命は逝く。















   …にゃ?


   蓉子さん、蓉子さん。
   今日の夕飯は何ですか?


   今日はつぼだいを焼くつもり。


   わぁい。


   勿論、骨は自分で。


   …わぁい。


   にゃー!


   あ?


   あ、こら。


   よーこ、にゃーにゃ!
   にゃーにゃがいる!


   だからって、急に走っては駄目よ。
   危ないわ。


   そうそう。
   またすっ転んで泣いちゃっても知らないぞぅ。


   あおい、にゃーにゃ。


   え、どこどこ。


   にゃ!


   あ、ほんとだー。


   お。


   せいちゃん、ねこさん、ねこさんがいるよ。


   猫さんね、それは良かったね。
   だけど走っては駄目だからね。


   にゃーにゃ!


   おすわりしてる。
   おりこうさんなんだね。


   ん!


   てか。
   こんなトコにこんな猫、居たっけかな。


   私は初めて見たわ。


   何となく、野良かな。
   この子。


   その割には小奇麗な子じゃない?
   あまり汚れていない、と言うより全く汚れていないわ。


   そうなんだよね。


   よーこ、にゃーにゃにゃーにゃ。


   せいちゃん、ねこさんにさわってもいい?


   ふむ、どうしようか。


   引っ掻かれたりでもしたら大変だし…。


   よーこ。


   せいちゃん。


   …どれ。


   聖?
   何をするつもりなの?


   まぁ、任せてよ。
   葵、一寸待っててね。


   うん。


   蓮も。


   むー。


   んー………。


   聖?


   …し。


   ……。


   ……ごきげんよう、にゃんこ。


   ……は?


   なんて。


   ……。


   呆れないで。
   私、これでも結構本気なのよ。


   …はいはい。


   んー……お。


   あ…。


   …うん。
   思ってたより、人懐こい子の模様。


   ねぇ聖、この子…。


   よしよし、お前はどこの子なのかな。


   せー、ずるい。


   蓉子、この子なら大丈夫だよ。
   ほら。


   おかーさん、さわってもいい?


   …。


   蓉子さん。


   あ…えと、そうね。
   じゃあ、驚さないようにね。


   そうそう、吃驚して逃げちゃうからね。


   それから若しも逃げてしまったとしても、追いかけては駄目よ。


   約束、出来るかな?


   ん。


   はい。


   よし。
   んじゃゆっくり、ね。


   ……にゃぁ。


   ……わぁ。


   にゃーにゃ、にゃーにゃ。


   ねこさん、かわいい。
   ね、れん。


   ん!


   やれやれ。
   なかなかに良いにゃんこで良かった。


   …ねぇ、聖。


   ん?


   この子…。


   事故、かな。
   妥当に考えたらやっぱり、怪我が原因だろうね。


   そうだとしたら。
   やっぱり誰かが面倒を見ている子なのね。


   そうだろうね。
   触ってみて分かったけど、毛、手入れされてる。


   首輪は付いてないようだけど。


   今時の猫はあまり付けないのかもよ。


   リード付けてる人も居るみたいだけど、ね。


   あれは正直、どうかなぁと思わないでも無いよ。
   猫は本来、人に縛られる動物じゃない。


   誰かさんと一緒で?


   だけど、その誰かは愛を知って帰れる場所を見つけたので。


   縛られたとしても?


   それもまた、心地良い。


   よーこ、にゃーにゃかわいい。


   せいちゃん、のど、ごろごろしてるよ。


   うん、にゃんこはそこを撫でてあげると喜ぶんだよ。


   えへへ。


   ふふ。


   さて、と。
   蓮、葵。


   そろそろ帰りましょう。


   や。


   蓮。


   にゃーともっとあそぶ。


   こらこら。


   にゃーにゃー…にゃ?


   ほら、猫さんもおうちに帰るんだって。


   じゃ、蓮と葵も帰らないと、だな。


   むー…。


   さぁ、蓮。


   葵。


   …。


   にゃーにゃ…。


   蓮、葵。
   猫さんにばいばいしよう?


