-命の価値(前世) はぁ……。 マーキュリー。 ……ジュピター。 遅くなって、ごめん。 ……。 もう、大丈夫だよ。 ……ほか、は。 周りに居た奴らのことは、気にしないで良い。 ここいがい、も……。 無理に話そうとしないで。 呼吸するのも、苦しいだろう? けれ、ど……ん。 ……話は後にしよう、マーキュリー。 ジュピター……。 少し、休んでて。 大丈夫、直ぐに終わるよ。 ん……。 ……。 ジュピター……くすぐったい、わ。 あぁ……ごめん、よ。 ……。 ごめんよ……マーキュリー。 ……きて、くれたじゃない。 だけど……ん。 ……だいじょうぶ。 ……。 わたしは……だいじょうぶ。 ……うん。 いって……ジュピター。 直ぐに、終わらせるから。 ……うん。 終わったら、一緒に、お茶を飲もう。 えぇ……そう、しましょう。 とっておきのを、淹れるよ。 お菓子も、作るから。 たのしみに、して、いるわ……。 うん。 ……。 それじゃ、行ってくるね。 いって、らっしゃい……。 ん。 ……は、ぁ。 はぁ。 ……まだ、だめよ。 お前か。 ……ま、だ。 殺してやる。 ……さいご、まで。 殺して、やる。 …………。 マーキュリー……? ……ん。 今、大丈夫……? ……。 えっと……。 入って、来ないの? ……入っても、良い? 入りたくないのなら、無理にとは言わないわ。 ……。 来て、ジュピター。 ……うん、マーキュリー。 ……。 き、来たよ。 然うね……。 ……う。 こどもみたいな、顔。 うー。 適当に、座って。 マ、マーキュリーの。 うん? 隣が、良い……。 ……然う。 仕事、してたの? ええ。 未だ、本調子じゃないのに。 休んでなきゃ、だめだよ。 然うは、言っていられないもの。 それに、それを言うのなら、あなたもでしょう? あたしは、大丈夫だよ。 ほら、見て。 包帯、巻いているけれど? あはは。 隣、来る? ……。 来ない? ううん……行く。 じゃあ、来て。 うん……。 ……。 へへ……マーキュリーの、におい。 薬品のにおいの方が、強いでしょう? ううん、マーキュリーのにおいもちゃんとするよ。 そうかしら、自分では分からないわ。 あたしには分かるんだ。 ……相変わらず。 う。 鼻が、利くのね? うん……然うなんだ。 ……。 あのね、マーキュリー。 ……うん? とっておきの、持ってきたんだ。 一緒に飲もうと思って。 あぁ。 ね、飲むだろ? 然うね、頂こうかしら……丁度、何か飲みたいと思っていたところだし。 じゃあ、待ってて。 ん。 ~~♪ ……。 ね、食欲はある? 少し、なら。 良かった。 何か、作ってきて呉れたの? うん、然うなんだ。 一緒に食べようと思って。 然う……。 それから。 ……。 え、と……。 ジュピター。 な、なに。 私の顔を見るのが、怖い? ……え? 怖い? そ、そんなこと、ないよ。 なら。 ……あ。 見て。 マ、マーキュリー……。 ……やっぱり、怖い? う、ううん……。 なら……見て。 あ、う……。 私の顔を、見て。 ……。 ……。 ……メ、ル。 ユゥ。 ……ごめん、ね。 どうして? ……まもれ、なかった。 守って、呉れたじゃない。 もっと、はやく……もっと、はやく……。 ……あなたが、来て呉れたから。 あ、あぁ……。 ……私は、ここに、居るの。 メル……メル……。 涙目になってる。 だって……。 もう……大袈裟、なんだから。 だって……だって……。 ……これくらい、なんともないわ。 け、けど、きれいな、顔に……。 ……それとも、嫌い? え……。 顔に傷痕がある私は、嫌い……? そ、そんなことない……! ……本当に? ほ、本当だよ。嫌いになんて、なる筈、ないよ。 そのわりには、見て呉れなかったけど……。 そ、それは……。 ……やっぱり、嫌いになってしまった? なるわけ……ッ。 ……なるわけ? ない、ないよ……。 ……だったら。 メル……。 ……私に口付け、出来る? ……。 ん……。 ……出来る、よ。 くちびる、だけ……? ……くちびるだけ、じゃ、ない。 ……。 ……。 ……ふふ、くすぐったい。 ここ……もう、痛くない……? ……ええ、もう痛くないわ。 良かった……。 ……薬品臭くない? 大丈夫……メルのにおいも、ちゃんと、するから。 ……ねぇ、くすぐったいわ。 へへ……。 ……も、 ……。 ……ユゥ。 後、で……もっと、したいな。 ……あとでって、いつ? 夜……かな。 ……お茶を飲んだ後、では、なくて? いいの……? ……もちろん、だめ。 だから、夜って言ったのに……。 ふふ……知ってる。 ……一緒に、眠りたい。 ん……私も。 ほんと……? ……嘘だと、思うの? 思わない、けど……。 ……だけど、口付け以上のことはだめよ? わ、分かってるよ……。 ……それ以上のこと、しようと思っていたでしょう? 思ってないよ……メルは未だ、本調子じゃないんだから……。 でも、したいとは、思っているのでしょう……? ……。 ユゥ……? ……思ってる、けど。 ほら……。 ……でも、しないよ。 しても、良いのに。 え、良いの? ふふ。 メ、メル? ねぇ、ユゥ。 な、なに? 喉が、乾いたわ。 え。 喉が、乾いたの。 あ、あぁ。 早く、貴女が淹れて呉れたお茶が飲みたいわ。 待ってて。今、淹れるから。 うん。 ねぇ、メル。 なぁに? 仕事、未だするの。 ええ、もう少しだけ。 無理をしてはだめだよ。 然うさせない為に、来て呉れたのでしょう? ……。 然ういうことに、しておいてあげる。 ……好き。 ん、なぁに? ……お茶、もう直ぐだよ。 そ……。 ……うん。 ……。 ……? メル……? ……ん、なんでもないわ。 メル! なんでもない、から。 ……やっぱり、未だ。 休んで、いれば……大丈夫、だから。 今日はもう、このまま休んで。 仕事なんか、しなくて良い。 でも、 マーズにはもう、言ってあるから。 だから、今日はあたしと休もう。 ……。 マーズも心配してた。 あまり無理はさせるなって。 ……マーズが。 然うだよ。 ……。 眉間にこう、皺を寄せながらね。 ……ふ。 想像、出来るだろ? ……そう、ね。 今日はもう、休む? ん……然うするわ。 うん! ……ねぇ、ユゥ。 なに、メル。 今日はもう、休むことにしたけれど……。 した、けれど? ……少し、話がしたいわ。 話? ……。 ……今回のこと、かい? ええ……だめ、かしら。 それは……。 ……心を休ませる為にも、話したいの。 ……。 他でもない、あなたと……話したかったの。 ……分かった、けど。 分かってる……無理は、しないわ。 ……約束、だよ。 ん……約束、ね。 ……。 ……。 ……はい、お待たせ。 ん……ありがとう。 ゆっくり、飲もう……ふたり、で。 ……あれらは。 ……。 目が酷く、虚ろだった……まるで。 ……意思が、ない? ええ……恐らく、は。 取り返すことは……? ……浄化の力を、もってしても。 消えてしまったものは、二度と、戻っては来ない……取り返すことは、出来ない。 なんにせよ、あたし達には出来ないことだけど……。 ……あれらは、依り代? 然う、だとするのなら……分かる気がするな。 何が……? ひとの意思を全く感じない、感じられない動きだった。 それこそ、空っぽな……ね。 ……感情をなくすことは、出来ないことではないわ。 頭を、弄られた者達……か。 ……。 ……。 ……けれど。 けれど……? あれらは然ういった者達ではなかった……と、思う。 ……。 あれらの意思は、感じなかったけれど……それでも、何かが、あの中で。 意思の、その代わりに、されているもの……? ……冥く、蠢く者達。 光を求めて、群がる者達……。 此度も、然うだとしたら……。 ……然う考えるのが、妥当かも知れない。 頭を弄られた者達の方が、若しかしたら、耐性があるのかも知れないな……なんせ、消される意思がない。 ……・。 意思はない……が、大義はある。 ……皮肉、ね。 あぁ……。 ……ただ。 問題は、この宮殿に仕える者達が、然うなったということだ。 ……。 ……然うでなければ、マーキュリーが居る場所まで。 ジュピター……。 あれらの中に……憶えてはいないが、あたしの部下も居たのだろう。 あなたの部下だけでは、ないわ……マーズや私の、部下も、また。 ……。 ……けれど、とりわけ。 ……。 ……。 ……ヴィーナス、か。 ええ……。 ……プリンセスやクイーンに最も近い、あいつの部隊の中から、何故。 或いは、そのせいかも知れない。 ……どういうことだい? 光に、最も近いが故に……多くの闇が、それを求めて群がってくる。 その数は……その深さも、濃さも、他とは比べものにならない……。 ……。 ……抗えずに飲み込まれてしまう者が出てきても、何等おかしいことではない。 然う、此度のように……私達で、さえ。 光が、強ければ、闇もまた、濃くなる……か。 ……或いは、自らその身を差し出す者も。 そんなこと、流石にあってはならないな……。 ……。 今までに、同じような事例は? ……ないわけでは、ないわ。 その時は……。 ……その時のクイーンが、いち早く動いて。 クイーン……。 ……。 ……青い星の動向は? 然う、ね……今の所、目立つことは何も。 ……目立たないことならば、何かあるのか。 闇を讃えている者達が、少しずつだけれど、増加している。 ……闇を? いつの時代にも、然ういった者達は必ず存在する……けれど、今回は。 ……規模が、広がっている? ええ……中には、王国を打倒しようとする動きも。 王国を……。 ……それ自体は、大した問題ではないわ。 そんなことは、ひとの歴史を見れば、良くあることだし……寧ろ、然うやって、新しい世は築かれるものだから。 今の国も、然う……混乱の中、多大なる犠牲を払って、生まれた。 今の国は、どれくらい……? 結構、長いだろう……? ……私達の先代よりも、もっと前からだから。 青い星の国にしては、かなり長い……か。 ……それと。 ん……? ……その冥い意思が、月の王国にも向けられている。 此方にも……? ……未だ、僅かだけれど。 然う、か……。 ……本当はこうなる前に、あなたにだけは、話しておきたかった。 気が付いて、話そうとした時に……此度のことが、起こった。 ……ええ。 此方に、冥い意思か……。 ……驚かないのね。 ひとなんて、そんなものだよ。 ……。 似たような話は幾つも、それも何度も聞かされたし……幾つも此の目で、見てきた。 今更、驚かない。 ……然う、だったわね。 闇を、讃える者達……それは、己の意思によるものか。 若しも、青い星の民の意思に基づくものではないとしたら……。 ……その可能性はない、とは、言い切れない。 そして……此度の、虚ろな者達と関係がないとも、決して。 あぁ……然うだろうな。 ……厄介だわ。 マーズとも、話さないといけないな。 ……要点だけは、一応、伝えてあるから。 ……。 ……けれど。 ヴィーナス、か。 ……部下の半数を、失ってしまったから。 はぁ……面倒、だな。 それでも……あのひとは、私達の。 こんな事態に、なっても……へらへら、笑っていそうだ。 笑いながら、誰かと……。 ……ねぇ、ジュピター。 ん……? ……彼女こそが、虚ろだと。 ……。 そんなわけないと、思うのだけれど……。 ……いや、言いたいことは分かる。 あなたも……? ……プリンセスが、酷く。 ……。 酷く、怯えていることがあるんだよ……それも、無意識に、ね。 ……ヴィーナスを? マーキュリーは、気付かなかったかい……? ……いえ、薄々は。 マーズは……マーズが、気付いていないわけ、ないな。 ……今、思えば。 ん? マーズはプリンセスから、ヴィーナスを離そうとしていたような気がするわ……あからさまにでは、なかったけれど。 ……気のせいじゃ、なかったか。 若しもそれが、淫蕩癖のせいではないと、したら……。 ……マーズは、何を知っているんだ。 知っていると言うより……彼女の勘が、然うさせているのではないかしら。 勘、か……マーズの勘は、当たるからな。 ……巫女星の姫だもの。 どうしたもの、か……とりあえず、三人で話す必要はありそうだけれど。 ……ねぇ、ジュピター。 ん、なんだい……? ……におい。 におい……? ……クイーンと、ヴィーナスの。 ……。 似ているような……混ざって、いるような……そんな気が、するの……。 ……。 ジュピターは、どう…… ……はぁ。 ジュピター……? ……勘弁、して呉れよ。 ……。 あたしは……あたしは、マーキュリーといつか、この務めを終えて。 師匠達のように、ふたりで、次を育てたいと……然う、思っていると、言うのに。 ……気が付いて、いたのね。 マーキュリーに言われて、確信に変わった。 なんせ、あたしの鼻は……マーキュリーにしか、反応しないからさ。 ……。 ん、マーキュリー……。 ……いつかふたりで、静かに終わりたい、と。 ……。 ……その為にも。 あぁ……すべきことを、しよう。 ……プリンセス、を。 分かってる……あたし達の、為にも……必ず、守る。 ……。 ……あぁ、疲れた。 ん、ジュピター……。 ……こういう話は、疲れるよ。 然う、ね……本当に、疲れるわ。 ……躰の、調子は。 少し、馴染んできた……と、思う。 ……然う。 変な感じ、ね……。 ……あぁ、最初は然うなんだ。 いつの間にか、馴染んでいるもの……? 気が付けば、ね……自分のものに、なってるんだよ。 まるで最初から然うだったように、さ……。 ……。 あたしはもう、分からなくなっているんだ……。 ジュピター……。 自分のものが、どれだったか……未だ、残っているのか。 ……残って、いるわ。 マーキュリー……。 例えば……あなたの、左目。 左、目……。 ……この目は、あなたが初めから持っていたものよ。 然う、か……。 ……いつか、私に呉れようとした目。 あぁ、そんなこともあったね……。 ……止めて、良かった。 はは……。 ……笑いごとじゃ、ないの。 ん……ごめん。 ……。 ……ねぇ、マーキュリー。 なに……。 ……師匠の左腕、憶えてる? ええ……憶えているわ。 躰の使用期限が、切れていたことは……? ……知ってる、先生も然うだったから。 ……。 ……だからこそ、私達が。 うん……。 ……。 もう、ね……うんざりだったんだってさ……。 ……。 期限が、切れていなくても……新しいのと取り替える、のは。 先生も、同じことを言っていたわ……。 ……今なら分かるよ、痛いくらいに。 ……。 あたしも……あたし達も、師匠達に選ばれなければ……然う、なってた。 ……うん。 はぁ……。 ……もう、休みましょうか。 うん……マーキュリーと、いっぱい、眠りたい。 ……ええ、私もあなたと。 でも、その前に。 ……。 少しだけ、ね。 ……疲れて、ないじゃない。 これは、別。 ……もぅ。 口付けだけなら、良いだろう……? ……薬品のにおいが、するから。 あたしは、鼻が利くんだ……ちゃんと、嗅ぎ分けるよ……。 ん……ジュピター。 ……口付け、だけ。 ……。 マーキュリーのにおいが、する……いいにおい、だ……。 ……ユゥ。 ……。 ……からだの、熱は? あぁ……少し、籠っているよ。 ……ごめんなさい。 良いんだ……本調子になった時に、また。 ……ん。 愛し、合おう……。 ……うん。 メル……。 ……。 ……生きていて呉れて、良かった。 ユゥ……。 ……愛してるよ、メル。 私も……愛しているわ、ユゥ。 ……仮令、どんなに傷だらけになろうとも。 -Teardrops(前世・少年期) ……メル? ……。 どうしたの? ……なんでも、ない。 なんでもない? ……。 目、どうかした? さっきから、気にしてる。 ……うぅん。 見せて。 ……ほんとう、に。 見せて、メル。 ……ぅ。 あ、閉じたらだめだよ。 ……。 目、開けて? ……ユ、ゥ。 んーーー……あ。 ……。 目、見せたくない? そんなに、いや? ……ほんとに、なんでもない、から。 なんでもなくないよ。 さっきから、しきりに目を気にしているだろ? ……。 分かるよ。 ……どう、して。 んー、どうしてかな。 でも、分かるんだ。 ……。 メルはさ、聞かないと、教えてくれないだろ? 聞いても、今みたいになんでもないって言って、教えてくれない時もあるし。 でも、本当は、なんでもなくないんだ。 ……わたし。 あたしね、メルにだったら、なんでもしてあげたいって思ってるんだ。 できることしか、できないけど、それでも、なんでもしてあげたい。 ……なん、でも。 うん、なんでも。 だから、教えてほしいな。 ……。 ね……メル? ……だけ、ど。 うん? め、めいわく、に、 なんか、ならないよ。いつも、言ってるだろ? それよりも、何もできない方が、いやなんだ。 何もしてあげられないかも、しれないけど……それでも、できるかぎり、何かしてあげたいんだ。 ユゥ……。 めいわく、かな? そ、そんなこと……。 じゃあ、教えてくれる……? ……。 どうしても、言いたくない……? どうしても言いたくないのなら……これ以上は、聞かないよ。 だけど、少しだけでも、言えそうだったら、言ってほしいな。 ……あの……ね。 なんだい? め、が……ごろごろ、するの。 目が、ごろごろ? ……ごみが、はいったんだと、おもう。 そっか、それで気にしてたんだね。 ……ごめんなさい、ユゥ。 うん? なんで? あ、あの……わたし、いちど、かえって その前にもう一度、見せてもらってもいい? ……ぁ。 いい? ……う、ん。 今度は、閉じないでね……。 ……ん。 んー…………ねぇ、メル。 な、なに……。 どっちの、目? あ、えと……ひだり、め。 そっか、左か。 ……。 んんーーーー……。 ……あの……ユゥ? メル。 な、なに……? しばらく、閉じないでね。 え……? それから……じっと、してて。 あ、ユゥ……。 ……。 ……ひゃっ。 あ。 いま、の……な、に。 ごみ、取ってあげる。 ……ご、み。 大丈夫だよ、メル。 け、けど……あ。 ……目、閉じないで。 ま、まって……まって、ユゥ……ぁ。 閉じないで、メル……。 ……っ、……ぅ。 ん……。 ……。 ……どうだろ、取れたかな。 ……。 ん……これ、まつげだ。 ……。 ねぇメル、目、まだごろごろする……? するようだったら、もう一度……。 ……も、ぅ。 もう……? ……だいじょうぶだと、おも、う。 ほんとに? ……ほんと、に。 んー……。 ……ほんと、よ。 へへ。 ……ユ、ゥ? よかった。 ……。 でも、水で洗ったほうがいいから……はい、水筒。 とりあえず、これで……。 ……ねぇ。 ん、なぁに? ……どう、して。 ? メル? なめた、の……? ……。 め……どうして、なめたの……。 あぁ。 それは、ね。 ……。 師匠に、そうすればいいって教わったんだ。 ……おししょうさん、に? うん。 目にごみが入った時は、目を舐めて取ってあげるといいって。 師匠もね、そうしてたんだってさ。 ……せんせい、に。 舐めてごみが取れたらね、きれいな水ですすいで……? ……。 メル……? ……。 ……え。 ……。 メ、メ、メル……? ど、どうしたの? 目、まだ、ごろごろする? それとも、痛い? 痛かった? ……。 い、いやだった? ご、ごめん、ごめんよ、メル。 ……。 な、泣かないで、メル、泣かないで……。 ……こんな、こと。 あぁぁ、ど、どうしよう……どう、したら……。 しちゃ、だめ……。 え……わ。 ……ほんとは、しちゃ、だめなの。 え、だ、だめなの……? くちのなかは、ざっきんが、おおいから……なめるのは、よく、ないの。 とくに、めは、せんさいで、せいび、だから…… ご、ごめん……ッ! あ。 ごめんよ、メル……! もう、しない、しないから……! ユ、ユゥ、 だ、大丈夫かな、大丈夫じゃなかったら……っ。 メ、メルの目、だめになっちゃったら、どうしよう……っ。 そ、そうだ、その時はあたしの目、あたしの目を……っ。 お、おちついて、ユゥ。 か、かわりに、あたしの目を、あげるよ……っ。 だ、だいじょうぶ、だいじょうぶよ、ユゥ。 できれば、しないほうがいいというだけのことだから、だから……あぁ、まって! いっそ、いますぐにでも や、やめて、ユゥ……ッ!! わっ。 お、おねがい、はやまらない、で……。 ……。 だいじょうぶ、だいじょうぶだから……ね、ユゥ。 ……ほんとに、大丈夫、なの? うん……だいじょうぶ、よ。 ほんとに、本当……? ……うん、ほんとに、ほんとう。 大丈夫じゃないのに、大丈夫って、言ってない……? ……いって、ないわ。 ……。 しんじて、ユゥ……。 ……ん、分かった、信じる。 あぁ……よかった……。 でも、もう、しない。 ……。 しない、から。 ……ごめんね、ユゥ。 な、なんで? ……わたしのために、してくれたのに……それ、なのに。 う、ううん、いいんだ。 ね、これからもさ、あたしがまちがっていることをしたら、教えてよ。 ちゃんと、おぼえるから。 ……。 絶対に、忘れないように、するから……。 ……ユゥ。 ねぇ、メル……。 ……ありがとう、ユゥ。 う、ん……。 ……え、と。 ごめんなさい、いま、どけ……あ。 ねぇ……メルの、からだ……。 ユゥ……? やらかい、ね……。 え……きゃっ。 メル……いいにおいが、する……。 ユゥ、どうしたの……? すごく、いいにおいだ……。 え……あ……。 やらかくて……いい、におい……。 ユゥ……ユゥ……? ね……メル……。 どう、したの……ユゥ……。 ここ……なめても、いい……? ……ぇ。 ねぇ……いい、よね? あ、や……。 ……。 ……ひ、ぁ。 んー……。 や、だめ……ん、……ん、ぅ。 ……あまい……すごく、あまい……。 あ……ん、だ……め……。 ……かわいい、な。 ユ、ゥ……やめ、て……ユゥ……。 ……もっ、と。 だ……め……。 ……メ、 だ、めぇ……っ! ……ぐっ。 おねがい……も、う……。 ……。 やめ、て……。 ……メ、ル? ……。 あたし、なにを……。 ……は、ぁ。 メル……? どう、したの……? ……なんでもない、の。 け、けど……。 ……それ、よりも。 う、ん……? ……わたし、おもいきり、たたいてしまって。 ん、んー……? あの……いたく、ない? あぁ、うん……いたく、ないけど。 ……よかった。 えーと……。 ……め、ありがとう。 あ、うん……。 ……もう、だいじょうぶ、だから。 うん……よかった。 ……。 えと、水筒の水……よかった、ら。 ……うん、ありがとう。 どう、いたしまして……。 ……。 あ、あのね……メル。 ……なぁに。 や、やっぱり、なんでも、ない……。 ……そう。 あ、あのさ……一度、帰る? ……うん、そうするつもり。 じゃ、じゃあ、一緒に。 ……ん。 ……。 ……ねぇ、ユゥ。 な、なに……。 ……。 メ…… ……。 ……ル。 …………めの、おれい。 はぁ……。 ……ユゥ。 メル。 おくって、くれて……ありがとう、ユゥ。 ううん、あたしがそうしたかっただけだから。 それでも、ありがとう……。 うん……。 ……。 えと……目、大丈夫? ん……だいじょうぶ。 そっか……よかった。 ……。 じゃあ、あたし……帰る、ね。 うん……じゃあ、またね。 ん、またね……。 ……。 ねぇ、メル。 ……なに、ユゥ。 明日、また……あの場所で、会おうね。 ……ん。 それじゃ……。 ……。 ……? ……あ、の。 メル……? よかった、ら……その。 う、うん……。 