…。


   ……ぃ。


   …。


   ……、て。


   ……掠れてる。


   ……。


   ……蓉子。


   せ…ん。


   ……水、欲しい?


   …。


   ……。


   ん、ん…。


   …。


   ……は、ぁ。


   …零して。
   だらしないね。


   …。


   ……ふふ。


   せい…。


   ……好きよ。


   …!


   ……。


   いま、なん…て…。


   …。


   せい…ぁ。


   ……続き、しようか。


   ま…て、はな、しを…。


   …今する話なんて。
   無いわ。


   と、うしゅの…


   …。


   …あな…た、の…はぁ、あ。


   ……。


   ふ、じ…か…ま、の…。


   …。


   ご…、い、…ぁッ。


   …黙れ。


   ひ……。


   ……じゃないと。
   食い千切るよ。


   あう…ぅ…ゥ…。


   …。


   くぅ…ぅ…ぁァ、ぁ。


   ……然う。


   …ッ、…あ、あ…ァ!


   ただ、煽ぎ声を聞かせてくれれば良いのよ…今は。


   ………ィ…。








   はぁ…。


   …。


   …蓉子。


   …。


   蓉子…。


   …。


   ……。


   …。


   ……?


   …。


   ……よう、こ?


   …。


   ……あ。


   …。


   いき……が。


   …。


   …蓉子。


   …。


   蓉子、蓉子…!


   ……か、は。


   …!


   ……はぁ。


   ぁ……。


   ……わ、たし。


   …。


   せぃ…?


   ……。


   ……あぁ。


   …。


   わたし、いきているのね…。


   …ぇ。


   ………ば、よかったの、に。


   よぅこ…?


   ……そしたら。
   ラクになれたのに…。


   ……。


   …なれる、のに。


   蓉子……。


   あな……の……な…………ら…。


   …。


   ……。


   ……。


   ……う、ぅん。


   …。


   …。


   ………蓉子。


   ……。








   食い扶持。


   …。


   そろそろ稼がないと、と思うのだけれど。


   …ええ。


   育ち盛りもいる事だし。


   …うん。


   腹が空いていては、斬れるものも斬れないわ。


   …。


   蓉子。


   …分かってるわ。
   いい加減、討伐に行かなきゃいけない事ぐらい。
   けれど…


   持つとね、分かるものらしいのよ。


   …え?


   気持ちが。


   …気持ち?


   良く言うでしょう?
   子知らず、と。


   …。


   だから。
   食うに困るのは出来れば嫌なのよね。
   あの子はこれからもっと、大きくなるから。


   …。


   貴女の妹も。
   違う?


   …違わない。


   どんなに想いに耽たかろうとも、腹は減る。
   時間は待ってくれないわよ、蓉子。


   …。


   討伐。
   本来ならば当主が決める事だけれど、そんな事ばかり言ってられない場合もあるわ。
   特に切羽詰っていたら、ね。


   ……。


   場所は然うね、しっかりと稼げるところが良いわ。
   それを考えると宝箱がそれなりにある九重楼に行くのも良いわね。
   まぁ今となってはそれだけしか無いなのだけれど。


   …。


   戦勝点を稼ぐならやっぱり墓、それとも祠かしら。
   祥子もそろそろ本格的に行かせないといけない頃でしょうから。


   ……江利子。


   私は行くわよ、蓉子。
   この家がどうとか、そんなの問題じゃないの。


   …。


   私達は生きているのよ、蓉子。
   これからも生きていく。
   然う、死ぬまで腹は減る。


   ……。


   だから、面白くも無いし面倒でもあるけれど行ってくるわね。


   待って。


   待たないわ。
   言ったでしょう?


   私も、行く。


   然う?


   ええ。


   じゃあ面子は三人かしら。


   いいえ、四人。


   祥子は分かるとして。
   あと一人は?
   令は未だ無理だけれど。


   聖。


   行くかしら。


   …。


   あの腑抜け、かえって足手纏いになりかねないと思うけれど?


   聖は私よりも


   そしてそれは貴女にも言える事よ。


   ……。


   邪魔なの、戦に集中出来ない者は。
   分かる?


