たいやきが食べたい。 急に降って沸いた欲求。 けれどもう、うちまではあと50メートルも無い道のり。 勿論、近所にたいやきやさんなどあるわけもなく。 一番近いお店は最寄の駅前。道のりは…普通に歩けば20分ぐらい。 今更、疲れた足をひきずって引き返すのは正直無理、と言うか、早くうちに帰ってゆっくりしたいと言うのが本音。 ふと今日を振り返る。 散々だった。 そう、散々だった。 今までもうまくいかない事はあった。寧ろ、うまくいかない事の方が多い。 学生の頃と比べたら。 あの頃は私を知っている人間が傍にいた。いてくれた。 だからこそ、出来た事がいっぱいある。今だから、分かる。 けれど今はあの頃のようにはいかない。そう、あの頃のようには。 世の中には色んな人間がいる。それこそ、馬が合わない人間だって。 意見が合う人間ばかりじゃ、無いのだ。 決して。 十人十色、そして、呉越同舟とは良く言ったものだ。 …ああ、でも。 たいやきが食べたい。 冷蔵庫には確か、チョコレートが入っていたと思うけど。 たいやきが、たいやきが食べたい。 今川焼きでも良いけれど、今はたいやきが食べたい。 クリーム、豆乳、白餡、仄かに甘い黒豆も良いけれど、今は小豆餡の気分。 甘くて、かと言って甘すぎず、温かくて、何だかんだ言っても安心する味。 やっぱり私は日本人なのよね。 ……ああ。 彼女に、聖に逢いたい。 逢ってその腕の中に…。 そんな、考えが取りとめもなくなってきた頃、私の部屋が見えてきた。 窓から明りが漏れる部屋が。 ………? どうして、明り? 今朝、消すのを忘れてしまったのかしら? いえ、それ以前に点けていない筈。 ………まさか。 でも、戸締りはきちんとした筈。 二回くらい、確認したはず。 ……けれど、うっかり寝ぼけていたなんて、 A t T h e B e g i n n i n g …。 はぁい、おっかえりー。 ……。 よーこ? おーい、だいじょうぶかー? …なんで? これ、使っちゃった。 ……。 なんかさ、一寸嬉しい気持ちになるんだよね。 これを使うと。 …どうして、今日? よっこに逢いたくなったv じゃ、だめ? ……。 結局さ、逢いたい気持ちが一番かな、なんて。 へへ。 ……。 さぁ、入って入って。 今日は遅かったね、疲れたでしょう? ご飯にしようしよう。 …。 本当はよっこの作ったご飯が食べたかったんだけど、でも、待っていても帰ってこないし、なら私が作っちゃえ、て。 だからね、明日の朝ごはんはよっこが作って?ね、ね? ……聖。 あ、勝手に冷蔵庫の中漁ったのはごめんなさい。 …。 さぁさぁ、早く入って入って。 私、お腹空いちゃった。 聖。 ん? …え。 ……。 ど、どうしたの? …。 蓉子? 蓉子さん? …聖。 …え、と。 …。 …何か、あった? …ううん。 ……うーん。 …。 とりあえず、中に入ろ? 個人的にはこのままでも良いけど、今の蓉子はうちの中に入ってゆっくりした方が良いと思う。 ね? ……うん。 あー…。 …。 そだ。 よっこ、良いもの見せてあげる。 ……? にしし。 なぁに…? けど困ったな、中に入らないと見せらんないんだ。 …。 ね? その為にも早く入ろ? …う、ん。 じゃーん。 …。 たいやき! 蓉子、好きだよね? …。 あ、あれ? 反応、無し? おかしいなぁ。 …聖。 うん? え…ぇ? 聖、聖…せい。 よ、蓉子? ……。 あ、あーと…。 ……。 いいこいいこ。 ……。 いや、いつも蓉子がやってくれるので。 ……。 …おかえり、蓉子。 お疲れ様。 ……ただいま、聖。 ふぅ。 …。 ああ、気持ち良かった〜。 …。 だけど今回も一緒に入れなくて残念だったな〜。 …。 ん、と。 よーこ、水貰ってもい? …どうぞ。 ありがと。 …。 …んー。 ……。 よぉーこ。 