※聖蓉パラレルです。










   ごきげんよう。


   ごきげんよー。


   ごきげんよう、二人とも。
   気をつけて帰るのですよ。


   はい。


   はいな。


   それから。
   明天
〈アシタ〉はちゃんと自分で起きられるよう。


   勿論です。


   …努力はします。


   はい。


   では、また明…


   あ、然うだ。
   明天は咲くかな。


   然うですね。
   明天には咲くでしょう。


   あ、ご無理はなさらないで下さい。


   有難う。
   だけど大丈夫ですよ。


   けれど…。


   此の花が好きだったんだよね?


   ええ…。


   兎に角、お体を冷やしたら毒ですから。


   …然うね。


   くれぐれも暖かくなさって下さいね。
   特に夜は冷えますから


   相変わらず、世話焼きだなぁ。


   ええ、然うよ。
   それから其の言葉使い、いい加減に


   …くすくす。


   …?


   何?


   いえ、少し昔の事を思い出してしまって。
   さ、もたもたしていると日が暮れてしまいますよ。


   あ、はい。
   ごきげんよう、また明天。


   ごきげんよー、また明天。


   ごきげんよう。




















 ハ ル モ ニ ア




















   ごきげんよう、蓉子。


   …。


   それとも。
   久しぶり、の方が良いのかなぁ。


   …あな、た。


   ん?
   何?


   貴女は、本当に…


   佐藤聖と申します。
   ごきげんよう、水野蓉子さん。


   ……。


   なんて。
   忘れられちゃったかな。


   忘れるわけ、無いじゃない…ッ


   お…。


   忘れる、わけ…


   …。


   ずっと…ずっと、待っていたのよ。


   うん。


   今まで、何処をほっつき歩いていたのよ。


   色んなトコ。
   色んなモノを見てきた。
   だから話したい事がいっぱいあるよ。


   …。


   でも。
   本当に待っていてくれたんだね。


   当たり前じゃない。


   莫迦だなぁ、蓉子は。
   いつになるか、分からないのに。


   貴女に言われたくない。


   あはは。


   …。


   え、と。
   変わらないね、蓉子。


   歳を取ったわ。


   そらぁ、生きていれば歳も取るわな。


   貴女は変わらない。


   其れって成長してないってコトかしら?


   …。


   蓉子?


   貴女は出て行った時のままで。
   私は、私なんか…。


   …。


   見て、この手。


   綺麗な手をしてる。


   嘘言わないで。


   嘘なんか言わないよ。


   歳を取ったの。


   其れは私もだよ。


   違う、貴女はあの頃のまま。
   何も変わってない。


   蓉子もね。


   …みんな、もう居ないわ。
   誰も…然う、誰も居ないの。


   蓉子が居るじゃない。


   …。


   其れに、私も居るよ。


   居なかったじゃない。


   今は居る。
   蓉子の傍に。


   …そんな事言って。
   どうせ、直ぐにまた、居なくなるのよ。


   今度は居なくならない。
   蓉子の傍に居る。


   嘘吐き。


   ずっと、一緒に居よう。


   止めてよ。


   蓉子。


   来ないで。


   …。


   其れ以上、私に近寄らないで。
   私を、見ないで。


   …どうして?


   …。


   蓉子。


   …。


   蓉子。


   …貴女を待ってた。
   其れを苦だなんて、思わなかったけど。
   だけどいつのまにか私、おばあちゃんに、なっちゃったわ。


   …。


   手も、顔だって、皺だらけ。
   髪だって…貴女が褒めてくれた黒髪はすっかり白になってしまって。


   私の色だね。


   …なのに。


   …。


   貴女は昔の姿のまま。
   何一つ、変わってない。


   蓉子は、蓉子だよ。


   …。


   何も変わってない。
   あの頃のままだ。


   違う。


   何が違うの?
   貴女は蓉子じゃないの?


   私は…蓉子よ。
   だけど…


   私が愛した…いや。


   …。


   今でも愛してる。


   …ッ
   聖…ッ


   ただいま、蓉子。
   待っててくれて、ありがとう。


   ……。


   蓉子が此処に居てくれたから。
   私は帰ってこられた。


   …う。


   もう一度、言いたい。
   ただいま、蓉子。


   おかえり…なさい、せ…い。


   うん、ただいま。


   …。


   ね、そっちに行っても良いかな?


   …駄目って、言っても。
   来るのでしょう…?


   うん、行く。


   …ねぇ。


   なに?


   ……も、う。


   うん。


   何処にも…


   行かないよ。


   …。


   これからは、ずっと一緒に居よう。


   …本当に。
   何処にも…行かない?


   うん、約束する。


   …嘘吐きのくせに?


   じゃあ、誓いの口付けをするよ。


   え…。


   …。


   あ、や、待って…。


   …なんで?


   だって、私…。


   だって、何?


   …おばあちゃん、なのに。


   其れが何?
   先刻も言ったでしょう?
   蓉子は蓉子だよ。


   ……。


   顔、上げて。


   …けど。


   ほら、恥ずかしがりなとこは変わってない。


   …からかって。


   ね?
   顔、上げてよ。


   …。


   良く、見せて。


   ……そんなに、見ないで。


   ふふ、可愛い。


   …ん。


   …唇にも。
   しても、良いよね…?


   …聞かないで。


   ん…。


   ……んん。


   …。


   …聖。


   …うん?