   ……分かるわ。


   貴女一人なら未だまし。
   けれど聖が来るとなると、どうかしらね。


   ……分かってる。


   心、こちらに戻してくれないと。
   死ぬわよ。


   分かってるわ。


   私が言っているのは己が、じゃない。
   勿論、己も然うだけれど。


   …。


   目の前で。
   貴女が大事に想ってる者が。
   貴女を大事に想ってる者が。
   死ぬの。喰われて、殺されるの。


   …。


   取り返しがつかない。
   然うなった時、心は保てるかしら。
   特に…。


   させないわ。


   それはどうかしら。


   させない。


   絶対など、無いわよ。


   だから、何。


   …へぇ?


   私は…。


   まぁ、良いわ。
   場所も面子も貴女に任せるから。
   好きにやってみなさいな。


   …。


   但し。
   死ぬつもりは未だ無いから。
   そのつもりで。


   ええ、分かっているわ。








   えい!


   …。


   やぁ!


   …。


   せや!


   …。


   えい、えい、えい!!


   …令。


   え?


   頑張ってるわね。


   あ、ようこさま!
   ごきげんよう!!


   ごきげんよう。
   一人でやっているの?


   はい!
   おねえさまはゆみとりなので、じぶんでがんばんなさいっていわれました!


   …まぁ、確かに然うだけれど。
   でも一人じゃ感覚が掴めないんじゃない?


   よくわからないですけど、でも、まいにちすぶりをすればそれだけつよくなれるってさちこがいってました。


   祥子が?


   はい!
   あ、でも。


   うん?


   よびすてにするとおこられるので、ないしょです。


   …。


   けどどうしておこるのかわかんないです。
   なんでだろな。


   …ふふ。


   そうだ、ようこさま。


   なぁに?


   よかったら、てあわせ、してくれませんか?


   わたしと?


   はい!


   でも私は無手だから教える事は出来ないわよ?


   いいんです!
   けいけんのつみかさねがだいじなんだそうです!


   それも祥子が?


   こっちはおねえさまです!


   然う、江利子が。


   さちこにもおねがいしたんですけど、してくれなくて。
   さちこはなぎなただから、ちょうどいいかな、とおもったのに。


   薙刀と剣だと間合いが違うから。


   けど、けいけんです。


   然うね、経験は大事ね。


   はい!!


   …うん。
   じゃあ、令。


   はい、ようこさま。


   祥子を呼んでいらっしゃい。


   さちこをですか?


   然う。
   何か言われても私が呼んでるって言って連れてきなさい。
   勿論、薙刀を持たせて。


   はい、わかりました!


   貴女が戻ってくるまでに支度、しておくから。


   したく?


   手合わせ、したいのでしょう?


   !
   ほんとですか!?


   ええ。
   私も暫く躰を動かしてなかったから丁度良いのよ。
   多分、鈍っていると思うし。


   わぁい、やった!


   それから、令。


   あ、はい。


   江利子も呼んできて。


   おねえさまも?


   弓を持ってきて、とも伝えて。


   はい!


   それじゃ、お願いね。


   いってきます!
   あ、そだ。


   うん?


   せいさまもよんできていいですか?


   聖も?


   せいさまはやりなんですよね?


   然うだけど…。


   だめ、ですか?


   良いわ。
   一応、声を掛けていらっしゃい。
   私が呼んでるって言えば…若しかしたら。


   はい!
   わぁ、すごいすごい!


   はしゃいで。
   未だ集まったわけでは無いのよ。


   そうなんですけど!
   わたし、はじめてだからうれしいです!


   初めて?


   さちこのなぎなたはしょっちゅう、おねえさまのゆみはきがむいたらみせてくれるんですけど。
   ようこさまやせいさまをみるのははじめてだから!


   言われてみれば…然う、だったのね。


   だから、たのしみです!


   …然う。


   あ、いってきますね。


   令。


   はい、なんですか?


   こっちにいらっしゃい。


   …?
   ようこさま?


   ……。


   わ…。


   …貴女は優しくて、良い子ね。


   ……いいにおい。


   …それから、ごめんなさい。


   え、な、なんでですか…?