もう、すこし……いっしょ、に……いられ、ない……? ……! でも、いそがし、かったら……。 い、忙しくなんか……! ……きゃ。 ないよ、ないから……だから、一緒にいたい。 ……っ。 いても、いい……? ……いっしょに、いたい。 やった……! ……でも、ほんとうに、いいの? いいんだ。 おししょうさんは、だいじょうぶ……? 大丈夫だよ、気にしないで。 ……けど、しょくじのしたくが。 まだ、時間はあるから。 あたしより、メルは大丈夫かい? わたしは……。 先生の授業、まだあるんだろう? 大丈夫、かい? ……はじまるまで、まだ、じかんはあるから。 いまは、ただ、ユゥと……。 ……。 いっしょに、いたい……の。 ……メル。 だけど、かえらなきゃいけなくなったら、いつでも……ん。 ……いつでも、いいの? え……? ……明日とかでも、いい? あ、あした……? ……そう、明日。 ……。 明日まで、一緒にいてもいい……? ……あし、た。 だめ、かな……。 ……いたい、けど。 そう、だよね……ごめんね、メル。 ……。 え、と……。 ……ユゥが、だいじょうぶなら。 あしたまで、いっしょに……。 ほ、ほんとう? だけど……いっかい、かえったほうがいいとおもうわ。 しょくじのことも、あるし……。 分かった……そう、するよ。 ……。 ごはんの支度をして、メルの先生の授業が終わった頃にまた、来るよ。 ……うん、まってる。 だけど、今はまだ、帰らない……。 ……。 ん、メル……? ……あの、そろそろ。 ……? ……はな、して。 あ。 ……。 ご、ごめん、苦しかった? ……ううん、へいきよ。 気がつかなくて、ごめんね。 ううん、いいの……それより、すわって。 えと……どこに、座ればいい? どこでも、いいわ。 どこでも……んー。 ユゥ、なにかのむ? ここ、いいかな。 え……。 あ、だめ? う、ううん……いい、わ。 ありがと。 ……。 メルはいつも、ここで寝てるんだね。 ……う、ん。 なんだか、いいな。 ……いい? うん、すごくいい。 あたしのは、こんなにふかふかじゃないしさ。 いいにおいも、しないし。 ……よかったら、ねてみる? え、いいの? う、ん……ユゥが、してみた わぁい。 あ。 まくらも……ふふ、ほんとにふかふかだぁ。 ……。 それに……やっぱり、いいにおいがする……メルの、においだ……。 あ、あの、あまり……。 ……よく、ねむれそう。 ね、ねては、だめよ。 ん……わかってる。 ……。 ……。 ユゥ……? ……ぐぅ。 ねちゃった、の……? ……なんて。 え……あっ。 つかまえた。 ユ、ユゥ。 あはは、引っ掛かった。 ……ねた、ふり? うん。 ……もぅ。 ねぇ、メル……毎日いっしょに、眠れたらいいね。 ……まい、にち? そう、今夜だけじゃなくて、毎日……そしたらきっと、どんな夜でも寂しくないと思うんだ ……どんな、よるでも。 寝る前に、おしゃべりしてさ……眠くなったら、寝るんだ……おやすみって、メルのほっぺたにあたしのをくっつけて……。 ……。 メルも、そう思ってくれたらうれしいな……。 ……わたしも、おもう。 ほんと……? ……きっと、しあわせだとおもうの。 しあわせ……。 ……ユゥと、まいよ、いっしょにねむれたら。 メル……。 ……いつ、か。 いつ、か……? ……かなえ、たい。 ……。 かなえ、たいわ……ユゥ。 ……いつか必ず、叶えるよ。 ……。 叶えるから……やくそく。 うん……やく、そく。 へへ……。 ……ふふ。 ……。 ん……ユゥ。 ……まぶたなら、だいじょうぶ? だいじょうぶ、だけど……。 ……やっぱり、だいじょうぶじゃない? ちょっと、くすぐったい……。 へへ……じゃ、もっと、くすぐっちゃえ……。 あ、ユゥ……。 ……だいじょうぶ、なめないよ。 そういう、もんだいじゃ……、 ……。 ……ユ、ゥ。 めの、おれいの……おれい。 ……あ。 うれしかった、から……だから、ね……その、おれい………。 ……。 ……ごめん、いやだった? う、ぅん……。 ……でも、なみだが。 なみ、だ……。 ……ごめん、もうしないよ、しないから。 し、て……。 え……なに? ……して、ユゥ。 ……。 かなしいわけじゃ、ないから……だか、……ん。 ……。 …………ユゥ。 よかった……。 ……。 ……ね、メルの目は、きれいだね。 ユゥの、目も……。 ……。 ねぇ、ユゥ……もう、あんなこと、しないで。 ……あんな、こと? あなたのめは、あなただけのものだから……わたしのために、えぐりだそうと、しないで。 ……。 かわりのものなんて、ないの……だから。 ……あるよ。 ……。 師匠が、言ってた……代わりになる部品は、あるのだと。 ……それ、は。 だけど……あたし達には、まだ、ないか。 ……それでも、あなたの、めは。 ん……。 このめは……あなたがはじめから、もっていたもの、だから……だいじに、してほしいの……せめて、いまだけ……いま、だけは……。 ……それでも、メル。 ぁ……。 ……あたしは、メルの為なら、いくらでも、差し出せるんだ。 ……。 それが、あたしなんだよ……メル。 ……あぁ。 その時が、来たら……あたしは、喜んで。 ……いまは、いわないで。 ……。 いわないで……ユゥ。 ……ん、わかった。 ……。 そうだ……それじゃあ、こういうのはどうかな。 ……なに。 メルの目が、もしも、見えなくなったら……その時は、あたしがメルの目になるよ。 ……。 だからさ、あたしの目が見えなくなったら……。 ……わたしが、あなたの、めに。 ね……どう、かな。 ……それ、なら。 いい? うん……とても、いいかんがえだと、おもうわ。 はは、やった……。 ……ユゥ。 ん……あ。 ……。 ……。 ……くすぐっ、たい? んーん……きもちいい。 ……よかっ、た。 ね……メルの舌は、小さくて、かわいいね。 ……。 すごく、かわいくて……どきどき、するよ。 ……そんな、こと。 ん……やっぱり、かわいい。 ……ユゥのした、も、 ……。 ……っ、……。 ……メル。 ユ、ゥ……。 ……なみだ。 ……。 ごめん……。 ……とめられない、の。 ……。 ……いやじゃ、ないから。 ね……。 ……。 したを、なめるのも……だめ? ……。 だめ……? ……うぅん。 ……。 ……だめじゃ、ないわ。 そっか……よかった……。 ……ん、 ……。 ……ゥ……。 -雷公(パラレル) ありがとう、大夫。 助かったよ。 お役に立つことが出来て、良かったです。 うん、本当に助かった。 大夫が手伝って呉れたおかげで、思っていたよりもずっと早く終わった。 だけど、本当に驚きました。 はは、ごめんよ。 何が、あったのかと……。 や、ちゃんと濯いだつもりだったんだけど。 ……心臓が、止まりそうになったんですよ。 うん? いえ……それで、残っている部位はまことさんの分で良いのですよね。 いや、それは大夫の分だよ。 未だ、分けていないだろう? 私の? あたしが最も美味しいと思っている部位を、大夫の為に取っておいたんだ。 どうしても、大夫に食べてみて欲しいと思って。 そんな……そんな美味しい部位を、頂くわけには。 肩から腰にかけての背肉の部分、なんだけどさ。 この時期に獲れるのは脂が乗っていて本当に美味しいから、是非とも、食べてみて欲しいんだ。 ですが、まことさんの分は……。 大丈夫、あたしの分ならちゃんとあるから。 ……。 あ、でも、あたしが勝手に美味しいと思っているだけで……大夫の口には、合わないかも知れない。 若しも、然うだったら、有難迷惑になってしまうよね……。 ……。 それとも、こういうのは苦手かい……? ……いえ、そんなことは。 だ、だったら、 ……。 えと……も、若しも、料理の仕方が分からないと言うのなら……その、教えるよ。 ……まことさんはどうやって、食べているのですか。 そ、然うだなぁ、やっぱり、鍋かなぁ。 