たいやきやが目に入ったから。 正しくは蓉子の部屋に行く途中に、たいやきやに並ぶ人を見たから。 そこで脳裏に過ぎったのだ。 蓉子が嬉しそうにたいやきを食べる姿が。 甘いものが大好きな蓉子。 疲れ気味の時、殊、アレの前の時なんかは特に。 そしたら居ても立っても居られなくなって。 普段だったら列に並ぶなんて面倒くさいこと、しないんだけど。 と言うか並んでまでも買って食べたいと思うものなんてぶっちゃけ、無い。 それはたいやきに限らずとも。 けど。 蓉子の嬉しそうな顔が見たい。 蓉子に逢いたい。 蓉子に触れたい。 蓉子を抱き締めたい。 蓉子とずっと一緒に居たい。 蓉子とずっと、ずっと、生きていきたい。 あんたは蓉子がいないとてんでだめね。 以前、腐れ縁である江利子に指摘された事。 分かっている、自分でも自覚している。 蓉子がいないとだめなんだ。 気持ちが不安定になるんだ。 そう、いとも容易く。 そんな私でも気が付いた事がある。 蓉子だって一人の人間だと言う事。 そんな当たり前の事、今更かもしれないけれど。 かと言って蓉子は天使だなんて、そんな事を思っていたわけじゃない。 ただ、蓉子は強い人だ。 今も昔も。 そしてそんな強さをあまり好きでない事も。 無理をしている蓉子の姿は見たくない。 だからせめて私の前だけでは。 いつから、そう思えるようになった。 思えるようになったのは多分、蓉子のおかげなんだろうけど…。 たいやきを買った理由もそこにある…自信はあまり、無いけれど。 …ねぇ、蓉子。 そろそろ限界、なんだ。 蓉子は…蓉子も、そう思ってくれていたら… ……。 聖。 ……。 聖。 ……。 聖。 ……。 おはよう。 ……あさ? ご飯、出来てるわよ。 ……。 私のご飯、食べたいって言ったでしょう? ………うん、いった。 先ずは顔を洗ってきて。 ……。 今、起きてくれないと。 一緒に食べられない事になるのだけど。 …おきる。 はい。 へへー。 にやけてないで、早く食べなさい。 蓉子のごはんー。 もたもたしていると。 私、先に行くわよ? やだ。 じゃあ、食べたら? うん。 いっただきまっす。 はい、召し上がれ。 味噌汁、久しぶりだなー。 この間も作ってあげたけど? もう一週間も前じゃん。 食べたければ自分でも作りなさい。 蓉子の味噌汁が好きなの。 蓉子のじゃなきゃ、ダメなの。 はいはい、それはどうもありがとう。 熱いから気をつけてね。 あっつ。 言ってるそばから。 でも、やっぱ美味しいなー。 しあわせー。 …あまりゆっくりしてる時間は無いのだけど。 あー、食べた食べたー。 しゃ~わせ~~。 私、行くけれど。 聖はどうする? もう行くの? ええ。 これでも電車を一本ずらしたのよ。 それでも余裕なんでしょう? ええ、勿論。 ふーん…。 それとも。 戸締り、お願いしても大丈夫かしら? 蓉子さぁ。 手短にお願いね。 仕事、休んじゃなよ。 ……。 怒った? 言葉の意味を教えて。 そのままの意味。 ……。 怒った? …理由は? 理由なんて、必要? 当たり前でしょう。 理由は必須だわ。 じゃあ、用があるから。 用? 私の。 ……個人的な用事だったら。 仕事が終わった後にして頂戴。 まぁ、後でも良いけど。 それが社会人としてのルールだわ。 だけど、そしたら私は今日一日もやもやした気分でいなきゃいけなくなる。 …どういう事? 蓉子さ。 何よ。 今朝はもうすっかり、蓉子に戻ったね。 …はい? 昨日は珍しく弱っていたのに。 ……。 詳しくは聞かない。 蓉子が話したいと思ったら話せば良い事だから。 …今、言うの。 話したいのであれば。 ……私、行くわ。 蓉子。 ……聖。 行かないでよ。 今日は。 …離して。 仕事と私、どっちが大事? そんな安っぽいドラマのような事を言って。 困らせないで。 ……。 聖。 私達はもう、学生では無いのよ。 