   …。


   ね?


   ……ばいばい。


   蓮も。


   ……ばい。


   ん、良い子。


   ねぇねぇ、蓉子さん。


   何?


   なんだかお腹が減っちゃった。


   だからさっき、お昼を食べたじゃないの。


   おやつの時間です!


   …はいはい。


   …。


   …。




















  い の ち い く




















   今日はやらないよ。


   …。


   この間、鮭の皮あげた。
   生憎、今日の弁当に魚は入ってない。


   …にゃー。


   やらない。


   ……。


   蓮、今日はこんな場所<トコロ>で。


   ごきげんよう。


   ごきげんよう、じゃないわよ。
   どうしていつもいつも違う場所に居るの。
   中等部の頃は大抵、同じ場所に居たのに。


   さぁ。


   少しは探す私の身にもなってよ。


   別に探さなくても良い。
   葵が来ると五月蝿いから。


   五月蝿いって何よ。


   実際、今も五月蝿い。


   …一人で食べないで。
   一緒に食べようって言ってるじゃない。


   いつも食べてる。


   それは家に居る時の話でしょう。


   残念ながら今日は一人じゃない。


   …。


   待ってたって。
   今日は何もやらない。


   …蓮はゴロンタが好きね。


   別に。
   ただ、アイツの方から来るから。


   私のところには来ないわ。


   それは葵が五月蝿いから。


   蓮はゴロンタに触ったこと、ある?


   あるよ。


   …そう。
   良いな…。


   弁当のおかずを取られたこともあるけど。


   ……。


   でも、今日はやらない。


   …。


   そんなところに突っ立ってないで。
   教室に戻れば?


   …煙たがらないでよ。


   煙たがってない。
   ただ、居ると五月蝿い。


   ……ゴロンタ。


   …。


   おいで、ゴロンタ。


   …にゃぁ。


   あ…。


   漸く、諦めた。


   ……。


   ……。


   ……。


   …葵?


   …私、教室に戻るね。
   折角のお昼休みなのに、五月蝿くしてしまってごめんなさい。


   ……。


   …それから。
   まったりしすぎて、授業に遅れる事が無いように。


   ……。


   …じゃあ、また帰りに。


   葵。


   ……ん。


   今日の昼休みはここに居る。


   ……だから?


   葵の好きにすれば良い。


   ……。


   ゴロンタも、今のところ、未だ居る。


   ……だから、


   だから、葵の好きすれば良い。


   ……目覚まし代わり、て事?


   遅れるな、て言った。


   どうせ、蓮が注意されるだけよ。


   気にしない。


   あのね、少しは気にしなさいよ。


   葵が注意されるわけじゃない。


   そうよ。
   だけど気になるのよ。


   だったら、傍に居れば良い。


   ……何よ、それ。


   わざわざ探しに来るぐらいなら。


   五月蝿いって言ったくせに。


   本当の事だ。


   …蓮、は、


   にゃぁ。


   戻ってきたって、やらないよ。


   …。


   じゃれついても、やらない。
   今日は他の人から貰うと良い。


   …ゴロンタ。


   にゃー。


   時間、無くなっても知らない。
   コイツも気紛れだから。


   ……うん。









   ・










   にゃーのとこ、いく。


   ん?


   にゃーにゃ。


   いやいや、蓮君。
   残念だけど、今日はそっちには行かないんだな。


   や。
   いく。


   と言うかもう既に方向が違うし。


   いく。


   だからだな?


   せいちゃん、わたしもねこさんのところにいきたい。


   あら、葵まで?


   ねこさんにあいたい。


   だけどね、今日は真っ直ぐ帰るんだよ。
   蓉子が帰ってくるまでに夕ご飯の支度をしておかないといけないから、ね。
   知ってる?
   今日は蓉子の帰り、早いんだって。


   やだ、いくの。


   ねこさん。


   蓮君は蓉子が大好き、でしょや?


