-星の涙(現世2) ……。 ……っ、く、……ひっく……。 ……。 ……うっ、うぅっ……う………。 ……。 あ、ぁぁ……。 ……どうしたの? ……っ。 どうして、泣いているの……? ……だ、れ。 ごきげんよう……私の、愛し子。 だ、だれなの……。 知りたい……? ……。 ね、ひとりなの……? ……う、ん。 ご両親は、何処に居るの……? ……。 ええと……お母さんと、お父さんは何処に居るの? 若しも、逸れてしまったのなら、一緒に探してあげる。 ……いな、い。 居ない……? もう、いないの……どこにも、いないの……。 ……。 しんじゃった、の……。 ……然う。 おねえちゃんは、だれなの……。 私は……今は未だ、言えないの。 ……。 ごめんなさい……だけど、私はあなたの ……。 あ、待って。 く、くるな……。 怖がらないで、私は お、おかあさんが、いってたんだ、しらないひとに、ついていっては、いけないって……っ! ……。 お、おまえなんて、しらない、く、くるな……! ……あぁ、然うよね。 おとうさん……! おかあさん……! たすけて、たすけてよ……!! ……。 どこに、いるの……あたしを、おいていかないでよ……。 ……。 ……っ、く、……うっ、……あぁぁぁぁぁぁ……っ。 ……どう、か。 おとうさぁん……おか、ぁ、さぁん…………どこ……どこ、なの……。 どうか……。 いいこに、してるのに……どうして、むかえに……きて、くれないの……。 ……泣かないで。 やだよ……やだよ、ぅ………つれて、いってよ……おとう、さん……おかあ、さん……。 どうか、泣かないで。 ……ぁ。 ……。 や、やだ、はなせ……。 ……う。 はなせよ……ッ! おまえは、おとうさんとおかあさんじゃない……!! はなせ、はなせ、はなせ、はなせぇ……!! ……。 ……けて、……たすけて、おとうさん、おかあさん……こわい、よ……。 ジュピター。 ……ッ。 お願い……泣かないで、ジュピター。 ……。 あなたは、ひとりじゃないわ……ひとりじゃ、ないの。 ……うそ、だ。 嘘じゃない。 うそだ……! おとうさんも、おかあさんも、もう、いないじゃないか……! あなたのお父さんとお母さんはもう、居ない。 だけど、それでも、あなたはひとりじゃない。 うそつくな……ッ! うそつきは、どろぼうのはじまりなんだぞ……ッ。 ……どろぼう? そうだよ……! どろぼうは、わるいやつなんだ……!! だから、うそをつくおまえも、 ……私が、泥棒。 わるいや あは。 ……え。 あぁ、ごめんなさい……でも、ふふ……ふふ……。 へ、へんなやつ……。 だ、だって、泥棒だなんて、初めて言われたから……ふふ、ふふ……。 な、なんなんだよ……。 ……ごめん、なさい……思った、以上に……。 ……。 ふふ……、ふふふふふ……。 え、えぇ……。 …………は、ぁ。 ……。 ……ふふ、 だ、だいじょうぶ……? ……。 な、なんだよ……。 ……心配、して呉れるの? だ、だって、へ、へんなんだもん、おまえ……。 私が、変……ふふ、 あ、また。 ……あぁ、可笑しい。 お、おかしいのは、おねえちゃんだとおもう……。 ……あなたは。 な、なに……。 優しい子、ね……。 ……わ。 私は……あなたのことが、好き。 な、な、な、に……。 ……私が誰かは、今は未だ、言えない。 だけど、これだけは……。 ……。 私は、あなたのことが好き……大好きなの。 ……なん、で。 どうか、忘れないで……私があなたを、愛していると言うことを。 どんなに遠く、離れていても……私はずっと、あなたのことを想っているということを。 ……。 愛しているわ……ジュピター。 ……いい、においが、する。 然う……? ……うん、すごくいいにおい。 昔の、あなたも……。 ……このにおい、しってる。 然う、言って……。 ……まー、きゅりー。 ……。 ねぇ、おねえちゃん……。 ……なぁに? あの……あの、ね……。 うん……。 ……いっしょに、いて。 ……。 あたしと、いっしょにいて……いてよ。 ……ごめんなさい、それは出来ないの。 どうして……。 ……私は、この時代には、居ないから。 ……? けれど……また、会いに来るわ。 あなたが泣いている時に、また……。 ねぇ、いっしょに、いてよ……。 ……あなたの中に、私が、生きている限り。 いてよ……やだよ、ひとりは、やだよ……。 ……ありがとう、ジュピター。 あ……。 私を……の、中に……いて、呉れて……。 ま、まって……。 ……いつか、私の…………が、あなたの、傍に……。 まって、まってよ……おいて、いかないで……。 いつか、きっと……かならず。 やだ、まって、まって、まってよぉ……! ……だから、さようならは、言わない。 あ、あ、あぁ……。 ……ジュピター、私の。 あぁぁ……! …………、ひと。 ……。 ……まこちゃん。 …………、リー。 あ……。 ……亜美ちゃん。 大丈夫……? ……懐かしい夢を、見た。 夢……? うん……昔の、夢。 ……そう。 亜美ちゃん……。 ……ん、……まこちゃん。 よかった……。 ……。 ……ん。 ……。 あみちゃん……? ……なみだ。 あぁ……。 ……いや、だった? ううん……ぜんぜん。 でも、しょっぱいだろ……? ……ううん。 そっか……。 ……。 ……ふふ、くすぐったいな。 あの……何か、飲む? ん……いいや、ありがとう。 ……。 それより、さ……。 ……あ。 抱き締めてもらっても、良い……? ……。 だめ……? ……ううん、だめじゃない。 