然うだよ。 …っ せ… もう、学生じゃないんだよ、蓉子。 ……。 蓉子、言ったよね。 ……。 例えば、さ。 聖、時間が…。 蓉子が昨日のように疲れて帰ってきたら。 私がベッドの中で抱き締めてあげる。 いつも。 …。 でもって蓉子も抱き締めて欲しい。 …。 忙しくて擦れ違う事も屹度あるけど。 でも、 聖 蓉子、結婚しよう。 ……。 もう、私達は学生じゃない。 結婚は出来ないわ。 私達は同性同士なのだから。 法的とか、そんなのはどうでも良いの。 問題はそこじゃない。 …。 蓉子。 これからは私が… …分かったわ。 けれど続きは帰ってきてからにしましょう。 行かせない。 返事を聞くまで行かせるわけにはいかない。 聖、いい加減になさい。 ……。 これ以上、困らせないで。 貴女も一人の社会人ならば、分かる筈でしょう。 ……。 私、もう行くから。 ……ちぇ。 …。 昨日の蓉子だったら、良い返事が貰えたかな。 ……で? やっぱり、言質を取っちゃえば良かった。 …。 私はずるいんだよ、蓉子。 ……行くから。 もう、待てないよ。 …。 待てないんだ。 …。 …もう。 ……聖。 …私は弱くて。 みっともない姿だっていっぱい見せてきた。 え…? 今だって駄々を捏ねているただの餓鬼だ。 …。 いつまでも甘えたで、蓉子にしてみれば手の焼ける…頼りに出来ない人間だろう。 けれど。 …。 それでも私は。 蓉子を…強さが嫌いな蓉子を守りたい。 …。 …おこがましい事かもしれない。 到底、叶わない事かもしれない。 でも 待ち合わせを、しましょう。 ……。 たいやきやさん、連れて行って。 …どうして今言うの、それ。 冷たいたいやき、買ってくれるのでしょう? ……言ったけど。 ね、連れて行って? …。 聖。 そんな事より、私は。 ……。 ずっと我慢した、卒業するまでずっと。 卒業すれば終わると思っていたのに、なのに…。 …。 終わりが見えない。 ねぇ、いつになったら良いのだろう。 ねぇ蓉子、教えてよ。 ……たいやきを買ったら。 蓉子…! 一緒にまたこの部屋に帰ってきて、聖。 帰ってくるだけじゃ嫌だ。 じゃあ、私が聖の部屋に帰るわ。 だから… …ねぇ、聖。 ぅ…。 帰ってきて、また。 ……。 それから、話しましょう。 これからのこと。 ……これから、の。 聖の部屋と私の部屋、或いは新しい部屋、どれでも良いけれど。 そうね、私は聖の匂いのする貴女の部屋が好きだわ。 …。 だけど今は仕事に行かないと。 貴女も。 ……。 仕事が終わったらメールするわ。 ああでも、貴女ったら気付かなかったりするのよね。 返事が平気で明日以降になったりするし。 …。 でもね。 今日のメールはお願いだから、気付いて。 ……う、ん。 …私達はもう、学生ではないけれど。 社会人の一人だから。 …。 生活の為には先立つものも必要だわ。 貴女との生活の為に。 ……私は蓉子が居てくれれば良いよ。 私もそうよ。 聖が居てくれれば多くのものなんて望まない、要らない。 …。 けれど。 私は聖と生きたい。 これからも、ずっと。 叶うのなら、 …。 …若しも。 私が昨日のような状態になったら、聖に… ん…。 ……さぁ、本当に行かないと。 待って。 ……。 いってらっしゃいのキス、してない。 …。 私から。 ……くれる? 勿論。 ……うん。 ・ 蓉子、こっち。 …聖? 蓉子。 ごめんなさい、待たせてしまった? ううん、大丈夫。 でも 来てくれたから良いの。 …うん。 ね、今日はちゃんとメールに気付いたよ。 まさかとは思うけど。 ずっと携帯とにらめっこしてたわけじゃないわよね? そろそろかな~、て、思ってはいた。 …だめよ、他の事もちゃんとやらないと。 へへ。 蓉子、今日は早かったね。 ええ、誰かさんが待ちくたびれてしまわないように。 えへへ。 お夕飯はどうしましょうか? うちで食べたいな。 