   ううん、何でも無いの。


   なんでも…?


   …。


   あ。


   呼び止めてしまってごめんなさい。
   さぁ、行ってらっしゃい。


   ……。


   令?
   どうしたの?


   あ、は、はい!
   いってきます!


   はい。








   ……。


   蓉子。


   …江利子。


   令に言われてこれ、持ってきたけれど。
   一体全体、何が始まると言うのかしら?


   普通の訓練よ。


   普通の、ね?


   ええ、普通の。


   あ、ようこさま!


   令、待たせてしまってごめんなさいね。


   いいえ、だいじょうぶです!


   ……。


   祥子。
   薙刀、ちゃんと持ってきたようね。


   …何の御用でしょうか、お姉さま。


   訓練をしましょう。


   訓練…?


   然う。


   今頃何故…


   あ!


   ……。


   なぁに、令?


   ようこさま、そのかっこうは…。


   動きやすい方が良いから。


   わぁぁぁ。


   なるほど。
   確かに拳の戦装束
〈ソレ〉は動きやすいわね。


   ええ、然うなの。


   それでわざわざ着替えたの?
   ただの特訓なのに。


   感覚、取り戻す為だから。


   そこまで鈍って無いでしょうに。


   良いのよ、これくらいした方が丁度良いの。


   まぁ、良いけれど。
   それで私は何をしたら良いのかしら?


   最初は見ていて。


   見ているだけ?


   ええ。


   然う。
   分かったわ。


   祥子。


   …。


   躰を温めなさい。


   何故ですか。


   手合わせをするからよ。


   令とですか?
   お言葉ですがお姉さま、令とは


   いいえ、私とよ。


   …え。


   思えば最初だけだったから。
   と言っても私は薙刀に関してはお姉さま…貴女のお母上さまのお相手をしたくらいだから、大した事は出来なかったけれど。


   …椿さまくらいの、ね。


   貴女は一人でここまで来た。
   だから、それを見せて欲しいの。


   ……。


   無手と薙刀では間合いが全く違うでしょう。
   けれど、鬼を相手にするのに間合いが違うのなんて当たり前の事。
   令。


   はい、ようこさま。


   経験の積み重ねが大事なのよね?


   はい!


   分かった?
   祥子。


   ……。


   それじゃあ、令。


   はい。


   祥子に付き合ってあげて。


   はい、わかりました!


   待って下さい。
   私は未だ、やるなどとは


   貴女、令とは手合わせした事が無いそうね?


   …それが、何か。


   令に負かされるのが、怖い?


   な…!


   この家は然う言う家だから。


   私が令に負かされると仰ったのですか!?


   ええ、然うよ。


   …見くびっておいでなのですか。


   いいえ。
   けれど、この家に遅い早いの差など無いの。
   あるとしたら…持って生まれた資質。
   それすら日々の


   だからって私が令になんて!


   令と手合わせをなさい、祥子。


   …!


   そこから学ぶ事も屹度、ある筈。
   私が然うだったように。


   ……。


   ……ふぅん。


   令、お願いするわね。


   はい。
   じゃあさちこ、


   呼び捨てにしないで。
   お姉さま、私は一人で


   良いから。


   …。


   さぁ。


   ……分かりました。


   うん。


   そうだ、ようこさま。


   ん?


   せいさま、なんですけど…


   …応じてくれなかったのね。


   はい…。
   ざんねんです…。


   ……聖。


   ……。


   みたかったのにな…。


   大丈夫よ、令。


   …おねえさま?


   ねぇ、蓉子。
   あれが本当に来ないと思う?


   …?


   貴女が自分を置いて此処に居る。
   天邪鬼はそれが面白く無い。


   ……。


   分かっているくせに、ね。


   ……分かってなんか、無いわ。


   じゃ、さちこ。
   はじめよ


   だから呼び捨てるなとあれほど…!








   …お姉さま。


   何かしら、祥子。


   ご冗談のおつもりですか?


   冗談?
   何故?


   冗談で無ければなんだと言うのです。


   冗談なんて、私は初めから言って無いわよ。


   ですが。


   令。


   …。


   令、聞こえてるの?