   顔、良く見せて。


   うん、こんな顔で良ければ。


   聖…綺麗な、聖。


   蓉子も。


   …もう、何処にも行かないで。


   行かない。


   ずっと、傍に居て。
   私を一人にしないで。


   傍に居る。
   一人にしない。
   一緒に居よう。


   絶対、よ…。


   ん、絶対。


   聖、聖…。


   蓉子、愛してるよ。


   私も…愛してるわ、聖。


   もう、離さない。


   離さないで。


   ずっと、一緒だ。


   うん、う…ん…。








   ・








   落ち着いた?


   …うん。
   え、と、ごめんなさい。


   どして謝るの?
   私としては珍しく蓉子から抱きついてきてくれたから凄く嬉しかったんだけど。


   …もう。


   お茶でも煎れようか。
   喉、渇いた。


   あ、煎れるわ。


   良いよ。


   けど


   良いから、任せて。
   此の家の事なら良く知ってるし。


   …。


   だいじょーぶ。
   余計なトコには触りませんから。


   別に良いわよ。
   どうせ、何も無いから。


   ふむ。
   相変わらず余計なモノは無く、綺麗に整理整頓されてる。
   流石、蓉子さん。


   …棚に桂花茶があった筈よ。


   お、本当だ。
   でもそんな上等なモノじゃなくても良いよ。
   これで十分。


   青茶?


   そ。
   じゃ、ちょっくら待っててねー。


   ええ。















   お待たせー。
   熱いから気をつけて。


   有難う。
   …ん、美味しい。


   うん、其れは良かった。
   久しぶりだからどうかな〜と思ったけど。


   本当、久しぶりだわ。
   貴女が煎れてくれたお茶を飲むの。


   いつも蓉子が煎れてくれたからね。
   凄く美味しかったっけ。


   貴女が煎れてくれたお茶も美味しかったわ。


   然う?
   其れは光え、あつッ


   ちょ、一寸、大丈夫?


   はは、吃驚した。


   熱いから急いで飲んでは駄目よ。


   全くだ。
   あー、舌が少しヒリヒリする。


   ちゃんと冷やした方が良いわ。


   ん、そうする。
   ではちょいと失礼。


   …本当、変わってないのね。


   ん、何か言っひゃ?


   ううん、何にも。
   それよりちゃんと冷やさないと。


   分かってるってー。


   …。


   ただいま。


   て、早くない?


   だって蓉子さんを一人にしないって約束したばっかりだし?


   …。


   あり?
   反応無し?


   …ね、聖。


   んー。


   …やっぱり何でもない。


   えー。
   何其れ、気になるじゃんか。


   だって本当に何でもないんだもの。


   じゃ、何で呼んだのさ。


   …。


   よーこ。
   何を隠しているのかなー?


   か、隠してなんか。


   じゃ、言えるでしょ。
   さ、言ってごらん。


   …あ、あの。


   うんうん。


   …。


   何、大きな声じゃ言えない?
   しょーがないなぁ。


   そんな事、一言も言ってないわよ…。


   ほい。


   なに。


   耳を貸してあげる。
   これなら大きな声を出す必要無いよ。


   ……。


   さ、恥ずかしがらずに。


   ……あの、ね。
   ………。


   え、何?
   全然聞こえないよ。


   ち、近過ぎよ。


   だって聞こえないんだもん。


   だ、だから…。


   うん。


   ……い。


   もっかい。
   やっぱり良く聞こえない。


   ……嬉し…て、言…た、の。


   うれし?


   聖が居てくれて…嬉しい、な…て。


   …。


   ちゃ、ちゃんと聞こえるように言ったわよ。
   もう良いでしょ、離れ


   蓉子。


   な、なに…


   ごめん。


   え?


   其れ、反則。


   え、え…


   ぶっちゃけ、先刻からすっごく我慢してたんだけど。
   あーあ、無になった。


   ちょ、聖、な、何を…。


   駄目。
   もう我慢出来ない。
   無理、ほんと、無理。


   あ、聖…。


   蓉子が堪らなく欲しい。


   な…。


   良いよね。


   そ、そんなの…


   欲しい。


   だ、駄目…ッ


   …どしてよ。


   ど、どうして、て、だってお茶が未、だ…


   お茶なんて後でだって飲めるじゃん。


   さ、冷めてしまうわ。


   だったら煎れ直せば良いだけ。
   今はそれより…


   あ、や…。


   この家に帰ってきて、蓉子の姿を見て声を聞いた時から。
   正直、かなり、我慢してた。
   本当だったら直ぐに抱いてしまいたかった。


   ま、待って。


   嫌だ。
   言ったでしょ、もう無理だって。


   …ッ
   い、や…ッ


   蓉子。


   嫌、嫌よ…だって、私…。


   口付けはさせてくれた。


   …。


   何が嫌なの。
   もう、私に触れられるのは、嫌って事?


   …う、じゃない。


   じゃ、何?


   …見られたく、ない。


   何を。


   私は私だって、貴女は言ってくれたけど…だけど、私。


   ……。


   間近で顔や髪を見られるのも、凄く抵抗があったのよ…。
   なのに…嫌、嫌よ…。


   蓉子。


   いや、止めて…見ないで、聖…。


   …蓉子。


   こんな躰、見ないで…。


   ……。


   や、だ…。


   綺麗だ。


   嘘よ…。


   嘘なんか言わない。


   こんなしわくちゃな躰、何処が綺麗だと言うのよ…。


   …。


   見ないで…見ない、で。


   …私が欲しいのは。
   蓉子、なんだよ。


   …。


   蓉子が欲しいんだよ。


   いや…い、やぁ。


   ……分かった。


   ……。


   蓉子は。
   私が欲しくないんだね。


   …ッ
   違、う…。


   じゃあ、欲しい?


