…う…ん。 やぁ。 ごきげんよう、蓉子。 気分はどう? 此処…は…? 私の部屋。 せい、の…? もっと言うと私のお布団の中。 どれ。 …ん。 うん、矢張り熱は無いみたい。 良かった。 …え、と。 わた、し…は。 倒れたんだよ。 庭で。 ……。 疲れ、だね。ずばり。 ……然う。 痩せたね、て。 言ったばかりだったのにね。 …だから、なの。 んー、何が? …。 蓉子? あ、未だ起きない方が良いよ。 …子供達は? 屹度、驚かせてしまったわね…。 ああ。 其れはもう、大変だったよー。 特に祐巳ちゃん。 祐巳…? 蓉子さまー蓉子さまーって。 見事なまでにおばあちゃんっ子だねぇ、あの子。 いやはや、懐かれたもんだ。 …由乃ちゃんは? 同じく驚いてはいたけれど。 自分が然うだからか、祐巳ちゃんよりは冷静だった…かな。 だけど心配してたよ。 …。 ちなみに。 蓉子をこの部屋にお連れしたのは言わずもがな、聖さんですよ。 こう、横抱っこにして、ね。 たまには良いなぁ、ああいうのも。 …私、の、 離れに、思ったのだけどね。 あの部屋、どこまで行っても狭いからさ。 どうせなら無駄に広いこの部屋の方が良いかなと思ったわけ。 …そんな事、言って。 真意は違う処にあるくせに。 あは、ばれたか。 …今は? 何してるの…? 勿論。 蓉子さんの看病。 …聖の事じゃ無くて。 祐巳ちゃんと由乃ちゃん? 稽古、中途になってしまった…から。 うーん、其れなんだけどね…。 −およそ半刻前 蓉子さま…? お、と。 蓉子さま…ッ うん、危ないところだった。 蓉子さま、蓉子さま…ッ あー、祐巳ちゃん祐巳ちゃん。 あまり揺らさないで。 当主様! 蓉子さまが…蓉子さまが…ッ え、えと。 とりあえず落ち着いて貰えるかな。 …落ち着いてなんか ね、祐巳ちゃ… いられるわけないでしょうがぁ!!! わ、わぁぁ…ッ 蓉子さまがお倒れになったと言うのに! どうして落ち着いていられると言うのですか!! それとも何ですか、当主様は平気だと言うのですか…!! 蓉子さまがいきなり前触れも無くお倒れになったと言うのに…!!! あ、いや、祐巳ちゃん、私も平気じゃないって。 だけど前触れが無かったわけでも無いしと言うか揺すらないでって。 じゃあ…!! 一緒になって慌てたトコでどーにかなるもんじゃ無いでしょ。 其れで蓉子の意識が戻るわけでも無し。 …ッ 今は兎に角。 蓉子を休ませる為に、部屋まで運ぶ。 手伝ってくれるよね。 勿論です! ん。 由乃ちゃん。 は、はい。 由乃ちゃんはイツ花に言伝を。 至急、当主〈ワタシ〉の布団を敷け、て。 それから…薬湯の準備を、と。 はい…! ・ やぁ。 蓉子の調子はどうかな。 …未だ。 目が覚めません…。 そか。 まぁ、疲れてたみたいだしね。 …当主様。 これでも一応。 祐巳ちゃんよりも長く生きてるのよね、こんなんでも。 そんな事、聞いてません。 聞こうとも思いません。 だから何だと言うのですか。 やたらに絡むね。 …。 蓉子、ね。 朝から一寸、顔色が優れなかったのよ。 …お顔の色、が? でも、だって…。 些細な色だったからね。 祐巳ちゃんじゃ気付かなかったかも知れない。 現に気付いていなかったみたいだし。 …意趣返しですか。 やだなぁ。 そんな物騒な事、私はしないよー。 ただ、さ。 ただ…? 私は常人より目が良いんだってさ、蓉子曰く。 …? 目…? 実際は然うでも無いんだけど。 昨夜は己の事でいっぱいいっぱいで気付かなかったし。 肝心な時に曇るんだよね…。 …。 ま、今はそんな事どうでも良っか。 兎にも角にも、蓉子はここ最近の疲れが溜まっていたみたいでね。 其れは当主様にも一因があると思います。 お。 難しい言葉を知ってるねー祐巳ちゃん。 先刻の意趣返しと良い。 て、頭を撫でないで下さい。 蓉子さまに教わったんです。 ああ、蓉子に。 て、意趣返しも? …当主様。 ああ、由乃ちゃん。 …あれ、薬湯は? 其れが…。 ああ。 若しかして切らしてる、とか? …。 そ、そんな…。 はは、イツ花らしいなぁ。 でもま、幸い蓉子は未だ眠っているから、どれ、ちみっと一っ走り志摩子に… 私が言って参ります…!!! …はい? 私も行きます。 由乃ちゃんまで? 何の薬を買ってくれば良いんですか…!! あ、いや、でも。 子供だけで市中に行くのは、と言うか志摩 今はお姉さまも令さまも、江利子さまだって討伐で居らっしゃらないのに! そんな事言ってる場合じゃ無い筈です!! ゆ、祐巳ちゃん。 倒れて眠っている者の前で大きな声を出すのはちとマズイって。 …兎に角。 私たちが買ってきます。 買ってくると言ったら、買ってきます。 …あのね、祐巳ちゃん。 