いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………ッッ









   由乃さんの声が痛いくらいに耳に響いて。
   其の声で私は我に返った。
   今、何が起こったのか。
   見ていた筈なのに、理解出来ない。
   ただ。
   令さまは由乃さんに凭れる様にして倒れ、
   倒れてきた令さまを由乃さんは支えきれずに尻餅をついた。



   あぁ、あぁぁ…あぁぁぁぁぁぁ…ッッ



   黄川人が現れた時、確か令さまは由乃さんの元へ駆けていって。
   由乃さんを守るべく、黄川人に剣を振るった。
   けど。
   其の直ぐ後に髪が背後に現れて。
   髪が…令さまを。

   それから、由乃さんは。
   血溜まりの中で。



   彼の者の傷を癒せ、円子!!



   強くてでも優しい光が令さまに降り注ぐ。
   たちどころに傷は癒えていくけれど、令さまは動かない。
   令さまを抱えたままの由乃さんもまた。



   祐巳!



   …お姉さま。
   令さまはどうして動かないのですか。
   由乃さんはどうして泣いているのですか。



   確りなさい!祐巳!!
   貴女がそんな事でどうするの!!



   そんな事。
   だって。
   令さまが。
   由乃さんが。



   良い?
   隊長である令が討たれた今、此処は一旦退くのよ。
   貴女は由乃を何とかなさい。
   令は私がどうにかするから。



   退くって。
   どうやってですか、お姉さま。
   前には黄川人。後ろには髪。
   そしてやっぱり倒れたままでちっとも動かない令さま。
   とうとう泣く事すらも忘れて、虚ろになってしまった由乃さん。
   どうやって、何とかすれば良いのですか。
   私には分かりません。
   …いえ。










   考えられないのです、お姉さま。










   我らが力を高めよ、梵ピン!



   身体中に力が溢れるのを感じる。
   けど、足が動かない。
   気持ちすらも挫けて。
   何を、どうして良いか、分からない。
   友達が泣いているのに。
   私は。



   令の言葉を思い出して。
   良い?
   私達は生きて還るの。
   生きて、還るのよ!



   …お姉さま。
   私は…。



   走りなさい、祐巳!
   何も考えられぬと言うのなら、私の言葉どおりに動きなさい!
   良い?貴女は由乃を抱えて今直ぐ此処から退くの!



   ……。



   確りなさい。
   貴女まで呆けていたら、どうしようもないじゃないの。



   頬に走る痛み。
   鋭くて熱い痛み。
   …ああ。



   貴女は私の妹であり、お姉さまの、蓉子さまの“子”でもあるのよ、祐巳。



   毅然とした其の強い目。
   …然うだ、私はお姉さまの妹、蓉子さまの“子”。
   蓉子さまだったらこんな事に屈しない。
   最後まで、決して諦めない。
   今のお姉さまのように。
   だから。



   殿は私が務めるわ。
   だから祐巳は前だけを見てお行きなさい。
   決して振り返らずに。



   …分かりました、お姉さま。
   でも其の前に。





   我らが敏速を高めよ、速鳥!





   …然う、其れでこそ私の妹。
   さぁ、行くわよ。






   はい、お姉さま…!!


















   『火祭り、水祭り、風祭り、土祭り、滄溟を探り給ふた天の瓊矛の雫よ、此処に集いて我等を守護せよ…!』














   陣・七