   …。


   はっきり言って。


   …欲しくないわけ、無いじゃな…い。


   欲しい?


   …欲しい、欲しいわ。
   だけど…。


   …良かった。


   あ…。


   やっぱ、続けるよ。


   せ、せい…。


   …実は、さ。


   …?


   黙ってたけど、私の夢なんだ。


   …え?


   夢。
   だから、何をしたって良いの。


   な、何を言っているの…?


   夢だから。
   想えば叶うんだよ。
   勿論、蓉子は蓉子だから、蓉子以外の者にはなれないけれど。


   言っている意味が分からないわ、聖…。


   蓉子も、想ってごらん。


   …。


   心の底から、私が欲しいって。
   そしたら叶うから。


   ま、待って。
   叶うも何も、聖は今、私の上、に…。


   うん、そうだね。
   でも足りない。


   た、足りない…て。


   ね、蓉子。
   今の蓉子、凄く可愛い。


   せ、聖…。


   肌も、昔のままだ。


   な、何を言っ…て。


   ほら、ね?


   …。


   蓉子、良いよね?


   …良くない。


   どしてさ?


   ずるい。


   うん?


   こんなの、ずるい。


   ずるい、かな。


   ずるいわ。
   これをずるいと言わないで何と言えば良いの。


   うーん…。


   聖のばか。


   あらら。


   聖のばか、ばか…。


   …昔から、ですから。
   今更、仕方ないよねぇ。


   ……て。


   …。


   抱いて、聖。


   …ん。


   聖が…欲しい。
   たまらなく、聖が、聖だけが…。


   …久しぶりだから。
   加減、出来ないかも知れない。
   そしたら…ごめん?


   ……もう。
   ば、か…。








   ・








   春は野を駆ける風になり…


   …。


   夏は蒼く萌える海となり…


   …それ。


   旅の途中で。
   流浪人たちが、ね。


   …。


   …秋は七色に身を染めて


   …。


   冬は春を探す鳥になり…


   …。


   …あぁ、矢っ張り良いなぁ。


   …?


   こうやって。
   蓉子を腕の中に収めて、ぼうっとしてるの。


   …聖。


   ん…。


   いつか、覚めるの…?


   さめる…?


   さっき、貴女の夢って…。


   ああ。


   夢はいつか、終わる。
   然う、貴女が目を覚ませばこの夢は…。


   まぁ、然うだね。


   …そんなの。


   …いや?


   ……。


   ね、よう


   また、貴女はいなくなってしまうの…?


   …。


   私の前から。
   また…


   …。


   …約束、したじゃない。


   うん。


   ずっと、一緒に居るって。
   もう、何処にも行かない、て。
   約束したじゃない…ッ


   うん。


   ずっと、待ってた。
   ずっと、ずっと。
   そして貴女は帰ってきた。
   でもこれが夢だと言うのなら…


   …。


   夢が終わったら。
   私はまた、一人。
   貴女は居ない。
   この貴女の温もりも声も、全て…。


   …蓉子。


   そんなの…


   蓉子。


   …そんな…の


   泣かないで。


   …。


   これからはずっと、一緒だから。


   …夢だって、言ったわ。


   言った。
   其れは真の事だから。


   じゃあ…


   …。


   …言ってよ。


   …。


   お願い。
   覚めないと言って…言ってよ、せ


   そういえばさ。
   私、此処に来るまでに祐巳ちゃんと祥子に会ったよ。


   え…。


   あと、令と由乃ちゃんにも会った。
   4人とも相変わらずだね。


   何を言っているの、聖。


   それから、でこすけにも。
   人の顔を見るなり、さっさと行きやがれ異人、て言いやがった。


   …あり得ないわ。


   あと…志摩子と、乃梨子ちゃん…だっけ?
   元気そうにやってるようで良かった。


   そんな事、ありえないわ。


   みんな、変わってない。
   ああでも、知らない人が増えてたな。
   奇抜な髪型…螺旋みたいとでも言うのかな、でもって性格が少々きつそうな女の子。
   それからやたらに長身で髪の毛も長くて、前髪の分け方が蓉子と同じな女の子。
   あとはでこすけに見かけが似てて、雰囲気も何処と無く似てる女の子。
   蓉子、知ってる?


   …。


   みんな、と言うか螺旋頭の子と長身な子は祐巳ちゃん達と、
   でこすけに似てる子は由乃ちゃん達と、楽しそうに手を繋いで歩いてた。


   聖。


   でさ。
   あまりにも楽しそうに歩いているから何処に行くか尋ねたんだ。
   そしたらなんて答えたと思う?


   …。


   みんな、蓉子の家に行くって。
   蓉子に会いに行くって言ったんだ。
   満面の笑みで。


   そんな…。


   相変わらずみんなに好かれてるね、蓉子は。
   だけどさ、駄目って言っちゃった。


   だって、みんなは…。


   だって一番に逢うのは私だから。


   江利子だって。
   然う、つい此間〈コナイダ〉、私は江利子の葬儀に出たの。
   私が最後の一人だった。
   みんな、私達より若かったのに。


   譲れない、て。
   おかげで祥子には其れはもう盛大に怒られたっけなー。


   みんな、死んでしまったの。
   私は一人、残されたの。
   誰ももう、居ない。
   居る筈なんて、無い。


   蓉子。


   然う。
   聖、貴女だって本当は…


   綺麗な黒髪。
   ずっと好きだった。


   …。


   色んな人を見てきたけれど、此の髪よりも綺麗な人はいなかった。


   …風の便りで。
   貴女が死んだと聞いた時、私は信じられなかった。


   何よりも、宝の石よりも綺麗で。
   蓉子の髪に似合う笄〈コウガイ〉を探したんだけど、なかなか見つからなかった。
   お土産にするなら、て、決めていたのに。
   思えば…然う、私は臆病だったんだ。
   見つからないフリをしていただけ。


