…たしが…と…りに…て……たで…う?



   せ…が…てくれ…良……た…。



   なん…らゆめ…な…でも…にい…あ…る。



   …だき……て。



   よ…こ。



   …い。


















   …祐巳さん。


   …。


   祐巳さん。


   …。


   ねぇねぇ、祐巳さんってば。


   ……何、由乃さん。


   いつまで此処に居るつもりなの。
   風邪、ひいちゃうわよ。


   …分からない。


   分からない、て。


   だって本当に分からないんだもの。
   仕方、無いじゃない…!


   ゆ、祐巳さん、泣いてるの?
   どうして?なんで?


   分かんない、分かんないわよぉ。


   …。


   …ふ。


   ねぇ、祐巳さん。


   …なに。


   蓉子さまの傍に居たいのなら。
   部屋の中に戻れば良いじゃない。


   ……。


   当主様の事、気にしてるの?


   …然うじゃない、けど。
   だけど…。


   なら、良いじゃない。
   何だったら私も一緒に入ってあげるわよ。


   あ、ま、待って、由乃さん。


   何よ。


   …なんか、入りづらいよ。


   だから。
   一緒に入ってあげるって言ってるじゃない。


   でも…。


   あーもう、煮え切らないわね。
   一体全体、何だって言うのよ。


   ……起きたら。
   蓉子さま、当主様と一緒に寝てた。


   ああ、寝てたわね。
   でも私達も寝てたわよ。


   …蓉子さまのあんなお顔、見た事無くて。


   あんな顔?
   其れって寝顔って事?


   然うじゃなくて。
   上手く言えないけど…とても柔らかいお顔だったでも言うのかな。


   然うかしら?
   どっちかと言うと当主様のお顔の方が…何と言うか、へにゃっとしてたと言うか。


   ……蓉子さま、当主様の腕の中だとあんなお顔をするんだな、て。
   然う思ったら…。


   祐巳さん?
   若しかしてそんな事を気にしてるの?


   …。


   祐巳さんだって祥子さまと一緒に居る時、あんな顔してるよ。


   …。


   え、と。
   祐巳さんは当主様なの?


   …?


   それとも。
   当主様になりたいの?


   …なりたくない。


   でしょう?


   …けど。
   私じゃ蓉子さま、は…。


   当主様は当主様なのよ。
   で、蓉子さまにとっての当主様もあの当主様だけ。


   …。


   私の令ちゃんはあの令ちゃんだけだし、江利子…さまは江利子さまだし、
   祥子さまは祥子さま以外あり得ないし、ほんわり志摩子さんはほんわり志摩子さんだし、
   ドジなイツ花はやっぱりドジなイツ花だし、ゴロンタはゴロンタだし、


   よ、由乃さん…?


   お庭の令ちゃんのお花は令ちゃんのお花だし、庭に来るチュン太はチュン太であってポッポじゃないし、
   お向かいのおばあちゃんはおばあちゃんで、


   ま、待って、由乃さん。
   何が言いたいの?


   だから。
   私は私だし、祐巳さんは祐巳さんなの。


   …ごめん。
   言いたい事、良く分かんない。


   だーかーら。
   其れ以外の何者でも無いのよ。


   …つまり?


   つまり!
   蓉子さまにとっての祐巳さんは祐巳さんだけなの。
   分かった?


   ………ええと。


   今、当主様は当主様にしか出来ない事をしてるだけ。
   だったら、祐巳さんも祐巳さんにしか出来ない事をすれば良いのよ。
   簡単じゃない。


   か、簡単…て。


   良い?
   祐巳さんは蓉子さまにとっての“孫”なのよ。
   この立場は当主様と言えど、なれやしないわ。


   …。


   だからね、其の…ああもう、何て言うのかな!
   良いじゃない、祐巳さんは祐巳さんなんだから!
   いちいち、気にしないの!!


   …私は私、なんだ。


   然うよ!


   そっか…然うだよね。


   ええ、然うよ。


   うん、分かった。
   ありがとう、由乃さん。


   別に。
   お礼を言われるようなコト、してないわ。
   私は当然の事を言ったまで、よ。


   それでも。
   ありがとう、由乃さん。


   な、何よ、改まって言わないでよ。


   …若しかして、照れてる?