   …。


   葵も、蓉子さんが早く帰ってきたら嬉しいでしょ?


   …。


   今日、幼稚舎であった事、蓉子にお話しなきゃ。
   蓉子ね、凄く楽しみにしてるんだよ。
   勿論、私もね。


   …にゃーにゃ。


   ……。


   だから。
   今日はもう、帰ろう?


   や!


   蓮。


   にゃーにゃんトコ、いく!


   蓮、蓉子におかえりって一番に言うんじゃなかったっけ?


   …。


   蓉子と約束、してなかったっけな?


   …。


   若しも約束を破ってしまったら。
   蓉子はどう、思うだろう?


   ……よーこ。


   葵も。
   蓉子と約束、してたよね。


   ……うん。


   猫さんだって、同じ時間、同じ場所に居るとは限らないんだ。


   !


   ねこさん、いないの?
   なんで?


   蓉子がおうちに帰って、蓮と葵におかえり、て言われるように。
   猫さんにだっておうちがあるんだよ。


   …おうち。


   この間、猫さんと会った時はお昼だった。
   だけど今は二人が幼稚舎から帰ってきて、散歩がてら買い物もして…ほら、お空を見てごらん?
   何色、してる?


   ……あか。


   …ゆうやけ。


   そう、もう赤い赤い夕焼け空。
   猫さんもおうちに帰らないといけない時間なんだ。


   ……。


   だからね。
   今日はもう、おうちに帰らないと。
   そして蓉子におかえり、って言ってあげる支度しないといけないんだよ。


   ……。


   分かる?


   ……にゃーにゃ。


   れん、わたしたち、おかーさんにおかえりっていわなきゃ。


   でも…、


   蓮は蓉子の事、大好き、だよね?


   …。


   蓉子が帰ってきてうちに誰も居なかったら、誰もおかえりって言ってくれなかったら。
   屹度、淋しい思いをしてしまう。
   蓉子がそんな思いをするの、蓮は嫌でしょや?


   ……。


   だから、帰ろう?
   ね?


   ……う。


   ん、良い子だ。


   …。


   葵も。
   さぁ、手を繋いで帰ろう。


   …せいちゃん。


   うん?


   ねこさんにまた、あえるよね?


   …。


   もう、あえないの?


   今度、蓉子も休みの日に。
   また行ってみよう。


   にゃ?


   約束、だ。


   ほんと?


   聖さんは嘘つきませんよ。
   蓉子さんに嫌われてしまうからね。


   こんど?


   にちよう?


   蓉子が帰ってきてから話してみるけど。
   多分、日曜で大丈夫なんじゃないかな。


   ぜったい!


   絶対、ね。
   だけどね蓮君、世の中には絶対と言うのは


   せいちゃん、にちようつれてって。


   …ふむ。


   にゃーにゃにゃーにゃ。


   せいちゃん、せいちゃん。


   …分かった分かった、約束するよ。










   ・










   あら、ごきげんよう。


   …ごきげんよう。


   ごきげんよう、先生。


   はい、ごきげんよう。
   今日は二人が?


   はい、今日は土曜日なので。


   ああ、そういえば今日は土曜だったっけ。
   と言うか蓮の方はいつ見ても相変わらず、だね。


   …そうでもありません。


   いつもどうり、眠そう。


   …。


   さっきまで仕事もしないで、寝てましたから。


   ああ、やっぱり。


   …。


   本当。
   昼寝をした後の子供のような顔をしてる。


   ですよね。


   ふふ。
   白薔薇さまも紅薔薇さまによく、そう言われたっけ。


   ……。


   どう?
   お腹、空いてるでしょ?


   …。


   お昼寝をするとお腹が空くらしいよ?


   それも当たりです。


   …人を抜きにして話を進めないでくれますか。


   ふふ、眉間に皺が寄ってる。
   その顔を見ると、やっぱり、思い出しちゃうな。
   勿論、君に似ている方では無くて、私の


   先生。


   ん?