野菜と一緒にぐつぐつと煮込んで、味噌で味付けするんだ。 然うですか……。 獲れた時だけのご馳走なんだよ。 美味しいし、何よりも、精が付く。 精が……確かに。 特にさ、年寄りに喜ばれるんだ。勿論、若いのも好きだけどね。 そうそう、美奈の好物なんだ。見たろ? あの喜びよう。 ふふ……はい、飛び上がって喜んでいました。 はは、然うなんだ。 あれを見るたびに、こいつも子どもなんだなって思ったりするよ。 ま、調子が良いのは、相変わらずなのだけれど。 うさぎちゃんも、喜んでいましたね。 うん。 うさぎちゃんの全力笑顔は本当に可愛くてさ、つい、おまけしたくなっちゃうんだよね。 ふふ、分かります。 これ、美奈には内緒だよ? 知られたら、仮令雪が降っていても、押しかけてきそうですものね。 そうそう、然うなんだ、あいつならやりかねないんだよ。 で、渡すまで、居座る。 ふふ、ふふ。 あたしさ、子どもの喜んでいる姿を見るのが、特に好きなんだ。 心が、明るくなってさ。 ……分かる気がします。 大夫も? 子どもの笑顔を見ていると、ほっとしたような心持ちになるんです。 この村に来るまではそんなこと、一度も感じたことはなかったのですが。 ……。 だから、多分……好きなのだと、思います。 ……そっか。 はい……。 ……だけどね、あたしが一番好きなのは。 ……? まことさん……? あ、いや、なんでもない。 ……何か、言いませんでしたか? と、特段、何も。 然う……? う、うん。 ……然う。 ……。 ……お年寄りには。 え、なに? この時期は特に良いかも知れません。 躰も温まるでしょうし。 え、と。 何より、獣の肉は古くから滋養強壮食とされてきましたから。 へ、へぇ、然うなんだ。 はい、昔は薬喰いと言われていたんです。 ですので、お年寄りには特に良いと。 そ、そっか。 はい。 えと……この村で肉と言えば、鶏や山鳥なのだけれど。猪が獲れた時は、皆で分け合って食べるんだ。 今回はいっぺんに二頭、しかもそこそこの大きさのが獲れたから、処理は大変だったけど、大目に配れて良かったと思ってる。 まことさんは畑だけでなく、狩りもするんですね。 この時期だけ、だけどね。 ……罠で、獲るのですか? それと、これ。 弓、ですか。 と言っても、これは鳥を獲るのが主なのだけれど。 大きいのを獲る時はやっぱり、罠かな。獣が通る道に仕掛けておくんだよ。 まぁ、弓で狩れないこともないんだけどね。 ……獣の行動や習性を熟知していなければ、捕らえることは出来ない。 今回は運が良かった。 おかげで、今夜は皆、ご馳走だ。 ……すごいわ。 あの、大夫? こういうのが苦手だったら、無理にとは言わないよ。 残った分は、干せば良いだけだし……遠慮なく、言って欲しい。 いえ……折角ですので、頂きたいと思います。 苦手では、ない? はい、大丈夫です。 良かった。 それじゃあ、早速。 あの、まことさん。 うん? ……。 大夫……? ……いえ、なんでもありません。 本当は、食べられないのだったら、 ……あの、まことさん。 な、なんだい? 今度また、獲れたら。 う、うん。 肝を分けて貰っても良いでしょうか。 肝? 良いけど……大夫は、肝が好きなのかい? いえ、薬になるんです。 あぁ、そういや以前、猪の肝臓だかが二日酔いに効くって猟人から聞いたことがあるような気がする。 乾燥したのを削って飲むとか。 それは、肝臓ではなく胆嚢のことですね。 たんのう……? 私が特に欲しいものは……肝臓で作られ胆嚢に貯留される、胆汁です。 たん、じゅう……? 清熱、止咳、熱性疾患、黄疸、下痢、便秘、百日咳、腫れ物などに用いられるんです。 解毒の効能もあるんですよ。 へ、へぇ、色々効くんだね。 都では、飼い慣らされた豚のものが多いのですが……豚は、元は猪です。 いえ、猪胆と呼ばれているのだから、元々は猪の……。 わ、分かった。 次に獲れた時は、たんのうは、大夫にあげるよ。 本当ですか、ありがとうございます。 あ、けれど、他に欲しいひとが居るようでしたら、 ううん、大夫にあげたい。 村のひとの役にも、立つし……それ、に。 あぁ、ありがとうございます、まことさん! わ。 とても嬉しいです。 う、うん……大夫に喜んで貰えて、あたしも、嬉しいよ。 本当に、ありがとうございます……まことさん。 た、たんのうだけでなく、他にも欲しいのがあったら遠慮なく言って欲しい。 そんな……そこまで、甘えるわけには い、良いんだ。 まことさん……。 ……大夫に喜んで貰えるのが、一番、嬉しいんだ。 ……。 ……。 ……だけど、まことさん。 え、な、なに……。 無理だけは、しないで下さい。 無理……? 猪は、凶暴で危ないと聞いています。 今回は怪我もなく、無事だったから良かったですけど……どうか、無理だけは。 う、うん……気を付けるよ。 約束、ですよ……。 うん……約束だ。 ……。 あの……大夫? ……はい。 ……手、汚れちゃうと思うから。 手……? ……すごく、嬉しいけど。 あ。 ……。 ご、ごめんなさい……。 う、ううん、い、良いんだ……寧ろ、そのままが良かった。 ……。 えっと……。 ……。 ねぇ、大夫……良かったら、なんだけどさ。 ……はい。 うちで、一緒に、食べるかい……? ……。 ほ、本音を言うと……一緒に食べられたら、良いな、って。 ……いつも、ご馳走になってばかりで。 い、いつも、ご馳走したいんだ。 お世話になるばかりで、その、申し訳がないと……。 あ、あたしがしたいんだ、だから、大夫はそんなこと思わないで欲しい。 ……ですが、本当に、いつも。 あ、あたしも、大夫にはいつもお世話になってるよ。 だから、その、どっこいどっこいで、良いんじゃないかな。 ……。 え、あれ。 ……どっこい、どっこい? あたし、なんか、可笑しなこと、言った……? ……使い方が、違うような。 あ、あれ。 この場合は、お互い様なのでは……。 ……! 然う、それ!! ……。 は、はは。 ……ふふ、まことさんったら。 そ、それで、どうかな……。 ……。 あ、や、無理にとは、勿論、言わないけど……言わない、けど。 ……私、いつもまことさんに甘えてしまって。 あ、甘えて、欲しい。 あ、あたしなんかで、良ければ、いつでも、いつもでも。 ……。 大夫……亜美、さん。 ……まことさん。 は、はい……。 ……お邪魔、します。 ……っ、うん……! ……。 そ、それじゃあ、決まりだ。 ……ん。 ……。 ……ふふ。 ん、な、なに? ……私達、いつも、こんなことしてるなぁって。 ……。 ね……? ……然う、だね。 ……。 ねぇ……亜美さん。 ……なぁに。 えと……美味しいの、作るから……期待、してて。 ……はい、まことさん。 ……。 ……ね、まことさん。 なんだい……? ……お手伝いしますから、なんでも言って下さいね。 うん……亜美さん。 ……。 それじゃ……行こうか。 ……はい。 ……。 ……ねぇ、まことさん。 うん……? 考えたのですが……狩りについて行っても、良いですか。 ……え? 足手纏いには、ならないようにしますから……。 いや、でも、危ないよ。 獣は当然として、山を歩くだけでも……慣れていなければ、余計に。 ……。 亜美さんを危ない目に遭わせるわけにはいかない。 でも、まことさんは…… ……それだけは、聞いてあげることは出来ないよ。 ……っ。 ごめん。 ……然う、ですよね。 ごめんなさい……聞かなかったことに、して下さい。 亜美さん……。 ……。 ……亜美さんは、血は、平気なんだね。 職業柄……見る機会が、多いので。 と言っても、それはひとのだろう? 獣のでも、平気なもの? ……然うですね、ひとと同じ赤いものですし。 えと、臓腑も、平気……? ……獣のものは、あまり見たことはありませんが。 それでも……そこまで、抵抗はありません。 