わぁ、わぁぁぁ…! 祐巳、そんなに大きな口を開けて。 はしたなくてよ。 す、すみません。 けど、蓉子さまがあまりにもお美しすぎて……はぁぁ。 矢張りお姉さまには紅の色が良く似合いますわ。 有難う。 だけど…少し、派手ではないかしら。 そんなコト無いですよ! 良くお似合いです!! 祐巳の言うとおりですわ、お姉さま。 …然う? 本当にとても良く似合っていますよ、蓉子さま。 令。 これならば屹度、聖さまも見惚れる事間違い無しです。 ……然う、かしら。 全く。 なんだかんだ言いながら、着付け、結局ほとんど祥子がやっちゃうんだもんなぁ。 あら、当然じゃない。 蓉子さまは私のお姉さまなのよ。 お姉さまの祝い事に妹である私が何もしないでどうするの。 ま、其れも然うだ。 だけど追い出された志摩子の事も考えてよ。 良いのよ。 あっちはあっちで支度があるでしょうから。 あっちって、聖さまの? だけどお姉さま、聖さまの服は… あんな薄汚い身形でお姉さまの隣に立とうだなんて。 私が許しません。 薄汚いって。 小汚いと言った方が良いかしら。 祥子、蓉子さまの前で何もそこまで言わなくても。 だって本当の事では無いの。 いや、だからってね…。 ……。 蓉子さま? どうかなさいました? あ、いえ、何でもないのよ。 少しだけ、お顔が赤いようですけど…。 本当に何でもないから。 なら、良いのですけど…。 ねぇ、祐巳ちゃん。 はい? これ、みんなで作ってくれたと言っていたわよね。 はい! と言っても、令さまがほとんど作ったんですけど。 祐巳ちゃんはどこを担当したの? 私は袖の…この、小さな花の刺繍です。 だけど一寸、いや大分歪んでしまって…。 そんな事無いわ。 良く出来てる。 いえ、令さまと比べたら… だけど一生懸命縫ってくれたのでしょう? 私は其の気持ちがとても嬉しいの。 有難う、祐巳ちゃん。 は、はい…! みんなにもきちんとお礼を言わないといけないわね。 あ、そうだ。 刺繍と言えば。 ん、何? 刺繍の図案を考えたのは江利子さまなんですよ。 江利子が? 細かい形はお姉さまも一緒に考えたんですけど。 然う…。 一寸、令ちゃん! 未だなの?! こら、由乃。 声も掛けずにいきなり入ってきたら無礼でしょう? だって待ちきれないんだ…わぁぁ! 蓉子さま、綺麗!すっごく綺麗!! 有難う、由乃ちゃん。 私はもう、良いよ。 …。 志摩子ってば。 じっとしていて下さい、お姉さま。 だから良いって。 蓉子さまは屹度、とても素敵なお姿でお姉さまの隣にお立ちになると思います。 然うだろうねぇ。 うん、えらく楽しみ。 なのに。 お姉さまは御髪も梳かさず乱れたまま、と言うのはいかがでしょう? んー。 そんなにグシャグシャじゃないと思うんだけどなー。 ぶっちゃけた言い方をすれば。 小汚い、若しくは、薄汚いんですよ。 ふむ。 君は相変わらず辛辣だねぇ、乃梨子ちゃん。 グサっとくるよ? 本当の事を言ったまでです。 言われたくないのなら、ちゃんとした身形をしたらどうですか。 へぇへぇ。 可愛い孫に然う言われたら従うしか無いのかねぇ。 今更、おばあちゃん面しないで下さい。 白々しい。 白、だけに? くだりません。 時に。 改めてこう見てみると、乃梨子ちゃんも綺麗だよねぇ。 は、何がですか。 髪。 私が見てきた中でも二番目ぐらいの黒髪だね。 然うですか。 其れはどうも。 あれ、一番はって聞かないのかな? 聞きません。 いやいや、此処は聞くところだよ。 無駄な事です。 どうせ聞かなくても分かってます。 折角だから聞いてみない? 折角もくそもありません。 大体、変動するんでしょうが。 変動? 二番目。 会う女〈ヒト〉会うヒト、然う言ってるに違いないんです。 ん、其れはやきもち? ンなわけ無いじゃないですか。 いい加減なコトを言っていると殴りますよ。 其れ、一番の人からも良く言われる。 と言うか、殴ります。