   信じられなかった、だから、ずっと待ってた。
   だって然うでしょう?
   貴女はいつもひょっこりと帰ってきたわ。
   何かお土産を持って。


   だけどやっと、見つけた。
   蓉子、コレを貴女に。


   然うよ、いつも豎子〈ジュシ〉のように笑って。
   私の心配なんて何処かにやってしまうように。


   蓉子、どうか受け取って。


   …お土産なんかより。
   私は貴女が居てくれれば其れで、其れだけで良かったのに。


   蓉子。
   ずっと言えなかった。
   今更、と思うかもしれない。
   けれど…。


   なのに…。


   蓉子、私と結婚しよう。


   …!


   どうか、私と。


   貴女は、どうして…


   …。


   何処にも行かないで、て私には言うくせに。
   誰にも縛られる、縛る事が出来なかった貴女。
   だからこそ、いつか貴女は…


   蓉子。


   …だから。


   結婚しよう、蓉子。


   ……だか、ら。


   好きだから。
   誰よりも貴女が好きだから。


   …………ああぁ。










   と、言うわけで。
   そろそろ良いかしら、良いわよね。










   ……え。


   はーい、ごきげんよう。
   江利子でーす。


   ……。


   あら、固まっちゃった?


   おい、でこすけ。


   あー?


   はえーよ。
   ちっとは考えろ。


   だってもう求婚したんでしょ?
   なら良いじゃない。


   未だ返事を貰ってない。


   どうせ答えは“是”〈ハイ〉よ。
   どれだけ待たせたと思ってるの。


   だけど蓉子からちゃんと聞い


   ごきげんよう、お姉さま。


   蓉子さま、ごきげんよう!


   あ。


   さ、祥子?
   と…祐巳、ちゃん?


   ごきげんよう、蓉子さま!


   あ、えと、ごきげんよう、蓉子さま。


   由乃ちゃん、に…令?


   ごきげんよう、蓉子さま。
   いつもいつもお姉さまがご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません。


   てかそもそも待たせすぎなんですよ、この佐藤は。
   あ、ごきげんよう、蓉子さま。


   志摩子に…乃梨子ちゃん…。


   ……あーぁ。


   みんな、外で待ってたのよ。
   あんたなんかに気を使って。


   だったらもう少し待っててくれても良かったじゃんか。


   もう散々待ちましたわ、待たされましたわ!


   然うですよ!


   お、おわ。


   毎度毎度、お姉さまを誑かして下さって…
   このろくでなし!


   ちょ、祥子


   ごくつぶし!


   祐巳ちゃ


   すけこましー!


   えと、へたれ?


   由乃ちゃんまで、てか其れ、令にだけは言われたか無いぞ。


   甘えたさん…かしら。


   令さまとは違った意味で、へたれ。


   …て、何、志摩子まで。
   と言うか乃梨子ちゃん…。


   宿六。


   いいかげん。


   おまけに、軽薄、でしょうか。


   ……て、おーい。
   私、君達の名前すら知らないんだけどー。


   総括すると。
   駄目人間、てところかしら。


   うっせぇぞ、でこすけ。


   …これは、どういう、こと。















   さて、と。
   佐藤いじりはここまでにして。


   いじんな。


   良いのかしら?


   は?
   何が?


   そのままで。


   …?


   いや、ねぇ。
   先刻から蓉子の悩ましい姿が目に入って、ね。


   …!


   白い肌が眩しいわねぇ。


   ちょ、何見てんだ!
   見るな!


   そんな事言ったって。
   目に入ってくるんだもの、仕方が無いじゃない。


   じゃあ、背けろよ!
   てか令の目がやたらに泳いでるのはそのせいか…!


   あ、いや…すみません。


   蓉子、とりあえず着物を…


   どうして、みんなが…。


   て。
   ああもう良い、私の後ろに隠れてて。


   良いじゃない、減るもんじゃ無し。


   減る!
   おおいに減る!


   は。


   うわ、鼻で笑いやがった。
   感じ悪。


   で?
   支度は出来ていて?


   は?
   なんの?


   なんの、て。
   祥子、祐巳ちゃん。


   …。


   …え、と。
   お姉さま。


   どうしても渡さなくてはいけませんの。


   祥子、そんな今更。
   折角みんなで作ったのに。


   令は黙ってて。


   あら。
   今になって矢っ張り嫌になった?


   …嫌と言うより。
   納得出来ないだけですわ。
   お姉さまの良人がよりにもよって聖さまだなんて。


   蓉子の仕合わせを。
   祥子は望んでいるのでしょう?


