蓮、あのね。


   …。


   きょう…





   「こくわ!」





   …え。


   へっへー、かっこいーだろ。


   い、やぁぁぁぁぁ……ッ!!!


   うぉッ?


   やだ、やだ…ッ!


   なんだよ。
   こくわなんか、こわくねーじゃんか。


   とって、とって…ッ!


   なんだよぅ、ひとがせっかく…いてぇ!


   ……。


   たすけて、れん…たすけて…。


   いってぇな!
   なにすんだよ!!


   ……。


   あ!


   ……。


   おま、なにすんだよ!


   …。


   …れん


   ……。


   かたにのっけただけだろ!
   なんでなげんだよ!


   …。


   なんかいえよ、ちび!


   ……。


   な、なんだ…がッ!


   ……。


   あ…。


   いってぇ…ぁ。


   …。


   ……ち、だ。
   ちだぁ…ッ!


   …あおを。


   う、う……あぁぁぁぁぁんッ!


   なかした。


   いたい、いたいよぉ…ッ!


   ……。


   れ、れん…。


   ……。















  L I T T L E  B E A T  R I F L E















   「どうもすみませんでした」





   あー、話の分かる人で良かった。


   …。


   ねぇ、蓮君。


   …。


   ねぇ、葵。


   …。


   蓉子さんには…話さないとやっぱり駄目だよなぁ。
   うっかり忘れてたなんて言ったら、後でえらい怒られるだろうし。


   …。


   …。


   ところで、蓮君。


   …。


   葵は虫が苦手、と言うか嫌いだよね。
   だから肩にいきなりクワガタを乗っけられて吃驚した。
   おまけにとても怖かった。


   …。


   まぁね、気持ちは分かるよ。うん、分かる。
   私だって蓉子がそんな目に合わされたら、ましてや泣かされたなんて言ったら、怒る。
   …まぁ、蓉子は早々泣かないだろうけど。


   …。


   初めから、そんな事しなけりゃ良かった。
   だけどしちゃった、だからこんなコトになった。


   …。


   …ねぇ、蓮君。
   いつか、君に教えたよね。


   …。


   くまさん、君はちゃんと覚えてるよね?


   …。


   引っ張られたら痛い。
   腕が取れてしまったら、凄く痛い。
   それから。


   …。


   叩かれたら、痛い。


   …。


   …せいちゃん。


   ん?
   なんだい、葵。


   わたしが、蓮にいったの。


   うん。


   たすけてって、いったの…。


   …。


   だから、れんは…。


   然うか。


   わたしが、いわなければ


   …。


   ……れん。


   あお。


   ……ぅ。


   葵。


   ……。


   こわかった?


   …。


   ん?


   …せい、ちゃ…。


   蓮。


   ……。


   君は葵を守りたかった。
   守ろうと思う気持ちはとても大事だと思う。
   だから、そこは責めないよ。


   …。


   でもね、蓮君。
   痛いのは、あの子も同じなんだ。


   ……。


   君の手がたまたま鼻に当たって、たまたまあの子は鼻血を出しやすい子だった。
   けれど、痛いのにたまたまは無いんだ。


   …。


   …分かるかな?


   ……。


   さて。
   蓮、葵、今日は何が食べたい?
   暑いからカレーが美味しいけど、作るのはちときつい。
   ああ、ざるそばなんてどうだろ。


   …。


   …。


   君達は何が良い?


   …。


   …。


   んん?


   ……な、い。


   蓮君?


   …ごめんなさい。


   …。


   …。


   …。


   蓮、葵。


   …、ぃ。


   せい、ちゃ…。


   …よしよし。
   さ、早く帰ろうか。
   蓉子も帰ってくるよ。








   それで。


   ちゃんと言い聞かせた、つもり。


   然う。


   蓉子も何か言う?


   ちゃんと言い聞かせたのでしょう?


   痛いのに、たまたまは無いって。


   ならば私が言う事は無いわ。
   見たところ、反省しているようだったから。


   にゃあにゃあ言って、まとわりつかなかったね。
   いつもだと


   最近はあまり、言わなくなったわ。


   …。


   …。


   …淋しい?