殴らせろ。 おー孫が、孫が苛めるよー志摩子ー。 乃梨子。 …何、志摩子さん。 程ほどにしておいてね。 はい、程ほどにします。 て、おーー……いた。 程ほどにしたよ、志摩子さん。 はい。 お姉さまは引き続き、動かないで下さいね。 もう少しですから。 へーい。 あ、然うだ。 志摩子さん。 うん? あれ、どうするの? 矢っ張り用意した方が良い? ええ、お願いしても良いかしら。 でも、何だかなぁ。 乃梨子? 勿体無い気がする…んだけど。 あら、どうして? だって、こんな人だよ? 佐藤だよ? 乃梨子の言っている意味が良く分からないのだけれど。 とてもお似合いになると思うの。 特に蓉子さまと並んだ時は屹度、映えると思うわ。 だって。 白、だから? ええ、然う。 でも其れは志摩子さんの色でもあ て言うかさぁ。 一体、何の話をしてるのかな? 乃梨子、お願い。 …分かりました。 ん? どうぞ。 これ、何? 聖さまの、です。 私の? 見て、分からないんですか。 いや、分かった。 これ、志摩子が? いいえ。 私だけでは無いです。 だけど無いって。 細かい事はどうでも良いじゃないですか。 ま、其れも然うだね。 納得、早いですね。 ま、夢だから。 何でもあり、なのさ。 は? 其れではお姉さま、これより着付けをさせて頂きますね。 面倒だけど。 蓉子さまも屹度、お喜びになられると思いますよ。 うん。 じゃ宜しく、志摩子。 はい。 単純。 ・ お姉さま。 終わった? はい。 何処かきつい所は御座いませんか。 無いかな。 強いて言えば堅苦しくて、おまけに息苦しい。 其れは我慢して下さい。 一生に一度なのですから。 うん。 じゃ、行こうかな。 貰い受ける身としては先に行って待ってないと。 乃梨子ちゃんも準備があるだとかで一足先に行っちゃったし。 あの、お姉さま。 んー? どうか。 うん。 どうか、蓉子さまとお仕合わせに。 うん、有難う。 志摩子も。 はい、有難う御座います。 よし、今度こそ行くかなー。 はい。 馬子にも衣装。 どうも。 褒め言葉のつもりなのだけれど。 だから、どうも。 蓉子は? 未だ、よ。 おかげで退屈してたところ。 てかお前は何にもしないんだな。 したわよ。 だからもうしないの。 あー、そうかい。 志摩子は? 乃梨子ちゃんのトコ。 ふぅん。 興味無いなら聞くな。 聖。 あ? 馬子にも、衣装。 二度も言うな。 あんたのそんな姿、蓉子が見たらどう思うかしらね。 少なくともお前とは違う感想をくれる事を願うよ。 聖。 なんだよ。 馬子にも 三度も言うか。 だって暇なんだもの。 人で暇潰しするな。 暇潰しにもならないわよ。 あんたなんか相手にしたところで。 じゃあ、初めからすんな。 暇だから蓉子の様子でも見てこようかしら。 其れは許さん。 私より先に見るな、とでも? と言うかお前に先に見られるのは癪にさわ…て、こら。 …。 許さんって言ってるだろ。 だからって、人の頭を鷲掴みにするのは止めてくれないかしら。 じゃ、行くな。 どうしようかしら。 あんたなんか見てるより、蓉子の方が…あいたたた。 …。 馬鹿力を発揮しないで下さらない? 頭の形が歪んでしまうじゃないの。 だまれ、でこちん。 自分は置いていったくせに随分な態度ね。 …。 とりあえず、離して下さる? 帰ってくるつもりだった。 いつものように。 あんたが死んでも待ってるのよ? 健気、と言うより莫迦だわ。あそこまで行くと。 蓉子を莫迦呼ばわりするな。 自分はしたくせにね。 …。 はい、苦虫潰した。 本当、腹立たしいな。 今に始まった事じゃないでしょ。 お互い。 死んでも変わりなし、か。 は、笑い話にもならないな。 聖。 何。 今度は置いていくんじゃ無いわよ。 当たり前、だ。 あの、蓉子さま。 うん…? こんな事を私が言うのはおこがましいですが。 どうか、お仕合わせになって下さい。 おこがましいだなんて。 