   …あ。


   訓練中にぼさっとしていては駄目よ。


   は、はい、すみません。


   いつでも良いから。


   は、はい…。


   お姉さま。


   貴女も。


   私達二人を同時に相手にするだなんて!
   冗談以外の何だと言うのですか!


   冗談なんて言わないわ。


   矢張りみくびっておいでなのですね。


   いいえ。


   令は兎も角、私は


   お喋りはお仕舞い。


   ですが!


   祥子。


   …っ。


   全力で、いらっしゃい。


   お、お姉さま…。


   令も。
   遠慮は無用。


   あ、う…。


   ……。


   ……。


   さぁ、どうしたの。


   …はぁ。


   …う…ぅ。


   祥子?令?


   蓉子、蓉子。


   …?
   何、江利子。


   全然、鈍ってなんか無い。


   …え?


   自分がどれだけ解放してるか。
   それについては鈍くなってるようだけれど。


   かいほう………あ。


   …。


   …。


   相手は子供。
   分かってる?


   ……え、と。


   ……。


   ……あ、ぅ。


   …ごめんなさいね、二人とも。


   …。


   ……これが、ようこさまの


   蓉子の本気はもっと凄いわよ、令。


   も、もっとすごいんですか…!


   今の貴女ぐらいじゃ、とてもじゃないけど意識すら保てないわね。


   うわぁ…。


   江利子。


   あら、本当の事でしょう?


   人の事を何だと…。


   椿さまの妹。


   …何よ、それ。


   そのままの意味。


   …もう。


   …。


   …さちこさちこ、ようこさまってすごいね。


   …。


   …さちこ?


   …分かりました。


   え?


   お姉さま。


   ん?


   遠慮など、致しません。


   ええ、勿論。


   令。


   なに?


   足手纏いになったら承知しないわ。


   うん、わかった。








   やりで、しばくわよ、ようしゃなし。


   わぁ。


   これを略して夜叉。


   そうなんですか。


   ええ、然うなの。


   じゃあせいさまもそうなるんですか?


   なるかも知れないし、ならないかも知れない。


   わぁ、すごいなぁ。


   未だ凄く無いわよ?


   でもとうしゅさまのいもうとだから、きっと、なれるとおもいます。


   さて、それはどうかしらね。


   やりで、しばくわよ、ようしゃなし、かぁ。
   すごいなぁ、すごいなぁ。


   まぁ、藤花さまは


   と言うか、江利子。


   うん?


   子供に出鱈目な事、教えないで頂戴。


   あら、出鱈目でも無いと思うけど。


   出鱈目も良いところじゃないの。
   何なのよ、それ。


   語呂が悪かったかしら。


   然う言う問題でも無いから。


   じゃあ、令。


   はい?


   やりで、しばくぞ、ようしゃなし。


   しばくぞ?


   然う、しばくぞ。


   わかりました!
   えと、やりでしば


   江利子。


   何よー。


   何よ、じゃないわよ、何よじゃ。
   だから出鱈目を教えないでって言ってるでしょうが。
   令、今江利子が言った事は全部出鱈目だから覚えないで。


   え、でたらめなんですか。


   ええ、然うよ。
   全く、よくもまぁそんな事を思いつくものだわ。


   …そう、なんですか。


   ……。


   あらあら。
   蓉子のせいでしょぼくれちゃったじゃないの。


   あのねぇ、元を正せば貴女が


   仕方無いわねぇ。
   令。


   …はい。


   ごめんなさいね、令。


   い、いえ、そんな。


   本当はね。


   はい。


   やりで、しなすぞ、ようしゃなし、なの。


   しなすぞ?


   然う、しな


   江利子!!


   …もぅ、これもお気に召さないと言うのかしら?


   もう、はこっちの台詞よ、こっちの。
   貴女、これまでも然うやって令に出鱈目な事を教えてきたんじゃないでしょうね?


   あら、心外だわ。
   私はいつだって


   …おねえさま。


   んー?


   でたらめ、なんですか?