ありがと……。 ……。 ……わ。 ごめんなさい……苦しかった? ううん……へいき。 ……苦しかったら、言ってね。 うん……。 ……。 ……やわらかい。 あの……まこちゃん……。 あ、くすぐったい……? ……ううん、だいじょうぶ。 ん、よかった……。 ……どんな夢、だったの。 ……。 ……ごめんな 小さい頃の、夢だよ。 ……。 両親が、死んで……泣いてた頃の、夢。 ……ごめんなさい。 どうして、謝るのさ……。 ……。 ……亜美ちゃんだから、教えるんだ。 亜美ちゃん、だから……。 まこちゃん……。 ……あぁ、いいにおい……安心、する。 ……。 ねぇ、このまま眠ってもいい……? ……うん。 ありがとう……。 ……。 ……でも、その前に。 ……? キス、してもらってもいい……? ……。 ……だめ? う、ううん……。 ……それじゃ。 ……。 ……。 ……まこ、ちゃん。 ねぇ、亜美ちゃん……。 ……な、に。 あたしを……愛してくれて、ありがとう。 ……。 ずっと、そばにいてくれて……ありがとう。 ……ずっと、そばにいるわ。 ずっと……。 ……あいして、くれる? 愛してるわ……ジュピター。 ……。 ……だから、あなたも。 あぁ……ずっと、愛しているよ……マーキュリー。 -Kokoro(現世1) ……。 ……怖いのかい? ……! それとも、苦しいのかい……? ……あなた、は。 やぁ。 ……だれ、ですか。 私が、誰かは……今は、どうでも良いことだ。 ……。 話、聞こうか。 ……いいえ、大丈夫です。 然うか。 ……何故、あなたが。 さぁて、どうしてだろうね。 ……はぐらかすおつもりですか。 言っても良いが……。 でしたら、 言うことで余計、君は苦しむことになるかも知れない。 そんなこと、ありません。 然うかい? ……そうです。 はは、其の目は変わらないなぁ。 ……触らないで下さい。 あぁ、すまない。 手が、勝手に。 ……もう一度、聞きます。 どうして、あなたが……私の、夢の中に。 答えは、ひとつだけだよ。 ……。 聡明な君のことだ……私の口から言わずとも、分かっているのだろう? 分かりません。 本当に? ……。 本当は、分かっているのだろう? だからこそ、苦しいのだろう? ……あなたと、あのひとは、違う。 あぁ、然うだ。私とあの子は、違う。 だからこそ、ね。 ……! 私は、君を慰めることが出来る。 私は……君を、心から、愛しているから。 ……やめて。 どうして、欲しい……? やめて、あなたはあのひとじゃない。 然うだと、言った。 私が、好きなのは……。 ……。 ……好き、なのは。 其れ程までに、想っているのなら。 ぁ……。 ……其の想いを、ぶつけてやるべきだ。 そんな、こと……。 出来るさ。 ……。 君なら、出来る。 ……私は、あなたが愛したひとじゃ、ない。 然うだね。 良く似ては、いるが……彼女とは、違う。 それなのにどうして、私のことを 其れが、私の誓いだからだ。 ちかい……。 かつて、私は彼女を愛した。いや、今でも愛している。 私は彼女を幾度も、求め……彼女もまた、私を幾度も求めて呉れた。 しあわせだった日々に戻ることはない、けれど、あの輝きは今でもずっと私の中で生きている。 息衝いている。 ……だからっ、て。 私の、愛し子。 あのひとの中で、それが、生きていることなんて……。 ……其の時は、其の時さ。 ……。 もう一度、惚れさせてやれば良い。 過去なんて、因果なんて、それこそ宿命なんて、関係なく……あいつを、君に惚れさせてやるんだ。 ……私と、あのひとは あぁ、面倒だな。 ……。 あいつ、と、君。 大切なことは、其れだけだよ。 ……そんな簡単なことでは、ないのです。 簡単さ、難しく考えることを止めれば良い。 それが、出来るのなら、 君の涙は、どんな石よりも、美しいけれど。 ……いや、さわらないで。 拭うのも、駄目かい? ……。 はは、矢張り君は……。 ……? あぁ、参ったなぁ……こんなに、嬉しいものだとは。 ……泣いて、いるのですか。 まさか。 ……。 ひとつ、昔話をしようか。 ……結構です。 まぁ、然う言わず。 夢から醒めるまでで、良いから。 ……それって。 最後までは、話せないかも知れないが。 ……。 ありがとう。 ……。 さて、どれを話そうか。 ……決めて、いないのですか。 いや、話したいことが沢山あり過ぎて……ふむ、どうしたものか。 ……悩んでいる間に、目が醒めてしまうかもしれませんよ。 はは、其の時は其の時だな。 ……。 ん、なんだい? ……なんでも、ありません。 然うか。 ……ひとつ、聞いても良いですか。 あぁ、良いよ。 どうして、私の夢の中に。 ……。 ……何故、現れたのですか。 どうしても、私の口から聞きたいのかい? ……。 ……良く、似ているな。 教えて。 ……。 ……教えて。 はぁ……全く、しょうがない。 ……どうして、ですか。 君の中に、私が生きているからだよ。 ……私は、あなたのことを知らない。 其れでも、私は、君の中で息衝いている。 ……私の想いは、私だけのものではないと言うの。 いや、君の想いは君だけのものだ。 私があのひとを好きになったのは、誰かの想いの残滓のせいだと言うの。 違うよ。 君があいつを好きになったのは、あくまでも、君の やめて。 いつかの残滓などでは、ない。 ないんだよ。 ……前世とか、使命とか。 ……。 そんなの、要らない……要らないの。 あぁ……然うだね。 私は、今を、生きているのに。 