蓉子の手作りごはん。 はいはい。 けど、その前にたいやきやさん。 さ、行こ行こ。 ええ。 はい、蓉子。 ああ、ありが 溶けないうちに、どうぞ。 …一寸、待って。 ん? まさか、二つとも? どっちでも良いって言うから。 言ったけど。 二者択一で選べないのなら二つとも、ってね。 お夕飯前にそんなに食べたら だいじょーぶだいじょーぶ。 一つでもお腹いっぱいになるのよ。 うっそだー。 人を大食らいのように言わないで下さるかしら、サトーさん。 甘いものは別腹だと教えてくださったのはミズノさんなのだけれど。 別腹でも限りがあるのよ。 ま、大丈夫だって。 聖。 ほら、早くしないと溶け…あー。 え…あ。 包み紙から垂れる、垂れてる。 ティ、ティッシュ それよりとりあえず一個食べて。 もう一個は持ってるから。 でもスーツに 若しも付いちゃったらそん時はどこでも拭いてあげるから、早く早く。 …どこでも? 問答してる暇は無いって。 ああ、もう。 はい、ナイス食いっぷり。 …。 その間にもう一個の方をティッシュで…お、あったあった。 ……珍しいわね。 パチ屋の前できれいなおねーさんにもらった。 ……。 ま、顔なんて覚えてないけど。 どーでも良いから。 …。 それよか、おいし? …ええ、冷たくて甘くて。 蓉子さん好み? ……ええ。 ふふ、良かった。 えと、そっちは… 抹茶クリー…聖。 ん? 垂れてる。 お? おー?! もう、聖が食べちゃいなさいよ。 でもこれは蓉子の そんな事言ってる間にも染みて垂れてるから。 わー…! 聖。 …。 聖ってば。 …。 いつまで不貞腐れているの? …蓉子にあげようと思ったのに。 私は貰ったわ。 小豆のも蓉子のだったのに。 だって溶けてしまったんだもの。 私は抹茶のを食べ終わってなかったし。 蓉子が甘いのを仕合わせそうに頬張っている顔、見たかったのに。 …見たじゃない。 見てる暇、無かった。 手、あっと言う間にベタベタになってたものね。 ……。 もう、聖ってば。 …手、ベタベタ。 そうね。 だから早く帰って洗いましょう? ……。 聖、ほら早く。 ……汚れるよ。 だから洗えば良いじゃない。 ……。 それとも嫌だったかしら? …嫌じゃない。 良かった。 蓉子、蓉子さん。 うん? 抱き締めたい。 それは却下。 手、洗ってから。 その後はお夕飯の支度。 手伝ってね。 お酒は? たまには飲む? どうしようかしら。 言っておくけど。 酔わなくてもするよ、エッチなコトは。 ……。 ま、飲んでも酔うほど飲まないけど。 …往来で、何て事を言い出すの。 言っておこうと思って。 本当は昨日もしたかったんだ。 ……。 知ってる? 私ってね、蓉子分が足りなくなると死んじゃうんだよ。 蓉子分って。 何よそれ、私は栄養素か何かなの。 私の生きる糧。 …。 けど、これからは。 足りなくなる事、無くなるかな。 …さぁ。 それは分からないわね。 分からない? だって。 擦れ違う事はあるわ、屹度。 …でも、一緒のベッドで眠れるよ。 いつも、ずっと。 出張だってあると思うもの。 そしたら蓉子の服、だっこして寝る。 いや、それは… 付いていくより、良いでしょや? ……冗談に聞こえない。 ねぇ、蓉子。 帰らなくて、良いんだよね。 ? もう、違う家には。 …。 今日、明日、明後日、明々後日、一週間、一ヶ月、一年……叶うなら、一生。 一緒に眠って、朝はお早うって言って、夜はおやすみって言って。 そうやって、蓉子と。 …。 ねぇ、蓉子。 …その為に。 …。 これからの事、ちゃんと話さないといけないわ。 難しくしたら、やだな。 大事な事だから。 うん、分かってる。 聖。 ん? 未だ、確定したわけじゃないけれど…。 …。 帰りましょう。 うん、帰ろう。 私達の家に。 