   …さぁ、どうかしらね。


   大丈夫、私はいつまでも甘えただから。


   ばか。
   で?


   相手の子には怪我は無いよ。


   然う。


   ただ。


   ただ?


   投げられたクワガタには悪い事をした。


   …死んでしまったの?


   いや、大丈夫だったみたい。
   だけどクワガタには罪は無いでしょや?


   然うね。


   葵は全く駄目なのにねぇ。
   蓮君は結構、平気で。


   と言うより、葵の事だから余計なのよ。


   うん?


   …。


   蓉子?


   …あの子は葵の事となって初めて、感情が外に表れるような気がする。


   然うかなぁ。
   別に葵の事だけじゃないと思うけど。
   私に反抗するのも蓉子に甘えるのも、感情の一つじゃない?


   …。


   れ?


   …感情の抑えが利かなくて爆発する、の方が正しいのかも知れない。


   …。


   未だ小さいから…取り立てては気にしていないのだけれど。


   爆発…ね。


   思えば、くまのぬいぐるみの時も然うだったわ。


   やきもち、だね。


   あの時も…


   考えすぎじゃない?


   …。


   ま、確かに。
   シスコンの気はありそうだけどね、あいつは。


   …。


   それも蓉子、葵は貴女にそっくりだから。


   …茶化して。


   いやいや、そんな事は無いよ。
   そもそも葵は蓉子に似ているのを抜きにしても可愛いし。


   …蓮は?


   可愛く無い、なんて言うと思っているのかしら?


   …。


   同じくらい、可愛いよ。
   勿論、ね。


   …うん。


   と言うか無言で返されると地味にショックです、蓉子さん。


   ごめんなさい。


   ちゅー一回で許してあげる。


   …。


   ちゅー…


   …その子。


   むぎゅ。


   若しかしたら、葵が好きなのかも知れないわね。


   …は?


   ほら、良く言うじゃない?
   好きな子ほど苛めた


   許しません。


   …。


   却下、絶対却下。


   …貴女ねぇ。


   クワガタ乗っけて気を引こうとする男になんざ、やれません。


   …相手は子供なのだけれど。


   子供だろうが男は男です。
   駄目、絶対に駄目。


   親莫迦。


   良いの、親莫迦で。
   兎に角、誰にもやらないの。


   …本当、先が思いやられるわね。


   若しも連れてきたとしても。
   蓮と追い返してやる所存。


   …やりかねないわね、本当に。


   やるよ。


   そんな事したら嫌われるかも知れないわよ?


   葵はそんな子じゃありません。


   …。


   駄目なの。


   …もぅ。


   …。


   ん?


   ちゅー。


   ……。


   ちゅーう。


   ……。


   …よーこー。


   それで本当に済ませてくれる?


   …と、言いますと?


   今夜は狼の相手は出来ないと言う事。


   …。


   どう?


   ……だめ?


   だぁめ。


   …。


   聖。


   …じゃあちゅーだけで。


   …。


   …蓉子。


   ん…。


   ……。


   …?


   …ちゅーだけ。


   て、聖。


   …。


   だめだと…。


   ちゅーは唇だけにするもんじゃ無い…。


   …。


   …。


   …また屁理屈を言って。


   …。


   ん、聖…本当、に…。


   …これ以上は、やらない。


   これ以上って、貴女ね…。


   ……。


   ……ああ、もう。








   ・








   蓮。


   …。


   蓮、こっち。


   …。


   れ、





   「ドンッ」





   あ。


   ……。


   蓮…ッ!


   弟をなかしたのはおまえだろ。


   …。


   蓮、れん…ッ!


   おまえ、ちびのくせになまいきらしいじゃんか。


   ……。


   なんでこんなことするの。
   ひどい。


   じごーじとくだ。


   蓮、だいじょ…ぁ。


   ……。


   ち、ちが…。


   今回はこれぐらいにしてやるけど、こんどまたなまいきなことをしたらゆるさないからな。


   ……。


   れ、蓮…。


   おい。
   なんか、いえ


   …。


   あ。


   ……。


   お、おまえがちびのくせに弟をなかしたのがいけないんだぞ。
   それにこくわを…


   ……。


   な、なんだよ。


   ……。


   蓮、れん……ぅ。


   ……。


   お、おまえがわるいんだからな!