   ち、違うわよ!


   ふふ。


   も、もう、私行くから。
   此処に居ると足が冷えてしまってどうにもならないもの。


   じゃあ、私も行く。


   良いわよ、ついて来なくても。


   由乃さんと一緒に行くなんて、未だ言ってないよ?


   …ッ


   然うだ、イツ花のところに行って、
   蓉子さまが元気になるようなモノ作ってもらおう。
   当主様は離れられないみたいだし。


   あ、祐巳さん。


   ほら、由乃さん。
   早くしないと置いて行っちゃうよ。















   …行った、かな。


   …。


   其れにしても、全部筒抜けだよ。


   …。


   蓉子。
   君の孫は本当に可愛いね。
   まるで。


   …ん。


   今の蓉子…いや、いつもも可愛い、か。


   …。


   しっかし。
   由乃ちゃんってばいつだかの江利子と同じようなコト言ってたなぁ。
   流石黄沙血筋とでも言うのか、それとも流石でこの娘とでも言うの…ふわぁぁぁ。


   …うーん。


   お、と、いかんいかん。


   ん…。


   さてと、私ももう一眠りしようかな、と。
   おやすみ、蓉子。















   ・



   ・



   ・















   やっぱり。
   寝転がりながら書状なんて書いちゃ駄目って事なのね。


   …おかしいなぁ。
   絶対、大丈夫だと思ったのに。


   世の中、絶対なんてものはほぼ無いのよ。


   …むぅ。


   大方。
   気付かないうちに手に付いて、そのまま触ったんでしょう。


   だったら。
   蓉子の着物にも付いてる筈じゃん。


   ええ。
   付いてたわよ。


   え、嘘。


   嘘なんか言わない。


   何処、何処に付いてたの?


   …何処だって良いでしょう。


   えー気になるじゃん。
   思うに抱き締めた時だと思うから。
   ここら辺とか…あ、いや、意外にこの辺と、がッ?


   どさくさに紛れて触らないで。


   …いったぁ。


   さて。
   どうしましょうね、このお布団。


   墨が付いていると言ってもほんのちみっとじゃん。
   布団なんて寝るだけのものなんだし、差し支えないよ。


   貴女だけが使うわけじゃ無いのよ。


   然うだね。
   蓉子も使うしねー。


   ……。


   そういや墨が付いているところ、あの時に蓉子が良く握ると、ごッ


   一応、染み抜きしてみようかしら…。


   …昨日はあんなに甘えてくれたのに。
   あっという間に元通り…。


   当主様、何か仰いましたか?


   いえ、申しておりません。


   宜しい。


   …こんなだったら。
   次になんて言わないで、もう二、三日って言


   聖。
   未だ殴られたい?


   いえいえ、お構いなく。


   そうそう、今日はお礼にも行かなくてはならないのよね。


   私は蓉子さんと一緒じゃないと行きません。
   でもって蓉子さんは約束を破る人間では無いと存じております。


   分かってるわよ。


   然うだ。
   お礼がてらついでにお散歩なんぞ如何でしょう。
   天気も良い事ですし、さー。


   せーい。


   …はい。


   あ!
   ごきげんよう、蓉子さま!!


   ごきげんよう、祐巳。
   廊下は危ないから走っては駄目よ?


   あ、すみません。
   以後、気をつけます。


   うん、良い子ね。
   誰かさんとは大違い。


   て、思い切り私の方を見てるし。


   蓉子さま、お体の具合はもう大丈夫なんですか?


   ええ。
   昨日一日ゆっくり休んだから。


   然うですか!
   本当に良かったです!!


   でもね、祐巳と由乃ちゃんのお陰でもあるのよ。


   え、私たちの…?


   葵餅を買ってきてくれたでしょう?
   本当に美味しかったわ。
   ありがとう、祐巳。


   い、いや、そんな…えへへ。


   由乃ちゃんは?
   今日は一緒じゃないの?


   はい。
   今日は志摩子さんと術の修練をするって言ってました。


   由乃ちゃんが、術、の?
   しかも志摩子と…?