「At The Beginning」 Ridhard Marx & Donna Lewis …。 …ねぇ、聖。 んー…。 …あのね。 …うん。 …。 ねぇ、蓉子。 …。 話したくなったらで良いよ。 …。 蓉子だって人間だもの。 …。 感情が不安定になる時だって、あるさ。 …。 …ん、なに? ……ううん。 そう? …うん。 じゃ、続けるけど。 良いかしら? …続けて。 だから、さ。 そんな時は私が抱き締めてあげるんだ。 私はここに居るよって。 …。 蓉子のようには出来ないと思うけどさ。 …。 昨日みたいに肌を重ねて眠るんだ。 昨日…。 …蓉子、良く眠ってたよ? …だって。 だって? ……やっぱりいい。 言ってよ。 聞きたい。 …調子に乗るから。 うん、否定は出来ない。 …。 けど、聞きたい。 …。 ね、蓉子。 言って? …安心したのよ。 安心した? …繰り返さないで。 分かった。 じゃあ、さ。 …。 …今も安心してる? …。 してない? …聖は? 聞いてるのは私なんだけどなぁ。 …先に聞きたいの。 うん、してる。 …。 …蓉子は? ……してる、わ。 そっか。 ふふ、良かった。 …聖。 たまには、さ。 …。 セックス抜きも、ありにしようね。 …たまには、て。 そんでもってそんな日はさ、早めにベッドの中にもぐってゆっくりお話するの。 その日にあった事。 …。 ほら、こうしてる方が話しやすいコト、あるんじゃないかな、て。 …ばか。 うん? …。 よーこ…? …今夜はしたくせに。 そりゃあ…ね? …。 …眠い? …私はもっと話したいわ。 …。 あなたと…。 …じゃあ、あまり無理しない日も作らないと。 …あくまでも前提条件なの? 何が? …。 …ねぇ、何が? …もう。 嫌な性格ね…。 …だって聞きたいんだもの。 …いい歳して。 蓉子、あまりそういう言葉言わないから。 …。 …嫌い、じゃないでしょう? …。 ねぇ、蓉子…。 ……嫌いじゃないわ。 何が? ……貴女とするのは。 だから、何? …セックス。 ……。 ……何よ。 ううん…。 あ、こら…。 …ああ、もう好き。 好き…。 …もう。 …へへ。 …大体ね。 今更、じゃないの。 セックス? …そもそも嫌いだったら貴女とこうしてない。 あぁ、そだね。 …。 でも、さ。 …なに。 これからは好きなものは好きって。 言ってほしいな? …! ね? …調子に乗って。 へへ。 …。 …もう、寝る? …。 よーこ? …せい。 ん…。 ……ことがあったの。 …。 いやなことがあったの。 …うん。 わたしはどうしてもそれを…みとめたくなかった、のに。 …そっか。 …でも 蓉子はいつも頑張ってる。 頑張りすぎなくらいに…。 …そんなこと …あるよ? だって学生時代の頃からそうだもの。 …。 だけど、ね。 私はそんな蓉子が好きだから。 …。 けど。 …。 …あんまり頑張りすぎないで良いから。 私の前では…さ。 …。 あれ…外した? ……せい。 …ん。 …。 ね、気持ち良いよね? …。 肌。 ……うん。 明日の夜も一緒だよ。 …。 明後日も明々後日も。 ずっと。 ……。 ...I'll be there when the world stops turning, …。 I'll be there when the world ends. …。 ...With me? ...I wanna keep going, …。 I wanna keep living... …。 With you. …。 …。 …ふふ。 …やっぱりへんね。 …一つだけ、教えて。 なに…。 学生の頃、一度で良いから …ずっと思っていたわ。 だから頑張れた.…。 …。 …。 …話の続き、する? ……きいてくれる? もちろん。 ……ありがとう。 ...Life is a road, now and forever, wonderful journey. |