   蓉子に言わせると然うみたいねぇ。


   ……そう、なんですか。


   ほら、蓉子。
   またしょぼくれちゃったじゃないの。


   と言うかなんで私が悪いようになっているのよ。
   大体、貴女が適当な事ばかり教えるのが悪いんでしょうが。


   どうせ覚えるなら、面白い方が良いじゃない。


   間違った事を覚えさせて、面白いも面白く無いもありません。


   詰まんない。


   詰まる詰まらないの問題でもありません。
   あーもう、貴女って人は。


   んー。


   子供の頃から何を考えているか分からないところがあったけど、益々、


   蓉子は聖の事ばかりだったからねぇ。


   ……。


   間違ってた?


   ……令。


   はい、ようこさま。


   夜叉と言うのは大陸の神さまの名前なの。


   かみさまですか。


   然う。


   じゃあとうしゅさまはかみさまのようだったんですね。


   椿さまと並ぶと鬼も泣いて逃げたらしいわよ。


   わぁぁ!


   …だから、江利子。


   ただの比喩。
   間違ってはいないでしょう?


   …菊乃さまが外れてる。
   あの方も相当だったでしょう?


   ああ、然うだった。


   おねえさまおねえさま。


   何?


   おねえさまのおねえさまも、すごかったんですか?


   然うねぇ、無駄に力だけは強かったわねぇ。


   ちからが、ですか。


   弓が折れて使い物にならなくなったら、素手でぶん殴ってたとか。


   え、すで?


   江利子、またそんな


   それがね、強ち出鱈目では無いのよね。
   そもそもあの方自体、出鱈目で適当な人だったし。


   …。


   否定、出来ないでしょう?


   …だからって、そこまでは思っていないわよ。


   ふふ。
   それからお姉さまの使っていた弓、あれは未だに引けないわ。


   おねえさまでもひけないゆみがあるんですね!


   ええ、あるわよ。


   わぁぁ。


   ……。


   …祥子?
   どうしたの?


   …いえ。


   然う?
   疲れた?


   …いいえ。


   なら、良いけれど。


   ……簡単にあしらわれて。


   うん…?


   ……。


   ……。


   ……。


   …ね、祥子。


   ……なんでしょうか。


   貴女はお姉さまに良く似ている。


   …お母さま?


   然う。


   ……。


   …だから。
   貴女は屹度、


   気休めは結構ですわ。


   気休めでは無いわ。


   …。


   貴女はこれから。
   令もまた。


   ……。


   だから


   ところで、蓉子。


   え?


   私、見てるだけでお仕舞いで良いのかしら?


   …ああ。


   どうする?
   準備運動はもう済んだと思うけれど。


   …然うね。
   それじゃあ…。








   鏃、このままで構わないかしら?


   ええ、そのままで。


   討伐で使うものなのだけれど?


   構わないわ。


   然う。
   なら、このままで。


   其れ、今度の為に?


   一応ね。


   ごめんなさいね。


   良いわよ。
   そんなに使わないだろうから。


   ありがとう。


   先刻の動きを見てるに、二、三あればで足りるでしょう。
   距離は?


   以前の通りで。


   以前とは違うけれど、それでも良くて?


   それは私もだから。


   若しもの事があったら?


   お願いね。


   まぁ、無さそうだけれど。


   それは分からないわ。


   ……。


   ……。


   …あ、あの。


   んーー?


   これから、なにをなさるんですか?


   見世物。


   …みせ?


   だけど、蓉子にしてみれば一寸した危ないお遊び。


   おあそび?


   ねぇ、蓉子。


   遊びでこんな事、したくないわ。


   そのわりにはやりのよね。
   ま、今となってはこの家には私しか居ないから。


   菊乃さまに教わったのよね。


   そもそもあの方達がこれで遊んでいたのが発端。


   その前からだったらしいわよ。
   私には遊びには見えなかったけれど。


   然うね、蓉子はいつだって


   江利子。


   うん?


   本気で。


   …ええ、そのつもり。
   じゃなきゃ、意味、無いでしょうから。


   ……ええ、その通りね。


   ……。


   ……。


   わ…。


   ……。


   さ、さちこ、なんかくうきが…。


   …お黙りなさい。


   でも


   令。


   …うん。


   …。


   …。


   …ふぅ。
   それじゃ、行くわよ。


   …ええ。








   …………。


   口をぱくぱくとさせて。
   まるで金魚のようよ、令。


   ……お、お。


   言葉を失ってしまうくらいに、面白かった?