何を思ってるかは知らんけど決して君のせいでは 何を買ってくれば良いんですか。 早くして下さい、 …ああ、もう。 一度決めたら譲らない処は本当に似てるんだからなぁ。 当主様。 …仕方無いなぁ。 由乃ちゃん、君にお金を預けよう。 落としちゃ駄目だよ。 はい、承りました。 で、祐巳ちゃん。 はい。 一度しか言わないから。 耳、貸して。 は…? ほら、早く。 でも由乃さんにも。 由乃ちゃんにはお金を預けた。 買って来てもらう物を覚えるのは君の役目。 …分かりました。 うん。良い子だね。 ふざけてないで早くして下さい。 はは、手厳しいなぁ。 早くして下さいって言ってるでしょう。 はいはい。 買って来てもらう薬は、ね…。 ……は? 分かった? ふざけているんですか。 いや、全然。 でも、其れは…。 はい、其れでは行ってくる。 あ、でもそんなに急がなくても良いからね。 蓉子の事を心配してくれるのは嬉しいけど、由乃ちゃんの事も考えないと駄目だから。 先刻までの鍛錬で疲れてるっしょ。 私なら大丈夫ですから。 一刻でも早く薬を買ってきて蓉子さまに… 由乃ちゃん。 若しも、若しも君が倒れて寝込んだりでもしたら。 蓉子が気にするだろう…? …。 じゃ、然う言う事だから。 お使い、頼んだよ。 待って下さい、当主様。 買ってくる物って… 一度しか言わないって。 言った筈だよ? けれど…。 良いんだよ。 疲れには其れが一番、なんだから。 …絶対ですね? 絶対、なんですね? うん、絶対。 一つ付け加えるとすれば、今の蓉子には其れが効果覿面だったりするのよ。 若しも出鱈目だったら。 幾ら当主様と言えど…。 蓉子がこんな状況だって言うのに。 出鱈目なんて、言えない。 …分かりました。 なるべく温かいまま持って帰って来ます。 じゃ、最後に一つ。 本当に君達に任せても大丈夫、なんだよね? …! 当たり前です!! 由乃ちゃんも? 当然です。 ん、其の意気や、良し。 じゃ、気をつけて行っておいで。 なに、君達が帰ってくるまで、私が蓉子を看ているから。 心配は要らな 由乃さん! うん! 『行ってきます!!!』 はい、行ってらっさい。 −以上、回想終わり 其れで。 子供達だけで買いに行かせたの? うん。 でも大丈夫、知ってる店だから。 然う言う問題じゃないでしょう! 子供達だけで行かせるだなんて…! 蓉子だって子供の頃、お使いに行ってたそうじゃない。 それから大きな声を出さないの。躰に響くから。 …。 でこに聞いた。 醤、だっけ? イツ花はいつの時も相変わらずだね。 もう。 余計な事ばかり。 蓉子。 何よ。 大丈夫。 今の京は昔の京じゃない。 …然う、だけど。 なに。 鬼退治で京一番有名なこの家の子を浚おうなんて、そんな肝の据わった阿呆、居ないって。 …もう、直ぐに茶化して。 茶化したつもりは無いのだけれど。 それとも何、蓉子は他の事を心配しているのかな? …。 あ、図星? 心配してるわけじゃ、無いわ。 でも気にしてる。 違う? …。 ま、口で教えてもらうのと、実際己の目で見るのでは受けるものが違うからね。 でもあの二人なら大丈夫。 其の根拠は一体何処から来るのよ。 根拠なんて別に無いよ。 ただ漠然と、ね。 いい加減。 はっは。 大体、聖は… お姉さま。 少々、宜しいでしょうか。 あ、志摩子。 良いよ、入って。 失礼致します。 良い頃合に来たね。 丁度、目を覚ましたところだよ。 恐れ入ります。 …蓉子さま、これを。 これ…て、若しかして。 苦いと思うけど。 ま、良薬口に苦しって言うでしょ? 我慢してね。 聖…! これはどう言う事なの…! どう言う事って。 こう言う事、だけど? 切らしている筈、でしょう? おかしいじゃない! あまり大きな声を出しちゃ駄目だって言ったでしょう? 躰に障るから。 誤魔化さないで…! 誤魔化したつもりも無いんだけど。 じゃあ、聞くけど。 子供達は今、何を買いに行かせられているの? 行かせられているだなんて。 まるで私が強制的にさせているみたいじゃない。 違うの?! 違うよ。 ちゃんと話したでしょう? あくまでも祐巳ちゃん達が志願したんだって。 けれど。 薬湯はこうして私の前に置かれているわ。 あるのなら初めから行かなくても良かった筈よ。 無かったんだよ、本当にね。 何時もの如く、イツ花が切らして。 だから…! 志摩子に行ってもらった。 な…。 ね、志摩子。 …志摩子、本当なの? はい。 お姉さまに頼まれて…先程。 …なんて、事。 じゃあ子供達は…。 正直に言うよ、蓉子。 確かにあの子達には違う物を頼んだ。 だけ、ど…? …。 …蓉子? 蓉子さま、お顔色が…。 …何でも無いわ。 一寸、疲れただけ。 今は。 