要らないの?


   いらない。


   ……そう。


   ……。


   じゃあ、私も食べない。


   …は?


   だって聖が食べないのに。
   私、食べられない。


   なにそれ。
   いみ、分かんない。


   だって…


   ……。


   ……。


   …あまいの、すきなくせに。
   ばかじゃないの。


   …一緒に、食べようと思ったのよ。


   でこちんとたべればよかったじゃない。


   聖と食べたかったの。


   は、なんで。


   だって聖、いつも来ないんだもの。


   こない?


   いつも一人で居て。


   そんなの、人のかってでしょう。


   けど…。


   ともかく、私はいらない。
   私の分は蓉子がたべればいい。


   聖、私は


   すきじゃない。


   ……。


   あまいの、すきじゃない。


   え、そうなの…?


   だからあげるって言ってるの。
   分からない?


   あげる…て、私にくれるって事?


   他にどんないみがあるっていうの。


   聖が、私に…。


   もういいでしょう。
   ついてこないで。


   ま、待って、聖。


   ……。


   せめて、一緒に居て。


   …はぁ?


   食べ終わるまでで良いの。


   …。


   一人で食べても屹度美味しくないわ。
   だから、聖。


   ……。


   お願い、聖…。


   …さっさとたべれば?


   !
   うん!


   ……本当、ばかじゃないの。










  追 加 。

   イ ツ 
 ト 。










   どうでした?


   うん…。


   やっぱり、駄目でした…?


   好きじゃない、て。
   だからこれ…。


   ああ、蓉子さまに差し上げますよ。
   一度差し上げたものを、イツ花は返せなんて言いません。


   ううん、イツ花が食べて。


   良いですって!
   イツ花なら疾うに…


   …?
   疾うに…?


   あ、いえ何でもありません!
   でも、然うですか…。
   甘いお菓子、お子さまだったら誰でもお好きだと思ってたんですけど…。


   子供と言っても好みはあるのよ。


   蓉子さまはお好きなんですよね。


   …。


   あれ?
   実はお好きじゃ無かったとか?


   いいえ、好きよ。


   ですよね、イツ花もです。


   …聖は


   きんつば、甘くって、とっても美味しくて。
   ああ、あの味を思い出しただけでしっぶーいお茶が欲しくなっちゃいます!


   …何が、好きなのかな。


   おっと、こうしちゃいられない!
   さっさとお湯を沸かさないと!


   ……。


   さぁさぁ!
   蓉子さまは聖さまを連れて来て下さいナ!


   …え。


   さぁ、早く!!


   待って、イツ花


   お茶なら屹度、一緒に飲んでくれますよ!!


   あ。


   すーぐ、持って参りますから!
   そうそう、江利子さまも呼んできてくださいナ!
   絶対、ですよ!!


   う、うん、分かった。


   たっのしい〜お茶のじか〜ん〜〜ふふ〜ん。


   …一緒じゃなかった、なんて。
   言ってないのに……。


   蓉子さま、ぼさっとしてないで下さいよー!


   あ、はい。


   先ずは水汲み〜〜。


   ……聖。