……。 つまるところ。 子供の頃からそんなだったわ、あの二人は。 …然う、ですか。 お互いがお互いしか見えてなかったから。 特に貴女のお姉さま、は。 …分かるような気がします。 貴女が来た時もひどかったから? ……。 盛大な痴話喧嘩。 一度始まると家の事とか、頭から無くなっちゃうのよねぇ。 …結局。 討伐には 行ったわよ。 いつまでも餓鬼の我侭になんか付き合ってられないわ。 …。 私も家を壊しそうになった事はあるけれど。 あの二人には敵わなかったわねぇ。 …当主様もですか? …。 …? 何でしょうか…? それ、馴染まない。 …。 要らないって言ったのに。 あっさり忘れてくれて。 …。 全く、最後の最後まで。 性に合わない事、この上無いわ。 …江利子さま。 名前。 …なんとお呼びすれば良いのでしょう。 それで良いわよ。 …。 どうせ、そんなに長いものでも無いでしょうから。 …どういう意味でしょう。 意味は聞き手の数だけ変わる。 …。 やぁぁぁぁぁぁ…ッ! うん、なかなか良いね。 …だけど。 わ…。 未だ、甘い。 ……いたぁ! もう少し、考えないと。 私は剣なんだから。 …はぁ、はぁ。 だからって頭で考えてても間に合わない。 ……ふぅ。 さて。 もう少し、続ける? …勿論です。 ん。 じゃあ、もう一度。 頑張るわねぇ。 …はい。 …。 …思い出されますか? 思い出すほど、似てはいないわ。 …。 …けれど。 …。 瞳は、似てるかも知れない。 …それはどちらにでしょう? どっちだと思う? …さぁ、どちらでしょう。 うん? 私は…江利子さまほど、知っているわけではありませんから。 …。 …。 ……この家には。 …。 真面目な子が、多い。 …真面目な? あと莫迦も多い。 …。 真面目な莫迦は手に負えない。 種類が違う莫迦が二人揃うと更にタチが悪い。 …乃梨子も然う見えますか? さぁ、どうかしら。 …。 よし。 じゃ、今日はここまでにしようか。 ま、まだ、できます…! いや、今日はこれでお仕舞い。 やれば良いってもんじゃないからね。 でも 大丈夫、この後は術の指南だから。 …え。 ね、志摩子。 あっち、終わったみたいね。 然うみたいですね。 志摩子ー? はい、令さま。 この後は術の指南、やるんだったよね? はい。 と、言うわけだから。 がんばれ。 …はい。 ははは。 乃梨子。 なに、志摩子さん。 術の指南は少し休憩してからにしましょう。 先ずは汗を流していらっしゃい。 はい、志摩子さん。 …志摩子さん、ねぇ。 …。 まぁ、私は別に良いと思うけど。 ……令さま、どうしても言わなきゃだめなんですか。 祥子が、ね。 紅は仕来たりに厳しいんだよ。 …。 乃梨子? どうしたの? あ、いえ、なんでもないです。 然う。 なら行ってらっしゃい。 はい、行ってきまっす! 乃梨子ちゃん、手拭を忘れないようにね。 はーい! …いやいや、元気だなぁ。 結構、厳しくやったつもりだったんだけど。 昔の貴女を見ているようよ、令。 え、然うですか? 似てはいないけれど。 はぁ。 ところで、当主様。 ん? 志摩子と何を話していたのですか? どうして? 楽しそうでしたから。 あら、訓練していたのに良く見えたわね? あ。 …。 あ、いや、ごめん、志摩子。 どうしてですか? あ、えと…。 まぁ、乃梨子はこれからだから。 ある程度の力で足りるでしょうね。 …すみません。 良いのよ。 蓉子も然うだったし。 …? 蓉子さま? こっちの話。 令。 あ、はい。 次の討伐、出陣〈デ〉て貰うから。 分かりました。 場所は何処でしょう? あっさりね。 …はい? 場所は…未だ、決めてないわ。 然うですか。 私以外は誰が行くのですか? 祥子と、祐巳ちゃんかしら。 ああ。 じゃああと一人は志摩子ですか? それとも当主様が? 私は行かない。 家でのんびりしてるつもり。 のんびり…。 ん? や、なんでもありません。 合わない、と思ったでしょう? そ、そんな事は お団子、買っていらっしゃいな。 だ、団子? ええ。 なんだか、とても食べたくなってしまったの。 えと、何本買ってくれば良いですか? 皆の分。 皆の? ええ、皆の。 分かりました、行ってきます。 それじゃあ、お金。 はい、確かに。 