嬉しいわ、令。有難う。 蓉子さま! 屹度、いえ、絶対大丈夫です! 絶対、絶対、仕合わせになれます! ふふ、有難う。 由乃ちゃんに言われたら本当に然う思えてきたわ。 お姉さま。 祥子。 祈っております。 どうか、聖さまとお仕合わせに。 有難う、祥子。 末永くお仕合わせに、蓉子さま。 有難う、祐巳ちゃん。 あ、でも何かあったら直ぐに言って下さいね! お姉さまと瞳子と駆けつけて拳骨喰らわしてやりますから! 大丈夫。 それくらいなら自分でやれるから。 そ、それくらい、て。 さっすが、蓉子さま! 令ちゃんも見習ってよ! む、無理だよ、由乃。 由乃に拳骨を喰らわすなんて、私出来ないよ。 誰も喰らわせろなんて言ってないでしょ! 寧ろ喰らわすのは私の方なんだから!! え、えぇぇ? くす、令も相変わらず大変そうね。 そ、然うなんですよぉ。 あーもう! 直ぐにそうやってへたれるんだから! あ、や、痛い、痛いよ、由乃。 令ちゃんのばか!へたれ! よ、由乃ぉ…! はいはい。 二人とも、そこまでにして下さらないかしら。 由乃さん、落ち着いて。 今天は蓉子さまの晴れの日なんだよ。 あ、然うだったわ。 もう、それもこれもこんな良き日にへたれる令ちゃんが悪い。 全部、悪い。 ……うう。 でもまぁ、喧嘩する事は悪い事では無いと思うわ。 言い合う事も時には必要だと思うし。 時と場合にもよりますわ、お姉さま。 それに由乃さんのトコはほぼ一方的ですし。 まぁ、確かに… だから! 駄目だって言ってるだろうが!! あーもう、本当にけちね。 ちょこっとぐらい良いじゃないの。 ね…? 大体、良人である私より先に 未だ、なってないけれど。 あー!! ほんっと、むかつくな!! 一人でむかついてなさい。 じゃ。 あ、こら、でこすけぇ…! 何やら、外が騒がしいわね。 確かあの声は… …お姉さま、私、何か嫌な予感がし ガッシャーーーン…ッ おうわぁ…ッ ひ…ッ な、何事…?! …ま、す。 …。 いったぁ…。 …聖。 はーい、ごきげんよう。 …江利子。 支度、出来たかしら? と言うより。 何をしているの、二人とも。 何って。 親友である蓉子の様子を伺いに… 聞いてよ、蓉子! このでこすけ、駄目だって言ってんのに全然聞きやがらな… と言うか、何を考えてるの! 人の家の玄関、壊してくれて!! て、あらあら。 これは予想以上? ……。 一寸、ちゃんと聞いているの!? …うむ。 久々に喰らったわ。 …。 で。 どういう事なのかしら。 説明して頂戴。 私はただ、様子を見に来ただけ。 なのに拳骨を貰うだなんて、理不尽。 聖は? ……。 聖? 聞いてるの? …聞いてるよ。 ならば、此方を見なさい。 …見てるよ。 顔ごと此方に向けなさいと言ってい 面白くなかった。 は…? 先に見られるのが。 以上。 …。 言ったよ、もう良いでしょう。 じゃ、私は外で待ってるから。 待って、未だ話は 待って下さい、聖さま。 …何かな、祐巳ちゃん。 何か一言、無いのですか。 一言って。 蓉子さまのお姿を見て、です。 …あぁ。 綺麗だね。 これで良い? これで良い、って。 何ですか、それ。 蓉子、玄関の戸は後で直すよ。 あ、せ じゃ、また後で。 …い。 あら、さっさと行っちゃった。 しかし、ぶっきらぼうだったわねー。 …と、言うか。 何ですの!? あの態度は…!! 祥子、とりあえず落ち着いて。 手巾は引き裂かない。 私、とりあえずぶん殴ってこようと思います。 止めないで下さい。 ちょ、一寸、待った。 さっき、晴れの日だからって言ったのは祐巳さんだよ。 …。 蓉子? どうかして? いえ…何でも無いわ。 然う? 其の割には大分落胆しているように見えるけど? と言うより…少し、浮かれていただけ。 莫迦みたいね。 お姉さま…。 そんな歳でも無いのに。 本当、莫迦みたいだわ…。 …やっぱり私、一っ走り行って張り倒して だ、駄目だって、祐巳さん。 