これを飲んで少しでも眠った方が良い。 眠ってなんかいられないわ。 子供達が帰ってくるのを待ってないと…。 あの子達は私の為、に… …ほら。 あまり無理をしては駄目だ。 志摩子、薬湯を。 はい。 …大丈夫、一人で飲めるわ。 病人扱いしないで頂戴…。 ……蓉子さま。 …何、志摩子。 お姉さまは今朝から…。 志摩子。 …はい。 …? 何なの…。 今は何でも無い事にしておいて。 後でちゃんと私から話すから。 何よ、其れ…。 蓉子さま。 ここ数日、京の風が澱んでいるように思えます。 若しかしたら近いうち、鬼達によって疫病の種が撒かれるやも知れません。 え…? 差し出がましいとは思いますが…どうか、あまりご無理をなさらず。 お躰をご自愛なさるよう…。 …。 お姉さまも。 あまり蓉子さまを困らせる事、無きよう…。 ん、分かってるよ。 …過ぎた口を利いてしまい、申し訳無く存じます。 良いよ、本当の事だから。 気にしないで。 …有難う御座います。 それでは私はこれで…。 ん、ありがとう、志摩子。 助かった。 …いえ。 蓉子。 …。 よぉーこ。 …。 よぉーこさ 聞こえてるわ。 と言うか近いわよ。 寝ないの? 待っていないと。 じゃ、せめて横になったら? 顔色、紅の血筋なのに真っ白だよ。 …其れは生まれつき。 若しも寝ちゃっても。 帰ってきたら起こしてあげるけど。 有難う。 でも起きているから。 この強情っぱりめー。 …聖こそ。 何なのよ、其れ。 んー、机? 何をするつもりなの。 と言うか、近いって言ってるでしょう。 いや、たまには当主らしい事でもしようかしら、と思いまして。 と言うわけで蓉子、筆と硯、貸して。 自分のを持っていた筈だけど? どっかいった。 …貴女ねぇ。 墨は? 蓉子ので良いや。 良いや、て。 部屋にあんだよね? 何が。 筆と硯…と墨。 然うだけど。 て、人の部屋、勝手に入らないでよ。 今、断りを入れたつもり。 然うには聞こえなかった。 良いじゃない。 今更、でしょ。 …幼い頃、教えた筈よ。 親しき仲にも 礼儀ありー、てね。 …軽いのよね、貴女が言うと。 然う? ま、良いじゃない。 良くない。 蓉子さんの筆と硯、貸して下さいナ。 …いや。 えー、どうしてよー。 何か、いや。 や、何か、て。 …。 あー… …。 ……ふむ。 …? そっかそっか。 うんうん。 …いきなり。 一人で何を納得してるのよ。 わたくし、分かっちゃいましたよ。 蓉子さん。 何が。 蓉子さんたら。 もう、いやだなぁ。 …祐巳と由乃ちゃん、大丈夫かしら。 其れなら然うと、早くおっさって下されば良いのに。 …聖。 はいはーい。 子供達はいつ頃行ったの? 帰り、遅くはない? 未だそんなに経ってないと思うけど。 本当に? どれ位経っているの? 一刻は経ってないよ。 そんなに経っていたら問題じゃないの。 然うかな。 色々と興味が湧いて道草をすれば其れぐらい… 江利子じゃあるまいし。 祐巳はそんな子じゃないわ。 わ、出た。 蓉子の孫贔屓。 先ず果たすべき事柄を蔑ろにはしない、と言う意味で言ったのよ。 同じ事だと思う。 てか其の言い方だとでこは蔑ろにするみたいだねー。 言い方を変えるわ。 祐巳は貴女じゃない。 其れは然うだ。 じゃあ、由乃ちゃんは? あの子はでこの子だから分かんないよ? 何か、気を引かれるような面白いものがあれば、 聖。 …へいへい。 …。 と言うかさ? そんなに気を揉まなくてもちゃんと帰って来るって。 心配性だなぁ。 貴女の方こそ、楽天過ぎ それよりも蓉子さんや。 …る、て。 眠るまで、此処に居てあげるから。 …何を言ってるの。 お望みとあらば。 手を繋いでいてあげよう。 …もう、繋いでいるじゃないの。 私は此処に居る。 だから…安心してお休み。 ……何を言わんとしているのか。 全然、分からないわ。 傍に居てあげる、てコト。 然うだ、何なら手っ取り早く添い寝の方が良いかな? ちょ、一寸…ッ なに、やましいコトはしないから。 …触れはするけど。 さ、先刻から何わけの分からない事を言ってるのよ…ッ 蓉子が。 私が蓉子の部屋に行くの、嫌だって。 其れは貴女が私の部屋に勝手に入るのが嫌だと… 弱ってる時に。 仮令、少しの時でも一人残されるのはしんどい、と。 然う、思わない? そ、其れは聖が思う事であって… 何故か、天井が高く映る。 部屋の空気も何処か余所余所しくて冷たい。 あ…。 眠れば怖い夢を見るかも知れない。 目が覚めても手の届く範囲に誰も居ない。 不安になる。 せ、せい…。 …だから。 眠っても私が傍に居てあげる。 と、当主の仕事をするって…。 それよりも目の前の優先すべき事柄を。 そんなの、ただの口じ…ん。 …しぃ。 ……。 おやすみ、蓉子…。 せ…… 只今戻りました………!!!! …くぁぁぁ。 …当主様。 何を遊んでおられるのですか。 …べ、別に遊んでるわけで、は。 くぅぅ…。 じゃあ、一体何をなさっているんですか。 私の目には転がっているようにしか見えないんですけど。 蓉子さまをちゃんと看ていてくれたのではなかったんですか。 …そ、そのつもりだったんだけど、ね。 つもりじゃ駄目です。 役に立たないじゃ無いですか。 ……そ、其れよりも。 わたくし、机の角に、頭をしこたま打ち付けて、悶絶ちゅう…なんです、が。 然うですか。 …や、其の反応はちみっと冷たくない、かな。 祐巳ちゃんや…。 どうせ。 自業自得、なんでしょうから。 …違うよ。 私はちゃんと蓉子を想って添い寝しようとしただけ、でッ? お帰りなさい、祐巳。 只今戻りました、蓉子さま! 目を覚まされたのですね! ええ。 お加減は如何ですか? 起きていて大丈夫なんですか? お体は辛くないですか?! 然うね。 少しだけ、疲れが溜まっていただけだから。 今暫く静かに休養していれば、直に良くなるわ。 心配させてしまってごめんなさいね。 いいえ、いいえ。 もう…もう、本当に良かった、です…。 祐巳…? 若し…若しも、蓉子さまが目を覚まさなかったらって思ったら、私…わたし… …いつまでもそんな処に立っていないで。 此方においで、祐巳。 …へ? さぁ。 は、はい…。 もう少し。 え…? 私の隣にお座りなさい。 あ、あの、でも…。 おいで、祐巳。 あ、は、はい…。 良い子ね。 え、えと…蓉子さま、私…。 …ありがとう、祐巳。 あ…。 春先とは言え未だ寒さが残る空の下、私の為に使いに行ってくれたと、聖から聞いたわ。 こんなに冷たくなって。 …あ、あの、蓉子さま。 うん? あ、いえ、何でもありませ…ん。 然う? はい。 …えへへ。 なぁに? 何がおかしいのかしら? え、と。 おかしいんじゃ無くて、嬉しいんです。 嬉しい? 蓉子さまに頭を撫でて頂いて。 …然う。 …あ、あの蓉子さま。 由乃ちゃん。 貴女も此方においで。 は、はい。 由乃ちゃんもありがとう。 寒かったでしょう? いえ、其れ程では…。 然う? ほっぺたがこんなに冷たくなっているみたいだけれど? ………。 …あ、由乃さんの顔、真っ赤。 そ、然う言う祐巳さんだって。 私のは外が寒かったからだよ。 私だって然うよ。 …。 …。 …えへへ。 …ふふふ。 …良いなぁ、二人ばかり。 私の頭は撫でられるどころか、机の角にぶつけて瘤が出来たってのに。 おまけに足蹴にはされるし。 私だってさぁ、ちゃんと蓉子の事を考えてさ、良く眠れるようにと思って 聖。 うん? なになに、蓉子? 瘤。 もう一つ、欲しい? あ、いえ、結構です。 蓉子さま、蓉子さま。 うん? 蓉子さまの手、とてもあったかいです。 然うかしら。 はい。 何だかとっても安心します。 ね、由乃さん。 うん。 其れは外気のせいで二人の体が冷えているから。 余計、然う感じるのだと思うのだけれど。 其れでも。 やっぱり蓉子さまの手があったかいのだと、私は思うんです。 私も然う思います。 …二人が然う言うのなら。 然う言う事にしておきましょうか。 『はい!』 …私があっためたんだよ、とか言ってみたい。 言わなくて良いわよ。 ……蓉子が眠っている間。 実は手を握っていたのだよ、とか。 だから。 言わなくて良いから。 ………蓉子のいけず。 …聖。 …ふーんだ。 もう、当主であろう者が子供たちの前で。 不貞腐れないで頂戴。 どうせ子供だもの、私。 ええ、ええ、子供ですとも。 大体、当主なんて好きでやってるわけじゃ無いし。 …ああ、もぅ。 …? 蓉子さま? 此処にはもう一人、それこそ貴女達よりも手の掛かる大きな子供が居るようだから。 ええ、と…。 …ふん、だ。 …其の様です、ね。 だから。 聖。 …何、 頭、貸しなさいよ。 え…お、おわ。 さっさとする。 あ、は、はい…。 少しだけ、だから。 …ん。 聖も。 ありがとう。 ……。 …全く。 あまり手を掛けさせないで。 …へへ。 …。 …。 …ねぇ、由乃さん。 …なに、祐巳さん。 今の当主様を「単純」って言うのかな? と言うか、お顔だけ見ると幼子みたいよね。 其れと今のような蓉子さまを指して、お姉さまが言ってたんだけど。 其れって令ちゃんが言ってた事と一緒かも知れない。 何だかんだ言って、 当主様には甘い、て。 …。 …。 はい、お仕舞い。 えー、もう一寸。 だめ。 良いじゃん。 おあずけを喰った分、もう一寸だけ。 何がおあずけ、よ。 調子に乗らないの。 へーい。 じゃ、また後でゆっくりと、と言う事で。 しないわよ、もう。 