-盗めない宝石(現世1) ただいま、マーキュリー。 おかえりなさい、ジュピター。 ごはんは? もう、食べた? いいえ、未だよ。 そっか。 じゃあ、今から ううん、もう支度は出来ているの。 うん? だったら、先に食べていて呉れても良かったのに。 待っているつもりでは、なかったのだけれど。 気が付いたらあなたが帰ってくる時間になっていた、ただ、それだけ。 そんなこと、言って。 忘れていただけだろ、集中、し過ぎて。 良いじゃない、ちゃんと思い出したのだから。 然う言う問題じゃないよ。 今からちゃんと食べれば、問題ないでしょう? 然う言うことを言ってるんじゃない、忘れてしまうのが問題なの。 全く、本当に治らないんだから。 しょうがないわ、こればかりは。 しょうがないで、済まさない。 だから、私にはあなたが必要なの。 これからもずっと、ね。 ……。 さ、こんなことを言い合っていてもお腹は満たされないわ。 食事にしましょう。 あのさぁ。 なぁに? 然う言えば良いと、思ってない? だって、ごきげんになって呉れるでしょう? なるけど。 口元、我慢しているんでしょうけど、緩んでいるわよ? 然うだろうけど! 本当、変わらないわね。 なんだかなぁ。 嫌なの? 嫌じゃないけど、 ひとりで食べても、美味しくないもの。 ……。 でしょう? ……それを言われてしまうと、言い返せないじゃないか。 ふふ……今、支度をするわ。 着替えて、待っていて。 だけどね、マーキュリー。 名前。 あ? 家では。 ……だけどね、亜美ちゃん。 なぁに、まこちゃん。 出来るだけ、忘れないで欲しい。 何度も、言っているけれど。 ……ん、分かった。 む……。 ……さ、ごはんにしましょう? 待って。 うん? 亜美ちゃんばかり、ずるいよ。 あら、どうして? 私はただ、おかえりなさいのキスをしただけよ? あなたがいつも、私にして呉れるように。 ただいまのキスも必要だろう? 然うかしら。 然うだよ……。 ……。 ……改めてただいま、亜美ちゃん。 ん……おかえりなさい、まこちゃん。 それで、さ。 ……? なぁに? ちょっと座って貰っても、良いかな。 良いけれど……食事の支度を、しないといけないから。 ほんの少し、だから。 ……然う? うん。 さ、座って座って。 ……。 暫く、じっとしていてね。 こちらを向くのも駄目だよ。 ええ、分かったわ。 ……。 ……。 ……。 ……ねぇ、まこちゃん。 これを、亜美ちゃんに。 え……? 贈り物。 これ……ネックレス、よね。 うん。 ……。 それじゃ、よく見えないだろう? はい、鏡。 ……あぁ、とてもきれいね。 然う言って貰えて、良かった。 さんざ、悩んだんだ。 だけど、どうして? 今日は私の誕生日ではないし、結婚記念日でもないわ。 出逢った日、でもないし……。 贈り物をするのは、何も、記念日に限ったことじゃないだろう? ……何か良いことでもあった? 特段、何も。 だけど。 だけど? 亜美ちゃんの吃驚した顔を見ることが出来て、嬉しいかな。 もう、何よそれ。 たまには良いだろう? たまにはって……本当に、吃驚したのよ。 あはは、それは良かった。 もぅ……。 さて、無事に渡せたことだし。 ごはんの支度をしようか。 ひとつ、聞かせて。 しょうがないなぁ、ひとつだけだよ。 貰っておいて、こんなことを言うのはなんだけれど……。 うん。 ……どうして、エメラルドなの? あ、やっぱり然う思うよね。 エメラルドはあなたが好きな宝石だわ。 うん。 で、亜美ちゃんが好きなのはサファイア。 誕生石も、然うだよね。 ……然うよ。 亜美ちゃん、誕生日石と言うのを知ってるかい? 誕生日石? 誕生石は月だろう? 誕生日石は……まぁ、そのままだね。 ……私の誕生日石は、エメラルドなのね。 エメラルドでも、インクルージョンのあるエメラルドなんだ。 こういうエメラルドは、個性的な魅力を持っているものが多くてね。 と言っても、価値が低いものもあるのだけれど。 ……母に、聞いたことがあるわ。 インクルージョンは傷と判断されて価値が下がる原因となることもあれば、個性と判断されて、価値をより高めることもある、と。 うん。 ……。 まぁ、9月10日の誕生日石は他にもあるんだけどね。 ……どんなものがあるの? 例えば、イエローサファイアとか。 イエローサファイア……。 正直、イエローサファイアと悩んだんだ。 亜美ちゃんはサファイアが好きだし……でも、好きなのはブルーサファイアかなぁって。 ……それが、エメラルドを選んだ理由なの? それが、ひとつ。 ……他の理由は? 占星術では、エメラルドは水星を司る宝石なんだって。 水星を? エメラルドが? 面白い偶然だと、思ったんだ。 あたしの好きな宝石が亜美ちゃんの誕生日石で、しかも水星を司っているなんてさ。 ……。 えと……サファイアの方が、良かったかな。 ……ううん、そんなことない。 ありがとう、まこちゃん……大事にする。 うん……あぁ、良かった。 ……ねぇ、まこちゃん。 ん……? 水星を司る宝石があるのなら、木星を司る宝石もあるのよね? ……。 まこちゃん? ……うん、あるよ。 それは、なに? お返しに、贈りたいわ。 い、良いよ、お返しなんて。 あたしが勝手に贈りたかっただけなんだからさ。 さ、それじゃ、ごはんに 良いわよ、調べれば分かることだから。 ……。 ……まこちゃん? …………ア。 え、なに? 聞こえないわ。 ……イエローサファイア。 え。 イエローサファイア、なんだ。 ……。 な、なんか、偶然って言うには、ねぇ? ……いいえ、必然だわ。 え? ねぇ、まこちゃんの誕生日石は? あ、あたしの誕生日石? 然う、12月5日の誕生日石。 知ってるのでしょう? ……。 ……。 ……色々、あるけど。 その中でも印象的だったものを、教えて。 ……オレンジサファイアとか、パープルサファイアとか。 サファイア……。 ブルーでは、ないけど……ね。 ……。 ……因みにね、トルコ石も水星の石らしいよ。 トルコ石って……。 うん……あたしの、誕生石。 なんてことなの……。 ……ね、面白いよね。 ……。 じゃあ、ごはんの支度をしよう。 あたし、お腹がすいちゃったよ。 ……イエローサファイア、と。 う、うん? イエローサファイアと悩んだのは、どうして? 私が好きな宝石だから、と言うことだけではないでしょう? ……。 ねぇ、どうして。 ……分かって、いるんだろう。 あなたの口から、聞きたいの。 ……。 ……。 ……いつでも、亜美ちゃんを守れるように。 ……。 木星を司ったものを贈りたいと、思ったんだ……。 ……あぁ。 だ、だからさ……次に、贈っても良いかな。 ……。 亜美ちゃん……。 ……だったら、私はあなたにサファイアを贈るわ。 ……! ね……受け取って、呉れるでしょう? ……うん、ありがとう。 未だ、贈っていないわ…… それでも、ありがとう……すごく、嬉しい。 ……。 ね……良く、似合ってるよ。 然う、かしら……。 うん……とても良く似合ってる。 ん……。 ……。 ……。 ……ね、ごはんにしようか。 ん……然うね。 -Small Two of Pieces(現世2) ……木野さん。 ……。 あの……大丈夫? ……あたしは、大丈夫だよ。 ごめんなさい……うちに、連れてきてしまって。 