止めないで。 行かせて、由乃さん。 気持ちは分かるけど、駄目だって。 仕方が無いわねぇ。 て事で、どうする? 蓉子。 どうする…て。 今ならば、止める事も出来るという事。 …。 これは夢なのでしょう? 此処で終わる事を望めば、屹度、叶うわ。 再会して、想いを告げて、契りを交わして。 然う、全ては綺麗な夢の如く。 ……。 このまま進む? それとも終わりにする? 私、は… 其処の小僧。 …。 返す言葉も無い? 小僧じゃ、無い。 じゃあ、豎子〈ガキ〉。 …。 顔の火照りは取れたのかしらね。 ……。 ふむ。 未だみたいね。 …うるさい。 いい歳して。 青い春再来、と言うか、真っ盛り? あーもう、うるさいな。 放っとけよ。 其れが然うもいかないのよね。 は、なんで 奇跡なんか待つより。 其の手を繋ぎたいんだって。 …。 綺麗な夢のまま終わるより、そして、どんな現実が待っていようと。 今度こそ。 ……。 と、言うわけで。 …聖。 …蓉子。 花嫁の支度も整ったから。 乱痴気騒ぎを始めるわよ。 今更、やっぱ無し、は勿論無し。 …。 …あー、と。 じゃ、行こっか。 …うん。 とりあえず、ゆっくりで良いわよ。 今からが二人で歩む道の始まりになるのだ…けれど。 …。 …。 何と言うか。 今になって初々しいわね、貴女達。 疾うにお互いの躰は知っているのに。 寧ろ、知り尽くした感が うっさい、早く行け。 聖。 何だよ。 耳。 顔は治まったみたいだけど。 …ほっとけ。 蓉子。 …何。 耳。 聖の。 …知ってるわ。 だって、聖。 貴女の事となると本当、良く見てる。 呆れるぐらいに。 何が言いたいのよ。 有体に言えば、然うね。 良かったわね、てところかしら。 そんな風には聞こえない。 其れは残念。 残念そうにも見えない。 それから、蓉子。 …うん? せいぜい、お仕合わせに。 …有難う。 …。 何、聖。 言って欲しいの? 要らない。 あ、そ。 …ところで、江利子。 んー? 乱痴気騒ぎ、って何? 乱痴気騒ぎは乱痴気騒ぎよ。 分かんねぇよ。 知らない? 結婚なんてものはね、所詮、乱痴気騒ぎなのよ。 …。 …。 ……あ。 いや…? …じゃ、ないよ。 然う、良かった…。 蓉子。 …。 あの、さ。 …うん。 其の。 …。 あまりにも…綺麗だから。 …。 其の場で、抱き締めてしまいそうになった。 だから。 …聖、は。 …。 矢っ張り、其の色がとても良く合う。 …惚れ直した? …もう。 直ぐ然う事を言う。 だって。 私ばかりじゃ、平等じゃない。 …。 然う、思わない? 思わない。 釣れないなぁ。 …直すも何も。 …。 直しようが無いくらい、貴女だけなんだもの…。 …然う、ですか。 あー…。 聖…? 手、このままで行こうか。 と言うか、行く。 離したくない。 ん…。 ・ 久しぶりだな、此処も。 変わったように見える? いや、変わってない。 だからえらく懐かしく感じるよ。 それでも当時のままでは無いのよ。 いつかの嵐の日、雷が落ちて。 雷、ですか。 それでも大黒柱だけは残ったの。 奇跡に近いわ。 確かに。 細かいところまでは直せなかったけれど。 天井の犬だか猫だかに見えた染みとか? あと、柱の傷とか。 階段のギシギシ具合とか? 其れは一応、健在。 一応? 私達が居た頃の方がひどかった。 ま、味はあったけどね。 貴女が来ると直ぐに分かったわ。 愛、ですかね? 莫迦ね。 でも否定はしないわ。 でも、そか。 変わらないものは一つも無い、か。 だけどね。 館に集うみなの心はいつの時代も変わらない。 私は然う、感じてる。 其れは…私達の後継〈コウケイ〉も含めての事? 後継だけでは無いわ。 ずっと以前の先代達も、屹度。 自分が生まれる前の人の心なんて、分からんけど。 蓉子が然う言うのなら、然う言うコトにしよう。 後継の子達の心も分からない、とは言わないの? だって蓉子は後継である豎子たちの「老師〈ラオシ〉」だったんでしょ? …どうして。 