   ……。


   だ、だめ、蓮。


   ……。


   う。


   …あおを。


   は、はなせ…!


   なかすな。


   …!


   や、やめ


   ……。


   や、だめぇ…ッ!








   「蓮君?葵?」








   聖…!


   お、蓉子。


   蓮は?!
   蓮は大丈夫なの!?


   しぃ。


   は…?!


   寝てる、から。
   起こさないでいてあげて欲しいな。


   ……。


   やっと落ち着いたと思ったら寝ちゃったんだ。
   葵がね、ひどかった。


   …然う。


   怪我をしたのは蓮なんだけど…ね。


   …蓮の傷は?
   深くは無かったの?


   少し切ったくらい。


   でも血が


   目の上ってね、傷のわりに血がいっぱい出るとこなんだって。


   …縫ったの?


   いや、薬塗って絆創膏で止めてる。
   けど痕は残るだろうって。


   …。


   あれでも女の子なのにね。


   聖。


   ん、ごめん。


   …目は大丈夫なの?


   目じゃ無かったから。
   本当に良かったと思うよ。


   どうしてそんな事に…


   簡単に言えば、仕返しだね。
   鼻血出した弟の。


   だからって自分より小さい子を…。


   …ねぇ。


   ……。


   転んだ先にたまたま石があったみたいで。
   正直、状況から判断するしかなくてさ。


   でも蓮は


   手、出る子なんだけどね。
   今回は間に合わなかったみたいだ。


   …。


   ねぇ、蓉子。


   …なに。


   子供同士の事だから、口を出すつもりなんて無かったんだけどね。


   …。


   それでも、さ。
   ぶっ飛ばしてやろうかと、軽く思っちゃった。
   勝手な話だよね。


   ……聖。


   でも、さ。
   そのガキ、親に思い切り拳骨を落とされてね。
   ぴーぴー泣いてるのを見たら、もう良いかなぁって。


   然う…。


   流石にあれは出来ないなぁ、私。


   …蓮。


   泣かなかったんだ。


   え…。


   血を流しても泣かない蓮と、そんな蓮を見て泣いてる葵。


   …。


   痛いだろうに蓮は泣かない。涙一つ、落とさない。
   そんな蓮の代わりに葵は泣いてた。


   ……。


   ねぇ、蓉子。
   蓮が最後に泣いたのっていつだっけ…?


   …もう、大分昔のようだわ。


   そんな昔じゃないよ。
   未だ、七歳にもなってないじゃない。


   ……。


   …痕、残らなきゃ良いな。


   うん…。


   …。


   …。


   …さて、蓉子も来た事だし帰ろうか。
   蓮と葵、どっちが良い?


   …。


   じゃあ、蓮君をお願い。


   …ええ。


   仕事、大丈夫?
   途中じゃ無かった?


   仕事なんてどうにでもなるわ。
   然う、どうにでも…。


   …。


   …でも。


   大丈夫だよ、蓉子。


   …。


   …大丈夫。
   蓉子と私が居るんだから。


   ……うん。








   ・








   さぁさ、今日のお昼は冷麦だぞーぅ。


   …。


   …。


   薬味はほれ、この通り。
   好みので召し上がれー。


   …。


   …。


   で、夕方になったら蓉子さんを迎えに行くついでにお買い物。
   ついさっきメールが来たんだけど、今日は早く帰ってこられそうなんだって。
   わぁい、やった。


   …。


   こらこら、蓮君。


   …。


   傷んとこ、無闇に触っちゃ駄目だぞ?


   …。


   葵、お手伝いしてくれるかな?


   …うん。


   三人分のお箸とお椀。
   良いかな?


   …。


   蓮君は蕎麦汁を…


   …。


   …。


   ほらほら、ちび達。
   ごはんの時にそんな暗い顔してちゃ美味しいものも美味しくなくなっちゃうぞー?


