-愛にすべてを(現世1)





   お。


   うん?


   あれ、見て。


   どれ?


   ほら、あれ。


   ……あぁ。


   久しぶりに見たなぁ。


   然うね。


   どれくらいぶりだろう。


   こういう形で見るのは、数十年ぶりかしら。


   そんなになる?


   出生数を考えると妥当でしょう?


   うーん、然うかな。
   憶えていないだけで、実際はもう少し見掛けたような。


   少なくとも、私の記憶にはないわね。


   そっか……じゃあ、然うなのかな。


   とは言え、それが行われていないわけではないだろうから。


   見掛けるのが稀になっただけ、か。
   なんだか、寂しいなぁ。


   好きだものね、ああいうの。


   ひとがしあわせそうにしてるのは、良いものだよ。


   然うね。


   適当な返事だなぁ。


   今はしあわせでも、後々、別れるかも知れないし。


   それを言ったらおしまいだよ。
   少なくとも、今は、しあわせだろ?


   今だけは、ね。


   だから、現実的過ぎるんだって。


   あのふたり、若しかしたら、あれが初めてじゃないのかも知れないし。


   んー?


   然ういう可能性も、大いにあるでしょう?


   ……まぁ、然うだけど。


   届け出の数が大幅に増えることはないけれど、大幅に減ることもない。


   二回目三回目、かぁ。


   今ではもう、それが標準だから。


   今時、初めてのひとなんて早々居ないか。


   ええ、あまり居ないでしょうね。
   多いひとだと、手足の指の数を合わせても足りないらしいし。


   そんなに?


   そのうち、三桁のひとも出てくるかも知れない。


   いや、それは流石に……。


   寿命を考えたら、ないとは言い切れないでしょう?
   こどもも居なければ、余計に。


   あー……確かに。


   昔も、然うだった。


   ……。


   だから……こうなることは、火を見るよりも明らかだったのよ。


   ……歴史は繰り返す、か。


   ひとはどうしたって、古いものよりも新しいものが良くなるみたいだから。


   然ういうひとばっかりじゃないだろ。
   中には、同じひとをずっと想い続けるひとだって居る。


   ……稀よ、そんなひとは。


   稀ってことはないと思うけどな。
   実際、此処に居るし。


   ……。


   ね?


   ……然うね。


   そもそもさ、古いとか新しいとか。
   ものじゃないんだから、然ういう言い方は嫌だよ。


   ……ものも大事にするわよね、あなたは。


   長く使えば使う程、愛着が湧くんだ。
   粗末になんて、出来ないよ。


   ……。


   それは、兎も角として。
   あたしはひとりだけだよ、これからもずっと。


   ……よく、知ってるわ。


   うん?


   はぁ。


   え、なんで溜息。


   別に。


   いや、その顔は別にって感じじゃないな。


   じゃあ、どういう感じなの。


   呆れている?
   或いは、ん。


   ばかね。


   んー……。


   さぁ、そろそろ行きま


   あ。


   なに。


   見て、馬車だよ。しかも白馬。
   派手だなぁ。


   本当……。


   あれ、若しかして、羨ましい?


   まさか。
   少し驚いただけよ。


   そっか、ああいうのが良いのか。


   良いとは言ってない。
   寧ろいやよ、あんなに派手なのは。


   確かに派手だよねぇ。
   照れ屋さんにはちょっと、厳しいかな。


   あそこまで派手に執り行っておいて、あっさり別れることにでもなったらどうするのかしら。


   良いんじゃない、別に。話の種ぐらいにはなるだろうし。
   いずれは、忘れちゃうだろうし。


   然うでしょうけど。


   別に良いじゃないか、あたし達があれをするってわけじゃないんだから。


   いやよ、絶対に、いや。


   そんなに強く言わなくても。


   ……あなたは、あれをしたいと思うの。


   あたしは、どうだろ。
   どちらかと言うと、いやかな。


   いやなんじゃない。


   だって派手じゃないか、あれ。
   あんなので練り歩くのは、流石になぁ。
   あぁだけど、白馬じゃなければ、


   然ういう問題なの。


   はは。


   ……もぅ。


   なんて話してたら、行っちゃったねぇ。
   あのふたりがどうか、しあわせでありますように。


   ……。


   ねぇ。


   ……なに。


   あたしは、ずっと、大事にするよ。
   何十年でも、何百年でも、一生変わらない。


   ……いきなり、なに。


   思い立ったら、直ぐに行動。
   大事だろ、伝えることは。


   ……。


   それで?