こちらこそ、お邪魔しちゃってごめんね。 ……あの。 休んだら、帰るから。 そ、その前に。 ん? き、傷の手当てを……その、やらせて。 いいよ、これくらい。かすり傷だし。 ほら、血も止まってる。 ……ううん、だめよ。 ちゃんと、しておかなきゃ……化膿でもしてしまったら、大変だわ。 怪我するのは、慣れてるから。 ……。 水野さん。 ……お願い、やらせて。 ……。 お願い……木野さん。 ……なんて顔、してるんだよ。 ……。 そんな顔されたら……断り切れないじゃないか。 ……ごめんなさい。 はぁ……しょうがない、か。 ……。 ねぇ、水野さん。 お願いしても、良いかな。手当て。 ……! うん……! ……。 え、な、なに……。 いや、かわいいなって。 ……え? そっちの方が、ずっとずっと、良いよ。 泣きそうな顔は……ちょっと、ね。 ……私、泣きそうな顔なんてしてた? してたよ。 ……そう。 とりあえず、手当てをしてくれている間はその顔でいて欲しいかな。 わ、分かった、やってみるわ。 あはは、言ってるそばから顔が硬くなってるよ。 あ。 まぁ、泣きそうな顔よりかはいいけどさ。 ……。 はぁ……なんだか、疲れちゃったな。 帰ってごはんの支度するの、面倒くさいや。 木野さんは……一人暮らし、なのよね。 うん、そうなんだ。 その……大変? ……。 あ、ご、ごめんなさい……。 別にいいよ、謝らなくても。 ……ごめんなさい。 だから、いいって。 ……。 一人暮らしは、大変と言えば大変だけど、誰にも縛られないから気楽とも言えるよ。 例えば、戦いでいくら帰りが遅くなっても誰にも叱られない、とかね。 ……。 だけど、今日みたいな日は……ごはんにちょっと、困るかな。 部屋に帰っても、誰もいないから……ごはんは、ごはんだけじゃないけど、自分でなんとかしないといけないし。 なんでもなかったら、とっくに、食べ終わってる時間だったんだけどな……。 ……だれも、いない。 けど、ま、一食ぐらい抜いたところでひとは死なないから。 手当てをしてもらったら、家に帰って、さっさと寝ちゃうつもり。 て、数学の宿題があるんだった……よりにもよって数学、だし……どうするかな。 数学……。 いいかな、やらなくて。 どうせ、分からないし。 そ、そんなの、だめよ。 宿題はちゃんと、やらなきゃ。 そう言われてもなぁ。 もう、疲れちゃったし。やる気が、出ないよ。 よ、よかったら。 ん? 一緒に……やらない? 助けてくれる? え、えぇ……私で、良ければ。 ありがとう、水野さん。 5組の天才少女と名高い、水野さんが助けてくれるなら…… ……。 ……水野さん? ん……。 ……どうした? え……? もしかしてあたし、何か気に障るようなこと、言った? う、ううん、言ってないわ。 でも。 本当に、言ってないから。 ……。 でも……どうして? いや、なんか……顔が一瞬、曇ったような気がして。 ……きっと、気のせいだわ。 そうかな……。 ……そうよ。 なら……いいけど。 ……ねぇ、木野さん。 なんだい? あの、ね……宿題をやる前に、ごはん、一緒に食べない? え、いいのかい? 木野さんさえ、良かったら。 あたしにとっては、願ってもないことだけど。 迷惑じゃない? お母さん、そろそろ帰ってくるだろう? ううん、母は帰ってこないわ。 今夜は夜勤なの。 夜勤……と言うことは今夜、水野さんはひとりなの? ええ。 そう、なんだ……だけど、ひとりで怖くない? ……こどもの頃からだから、もう、慣れちゃったわ。 ……。 ね、どうかしら……? ふたりで食べた方が、ひとりで食べるより……その、楽しいと思うし。 ……あたしとふたりで、楽しいかな。 た、楽しいわ。 ……。 学校のお昼休みにうさぎちゃんと木野さんと私、三人でお弁当を食べると、その、とても楽しいから。 だから……。 それは……うさぎちゃんが一緒だから、楽しいんじゃないかな。 そんなこと、ない。 だって、木野さんと一緒に食べるようになって私、もっと、楽しく感じるようになったんだもの。 そ、そっか……それは、嬉しいな。 だから、だからね……。 ……それじゃ、お言葉に甘えちゃおうかな。 ! 甘えても、いいかい? うん! ……ありがとう、水野さん。 ううん、こちらこそありがとう、木野さん。 ん。 ……。 ……嬉しすぎて顔、にやけそう。 ? なに? ん、なんでもないよ。 そう? うん。 ……これで、よし。 ありがとう、手際がいいんだね。 そんなこと、ないわ。 いやいや、そんなことあるよ。 水野さんは器用なんだね。 ……そんな、私なんて。 今度から、水野さんにやってもらおうかな。 ……。 なんてさ、そこまで迷惑かけられないよな。 め、迷惑、なんて! お。 め、迷惑じゃ、ないから……私で、いいなら、やらせて。 本当かい? はは、それは助かるなぁ。 ……。 そういや、水野さんは怪我してない? ……ええ、ジュピターが守ってくれたから。 あたしが? 憶えて、いないの? うん……無我夢中、だったから。と言うより、必死、かな。 喧嘩は何度かしたことがあるけれど、あんなのと戦うことは一度もなかったからさ。 いまいち、勝手がつかめなくて。 ……木野さんは、勇気があるひとなのね。 勇気ぃ? そんなもの、あたしにはないよ。 だけど……ジュピターになってまだ日が浅いのに、いつも、勇敢で。 いつも、みんなの前に、立って……今日だって、わたしのこと、守ってくれて。 勇敢ってわけじゃ、ないよ。だってさ、やらなきゃ、やられるだろ? 怖がって逃げてばっかりじゃ、勝てるものも勝てない。 やるしかないのなら、あたしは、やるだけだよ。 やっぱり、勇気があるわ……私には、真似できない。 いや、真似しなくてもいいだろ。 ジュピターが前に立つ、そうすりゃ、マーキュリーはあたしの後ろで色々考えることが出来る。 考えて、作戦を立てて、時には敵の弱点を見つけて、そしてあたしに指示を出す。 役割分担って、やつだよ。 ……。 それにさ、水野さんだって勇気、あると思うよ。 私には、勇気なんて……。 戦ってる時のマーキュリーの顔、とても、かっこいいんだよね。 ……。 あ、いや、いつも見てるわけじゃないよ? たまたま、そう、たまたま目に入ってくる時がある、と言うか……? ……。 み、水野さん? そ、そんなにいやだったかい? ……ううん、初めてだから。 へ。 かっこいいなんて、言われたの。 生まれて、初めて。 そ、そうなんだ……まぁ、水野さんはどっちかと言うとかわいいしね。 ……。 え、なに。 ……かわいい、なんて。 かわいいよ。 ……ッ。 あれ……。 ……ごは、ん。 うん……? ご、ごはん、なにがいい……? あぁ、そうだな……て、あたしも手伝うよ。 う、ううん、いいの。 き、木野さんは、休んでて。 そういうわけには、いかないよ。 ご馳走になる上に、宿題も助けてもらうんだから。 て、手伝ってもらうことなんて、ないの。 けど、 ほ、本当に、ないの。 だから、ここ、に…… 危ない! ……。 ……あぁ、びっくりしたぁ。 木野、さん……。 大丈夫かい……? ……う、ん。 ん、よかった。 ……。 ん、なに? ……あ、の。 うん。 ……はな、して。 うん? だ、だいじょうぶ、だから……はなして。 え……あぁ……。 ……ありがとう、木野さん。 えと、どういたしまして。 ……。 ……ええ、と。 ……。 ごはん、どうするの? 水野さんとふたりでごはんを作れると思ったら、あたし、やる気が出てきたよ。 ……その。 うん。 ……仕出しを、頼もうと思っているの。 仕出し……出前? う、うん……。 手伝いはいらないって、そういうことかぁ。 ごめんなさい……私、作ることなんて滅多にないから。 いや、謝ることじゃあないよ。 出前かぁ、久しぶりだなぁ。 その……なにが、いいかしら。 んー……ラーメン、とか。 ラー、メン? チャーハンもいいなぁ、餃子もつけて。 あたし、いつも自分で作って食べてるからさ、ひとさまが作ったものなんて滅多に……? ラーメン……チャーハン……餃子……? み、水野さん、どうしたの? あ、ラーメンはいやだった? ……ううん、そんなこと、ない。 いや、そんなことあるだろ? そうだ、水野さんが決めたのでいいよ。 お金も、出すから。 ううん、お金なんて、いいのだけれど……。 そんなわけには、 そうだわ、ラーメンに、しましょう。 カップラーメンばかりじゃ、だめだもの。 は……? カップ、ラーメン……? 木野さんも、ラーメン? それとも、チャーハン、かしら。 そうそう、電話帳を……。 水野さんって、カップラーメン、食べるの? ……? ええ、手軽だし……。 い、意外だなぁ。 そう、かしら。 そんなの、食べないと思ってたよ。 時間もかからないし、便利よ? それは、分かるけど……。 ……変、かしら。 ううん、変じゃない。 そっか、水野さんもカップラーメン、食べるんだ。 実はね、あたしも食べるんだ。作るのが億劫な時、なんかにね。 そうなの? うん、そうなんだ。 ……。 一緒、だね。 木野さんと、一緒……。 ……一緒に、されたくないかな。 ううん……うれしい。 そっか……よかった。 ……ね、なんのラーメンがいいかしら。 そうだなぁ……水野さんは何にするんだい? 私は……お塩、かしら。 お、しぶいねぇ。 そう? じゃ、あたしは味噌にしようかなぁ。 ……ふふ。 ん? なんだい? ごめんなさい……楽しくて、つい。 ……。 ……不快に感じたら、 ううん、あたしも楽しいから。 ……。 ね、水野さんは味噌も食べる? ……うん、食べるわ。 味噌も、美味しいよね。 ん。 ちなみに、塩も好きだよ、あたし。 ……しぶい、わね? はは、そうだねぇ! ふふ。 ね、チャーハンはどうする? 餃子は? チャーハンは、いいや。けど餃子は食べたいなぁ。 ね、水野さんは? 水野さんも、食べたい? ひとつ、くらいなら。 ひとつでいいの? うん、私はそれで十分。 それじゃ、ほとんどあたしが食べることになっちゃうけど。 ん、気にしないで食べて。 けど、 食べているところが、見たいの。 ……。 ……? ……じゃ、お言葉に甘えて。 うん……それじゃ、電話をかけてくるわね。 ねぇ、水野さんさ。 ……? なぁに? 名前で呼んでも、いいかな。 名前……? もちろん、嫌だったら呼ばないけど。 ……。 だめ、かな。 ……ううん、呼んで欲しいわ。 本当かい? ん。 それじゃあ、水野さ……亜美ちゃん、もさ。 あたしのこと、名前で呼んでよ。 え……。 名前で……まことって、呼び捨てでもいいからさ。 よ、呼び捨てなんて……出来ない、わ。 なんでもいいよ、亜美ちゃんが呼びやすいので。 ……まこ、ちゃん。 うん? まこちゃんって、私も呼んでもいいかしら……。 もちろん。 じゃあ……これからは、まこちゃんって呼ぶわ。 あたしも、これからは亜美ちゃんって呼ぶね。 ……。 改めてよろしくね、亜美ちゃん。 ……こちらこそよろしくね、まこちゃん。 ……。 ? なに? 亜美ちゃんは笑うと、目が宝石みたいにきらきらするんだね。 ……え? まるで……そう、サファイア。 青のサファイアみたいで、すごくきれいだ。 そ、そんな、こと……。 亜美ちゃんは笑うと、目がきらきらしてすごくかわいい。 まぁ、笑わなくても、かわいいけど。 ……! うん、赤くなった。 さっきも、赤くなったよね。 も、もぅ、からかわないで……! からかっては、いないけど。 まこちゃん! はは、ごめんごめん。 けど、本当のことだから取り消さないよ。 あぁ、もう……。 ねぇ、思うんだけど。 ……なに。 早くしないと、お店、閉まっちゃわないかな。 もう結構な時間だし。 あ。 ね、あたしがかけようか、電話。 わ、私がかけるわ。 木野……まこちゃんは、休んでて。 お店は? もう、決まってる? え、えと……。 なんだったら、あたしが知ってるお店にする? そこならお店の名前、分かるし。亜美ちゃんちとうち、わりと近いから持って来てもらえると思うし。 何より、美味しいよ。 ……お願いしても、いい? うん、任せて。 電話、どこだい? ……。 ……ん。 ……。 ……ここは、どこだ。 あ……。 ……ッ! まこちゃん、起きた……? ……誰だ。 え……? 誰だ。 わ、私よ、亜美よ。 ……。 私は水野亜美よ、まこちゃん。 ……亜美ちゃん。 あ、あの、大丈夫……? ん、大丈夫……ちょっと、驚いただけ。 あ、あぁ、そうよね……知らない場所で目が覚めたら、驚くわよね。 ……あたし、寝ちゃってたんだね。 うん、ごはんを食べて休んでいたら……そのまま。 あぁ……お腹いっぱい食べたもんだから、眠くなっちゃったんだな。 亜美ちゃん、毛布ありがとね。 ん……。 何してたの? えと……お勉強。 そっか……て、宿題。 ごはん食べてそのまま寝ちゃったってことは、全然、やってないよね? ……うん。 い、今、何時? えと……11時、過ぎたわ。 ほ、本当に? あの、まこちゃん。 宿題もまだ終わっていないし、良かったら、このままうちに こんな時間までありがとう、亜美ちゃん。 帰るよ。 え、でも、宿題は…… まぁ、やらなくても怒られるだけだから。 け、けど、 これ以上、亜美ちゃんに迷惑をかけられないよ。 め、迷惑だなんて、思っていないわ! それに疲れちゃって、もう、頭が動きそうにないんだ。 せっかく教えてもらうのに、ぼんやりしてしまってちゃんと聞くことが出来ない、なんてさ。 そんなのって、ないだろ? だから今日は、もう、いいんだ。 ……。 ……亜美ちゃん? こ、今度、ちゃんと教えるから。 うん、ありがとう。 本当は、こんなことをしては、だめなんだけど……だけど、今は。 亜美ちゃん? ……数学の先生、6組と同じなの。 へぇ、そうなんだ。 だから、だからね……私のノート、貸してあげる。 へ……。 ほ、本当は、だめなのよ? こんなことしたって、まこちゃんの為にはならないし。 でも、でも、まこちゃんが怒られてしまうかもしれないのに、それが分かっているのに、何もしないなんて出来ないの。 だって、まこちゃんはちゃんとやろうとしてたんだもの。戦士として戦って、怪我もして、それでも、ちゃんと。 ……いや、ちゃんとはしてなかったかな。 と、とにかく! あ、はい。 ノート……良かったら、見て。 助けるけど……でも、本当にいいの? そ、その代わり。 あ、うん。 解き方は日を改めて、ちゃんと教えるから……その時は、ちゃんと聞いて。 ん……分かった。 ありがとう、亜美ちゃん。 ……。 それじゃ……ささっと写して、帰ろうかな。 ね、ねぇ。 