どうして……どうして、なの。 メル……いや、マーキュリー。 違う、私はマーキュリーじゃない。 私は……水野亜美、よ。 然うか……其れが、今の君の名か。 うん……良い名前だ。 ……。 君は、君として、今、どうしたい? ……私は。 あいつを好きになったこと、なってしまったこと……其れが、誰かの想いの残滓のせいだと、するのならば。 忘れてしまえば、良い。全部、忘れて……他の誰かを、好きになれば良い。 然うしたところで、誰も君を責めない。君は己が思うが侭に、生きれば良い。 そんな、かんたんに…… 望むの、ならば。 ……あ。 私は、消えよう。 君の、中から。 今、直ぐにでも。 ……。 其れでも、君があいつのことを愛しているのならば……其れは、君から生まれた想いに他ならないと言う証になろう。 誰かのものではなく、君だけの、たったひとつだけの、想いだ。 ……。 ……どうか、泣かないで欲しい。 わたしは、どうすれば、いいの……。 言ったろう……? 想いをぶつけてやれば良いって……。 ……ぶつけた、ところで。 あぁ、叶わないのは、悲しいな……。 ……あなたは、叶ったのでしょう。 うん、叶った……。 ……私の想いは、 やってみなければ、分からない。 動かなければ、何も、変わらない。 ……。 なぁ、然うは思わないかい? ……そんな、の。 まぁ、分かっていても……だな。 其れも、分かる。痛いくらいに、分かる。 ……。 想いは、叶ったが……先に進むのが、本当に、大変だった。 手を繋ぐだけで、どれくらい掛かったと思う? 繋ごうとすると、さっと手を引っ込められてしまうんだ。其れが幾度もだぞ? 流石の私だって、心が折れた。 が、どんなに心が折れようとも、進まなければならない。何故なら、都合良く事が進むことなんて、先ずあり得ないからだ。 何もしなければ、進まない。欲しいのなら、進むしかない。 ……どれくらい、掛かったのですか。 ……。 あの……。 ……君達の時間で言えば、凡そ三か月。 さんかげつ……。 ……本当に、大変だった。 本当に、想われているのか……分からなくなることも、多々、あった……。 ……。 あぁ、思い出しただけでも、泣きそうだ……。 えと……ごめんなさい。 いや、良いんだ……今となっては、良い、思い出……はぁぁぁ。 ……。 然う言う、わけだ……どんなに時間が掛かったとしても、動かなければ……。 ……ふふ。 うん……? ……。 何か、可笑しかったかい……? ……いいえ。 ……。 ふふ……。 ……やっと、笑った。 え……? 私が愛した、今でも愛している、笑顔だ。 ……ん。 大丈夫……大丈夫だよ、マーキュリー。 ……。 君が、あいつを、愛している様に……屹度、あいつも。 ……そんなこと、 私が、言うんだ。 信じろ。 ……あなたと、あのひとは。 あいつも、君のことを。 そんな気が、するんだ。 ……いい加減なこと、言わないで。 いい加減ではない、私は本気で言っているよ。 ……たちが、悪い。 ははは。 ……あぁ。 似ている、かい? ……とても。 泣きたくなるくらいに? ……あのひとが、あなただったら。 ……。 ん。 ……私は、いつまでも、君のことを愛している。 ぁ……。 ……君が、望むのなら。 だ、め……。 ……。 あなたには、こころから、あいしているひと、が……。 ……あぁ、然うだ。 私が愛するひとは、たったひとり……彼女だけ、だ。 ……。 君のことは……まぁ、然う言うことだよ。 ……どういうこと、ですか。 ……。 だか、ら……。 ……私と私の愛するひとは、ずっと、君を。 君達を、愛している……此の魂が在り続ける限り、ずっと。 ……。 ん……声が、聞こえるな。 そろそろ……か。 ……。 君にも、聞こえるだろう? 君を、呼ぶ声が。 ……こえ。 然うだ……。 ……。 良かった……此れならば。 ……ジュピター。 ……。 もう、いくのでしょう……? ……あぁ。 ……。 ……そうそう。 最後に、ひとつ……。 ……。 あいつの中に、私の愛するひとが、生きている。 息衝いている。 ……え。 然う、だとしたら。 君は、どうする? ……。 うん? ……それは、いや。 はは、いやか。 然うか。 ……。 マーキュリー。 ……私は、 いつか、きっと。 ……。 いつか、きっと……かならず。 ……いつか、なんて。 また、来るよ。 君が、泣いている時に。 ……。 まぁ、来ないかも知れないが。 ……本当にいい加減、なのですね。 言ったろう? 私はいつだって、本気なのだと。 ……あのひとと、全然、違う。 はは。 ……だけど、いつだって本気なところは。 来なかったら、寂しいと、思って呉れるかい? ……さぁ、どうでしょう。 でもまぁ、其の方が君にとっては良いことだろう。 私が来ないと言うことは、君の想いは……。 ……。 ……亜美ちゃん。 ジュピ、ター……。 ……! ……。 亜美ちゃん……! ……ぅ。 あ。 ……まこ、ちゃん? そ、そうだよ。 ……ごめんな、さい。 え、な、なに。 あまり……おおきな、こえは……。 わ、分かった……ごめんね、亜美ちゃん。 う、ぅん……いい、の。 ……。 わたし……どれ、くらい……。 ……三日間。 みっか、かん……そう……。 ごめん……ごめんよ……。 ……どう、して? まもれなかっ、た……。 ……。 マーキュリーのこと、あたし、守れなかった……。 ……あぁ、そんなこと。 反応、したのに……間に、合わなかった……ごめん……ごめん……ごめん、なさい……。 あやまらない、で……? けど、あたしが、もう少し早く、動けていたら……。 