   うちのちびすけは?
   何処を見ても、見当たらないんですけど。


   それがね。


   …?


   お弁当を食べたら。
   猫と、ね。


   …ああ。


   ……またか。


   懐かれているのは分かるんだけど。


   と言うより、智の方が懐いているような気がします。


   そうとも言えるかな。
   休み時間も時たま、他の子と遊ばないで、ゴロンタを追っかけてる時があるし。


   ……。


   多分、庭の方に居ると思うんだけど。


   適当。


   さっきまでは確かに、ここに居たのよ。


   …ああ、めんどうだな。


   先生、入っても良いですか?


   どうぞ。
   ついでだから懐かしく思っていって。


   そんなコトが思えるほど、離れてない。


   あはは、それもそうだね。










   ・










   時間の問題、だと思うんだよね。


   …ん?


   子供達の最近を見ていると。


   ……。


   さっきも聞いたけれど。
   今度の日曜、暇で良いんだよね?


   …しごとは、やすみだけれど。


   今のところ?


   ……たてこんでは、いないから。


   吃驚したでしょ?


   …なにが?


   帰ってきた時、いきなり、さ?


   …あぁ。
   たしかに、なにごとかとは…おもったけど。


   想定内?


   …やっぱり、あなたのこなんだな、て。


   どういう意味?


   …なにげに、どうぶつずき。
   なまえはおぼえないくせにね…。


   にゃんこぐらいは、覚えてるけどな?


   ひんしゅとなると、おぼえてないでしょ…?


   にゃんこはにゃんこ。
   それ以外の何者でも無い。


   ……ごろんた、は?


   あぁ。
   アイツの場合は名前まで付けたから、そう言う意味では特別、かもね。
   と言うか他の人との子だったら…。


   …せい?


   ……首、絞めてしまいそうだよ。


   ……わたしの?
   それとも…


   ……蓉子に私以外の奴が触った、なんて。
   考えただけでも気が狂いそう。


   …。


   あの子達は私の子。
   でしょう?


   …もちろん。
   あなたいがい、いないわ…。


   ……本当に?


   おこるわよ…?


   はい、ごめんなさい。


   …ばかね。


   うん、知ってる…。


   ……まだ?


   早く帰ってきた日ぐらい、ね?


   ……早くかえってこなくて、ん。


   蓉子の肌ってなんでこんなに甘


   その前、に。


   …む?


   時間のもんだい、て…?


   ああ。
   まぁ、猫のコト。


   ……。


   遅かれ早かれ、言い出すと思うんだよ。
   そう言うのは子供特有の、と言うより定番の願いでもあるから、ね。


   ……あぁ。


   で、その時はどうしようかな、と。
   頭ごなしで駄目、て言っても納得しないでしょ。
   子供といえど感情は持ってるし、何より豊かだ。
   でもって豊かではあるけど、それをうまくコントロール出来る術は持ってない。


   ……。


   ま、そんなのは、その時が来たら考えればいっかな、と。


   言い出したの、は…。


   なんかねぇ、今はいっぱいいっぱい。


   んん…。


   ……ねぇ、ようこ。


   …。


   もう一人、とか言ったら。
   怒る?


   ……おこりはしない、けど。


   子供も、悪くない。
   蓉子と私の子、なら。


   ……だけ、ど。


   ん、今は二人で手一杯。
   まさか双子だなんて思ってなかったから。
   マリア様も粋なコト、してくれたもんだね。


   …いき、て。


   次も双子だったら面白いなぁ。


   ……。


   勢い余って。
   野球チームぐらい、作っちゃおうかな。


   …。


   ま、冗談だけど。


   あなたがいうとじょうだん、に…。


   んー…。


   …ねこ、みたい。


   良く、言われる。


   …そんなとこ、かまないで。


   ねぇ、知ってる?
   猫も甘噛みするんだよ。
   相手の愛情を確かめる為に。


   …。


   でね、それに対して本気で怒ったり叩いたりすると、拗ねちゃうんだって。


   ……それって、あなたのことじゃないの。


   ふふ。


   ……はがたは、つけないでね。


   それは、分かんないなぁ。


   ……いたいから。


   だから、本気で噛み付かないコトを覚えました。


   …。


   箍が完全に外れない限り、大丈夫。


   そんなとき、ほとんどな…んッ


   …ん、甘ぁい。


   ……も、ぅ。










   ・










   にゃー、にゃにゃー?