ん、なに? よ、よかったら……このまま、うちに。 亜美ちゃんは字がきれいだねぇ。 すごく見やすいや。 あ、うん……ありがとう。 きれいに、まとめてあって……本当に、見やすいなぁ。 ……。 亜美ちゃんはいつも、こんな時間まで勉強しているのかい? ……え。 勉強、いつもこんな時間までしているの? う、うん……今日は塾に行けなかったから、特にちゃんとやらなきゃって。 毎日、塾に行ってるんだっけ。 ……うん。 そっか。 ……やっぱり、変、かしら。 ん、なんで? 全然、変じゃないよ。 だけど、毎日夜更かしするのはどうかなぁ。 ……。 あぁ、変とかじゃなくて。 夜更かしばかりしてると、肌に良くないし、疲れも取れないだろう? 休むことも大事、あたしが言いたいのはそれだよ。 ……まこちゃん。 お勉強は大事、休むことも大事、両方、大事。 だろ? ……うん。 あぁ、しかし、本当に見やすいなぁ。 なんだか、頭が良くなったみたいだよ。 ……。 今日の占い、これは外れだな。 ……占い? 今日のいて座は最悪だったんだ。 いて座……。 星座占い、亜美ちゃんは見ない? え、えぇ……。 まぁ、あたしも信じてるわけじゃないんだけどさ。 なんと言うか、つい、見ちゃうんだよね。 結果が良かったりすると、やっぱり、気分も違うし。 それって……悪くても、よね? うん、そうなんだよね。 今日は、なんだったっけな……最悪ってことだけは、憶えているんだけど。 それくらいで、丁度良いのかも。 うん? なんとなく、最悪だったかもしれない。 それくらいの方が、細かいことをはっきりと憶えているよりも、引きずらないと思うの。 そうそう、そうなんだよ。 しょせんは占いだし、当たるも八卦当たらぬも八卦、ってね。 ……ふふ。 ん、なに? まこちゃんって、面白いひとなのね。 面白い……。 あ、ごめんなさい……失礼、だったわよね……。 ん、いや、そんなことないよ。 そっか、面白いかぁ、あたし。 ……。 て、いけない、手が止まっちゃってる。 ……まこちゃんって、いて座なのね。 え、あぁ、そうなんだ。 お誕生日は…… 12月5日だよ。 亜美ちゃんは? わ、わたし? うん。 私は……9月10日。 と言うことは……おとめ座だ。 ん。 今日のおとめ座は……良くもないけど、悪くもないって感じだったかな。 ふふ……そうなのね。 ね、プレゼント、何がいいかな。 ……え? 誕生日プレゼント。 せっかく、だからさ。 そ、そんな、いいわ、 こうかんこ、しようよ。 こうかん、こ? そう、こうかんこ。 ……こうかんこって、交換するって、こと? そうだけど……使わない? 初めて聞いたわ。 で、どうかな。 こうかんこ、しない? い、いいけど……。 けど? ……いい、わ。 やった。 だけど……誕生日プレゼントって、何がいいのかしら。 私、初めてだから……その、分からないわ。 うーん、そうだなぁ。 まだ先だから、今から考えなくてもいいと思うけど。 ……。 相手が喜ぶものをってよく言うけど、実際は、分からないよね。 ……ええ、分からないわ。 だからさ、これからは一緒にいる時間を増やしてみるってどうかな。 ……。 そ、そうすればさ、欲しいものが、もしかしたら、分かるかもしれないじゃないか。 ……そうかもしれない、でも。 でも……迷惑、かい? う、ううん、そうじゃないの。 むしろ、迷惑をかけてしまうのは私の方じゃないかって。 なんでさ。そんなわけ、ないだろ。 けど、私……あまり、よく、言われてないから……ともだちも、うさぎちゃんと仲良くなるまで、いなかったし……。 よく言われてないだって? そんなの、あたしには関係ないよ。あたしは亜美ちゃんと、 ……。 ……亜美ちゃん、と。 ……? まこちゃん……? その……仲良くなれたらいいなって、思ってるんだ。 あ……。 あ、あたしも、ともだち、いなかったし……こんなあたしじゃ、迷惑かもしれないけど、 そんなこと、ない。 ……じゃあ。 私も、まこちゃんと……今よりも、仲良くなりたいわ。 ほんと? ……う、ん。 へへ、うれしいなぁ。 ……。 ……よし、終わった。 あ。 本当にありがとう、亜美ちゃん。 それじゃああたし、 ま、待って。 ん? そ、その……泊まって、いって。 え。 もう、遅いし……いやじゃ、なければ。 い、いやじゃ、ないけど……。 母も、夜勤で帰ってこないから、だから……。 ……。 ……ごめんなさい、いやよね。 いやじゃないよ……すごく、うれしい。 じゃあ……。 ……でも、帰るよ。 ……。 ありがとう、亜美ちゃん。 ……ううん。 ね、今度うちに来てよ。 今日のお礼がしたいんだ。 ……お礼なんて、いいの。 ごはん、作るからさ。 ごはんだけじゃない、ケーキも焼くよ。 ……ありがとう、まこちゃん。 その気持ちだけで、私は、十分よ……。 え、と……。 ……まこちゃん、日が替わってしまうわ。 亜美ちゃん。 ……。 うちに、泊まりにおいでよ。 ……え? うちだったらさ、誰もいないし。 朝になっても誰も帰ってこないし……だから、泊まりやすいと、思うんだ。 ……まこちゃんのお部屋、に。 亜美ちゃんともっと、仲良くなりたいんだ。 ……っ。 か、考えておいて。 あ、まこちゃん……。 今日は、本当にありがとう。 また明日、学校でね。 う、うん……。 そうだ。明日から学校、一緒に行こうよ。 待ち合わせの時間を、決めてさ。 ……。 いや、かな……。 ……ううん、一緒に行きたい。 じゃあ、決まりだ。 ん……決まり。 そしたら…………で、どうかな? ん……大丈夫。 やった……! ……し。 ……。 ……声が、大きいわ? う、うん、ごめん……嬉しくて、つい。 ……私も、嬉しい。 ……。 ……。 ……あ、思い出した。 ん、何を……。 今日のいて座のラッキーアイテム……仲がいいともだちのノート、だった。 ……。 ね……当たりで、いいかな。 ……まこちゃんが、それで、いいのなら。 うん……じゃあ、そうする。 ……。 ……じゃあ、帰るね。 おやすみ、亜美ちゃん……。 うん……また、明日。 おやすみなさい、まこちゃん……。 ん……。 -Ties of Water and Thunder(現世・名字呼び) ねぇ水野さん、水野さんってパワーストーンって信じ 信じない。 うん、分かってた。 たかが石如きに、そんな大それた力が宿るわけないでしょう。 神に贄を捧げていたような古代文明ならば兎も角、現代でそんなのものを信じるのは馬鹿げているわ。 し、辛辣……。 なぁに、木野さんは欲しいの? 欲しいと、言うか。 それとも、私に贈りたかった? ……ふたりで、持てたらなって。 ふぅん。 持つだけなら構わないけど、信じるのは無理よ。 因みに、誕生石は サファイア。 サファイアかぁ。 一応、持ってはいるわよ。 部屋のどこかにしまい込んだまま、だけれど。 え、持ってるの? ええ、母がいつだかの誕生日に押し付けてきたの。 望んでなんか、いないのに。 そう、なんだ……。 母は宝石が好きなのよ。 私は好きじゃないけれど。 そ、そっか。 欲しいのなら、あげるわよ? は? サファイア、私が持っていてもしょうがないから。 で、あるならば、 いや、流石に貰えないよ……。 そぉ? でもまぁ、そうよね。 ……。 それで、木野さんの誕生石は何? ……え、なに。 誕生石。木野さんの。 