あなたは、あなたがやるべきことを、せいいっぱい、していただけ……だから、あやまらないで……。 精一杯、していたとしても……守れなければ、意味がない……意味が、ないんだよ……。 ……いみなら、あるわ。 ないよ……ないんだよ……マーキュリーを、守れなければ、なにも……ないん、だ……。 あなたが、いきてるじゃない……。 あたし、が……? ……わたしは、それだけで、いいの。 そんなの……っ。 ……。 ……いいわけ、ない……あたしが、生きていたって……亜美ちゃんが、いないのなら……なんにも、ならない……。 それでも、うさぎちゃんは……プリンセスは、まもれたのでしょう……? ならば、それで、いいの……いいのよ……。 ……いやだ。 まこちゃん……。 亜美ちゃんがいない世界なんて、あたしはいやだ……プリンセスを守れたとしても、亜美ちゃんがいないなんて……そんなの、絶対にいやだ。 ……。 だったら、あたしは……あたしは、亜美ちゃんを、マーキュリーを まこちゃん。 ……。 ……それいじょう、は。 分かってる……分かってるよ……こんなこと、言ってはいけない……そんなのは、痛いくらいに、分かってる……。 だけど……だけど……どうしようも、ないんだ……心がもう、限界、なんだ……。 ……。 どうしても、選んでしまいたく、なるんだよ……。 ……ねぇ、まこちゃん。 ……。 そばに、いてくれたの……? ……。 がっ、こうは……。 休んだ。 ……どうして。 出来ることなんて、何もなかった、けど。 それでも、そばにいたかった……ただ、それだけだよ。 わたし、よりも……。 ……学校なんて、あたし達にはもう必要ないじゃないか。 そんなこと、いわないで……。 だって、そうだろう? あたし達の未来はもう、決まってるじゃないか。 他に、ないじゃないか。 ……いわないで、おねがい。 ……。 ……。 ……亜美ちゃん、あたしは。 わたしたちは、どうすれば、いいのかしら……。 ……。 どうすれば、なんて、かんがえては、いけないのに……。 ……だって、しょうがないじゃないか。 ……。 あたし達は……人間、なんだ。 今を、生きたいと思うのが、普通だろう……それなのに、どうして……。 前世、なんて、もう、終わったことじゃないか……終わったことを、どうして……どうして、今を生きてはいけないんだよ……。 ……プリンセスが、いる、かぎり。 ……。 わたしたちは、もう……ふつうには、いきられない。 ぜんせいからの、しめいを、はたさなければならない……。 ……。 なにより……プリンセスが、いなければ……わたしたちは、であわな そんなこと、ない。 ぜいせいからの、つながりが、なければ……。 この想いは、誰かの想いの残滓なんかじゃ、ない。 ……。 この想いは、あたしだけのものだ。 前世からの繋がりがあったからこそ、亜美ちゃんに出逢えた、それは、認めるよ。 けど、けどね、この想いは、前世なんて、関係ない……あって、たまるか。 まこ、ちゃん……。 亜美ちゃん。 ……。 明日、どうなるか、分からないのなら。 ……。 亜美ちゃん、あたしは、 たたかって、けがをして。 ……。 ……いのちを、おとして。 それがふたりでだったら、まだ、いい。 ……。 だけど……ひとり、のこされるのは、いやだ。 ……。 いや、なんだ……。 ……そうやって、あなたは。 ……。 いつも、わたしをおいて、いくのね……。 ……ッ。 わたしだって、いやなのに……かってな、ひと……。 ……ごめん。 ねぇ、まこちゃん……。 ……なんだい、亜美ちゃん。 わたしね……あなたのことが、すきなの。 え……。 ずっと、すきだったの……だけど、いえなくて……。 ……。 あぁ、やっと、いえ…… ……。 ……な、に。 先に、言おうと、思ってたのに。 さきにっ、て……。 亜美ちゃんが目を醒ました時に、すぐに、言えば良かった……ずっと、言おうって、思ってたのに。 あ、あの……。 好きだよ、亜美ちゃん。 ……は。 ずっと、好きだった。 なん、で……。 いや、なんでって……。 ……きす。 そ、そりゃあ、亜美ちゃんのことが、好きだから……なんだけど。 ……。 亜美ちゃんに、好きって、言われたから……そしたら、からだが、勝手に……。 まこちゃんって……。 あ、も、もしかして、いやだった……? わたしのこと、すきだったの……? ……は? え、いつ、から……? ……ええ、と。 え……え? ……とりあえず落ち着こうか、亜美ちゃん。 ……。 あー……どうしよう、かな。 ……わたし、ずっと、かんがえてて。 あたしも、考えてたよ。 まこちゃんが、わたしのこと、すきだなんて……おもいも、しなくて。 うん、そうだと思ってた。 だ、だって、わたしたちは、どうせい、だし……しめい、だって。 そうだねぇ。 な、なのに…………え、えぇ? 亜美ちゃんは、基本的に、難しく考えちゃうところがあるよね。 もっと単純に考えればいいのに。 ……。 大切なのは、亜美ちゃん、と、あたし。 ただ、それだけだよ。 ……あぁ。 同性とか……使命とか、そんなの、考えていたら……。 ……もっとはやく、いえて、いたら。 え、なに もっと、はやく……キス、してもらえたの。 は……。 ……はやく、いえば、よかった。 あ、あ、亜美ちゃん……? ……わたし、ばかみたい。 いや、ばかではないと思うけど……ちょっと難しく考えちゃうって、だけで。 ……。 え、えぇと……。 ……。 ……もういっかい、してもいい? ……して、くれるの? あ、亜美ちゃんが……したいと、思ってくれ したい。 