   …智。


   何をしているの、智。


   にゃー?


   にゃー、じゃない。
   また猫と遊んでるのか。


   ねこ、じゃないよ。
   ごろんた、だよ。


   智、迎えに来たから。
   帰りましょう。


   もっとごろんたとあそぶー。


   あ、こら。


   にゃーぉ。


   …いつから猫になったんだ、お前は。


   智、お腹空いたでしょう?
   聖さんがご飯を作って待っているから早く帰ろう。
   ね?


   にぁー。


   …猫語で話せって?
   冗談じゃない。


   にゃ、にゃ。


   …蓮、会話に応じてるコトになってるわよ。


   帰らないと言うなら、勝手にやってれば良い。
   私は帰る。


   にゃ?


   あ、蓮。


   葵、後は任せた。


   待って、蓮。


   大体、お迎えなんて葵一人で十分だね。


   またそんな事言い出して…!


   にゃー!
   にゃにゃー!


   …だったら早く帰る支度をすれば?
   とりあえず、手を洗ってきなよ。


   …にゃぁ。


   蓮、もう少し言い方を


   猫語なんて話せない。


   そう言うことじゃなくて


   …あおいちゃん。


   え。


   おてて、あらう。


   あ、うん。
   じゃ、水道の所に行こうね。
   …蓮。


   …。


   直ぐ戻ってくるから。
   ちゃんと待ってて。


   ……。


   待ってて。


   …分かったから。
   さっさとしたら?


   …もう。


   あおいちゃん。


   ん、行こう。


   …。


   ……みぁー。


   …何。


   …。


   今日は何も持ってないよ。


   ……。


   と言うか、お前はこんなトコまで来るんだな。


   なーぉ。


   なぁに?
   今度は蓮がゴロンタとお喋り?


   ……。


   小さい頃から猫好きなのも、変わらないね。


   …別にそう言うわけじゃありません。


   葵も。
   ふふ、貴女達は小さい頃と本当に変わってない。


   ……先生こそ。


   ん、私が何?


   ころころと変わる百面相は変わってないと思いますけど。


   そう?
   これでも少しは自制出来るようになったのだけれど。


   気のせいですね、単なる。


   前言撤回。
   蓮は少し、可愛げが無くなった。


   それはどうも。


   あー!


   お、戻ってきたようね。


   れんちゃ、ごろんたー!


   何を言いたいのか分からない。


   智、手を洗ったのだから


   ごろんたー、ごろんたー。


   …にぁ。


   むーーー。


   だから今日は何も持ってないって言ってる。
   懐くな。


   にぁぁ。


   …ゴロンタ。
   おいで。


   …葵。


   ゴロンタ。


   ……。


   あ、ごろんたー。


   葵、ひー。
   帰るぞ。


   ごろんた、いっちゃた…。


   ……。


   ごきげんよう、先生。


   はい、ごきげんよう。


   ゆみせんせー、ごきげんよー。


   ごきげんよう、ひーちゃん。


   …どうして、なんだろう。


   葵。


   …。


   葵、ぼざっとしてると置いてくぞ。


   え、あ。


   …。


   待って、待ってよ、蓮。


   …じゃあ、早くしたら?


   うん…。


   ごきげんよう、葵。
   また来週。


   あ、はい。
   ごきげんよう、先生。


   きょうのごはん、なにかなー。
   ねぇ、れんちゃん。


   さぁね。
   聖の事だからどうせまた、適当なんじゃないの。


   あおいちゃんはどうおもう?


