蓉子…。 ん、あ…ッ …き。 んん…ッ 好き…。 せ、せ…い…ぁッ 好き…好き…すき…。 あ、あ、あぁ……ッ …よぅ…こ。 ……せ……ぃ。 ……。 あ……。 …はぁ。 今日も…か。 …。 ねぇ、蓉子。 ん…。 蓉子は…。 ……。 私の事…どう、思ってるの。 …んん。 ね、私の事…。 …。 好き…? ……。 教えてよ…蓉子。 …。 …お願い。 好きって言って…。 …。 好きって言って…言ってよ。 お願いだから…。 ……。 蓉子…蓉子…。 …………わたし、は。 K o k o r o …はぁ。 また来た…。 イツ花? こんな門前〈トコ〉で何してんの? げ、当主様…ッ げ、て。 何其の反応、傷付くなぁ。 と、当主様こそ、このような所で何をなさっているのですか? んー、散歩にでも行こうかと思って。 本当は蓉子も一緒にって誘ったんだけど、忙しいの一言で一蹴された。 相変わらず、釣れない。 あ、あぁ、然うなんですか。 其れは残念でしたね。 うん、凄く残念。 其れではお気をつけて行って来て下さいませ。 あ、お夕飯までには何卒、間に合うよう。 じゃないとまた、蓉子さまに叱られてしまいますから。 うん、行って来る。 で。 で…と仰いますと? 今、何となく後に隠したのは何かなぁ? …げ。 見えてないとでも思った? 私、目は良いんだよ。 べ、別に何も隠していませんよ。 やだなぁ、当主様ったら。 然う言われると、余計、気になるよ。イツ花。 さ、手を前にしてごらん。 い、いえ、だから、何も無いですってば。 ふぅん、然うなんだ。 じゃ、とりあえず其の手を前にしてみ? と、当主様…。 何も無いんでしょ?じゃ、構わないじゃん。 さ、前にしてみ。 ……。 ふむ。 確かに何も無いね。 で、でしょう? ほらぁ、イツ花の言ったとおりだったじゃないですか。 じゃ、次は。 手は其のままで体は半回転、してみようか。 ……はい? つまり。 此方に背中を向けてみろ、て事。 そ、そんな…。 はい、せーの。 と、当主様にお尻を向けるなんて、失礼過ぎて、イツ花にはとても出来ません…! 当主命令なんだけどなー、これ。 背いても良いのかな? …と、当主様ぁ。 イツ花は良い子だから。 背く筈、無いよねぇ? ……ど、どうしましょう、蓉子さま。 うん? どうしてここで蓉子の名が出るのかな? 若しかして其の帯に隠しているモノは蓉子に関する事だったりするのかな? や、やーだなぁ、当主様ったらー。 あは、あはははは。 …てか、耳良すぎでしょうよ、耳が良いのは蓉子さまだけで十分ですよ、もう。 ま、何はともあれ。 後、向いてみよっか。 言っとくけど、否、は許さないからね? …あ、あぁ。 申し訳ございません、蓉子さま…ッ ふむ、思ってた通り。 え、と、此れは…。 え、えぇっと…。 手紙、かな。 あ、中見えちゃった。 此れはいかん、いかんなぁ。 いや、思い切り開いているじゃ無いですか…。 んー、でも不可抗力だから。 だ、駄目ですよ。 此れはあくまでも蓉子さまに届いたものであって…。 ま、開いちゃったもんは仕方無し。 百歩譲って然うだとしても。 中を見ては… どれどれ。 て、当主様ぁ…! −麻生の浦に 片枝さしおほひなる梨を 成るもならずも 寝て語らはむ …。 あ、あのぉ、当主様…? …イツ花。 ひ…。 これ、何? て、手紙、ですかね。 えへ。 ……誰から、誰へ、の? そ、其れは、何処ぞのさる止ん事無き方から…。 方、から? よ… よ? ……蓉子さま、へ、のです。 ・ 蓉子、此れ何。 此れ…て。 此れ。 藪から棒に何なの。 此処は一応、私の部屋なのだけれど。 知ってるよ。 だから来たんじゃない。 人の部屋に訪いを入れる積もりなら、もう少し礼儀を弁えたらどうなの。 如何に当主とは言え、個人の部屋に無作法に乗り込んで来て良いわけが無いでしょう? …。 聖。 其れは悪かったわね。 …で。 一体、何だと言うの。 