あ、うん、そっか……。 ……。 そ、それじゃあ……。 ……ん。 ……。 ……。 …………。 …………は、ぁ。 ……。 ……はじめてより、ながい。 い、いやだった……? ……すこし、くるしかった。 ……。 きすって……こきゅうするのが、むずかしいのね……。 ……なんども、すれば。 なれるの、かしら……。 ……たぶん。 だったら……。 ……。 ……なんども、してくれる? 亜美ちゃんが、望んで、くれるなら……。 ……。 亜美ちゃんって、意外に……。 ……なぁに? ……。 まこちゃん……? どうしたの……? ……覚悟、しておいてね。 かくご……? 何度も、してあげるから。 ……。 でも、亜美ちゃんからも うん。 ……あ。 ふふ……。 ……う、わ。 なに……? ……かわいい。 ふふ……なぁに、それ? う……っ。 もぅ、まこちゃんったら……ふふ……ふふ……。 ……まいった、な。 はぁ……。 ……と。 ……。 しんどい、かい……? ……ねぇ。 ごめん、目を醒ましたばかりなのに……。 マーキュリーは、いる……? ……マーキュリー? あなたの、なかに……いる? ……うん、いるよ。 いや。 ……へ。 いや。 えと、マーキュリーって、亜美ちゃんのこと、なんだけど……。 ……。 言ったろ……あたしの想いは、誰かの残滓ではないって。 ……ほんとう、に、 ……。 ん……。 ……。 まこ、ちゃ……。 ……亜美ちゃん。 ん……。 ……これで、分かった? ……。 え、と……。 ……わからない、わ。 あ……。 きすされて、わかること……? わからなきゃ、だめなの……? ……。 あと……どうして、かんだの? きすって……くちびるをかむもの、なの……? ……。 まこちゃん……? ……うん、恥ずかしくて死にそう。 え……? ……あぁぁぁぁぁぁぁ。 しんじゃ、いや。 ……え。 いやよ、まこちゃん……。 あ、いや、本当に死ぬってわけじゃ……。 ……しなない、で。 し、死なない、あたしは死なないよ、うん、死なない死なない。 ほんと……? ほんと、ほんと。 それじゃあどうして、死にそうだったの……? や、それは……。 それ、は……? ……あまりにも、恥ずかしかったから。 恥ずかし……? ……自分の行動が、あまりにもくさすぎて。 くさい……? と、兎に角、あたしは死なないから。 だ、大丈夫だから。 そう……よかった。 ……くっ、いちいちかわいいっ。 あぁ、そうだ……ねぇ、まこちゃん。 な、なに……。 わたし、もうだいじょうぶだから、がっこう 亜美ちゃんが行けるようになったら、一緒に だめ。 ……だって、そばにいたいんだよ。 ……。 い、いいだろ……? 勉強なら、亜美ちゃんに教わればなんとかなるし……ね、ね? ……もぅ。 やった。 いいって、いってな…… ……。 ……もぉ。 好きだよ。 ……。 大好きだ……亜美ちゃん。 ……うん、わたしもすき。 ……。 ……。 ……亜美ちゃん。 わたしたちには、はたさなければならない、ぜんせいからの、しめいが、ある……。 ……うん。 それ、でも。 ……。 わたしは、いまを、いきたい……まこちゃんと、いっしょに。 ……うん、あたしも。 まこちゃん……わたしと、いっしょに、いきて。 うん……生きよう、ふたりで。 ……ずっといっしょに、いまを。 今を、一緒に生きよう。 あたし達は、ずっと、一緒だ。 ……あぁ、よかった。 亜美ちゃん……? ……これで、もぅ。 亜美ちゃん……? 亜美ちゃん……? ……。 亜美ちゃ あのひとはもう、こないのかしら。 あ……? ……。 ……あのひとって、だれ。 ……? あのひとって、だれ。 ……。 ねぇ、だれなの。 ……ジュピター。 ジュピターって、だれ。 ……。 ……て、ん? ほかに、いるの……? ……前世の、とか? もぅ……ばかね。 だ、だって、あのひとって、言うから……。 ……ねぇ。 言うから、さ……。 て……つないで。 ……。 て、つないでいて……まよわない、ように。 ……うん、いいよ。 ありがとう……すきよ。 どういたしまして……あたしも、すきだよ。 ……ん。 ……。 な、に……? ……あとが、ね。 ……? あと……て? ……とても、きれいだとは、思うけど。 ん……どうして、くちびるでするの……? ……ちょっとした、おまじないだよ。 おまじない……? ……そ、おまじない。 ふふ……くすぐったい……。 あ、こら……動いちゃ、だめだよ。 だって、くすぐったいんだもの……。 だーめ。 や……だめ……。 ……じっと、してて。 ね……くすぐったい、わ……。 ……もうすこし、だから。 まこ、ちゃん……。 ……はい、おしまい。 おし、まい……? ……そ、おしまい。 ……。 ……もっと、して欲しい? ……。 亜美ちゃん……? ……もっと、して。 えっ……? ……して、ほしい。 ……! だめ……? ……じゃ、ない。 ん……。 -Pain(現世・名字呼び) 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。 沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。 ……。 奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。 猛き者も遂にはほろびぬ、偏ひとへに風の前の塵におなじ。 ……。 ……水野さん。 ……。 