子供らが居なくなったら、とか。 しません。 じゃあ、私がしてあげる。 結構よ。 そんな遠慮なさらず。 してません。 またまた。 してない、て。 言ってるでしょう。 へへー。 ……。 ……。 …お姉さまの言ってたコト、何となく分かった気がする。 これが甘い空気ってヤツなのね、令ちゃん…。 ……て、あれ? 何か…、 あま、い…? 無性に腹が、 …あ。 た… あぁぁーーー!!! え。 お? な、何、どうしたの、由乃さん。 祐巳さん、こうしてる場合じゃないわ! 早くしないと冷めちゃう! へ…? 懐の! 冷めないようにって折角! ふところ…? 何の為に私達、お使いに行ってきたのよー! ……あ。 もう、確りしてよ、祐巳さん! あぁぁぁーー!! わぁ、今度は祐巳ちゃんか。 そ、然うだよ、由乃さん! 私達はこれを蓉子さまに…! 一寸待って、祐巳。 行き成り大きな声を出して、一体どうしたと言うの。 少し素っ頓狂でもあったね。 特に祐巳ちゃん。 聖。 へいへい。 蓉子さま…! はい? これ…!!! …………え、と。 何、かしら…? お饅頭、です!! …………オマンジュウ? はい! ……温かいわね、これ。 其れはですね、買った時、焼き立てだったんです! で、冷めないようにって懐の中に入れてきたんです! そ、然うなの…。 …冷めてないようで良かったね、祐巳さん。 …然うだね、由乃さん。 でも良く冷めてしまわなかったわね。 私達も其れを思って、 少しでも冷めないようにって懐に入れてきたんです、 私だと体温が低いから、 私の懐に入れてきたんですけど、 私は走れないから後から行くって言ったのに、 だって由乃さんを置いていくなんて事、私は出来ないよ、 でも冷めちゃうからって言ったのに、祐巳さんったら変なところで強情で、 外の空気が入らないようにしたから大丈夫だって、 それでも焼き立ての熱い方が良いに決まってるじゃない、 だけど由乃さんと二人で行ったんだもの、 そんなの関係無いわよ、 関係あるよ、 蓉子さまに熱いのを食べて頂く方が優先だわ、 然うだけど、でも、由乃さんと二人でむがッ はい。 二人ともそこまで、ねー。 むが、むががが!! 其れと。 残念ながらこれは饅頭じゃ無いんだな。 むが? むがが?? まぁ、蓉子が好きなものにはかわりないけどね。 …つまり。 聖が二人に買いに行かせたのはこれ、なのね。 うん、然う。 何なのよ、此れ。 言うより見た方が早いよ。 包みを開いてごらん。 …。 そんな怪しいものでも見るような目をしなくても。 蓉子も知っているものだって。 ……。 ほらほら、冷めてしまわないうちに。 折角二人が冷めないように苦心…でも無いか。 兎に角、二人の頑張りを無にしてはかわいそうだよ。 …分かったわよ。 さ、早く早く。 急かさないで。 だって、ねぇ。 もう、一体何だと言う、の… うん。 この焦げ目が何ともまた、美味しそうだね。 …此れ、て。 若しかして、 若しかしないでも。 神馬堂のやきもち。或いは葵餅とも言う。 いつかの祭りで、食べたそうな顔をしていたでしょう? 人を食い意地の張った人間のように言わないで。 だって本当に食べたそうな顔、してたよ? あの時。 …。 やきもち、て。 これってお餅だったんですか?当主様。 然うだよー。 そもそも饅頭は焼くんじゃなくて、ふかすもの。 一つ、物知りになったね。 一寸待って。 ん、何かな? 使いに行かせたと言う事は、前もってちゃんと、何を買うのか言付けしたのでしょう? 勿論。 二人には何て? 二人、と言うか。 お金は由乃ちゃんに、言付けは祐巳ちゃんに託したの。 だから祐巳ちゃんなら知ってるよ。 え、私…? …はぁ。 祐巳、貴女は聖に何て言われたの? え、えと…。 蓉子は…あ、いえ、蓉子さまは甘いモノがお好きだから… 好きだから…ね。 其れで? とりあえず、上賀茂の前の饅頭屋らしき店で五つほど買ってきて、て。 何を、とは? …聞いてません。 兎に角、疲れた時は甘いものに限るから、特に蓉子さまには効果覿面だから、と。 でも饅頭屋らしき店って言ったし、包みはホカホカで中身も何となく丸かったから饅頭だとばかり…。 …せーい。 いや、ほら。 知らない方が面白いかな、と。 面白いと言う問題では無いから。 や、でも、ちゃんと買ってきたし。 万が一、違うものを買ってきていたらどうしたつもり? しかも店の名も言わないで。 でも饅頭屋らしき、とは言ったから。 仮に葵餅じゃなくても饅頭らしきものは買ってきたんじゃ無いかな。 …。 其れに。 上賀茂の前の饅頭屋らしき店と言ったら、今のところ、神馬しか無いから。 万が一にも間違わないって。 …いい加減な。 其れにほら、可愛い子には旅させろって言うじゃない。 