   …。


   あおいちゃん?


   え、何が?


   せーちゃんのごはんー。


   あ、ああ。
   何でしょうね。


   おいしーごはんだったらいーねー。


   大丈夫。
   聖さんのご飯はいつだって美味しいわよ。


   蓉子の方が美味しい。


   それは蓮の好みでしょう。


   ねぇねぇ、れんちゃんあおいちゃん。


   今度は何。


   ん?


   ひー、ごろんたほしい。


   …あ?


   …え、と。


   ひーね、ごろんた、ほしーの。










   ・










   にゃー!


   おかーさん!
   ねこさん、いた!


   ええ、良かったわね。


   うん!
   ねこさん、ごきげんよう!


   にゃーにゃ、にゃー、うにゃぁ。


   あはは。
   蓮のヤツ、にゃんこと話してるよ。


   う?


   さて、と。
   私、一寸飲み物でも買ってこようかな。
   あっちのちっちゃい店の隣に自販、あったよね。


   ええ。


   蓉子は何が良い?


   えと、じゃあお茶で。


   ん、分かった。
   じゃあ、一っ走り行ってくる。


   ありがとう。
   気をつけてね。


   おー、任せろー。









   にゃー♪


   猫さんが居てくれて。
   良かったわね、蓮、葵。


   ん!


   うん!


   それにしても。
   聖、少し遅いわね…。


   よーこ。


   ん?
   なぁに、蓮。


   にゃー、なんであんよない。


   …。


   おかーさん、ねこさん、なんであんよがないの?


   それは…


   にゃー、あんよなくてかわいそーなの。


   ねぇ、おかーさん。
   うしろのあんよ、どうしてないの。


   それはね…。


   はぁい、蓉子。


   あ、聖。


   お待たせ〜。
   ほい、お茶。
   ちびっ子達にも。


   せー。


   うん?


   せいちゃん、ねこさんどうしてあんよがないの?


   あー、やっぱり来たか。


   聖…。


   大丈夫、任せて。
   蓮、葵、このにゃんこはね、怪我をしたんだ。


   けが?


   そうだよ、葵。
   それも足を失って…えと、無くしてしまうくらい、大きな怪我をね。


   ……ちゃいちゃい?


   うん、とっても痛かったと思う。


   …どうして?
   どうしてねこさん、けがしたの…?


   車に撥ねられたんだ。


   ぶー?


   蓉子と私、いっつも言ってるよね?
   道路を歩く時は、特に歩く人の道が無いところは気をつけないといけないって。


   …。


   だけどね、どんなに気をつけていても、
   自分がどんなに望んでいなくても、そういう事が起きてしまう時だってあるんだ。


   …。


   多分、このにゃんこもそうだった。


   にゃー…。


   …ねこさん、かわいそう。


   聖、その話…。


   店の人に聞いた。
   まさか飼い主さんだとは思わなかった。
   元々は野良猫だったらしいんだけど…ね。
   もっと言うと結構なおばあちゃんにゃんこらしい。


   ……そう。


   けどね、蓮、葵。
   このにゃんこは可哀想なんかじゃ、無い。
   何故だか、分かる?


   ……。


   このにゃんこは確かに、不慮の事故で足を無くした。
   けど助かって、こうして生きてる。
   可愛がってくれる人、蓮と葵も居る。
   何より…このにゃんこは自分を可哀想だなんて、屹度、思ってない。


   ……なんで。


   どうして、わかるの。


   このにゃんこは天気が良いといつも、ここで日向ぼっこをしてるんだって。
   でもって、その姿はいつも仕合わせそうなんだってさ。


   …。


   可哀想も、仕合わせそうも。
   所詮、勝手に人がそう思って決めてる事に過ぎない。
   だけど私は思うんだ、このにゃんこは可哀想なんかじゃないって。


   …。


   若しも本当に可哀想だったら。
   多分、このにゃんこは人に懐かない。


   ……。


   蓮、葵。
   気付かないかな、君たちが撫でてあげると嬉しそうにしてるんだよ。


   ……。


   ねぇ、蓉子。
   蓉子の目にはどう映る?