そろそろ、落ち着いて……勉強を教えてくれると、助かる、かな。 ……全部、木野さんのせいじゃない。 だから、それは、謝ったろ……? ……謝って欲しいわけじゃ、ない。 けど、全部、あたしのせいだって。 それに、あたしにはそれしか 謝るべきは、あなたじゃ、ない。 ……そうは、言ってもなぁ。 どうして……どうして、平気でいられるの。 いや、平気ってわけじゃないけど……さっきも、言ったけどさ。 慣れ、なんて。 そんな、の。 いちいち、気にしていたら 気にしては、いけないの。 いけないとは、言わないけど。 だけど、それを続けていたら、心がもたないよ。 ……だから、慣れてるなんて、言うの。 まぁ、そうかな。 ……納得、出来ない。 出来るわけが、ない……。 ねぇ水野さん、お願いだからそろそろ泣き止んで欲しいな……。 涙が、勝手に、溢れてくるだけよ。 好きで、泣いているわけじゃないわ。 いや、それはそう、なんだろうけど……。 木野さんが……木野さんが、平気だなんて、言うから。 それにさ、こんなのは今に始まったことじゃ こんなの、間違ってる。 ……。 ……間違ってる。 はぁ……どうしたもんかな。 ……。 あのさ、水野さん。 ……なに。 もう一度、言うけど……そんなに、気にしないでよ。 ……! だから……! あたしはさ、水野さんが泣いてくれる、それで十分なんだ。 すごく、嬉しいんだよ……だから、それ以上のものは、望まない。 ……そんな話を、してるんじゃない。 水野さんが、あたしの傍にいてくれる。 それだけで、あたしは 木野さんには、非がないのに! 全然ないのに、それなのに!! ……あぁ。 それなのに、どうして……どうして、木野さんが責められなければ、ならないの……。 ……そういうもの、だからだよ。 そういうものって……! 怒られやすいひとと、怒られにくいひと。 ……。 同じことをしたってさ、怒られるひとと怒られないひとが、いるだろ。 それと、似たようなものだよ。 だから、それが、間違って だけど、それが、現実なんだ。 間違いだから、正すべきだと 間違いだと、気が付かないんだよ。 気が付かないのならば、 気が付いてないひとに気付かせて、尚且つそれは間違いだと分からせるのは、無理だ。 ひとは、思った通りになんて、 じゃあ、黙って見過ごせと言うの。 何も悪いことをしていない木野さんが、責められるのを、 水野さんの正しさが、すべてのひとに、届くことなんてない。 水野さんの思い通りになんて、ならないんだ。 ……ッ。 あたしのことよりも、あたしのせいで、水野さんが傷付く 私は、ただ……! ……。 私は、ただ……木野さんの善良さを、蔑ろにされるの、が……。 ……。 ……悲しいだけ、よ。 水野さん……。 ……すべてのひとに、分かって貰おうなんて。 そんなこと、出来ない……出来るわけもない……それは、分かっているの……。 ……。 分かって、いても……。 ……あたしには。 ……。 水野さんが、いる。 ……木野さん。 やっと、見つけた……あたしだけの、ひと。 ……。 ……水野さんがいてくれれば、あたしは、平気なんだ。 平気じゃないことでも、平気で、いられるんだ……。 平気じゃないことを、平気だなんて……、 ……水野さんが、あたしを、受け入れてくれて。 あたしを、好きになってくれて……。 ……。 あたしの想いは、報われた……初めて、報われたんだ……。 きのさ…… ……。 ……まこ、と。 怒ってくれて、泣いてくれて……ありがとう、亜美。 ……。 ……はは、顔がぐちゃぐちゃだ。 だれの、せい、で……。 ……これじゃ、腫れちゃうね。 だから、だれの……ん。 ……。 ……せきにん、とって。 ……幾らでも。 ……。 とりあえず……温かいタオルと冷たいタオル、用意しようかな。 念の為、言っておくけれど……こすっては、だめだよ。 余計に、腫れちゃうからさ。 ……そんなの、言われなくても。 待ってて、すぐに用意するから。 ……。 ねぇ、水野さん。 ……なに。 平家物語ってさ、どこか似てると思わない? ……なにに。 あたし達の、前世に。 ……。 なんとなく、だけど。 ……平家が滅んでも、この世界は続いているわ。 まぁ、そうなんだけど。 ……あの滅びは、あの世界に生きるすべてのひとを、巻き込んでしまった。 事の発端を考えれば……理不尽、だよねぇ。 ……滅ぶのは、私達だけで良かった。 ……。 ……いつか、また、この世界も。 それは、困るなぁ……。 ……だって、世界よりも。 まぁ、分からないわけでも、ないんだけどね……。 ……。 ……あたしだって、使命よりも。 ……。 ね……どれくらいのひとが、生まれ変わったんだろう。 さぁ……分からないわ。 生まれ変わったとしても、今の時代とは、限らないでしょうし……。 そっか……そうだよね。 ……それこそ、平安時代かもしれないわよ。 はは、そうかも。 ……ところで、お勉強のことなんだけれど。 え、こんな時でも……? 教えて欲しいと言ったのは、木野さんでしょう? まぁ、言ったけど……今日はもう、いいんじゃないかな。 分からないところをそのままにしておくのは、 許せない、か。 はい、お待たせ。 ……ありがとう。 温かい方から、交互に当ててやるんだよ。 ……知ってる。 寝る前に、化粧水もつけておこうか。 ……。 腫れないと、いいな……。 ……ごめんなさい。 うん……? ……。 水野さん……? ……なんでもない。 そう……? ……そう。 そっか……。 ……。 それじゃ、少し早いけど、ごはんの支度でもしようかな。 ……だめ。 ん? ……ここに、いて。 いいけど……。 ……けど、なに。 いいよ。 ……。 と……。 ……ささえて、なにもみえないから。 ん……任せて。 ……。 気持ち、いいかい……? ……うん。 ね……。 ……なに。 お勉強、今日はやっぱり ……明日、朝からやるわ。 う、わぁ……。 ……覚悟、しておいてね。 はい……。 ……よろしい。 でも、起きられるか 木野さん? ……はぁい。 ふふ……。 ……。 ん……なに。 ……やっと、笑ったなって。 ……。 キス、していい? ……意味が、分からないわ。 意味は、キスがしたい。 ……意味が、分からない。 ……。 ……していいなんて、言ってない。 言葉では……ね。 ……勝手に、読まないで。 結構、分かりやすいんだよ……水野さんって。 木野さ、ん……ん、ぅ……。 ……。 ……ちょっ、と。 ごめん、昂ぶってる。 ……は。 と言っても、キスしかしないよ……今は、ね。 ……もう、した、わ。 キスと、言っても……色々、あるだろう? する場所も……唇だけとは、限らないしさ。 これ以上、は……ん、だめ……よ。 ……その気に、なってしまうから? ……。 ……そう? ばか。 ……お、と。 ちょうしに、のらないで。 ……亜美。 ぅ……。 ……名前を、呼んだだけだよ。 おもしろ、がって……。 ……ん、そうだねぇ。 まこと。 ……はい、もうしません。 ……。 ……続き、後でしても? ……だめ。 それは、酷く脆かったよ。 ……。 ……小さい頃から、力は強かったみたいなんだけど。 両親が死んだ頃から、徐々に……いや、飛躍的に強くなった。 ……。 例えば、マグカップ……あたしとしては普通に持ったつもりだったのに、持つところがあっさりと割れちゃってさ。 ちょっと前までは壊れなかった物が、同じように触れているのに、簡単に壊れるようになってしまって。 小さかったから、どうしてそういうことになるのか、うまく飲み込めなくてね。 それでもその度に、壊してしまった悲しみと、諦めのような気持ちで心がいっぱいになるんだ。 ……。 防衛本能とでも言うのかな、それもすごく強くなった。 親の庇護を失ったせいかも知れないし、そうじゃないかも知れない。 ……。。 あたしは、両親が死んでからは、熟睡することが出来なくなった。 いつだって眠りが浅くて、物音が……それがどんなに小さな音だったとしても、すぐに目が覚めた。 ひとの気配にも、酷く敏感になったよ。それは、お前の敵だと……あたしに、訴えてくるんだ。 おかげで、ひとを信じられなくなった。 ……。 お約束のように、たらいまわしにされてさ。 邪魔になるのだったら、最初から、施設にでも入れて呉れれば良かったのに。 あたしの人間不信は、深まっていくばかりだったよ。 ……。 最後は母方の祖母に引き取られた。祖母は、すごく、優しかったよ。 それでも最後になってしまったのは祖母が高齢だったから、どうせ育てられないと、周りが反対したからだ。 ……祖母以外の奴らは、どうせ、両親の遺産が目当てなだけだったくせに。 ……。 料理の基礎は、祖母に習ったんだ。ひとりになっても困らないように、それが祖母の口癖だった。 弁護士を法定代理人として立ててくれたのも、管理をしてくれていたのも、祖母だったんだよ。 だから、親族のやつらは両親の遺産に手を出すことが出来なかったんだ。 ……。 両親が生きていた頃、祖母にはあまり会ったことがなかったんだけど……本当に、優しくしてくれた。 だから、祖母の家にいた頃は、いくらかは眠れていたと思う。 布団がね、いつもふかふかで、いつだっておひさまのにおいがして……気持ち、良かったっけ。 ……。 ある日、あの男がふらっと帰ってきた。祖母の息子で、母の……兄に当たる男だ。 その男は家庭を持たず、定職にも就かず、借金までこさえて……ずっと、ふらふらしてて。 それで、祖父に家を追い出されたんだ。 ……。 当然、祖母は良い顔をしなかった。しなかったけど、追い出す程の力はなかった。 住み付くことはなかったけど、時々、上がり込んでは家の中を漁っていくようになった。 ……。 その男の目が、あたしは大嫌いだった。 その男が来るようになってから、熟睡することも、なくなった。 兎に角、あたしの本能はずっと警鐘を鳴らし続けていた。 いつ、祖母に手を挙げるか、いつ、あたしに、危害を加えるか。 あたしはずっと、警戒し続けた。 ……。 そして、あの夜……あたしは、あたしに伸びてきた男の腕を、圧し折った。 腕を圧し折って、その流れで首に手を掛けた時、祖母の声が聞こえた。 祖母の声が聞こえなければ、あたしはそのまま、首を圧し折っていただろう。 ……。 祖母は大事にはしなかった。ただ、あたしに泣きながら謝った。 祖母は何も悪くないのに。 ……。 それで……あたしは、ひとりで生きようと決めた。 両親が遺してくれたもので、なんとか、大人になるまで。 ……。 そう決めたあたしは、荒れに荒れたよ。 祖母以外の人間のことが、信用出来なくなっていたと言うのもあるけど、何より、あたしはあたしが嫌いになっていた。 ……。 喧嘩をしては、片っ端から、叩きのめした。特に女に厭らしく絡むような男は許せなかった。 そうそう、鼻の骨ってね、簡単に折れるんだよ。折れると、鼻血が止まらなくなるんだ。 手が汚れるのは、嫌だったな……。 ……。 警察にも何度か世話になった。祖母にも連絡がいって……ひとりで生きるつもりだったのに、何度も迷惑を掛けて。 それで本当にひとりになる為に、祖母から離れて、この町に来たんだ。 