敢えて目的の物を教えずに使いに行かせるのもまた旅、てね。 間違ってるわよ。 ま、良いじゃない 良くないわよ。 まぁまぁ。 大体、貴女はいつも… とりあえず、食べようよ。 て、んー…? 何よ。 ね、二人とも。 これ、数多くない? …其れ、は。 私、五つって言ったよね。 と言うか五つ分のお金しか渡してないよね? …おまけ、だそうです。 は? 店の小父さんがおまけしてくれたんです。 いつも鬼退治してくれるから、て。 へぇー。 其れはまた。 あ、でも、ちゃんと断ったんですよ。 けど今度は子供二人でお使いなんてえらいなー、てコトになって。 それでもお金がありません、て言ったんですけど、 おまけだから気にするな、て、 仕舞いにはあれよあれよ、で… 七つ、持たされたと。 この二つは二人の数かな、多分。 …二人とも。 は、はい…。 ちゃんと。 お礼は言えた? あ、はい、其れは勿論! ちゃんと頭を下げてありがとうございます、て言ってきました! 然う。 ならば主殿の好意だと思って、有難く頂きましょう。 うし、然うと決まれば。 て、聖。 はい蓉子、あーん。 自分で取るから良いわよ。 良いから良いから。 はい、あーん。 良いって言ってるでしょ。 と言うか、聖。 貴女はこの後、ちゃんとお礼を言いに行くのよ。 え、何で。 貴女、この家の当主でしょう。 子供達がお世話になったのだからちゃんとお礼して来なさい。 えー…。 さて、と。 祐巳、由乃ちゃん、二人も食べて。 え、私達もですか? 一人ではとても食べ切れないもの。 其れに一人で食べても美味しくないわ。 …え、と。 どうしよう、由乃さん。 …蓉子さまに買ってきたものだし。 でも…少し、食べたいかも。 でしょう? よ、由乃さん…。 だって、美味しそうなんだもの…。 そ、其れは然うだけど…。 ほら、子供が遠慮なんてしないの。 え、あ…。 あの、本当に良いんですか…? ええ。 えとじゃあ、頂きます…! ちょ、由乃さん…?! ほら、祐巳も。 子供が遠慮なんてするものじゃないわよ。 は、はぁ。 これ、すごく美味しいわよ、祐巳さん。 …もう、由乃さんたら。 と言うわけだから。 聖は行ってらっしゃい。 いや、そこは私にも勧めてくれるトコじゃないの? だって貴女、甘いものは好きじゃないでしょう。 や、食べますよ。 食べますとも。 無理して食べる必要は無いわよ。 食べ物を粗末にしたら罰が当たるから。 粗末、て。 私が食べたら粗末になるって言うの? 違う? 違うよ。 てかそんな言われ方は無いよ、蓉子。 流石に傷付くよ…。 ねぇねぇ、祐巳さんも食べてみなよ。 凄く美味しいわよ、これ。 と言うか、蓉子さまよりも先に食べるなんて。 蓉子さまの為に買ってきたってコト、完全に忘れてるでしょ。 あ。 あ、じゃないよー。 …。 ……。 ……聖。 …ま、良いや。 特段食べたいってわけじゃないし。 私の分はちび達にでもやれば…。 …はい。 ん? 食べるのでしょう?貴女も。 でも…なぁ。 …悪かったわよ。 どうしようかなぁ。 …何が望みなのよ。 んー、分かってるじゃない。 矢っ張り長く夫婦をやってると通じるものがあるのかしら。 夫婦じゃない。 照れてる? 照れてない。 へへ。 じゃ、とりあえず。 あー… あー? …食べさせて? 蓉子の手から。 ……。 そうそう。 はい、あーん…てのも忘れずに、ね。 …。 そだ。 口移し、でも良いよ。 寧ろ、推奨。 莫迦。 其れは無いわよ。 あ、矢っ張り? …聖。 んー? ……もう。 ね、未だ?未だ? …はい、 ん。 あーん…。 あー………ん、おいし。 ほんのりあったかくて。 …其れは良かったわね。 じゃ、今度は私の番ね。 はい、あーん。 私は良いわよ。 だーめ。 はい、あーん。 …ああ、もう。 ほら、蓉子。 あーん。 … お。 ……ん。 どう?おいし? …美味しいわ。 ほんのりと温かくて。 其れは良かった。 じゃ、もう一つ。 ふ、二つ目は自分で食べるから…ッ へっへ。 蓉子ちゃん、顔がちみっとあっかーい。 …誰のせいよ。 …ね、蓉子。 …? 一つ、取っておいてさ。 後で口移しで… しないわよ、ばか。 …。 祐巳さん、眉毛と眉毛の間に皺が寄ってるわよ。 お餅、美味しくないの? …美味しいけど。 私、もう一つ食べちゃおうかな…。 ダメだよ、由乃さん。 これはあくまでも蓉子さまに買ってきたものなんだから。 わ、分かってるわよ。 …。 でもこのお餅、本当に美味しかったわ。 然うだね。 …令ちゃんにも食べさせてあげたいな。 然うだ、今度一緒に買いに行こう。 ね、祐巳さんも祥子さま、と…ッ? …え、何? ゆ、祐巳さん、皺が増えてるよ。 と言うかお餅から餡子が…。 