私、未だ言ってなかったわよね。 へっへ。 聖さんは何でも知ってるのさ。 …大方、空の上から見てた、とでも言うのでしょう。 ま、そんなところ。 …。 だから、さ。 老師が言うなら、信じる事にする。 好きじゃなかったくせに。 愛しの蓉子ちゃんならば、話は別。 もう、調子が良いんだから。 …。 聖…? あのさ、蓉子。 なに? これ、夢なんだよ。 貴女の、ね。 だから何をしても良いのでしょう? うん。 でもね。 …? でも? 本当はね、蓉子の夢でもあるんだよ。 私の…? 純粋に私だけの夢だったら、多分、みんなは居なかった。 最期に思い出したのは蓉子だけだったからね。 だから、みんなに逢いたいって強く願ったのは蓉子なんだ。 勿論、私もみんなに逢えて嬉しかったけどさ。 …。 私よりも、とか少し思ったけど。 だけど其れも蓉子らしいのかな、て。 …ああ、だから。 だから? いえ、何でもないわ。 ね、覚めない事を願う? 願うわ。 本当に? ええ。 意味、分かって言ってる? 勿論。 ああ、だけど。 やっぱり、未練、ある? 未練と言うか。 あの子達に何も残さなかったな、て。 あの子達って、後継のコト? 近い将来。 若しかしたら、なんだけれど。 蓉子はおばあちゃんになっても、みんなの紅薔薇さまなんだね。 白薔薇さまがふらふらしてたから。 あはは。 違いな でもそんな貴女が好きだった。 い…。 好きだったの。 …蓉子さん、不意打ちは反則です。 不意打ちなんてした覚え、無いけれど。 …兎も角。 蓉子は何も残さなかったと言うけれど、そんな事無いと思うよ。 ? どうして? だって祥子や祐巳ちゃん、はたまた令や由乃ちゃん、へたすれば志摩子も、と言うか乃梨子ちゃんも名も知らない子達も。 みんなを見てれば分かる。 …私は分からないわ。 ま、張本人だしね。 何だか咎人みたいね。 然うだよ。 どこまでも自覚が無いなぁ。 …私、みんなに何かしたかしら。 例えば、私。 蓉子はね、私の心の中に居座った。 …。 同じように、みんなの中にも蓉子が居る。 ほら、残してないなんて事、無い。 人を重石のように…。 良いお新香が漬かりそうだね。 ご希望ならば糠床に漬けて上げるわよ。 それよりも蓉子の中に埋まりたい。 …。 ま、そんなわけだから。 後継の子達にも残ると思うよ。 何かしらの形、例えば言葉とかで。 …或いは重石のように? はっは。 もう。 ねぇ、蓉子。 話は変わるんだけど。 これ、どうかな。 これ…? 衣装。 どうにも、着慣れないもんで。 だったら私も同じよ。 初めてなんだもの。 と言うかさ、聞きたい事があるんだけど。 うん? 本当に然う言う話、無かったの? あったわよ。 ああ、然う…て、やっぱり? だけど、全てお断りしたの。 すっぱり? だって、私には聖が居たもの。 出て行ったのに? だけど別れの言葉は交わして無いわ。 貴女のが残したのは… 「行ってくる」、だっけ? 行ってくる、という事は。 帰ってくる、と言う可能性もあるでしょう? そのまま消えちゃう可能性もあるよ? 然うね。 だけど…貴女が帰ってくるかも知れない家に誰も入れたく無かった。 其れだけ。 ふぅん。 ねぇ、聖。 んー? 似合っているわ。 あ、何が? もう、貴女が聞いてきたんでしょう? あぁ、これ? 色は勿論だけど。 かっこい? ええ、格好良い。 惚れ直しては貰えなかったけど。 未だ言うの? 蓉子は綺麗だ。 え…。 今なら、良いよね。 …だめよ。 二人しか居ない。 貴女はみんなを待たせるのが好きなのね。 はは、然うかも。 然うかも、じゃないわよ。 然うだ、予行練習でもしとく? 予行? ちゅー、の。 みんなの前で失敗したらやじゃない。 …するもの? 分かんないよ? 勢いあまって、こう、歯と歯をぶつけ合うかも。 あれは…痛いわね。 でしょう? だから、ね? ただ単に貴女がしたいだけ、じゃなくて? 