え、なに…。 何も言わないんだね。 …何も、て。 いや、いつもなら言うのにさ? ……。 おかしいなぁ。 …別に何でも無いわ。 いやいや、何でも無くないよ。 …。 ちみっと淋しいなぁ。 …さびし、い? だっていつもならお世話してくれるのに。 ……。 これこれ。 見て、何も思わない? ………聖。 中途半端、なんだけどな? あ、伝った。 ……。 今、見た見た? …はぁ。 どうしてちゃんと拭かないの。 わ、やっといつもの蓉子の台詞が出た。 今日と言う今日は拭いてあげないわよ。 えぇ。 良い大人なのだから、自分でちゃんと拭きなさい。 自分で拭いても気持ち良くないもん。 私は貴女のお母さんじゃ無いわよ。 あの人にそんな事して貰った覚えは無いなぁ、て言わなかったっけ? 物心付く前の事なら、覚えてないのは当然だわ。 だからノーカンだね。 聖。 蓉子。 あ、こら。 よーうこ。 濡れるから。 だったら拭けば良いんだよ。 あのねぇ。 へへ、蓉子、蓉子さん。 ……もう。 やた。 私、疲れているんだけど。 じゃ、拭き終わったら一緒に寝よ。 ちゃんと乾かさないと。 寝てるうちに乾くよ。 痛むわよ。 そん時はそん時。 そんなの、だめ。 短いから直ぐに乾くし。 そう言う問題じゃない、ていつも言ってるじゃない。 へへ、気持ちい。 …こんなに綺麗なのに。 勿体無いじゃない。 ありがと。 だけど蓉子のがきれいだよ。 良い匂いもするし… こら、動かないの。 て、今は同じ匂いだった。 …ほら、じっとしてて。 へへ。 ねぇねぇ、たいやき、おいしかった? …。 なんかね、人が並んでたからさ。 おいしいのかな、て思って買ってみたんだけど。 どうだった? あなたはどうだった? んー、甘かった。 あなたはいつも然う。 だから、蓉子に聞くんだよ。 私じゃ感想にならないから。 …おいしかったわ。 薄皮でパリっとしてて、餡子も甘すぎないし。 ほんと? わーい、良かった。 だけど、5つは買いすぎ。 それくらい食べられるかな、て。 無理。 じゃ、明日食べれば良いよ。 うん、そうしよう。 …はい、お仕舞い。 え、もう終わり? これ以上は拭き取れない。 そっか。 じゃ、仕方無い。 …。 よっこー。 …私、もう寝るわね。 え、ホントに? まだ9時ちょい過ぎだけど…。 ご飯、作ってくれてありがとう。 とても美味しかった。 明日は蓉子ご飯? ええ、そのつもり。 うん、良かった。 じゃ、寝よう寝よう。 聖は… 言ったじゃん? 拭き終わったら一緒に寝ようって。 …。 くっついてたい。 …枕 を、濡らさないようにする為に。 新しいタオルを一枚、貸して下さいな? ……。 じっとしてて。 …っ せ、い…っ いいから。 よく、ない…! じゃあ、自分で脱ぐ? 脱がないわよ…ッ じゃあ、やっぱり脱がせるしかないじゃん。 疲れてるって言ったでしょう…! うん、聞いた。 だから、サービス。 今夜はしない、したくないの! うん、分かった。 分かってないじゃない! 分かってるよ。 蓉子は疲れてる。 止めて。 止めない。 止めて、止めてやめてやめて…! 暴れないで。 離して…、離して…! うーん、これは困ったなぁ。 …やめ、て。 ねぇ、蓉子。 ……。 今夜はしたくないんだよね? ……そうよ。 あ、泣かないで。 …誰のせい、で。 やり方、間違えちゃったかな。 やり方って何よ…。 急に押し倒してきて…。 服を脱がそうとして? …。 でも初めから脱いで、って言ったら応じてくれた? ……理由をちゃんと言って。 素肌の方が気持ち良いから。 ……。 蓉子、いつか言っていたでしょう? 抱き合ってるだけでも気持ちが良いって。 ……。 躰の相性がばっちり、だもんね〜。 ……応じない。 ほらぁ。 兎に角、今日はしない。 だから止めて。 