あぁ……あたしのは、トルコ石だよ。 トルコ石……ね。 ……。 木野さん。 ……なに。 何を考えているの。 いや、別に何も。 何も……ねぇ。 ……う。 ねぇ、何を考えているのかしら。 ……。 教えて、木野さん。 ……笑わない? それは、内容によるわね。 ……笑われそう。 木野さん? ……結婚指輪に、ついて。 結婚指輪……て、あの結婚指輪? 他には、ないよね……。 けれど、どうして結婚指輪なの? 今はパワーストーンの話をして…… ……。 ……木野さん。 真顔も結構、きついものがあるよ……。 まさか、だけれど。 結婚指輪にあしらう宝石について考えていたの? ……。 そうなのね。 ……ない方が、いいかなって。 あってもなくても、どちらでも、私は構わないわ。 木野さんがあしらいたいと思うのならば、そうすればいいと思うし。 それじゃ、だめなんだよ。 ……何故? 何故って……結婚指輪、だからだよ。 よく分からないわ。 宝石、好きじゃないんだろう? 好きじゃないものがあしらわれてる指輪を、水野さんはつけたいって思えるの? 思えるわよ。 どうして? だって、それは木野さんとお揃いになるのでしょう? ……。 違うの? ……まぁ、そうだけど。 だったら、私はあしらわれていても構わないわ。 何故ならば、それは、特別なものだから。 ……とくべつ。 違う? ……違わない。 でしょう? だから、どちらでも構わないの。 どちらにせよ、私達の特別に変わりはないのだから。 ……。 木野さん、どうして頭を抱えているのかしら? ……特別だからこそ、どちらでも構わないはなしにして欲しい。 うん? ふたりで話して、決めるんだ。 話し合って、どちらにしたいかを、ちゃんと。 私の意見はもう、 特別だからこそ、どちらでも良いはやめてほしい。 ……もしかして、だけど。 ……。 私が適当なことを言っている、或いは、選択を放棄している。 そんな風に、聞こえている? ……違うのかい。 言ったでしょう? それは、特別だって。 だからこそ……私はあなたに、選んで欲しいと思っているのだけれど。 けど、それじゃあ水野さんの 私は、あなたが選んでくれた特別な指輪を、指に嵌めたいの。 ……。 だってそれは、あなたが私のことを想って選んでくれたものなのよ? あなたのことだもの、きっと、真剣に考えてくれる。 私のことで頭がいっぱいになってね、すごく悩んでくれると思うの。 ……。 ね、そうでしょう? ……そこまで、分かっていて。 ふふ、楽しみだわ。 水野さんは……あぁ、もう。 なぁに? ずるい。 ありがとう? ……。 ……ふふ。 あぁ、もぉ……。 ……けどね、木野さん。 なんだい……水野さん。 私達、まだ、中学生なのだけれど。 ……ぐ。 木野さんって、意外と…… ……それ以上、は。 ね、そんなに私と結婚したいの? ……したいよ、知ってるだろ。 ふふ、知ってるけど。 ……ねぇ、水野さん。 なに? ……少しくらいは、考えて欲しいな。 どうしようかしら。 あたしだってさ、水野さんが選んでくれた指輪をつけたいって思ってるんだよ。 どこまで行っても、それは特別で、ふたりだけのものなんだから。 ……。 み、水野さんが、あたしが選んだものをつけたいと思うように。 あたしだって、 それは、そうね。 ……。 それじゃ、その時が来たら……ね。 ……きっと、だからね。 ええ、きっと。 ……。 それで、木野さん。 ……なんだい。 それ、買うの? ……いや、やめとく。 あら、どうして? こういうの、興味なさそうだし。 デフォルメされた、しろくまがかわいいわね。 ……ついでに、誕生石カラーのラインストーンが小さくついてたりするんだけど。 ええ、そうみたいね。 ……いる? 私に? ……うん。 ……。 いらない、かな。 ……もらえたらきっと、嬉しいと思うわ。 ……。 くれる……? ……ぐぅ。 ぐぅ? ……買ってくる。 あ、待って。 ま、待たない。 少しだけ、待って。 ね。 ……うん。 木野さんのは、これよね。 ……え。 トルコ石、でしょう? そう、だけど……。 お揃い、ね。 ……ぐぅぅ。 ふふ……さっきから、ぐぅぐぅ言ってるわよ? ……水野さんがかわいいから、だよ。 そうだ。お買い物が終わったら、食事にする? ……うん、する。 じゃあ、そうしましょう。 ……ねぇ、水野さん。 なにかしら。 宝石が、好きでなくても。 あたしが、贈ったものなら、 ……もっと、己惚れて。 水野さん……? 本物のサファイアより、あなたがくれるであろうそのキーホルダーの方が。 きっと、大切になるわ。ううん、なるの。 ……。 ……本物の宝石だって、あなたが贈ってくれたものなら。 そっ、か……。 ね……早くお会計を済ませて、行きましょう? ……うん、そうだね。 ……みずのさん? ……。 そんなかっこうで、なに、してるんだい……かぜ、ひいてしまうよ。 ……だいじょうぶ、よ。 だいじょうぶじゃ、ないよ。 もう、なつではないんだから。 ……。 さぁ……はやく、もどっておいで。 からだを、ひやしてしまうまえに……。 ……きて。 ん……? ……むかえに、きて。 あぁ……わかった、いまいくよ。 ……。 ん、しょ……あぁ、やっぱり空気が冷たいな。 ……。 水野さん、迎えに来たよ……さぁ、あたしとベッドに戻ろう? ……うん。 ん。 ……。 ……ん、それ。 これを……見ていたの。 ……ベッドに、持っていくのかい? だめ……? いや、いいんじゃないかな……けど、なくさないようにね。 うん……。 ……まぁ、なくしても新しいのをプレゼントするけど。 この子は、これだけだから。 ……。 だから、なくさない……。 ……そっか。 ……。 ……。 ……なに? ん、いや……仕草が、小さなこどもみたいだなって。 ちいさな、こども? 買ってもらった物を、心から、大切にしている……。 ん……きのさん。 そんなに、喜んでもらえるなんて……思って、なかった。 ……私、言ったわ。 みずのさん……? ……もっと、己惚れてって。 そう、言われてもね……なかなか、ね。 ……私が、素直じゃないから? いや、これはあたしの問題……。 ……あ。 さ、ベッドであったまろ……。 ……なんで、抱き上げるの。 なんとなく、かな……? ……なによ、それ。 狭いベッドでは、ありますが……さぁ、どうぞ。 ……ふふ。 お気に召して、頂けたでしょうか……? ……ううん、まだよ。 と、言いますと……? ……木野さんが、隣にいないもの。 あぁ……。 だから……早く、来て? はい……すぐに。 ふふ……。 さて……これで、いかがでしょう? ……まだ、足りないわ。 どうすれば、お気に召して頂けるのですか……? ……分かって、いるのでしょう? 言葉に、して頂けると……嬉しく、思うのですが。 ……。 言葉に、してくれる……? ……だきしめて。 喜んで。 ……。 ……あぁ、やわらかい。 あったかいわ……。 ……満足、してくれた? そう、ね……。 ……それとも、まだ? まだと、言ったら……? ……満足するまで、ね。 ん……。 ……水野さん。 ねぇ、木野さん……。 ……なんだい。 これじゃ、ないわ……残念、だけど。 ……。 他のことで、満足させて……? ……ええ、と。 ね、このベッド……ずっと、使っているのよね。 