   〜〜ッ!!


   令、そんな力いっぱい首を振ったら痛めてしまうわ。


   よ、よ、よ…!


   蓉子、令はどうやら言葉を失くしてしまったみたいだわ。


   江利子、冗談でもそんな事を


   ようこさま…!!


   は、はい?


   あら。


   すごいです!すごかったです!どうやったんですか!どうすればできるんですか!!なんでみえるんですか!


   あ、ああ…。


   だって、おねえさまのやはこう、びゅーーんって、わたしなんかじゃぜんっぜんみえないのに、でもようこさまはこう、しゅっと…!


   令。


   おねえさま!おねえさまはほんきだったんですよね?!
   だっていつもきまぐれでみせてくれるのとぜんぜんちがって、
   しかも、いちやめ(一矢目)をいったらすぐにやめ(二矢目)をいって、だから、でもなん


   とりあえず。


   ……ふが、ふががが?


   落ち着きましょうか?


   ………。


   いち、に、さん。


   ………。


   どうかしら?


   ………あい。


   はい、良し。
   蓉子、吃驚させてごめんなさいね。


   ううん、私は大丈夫だけれど。


   ……。


   で、令。
   面白かった?


   …すごかったです。


   然う?
   なら、良かった。


   でもおねえさま、おねえさまのやは


   あんな芸当が出来るのは、蓉子ぐらいよ。
   安心して。


   あ、あんしん?


   無手の速さには、どの業も敵わない。
   先代さま方の遊びでさえ、あそこまででは無かったから。


   江利子、私は


   ほぁぁ…。


   見て、蓉子。
   これが俗に言う、尊敬の眼差しと言うヤツではなくて。


   …江利子。


   違う?


   …それはそうかも知れないけど。
   けどこれは私だけではなくて、せ


   ん?


   ……。


   ようこさま、ようこさま。


   …なぁに?


   ようこさまはおねえさまのやがみえるんですか?


   …然うね。
   一瞬だけならば、何とかね。


   いっしゅん…。


   江利子の矢は神速の矢に近いわ。
   全てを見るなんて、無理よ。


   じゃあどうやって…?


   感じるの。


   かんじる?


   然う。


   んーと…。


   眼で見るだけが、全てでは無いのよ。


   ……えーと。


   だからね


   蓉子、令には未だ難し過ぎるわよ。


   …然う?


   ええ。
   それに言葉で伝える、それもまた、全てでは無いでしょう?
   特にこれは。


   …。


   令。


   はい。


   蓉子の凄さ、分かった?


   はい、それはわかりました!


   ん。
   ま、今はこんなんで良いのよ。


   …然うかしら。


   祥子。


   …。


   祥子はどう感じたかしら?


   ……。


   こちらも言葉を失ってしまったのかしらね?


   ……芸が幾ら出来ても、鬼は討てません。


   ふむ、それは最もね。
   蓉子、貴女の妹はなかなか厳しいわね?


   でも確かにその通りだわ。


   …。


   けれど。
   私に一撃も当てられない祥子もまた、鬼を討つ事なんて到底出来ない。
   決して。


   …ッ。


   妹が妹なら、姉も姉ね。


   ……。


   だから祥子、これからは


   …令!


   え、なに?


   訓練、するわよ。


   え、え?


   付き合ってあげると言っているの!
   早くなさい!


   あ、うん、わかった!


   お姉さま。


   うん?


   私達はこれで失礼します。


   あまり令を困らせては駄目よ。


   困らせてなど!
   寧ろ、困らされてますわ!


   ええー。


   お黙りなさい。


   …こーゆうのをおうぼうっていうんですよね、おねえさま。


   難しい言葉を覚えたわね。


   令、行くわよ。


   うん。
   それじゃあ、おねえさま、ようこさま。


   ご飯までには戻ってくるのよー。


   頑張ってね。


   はい!
   では、いってまいります!


   …。


   祥子…?


