刹那、背中に何か冷たいものが流れた。
やばい、やばい、やばい、やばい、やばい。
此処に居てはまずい。
身体全体で然う感じている。全身が粟立つ。
頭の中では警鐘が五月蝿いくらいに鳴り響いている。
兎に角、此処から退かなくては。
由乃を連れて。
…あれ。
由乃は?
由乃は何処へ。
由乃を守らないと。
直ぐ隣に居た筈なのに。
命を懸けて守るって決めたんだ。
なのにどうして居ないの。
手を伸ばせば届いたハズなのに。
直ぐ、其の手と繋げたのに。
どうして届かないの。
ああ、由乃。
何処なの、由乃。
由乃、由乃、由乃、由乃、由…
んー?
あの女どもの匂いがしたからわざわざ来てみたんだけど。
どうやら違ったみたいだねぇ。
居た。
あぁ、どうしてあんな離れた所に居るんだろう。
なんで。
鬼(アレ)が由乃の直ぐ傍に居るんだろう。
其れの傍に居ては危ないのに。
今直ぐ、離れて。
其れはとんでもなくやばいの。
だから、離れないと。
ああ、そっか。 若しかしてアイツら、ポックリいっちゃったのかな? 何しろ、君達はこの僕とは違って短命な一族だったものねぇ!アハハハ…!!
…ああ、分かった。
私がそっちに行けば良いんだ。
簡単じゃないか。
そっちに行って鬼から引き離せば良い。
然うだ。
由乃、由乃。
直ぐ、行くから。
直ぐに、直ぐに。
貴女のところへ。
其処の薙刀のと直ぐ隣の小さいのは僕を殴り殺そうとしてくれた女の、子かな?
でもあの、まるで修羅のようだった、女の匂いは少ししかしないなぁ。
若しかしたら君ら、あの女の卵から孵ったんじゃないのかな。
然うだとしたら、残念だなぁ。
五月蝿い。
五月蝿い。
黙れ。
黙れ。
耳障りな事、この上ない。
ああ、いっその事。
下らぬ事が喋れぬように、其の口を切り裂いてやろうか。
然うだ、切り裂いてやろう。
で、薙刀の奥に居る剣のと…此処に居る小さいのは僕を射殺そうとした女の、子だね。
うん、君達はあのでこ女の匂いが強いねぇ。
特にお下げの君からはとても良いニオイが漂ってくるよ。
然う、いっそ食べてしまいたいくらいに、ね。
触るな。
触るな。
由乃に触るな。
穢れた手で、触るな。
良いか、由乃に触れたら許さない。
由乃に指一本でも触れたら、赦さない。
ああ、けど。
僕を突き殺そうとした白ちびの子は居ないんだね。
アイツらの中では一番僕に近いのかなって思ってたのに。
残念、だなぁ。
若しも触るというのなら。
其の手を、腕を斬ってやる。
斬り落としてやる。
それでもああ、君達を見ていると思い出しちゃうなぁ。
アイツらとの楽しかった逢瀬を。
でも、惜しいなぁ。
後にも先にも僕を殴り殺せそうになったのも、射殺せそうになったのも、突き殺せそうになったのも。
アイツらだけ、だったのにねぇ。
アイツらだったら若しかしたら僕を殺して呪いを解けたかも知れないのに。
あーあ、時って残酷だね!其れとも其れだけしか生きられない君達がただ単に可哀想なだけなのかな?
由乃。
私の、由乃。
大丈夫、いつでも私が守るから。
手が如何に汚れようと。
真っ黒になろうと、貴女が傍に居てくれるのならば構わない。
守れるのならば、幾らでも汚そう。
由乃が居てくれるのならば、何も要らないんだ。
ま、全員がアイツらの餓鬼じゃなかったのは残念だけど。
折角此処まで来たんだからさ。
然う直ぐに帰るだなんて言わないで、もっと遊んでいきなよ。
ほら、コイツも君達と遊びたいってさ。
なぁ?
由乃。
あともう少しで手が届くよ。
紹介するよ。
由乃。
由乃。
由乃。
こいつは僕の七本目の髪だ。
よし…
…令ッ
…どうだい?
可愛いだろう…?
幕間三
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