あ、ああ。 つい。 いや、つい…て。 これ、当主様に投げつけたらどうなるかなー、てね。 ……え、と。 なんて。 そんなコト、しないけど。 ゆ、祐巳さん…。 顔が一瞬、怖かったわよ…。 えぇ、然う? ええ。 目が物凄く本気で…。 もうやだなぁ、由乃さんったら。 本当にするわけ無いじゃない。 そ、然うだよ…ね。 ・ ちび達、寝ちゃったねぇ。 …余程疲れていたのね。 ま、お腹もふくれたしね。 どれ、私も一緒に昼寝しよっかなー。 聖、重いわよ。 いやー、思いの外美味しかったね。餅。 あんまり甘く無かったから私でも食べられたよ。 もう、貴女って人は…あら? うん? 由乃ちゃんったら。 頬に小豆が付いてるわ。 んー…あ、ホントだ。 思えば一番美味しそうに食べていたわね、由乃ちゃん。 然うかな、一番は蓉子だと思うけど。 まるで子供みたいに頬張っていて、さ。 あんな蓉子、滅多にお目に掛かる事無いから新鮮だったわ。 …私。 て、あれ。 蓉子さん…? そんな子供みたいに食べてた…? え、いや、其れだけ嬉しそうに見えたって意味なんだけ、ど…。 …。 え、と。 気に障った…の? …いいえ。 …あ! しぃ。 子供達が起きちゃうわ。 いや、だって、今…ッ なぁに? 私、何か特別なコトでもした? よ、由乃ちゃんのほっぺたに付いてた小豆、を…ッ 取って食べた。 たった其れだけの事だけど? ……。 聖? …何でも無い。 …やきもち? 違う。 其の割りには。 大きな声、出してたけど? …決めた。 …? 何を…て、聖。 ちび達にはご退場を願おうか。 何をするつもり? 隣の部屋に連れて行く。 折角寝てるのに。 起こすのは… だからこのまま運ぶ。 運んでどうするつもりなの。 私も昼寝する。 …は? 此処で、蓉子と、二人で。 …あのねぇ。 薬湯は飲んだ。甘いものも食べた。 あとはゆっくり寝て静かに休むだけ。 私が、でしょう? 私も寝る。 もう決めた。 また子供みたいな駄々を…。 …よ、と。 聖。 む、祐巳ちゃんのヤツ、確りと握ってるし。 よく眠っているのに無理をして起こしては可哀想だわ。 …。 このまま寝かせておいてあげて。 じゃあ、私は何処で寝れば良い? 何も貴女まで寝なくても良いじゃない。 おまけして頂いたお礼もしに行かなければならないのだし。 私はそんな柄じゃない。 柄は関係無いわ。 貴女はこの家の当主なんだから。 …。 またご機嫌ななめになったの?聖。 …面白く無い。 面白く無い…て。 蓉子は…私の人、なのに。 …もう。 本当に仕方の無い人ね。 こんな子供にまでやきもちをやいて。 …。 この子達は私達の子でもあるのよ? …分かってるわよ。 聖だって祐巳の事…祐巳だけじゃない、由乃ちゃんの事だって可愛がっているじゃない。 其れと蓉子の事は別。 …聖は。 …。 そんなに私と寝たいの? 寝たい。 最近はいつも…其の、一緒に寝てるのに? いつも蓉子と居たい。 其の為に子供達を邪魔にするの? しても良いと言うの? 邪魔になんて…。 …。 …だけど。 …聖。 …。 …では、狭いから。 …? お布団、もう一組敷いて? 蓉子…? この部屋にはもう一組、あるでしょう? 替えの、が。 …あるけど。 其れを…然うね、こちら側に敷いて。 …其れじゃ蓉子と一緒じゃない。 だから。 隙間無く敷いて。 …で? 私が其の真ん中に寝るわ。 …。 それとも。 子供達を真ん中にした川の字の方が… 蓉子が真ん中で良い。 一寸待ってて。 …ん。 ……よっこらせ、と。 相変わらずな掛け声、ね。 ……さて、と。 此れで良い? …ええ。 枕はこの一つで良いね。 …其れはどういう意味? 蓉子には必要無いって意味。 …。 蓉子には此の腕があるから。 …子供達。 ちゃんと寝かせてあげてくれる? うん。 祐巳ちゃんはどうあっても蓉子を離さないみたいだから。 由乃ちゃんが端っこになってしまうけど良いかな。 其の代わり、お布団はちゃんと掛けてあげてね。 分かってる。 …さ、此れで良い。 …。 次は私の番。 …起きたら。 ちゃんとお礼に行くのよ? 蓉子と一緒になら行く。 …。 だって。 どう考えても柄じゃないよ、私。 …じゃあ、私も行くから。 ん、なら行く。 …また、言われちゃうわね。 何を、誰に…? 甘やかしてるって、江利子に。 そんなの、言わせておけば良いのよ。 然うはいかな…ん。 今は江利子の事なんてどうでも良いから。 どうでも良いは無いわよ…。 ね、私達も寝よう…? ……枕が無いと眠れない。 其れは失礼。 頭、少し上げて貰えますか? ん…。 はい、下ろして良いですよ。 寝心地は如何ですか、蓉子さま。 …いつもと同じよ。 それから“さま”なんて付けないで。 