うん、そうなんだ……もうずっと、使ってるんだよ。 ずっとって、どれくらい……? そうだなぁ、小学校に上がる時に祖母に買ってもらって……それから、だから。 七年半くらい……? うん、それくらいかな。 だけどさ……最近、新しいのが欲しいと思っているんだ。 あら、どうして……? だって、ふたりで寝るには狭いだろう? 広くは、ないけれど。 水野さんが使っているベッドは、セミダブルだよね。 ええ。 ダブルは無理でも、それくらいのものが欲しいなって。 私は、好きよ。 うん? 木野さんと、抱き合って眠れるもの。 それは……あたしも、好きだけど。 でもやっぱり、もう少し大きい方がいいと思うんだ。 この先のことを、考えるとさ……シングルじゃもう、限界かなって。 そうかしら。 実はね、水野さん。 ここだけの話、なんだけど。 なぁに? あたし、まだ身長が伸びてるんだ。 もうそろそろ、と言うより、いい加減止まって欲しんだけど。 中学生だし……おかしいことではないと、思うけれど。 あと戦士になったせいかな、より、筋肉がつきやすくなったような感じがするんだ。 ……。 不本意なんだけど、これからも大きくなるような気がしてさ。 そうなると、あたしひとりでも窮屈になっちゃうと思うんだ。 この先も、水野さんと一緒に寝たいと思っているから……その為にはやっぱり、大きいベッドが必要かなって。 ……私のベッドを持ってこられれば、良いのだけれど。 いや、それは、 交換、するの。私のと、木野さんのと。 そうすれば、ね? あぁ、それはいいね……なんて、そんな簡単にはいかないだろ。 運送業者に手配して、 中学生の話なんて、きっと聞いてはもらえないだろうし、聞いてもらえたところで、お金だってかかるし。 大丈夫、私に任せて。 それと、水野さんのお母さんにばれたら……絶対に、面倒なことになるよ。 ……。 なんにせよ、すぐには無理だから……お金を稼げるようになったら、新しいベッドを買おうと思っているんだ。 ……この部屋に、置くの? ううん、置かない。 この部屋よりも、もう少し広い所に引っ越す。 そこで……水野さんと、暮らしたいと思ってる。 ……。 だから……新しい部屋とベッドは、ふたりで決めたい。 ……そこでずっと、ふたりで暮らすの? それは分からない。場合によってはまた、引っ越しが必要になるかもしれないから。 だけどさ、どこに行ったって、ふたりで暮らすのだけは変わらない。 ふたりで、大きなベッドで、眠るんだ。 ……それって。 いや、かな? ……とっても、楽しそうね。 ! だろう!? ……しぃ。 む……。 ……今、何時だと思っているの? 夜中、かな……。 ……。 ……今すぐには、無理でも。 今すぐ、叶ったらいいのに……。 ……みずのさん。 早く、あなたとふたりで……。 ……高校を、卒業したら。 ……。 一緒に、暮らそう……出来れば、結婚、して。 ……その時は、この街から出たいわ。 母から、遠く離れたい……。 水野さんは……いや、水野さんが、そう、望むのなら。 ……。 みずのさん……。 ……木野に、しようかしら。 え……? ……名字。 あ。 ……だめ? だ、だめじゃ、ないけど……。 ……木野亜美って、おかしいかしら。 お、おかしくは、ないよ。うん、全然、おかしくない。 それとも、水野を名乗りたい? あー……。 ……水野まこと? そ、それも、悪くないよね……? ふふ……でも、木野がいいわ。 ……。 ね、いいでしょう? ……うん、いいよ。 やった。 ……。 ……木野さんの、真似。 あぁ、もぉぉ……。 ん、きのさん……。 ……かわいい……かわいいなぁ……。 ……。 ねぇ、水野さん。 ……なぁに。 いつか、ラインストーンじゃなくて、本物を。 ……。 本物の宝石を、水野さん、に…… ……。 ……みずの、さん。 その時を……楽しみに、しているわ。 う、ん……。 ……私も、いつか。 水野さん……みずのさん……。 ……あなた、に。 好きだ……大好きだよ、水野さん……。 ……私も、あなたが、好き……誰よりも、あなただけ、が。 ずっと、一緒に……一緒に、生きよう。 ……ええ、ずっと一緒に。 何があろうとも、絶対に離さない……。 ……はなさないで、ずっと。 誓うよ……。 ……ねぇ。 ん……。 ……きて。 ……。 きて……きのさん。 ……うん、みずのさん。 ……。 でも、その前に……。 ……な、に。 これ……こっちに、ね。 あぁ……そう、ね。 ……あたしのも、持ってきてくれたんだね。 並べたいと、思ったの……。 ……そっか、うれしいな。 ねぇ……? ……なんだい? わたしは、やっぱり……いしのちからなんて、しんじて、ないし……これからも、しんじることはないと、おもう……。 ……うん。 けれど……あなたのことは、しんじているから。 大人になったら……サファイアを、贈るよ。 さふぁいあ……。 ……水野さんの瞳と同じ色の、石を。 ねぇ……わがまま、いってもいい……? ……なんでも。 もらえるのなら……あなたのひとみと、おなじいろのいしが、いいわ……。 あたしの、瞳と……? そう……。 いいけど……あたしの瞳の色ので、本当にいいのかい? だって、だいすきなんだもの……きれいな、みどり、で……いつだって、わたしだけを、うつしてくれる……。 ……だったら、エメラルドかな。 えめらるど……? 緑と言えば、ね……自分で言うのも、なんだけど。 エメラルドの、わめいは……たしか、すいぎょく……。 ……そうなんだ? ほうせきなんて、ただの、いしだとおもってた……。 ……ただの石、か。 いまでも、そう、おもってるわ……。 ……本当に、興味がないんだね。 というより、きらいだったの……あのひとと、つながっているようで……みるのも、いやだった……。 ……そう、だったんだ。 だけど、あなたがおくってくれるもの、なら……。 ……そうだと、いいな。 はぁ……。 ……きれいだ、みずのさん。 あなたのひとみにかなう、ほうせきなんて……どこをさがしたって、きっと、みつからない……。 ……さすがに、褒めすぎだよ。 それでも、あ……ん、……それ、でも……あなたと、おなじいろが、ほしい……。 ……わかった。 ん……きの、さん……。 ……最初に贈るのは、エメラルドにするよ。 うれ、しい……。 ずっとそばに、おいてもらえたら、うれしい……けど。 ……け、ど? 水野さんの一番近くにいるのは、あくまでも、あたしだから……。 ……そんな、の。 そんなの……? ……きまってる、じゃない。 だと、いいな……。 ……いったで、しょう? 己惚れても、いい……? ……もっと、ね。 じゃあ……いまだけ、そうする……。 ……。 む……。 ……もぅ、ばか。 ん、ごめん……。 ……ぁ、……。 今、よりも……自分に、自信を、持てたら。 その時は……ほんの少しだけ、己惚れても、いいかな。 ほんの、すこし、だけ……? ……自惚れすぎては、だめだから。 ……。 ん……? ……まじめ。 それだけ……みずのさんのことが、だいじって、ことだよ。 ……ね。 なに……? ……つよく、して。 つよく……? ……あなたのことしか、かんがえられない、ように。 あぁ……。 ……やさしい、だけでは、っあ。 ……。 きの、さ……まこ、と……。 ……のぞむ、ままに。 あ、ぁ……。 -The Venerable Forest(前世) ははは! ……。 