   ……行って参ります、お姉さま。


   はい、行ってらっしゃい。


   …。


   ふふ。


   …何よ。


   んーん。
   じゃ、いこ……あ。


   …?
   何…あ。





   ………。





   二人とも、どうし…あ。


   …蓉子。


   せ、い…。


   やっと、出てきたわね。


   え、江利子…?


   …。


   さっさと出てくれば良いのに。
   難儀ね、あんた。


   …うるさいな。


   聖、いつから…。


   ずっと、居たわよ。


   え…。


   なのに


   黙れ。


   …蓉子が祥子と令、二人と手合わせしてる時から。


   江利子!


   …然うなの?


   …。


   然うなの?聖。


   …。


   …ま、蓉子が戻ってきたら気配消してじっとしてたみたいだけど。
   どっかの穴倉の動物みたいね。


   聖、どうして。


   …。


   貴女も一緒に


   私にも手合わせしろって?


   違う。
   ただ、一緒に


   家族だから?


   …私はもっと、貴女に


   余計なお世話よ。


   聖…。


   …やれやれ。


   あ、あの、せいさま。


   …なに?


   いつか、せいさまともてあわせしてみたいです。


   …。


   い、いまでなくても


   どうして?


   え…?


   どうして私なんかと手合わせしたいのって聞いてるの。


   そ、それは…!


   …。


   つよくなって、おねえさまたちをまもるからです!


   …たち?


   ようこさまも、せいさまも、さちこも、それからイツかも!
   みんな、みんな、まもりたいんです!


   …それは家族だから?


   だいすきだからです!


   …好き?


   はい!
   わたしはこのいえのみんながだいすきです!
   だから!


   ……。


   …令。


   ……ぷ。


   …?
   おねえさま…?


   あははははははははははは…!!!


   え、え…?


   ちょ、一寸江利子、何が可笑しいのよ。
   令は


   こーんなちびが、大それた事を考えて。
   これが面白く無いわけ、無いじゃない。


   わたし、おもしろいですか?


   ええ、面白いわ。
   満点をあげる。


   わぁ、ありがとうございます。


   令、ここはお礼を言うところでは無いから。


   でもほめてもらいました。


   …と言うより、面白がってるだけよ。


   あら、聖。
   分かってるような口を利くわね?


   ……それより。
   蓉子、何をしているの。


   …。


   未だ、続けるの。


   …討伐に、行くわ。


   ……。


   その為に。
   私は躰を動かす必要があったの。
   鈍ってしまった感覚を元に戻す為に。


   …討伐に、行く?


   ええ。
   貴女も。


   私は


   一緒に来て、聖。


   ……。


   聖。


   …この家の為に


   違う。


   …。


   この子達の…いえ、自分達の為に。


   …。


   私と、一緒に来て。


   …。


   …どうか、私の背中を。


   それであの見世物?


   …。


   くだらない。


   ……聖。


   蓉子。


   え…。


   来て。


   ど、こに…。


   令。


   …え?


   それ、貸して。


   これ?


   それ。


   でもこれは


   良いから貸しなさい。


   は、はい。


   聖、何を


   …短い。


   剣だもの、仕方ないわね。


   …返す。


   わ。


   取って。


   え、え。


   令、この面倒くさがりの為に取ってあげて。


   な、なにをですか?


   そこに隠すように転がってる、槍。


   やり…。


   祥子でも良いわ。


   …嫌です。


   じゃあやっぱり令。


   ……え、と。


   そこじゃない。
   もっと


   あ、これですか・


   早く持ってきなさい。


   はい、ただいま!