と言っても、祖母の力がなければこの部屋は借りられなかったんだけど……。 ……おばあさまは、ご健在なの? うん……元気だよ。 ……そう。 ま、そんな風にしていたからさ、今、こういうことになっているのも……全部、あたしのせいなんだ。 自業自得、なんだよ。 それは違うわ。 違わない。 本当だったらあたしのような人間は、水野さんに、近付いてもいけないんだ。 違う。 何が、違うの? 確かに、喧嘩をする度に相手を叩きのめしたことはやりすぎだと思うわ。 けれど、木野さんは……無意味な喧嘩なんて、しなかったのでしょう? ……どうして、そう思う? 自分を守る為、或いは誰かを助ける為に。 木野さんがその力を使う時は、いつだってそうだったと思うの。 今回のことだって、 いつもそうだったとは、限らない。 けれど、理由もなくひとを殴ったことなんて、ないでしょう? ……さぁ、どうだろう。 今の間が、その証。 思い当たることなんて、ないのでしょう? ……憶えていないだけかも、知れない。 ううん、木野さんだったら憶えていると思うわ。 本当に、無闇矢鱈に力を使っていたとしたら……木野さんだったら、忘れないと思うの。 本当のあたしは、水野さんが思うような、 だって、見てきたんだもの。 長い時間では、ないけれど……それでも、あなたの傍であなたを見てきた。 あなたは……その力を、正当な理由もないのに使うなんて、そんなことしない。 ……まいったな。 ねぇ、そうでしょう? ……そうだったら、いいな。 それに、正当防衛というものもあるのよ。 過剰防衛も、あるけどね。 だとしたって、自分の若しくは誰かの身を守る為だったのでしょう? ……。 私は、ん。 ……もう、それくらいで。 ……。 ……水野さんに言われると、そうなのだと、思ってしまうよ。 思えば、いいじゃない。 けど、 けど、じゃ、ない。 ……。 ……あなたは、優しいひとよ。 誰よりも……優しいひと、なの。 それは……水野さんにだけ、かもよ。 いいえ、おばあさまにもでしょう? ……。 ね、そうでしょう? あー……。 いつか、お会いしてみたいわ。 木野さんのおばあさまに、会ってみたい。 え、えぇ……。 だめ? だめじゃ、ないけど……驚くだろうなぁ。 会わせて、くれる? う、うん……。 約束、ね? ん……約束、だ。 ふふ。 ええっと……。 ……今回のことは、まだ、許せない。 ううん、許すことなんて、きっとない……。 ……。 ね、木野さん……平気じゃないのなら、平気だって、言わないで。 私にだけは……言わないで。 ……。 ん……。 ……平気じゃ、ない。 ……。 平気じゃない、から……抱き締めて。 ……ええ、いいわよ。 ……。 ね、木野さん……今は、どうなの? ……なに、が? 眠れるようには、なったの……? ……みずのさんと、いっしょのよるなら。 今夜も、眠れそう……? ……うん、たぶん。 ……。 あたし、さ……ジュピターの生まれ変わりで良かったって思っていることが、ふたつだけ、あるんだ。 なぁに……? ……ひとつは、守れる力を小さい頃から持っていたこと。 ……。 もう、ひとつは……水野さんと、出逢えたこと。 ……ふふ。 なに……。 ……言うと、思った。 もう……読まないでよ。 だって、分かりやすいんだもの……。 ……ちぇ。 ……。 あぁ……あったかいな……それに、いいにおいだ……。 ……暑くない? ん……ぜんぜん、へーき。 水野さんは……? ……私も、平気。 じゃ、今夜はこのまま眠ってもいい……? ……。 ……? 水野さん……? ……別に、いいけど。 んー……。 ……。 ……期待、してた? ええ、してたわ。 ……え? と、言ったら? ……それは、もちろん。 ……。 期待に応える、かな。 ……でしょうね。 それじゃ、む。 ……けど残念、してないわ。 むぅ……。 明日は朝から、お勉強……お寝坊は、出来ないの。 ……はい、分かってます。 ふふ……よろしい。 ……ま、水野さんの目が腫れてしまっても、大変だしね。 ……。 ん……? ……私は、あなたの代わり。 ……。 あなたが、いつか……出来るように、なるまで。 ……どういう、意味? さぁ……? ……。 さ、今夜はもう、寝ましょ…… ……。 ……もぅ。 水野さんから、して欲しかったんだけど、ね。 ……してあげようと、思っていたのに。 え、ほんと? でももう、しない。 おやすみなさい、木野さん。 ……。 ……。 うん……おやすみ、水野さん。 ……。 ……。 木野さん。 ん……なに? ……。 ……。 ……明日、寝坊したら許さないから。 分かってるよ……。 ……だから、しないと。 キスだけなら、いいだろう……? ……だめよ、色々されそうだから。 む。 ……今夜は大人しく、寝て? 今夜は、かぁ……。 ……ねぇ、木野さん。 んー……? ……授業を、さぼっていたのは。 ……。 やっぱり、なんでもない。 ……ここが、一番だよ。 ん……。 ……ここが一番、よく眠れる。 そ……。 ……嬉しい? どうして? ……そうかなって、思っただけ。 あぁ、そう……。 ……うん、そう。 それじゃあ……。 ……わ。 授業をさぼる理由は、もう、どこにもないわね。 ……。 ね……まこと? ……おかげさまで最近は全然さぼってないよ、亜美。 授業中も? ……ちゃんと、起きてます。 そ? ……そうだ、 ん……っ。 ……よ、と。 木野さん……。 ……愛しい胸元に、おやすみのキスをひとつ。 ……。 うん、いたい。 ばか。 後 |