見て、マーキュリー! 緑が、緑がきらきらしてて、すごくきれいだよ!! ……ええ、然うね。 ねぇマーキュリー、この先に湖があるんだろ? その筈、だけれど。 早く行こう! あまり、急がせないで。 あと、足元に注意して歩かないと、 お、わ……っ。 転ぶわよ。 此処は、月とは違うのだから。 ははは、転んじゃった。 久しぶりだなぁ、こんな転び方したの。 怪我は? ん、大丈夫だよ。 ね、この盛り上がってるの、なに。 木の根。 へぇ、すごいな。こんなになるんだ。 はしゃぎすぎ。 だって、こんなに緑がきれいなんだよ。 はしゃぐなっていう方が、無理だよ。 こどもみたい。 ……ねぇマーキュリー、大地が、大地が温かいよ。 なんとなく、鼓動を感じるような……これって、緑のものなのかな。 いいえ、緑のものだけではないわ。 ……本当に、あったかいなぁ。 数えきれない程の命が、大地で息衝いている。 目には、見えなくとも……それらは皆、其処で生きているの。 然うか……月の大地とは、全然、違うんだな。 この星の一部の地域では大地のことを……畏敬の念を込めて、「母」と、呼ぶそうよ。 「はは」……。 ……命を産み落とし、そして育む存在として。 ……。 例えば……ほら、見て。 ……ん? あなたの手の傍に居る、小さな生き物。 おわぁ、なんだこれぇっ。 食物を自分達の巣穴に運んでいく生き物……確か、名前は ねぇねぇマーキュリー! こいつら、いっぱい居るよ!! 運んでるのが、食い物かな! ……ジュピター。 こいつらの後について行けば、巣穴に、 ついて、行かない。 えー。 許されている時間には、限りがあるの。 湖まで、行きたいのでしょう? だったら、ね。 むぅ、残念だな。 言っておくけれど、月に持って帰ることは出来ないわよ。 いや、流石に持って帰ろうとは思わないかなぁ。 こいつらは、此処で生きているのだし、これからも生きてゆくのだろうし。 ……。 此処ではないどこか、こいつらが知らない、生きられるかどうかも分からない世界。 そんな場所へ、無理矢理連れて行くなんてこと……あたしには、出来ないよ。 ……然う。 ……。 とりあえず、早く立って。 ……ん。 足元に居る、その生き物。 ……え。 毒針毛と呼ばれるものを持っているのだけれど、それで皮膚を刺されたら、患部が赤く腫れ上がった挙句に強い痛みと痒みを うん、直ぐ立つね。 毒針毛は触れただけでも、皮膚炎になることがあるそうだから。 物騒なやつだなぁ。 服、汚れてしまったわね。 洗えば、落ちるよ。 然うだけど、気を付けて。 ねぇ、マーキュリー。 なに。 此処は、命を、感じる。 命のにおいで、満ちている。 ……ええ、噎せ返ってしまいそうなくらいに。 マーキュリーも、感じる? 月とは全然、違うもの。 あぁ。 さぁ、行きましょう。 湖は 月はどうして、こういう世界にならないのかな。 ……。 ……こんな世界で、マーキュリーと暮らしたいな。 ジュピター……。 ……ねぇマーキュリー、花は 勿論、だめよ。 だよね。 それに、出来ないのでしょう? うん? 無理矢理連れて行くなんて、こと。 ……うん、出来ない。 けれど。 ……。 種子なら、可能よ。 勿論、全てでは、ないけれど。 ……いいの? 忘れたの? あなたのお師匠さんが育てていた、作物達を。 宮殿の庭園や、地下に広がっている農園を。 ……あー。 あれらは元々、この星で生まれた種子から育ったものたちの「子孫」よ。 「しそん」、かぁ。 歴代のジュピターが種子を持ち帰って、時間を掛けて月でも育つように改良してきた。 それはお師匠さんに受け継がれて……ジュピター、今はあなたに。 うん、責任重大だ。 ええ、その通りよ。 それこそ、あなたの代で潰れたなんてことになったら……歴代のジュピターが、怒り狂うでしょうね。 うわ、考えたくないなぁ。 ふふ……だったら、次へちゃんと繋げないとね。 その為に、マーキュリーにも協力して欲しい。 今よりも、もっと、良くする為に。 ……。 繋いでくることが出来たのは、いつだってマーキュリーがジュピターの傍に居て呉れたからだ。 師匠の畑だって、宮殿の庭園だって、地下の農園だって、必要なものを整えて呉れたのはマーキュリーだった。 ジュピターだけじゃ、どう考えても、無理だよ。 ……。 実は、マーキュリーだって責任重大なんだよ。 それこそ、何かあったら……歴代のマーキュリーに、ね。 あぁ……それは考えただけでも、頭が痛くなりそうね。 ふふ、だろう? だからマーキュリー、これからもふたりでね。 ……然うね、ジュピター。 よし。 それじゃあ、あたしも何か新しい種子を、 持ち帰る時に検査はするわよ。 ん、分かってる。 ……。 それじゃ改めて、湖に……あ。 ……あ? マーキュリー! マーキュリー!! ひらひらと、なんか飛んでるよ! ……。 あ、向こうにも! なんだあれ!! ……はぁ。 こっちの木に、何か居る! んん? うねうね動いていて、なんか気持ち悪いな!! はは!! ジュピター。 ……。 時間が、あまり、ないの。 ……はい。 私と、森に行ってみたい、ふたりで、湖を見てみたい、と。 駄々を捏ねたのは、誰。 ……あたしです。 だったら、真っ直ぐに。 でも、折角来たのだし……それに、新しい種子も……。 見ながら、歩いて。 但し、足元には気を付けて。 ……はぁい。 全く。 ……へへ。 本当、に……。 ん、マーキュリー? ……ユゥ。 ……。 ……何か、居る。 あぁ……メル、あたしの後ろに。 ……うん。 いざとなったら、迎え撃つ……。 ……分かった。 はぁ……我が守護、木星。 ……。 我に、力を……。 ……来る。 む……っ。 ……。 ……む? あれ、は……。 ……あれ、危ないやつ? いえ……近付かなければ、恐らくは。 こっち、見てるけど。 ……警戒、してるのね。 なるほど……こちらと、一緒ってわけか。 あれは、草食動物だから……何もしなければ、こちらには危害を加えない筈。 だとしたら、そっと離れた方が良さそうだね。 ……因みに、だけれど。 うん? ……ゆうべ、私達はあの子のお肉を食べたわ。 え。 美味しいって言いながら、食べてたわよね……あなた。 確かに、あれは美味しかった……然うか、あれはあいつの肉だったのか。 で、あるならば、 止めて、手間になるから。 あれくらいなら、持って帰れるよ。 そしたら、今夜のごはんも 血抜きが、まず面倒なの。 あれは特に、生かしたまま血を抜かなければいけないから。 そっか……残念だな、もう一度食べたかったのに。 また、食べられるわ。 わざわざ、私達が狩らなくても……ね。 あと、あの肉を使ってあたしも料理してみたかった。 マーキュリーに作ってあげたかった。 それは……難しいわね。 肉を持ち帰るのは、 無理、ね。 だよねぇ。 ……一応、話はしてあげるわ。 話? 厨(くりや)を貸して貰えるかどうか……一応、ね。 うん、ありがとう。 期待は、しないで。 うん。 ……。 マーキュリー、もう大丈夫だよ。 ……ねぇ、ジュピター。 なんだい? あ、手でも繋いでみる? ……繋がない。 そっか、残念。 このままだと……時間が、本当に無くなってしまうわ。 うん、少し急ごう。 ……。 大丈夫? ……どうして? ん、なんとなく。 ……。 