では、行って参ります。 はい、行ってらっしゃい。 行ってらっしゃいませ、令さま。 はーい! …ふむ。 人の事、言えないわね。 ふふ。 志摩子。 はい、何でしょう。 次、貴女には出陣て貰わないわ。 …何かお考えでもあるのですか? さて、ね。 …分かりました。 では、のんびり過ごす事にします。 あ、然う。 …お茶の支度でもしておきましょうか。 ええ、お願い。 ついでに祥子達にも声を掛けておいて。 はい、承りました。 …。 …。 …。 …そ、れ。 …! せい…? ……。 …? どこにいくの…? …直ぐ、戻るよ。 …。 ……。 …だめ。 直ぐ、戻るから。 だめよ、聖。 …蓉子。 それは…大事なもの、だから。 …! 貴女のお姉さまから、たくされたもの…だから。 …けど! おねがい、聖。 …ッ。 聖…。 こんな、もの…! お願い、聖。 でもこんなものが無ければ…! …それでも。 貴女が当主であることに変わりないわ。 蓉子は…! 私の事、分かってるクセに…! …藤花さまが、貴女を選んだから。 だからって…! …戻っておいで、聖。 …いやだ。 私は… おいで…聖。 ……。 ……聖。 ……。 ん……。 ……私、は。 …。 こんなの、要らなかった…欲しくなかった、のに。 …知っているわ。 どうしてお姉さまは…。 …。 ……どうして…どうし…て。 ……。 蓉子……。 …ん。 ……当主になんて、なりたくない。 …。 なったら、私はこの家の……。 …。 なりたくない…なりたくないよぉ…。 ……うん。 どうして私なの…どうして…。 …貴女に居場所を作ってあげたかった。 いば、しょ…? 独りぼっちにならないように…。 …蓉子が、居るじゃない。 …。 然う、私には蓉子が…。 …貴女がこの家を嫌っていること…藤花さまはちゃんと知っていたわ。 じゃあなんで… …帰れる場所が無いのは、淋しい。 …。 …ね、聖。 こうやって、温もりを感じ合う事は気持ち良い…? え…。 …私は、気持ちが良いわ。 とても…。 ……。 呪いとか鬼とか…宿命、とか。 この家の人間である限り、逃れられない。 仮令、この家を離れたとしても…呪いは逃がしてくれない。 絶対に。 …。 けれど此処には其れ以外のものもあるわ。 …。 …私達は血に塗れてる。 けど、私達も普通の人間のように暮らしてる。 みんなと温かいごはんを食べて、おひさまの匂いがするお布団で眠って……今、こうして貴女の温もりの中で安らぎを得て。 ……。 …この場所を。 私は、守りたい…。 …。 あなたと一緒に居られる場所を、守りたいの。 …わたし、と。 然う…。 ……でも、私に 大丈夫よ…。 …。 …私も一緒に、背負ってあげる。 …ようこ。 一人になんか、させない。 …。 ……私の事、知っているでしょう? …世話焼きで、お節介。 然う…。 ……。 ……一人じゃないわ、聖。 ……。 私と貴女と…みんなの場所を、二人で。 ……。 聖…。 ……。 ……どうしても 約束、して。 …。 …ずっと、一緒に居て。 …。 ずっと…ずっと。 …ええ、約束。 ……破ったら、赦さない。 …破らないわ。 ……。 ……。 …けど。 …。 これ、付けるのは一寸らしくない気がするよ…。 …ふふ、然うかもしれないわね。 身に着けてなきゃ、だめなのかな…。 ……貸して。 ん…? ……。 どうするの…? …ひも。 ひも…? …然う、紐。 確か、ここに…。 ……。 …あった。 これを通して…。 ……。 …はい。 ……これ。 これでも、だめ…? …首に? ん…。 ……え、と。 …いや? ……指にするより、は。 かけてあげる。 じ、自分でやるわよ。 …。 ……。 …かけてあげる。 ……うん。 …。 …。 ……良い? うん。 ……はい。 …。 …。 ……なんか、馴染まない。 未だ、かけたばかりじゃない。 だけど、さぁ。 馴染まなくても、良いじゃない。 …。 ね…。 ……蓉子、さ。 なぁに? …もう一つ、約束して。 …。 私の事、名前で呼んで。 それ以外で、呼ばないで。 …。 …最期まで。 ……うん。 …。 …。 …へへ。 …ふふ。 蓉子。 …なぁに? あったかい…。 …。 蓉子は…昔から、あったかかった。 ……ん。 ………。 江利子さま。 ……んー。 ぼんやりとされていましたね。 …まぁ。 また何か、思い出されていたのですか? いいえ。 …。 令、遅いわね。 未だそんなに経っていませんが。 それでもあの子の足なら直に帰ってくる。 …。 …何。 …いいえ。 何か、おかしそうなのだけど。 然うですか? …。 遅くなりましたが、お茶が入りました。 …有難う。 ……。 ……。 …静か、ですね。 …ええ、然うね。 ……。 ……。 あの、江利 団子。 …あら。 ……。 団子はどこ? よ、由乃さん、部屋に入って早々団子ってどうなの? だって志摩子さんがお八つは団子だって言うから。 それは然うだけど。 由乃。 あ、でこちん。 由乃さん、当主さまだよ。 でこちんはでこちんじゃない。 いや、だから… 良いのよ、祐巳ちゃん。 け、けど ほら、見なさい。 いや、駄目でしょ。 普通は。 由乃にはこの後、たっぷりと、術の指南を受けて貰うから。 …え゛。 ねぇ、志摩子? 私、ですか? 乃梨子とついでに。 初歩にやっと毛が生えた程度だから、丁度良いでしょう。 分かりました。 て、志摩子さん。 幾らなんでも乃梨子ちゃんとは 私が貴女くらいの時には雷獅子、従えていたけれど? ……ぐぅ。 あ、ぐぅの音だ。 本当にあるんだ。 …祐巳さん、うるさい。 ところで祥子は? お姉さまなら直に来ます。 然う。 …ところでお団子はどこにあるのよ。 今、令が買いに走ってるわ。 なーんだ、急いで来て損しちゃったわ。 …由乃さん。 早く帰ってくれば良いのに。 令ちゃんのばか。 …いなくても言われるんだ。 何よ。 何でもない。 ま、もう直ぐよ。 と言うより、もう既に ただいま、戻りましたーー!!!! ねぇ? …本当だ。 令ちゃん、おっそーーい。 あ、由乃、祐巳ちゃん。 もう、指南は終わったの? 団子があるって言うから来たのよ。 なのにないんだもの! そっか。 でもほら、ちゃん買ってきてよ! 当たり前でしょ。 寧ろ、なかったら本気で怒るところだわ。 あはは。 …令さまってある意味、すごい。 遅くなりました。 祥子、来たわね。 今日のお八つはお団子よ。 志摩子から聞きました。 ですが、指南中に ま、ゆっくり食べていきなさい。 令の奢りだから。 え、然うなんですか? ええ、然うよ。 ご馳走様。 え、えぇ…。 それじゃ頂きましょうか。 お待ち下さい、江利子さま。 ん? 未だ乃梨子が。 んーー……。 …家族、ですので。 然うねぇ。 ……。 ま、 お待たせしました! …て、あれ? 乃梨子。 志摩子さん、このお団子は…。 お八つよ。 指南は食べてから。 あ、然うなんだ。 乃梨子、未だそんな口の 祥子、固くなる前に食べるわよ。 …当主様。 お茶、ちゃんと皆の分まであるわね。 志摩子。 はい。 じゃ、改めて。 食べましょうか。 いただきます。 …頂きます。 …て、あれ、数が多い。 令さま。 え、何? 祐巳ちゃん。 数が多いみたいですが…。 それは聖さまと蓉子さまの分だよ。 ……聖さまと、蓉子さまの。 うん。 令。 はい。 本当に、良い子、ね。 …はい? 何でも無いわ。 はぁ。 ……。 …何、志摩子。 いいえ。 然う言えば先刻、何か言いかけたようだけれど。 忘れてしまいました。 未だ耄碌するには早いわよ。 けれど本当に忘れてしまいましたから。 …あ、然う。 お団子、美味しいですね。 ええ、知っているわ。 ここのお店のは昔から贔屓しているのだから。 …されど。 ん? お姉さまは良く、当主になられましたね。 お話を聞いている限りだと、なる気なんて全然無かったようですが。 ああ。 言ったでしょう? どっかの莫迦が一緒に背負うと言ったからよ。 …酷い言い様ですね。 まぁ、ね。 …。 想像、ついた? …何となく、ですが。 まぁ、詳しいやり取りは知らないわ。 興味 は、もう、無かったのでしょうか? …。 江利子さまらしいですね。 興味が無いのは、まぁ、その通りだけれど。 私らしいかしら。 はい。 …ま、良いけれど。 若しかしてそれが先刻言いかけた事かしら? いいえ、違います。 あら、忘れてしまったのではなかったのかしらね。 ええ、忘れてしまいました。 なら、何故違うと言えるのかしら。 覚えているから、です。 …。 忘れてしまったものと覚えているものは同じとは言えないでしょうから。 …へぇ。 成る程。 志摩子さん、何の話をしているの? 貴女の義親の事。 おや…? 先代であるお二人のお話よ、乃梨子。 先代… 蓉子さまの事よ、乃梨子。 貴女もこの家の人間になったのだから、しっかりと覚えないといけないわ。 祥子、聖さまの事を忘れてるよ。 あの方の事はわざわざ言わなくても分かっているでしょう。 腐っても親なのだから。 それは言い過ぎだよ、祥子。 志摩子もいるのに。 …ふふ。 笑っているじゃないの。 いや、笑ってるからっ…て、志摩子。 申し訳ありません。 でも、私はあまり気にしてはいませんから。 ほら見なさい。 でも祥子、やっぱり良くないよ。 令はうるさいわね。 うるさいって。 幾ら聖さまが れーい。 …はい? お団子食べたら、一寸した見世物でもしましょうか。 見世物、ですか? 然う、子供達にね。 祥子も付き合いなさい。 何故、私が 当主命令。 ……。 紅にはこの言葉は結構有効なのよね。 祐巳ちゃん、悪いのだけれど私の弓を持ってきてくれるかしら。 弓ですか? ええ。 勿論、矢もね。 当主様、それは祐巳ではなくても良いのではありませんか。 幾ら躰が弱いといえども、それくらいの事なら由乃でも だって、由乃。 持ってきて。 嫌です。 ごめんなさいね、祥子。 それにこんな減らず口は叩けても、直ぐに熱を出すから。 …。 あの、私は構いませんから。 然う。 じゃ、頼むわね。 はい! ・ ・ …で。 …。 どうするの? 矢っ張り止める? …。 だとしても、私は行くわよ。 いいえ、行くわ。 然う。 それは良かった。 …。 あれも? ええ。 …そ。 …。 そこ、もう何も残って無いわよ。 …。 しきりに気にしているようだから。 …知ってるわ。 …。 けど…消えるものでは無いから。 …あ、そ。 …。 まぁ、良いけれど。 …ねぇ。 …。 子供って 分からない。 …。 あんまり似て無いし。 …然うかしら。 ええ、然うよ。 思っていたより、似ないものね。 …。 私はあんなに素直じゃないし。 …ふふ。 私から渡すものも、あまり無い。 …。 業が違うから、奥義も渡せないし。 術の資質もあまり、だし。 …。 結構、無いものよ。 親がしてあげられるものなんて。 あれもこれもだなんて考えては居なかったけれど、それでも少ない。 …。 子供が持っていってくれるものなんて……本当に、限られているわ。 …。 多分…ね。 …然う。 …。 …。 …貴女の目には。 …。 どう似てると映ったのかしら。 …聞きたい? 別にどうでも良いわ。 今更、事実は変わらないもの。 …然うね。 …。 …。 …痛みは甘い? え…? 触りすぎ。 ……あぁ。 だめ…ね。 …。 …何も残してくれないのよ。 …。 何も…。 …。 …それ、なのに。 けれど、消えない。 …。 痛みも、感情も。 でしょう? …。 愛とは何ぞや。 …え? 一つ分かる事は、そんなんで飯は食えない。 腹は膨れない。 …。 当主。 どうにかなりそう? …どうかしらね。 でも、あの指輪は 要らないわよ、私は。 ん、知ってる。 まさか、とは思うけど。 私も要らないわ。 …。 …けれど。 …。 その荷を一緒に持つ事は出来ると思うから。 お人好し。 …なのかしらね。 莫迦とも言う。 …それは知ってる。 感情は? …感情? 殺す? それとも。 ……。 貴女が決める事よ。 あれが何を言っても、何をしても。 …江利子。 んー。 私は子は生さない。 そ。 …。 今更。 …貴女は 私だけだったら、祥子は居なかったと思うわよ。 …。 当事者だけよ、分からないのは。 面倒ね。 …。 で、いつ出陣? …三日後。 然う、分かったわ。 …。 じゃあ。 …覚えててくれる? …。 若しも それは私に言う事? …え。 私に言って欲しい事? え、江利… …ぐだぐだと面倒なのよ、いい加減。 …。 言いたい事があるのなら、本人に、はっきりと言え。 じゃないと…どうなっても、知らないわよ。 …う、ん。 ならば。 三日後までに片付けておいてね。 …。 全く、性に合わないにも程があるわ。 面白いわけでもないのに。 …ごめ 謝ってくれなくても結構。 蓉子がちゃんと、家のきりもりをしてくれるのなら。 ……。 慣れない事はするものじゃないわ。 蜩 ノ 声 了 |