と言うかさ、するなんて一言も言ってないよ。 …。 いつ、言った? ……言ってはいない、けど。 でしょ? でもじゃあこの状況はどう説明するのよ。 こんな状態にされて、しません、と言われても納得出来るわけが無いでしょ。 けど、しないんだ。 ……。 まぁね。 本音を言えばセックスはしたいけど、疲れてる蓉子を無理矢理抱く程、今は切羽詰ってないから。 …。 蓉子が気持ち良くなきゃ、意味が無いのよ。 今は。 ……だったら、寝かせて。 うん、寝かせてあげる。 でもその前に。 …? よ、と。 な…。 シャツ〈コレ〉は、邪魔だから。 ………。 あ、違う違う。 本当にしないって。 …じゃあ何で脱ぐのよ。 邪魔だからに決まってるじゃない。 …邪魔って。 蓉子も脱いで? …いやよ。 じゃ、脱がしてあげる。 聖…! 若しも嘘を吐いたら。 別れても良いよ。 ……っ 今夜はしない。 約束する。 ……。 お願い蓉子、服を脱いで。 下着はそのままでも良いから。 …。 よーこ。 ……別れるって。 約束、破ったらの話だけどね。 ……。 ね、よーこ。 ……そんなの、いやよ。 んん? 別れるだなんて…そんな、こ、と…。 あ、ああ。 いやよ…、いや…。 い、いや、その何て言うのかな、例えと言うか。 ……。 あ、あー、ごめん。 例えが悪かった。 ごめん蓉子、別れる気なんて、これっぽっちも無いから。 全然無いから! ……。 ごめん、ごめんって。 ……ひっく。 ……あぁ、もう。 …せい。 ごめん、冗談でも言葉にするべきじゃなかった。 ……。 どうか、泣き止んで…。 ……せ、い。 …うん。 せい…。 お詫びにキスを一つ…。 ん…。 ……でさ、蓉子。 ……? 気持ち、良いと思うんだ。 ……。 素肌だと。 ……。 …今夜は本当にしないよ。 ……本当? うん。 ……。 ……目。 …ん。 赤く、なっちゃったね…。 せ…ぃ…。 明日、腫れちゃうかなぁ。 ……。 …ん、しょっぱい。 ばか…。 ん。 …。 ねぇ、蓉子。 ……。 …どうしても、嫌? ……る、なら。 ん、なに? ……優しく、してくれるなら。 …くれるなら? ……ぬが、して。 ……。 …な、に。 ううん。 …。 こんな蓉子、あまり見せてくれたこと無いから。 ……。 …優しくする、ね。 ……う、ん。 …ふふ。 …。 どうしようかな、て思ったけど。 …。 やっぱり、何も無い方が良いよねぇ。 ……下着はそのままでも良いって、言ったのに。 言ったけど。 邪魔なものは限りなく無しの方が良いじゃない? 例え下着みたいなちっさい布でもさ。 …。 んー…んふふ。 ……あまり見ないで。 と言うか変な笑い声を出さないで…。 いやぁ、だっていつ見ても綺麗なんだもん。 見るなって言う方が無理。 …あ。 すべすべだし。 ……しない、て。 うん、今夜はしない。 だから、 ……。 軽く、触るだけ。 …ぁ。 …なんだけど。 そんな声を出されちゃうと、気分が。 …。 そんな目で見られても、なぁ。 逆効果だって。 ……。 …だけど。 我慢するよ、約束だからね。 ……。 さぁ、寝よっか。 ……。 ん、実は残念だったり? ……ねぇ。 ん、何でしょうか? 蓉子さま。 ……。 …なぁに、蓉子。 ……眠るまでで良いから。 何だったら朝まででも良いよ。 …それは無理だと思うわ。 蓉子の為なら頑張るさね。 出来るだけ。 …。 で、なぁに? ……だきしめてて。 それだけで良い? …? キスは要らない? おやすみの。 ……。 良く眠れますように、て。 ……。 …欲しくない? ………ほしい。 …。 …。 …蓉子。 …。 …おやすみ。 また、明日。 …。 ・ …。 ふ…。 ん? ……せ、ぃ? あ。 …。 蓉子? …せい。 …ん、と。 ……。 明るかった、かな。 ……。 寝るのには一寸、早かったから。 本を…と思ったのだけど。 