そっか……。 ……。 ……心配、して呉れてるんだよね。 だけど……やっぱり、狩りに連れて行くわけにはいかない。 ……。 無理だけはしない、約束する……あたしは必ず、帰ってくる。 ……。 必ず、帰ってくるよ……亜美さんの、ところに。 ……約束、ですよ。 あ。 必ず、帰ってきて。 ……うん、必ず。 ……。 ……手。 構いません。 ……。 ……構わない、の。 ……まこっちゃん、聞こえる? ……。 聞こえるわね。 ……さ、ん。 何。 ……さ、ん…………がっ、……て。 仕留めたのね。 ……。 然う……分かった、後は任せて。 ……、に。 今は、詳しいことは、全部、後。 ……な、……い。 詫びるのは。 ……ぅ。 わたしにじゃ、ないでしょ。 は……ぁ……。 ともあれ、帰ってきて呉れて良かった。 じゃ、なきゃ……そこそこ、骨が折れていたわ。 ……。 亜美ちゃんのところに。 急いで。 ……ぁ……さ、……。 ……。 ……。 ……。 ……、ま。 ……! ただ、いま……あみ、さん……。 まことさん……ッ。 やくそ、く……どお、り……かえって……きた、よ……。 ……。 は、はは……くち、が……うま、く……まわら、ない、や……。 ……鏃に、毒が塗られていたのでしょう。 あ、ぁ……そう、か……やっぱ、り……な……。 解毒の処置は、しました。 死に至る矢毒でなくて、本当に良かったと思います。 ですが、暫くの間、痺れが残ってしまうかも知れません。 しび、れ……ぐら、い……なら……すぐ、に……。 ……どうして。 いま、は……た、だ……やく、そく……まも、れて……。 どうして! ……。 ……どうして、ひとりで。 あみ、さん……。 ひとつ、間違えれば、あなたは、あなたは山の中で……ッ。 ……ゆだん、も……まん、しん……も……して、なかった……。 私が居たところで、役に立つどころか、足手纏いにしかならない……。 そんなことは、分かっています……分かっているの……だけど、それなら……。 いぬ、は……。 ……。 いぬ、が……いっしょ、に……。 ……あの子が、知らせて、呉れたんです。 あの子が、居なかったら、あなたは……。 そっ、か……やっぱり……あいつ、は……りこう、だ……。 まことさん。 ……はぁ。 あなたは、今でも。 ……。 防人、なのですね。 ……あぁ。 この村の、唯一人の、防人なのですね……。 ……う、ん。 獣の狩りに行くと、言って……。 かりは……ほんとう、だよ……このじきに……とれるのが……いちばん……おいしいから、ね……。 ……どうして、ひとりで行くのですか。 ……。 せめて、村の方と……。 ……あしでまとい、なんだ。 男性でも、ですか……。 ……あぁ、……そう、なんだよ……。 ……。 だから……だから、犬だけで……いいんだ……。 ……。 あたしはね、あみさん……。 ……ごめんなさい、話はここまでにしておきましょう。 ん……。 あなたは、意識が戻ったとは言え……毒で、躰が弱っています。 だから、今は……兎に角、安静にしていないと。 あみさん……。 出来るだけ、傍に居ます。 あなたをひとりにはしません。 だいじょうぶだよ……あたしはかいふくが、はやいから……だから、ほうっておいて、くれても……。 馬鹿なことを、言わないで。 ……う。 まことさんを放っておくなんてこと、私が出来ると思いますか。 若しも、思っているのなら……思っているの、ならば。 ……、よ。 ……私は、あなたの。 ごめんよ……。 ……いって。 あみ そばにいてほしい、と……いって。 ……。 いって……おねがい、まことさん……わたしに、いって……。 ……は、ぁ。 私は、あなたのそばに……医生としてでは、なく……私と、して。 ……亜美さん。 いたい、の……そばに、いたいの……。 ……。 どうか……おねがい……。 ……そば、に。 ……。 そばに……あたしの、傍に。 ……まこと、さん。 居て、欲しい……あたしを……ひとりに、しないでほしい……。 ……。 あと……出来れば、泣かないで欲しい。 そんな、の。 ……むり、かな。 無理に、決まってるじゃない……。 あ、あぁ……。 こんなの、医生として、だめなのは、私が一番、分かってるの……でも、でも、しょうがないじゃない……。 そ、そうだね、ごめん、ごめんよ、亜美さん……。 血だらけの、あなたを、見た時……呼吸が、止まって……心臓、だって……本当、に……。 あぁ、涙が、余計に……。 あなたは、いつも、そう……いつも、いつも……わたし、を……? 泣かないで、亜美さん。 ……ぇ。 あ、ふかないほうが、いい……? まこと、さん……? 良いかな、ふいても。 ……どう、して。 良い……? ……ぁ。 ん……あとは、止まって呉れれば良いな。 ……。 ん……? 亜美さん……? どうして、動けるの……。 え? 痺れが、未だ……。 あぁ、こんなの……意識さえ戻ってしまえば、どうってことないよ。 亜美さんが解毒の処置を適切にして呉れたから、回復が早かったんだ。 いつもだったら、あと二日か三日は寝込んでいたと思う。 なにを、いっているの……。 ありがとう、亜美さん。 亜美さんが居て呉れて、本当に良かった。 ……。 と言っても、少しは残ってるけど……熱も、未だ、あるか。 躰が、酷く、重く感じるから……完全に回復するにはもう少し、掛かるかな。 ……。 えと、亜美さん……それまで、一緒に居て呉れると……その、嬉しいな。 ……。 ……亜美さん? あなた、は……。 あぁ……然う、か。 あなたは……。 ……化け物、みたいだろ。 ばけもの……? 昔……良く、言われたんだ。 お前は化け物だって、さ。 まことさん、が……ばけ、もの……。 ……まぁ一度だけ、死にかけたことはあるけれど。 その時の話は……前に、したね。 ……。 あたしが、怖いかい……? ……い、え。 ……。 ただ、驚いてしまって……。 驚く……? 本当に、それだけかい……? ……。 良いんだ……慣れて、いるから。 慣れて……。 言ったろ……昔、良く言われたって。 むかし……。 ……防人の頃、に。 ……。 御方(みかた)と敵人、その屍が至る所で転がっている……その、真ん中に。 あたしは、いつだって、立っていた。全身、血塗れになって。 ……。 そうそう、臓物を頭から被っていたこともあったっけな。言われるまで、気が付かなかったけど。 ……。 そして、傷を負っても、常人では考えられない早さで治ってしまう……そんなのは最早、人間じゃない。 化け物、なんだ。 ……若しかして。 ……。 雷公の、生まれ変わり……? ……そうそう、そんなことも言われたかな。 あなた、が……。 ……うん、然うなんだ。 然う、だったのですね……。 ……黙っていて、ごめんね。 ……。 あの、亜美さん……傍に居たくなかったら、あたしは、気にしないから……その……。 まことさん。 ……なんだい? 横に、なって下さい。 え。 幾ら回復が早いとは言え、今は休まないと。 あ、あぁ、うん……然うだね。 暫く、私はあなたの傍に居るから……何でも、言って。 なん、でも……かい? 然う……なんでも。 私の出来る範囲で、何でもするから……どうか、遠慮なんてしないで。 う、うん……ありが、とう。 ……。 ……あのさ、亜美さん。 はい。 怖い、だろう? いえ……怖く、ありません。 良いんだよ、本当のことを言っても。 怖くなんか、ありません。 けど、あたしは……。 まことさんは。 ……。 まことさん、です。 ……。 あなたは……私の、好きなひと。 誰よりも……愛しい、人。 ……あ、ぁ。 それ以外の、何者でも、ないのだから。 ……、い。 だから 抱き締め、たい。 ……。 今直ぐ、抱き締めたい。 まこ 亜美さんを、抱きたい。 今直ぐ……今、直ぐに。 ……。 何でも、して呉れるんだろう……? だったら、抱いても、良いだろう……? 