   …然う、ですけど。
   こんな方と一緒になって果たして仕合わせになれるのでしょうか。


   其れは私達には分かりかねるわね。
   結局は蓉子の心が決める事だから。
   ま、当の本人はいまいち、事態を飲み込めていないようだけれど。


   だから。
   来るのが早かったんだって言ってるじゃんか。
   少しずつ、説明していこうと思っていたのに。


   あんたらのいちゃこらが終わるのを待っていたら、明天になっても入れないわよ。
   結局、襲っちゃってる始末だし。


   んな事言ったって、仕方が無い。
   蓉子が可愛すぎるのがいけない。


   あーはいはい。
   惚気、有難う。


   聖さま。


   …。


   聖さまは…


   私は蓉子を愛しているよ。
   これは嘘偽りの無い、正直な気持ち。


   だったら何故もっと早くに


   全くだ。
   其の事で祥子に言われても弁明の余地は無いだろう。
   だけど。


   …。


   もう一度、言おう。
   私は蓉子を愛してる。
   これからはずっと傍に居るし、居て欲しい。


   ……。


   祥子。


   ……分かりました。
   祐巳。


   はい、お姉さま。


   …其れは?


   衣装です。
   みんなで作ったんですよ。


   へぇ、どれどれ。


   触らないで下さい。
   これは蓉子さまの衣装であって、聖さまのではありませんから。


   つか、私のは?


   ありません。
   今着てる其れで良いんじゃないですか。


   えー。


   蓉子さま。


   祐巳ちゃん…。


   一生懸命作りました。
   私は…あまり上手に出来なかったけど。


   ……これ、は。


   蓉子さまの婚礼の儀の衣装です。


   こんれ、い…?


   はい。


   と、言うわけだから。
   れーい。


   はい、お姉さま。


   志摩子。


   はい、江利子さま。


   着付け、宜しくね。
   丁度、服も脱いでいるようだから。


   其の前に体を清める方が先ですよ、お姉さま。


   ああ、然うね。
   コトもあったようだし。


   あ、いや、然う言う事を言ってるんじゃなく、て。


   いちいち顔を赤くしないでよ、令ちゃん。


   や、だって、由乃…。


   あいや、待て待て。
   話がどんどん進んで言っちゃってるけど、其の前にだな。


   何よ、万年すけこまし。


   …このでこすけやろう。


   で、何よ。


   ちゃんと返事を貰ってない。
   私は蓉子の言葉が欲しい。


   …。


   だから。


   だから?


   悪いけれどもう暫し、二人にさせて。


   本当に暫し?


   明天になってしまわないように努力はする。


   努力、ね。


   江利子。


   分かったわ。
   じゃ、然う言うことだから。
   みんな、気長に待つ事にするわよ。















   …。


   …。


   ……。


   ……。


   ………聖。


   うん。


   矢張り、これは夢なのね。


   私が然う言ったから?


   でなければ説明、出来ない。


   なんの?


   どうしてみんなが居るのか。
   しかも、


   しかも?


   みんな、若い頃の姿だったわ。
   然う、それこそ十代くらいの…


   そだね。
   でも其れは蓉子もだよ。


   私、思い出せるの。
   一人、一人のその時の顔が。
   …然うよ。


   …。


   祥子や、祐巳ちゃん、由乃ちゃん、令、志摩子、乃梨子ちゃん…瞳子ちゃん、可南子ちゃん、奈々ちゃん…そして、江利子…。
   みんな、みんな…。


   あれ、私は思い出してくれないの?


   …。


   あ。


   …思い出そうにも、知らないもの。
   だって、貴女…


   …。


   居なかった、じゃない…。


   あー、まぁ、其れは然うなんだけど。
   私が言ってるのは其れじゃ


   何処で、どう、してたの。
   誰と一緒だったの。
   誰に見送られたの。


   …。


   私の知らない人、知らない場所で。
   貴女は…


   逸る気持ちを抑えてた。


   え…


   喜ぶ顔、いや、困った顔をされるかも知れないけど。
   それから拒まれたらどうしようと言う、一抹の不安。
   いや、一抹なんてもんじゃない。
   本当は不安で不安で仕方が無かった。
   拒まれたら、屹度、立ち直れない。
   だけど蓉子の顔が見たかった。どんな顔でも良い、一刻も早く。
   然う、あと山を一つ越えたらってトコロまで来てたんだ。


   …。


   雨が降った。
   前も見えないくらいに。
   流石に歩くのは困難で、雨宿りをした。
   少し休んだら小降りになった。
   其れがいけなかった。


   …。


   我ながら間抜けだと思ったよ。
   莫迦みたいだ。


   …あぁ。


   不思議と痛みも感じなくて、ただただ、空を見上げてた。
   そして思った。
   蓉子に逢いたい、て。


   聖…。


   ひたすら。
   蓉子の顔だけを思い出してた。
   だけど、日頃の行いかな。
   それこそ、困ったような顔しか思い出せなかった。


   …。


   笑った顔が、笑った顔を思い出したかった。
   誰よりも美しかった…。


   …一緒に行けば良かった。
   何度、然う思ったか。


   …。


   だけど。
   帰ってこられる場所を守っていたかった。
   だって、思ったのよ。
   帰る家が無いのは、淋しいから。


   …。


   私が守らなくとも、みんなが居たのに。
   江利子は教えてくれていたのに。
   どうして私は…


   蓉子…。


   私は…怖かった。
   貴女に置いていかれるのが。
   それから、来なくて良いと、言われる事が。


   …。


   私は…私も、臆病者だった。


   蓉子。


   夢なら、どうか覚めないで。
   一人は、淋しい…。


   覚めないよ。
   私が然う望む。


   …。


   …でも。
   蓉子が望まないのなら…終わりだ。


   望まない筈、無い…。


   …。


   聖…?