せい…。 蓉子、思いの外寝付くのが早くて…さ? ちなみに今、10時にもなってない。 …。 …ごめん? ……。 お…。 …。 …ふふ、今日は本当にいつもと反対だ。 …? え、なに? …いや、だった? …。 …だったら えい。 …っ? うん、吃驚した。 ……。 ふふ、鳩が豆鉄砲喰らったような顔って今の蓉子みたいな事を言うのかな。 ……。 じゃ、もう一回。 ……ん。 …吃驚した? …しない。 やっぱ二回目は駄目かー。 …いわれれば。 だよね。 じゃ、このままで居よう。 …。 …ね、蓉子。 …。 きもちい? ……。 …しかし、あれだね。 …な、に? コクン、て。 言葉無くただ頷かれるのってさ、場合によっては凄いクるよね。 ……。 特に、今。 ………せい、は。 さて。 そろそろ本格的に寝ようかな、の、前に。 あ…。 ちょっくら せい。 ん? ……。 …なぁに、直ぐ戻ってきますよ。 お姫さま。 …。 だから、お布団の中に入ってて。 大人しく、ね? ……。 ほら。 …せい。 全く、仕方ないなぁ。 ……。 …よしよし。 ん…。 …。 …? とぅ。 …っ。 しし、またもや奇襲成功。 …。 直ぐ、だから。 …。 そしたら。 今度はコツンするだけじゃなくて、ぐりぐりしちゃうもんね。 ……おでこ? そう、おでこ。 ……て、きてね。 …。 すぐ…に。 ……任せて。 …。 よーこ。 …。 ただいま。 …。 およ? ……。 よーこー、聖さん帰ってきたよー? …。 よーこ、よーこさん。 …。 よーっこ。 ……。 まさか、寝ちゃった? …。 お。 ……ばか。 待たせちゃった? …。 でも寝る前に水分補給も大事だし、ね? ばか。 へいへい、今直ぐ傍に行くからねー、 …。 と! …ぁ。 にしし、ぬくいね? …。 さ、おいでおい…で。 ……。 ……。 ……せい。 …。 せい…。 ……蓉子。 …。 …落ち着く? …。 それとも、落ち着いた? …きもち、いい。 でしょうでしょう? せいのはだ、あたたかい。 お子ちゃまだからねぇ。 …。 でも、蓉子もあったかいよ? と言うより、熱いかな。 普通の時より。 …。 …近いでしょ? …。 付き合い、長いしね。 蓉子の躰の周期は分かってるつもり。 …。 …だから、良いんだよ。 …なんのはなし? さぁ、何でしょう? ……。 まぁ、あれだ。 お腹が空いてる時はご飯を食べる。 眠い時は寝る。 それで良いじゃんね? …。 さて、と。 電気、消すね。 …じぶんのみたいね。 まぁね。 ……。 じゃ、改めておやすみ。 ……。 ……。 ………せい。 ……んー。 たいやき、ありがとう…。 どーいたしま…そだ、忘れてた。 …? 今度さ、一緒に行こうよ。 たいやきやに。 ……いい、けど。 と言うのもね。 お持ち帰り出来ないたいやきってのがあってさ。 何でだと思う? ………。 はい、時間切れ。 答えは冷たいから、でした。 ……。 アイスみたいなもん、て言えば分かりやすいかな? …あぁ。 冷たい生クリームが入っててね、その場で食べないとたれちゃうんだってさ。 確か抹茶のクリームってのもあったかな。 勿論、冷たい餡子ってのも入ってるよ。 ……。 気になる? ……。 じゃ、聖さんが買ってあげる。 …じぶんで 良いから良いから。 …いいわよ。 良いんでしょ? しゃ、問題無いね。 そうじゃなくて。 あれこれ考えるのは思考回路がスムーズに動くようになってから。 ……せい。 今夜は甘えてて。 ……。 疲れてる時は、何にも考えないで甘えるのが一番良い。 ……け、ど。 て、蓉子さんが教えてくれました。 言葉じゃなく、躰で。 …。 具体的には… んん…。 ……。 ……はぁ。 …こんな感じで。 …。 …さ、本当に寝よっか。 …うん。 おやすみ、蓉子。 おやすみなさい…、せい…。 後 |