応えて、呉れるんだろう……? 躰が、熱いんだ……熱くて、仕方がないんだ。 ……あなたが。 欲しくて、欲しくて、たまらないんだ……。 ……あなたが、然う、したいのなら。 あぁ、亜美さん……亜美……。 ……。 ……っ、……だ。 ……? だめ、だ……いまは、だめだ……だめ、なんだ……。 ……まことさん? ごめ、ん……あみさん……あたしから、はな、れて……。 まこと はなれろ……ッ。 ……っ。 く、そ……なんだ、これ………。 まことさん、まことさん。 こないで、あみさん……。 でも くる、なぁ……ッ! つ……っ。 おねがい、だ……こない、で……いま、は……。 ……静、電? こんな、て、で……ひとを、ころしたばかりの、て、で……あみさんを……あみさんを、だくわけには…………。 何が、起こっているの……。 ……うぅぅ、……ぅぅぅぅぅぅぅ。 まことさん……。 ふざ……る、な……。 ……あ。 ふざけん、なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………っ。 ……らい、こう。 でて、いけ……でていけ……。 ちが、う……。 でていけぇぇ……!! あなたは、まことさん……まことさん、よね……。 ……っ、だめ、だ。 でも、あなたは……。 とに、かく……はな、れて……おねがい、だ……。 ……構わない。 あみ、さん……あたしに、ふれては……っ。 構わない。 ……ッ。 私は、構わないから。 あたしが、かまうんだ……あたし、が……。 ま ちかづか、ないで……じゃないと、おかして、しまう……そんなの、いやだ……。 それでも、構わない。 だめ、だ……あみ、さん…………おねがい、だから……。 それで、あなたが、楽になれるのならば。 らく、に……。 ……。 ……っ、やめ、て……やめて、あみさん……いやなんだ……いや、なんだ、よ……。 だいじょうぶ……だいじょうぶ、だから。 ……ぅ。 好き……好きよ、まことさん。 ……。 誰よりも、愛してるわ…………。 あ……ぁ。 何度……生まれ、変わろうとも。 ……。 私は……あなたを、ん。 ……。 ……ん、……んんっ。 ……。 ……ふ、……あ、ん……。 ……。 は、ぁ……。 ……良いんだね。 ……。 良いんだよね……亜美さん。 ……。 ……抱いても。 は、い……。 …………。 ……っつ。 あぁ、いいにおいだ……。 ……あ、ぁぁ。 それに、きれいだ……とても、きれいだよ……。 ……うれ、しい。 あたし、の…………えいえんの、ひと。 ……わたしが、あなたの。 うまれ、かわっても……ずっと、きみだけを、あいしている……。 ……わたし、も。 …………。 …………。 ……やめ、ろ。 ……。 あみさん、は…………じゃ、ない……やめろ……。 ……だ、め。 やめろ……やめろ、やめろ……ッ! ……だめ、やめて。 やめろぉぉぉぉぉぉ……ッ! あ、あぁ、あぁぁぁ……。 ……きえ、ろ。 やめて……けさない、で……。 ……あたし、は、…………じゃ、ない……。 い、や……いやぁぁ……。 ……………リー……。 あぁぁぁ……ッ。 ……。 ……。 …………あみ、さん。 ……。 あみ、さん………。 ……まこと……さん……。 ごめん、よ……こわがらせて、しまったろ……。 わたし……私、は。 もう、だいじょうぶ、だ……よ……。 わた、し……。 だいじょうぶ、だ……。 ……! は、ぅ……ぁ……。 まことさん……ッ!! つかれ、た……。 まことさん……まことさん……。 あぁ……。 ……。 また、なかせてしまった、ね……ごめん、よ……ごめん……。 ……だいじょうぶ、です。 けど……。 大丈夫、だから……。 ……ねぇ、あみさん……きょう、は……。 傍に、居ます。 だけど……。 もう、大丈夫なのでしょう……? だったら、傍に…… ……ん。 …………傍に、居るわ。 ……。 ねぇ……抱き締めても、良いですか。 ……け、ど。 良いって、言って。 ……。 あなたを、抱き締めたいの……だから、お願い……言って、まことさん。 …………だきしめて、あみさん。 ……。 あたしを……。 ……。 あぁ……あったかい、な。 ……だいじょうぶ、ですか。 うん……だいじょうぶ、みたいだ……。 ……よかった。 亜美さ…… ……。 ……あー。 ……おなか? は、はは…………なんでこんなときに。 ふふ……お腹がすくことは、良いことですよ。 いや、でも、いまじゃない、と、おもう……。 ね……何が、食べたいですか? ……亜美さんが作って呉れたのなら、なんでも。 なんでも、ですか……うーん、どうしましょう。 ……はぁ。 ねぇ、まことさん。 ……なんだい、亜美さん。 また、後で。 ……。 ね……? ……いいの? あなたが、望んで呉れるなら。 ……。 ……あなたの手が、私は、好き。 ……。 だから……ね。 ……うん。 -Our World(崩壊未来・暴力表現あり) ……亜美ちゃん。 ……。 大丈夫かい? ……。 然う……なら、良いんだ。 (……まこちゃん) なんだい……? (……ううん、なんでもないわ) そっか……。 ……。 気になるかい……? (……何処かで) 濯げる水場があると良いのだけれど……此れじゃ、満足に触ることも出来ないよ。 ……。 あぁ、参ったな。 (……全員、殺したの) ん、なに? (全員……殺したのね) うん、然うだよ。 あたしの亜美ちゃんに汚い手で触ろうとしたからね。 ……。 先ずは逃げられないように感電させて、ね。 其れから足の骨を圧し折って、ついでに、目も潰す。 もうさ、声にもならない声をあげてたよ。あんな声が出るんだよね、ひとって。 ……。 命乞いをするのとか、這ってでも逃げようとするのとか、居たけど。 あたしの亜美ちゃんに触れようとした時点で、命を捨てているようなものなんだからさ。 人間、諦めが肝心って言うだろう? ……。 だけど、トドメはなるべく早く刺してやったよ。元々、苦しめる趣味はないし、ね。 亜美ちゃんも、好きじゃないだろ? ……。 苦しむ様を見て面白がっていたのは……んー、誰だったっけな。 ……。 そうそう、火炙り。あれって、すごく苦しいんだろ? 長い間、死ぬに死ねないとか。趣味、悪いよなぁ。 (……そんなひとでは、なかったのに) さっさと首を圧し折ってやった方が、未だ、マシだと思うんだよ。 ね、然う思うだろう? (みんな、少しずつ狂っていって……然うして、倫理観の欠片もないような世界になってしまった。 文明は後退し、技術は廃れ、異なる価値観は認めず……新しいものが生まれてこない、生まれようがない……停滞しきった、世界) うーん、くさいなぁ。 ……。 ねぇ、亜美ちゃん、何処かないかなぁ? 頭の中に地図が入っている、亜美ちゃんなら分かるだろう? (ごめんなさい、もう分からないの) うん? (大崩壊で、ほぼ全ての地形が変わってしまった……だから) あぁ……そっか、然うだったね。 (若しも、変わっていなければ……) 変わって、いなければ……? (此処から3キロ程、南西に歩けば川にぶつかるわ) 3キロ、か。まぁ、近いな。 (ひとが、居たから……若しかしたら) 分かった。其れじゃあ取り敢えず、行ってみようか。 ……ん。 歩けるかい? (歩けるわ、ありがとう) しんどくなる前に言うんだよ。 亜美ちゃんはぎりぎりまで我慢してしまうからさ。 (……だけど) だけどじゃ、ないよ。 (ううん、違うの) 何が、違うんだい? (然うなる前に、あなたが察して手を貸して呉れるから) ……。 (いつも、手を差し伸べて呉れるから……然う、言いたかったの) ……其れでも。 ……ぅ。 其れでも、言って。 気付かなくて手遅れになるのだけは、嫌なんだ。 ……ん。 うん。 (……やさしい、ひと) 其れじゃあ、行こうか。 (だれより、も……いま、でも) 手が、汚れていなければなぁ。 ……。 ……ん、亜美ちゃん。 