   …。


   …ごめんなさい。


   いや、謝る事でも無いけどさ?


   …。


   …。


   そういやさ、今日は二人で遊ばないのかな?
   外に行かなくても、中で


   ……。


   ……。


   ……これはちと、重症かな。


   …聖。


   ん、なんだい?


   …おなか、すいた。


   おー、そっかそっか。
   葵も?


   …ん。


   よし。
   じゃあまずはごはん、だ。
   さぁ、準備準備。


   …。


   うん。


   で、食べたら、だ。


   …?


   …聖ちゃん?


   一寸、お散歩に行こう。
   うん、決まり。


   …。


   …おさんぽ?








   お待たせしました、聖さま。


   うんにゃ、お構いなく。


   ……。


   さぁ、お出ししてごらん。


   あ、あい。


   お。


   ど、どうじょ。


   ほい、サンキュ。


   ど、どーいたまして!


   蓮ちゃんと葵ちゃんにも。
   麦茶だけど、どうぞ。


   …ありがとうございます。


   ……。


   蓮くーん。


   ……ありがとうございます。


   どういたしまして。
   二人とも、また大きくなりましたね。


   見たのはいつ以来だっけ?


   五つくらいの時だったと思います。


   そっか。
   ま、そん時よりは大きくなってるね。
   今度の三月が来れば、七つになるし。


   はい。


   そっちも。


   はい?


   大きいね。
   誰かに良く似て。


   はは、良く言われます。


   君は幾つなのかな?


   …あ。


   いつもみたいにしてみてごらん。


   ……。


   ひぃ、ふぅ、みぃ…四つ、か。
   うん、子供の成長は早いなぁ。


   今度五つになります。


   上の子は?


   由乃と買い物に行きました。
   新しい服を買うとか行って。


   そっか、それは残念。
   君は置いていかれちゃったのかな?


   ……。


   人見知り?


   すみません。
   伊織、隠れていたらお客様に失礼だろう?


   …。


   伊織。


   はは、良いって良いって。


   すみません。


   だから良いって。
   ところでさ。


   はい、何でしょう。


   今日の稽古はお仕舞い?


   今日ですか?


   うん。


   いえ、今は休憩時間なので。


   じゃあ、これからまた?


   はい。
   今は夏休みの特別稽古中なんです。


   学校の方は?
   部活動もあるでしょや?


   休みです。
   休む事も必要ですから。


   良し、丁度良かった。


   はい?


   こっちの事。


   然う言えば今日はどうしたのですか?


   散歩ついでに、ね。


   散歩でこんな所まで?


   人間、動く足がどこまでも行けるさ。


   …然うかも知れませんが。


   …。


   …。


   …あ。


   …。


   え、と。
   こんにちは。


   こ、こんにちゃ。


   伊織、ちゃんと出てきてご挨拶するんだよ。


   あ、あい。


   ところで、聖さま。
   蓮ちゃんの


   君、で良いよ。


   え?


   蓮君。
   ちゃんは、どうも合わなくてね。
   前に言わなかったっけ?


   ですが、


   良いの、良いの。
   ねぇ、蓮君。


   …。


   はぁ。


   で、蓮がどしたって?


   目の上の傷、どうしたのですか?


   ああ、これ?
   名誉の負傷。


   名誉の?


   双子の片割れを守った、ね。


   双子の…葵ちゃんを?


   そ。


   …。


   …。


   …痕、残らなければ良いですね。


   蓉子も私も然う思ってる。
   分かるだろう?


   …はい。


   ところでさ、令。


   はい、聖さま。


   見せてくれない?


   見せて…?


   稽古。








   めぇーーーん!








   おー、あのちびっこやるねぇ。
   さっきまであんなにおどおどしてたくせに。


   …。


   …。


   やっぱ、カエルの子はカエルってヤツかなぁ。


   …。


   …。


   蓮、葵。
   たまにはこういうのも良かろ?


   …。


   …。


   ん?


   ……。


   ……。


   て、どした?