蓉子もしたいでしょう? 何でよ。 駄目? …息、が。 ね…? …一回だけ、なら。 十分。 ん…。 …。 ……。 …うん。 良い練習になった。 本当はもっとしたいけど、約束があるから。 …約束も然うだけれど。 今はそんな場合じゃ無いわよ。 はい、然うですね。 あ。 どした? みんなの声が聞こえるわ。 んー…あ、ほんとだ。 聖。 ああ。 じゃ、改めて。 お手を、蓉子さん。 はい。 行こう、蓉子! ええ…! 恭 喜 恭 喜 ! 恭 喜 你 們 結 成 百 年 之 好 ! 白 頭 到 老 ! 祝 你 們 永 遠 幸 福 ! ごきげんよう。 おー、ごきげんよー。 珍しく朝寝坊しなかったのね。 毎朝毎朝、貴女に起こされる私だと思ったら大間違いだね。 然う。 じゃ、是非とも其の調子で明天以降も自力で起きて欲しいものね。 で、ものは相談なんですけど。 実は私、 嫌。 ごきげんよう、老師。 あ、待ってよ。 …? おわ、と。 何、中に入らないの? 返事が返ってこないのよ。 返事? いつもちゃんと返してくれるでしょう? 聞こえなかったんじゃない? ほら、幾ら確りとしているとは言え老師も歳だし 貴女も挨拶をしてみて。 …へいへい。 ごきげんよう、老師! 今朝も良いお天気ですよ! …。 …ありゃ、本当だ。 これはアレだな、朝寝坊ってヤツかな。 老師を朝餉抜きの貴女なんかと一緒にしないで。 老師、入りますね。 だって作ってる暇が…て、待ってってばよ。 …。 ね、やっぱ寝てんじゃない? だから お、やっぱり今天〈キョウ〉咲いたんだ。 は? 庚申薔薇。 あ、本当。 綺麗だね。 ええ。 …あ。 今度は何よ。 写真、が…。 写真…? こんな写真、こんなところにあったっけ…? …いえ、多分無いと思ったけど。 写ってんの、誰だろう。 あ、こら。 これ、老師が若い頃の写真だ。 …あぁ、やっぱ若い時からきれいだったんだー。 老師だけじゃないわね、写っているの。 集合写真、かしら。 特にこの人が気になるんだけど、私的には。 老師の肩を抱いている? うん。 でさ、そのせいか知らないけれど、老師が凄く幸せそうに見えるのよ。 ほら、見ようによっては寄り添っているように見える。 確かに然うね……て。 今は写真を勝手に眺めている場合じゃないわ。 ……この人、どっかで見たことあるんだよなぁ。 もう、いつまで見てるのよ。 あだ。 もう、乱暴だなぁ。 老師、起きていらっしゃいますか? いっそ、寝室に入ってみる? …若しも何かがあったらどうしよう。 何かって何よ。 そんなの、やだよ。 私だって嫌よ。 だけどお年も召しているし、最近はご体調だってあまり 老師、ごきげんよう。 私、今天は珍しく自力で起きたんです。 何言ってるのよ、もう。 …ね、やっぱ返事ないんだけど。 ……仕方が無いわね。 老師、入りますよ。 ……。 ……寝て、る? ………。 どうなの…? ……。 え…。 …。 …。 ねぇ…。 …なに。 微笑んでいらっしゃるわ。 …うん。 私も思った。 屹度、幸せな夢を見られたのね…。 然うだね…。 …。 行こう、葵。 …何処に。 外へ。 今は邪魔をしてはいけないと思うんだ。 何の…いえ、然うね。 …蓮。 ん…。 老師は…蓉子さまは 屹度、写真の人が迎えに来たんだと思う。 だから。 …うん。 行こう。 ええ。 …ごきげんよう、老師…いえ、蓉子さま。 ごきげんよう、蓉子さま。 …。 葵。 …ん。 忙しく、なるね。 うん。 けど、大丈夫だ。 何処から来るの? その根拠の無い自信。 葵が居るから。 私? そ。 蓉子さま曰く、私達は未だ二人で一人ってとこだから。 不本意だけれど。 と、なると。 蓮が居るから、と返した方が良いのかしら。 無理は言わないけど? じゃあ。 これからはもっと確りしてね、白薔薇さま。 へいへい。 どうかお手柔らかに、紅薔薇さま。 「ハルモニア」 RYTHEM |