   ……知ってるくせに。


   大事なことはちゃんと言葉にしないとね。


   此処では、いや。


   帰ったら、言葉にして呉れるのかい?


   憶えていたらね。


   忘れるわけ、ないじゃないか。


   さぁ、どうかしら。
   やらなければいけないことが多くて、忘れてしまうかも。


   じゃあやっぱり、此処で言って貰おうかな。


   いやよ。


   あ。


   未だそこに居たいのなら、どうぞ。


   待ってよ。


   いや、待たない。


   待ってって。


   あなたなら、簡単に掴まえられるでしょう?


   あ、然ういうこと?
   なら、本気で行くけど。


   ええ、どうぞ。


   よし、それじゃあ。


   ……。


   ……はい、掴まえた。


   ふ……。


   なんだかこういうの、久しぶりだなぁ。


   ……だめね、足が鈍ってる。


   ずっと部屋の中に籠っているからだよ。


   仕方がないでしょう、それが仕事なのだから。


   定期的にあたしと運動しよう。


   言われなくても、してる。


   増やす?


   増やさない。


   あたしとしては、大歓迎なのに。


   ……久しぶりに、泳ぎに行こうかしら。


   あたしも行くよ。


   来なくて良いわ。


   一緒に行きたいなぁ。


   来ないで。


   ひとりで、泳ぐんだろ?
   だったら、行っても良いじゃないか。


   誰も居ない所で、ひとりで泳ぎたいの。


   あたしでもだめなの?


   だめ。


   寂しいなぁ。


   ……。


   ん、やっぱり行っても良い?


   ……あなたが来ると、違う方向に行ってしまうから。


   違う方向?


   ……。


   あー。


   あー、じゃない。


   いや、あの時はたまたま然ういう感じになっただけで。
   それに、


   ……。


   あたしも久しぶりに泳ぎたかったな。


   ……はぁ。


   あ、行っても良い?


   しないと、約束出来るなら。


   うん、しないよ。


   破ったら、


   うん、だからしない。
   それで、いつ行くの?


   未だ、決めていないわ。


   じゃ、決めたら言ってね。


   いっそ、ふたりで話して決めても良いけれど。


   え、本当?


   ええ。


   やった。
   じゃ、今夜にでも話そう。


   ……。


   さて、いい加減戻ろうか。


   ねぇ。


   ん?


   ……なんでもないわ。


   ふぅん。


   ……。


   ま、良いか。


   ……。


   ん……?


   ……。


   え、と。


   ……なに。


   いいや、別に。


   にやにやしてる。


   するなと言う方が、無理だよ。


   ……。


   ねぇ、マーキュリー。


   ……なに、ジュピター。


   結婚、しようか。


   ……もう、してる。


   ん、然うだった。


   ……何が言いたいの。


   もう一度、言いたくなっただけ。


   ……。


   ……。


   ……ねぇ。


   なぁに……?


   ……それ、他のひとには言わないで。


   言うわけないじゃないか。


   ……。


   さ、帰ろ。


   ……うん。








  -The Tomorrow With You(現世2)





   まこちゃん。


   ん。


   待たせてしまってごめんなさい。


   ううん、そんなに待っていないから大丈夫だよ。


   ……何を見ていたの?


   見る?


   うん。


   じゃ、隣においで。
   コートは向かい側に。


   ん。


   何、飲む?