   …。


   …あし、が。


   どれどれ。


   …ッ!!


   お、前のめり。


   ……せ、ぃ。


   はは、ごめんね蓮君。
   あまりにも酷いしかめ面なもんだから、つい。


   …。


   蓮、葵、足崩しな。
   私が許す。


   …。


   …。


   ぶっちゃけ、私も相当まずい。
   いやぁ、参った参った。


   …。


   …。





   どーーーぅ!





   そういや、覚えてるかな。
   君達、前にもここに来た事があるんだよ。


   …。


   葵はどうかな?


   …すこし、おぼえてる。


   そっか。
   あの時はさ、


   …蓉子もいっしょだった。


   お、蓮君も?


   …。


   今、竹刀振ってるちびが生まれて暫く経った頃だったかな。
   お呼ばれしてね。


   …。


   …。


   あん時は大変だったっけ。


   …。


   たいへん…?


   上のちびと蓮君がね。


   …。


   蓮と?


   どうにも黄薔薇一家とは馬が合わないらしい。
   こりゃ、血かもなぁ。


   …。


   となると、葵は蓉子の血だ。


   …おかあさん?


   何が原因だったか、知らないけど。
   ま、色々あるからね、ちびにも。


   …。


   …蓮?


   さぁて、もう一寸見たら行こうかね。
   蓉子との約束もあるし。


   …。


   …。





   こてぇー!





   …まぁ、さ。


   …。


   色々、あると思う。
   それはこれからもずっと、続く。
   生きてる限り、ね。


   …。


   決めるのは私じゃない。だからって蓉子でも無い。
   冷たいように聞こえるかも知れないけど、でも、決めるのはいつだって自分なんだ。


   …。


   ま、君達はまだまだちびっこだからね、私達が守るよ。
   …いや、ちびっこで無くなっても守るかな。


   …。


   …。


   ま、たかが知れてるんだけどね、“親”が出来る事なんざ。
   君達が生まれてきて、初めて分かった。


   …。


   蓮、葵。


   …。


   これは私から君達への、夏休みの宿題。


   …。


   …。


   誰かを守るって、なんだろうね。








   めぇーーん!!








   令の所に?


   うん。


   なんでまた。


   何となく、そんな気になったから。


   …つまりは押しかけたのね。


   いやいや、元気そうな後輩とその後輩にそっくりなちびの顔が見られて面白かったよ。
   けどもう一人の後輩とちびに会えなかったのが残念だったなぁ。


   もう。


   令は相変わらずだった。
   相変わらず、竹刀を持たせたら


   その言葉、貴女の方が相応しいわ。


   はい、聖さんは変わらず、蓉子さんを愛してます。


   …。


   ししし。


   …後で電話しておくわ。


   なんで?


   貴女が迷惑をかけたから。


   そんなつもりは無いんだけどな。


   貴女が然うでも、令は違うでしょ。


   本当に見てただけなのになぁ。


   そういう問題じゃありません。


   はーい。


   全く。


   へへ。


   …。


   …。


   そだそだ。
   蓮君、葵、夕ごはんは何が食べたい?
   昼が冷麦だったから、夜はちょっとがっつりとか?


   …。


   …。


   蓮、葵?
   どうしたの?


   …。


   …。


   …聖。


   二人とも、そんなにお腹が空いちゃったのかな〜?


   …。


   …。


   二人ともどうしたの?
   蓮は傷が痛む?


   ……蓉子。


   ん?


   …が、いい。


   うん、なぁに?


   ようこのごはんが、たべたい。


   私の?


   …うん。


   ……葵は?


   …たべたい。


   然う…。


   て、聖ちゃんも居るよ?
   忘れてないかな?


   …聖のはいつもたべてる。


   ……え、と。


   でも私も蓉子のご飯が食べたーい。


   わ…。


   と言うコトで、今日のごはんは蓉子ごはんで決まり。


   …それは良いけれど。


   ん?ん?


   …突然抱き寄せるのは止めて頂戴。


   事前に確認取ればオーケイ?