背中、いつでも貸すよ。 ありがとう……でも、大丈夫よ。 そっか。 ……ねぇ。 ん? ……。 背中? それとも、手? ……手。 それじゃあ、はい。 ……。 へへ。 ……なに。 なんかさ、こどもの頃みたいだなぁって。 ……。 さぁ、行こうか……メル。 ……ん。 ……。 ……ジュピター。 あ。 それで、ばれないとでも思ったの? うーん、おかしいなぁ。 気配は、ちゃんと消していた筈なのに。 残念……私には、分かるの。 そっか。 ……。 静かだね。 ……然うね。 でも、月の静けさとは違うね。 ……ええ、本当に。 はい、マーキュリー。 ……ん。 花冠。 ……懐かしいわね。 だろ? ……花のにおいが、するわ。 きれいだよ、マーキュリー。 ……ありがとう。 でもって、あたしにはこれ。 ふふ……葉冠、ね。 うん、似合うだろ? ……ええ、とても。 水星の姫君。 ……。 改めて、あたしと永遠の契りを。 ……喜んで。 それでは……む。 ……ここで? 口付けだけなら、良いかなぁって。 口付けだけ……ね。 ね、良いだろ……? ……。 ……マーキュリー。 もう、だめよ……。 ……こんな場所で、君を抱くことが出来たら。 明るいから……いやよ。 ……ならば、夜に。 月が、見ているから。 ……祝福して貰えるような、そんな気がするんだ。 誰に……? ……木や花、風や水、大地、空、そして。 ……。 此処で生きているものたち、それら全てに。 ……あぁ。 いつか、叶えたい。 ……この星からは、月が見える。 ……。 ずっと、月が見ている……然う、今だって。 私達は……それから逃げることは、出来ない。 ……然うだと、しても。 ん、ジュピター……。 ……愛する気持ちは、止められない。 だめよ……ジュピター。 ……分かってる、これ以上はしないよ。 ……。 湖、きれいだね。 ええ……とても。 入ったら、気持ち良さそうだ。 ……肌を晒すつもりなの? 足ぐらいなら、良いかな。 あ、ジュピター……。 ……わ、冷たい。 躰を冷やしてしまうわ。 冷たいけど気持ち良いよ、マーキュリーもおいでよ。 私は良いわ。 ……。 ……? ジュピター? ……中に、何か、居る。 あぁ……それは、「魚」ね。 さかな……美味しいよね、さかな。 捕まえようとは、思わないでね。 焼いて食うか、煮て食うか……。 ジュピター? この星は。 ……。 食べるものが、たくさん、ある。 しかも、美味しい。 ……然うね。 良いなぁ。 ……。 料理もさ、いっぱいあるだろ? 味付けも、見た目も、色々さ。 地域によって、異なるから。 興味があるんだ。 叶うなら、全部、知りたい。 ……あなたならきっと、なんでも作れるわ。 作ったら、マーキュリー、一緒に食べよう。 マーキュリーの為に、作りたいんだ。 ……けれど、材料が手に入らないから。 材料……か。 本物の肉と魚が、欲しいなぁ。 ……月には、この星では当たり前のものが、何もない。 この星の大地が「本物」だとするのならば、月の大地は…… ……「紛い物」。 ……。 ……プリンセスが、この星に惹かれる理由。 そんなもの、考えるまでもないのね……。 あぁ……然うだ。 ……けれど、この星の者との恋は。 神の掟、だっけ。 破ったら、どうなるんだろう。 本当の所は、分からないわ……破った者は、居ないとされているから。 されている、か……。 ……なんにせよ、生きる時間が違う。 いずれ、死に別れる……か。 ……命の時間を同じにすることは、許されないわ。 だから、禁じられているのかも知れないね。 どうしたって、同じ時間を望んでしまうだろうから。 あたしだったら…… ……若しも、強く、望んでしまったら。 うん? ……いえ、なんでもないわ。 マーキュリー。 ……若しも、若しもよ。 うん。 この世界はかつて、滅んだことがあるのだとしたら。 ……うん? 月も、青き星も……私達の母星も、全て。 ……。 そのせいで……掟が、生まれたのだとしたら。 だとしたら……破った者は居ないとされているのも、分かる気がする。 ……。 ……。 ……ただの戯言、だから。 ……うん。 けれど……この話は、誰にもしないで。 ……分かってる。 ……。 ……あたし達の母星は、今も尚、生物が息衝くことはない。 それが若しも、滅びによって齎されたものだと、するのであれば……。 かつて。 ……。 ……かつての私達、月の眷属でなかった、私達は。 なんにせよ、遠すぎる。 記録も、残っていないのだろう? ……ええ、なにひとつ。 まぁ、残っているわけもないか……。 ……。 眷属でなかった、あたし達……か。 ……。 ……それでも、マーキュリーとこんな関係だったら良いな。 ……。 ね。 ……もう、ジュピターは。 ははは。 ……だけど、然うだったら素敵ね。 だろう? ……。 ん……マーキュリー? ……あなたの、このからだも。 ……。 ううん……なんでもないわ。 ……求めて呉れたのかと思った。 そんなわけ、ないでしょう……? ちぇ……残念。 ……帰ってから、ね。 ……。 さ……そろそろ、戻らないと。 ……帰ったら。 ……。 求めて、呉れる? ……えぇ、そのつもり。 ……。 ……顔、にやけてる。 早く、帰りたい。 ……。 ……。 ……ジュピター。 けど……帰りたく、ないな。 ……。 ……。 ……結局、あなたに作ってあげられていないわ。 うん? ……花の、冠。 あぁ……。 ……置いて、いかないと。 持っては、いけない……? ……残念、だけれど。 然うか……。 ……。 此処で、生まれたんだ……ならば、此処に返してあげる方が良いだろう。 ……えぇ。 然う、思えば……ね。 ……うん。 また、作ってあげるよ。 ……楽しみに、してるわ。 ……。 その時は、私も……あなたに。 メル。 ……? なに……? 此処を、離れる前に。 これ、を。 ……これは。 櫛。 ……櫛? メルに、贈ろうと思って。 ……まさか、この星の。 うん。 ……けれど、どうやって。 交換した。 交換って。 師匠の、形見。 あれ、を? うん。 交換出来て、良かった。 だけど、あれは……。 良いんだ、師匠はこの為にあたしに残して呉れたんだろうから。 ……大切に、していたのでしょう? メルの方が、もっと、大切だから。 ……。 この星では、さ。 求婚する時に櫛を贈る慣習があるらしいんだ。 ……知ってるわ。 だから……此処で、メルに贈りたかった。 それで、こんな我侭を……。 ね、此処に……きれいな石が、あしらわれているだろう? 小さい、けれど……月には、ないものだから。 ……。 メルの瞳と、同じ色だ……。 ……ユゥ。 受け取って、貰えるかい……? ……。 どう、かな。 ……ありがとう、ユゥ。 あぁ、良かった。 ……だけど。 若しかして、これも持ち帰ってはいけないものかな……。 ……いい、え。 ならば。 ……大切にするわ、ユゥ。 うん……メル。 だけど、私……。 ……ん? あなたに、何も……。 あぁ……あたしは、良いんだ。 ううん、だめよ……。 ……じゃあ、さ。 あ……。 ……いつか、きっと。 ……。 いつか、きっと……あたしに、ね。 ……うん、ユゥ。 水星の、姫君。 ……はい。 あたしと……永久に変わらぬ、契りを。 喜んで……。 ……。 ……。 それじゃあ……戻ろうか、マーキュリー。 ……ええ、ジュピター。 後 |