貴女、散歩に行くって言ってたじゃない。 散歩は止めた。 で、此れは何。 手紙、でしょう。 で、貴女が其れを持って私の部屋に来たと言う事は屹度、私宛なのでしょうね。 …誰からか、知っているの。 凡その見当なら。 貴族から、でしょう。 な…。 然う、また来たのね。 返事も何もしていないと言うのに。 …ああ、だから、なのかしら。 …何時〈イツ〉から。 聖? 誰から!? 何時頃から届いていたの?! 然うね、大体ひと月前ぐらいから。 誰かは…。 知ってるのね?! 一応。 中は読んだの? 自分宛に手紙が届いたら、一通りは目を通すものでしょう? …こんなの! ええ。 所謂、懸想文と言うものだったから。 返事も何もしなかったのだけれど。 でもまた来てるじゃない。 現にこうして。 然うみたいね。 蓉子にこんなのが来ているなんて、私、全然知らなかった。 言ってないもの。 イツ花は知ってた! 其れはイツ花が私に届けてくれたから。 …どうするの、此れ。 どうするも何も。 別にどうもしないけど。 …。 …聖? …ッ ちょ…ッ …こ、は。 ひ、昼間から何を考えて…ッ …蓉子は。 聖、放して…! 蓉子は、誰にも渡さない…! …! 蓉子、は…。 …。 …蓉子、は。 私だけ、の…。 …聖、苦しいわ。 放して。 …。 それよりも、聖。 貴女、勝手に他人宛の手紙を読んだのね。 幾ら当主と言えど… 蓉子は、ずるい。 …心外だわ。 だって然うでしょう。 蓉子は私の事を何でも知ってるのに。 知らないわ。 私は何一つ貴女の事を、肝心な事は知らない。 嘘吐き。 嘘なんて吐いていない。 其の目で、何もかも見透かしているくせに。 私が子供のように不貞腐れる事だって分かってて。 たった一年程度しか生きていないのに。 何年も生きている人間(オトナ)の様に振舞えと? それこそ、貴女が心底嫌悪していた事じゃないの。 然ういう事が言いたいんじゃない。 誤魔化さないでよ。 誤魔化す? 何を? 蓉子は私を知っている。 それこそ、私がこの家に来た時から。 だから私は、いつまでも、蓉子にとって手の掛かる“子供”のままだ。 生きている以上、年を越す事なんて出来ない。 いえ、死んだとしても同じだわ。 だから然うじゃない。 何が言いたいの。 …何で教えて呉れなかったの。 教える必要は無いと思ったから。 どうして然う思ったの。 寧ろ、知ってどうする積もりなの。 私の問いに答えて。 其れが私の答え。 知った貴女がどうするか、其れが分からなかったから言わなかった。 嘘だ。 嘘では無いわ。 でも知った私が此処に来る事は分かってたんでしょう? 其れは…然うね。 然うだったら良いとは思ってたわ。 ほら、目論見どおりだ。 そんな言い方しないで。 本当の事じゃない。 目論見なんかじゃないわ。 …願望よ。 へぇ。 蓉子でも願望なんて抱くんだ。 聖。 てっきり蓉子は私の事なんて何とも…いや、違うわね。 私は蓉子の“子供”のままなんだ。 世話の焼ける…。 違う。 違わない。 違うわ。 だって蓉子は言って呉れない。 いつも私ばかり。 言う? 何を…。 蓉子、好き。 …。 ほら、返してくれない。 違う、其の…いきなりだったから。 違う、蓉子は分かってたんだ。 何をだなんて、今更。 私が今、欲しい言葉なんて一つだけなのに。 分かってるくせに。 聖、違うの。 蓉子は私の事なんて好きでも何でもないんだ。 ただ、子供のようだから、だから。 違う、違うわ、聖。 じゃあ、言って。 今直ぐ。 …。 言ってよ。 さぁ。 …貴女は。 そんな風に強制的に言わせた言葉で満足するの。 …ッ せ…いたッ …強制的、だって? 聖、痛い…ッ だって蓉子、こうでもしない、と…。 聖…ッ …こうまでして、も。 放して、放しなさい、聖。 …こ、なんて。 せ、い…! 蓉子の然ういう所…! 大嫌い、だ。 あ…ッ 嫌いだ、嫌いだ、大嫌いだ…!!! あ、あぅ、…あぁぁ!! 後 |