   えと……これで。


   珍しいね、最近はずっとあったかいのだったのに。 


   少し、暑くて。


   そんなに急いでこなくても良かったのに。


   そんなわけにはいかないわ。


   待ってる時間だって、楽しいものだよ。
   特に、恋人を待ってる時間はね。


   ……恋人には、早く逢いたい。


   うん?


   ……一秒でも長く一緒に居たいと、思うものだから。


   それも、然うだね……。


   ……ん。


   汗、かいてる……?


   ……まこちゃん。


   ん、ごめん……これ以上は、帰ってからにするよ。


   ……もぅ。


   あたしも同じのにしようかな。


   ……。


   何か食べる?
   飲みものだけで良い?


   然うね……。


   サンドもデザートも、美味しそうだよね。


   ……。


   お、真剣だ。


   ……これにする。


   和栗のモンブランか、良いねぇ。あたしは、どうしようかな。
   亜美ちゃんが和栗だから……さつまいも、いやかぼちゃも良いな……。


   ねぇ。


   ん?


   良かったら、はんぶんあげるわ。


   え、良いの?


   気になるんでしょう?


   うん、実は然うなんだ。


   ふふ……だと、思った。


   初めから、そのつもりだった?


   ええ、然うなの。


   そっかー。


   ふふ。


   となると……亜美ちゃんはさつまいもとかぼちゃ、どっちが良い?


   私?


   はんぶん、あげるよ。


   私は


   美味しいものは、分け合いたいじゃない?
   感想も言い合えるしさ。


   ……思えばずっと、然うしてきたわね。


   だろ?
   だから、ね。どっちが、良い?


   私は……かぼちゃ、かしら。


   かぼちゃかぁ……うん、良いね。
   じゃ、あたしはかぼちゃのミルクレープにしよう。


   良いの?


   うん。
   あ、すみません……カフェオレをふたつ、それから和栗のモンブランとかぼちゃのミルクレープをひとつずつお願いします。


   ありがとう。


   どういたしまして。
   さて、ひとまず注文を終えたところで。
   亜美ちゃんが気になっているものを、見せようかな。


   これは……ドレスの雑誌?


   うん、ウェディングドレスのね。
   亜美ちゃんにはどれが似合うかなって。


   ……。


   わりと本気。


   ……私のことより、まこちゃんはどういうのが好みなの?


   あたしは身長があるからなぁ、可愛らしいのは似合わないんだよね。


   そんなことは、


   あるんだって。


   ドレスは寧ろ、長身の女性の方が栄えると思うの。
   まこちゃんはスタイルがとても良いし、似合わないわけがないわ。


   はは、ありがと。


   似合う似合わないは、置いておいて。
   好みは、どういうものなの?


   んー、然うだなぁ……あ、これ、亜美ちゃんが着たらすごく可愛いんじゃないかな。


   だから、私じゃなくて。


   …………これ、とか?


   ……。


   えと、似合わないだろう?


   ……ううん、素敵だわ。


   いやいや、プリンセスだなんて柄じゃないって。


   そんなことない、素敵よ。
   ね、他には?


   え、えー………………これ、かな。


   可愛いわ……少しプリンセスラインに似ている、かしら。


   う、うん……ベルラインって言うんだ。
   ほら、腰から裾にかけて丸くベルのように広がっているだろう?


   あぁ、だからベルライン……。


   亜美ちゃんに似合うと思うんだ。


   ……。


   好みも大事だけれど、やっぱり似合うものの方が良いかなってさ……。


   ……だめよ、そんなの。


   え、と。


   大体、私にはドレスなんて似合わないわ。


   は?


   身長は低いし、スタイルも良くない。顔だって地味だし。
   私が着ても合うわけがないの。


   そんなわけ、ないだろう?
   亜美ちゃんは女性の平均身長だし、スタイルだって


   痩せすぎ判定よ、いつも。


   顔が地味だなんて、そんなこと、全然ない。
   きれいだし、それにすごく可愛らしいよ。


   ただの贔屓目だと思うわ。


   な、なんで……あ、ほら。
   これとか……これも、あとこれも、あぁこれなんてすごく似合うよ。


   いいえ、似合わない。


   然うだ、好みは?
   どんなのが好き?