   実は少しだけ、や、かなり複雑なんだ。
   此処に来たのは良いけれど…其れは蓉子の最期を望むのと同じようなものだから。


   ……。


   誰が、愛しい者の死を望むだろう。
   そんな悲しいこと、望んではいけない。


   …。


   ずっと一緒に居たい。
   居て欲しい。
   けれど…私はもう、この世には居ない。
   この世の人じゃない。


   結婚、しようって…言ったくせ、に。


   言った。


   其れは私を迎えに来たからなんでしょう…?


   …。


   やっと、迎えに来てくれたのでしょう…?


   ……蓉子。


   私、生きたわ。
   みんなより、長く。
   死を望むわけじゃない。
   けど…その時は必ず、来る。


   …。


   其れが今だと言うのなら、私は…。


   結婚、してくれる…?


   …答える前に。
   お願いが、あるの。


   …なに。


   この笄を貴女の手で…。


   …うまく、出来ないかも知れないよ。


   其れでも、良い。
   貴女の手で…さして。


   …うん。


   …。


   動かないでね。


   …えぇ。


   ………あ。


   …。


   どうしよう、手が震えてる。
   乃梨子ちゃんが言ってたとおりのへたれだなぁ、私。


   聖。


   …。


   ゆっくりで…良いから。


   ん…。


   ……。


   ……出来た。
   思ったとおりだ。


   …どう、かしら。


   良く似合ってる。
   良く似合ってるよ、蓉子。


   …ありがとう。


   其れで…返事、は…?


   ……決まってるじゃない。


   ちゃんと言葉にしてよ。


   …して、下さい。


   もう、一度…。


   結婚、して…。


   …喜んで。


   …。


   蓉子…。


   …あ、でも。


   へ…。


   どうしよう…。


   何が。


   私、貴女に贈る物が…。


   ああ。
   良いよ、別に。


   けど…。


   蓉子で十分。


   あ…。


   どんなものより、蓉子が欲しいから。
   だから何も要らない。


   だ、だったら、私だって聖が…。


   良いの。
   贈りたかったんだから。


   ん…。


   ね。


   ……も、う。


   ふふ。
   本当、良く似合ってる。


   ばか…。


   …蓉子。


   …。


   愛してる、愛してるよ…。


   …私、も。


   …。


   …ぁ。


   これからは、ずっと…


   だ、だめ…。


   …どうして?


   だって…あ、ん。


   …其の声、ゾクゾクする。


   せ、聖…。


   さっきのだけじゃ足んないよ。
   蓉子だって、然うでしょう…?


   …でも、だめよ。


   …なんでさ。


   みんな、待ってるわ…。


   待たせておけば良い。


   な…


   明天にならないようにはする。


   …助平。


   然うだよ。
   今更?


   でも、矢っ張り駄目。


   …。


   折角、みんなが来てくれているのに。


   …真面目だなぁ。


   貴女が不真面目過ぎるだけ。
   …其れに。


   ん?


   …聞こえる、じゃない。


   聞こえるって?


   …声、が。


   お望みならば、塞いであげるけど?


   …。


   ねぇ、蓉子さん?


   助平。


   二度目。


   …何にせよ、漏れてしまうから嫌。


   まぁ、確かに。
   でも、良いじゃない。


   良くないわよ、ばか。


   可愛いなぁ。


   兎に角、駄目よ。
   今は我慢して。


   今、は?


   …。


   今は、と言う事は?
   後でなら良いって事だね。


   …。


   後でなら、沢山しても良いんだね。


   そんな事、言ってない。


   でも。
   今じゃなければ良いんでしょ?


   …。


   ね、蓉子。
   然うだよね。


   ……。


   てか。
   答えてくんなきゃ、今するよ。


   …然うよ。


   もう。
   耳まで真っ赤になってー。


   ……せいのばか。


   …。


   大体貴女、は…?
   ん、ふ…


   ……いいかげん、自覚した方が良いよ。


   な、なにを…


   然う言う声、然う言う仕草が。
   いちいち私を煽る、掻き立てるってコト。


   其れは聖が勝手、に…


   然うだけど。
   要因を作っているのは蓉子。
   責任は取ってもらわないと。


   其れを責任転嫁と言うのよ。


   自覚がさっぱり無い蓉子も悪い。


   そんな事言われた…て。


   …それでも。
   今は駄目、かなぁ?


   当たり前でしょう…。


   どうしても?


   どうしても。


   何があっても?


   何があっても。


   ……。


   聖。


   契り、交わしたい。


   ……あの、ね。


   …。


   …分かったわ。


   じゃあ、良い?


   だけど今は駄目。
   その代わり、ちゃんと約束するから。


   …。


   お願い、聖。


   ……立てなくしても、良い?


   …。


   蓉子。


   ……良いわよ。
   だけど、痛くしないで。


   …。


   あまり痛いのは…いや。


   うん、分かった。
   程ほどにする。


   約束よ。


   ん、約束。
   ……んふふ。


   …気持ち悪い。


   いやだって…ああ、どうしよう。
   すんごい、楽しみ…。


   ……とりあえず。


   んー。


   みんな、待っているでしょうから。
   起きないと。


   あぁ、そだね。
   起きられる?
   手、貸すよ。


   ありがとう。
   でも大丈夫。


   そ?


   ええ…


   そっか、残念だ


   …ッ


   …?


   つぅ…


   蓉子?
   どうかした?


   …別に。
   何でもないわ。


   ふぅん。


   さぁ、聖も起きて。


   うん。
   …。


   何よ。


   あの、さ。


   だから、何。


   いや、だからさ。


   …。


   若しかして…痛かった?


   ……。


   当たり?