   そういう問題でもありません。
   そもそもこんな所で


   楽しみだね、蓮君、葵。


   …。


   うん。


   だって。


   …聖の分は無し。


   え。


   蓮、葵、こんな聖は放っておいて行きましょう。
   何が食べたい?


   たまごやき。


   えと…たまごやき。


   それだけで良いの?


   ……カレー。


   …うん。


   カレーかぁ。
   カレーは


   寝かせた方が美味しいんだぞーぅ。


   …。


   …。


   …。


   ん、なになに?


   …じゃあ、カレーで。


   あしたもたべる。


   うん、たべたい。


   じゃあ多めに作るから、明日も


   わぁい、蓉子のカレー。


   鬱陶しい。


   だってー。


   何のカレーにしましょうか。


   とり。


   …なす。


   じゃあ、両方入れましょう。


   はいはい、聖さんは


   やかましい。


   えー聖さんも混ぜてよう。


   鳥と茄子が不服なの?


   ううん、満足です。


   じゃあ、決まりね。


   ね、蓮君、葵。
   スープは私が作っても良い?


   …。


   うん。


   だって。
   蓉子も良い?


   良いけど。
   蓮が少し、


   本当は食べたいんだよね、蓮君は。


   …。


   よし。
   今夜の佐藤家の夕ごはんは蓉子のカレー、だー。








   あー食べた食べた。
   満足ぅ。


   蓮。


   …。


   傷の具合、どう?


   …すこし、いたい。


   少しだけ?


   …ん。


   またまたぁ。
   蓮君ったら無理しちゃって。


   …。


   聖。


   痛い時は痛い。
   それで良いんだよ、蓮君。


   …。


   葵も、ね。
   痛いのに我慢して、そのせいで酷くなったりでもしたら洒落にならないでしょや?


   …。


   …聖。


   ん?


   なんか親みたい。


   そりゃあ、親ですから。
   やだなぁ、蓉子さんったら。


   然うなんだけど…。


   そろそろ「ひよこ」は卒業したいかな?


   …。


   なになに?


   …まぁ、良いのだけれど。


   淋し?


   …余計な事は言わないで良いから。


   にしし。


   …蓮、おいで。


   …。


   瘡蓋になってる…良かった。


   …。


   いじっては駄目よ。


   うん。


   蓮君は蓉子には素直なんだよな〜。
   ちぇー。


   …。


   ん、なになに?


   …何でも無いわ。


   安心した?


   …今日は私が髪の毛を拭いてあげるわ、蓮。


   ん。


   あ、良いな良いな。
   私も


   聖。


   じゃあ葵、葵は私と一緒にお風呂に入ろう。


   …え。


   え?


   ……。


   あれ?


   …わたし、ひとりではいる。


   え、なんでなんで。


   ……。


   え、えぇ?


   え、えと、ごちそうさまでした。


   あ、葵?


   お年頃、かしら。


   一寸待った!
   未だ七つにもなってないし、そりゃ初等部にはなったけど、てか同性だし!


   まぁ、ねぇ。


   え、何、その意味ありげな言い方。


   さぁ?


   えぇぇ。


   まぁ、良いじゃない?


   やだ、良くない。


   聖。


   ううう。


   もう、仕方の無い人ね…。


   お、おかあさん。


   うん?


   カレーとたまごやき、おいしかった。


   うん、良かったわ。


   葵ぃ、聖ちゃん特製スープはぁ?


   あ、んと、おいしかった…です。


   て、なんで他人行儀っぽいの…。


   …。


   まぁ、ねぇ…。


   て、蓉子ぉ…。


   はいはい、仕方の無い人ね。


   ……。


   …蓮。


   …。


   いっしょに…


   …蓉子。


   なぁに?


   おいしかった。


   ん。


   …。


   あお。


   …!
   うん!


   ……。


   あーあ、聖ちゃんは淋しいよ…葵。


   ……。


   蓉子、こうなったら今夜は思い切り慰めて。
   ね?ね?


   …ねぇ、聖。


   やた。


   然うじゃなくて。


   …ぶぅ。


   聖。


   …何か気になる事でも?