うー……。 でも、汚れてしまうよ。 ……うー。 え、と……良いのかい? (……今更、だもの) ……。 (私、だって……数えきれない、くらい) ……それでも、汚したくないんだ。 (あなただけじゃ、ないわ) ……。 (あなただけじゃない……でも、それでも……あなたに触れたい、触れて、いたい) 亜美ちゃん……。 (手を、引いて……私に触れて、お願い) うん……分かった。 (……ありがとう) ……。 ……。 ……あたしの目を、あげられたら良いのに。 ……。 あたし、今でも目は良くてさ……遠くまで、良く見えるんだ。 (……それは) 分かってるよ……だけど、良いってことにしておいてよ。 ……。 こんな目だけど……亜美ちゃんの目に、することが出来たら。 亜美ちゃんは、また……あたしの顔を、見ることが出来るだろ。 こんな世界は、見なくて良いけど……さ。 (……あなたが、見ている世界を) ん……亜美ちゃん。 (私も、見ることが出来たら……然うしたら、はんぶんこに、出来るのかしら) ね……あたしの目をひとつ、あげるよ。 君が望むのなら今、抉り出しても良いんだ……。 ……。 君のきれいな青が、大好きだった……いや、今も大好きだ。 その青を緑にするのは、嫌だけれど……それ、でも。 (……あなたの目は、あなただけのもの) 亜美ちゃん……。 (あなたのきれいな緑を、貰えるのは……とても、嬉しい) だったら、 (だけど、受け取れない……) どうしてだよ、受け取ってよ……ねぇ、受け取って。 (……だめ) どう、しても……。 ……。 然うか……やっぱり、だめか。 (あなたの、大切なからだを……) あたしは自分の躰よりも、亜美ちゃんの方が大切なんだ。 (知っているわ……あなたは、いつだって自分よりも) だから、良いだろう……? 良いと、言ってよ……。 (知っているから、こそ) 見えるようになったら……一番に、あたしを見て欲しいんだ。 君とまた、見つめ合いたいんだ……。 (無駄にすることは、出来ないの) 無駄って……。 (今の私では……貰っても、どうすることも出来ないから) ……。 (もう、出来ないから……) ……こんなこと、だったら。 (代わりは、あった……昔の、ように) 迷わずに、使っておけば……。 (だけど……それを使うことは、私達には出来なかった) ……然うすれば、今でも亜美ちゃんは。 (決断、出来ないまま……世界は、終わってしまった) ……。 (まこちゃん……) ……どうして、かな。 ……。 どうして、世界は終わってしまったのかな……こんな結果、望んでいなかったのに。 (……クイーン) 彼女が……。 (……あなたが望んでいた世界は、こんなものではなかった筈です) ……居なく、ならなければ。 (いいえ、あなたが望んでいた世界は……キングと共に生きる、ふたりだけの世界) ……あいつが、逃げなければ。 (綺麗な言葉を、幾ら並べていても……それ以外は、望んでいなかったのでしょう……だから、キングを失ってしまえば) どうして、居なくなった……どうして、逃げた……。 (同じことを、繰り返す……然う、この世界はもう要らないと) あたし達は、あたし達自身の夢を諦めて……捨てて、この道を歩くことを決めた。 然う、させたのは……なんだ。 (私達では、代わりにはなれない……ただ、それだけのこと) 他の道を選ぶことを、許さなかったのは……誰だ。 (……だけど) それともまた、追って死ねと言うのか……死んで、やり直せと。 (だけどね、まこちゃん……) そんなこと……二度と、しない。 して、たまるか……どうせ、いつかは死ぬんだ。 (彼女は……私達のことを、祝福して呉れた) 死んで、また……始まるんだろう。 始めるんだろう。 (誰よりも、誰よりも、しあわせを、願って呉れた……筈、なの) ……あぁ。 (それだけは、本当のこと……だと、したいから) その時は……出来れば、違う道を……。 (だからお願い、呪わないで……) 亜美ちゃん……あたしは。 (まこちゃん) あたしは、また、君と……。 (若しもあなたが、飲み込まれてしまったら……その時は、私も一緒に行くわ) ……出逢える、かな。 (だけど、もう少しだけ……どうか、もう少しだけ) ……いや見つけてみせる、必ず。 (私達の世界は……もう、光が射すことはないかも知れない) 必ず、見つけ出すから……また、あたしと。 (けれど、私達だけの世界は……未だ、此処に在るから) 違う、な……どうせまた、呼び寄せられるんだ。 そうして、君と出逢うんだ……あたしが、探さなくても。 (ねぇ、まこちゃん……) ……ん? (……私、しあわせよ) 亜美、ちゃん……? (あなたと、一緒に居られて……しあわせなの) え……。 (ありがとう……私に、しあわせを呉れて) しあ、わせ……? (そう……だって今は、自由なんだもの) じゆう……。 (誰にも……使命にも縛られずに、あなたと……歩いて、いけるんだもの) ……あぁ、然うか。 (ねぇ、あなたはどう……?) ……あたしも、しあわせだよ。 (ほんとうに……?) うん、本当だよ……。 (あぁ、よかった……) あたしも、しあわせだ……亜美ちゃんと、ふたりで生きることが出来て……。 誰にも、使命にも、縛られずに……亜美ちゃんとたったふたりだけで、ずっと、歩いていける……今が、一番。 (ねぇ……まこちゃん) しあわせは、ここにある……何があろうとも、離さない。 (私も、離さないわ……離さない、から) ……亜美。 ん……。 ……。 (まこと……) ……もう一度、改めて誓う。 (私も、誓うわ……) 世界が終わろうとも……私は、君の傍に。 (私は……あなたの傍に) ……。 ……。 ……此の目を、君にあげることが出来ないのなら。 ……。 あたしが、亜美ちゃんの目になろう。 ……ぁぁ。 然うだった……ずうっと前に、然う、決めてたんだ。 (ジュピター……いいえ) ね……其れなら、良かったんだろう? ……ゥ。 ん……? (……ユゥ) ……。 (あなたが、私の目になって呉れるのならば……私は、あなたの、痛みを) マーキュリー……。 (……はんぶんこ、に) 泣かないで。 (……でき、たら) ……メル。 (……て) うん……? (……なめて) ……。 (むかしの、ように……くちびるで、ぬぐって) ……うん、良いよ。 ん……。 ……これで、いい? (……もっ、と) うん……好きな、だけ。 ……。 …………亜美ちゃん。 (まこちゃん……) ……これからも、ずっと。 (ずっと……これから、も) 亜美ちゃん。 ……ん。 今日は夕焼けがとてもきれいだよ。 空は青、雲は橙に染まって、青と橙が混じってるところは紫に。 こんな空、久しぶりだ。 ん。 昔も、ふたりでこんな空を見たね。 未だ、学生と呼ばれていた頃……ふたりで、空を見上げて。 ……。 あの日は寒かったから、どこかであったかいものを買って食べたんだっけ……。 ……。 えと……何を、買ったんだっけ。 (……肉まんと、あんまん) あぁ、然うだった。 (それぞれを、はんぶんこにして……ふたりで、食べたの) 懐かしいなぁ。 (ええ……とても) だけどもう、どんな味だったか……思い出せないや。 ……。 亜美ちゃんは、憶えているかい? (……ううん) そっか……もう、ずっと昔のことだもんな……。 (だけど) ……だけど? (美味しかったわ、とても) ……憶えていないのに? (あなたとはんぶんこにして食べるものは、どれも、美味しかった) ……。 (もちろん……あなたが作って呉れた、ごはんも) ……そっか。 ……。 あぁ、うん、思い出したよ……ありがとう、亜美ちゃん。 ん……。 ……。 ……。 ね……見える? ……。 ふたりで見た、夕焼け。 今でも、こんな世界でも。 (……見えるわ) どこまでも、広がっているよ……。 (あなたの目を、通して……) |