   …いいえ。


   顔、顰めた。


   気のせいでしょ。


   痛いって言った。


   言ってない。


   近いような事を言った。


   …。


   思わず、だと思うけど。


   …大丈夫よ。


   私、乱暴だった?


   …。


   無理、させた?


   …無理なんて、してない。


   でも、痛かった…?


   …大丈夫だから。


   正直に言って。


   …。


   矢っ張り、痛かったんだ。


   …痛くないわ。


   けど。


   しつこいわよ。


   お…。


   …聖も言ってたじゃない。


   え、と?


   久しぶり、て。


   ああ。


   だから…少し、吃驚しただけよ。


   吃驚…?


   其の、からだ…が。


   …。


   だ、だって、本当に久しぶりだったから…


   驚かしちゃったんだね。


   ……。


   ごめんね?


   …何処に言ってるのよ。


   其れは勿論、蓉子の躰に。


   あ、こら…。


   ついでにお腹をさすってみたり。


   ああ、もう…。


   大丈夫、これ以上下には行かないから。
   其れはまたの次回にとっておきまっす。


   調子に乗らない。


   へへ。
   でもさ、ちゃんと感じてはいたよね。


   …。


   ふふ。
   私も鈍ってないって事かなー。


   莫迦な事言ってないで良いから。


   へーい、起きますよー。
   どっこらせーっと。


   …聖、それ。


   はは。
   つい、ねー。


   つい、ね。


   そ、つい。
   さて、ちょろっとでも身なりを整えた方が良いかな。
   そうそう、蓉子も其の格好でみんなの前に出ちゃ駄目だよ?


   分かってるわよ。
   ……あ。


   あ?


   な、何でも無い…ッ


   いや、何でも無くは無いでしょ。
   今度は何かな?


   本当に何でも無いから…ッ


   いや、どう見ても何でも無いようには見えないって。


   ほ、本当だから…


   …んー。


   あ、あの、聖?
   悪いけれど、そっちにある私の着物を取って…


   ふむ。
   どうやらこの敷布が怪しいと見た。


   だ、だ…


   あ。


   ……め。


   …えぇ、と。


   …。


   蓉子さん、つかぬ事を伺っても宜しいでしょうか。


   …。


   これは若しかしないでも、


   …。


   月、の…


   …違うわ。


   じゃあ…ひどく引っ掻いてしまった、とか?


   多分、違うと思う。


   でも痛みが…


   …其れは久しぶりだったから。


   でもじゃあ…あ、いや、待って。
   だって、いや確かに久しぶりだったけど、でも、そんな。


   …。


   え、え、えぇぇ?


   …吃驚しただけ、よ。


   そ、其れにちゃんとぬれもが


   其れ以上言わないで…!


   け、けどさ?
   初めての時は…


   …聖が知らないだけよ。


   然うなの?
   てか然うだったの…?


   ……。


   …う、わ。


   聖?


   いや、其の、何でも無い…。


   …顔、赤いけど。


   そ、それより。
   躰、本当に大丈夫なの?
   凄く痛くない?辛くない?


   …少し鈍い痛みがあっただけだから。


   其れってどうなの?
   本当に大丈夫だって言って良いの?


   あ、あぁもう。
   本当に大丈夫だから。


   本当の本当に?


   し、しつこいわよ。


   だって心配なんだものー。


   と、と言うか。
   貴女、いつからそんなに心配性になったのよ。


   だって私の可愛いお嫁さんになる人に何かあったら…あぁ!


   無理矢理した事もあったくせに…。


   其れは其れ。


   何よ、其れ。


   蓉子、痛いようなら無理しないで。


   平気だから。
   そんなに心配しないで。


   …。


   …ね?


   …分かった。
   んじゃ、こうしよう。


   …?
   え。


   抱っこ、してあげる。


   ちょ、ちょっ、と…


   良いから良いから。
   ここは一つ、聖さんにお任せあれ。


   腰を痛めるから良いわよ。


   うん、其の台詞は如何なものかと思う。


   だって


   はいはい、暴れないでねー。


   あ、せ


   よいしょ、と。


   ……。


   はい、腰は大丈夫。
   夢だから何でもあり、なんだなー。


   …あり、すぎよ。


   まぁまぁ、良いじゃんか。


   …お願いだから。
   このままみんなの前に出ないで。


   どして?
   良いじゃん、別に。


   嫌よ…。


   なんで?


   なんで…て。


   およ?


   …恥ずかしいからに、決まってるじゃない。


   恥ずかしい?
   そっかなぁ。


   然うよ。
   お願いだから止めて。


   折角、抱き上げたのにー。


   このまま立たせてくれれば其れで良いから。


   つまんないなぁ。


   江利子みたいな事、言わないで。


   いーや。
   アイツの場合はもっとタチが悪いから。


   今の私にしてみればこれも十分にタチが悪いわよ。


   蓉子さんの夢だったのに?


   は?


   実は憧れたりしてたでしょう?


   …してないわよ。


   ふーん?


   聖、ふざけるのも大概に


   ま、良いや。
   じゃ、行こうか。


   て、良くないわよ。


   ねー蓉子。


   下ろして。


   これからは久しぶりにならないようにしようね。


   は、何が、と言うか下ろしてよ。


   勿論、夜の営み。
   夫婦の営みとも言う。


   …。


   あ、別に夜に限定しなくても良いんだけどね。
   朝でも昼でも夕方でも、私はいつでも無問題!


   ……。


   いっそ、毎天〈マイニチ〉でも良


   嫌よ、ばか。
   もう、下ろして。


   お、わ。
   蓉子、動かないで。


   下ろして。


   もう、そんな事ばかり言う素直で無い子には。


   …ひゃッ


   耳、噛んじゃうぞ?