   …良い子ねぇ、私の子は。


   どうぞ、せいさま。


   ……。


   聖、令が


   一本。


   …。


   その代わり。
   終わったら、私の言う事を聞きなさい。


   ……聖。


   どんな条件なのかしらねぇ、それ。








   …ふふ。


   …何が可笑しいの。


   ごめんなさい、一寸思い出して。


   …。


   子供の頃の事。


   …どうせ、ろくでもない。


   貴女はあの頃も、むっとした顔で私の前に立ってたから。


   …。


   …然うやって立つ姿、変わらない。


   散々、見てきたくせに。


   …ん、然うね。
   けれど…。


   …。


   …あの頃は、槍に支えられているようだった。
   それだけが唯一、違う事。


   …。


   …今では、もう。


   …。


   こうやって向かい合うのはあの頃以来ね。


   …。


   槍と拳。
   全く違うものなのに。


   …。


   …私ね、必死だったのよ。


   …何が。


   だって貴女、どんどん力を付けていったから。


   …。


   ただでさえ間合いが違うのに。
   その上、貴女は読めない動きをするから。


   …。


   だから…。


   …蓉子のお姉さまは容赦が無かった。


   …。


   …。


   …聖のお姉さまもね。


   …。


   聖はそれでも泣かなかった。


   人の事、言えない。


   …手当てしようとすれば、払いのけて。


   …。


   …。


   …やりたくなんか、なかった。
   こんな家の為なんかに…。


   …知ってる。


   …。


   だけど…楽しかった。


   …どこが。


   あの頃の私は、貴女と手合わせするのが一番好きだった。


   …。


   …貴女を打つのは嫌だったけれど。
   でも、次第に動きが重なっていくようで…それが、とても嬉しかった。


   …。


   …躰も呼吸も、合わさって。
   まるで一つになったようで…。


   …。


   ……はぁ。


   …蓉


   聖。


   …。


   始めましょう。


   …。


   …構えて。


   …。


   …。


   …さっさと終わらせて。


   …。


   そうしたら…。


   ……ええ。








   …。


   …。


   んー。


   …。


   …。


   二人とも。
   言葉、また失ってしまった?


   …動き、が。


   かさなってる…。


   然うでも無いわよ。
   矢張り少し鈍っているわね。
   ほんの僅かだけれど…


   ……こんな、事。


   すごいきれい…。


   ……。


   なんなんですの…あれ、は。


   どんどんはやくなってる…すごい、すごい…!


   ふぅ。
   まるで、舞っているようでしょう?


   ……。


   まって…?


   然う。


   ……有り得ませんわ。
   あんな動きは…。


   然うよ。
   私達は所詮、人では無いもの。


   …。


   ひとじゃ、ない…。


   ええ、然う。


   ……。


   おねえさま、わたしたちはひとではないんですか…?


   今となってはもう、然うとは呼べないわね。
   私達は人と交わる事が出来ないから。


   …江利子さま。


   ……ひとじゃ、ない。


   けれど。
   私達にも心がある。
   其れは人と呼ばれている者共と何ら、変わらない。
   変わりはない。


   …。


   …。


   他者を求める、其れはどんな生き物でも持ち合わせているもの。


   …。


   …。


   …ま、今はそんなのどうでも良いとして。
   あの二人は子供の頃からああやっていたから。


   …。


   こどものころから、ですか…?


   ええ。
   拳と槍、或いは…薙刀と槍。
   動きも間合いも異なる物だけれど、不思議と呼吸と躰が合わさっていく。


   …。


   …。


   紅と白、特にあの二人の呼吸は…。


   …。


   きれい…。


   ……あの間に入る事など最初から不可能だった。
   然う、弓である私には…。


   …江利子さま?


   おねえさま…?


   何にせよ、見ておくにこした事は無いわ。
   貴女達だっていずれ、互いに背を預けて戦う事になるのだから。
   其の為に…。


   …。


   さちことですか?


   然うよ、令。


   ……。


   …そっか、さちこと。


   ま、あれの真似は出来ないかも知れないけれど、


   …する気もありませんわ。


   え、そうなの?


   する必要も無いわ。
   出来た所で見世物ぐらいにしかならない。


   確かに見世物にはうってつけかも知れないわね。


   でも、ほんとうにすごい。
   あんなようこさまとせいさま、みたことない…。


   …。


   …。


   ……これはいつまで続くのですか。


   わかんない…。


   終わりが無い事なんて、無いわ。


   …。


   …。


   いつかは終わる時が来る。
   全ての物事は然うやって成り立っているのだから。
   ほら。


   …!


   …あ!


   ……さぁ、終わるわよ。


   お姉さま…!


   せいさま…!


   …然う、全てはいつか終わるわ。
   終わるのよ…蓉子。








   終幕