   ううん…。


   …。


   …ただ。








   ふぁ…。


   葵、眠いのかい?


   …ん。


   お。


   ……。


   この様子だと、このまま眠ったら朝まで起きなさそうね。


   …うむ、然うかも。


   よっぽど疲れたんだわ。


   そんなに歩いてない筈なんだけどな。
   まぁ、いつもよりは少し多いかも知れないけど。


   …それだけじゃ無いのかも知れないわ。


   責任感が強いのも考え物だねぇ。


   …ええ。


   じゃ、おねむなお姫様をベッドまで連れて行って差し上げようかな。


   …。


   ん?
   蓮君もかい?
   仕方ないなぁ。


   …。


   でも一度には


   …。


   …あれ。


   うん?
   蓮も寝る?


   ん。


   然う。
   じゃあ薬、塗ってあげるわね。


   …うん。


   ………。


   …。


   …痛くない?


   うん。


   ねぇ、蓮。
   痛かったらちゃんと言ってね。
   貴女は我慢してしまうところがあるから。


   ……。


   …どうか、痕が残らないよう。


   …。


   ……後はテープを。
   はい、お仕舞い。


   …ん。


   お〜良かったねぇ、蓮君。


   …。


   んじゃ、葵を。


   気をつけてね。


   お姫様を傷付けるような事は致しませんって。
   …よいしょ、と。


   …。


   んー、また少し重くなったかな。
   へへへ。


   聖。


   ん?


   それ、葵が聞いたら気にするわよ。


   え、なんで?


   お風呂、断られたでしょう?


   …それ、凄く刺さってるから。
   進行形だから。


   これから、増えると思うけど。


   …このままでも良いのに。


   重くなったって喜んでるくせに。


   ああ、複雑な親心。


   はいはい。
   ちゃんと送り届けてね。


   …はぁい。
   それじゃ蓮君、行こうか。


   …。


   おやすみなさい、蓮。


   ん…。


   おやすみなさい…葵。


   …。


   ……。


   …何?


   私もそうやって頬、撫でられたいなぁ。


   …してあげてるでしょう。


   違うんだって。
   こう、何て言うかな…。


   …。


   ほら、蓮が待ってるでしょう。
   早く行きなさい。


   …ちぇー。








   ……。


   ……。


   ……あおい。


   …ッ。


   …。


   あ、あのね、れん…。


   …。


   わ、わたし…。


   …たぬきねいり。


   ち、ちがうの。


   …。


   …めが、さめたの。
   そしたら、くらくて…れんが、いなくて。


   いる。


   …。


   …。


   ……ねぇ、れん。


   ……。


   いっしょに


   あお。


   …。


   ……。


   うん…。


   ……。


   …。


   ……あつい。


   …ごめんなさい。


   …。


   …め、いたい?


   …。


   いたい、よね。


   …べつに。


   でも


   いたくない。


   …。


   …。


   …わたしのせいで。


   …。


   わたしのせいで、れんが


   ちがう。


   ちがわないよ。
   だって、わたしが


   あおい。


   う…。


   いたく、ない。


   ……。


   ……。


   ……ちが、いっぱいでて。


   ……。


   れんのかおが、あかくて…。


   …。


   れんが…れんが、しんじゃったら…て。


   しんでない。


   でも、でも…。


   …。


   ぅ…っく。


   …。


   れん、れん…。


   …。


   ごめんなさい、ごめん、なさ、い…。


   …。


   …っく、…ひっく。


   …なくな。


   ごめ、っく、なさ、い…。


   なくな、あお。


   ぁ…。


   なくな。


   …う、ん。


   …。


   ……れん。


   …。


   …。


   ……なに。


   …。


   …。


   …せぃちゃんが、おかあさんに、するの。


   …。


   ごめんなさいのとき、してるから…。


   …もう、いい。


   あ、あとね、はやく、なおるように…。


   …。


   はやく、いたいのが…なくなるように。


   いたくないっていった。


   …。


   …もう、ねる。


   …。


   ねる。


   …うん。


   …。


   ……おやすみなさい、れん。