   か、噛んでから言わないで。


   じゃ、舐めます。


   ひゃ、う…


   言ったよ。


   言えば良いってものじゃ…やぁッ


   んー、敏感。


   も、もう、許さないわよ…!


   て、そんな顔で言われてもなぁ。


   …。


   え、お、わぁ…ッ


   …人の事、言えない。


   よ、蓉子、くすぐった、い…よ!


   脇腹の一寸下あたり。
   昔から駄目なの、知ってるんだから。


   あ、や、やめ、て。


   じゃあ、下ろしなさい。


   や、やだもん、ね。
   ひゃはは。


   強情っぱり。


   ど、どっちが。


   聖が。


   蓉子が、だよ。


   聖よ。


   蓉子だって。


   聖に決まってるじゃないの。


   勝手に決めないでよ。
   てか、蓉子だって。


   聖。


   蓉子。


   聖だって。


   いや、蓉子だね。


   …。


   …。


   …。


   …ふ。
   ははは。


   何よ、何がおかしいのよ。


   蓉子と言い合うのも久しぶりだなぁ、て。


   こんな事で言い合いなんかしたくないわよ。


   じゃ、塞いで上げる。


   …ッ


   …なんて、ね。


   も、う。


   ははは。


   …ふふ。


   やっと、だ。


   ふふふ、何が?


   やっと笑ったね。


   なんだか、馬鹿馬鹿しくなっちゃっただけ。
   然うよ、これからも屹度貴女に振り回され続けるんだわ、私。


   嫌?


   嫌じゃないわ。
   寧ろ、上等。


   お、オトコマエ。


   覚悟しなさい。


   何のー?


   もう、離れてあげないから。
   何があっても。


   おう、望むところだー。
   蓉子こそ、覚悟しておけよ。
   私、自慢じゃないけど独占欲強いんだよね。


   知ってるわ。
   望むところよ。 


   お、やるかー。


   ええ、やるわよ。


   …。


   …。


   …は。


   …ふ。


   ははははは。


   ふふ…。


   …ねぇ、蓉子。


   なぁに?


   仕合わせになろう。


   仕合わせ?


   然う、仕合わせ。
   なりたくない?


   ねぇ、聖。


   うん?


   仕合わせに。
   一人ではなれない事を教えてくれたのは、貴女なのよ。


   私?


   然うよ。
   中には一人でも仕合わせだと思う人もいるでしょう。
   けど私は然うじゃなかった。
   不仕合わせな人生では無かったけれど、どうしても足りないものが一つだけあった。


   其れは私の事だと、自惚れても良いのかな。


   どうぞ。


   へへ、やたー。


   聖、聖は仕合わせになりたい?


   聞いているのは私なんだけど。
   まぁ、良いや。
   なりたいよ、蓉子と。
   と言うか、蓉子とじゃなきゃなれない。


   嬉しい。


   で、蓉子は?


   私もなりたいわ。
   聖と一緒に。


   ん、嬉しい。


   聖。


   蓉子。


   愛しているわ。
   何度言葉にしても足りないくらいに。


   愛しているよ。
   何度言葉にすれば全ての想いが伝わるのだろう。


   屹度、全てが正しく伝わる事なんて無いのだわ。


   屹度、ずっと足りないままかも知れない。


   だからこそ。


   それでも。


   私は紡ぐの。


   私は紡ぐんだ。


   貴女を愛している、と。


   貴女を愛しているって。


   仕合わせに。


   然う、仕合わせに。


   貴女と。


   なろう、蓉子。


   聖。


   蓉子。


   聖…。


   蓉子…。










   あーあー。
   本日は晴天なりー。










   …ッ


   …。


   邪魔するつもりは無かったのだけれど。
   放っておくと本気で明天になりかねないから。


   あ、いや、今、行こうと思っていたところなのよ。
   ね、聖?


   ちゅー、し損なった。


   せ、聖…ッ


   口付けならまた後でしてもらうから。
   まぁ、とりあえずそこら辺までにしておいてくれないかしらね?
   蓉子。


   え、江利子…。


   続きなら後で好きだけやれば良いわ、聖。


   言われなくとも。
   で、いつから居た?


   え。


   あら、今入ってきたのだけれど?


   言い方を変える。
   何処から聞いてた?


   聞いてたと言うより、聞こえたのよね。


   それで?


   聖が蓉子の躰を気遣っている辺りから。


   ……ッ


   あー、大丈夫よ。
   敷布なら新しいものに換えておいてあげるか


   え、江利子ぉ…ッ


   はい?
   何かご要望でもあるのかしら?


   よ、要望と言うか…出来れば、と言うか、触らな


   はい、無いのね。


   だ、だから……。


   蓉子、狼狽えすぎだよ。
   でこすけが余計面白がる。


   だ、だっ…て…


   それで、蓉子。
   二人だけの世界、堪能出来た?
   仕合わせになれそう?


   ………。


   真っ赤。
   本当に可愛いわね、蓉子は。
   生きた歳なんて関係無いわ。


   ……も、う


   おいこら、でこすけ。蓉子で遊ぶな。
   蓉子で遊んで良いのは私だけなんだ。


   でもね、堪らないのよねー。
   良い暇潰しにもなるし。


   ぶっ飛ばすぞ。
   よしよし、蓉子。
   しっかりと掴まってて良いからね。


   …。















   ギュゥゥゥゥゥゥ















   いぃぃたぁぁぁ…ッッ