   …そうね。
   私には何だか、喜んでいるように見えるわ。


   でしょう?
   このにゃんこは君たちに会えて、撫でて貰えることが嬉しいんだ。
   そんなにゃんこを可哀想だなんて思える?


   ……うー。


   ……。


   …未だ、難しかったかな。


   だけど。
   何かを感じる事は出来たと思うわ。


   ん、そうだね。


   にゃー…いーこいーこ。


   ねこさん…。


   目、細めてる。
   安心してるんだ。


   ええ。


   ……。


   れん?
   どうしたの?


   ……あおい。


   なぁに?


   にゃー、おうち。


   え…。


   よーこ、せー。
   にゃーにゃ、ほしい。










   ・










   うちは飼えない。


   えー。


   飼えないものは飼えない。


   どーして。


   動物禁止のマンションだから。


   なんで。


   飼えないものは飼えないんだ。


   …あおいちゃん。


   蓮の言うとおり、うちはペットを飼ってはいけないの。
   だからゴロンタをうちに連れていく事は出来ないのよ。


   …むぅぅぅ。


   膨れても駄目なものは駄目なんだ。


   れんちゃん。


   駄目だ。


   ……いいもん。
   せーちゃんとおかーさんに


   言うだけ、無駄だね。


   ……。


   蓮、もう少し言い方を


   期待を持たせる言い方の方がよっぽど、タチが悪い。


   …。


   ひー?
   何処へ行くの?


   …ごろんたのトコ。


   あ、待って。


   ひー、ごろんたといっしょにいる。
   ずっといっしょにいる。


   ひー、聞き分けのない事を言うな。


   いゆの…!


   ひー!


   …たく。
   面倒くさいちびだな。


   蓮!


   何。


   大体、蓮があんな言い方をするから…!


   じゃあ聞くけど。
   何て言えば良い?
   駄目な事を知っているのに期待させる方がよっぽど、残酷だ。


   ……だけ、ど。


   それに。
   アイツの居場所はあそこだ。
   うちじゃない。


   ……。


   葵。


   …迎えに行ってくる。


   あ、そ。


   蓮は…


   …そんな顔、するな。


   ……。


   さっきから何なんだ。


   …別に何でもないよ。


   まさか。
   葵まで、欲しいとか言うんじゃないよね。


   …そんな事、言わないよ。
   だけど…


   …。


   …何でもない。
   じゃ、行ってくるね。


   …。


   蓮はここで、あ。


   お腹が空いた。
   だからひーを連れてさっさと帰りたいんだ、私は。


   ……。


   たく。
   猫一匹で。


   …蓮は。


   ん?


   もう、猫好きじゃないの?


   …。


   小さい頃はあんなに


   嫌いじゃない。


   ……。


   だけど。
   だから、何?


   …。


   猫なら学校に行けば居る。
   それだけで十分だよ。


   ……そう。












   ・










   もしもし…て、あー祐巳ちゃん?やぁ、久しぶりだね。
   …え、今朝も会った?
   うん、そうだね。だから今朝ぶりだね、てコトだよ。
   と言うかさ、どうせなら携帯の方にかけてきてくれれば良かったのに。
   そしたら余所行きの声なんか出さなかったのにさ。
   え、いつもと大して差は無い?寧ろ、全然無いって?
   いやいや、そんなコト無いよー。
   何しろ蓉子さんに怒られちゃうからね、これでもとっても真面目に…うん?
   それどころじゃない?
   何が?
   そういえば祐巳ちゃん、こんな時間に電話なんて…え、何?
   よく聞こえないよ、祐巳ちゃん。もう一回言ってくれないかな。
   ……は?
   ごめん、今何て言った?





   『だから!!
   蓮と葵が、居ないんです…!!
   幼稚舎の何処にも…!!!』