でこちんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!!!!!







   よ…ッ?


   でこ!
   でこは何処?!
   早く追いかけないと!!


   …ッ


   あ、祐巳さん!
   でこは、でこが何処に行ったか知らない?!


   由乃さん…ッ


   ちょ、祐巳さん…ッ?


   良かった…良かったよぉ…。


   何が良いのよ!それよりでこよ!
   令ちゃんは?!令ちゃんは何処?!


   …令さま、は。


   放して、祐巳さん!
   早く二人を追いかけないと…!


   落ち着いて、由乃さん。


   これが落ち着いてなんかいられるかってんだ!


   こ、言葉使いが違ってるよ、由乃さん。


   ええい、兎に角放せ、放しやがれ!


   や、だから由乃さん、令さまなら…


   …由乃。
   私なら此処に居るよ。
   由乃の直ぐ隣に。


   …あ。


   由乃。
   おかえり。


   …!
   令ちゃん…!!


   …苦しいよ、由乃。


   然うよ!
   令ちゃんが由乃を置いて行く筈なんてないものね!
   へっへーんだ、ざまみろ!でこ!


   …。


   ね、令ちゃん!


   …由乃。


   …?
   令ちゃん?
   どうしたの、真面目な顔しちゃって。


   由乃。


   え、何…。


   今日は。
   今日だけはお姉さまを「でこ」と呼ぶのは止めなさい。


   え?


   …。


   何、どうしたの?
   何でそんな怖い顔をしてるのよ、令ちゃん。


   由乃、お姉さま…は。


   令ちゃん…?


   二人とも、目が覚めたようね。


   …祥子。


   目覚めたところ早速で悪いのだけれど、起きられそうかしら。
   今から当主部屋に来て欲しいのよ。


   …うん、私は大丈夫。
   由乃は?


   私も…大丈夫、だけど。


   祐巳。


   はい。


   由乃に手を貸して上げなさい。


   はい、お姉さま。


   令は一人で大丈夫ね。
   何だったら私が手伝うけれど。


   いや、良い。
   一人で起きられるから。


   然う。


   でも直ぐに立つのは一寸辛い。


   ゆっくりで良いわよ。


   …うん。


   私は一人でも大丈夫よ、祐巳さん。


   顔、真っ青だよ。
   無理しないで。


   其れは生まれつき、よ。


   …然うじゃ無いよ。


   ?
   何が?


   …そっか。
   未だ、気付いてないんだね。


   気付く?
   何に?


   …立ち上がるのを手伝うから。
   辛かったら言ってね。


   だから一人で…あ。


   …大丈夫?


   …大丈夫よ。
   一寸、貧血気味なだけ。
   これもいつもの事だから。
   祐巳さんも知ってるでしょう?


   …うん、然うだね。





   ・





   …此れ、どういう事。


   …。


   どういう事なのよ…!!!


   …由乃さん。


   ねぇ、何なの此れ?
   何のよ、此れ…!!


   …。


   あ、分かった。
   どうせ当主様の事だから、また、何か良からぬ事でも企んでるんでしょう?!
   ふんだ、其の手には乗らないんだから!


   …。


   何よ、こんな手の込んだ事までしちゃってさ。
   わざとらしいのよ!


   …。


   いっつもいっつも、人で遊んで!


   …由乃。


   だって然うでしょう、令ちゃん?!


   由乃、お姉さまは…


   私がこんな事でへこたれると思ったら大間違いよ、でこ!!


   由乃…!


   な、何よ、令ちゃん…。


   …聞きなさい、由乃。


   祥子さま…?


   先代当主である江利子さまの遺言により、今より当家の当主はこの私となります。


   …は、遺言?
   祥子さま、何を仰っているんですか…?


   …江利子さま、は。


   私達の代わりになったんだね、祥子。


   …。


   代わり?
   って、何よ其れ。


   …由乃、お姉さまはね、


   江利子さまは。
   先程、反魂の儀を行ったのよ。


   はんこん、の…ぎ?


   当家では初めての事だけれど。
   名前くらいは聞いた事があるでしょう。


   …ある、けど。
   どうして当主様が…。


   …私達が死んだから。


   死んだ…?
   私達が…?


   私と…由乃、は。
   一度死んだのよ…。


   け、けど、私も令ちゃんも此処に居るわ!
   死んでなんか…ッ


   其れはお姉さまが反魂の儀をしたから。


   で、でもおかしいわッ
   確か反魂の儀は当主に就いている者は出来ないって…ッ


   江利子さまも其れは承知だったわ。
   だから、儀式を行う前に当主交代の儀をした。
   反魂の儀を行うと決めて、其れを後任の当主が覆す事が出来ぬよう、命を出してから。


   …意味が分からないわ。
   だって然うでしょう?私がいつ、死んだって言うのよ。
   然うよ、私は…。


   …。


   先刻だって私、何処かに出掛けてたのよ。
   花の匂いがむせ返るほどに凄くて、賀茂川じゃないけど、何処かの川辺で誰かの声を聞いて。
   其の声が川を渡るなって言うから、私気になって、舟で…


   …あの世とこの世の境目まで行くと。
   沈丁花の香りがするんだよ。


   え、何、祐巳さん…。


   いつか聖さまが、然う言ってた…。


   ち、違うわよ!
   あの匂いは沈丁花なんかじゃ…あ!


   …。


   聖、さま…然う、あの声は聖さま、の…。


   …一応、止めて下さったのね。
   いい加減な方でしたけど…。


   じゃあ…あれ、は…。


   若しも其の川を渡っていたら。
   由乃は還ってこられなかった。
   何より、お姉さまの声が無ければ…。


   う、嘘よ…そんなの、嘘よ…。


   由乃。
   お姉さまが…母上が私達に命を呉れたんだよ。


   嘘よ…!
   そんなの、嘘よ…!!


   嘘じゃない。


   …嘘、よ。


   由乃も聞いたでしょう?
   お姉さまの声、を…。


   あのでこが…江利子さまが…そんな事、する筈…然うよ。
   いつも人を玩具の様にして…。


   由乃、己の姿を鏡に映して見てみなさい。
   祐巳。


   はい。


   え…。


   由乃さん…。


   …何よ、これ。


   由乃さんの髪、江利子さまと同じ色になったんだよ。
   それから…。


   どうして鏡に江利子さまが…。


   肌の色も。
   もう、真っ青なんかじゃない。


   け、けど、青白いわ…。


   今は未だ、目覚めたばかりだから。


   …ッ


   …由乃。
   私を良く見て。


   令ちゃん…あ。


   令も…確認、する?


   いや、何となく分かる。
   私は…目、でしょう?


   …然うよ。


   令ちゃんの、目が…。


   お姉さまの、緑。


   青くて綺麗で、私とお揃いの色だったのに…。


   お姉さまの緑も綺麗だった、でしょう?


   …最後の最後、まで。
   何なの…本当に何なのよぉぉ…!!!















   陣・終幕