これまた失礼。 …ね、聖。 うん…? 髪、撫でて…。 …珍しい。 何よ…。 ううん。 其れでは仰せの通りに…。 …おやすみなさい、聖。 おやすみ、蓉子…。 ・ …こ。 んん…。 蓉子。 …せい? 蓉子、蓉子。 …どうしたの? そんなに甘えて。 蓉子、好き。 …もう。 貴女はいつも突然なんだから。 だから。 ずっと一緒に居て。 何処にも行かないで。 居るわ。 ずっと貴女の傍に。 約束だよ、蓉子。 ええ、約束ね。 …? よぉこ。 …聖、貴女。 なに、よーこ。 小さく、なってない? だって。 私、子供なんだもの。 …何を言って、 みんな、私のコト、「びゃっき」って言うんだ。 …。 「しおいおに」なんだって、私。 違うわ。 聖は鬼なんかじゃない。 ん、蓉子の手はあったかいな。 …。 だから絶対。 …ッ いた…ッ 離さないんだ。 この手を。 聖、痛いわ…。 …離さない。 せ…! …………聖!!! わ、わぁ…ッ? …はぁ。 あー、吃驚したぁ。 寝てると思ったらいきなり、大きな声で呼ばれるんだもの…て。 …聖。 あ、あの、蓉子さん…? …。 な、何してるのかな? ちょっとばかり…と言うか、大分くすぐったいのだけど。 …聖、なのね。 …蓉子の隣に寝てるが私じゃなかったら。 一体、誰だって言うのさ。 違うの。 …? 何が? …ううん、ごめんなさい。 気にしないで。 いやいや、気になるしょや。 …一寸、夢を見ただけだから。 夢? 其れは怖い? 怖…くは無かったのだけど。 …ふぅん。 やっぱり。 聖が言うように疲れているのね、私。 変な夢を見るなんて。 ね、蓉子。 私が隣に居て良かったでしょう? うん? 夢に起こされて。 だけど私が隣に居て、安心出来たでしょう? …。 ね? やっぱり一緒に寝て良かった。 …然うね。 聖が居てくれて良かったわ。 ふふ。 何よ、気持ち悪いわね。 嬉しいなぁ。 きゃッ 蓉子に然う言ってもらえて。 凄く嬉しい。 せ、聖、苦しいわ…。 あ、ごめん。 …あの、聖。 うん? 若しかして起こしてしまった? いや。 蓉子が目覚める前に起きてから。 …子供達は? とっく。 居ないみたいだけど、何処に行ったの? 祐巳ちゃんは傍に付いていようとしたみたいだけど。 こういう時はそっと寝かせておいてくれた方が良いのよ、て由乃ちゃんが。 然う言う由乃ちゃんは令が傍に居ないとぐずるのにね。 其れで? さぁ? 此の部屋に居ないのは確実。 …然う。 寂しい…? …其の為に。 聖が居てくれるのでしょう…? お、わ…。 …あったかいわ。 本当、珍しい…。 弱ってる蓉子もたまには良いかも。 …冗談。 うん、冗談。 これからも蓉子には健やかで居て貰わないと。 …ところで、聖。 何かな、蓉子。 何、してたの? 其れ、何…? ああ、これ? 書状。 書状…? 一体誰に? ほれ、今度春の選考会があるでしょ? 其れの、ね。 …若しかしないでも、寝転がりながら書いてたの? そ。 蓉子さんが起きた時、隣に私の温もりが無かったら不安がると思って。 器用なものでしょう? お布団、汚してない? 墨って一度付いたら落ちないのよ。 大丈夫、多分。 下敷きは? ちゃんと敷いてる? 心配無用。 硯と筆と墨は? 蓉子さんの、です。 …。 いや、便利だねぇ。 この墨汁ってやつ。 結局、勝手に入ったのね…。 はい、すんません。 反省しているように見えない。 いやほら、一応言っておいた…し? ……。 ん、蓉子? …嘘つき。 え、何で?! ずっと一緒に居てくれたわけでは無かったんじゃない。 へ? …。 あ、あの、蓉子? 嘘つき。 は、離れてたと言っても、些細な時間だよ? 取ったら直ぐに戻ってきたんだから。 いや流石蓉子の部屋だよね、良く整理整頓されてるから直ぐに見つかって 聖が居ない時、若しも私が目を覚ましていたら。 どうするつもりだったの…? 其れは…何と言うか、熟睡してるのをちゃんと確認したし…。 夢見が悪かったら。 熟睡していたって目覚める時はあるわ。 今みたいに。 そ、其れは然うだけ…ど。 …。 どうしたの、蓉子。 今日はいつもとかなり勝手が違うんだけ、ど…。 …たまには良いって先刻言った。 あ、いや、言いましたけど。 ……。 も、もしもし…? …屹度、疲れてるのよ。 だから…。 …。 …だから。 今、だけよ…。 …今だけ、ね。 …聖。 …ん。 傍に、居て。 …はい。 私は蓉子の傍に居ますよ。 …ちゃんと、居て。 …うん、居るよ。 何だったら夢の中でも傍に居てあげる。 …。 蓉子…? …抱き締めて。 …了解。 …。 これで、良いかな…? ……ん。 じゃあ…もう一度、ゆっくりとおやすみ。 次に目を覚めた時はいつもの蓉子に戻っているように…。 後 |