   へぇ、其れは珍しいなぁ!
   虚弱なのに反して身体を動かす方が圧倒的に好きな子なのに。


   聖、一言多い。


   やだなぁ、褒めてるんだよー。


   どうやら令さまに課題を言い渡されたみたいなんです。
   蓉子さまとの鍛錬を許可する代わりに、と。


   其れもあるだろうけど。
   思うに令が居ないと駄目なんだって思われたくないんだろうな、屹度。


   祐巳はどうなの?


   はい?
   何がですか?


   術。
   どこら辺まで進んでいるの?


   癒しに関してはお雫と春菜まで、祭と葬については一応全て覚えました。
   次は仙酔酒と武人を教えて下さるとお姉さまが。


   攻撃系統は?
   然うね、例えば火だったら何処まで?


   え、と。
   花乱火までは何とか。


   へぇ、其れはなかなか優秀だね。
   良い子良い子。


   …でも。
   火風とか火土はまだまだなんです。
   風や水に至っては…。


   じゃあ、水は私が教えてあげよう。
   得意なんでねー。


   いえ、結構です。お姉さまに教えて頂きますから。
   それから頭を撫でない下さい。


   祐巳。


   は、はい。


   陽炎と速瀬…いえ、速鳥を教えてあげるわ。


   え…。


   用事を済ませてから、になってしまうけど。
   其れでも構わないのならば、それから私で良ければ、の話だけれど。


   ぜっんぜん、構いません!
   是非、教えて下さい!


   う、わ。
   分かってはいるけど、ここまで態度が違うといっそ清々しい…。


   じゃあ、また後でね。


   はい!


   其れじゃあ…聖、早速行くわよ。


   え、本当に行くの?


   当たり前でしょう。
   私は祐巳に術を教えたいの。だからぐずぐすしないで。


   へーい、ただいまー。


   蓉子さま、用事ってどちらかへ行かれるのですか?


   やきもちやさんに、ね。
   おまけをして貰ったお礼をしに行くのよ。
   本当は昨日行くべきだったのだけれど。


   あー、視線が痛いー。
   突き刺さるー。


   あ、あの、私もご一緒しても宜しいでしょうか。


   うん?


   あ、若しかして私と一緒に散歩したいのかな?
   祐巳ちゃんは。


   いいえ。
   そんな事、全く思っていません。
   私は蓉子さまとご一緒したいんです。
   決して当主様とじゃありません。


   そんなはっきりと言われると寂しいなぁ、落ち込むなぁ。


   お、おも…ッ


   もうもう、凹んじゃって凹んじゃって。
   イキオイ余って減り込んじゃうわー。


   お、重いです、て…ッ


   ふはは、このこのー…あだッ


   こら聖、祐巳で遊ばないの。


   …あーい。


   さ、行くわよ。


   へいへい。


   あ、あの私も…


   祐巳もいらっしゃいな。


   あ、は、はい…!




















   志摩子、で思い出しのだけれど。


   志摩子がどうかしたー?
   あ、あの子、一寸可愛いかも。


   …貴女、後で話すと言ったまま、結局話してくれてないわよね。


   ひゃ、ひゃひをへふか…?


   志摩子が薬湯を持ってきてくれた時、志摩子は何かを言いかけたわ。
   其れを貴女が制したのよ。


   …いたた。
   そんな事、あったっけ?


   …。


   あ、思い出した。
   そういやあったね。うん、あった。


   で。
   あの子は何を言いかけたのかしら?


   大した事じゃないわよ。


   なら、話せるわね。
   で?


   蓉子の顔色があんまり良くない、と朝餉の後に一言言っただけ。


   …其れだけ?


   そ、其れだけ。
   ちなみに在庫は志摩子が教えてくれた。


   矢張り志摩子が買いに?


   うん。
   実際は私が言った後直ぐに買いに行ったんだと思う。
   蓉子が倒れた時、やたらに落ち着いていたから。
   多分、だけど。


   イツ花には何故?


