其の小さな手を初めて見た時。
   私は私の全てを投げ出してでも、其れを守りたいと思ったんだ。






   私の手はもう、拭い切れないくらいに真っ黒だったから。









   名前は由乃。
   職業は…。


   何と言うか。
   真っ青、だねぇ。
   こりゃ、本当に当たったかも。


   …ええ。


   令。


   …。


   れーい。


   …え。


   今、呼んだのだけれど。
   聞こえなかった?


   す、すみません。
   えと何でしょう、は


   お、ね、え、さ、ま。


   お、お姉さま…。


   この子、抱いてみない?


   え…。


   はい。


   え、あ、ちょ…ッ


   落とさないでねー。


   う、あ。


   どう?


   あ、いや、どうって言われましても…。


   軽い?それとも重い?


   ……重い、です。


   然う。
   其れが其の子の命の重みだから。
   ついでに言うとあったかいでしょう?


   あったかいと言うより、熱いです。
   なんか、凄く熱い…。


   うん。


   江利子。


   んー?


   其の子は…。


   其の子、じゃないわよ。
   由乃。


   …由乃、は。


   当たったと思うよ。


   聖…!


   誤魔化したところでどうにかなるものでもないよ、蓉子。


   確かに然うだけれど、もっと違う言い方があるわ。


   其れじゃあ、言い方を変えよう。
   其の子は、由乃は“弱い”よ。屹度。


   …聖。


   他の言い方は思いつかなかった。
   ごめん、蓉子。


   …。


   と言うか、蓉子はいちいち気にしすぎ。
   そんな事だと、あっという間におばあちゃんになっちゃうわよ?


   …江利子。


   聖の言うとおりだわ。
   由乃は“弱い”。
   だから聖の言う事を気にしたって仕方が無い。


   虚弱体質ってやつね。
   恐らく、当家初、の。


   でも。
   其れがどうしたって言うの?


   はは、でこらしい言い様。


   …二人とも、どうしてそんなに軽いのよ。


   軽いつもりは無いんだけどな、私は。


   聖は常日頃が軽薄だから。
   でしょう?蓉子。


   言ったな、でこ。


   まぁ、あれを見てみてよ、蓉子。
   どう思う?


   どう…て。


   あれを見てると。
   なーんか、大丈夫かなーって。
   思えてくるのだけれど、私は。


   子供が子供を抱いてる。
   うん、なんて微笑ましい。


   子供、嫌いなくせに。


   む、其の言い方だと聊か御幣があるぞなむし。


   何処の言葉よ。


   一寸した勢い。
   言っておくけど、“子供”と言うものは嫌いじゃない。


   へーぇ。
   其れは初耳だわね。


   ただ…。


   うん?
   どうして私を見るの、聖。


   見たかったから。


   …。


   兎に角、嫌いじゃない。
   好きでも無いけど、ね。

   
   あ、そ。
   ところで、蓉子。
   蓉子も然う、思わない?


   何が。


   あれ見てると。
   大丈夫だって思わない?


   …分からないわ、私には。


   そ?
   其れは残念。


   …だけど。
   ああ、大丈夫かも知れないわね。案外。


   蓉子、言ってる事が滅茶苦茶だよ。
   珍しいなぁ。


   私にだって分からないわよ。


   蓉子。


   何。


   私達は、家族、なんでしょう?


   ええ、然うよ。


   だから。
   屹度、大丈夫。


   …然う、ね。


   其れじゃ、ま。
   令。


   あ、はい。
   何でしょうか、当主様。


   由乃は、可愛い?


   …はい。


   令。


   はい、蓉子さま。


   決して忘れては駄目よ。
   其の重みと温もりを。


   勿論です。


   令。


   はい、お姉さま。


   其の子をこれから見るのは貴女。
   分かった?


   はい…!





   ・





   其んじゃ、目出度くお披露目も命名も終わったところで。
   はい、かいさーん。
   皆、夕餉まで好きに過ごして頂戴なー。


   一寸聖、他にも未だ話し合いたい事が…。


   其れはまた夕餉の時にでも。
   はいはーい、皆散った散ったー。


   聖…!


   はいはーい。
   其れじゃ皆、さっさと散るわよー。
   残りたい人は残っても良いけど、中てられるから気をつけてねー。


   ちょ、江利子、何を言って…!


   じゃ、然う言う事で。
   其れの子守、宜しくね。


   え、江利子…ッ


   …よーうこ。


   ひぁ…ッ


   然う言う事だから。
   昼寝、しよう。
   ね。


   ね、じゃ無いわよ!
   しかも何が然う言う事なのよ!!


   子供達のほのぼのさに中てられて、私は昼寝がしとうなりました。
   蓉子さんと一緒に。


   私はしたくないわよ!
   と言うか意味が分からないわ!


   昼寝、昼寝、蓉子と昼寝ー。


   歌うなー!










   陣・三