   イツ花には悪いけど。
   志摩子の方がずっと確実。
   在庫も把握していたしね。


   …。


   蓉子でしょう?
   志摩子に薬の管理を任せたのは。
   最近の蓉子、人に仕事を任せるように、いや引き継きをしたと言った方が正しいかも知れない。
   まるで自分が…


   …祐巳、あまり余所見をしながら歩いては駄目よ。
   転ぶわ。


   はーい。


   それから手を離しても駄目よ?
   今日は人が多いみたいだから。


   はい、絶対に離しません!


   祐巳ちゃんはちっこいからねー。
   どれ、もう片方の手は私と


   繋ぎません。


   じゃあ、蓉子と繋いじゃおっかなー。


   繋がないわよ。


   …う、わー。
   本気で泣きそうなんだけど、私。


   はぁ。
   祐巳、悪いけれど繋いであげてくれる?
   当主様と。


   …蓉子さまが然う仰るのなら。
   当主様。


   はーい。
   へへー、こうしてると親子みたいだねー。


   ああ、然うね。


   良かったですね。


   …可愛いのに、この紅血筋めー。


   然う言えば。
   聖、昨日書いてた書状の事なんだけれど。


   あ、然うだ。
   春の選考試合の事なんだけどさー。


   出るの?


   うん。


   面子は…


   蓉子に出てもらう。


   …は?


   で、私も出るから。
   私と蓉子は確定、て事で。


   ちょ、一寸待ちなさいよ。
   何で私達が出るの。
   私達が出るくらいだったら、祥子や令を…。


   もう、決めた事だから。
   覆りませーん。


   聖…!


   そんな凄まれてもね、書状も書いちゃったしねー。
   もっと言うとイツ花に届けさせちゃったしねー。


   じゃあ昨日書いていたのは…。


   ちなみに。
   二人は決まったから、残りの二人は当日でも良いやーて事で。
   然うだ、いっそ二人で出る?


   何で言わないのよ…!


   だって。
   蓉子さん、お疲れだったし、


   だからってそんな大切な事…!


   まぁまぁ、私にとっては初めての選考試合なんだし。


   …ッ


   一度くらい、出とこうと思ってね。
   付き合ってよ、蓉子。


   …あれ程、嫌がってたくせに。


   祐巳ちゃんにも良いトコ見せたいしねー。


   別に見たくありません。


   まぁ、然う言わず。
   今だったら蓉子の雄姿つき、だから。


   …だったら、拝見致します。


   もう、本当に勝手なんだから。


   然うだよ。


   思えば、いつもいつも。
   貴女の我侭に振り回されてばかりいるわ、私。


   そうそう。
   だから…


   あ、蓉子さま!
   お店、見えてきましたよ!


   疲れてる暇なんて無いのよ。
   私の、“しとやかな恋人”。


   あ。


   おっと。


   当主様、蓉子さまにくっ付きすぎです。
   てか、人の頭の上で何やってんですか。


   良いのよ。
   私は蓉子の良人なんだから。


   りょ…?


   祐巳、そんな人の言う事をまともに聞かないで良いわよ。


   はい、蓉子さま!
   …?


   ねぇ、蓉子。
   折角来たんだからさ、お礼も兼ねて幾つか買っていこうよ。


   えぇ、然うね。


   あ、あの蓉子さま。


   うん?


   お顔が赤いみたいですけど…大丈夫ですか?
   昨日みたいにまた…。


   大丈夫よ。
   ありがとう、祐巳。
   さぁ、行きましょう。








































   ふむ、今回は志摩子の分もあるかな。


   聖。


   んー?


   私の名は蓮の花から、だから。


   知ってるよ。
   でも、さ。


   でも、何よ。


   あの花も同じ名。


   けれど頭に“木”が付くわ。
   其れに全く違う花なのよ。


   細かいなぁ。


   貴女が大雑把過ぎるだけ。


   ま、良いじゃない、可愛い花なんだから。
   うん、蓉子と同じ。


   …。


   蓉子は直ぐに赤くなるね。


   …もう、諦めているから。


   でもそんな所が凄く可愛い。


   ばか。


   其れってさ、好きって意味でしょ?
   蓉子の場合。


   …ばか。


   うん。























   葵 ノ 言 ノ 葉 了