   分からない。


   はい?


   分からないの、興味がなかったから。


   …………。


   一生、着ることなんてないと思っていたの。


   ……亜美ちゃん。


   なに。


   ……好み、本当にない?
   全く、ない……?


   ……。


   分からなくても、少しくらいは……ない?


   ……本当によく分からないの。


   そ、そっか……。


   だから、と言っては、おかしいのかも知れないけれど。
   まこちゃんには、好みのものを着て欲しいと思うの。
   あなたは似合わないなんて、言うけれど……私から見たら、どれも。


   ……あたし、さ。


   ……。


   これも、良いなって思うようになったんだ。


   ……マーメイドライン?


   うん……どうかな。


   …………。


   ……?
   亜美ちゃん……?


   …………え。


   やっぱり、合わないかな……。


   そ、そんなこと……そんなこと、ない…………。


   可愛いのも良いけどさ、格好良いのも良いなって。


   ……。


   え、亜美ちゃん?
   ど、どうしたの?


   ……なんでも、ない。


   いや、なんでもなくはないだろ?


   ……。


   亜美ちゃ……あ、すみません、ありがとうございます。
   そちらに置いて貰っても良いですか。


   ……。


   亜美ちゃん、注文したのが来たけど……。


   ……見て、みたい。


   え、なに?


   ……このドレスを着たまこちゃんを、見てみたい。


   え。


   プリンセスラインもベルラインも、とても素敵で、あなたに似合うと思うし、見てみたいとも思うの……だけど、それ以上に。


   ……。


   ごめんなさい、私……何を、言っているのか。


   若しかして、亜美ちゃんの好みは……これ?


   ……と、言うより。


   と、言うより……?


   ……これを、着ている、まこちゃんが。


   ……。


   ……好み、なのかも。


   亜美ちゃん。


   な、なに。


   あたし、これにするよ。


   ……え?


   これにする。


   え、え?


   これを着て、亜美ちゃんの隣に立ちたい。


   ……!


   立てたら、良いな。


   け、けど、まこちゃんの好みは


   亜美ちゃんの好みを優先にしたい。


   だ、だめよ、そんなの。


   だめじゃないよ。


   まこちゃんの好みを


   亜美ちゃんの好みだと言うことが、今のあたしには刺さったんだよ。


   ……。


   それに言ったろ、これも良いなって思うようになったって。
   考えてみれば、私服の好みもこれに近かったしね。


   ……。


   だから、これにする。
   と言っても、色々あるからそこからまた選ばなければいけないんだけど。


   ……ごめんなさい。


   どうして謝るのさ?


   だって……きっと後悔、するわ。


   どうして?


   私の好みなんか、優先したら、


   亜美ちゃん。


   ぅ。


   後悔なんて、しない。


   ……。


   それに……想像しただけでこんなにも真っ赤になって呉れる恋人、どこを探したって居ないしね。


   ……ッ。


   あーもう、かわいいなぁ。


   ま、まこちゃん……!


   おっと、ここは店の中。


   ……。


   とりあえず、冷たい飲みものでもどうぞ?


   ……あぁ、もぅ。


   はは。


   ……。


   だけど、本当に……これを着て、亜美ちゃんの隣に立てたら良いな。


   まこちゃん……。


   よし、じゃあ次は亜美ちゃんのを決めようか。


   わ、私は


   あたしの隣に立ちたくない?


   ……。


   ……立ちたく、ない?


   ……。


   亜美ちゃん……。


   ……立ちたい、わ。


   本当?


   ……ん。


   あぁ、良かった。


   ……ねぇ、まこちゃん。


   ん?


   ……あの、ね。


   どうした?


   ……。


   亜美ちゃん……?


   ……急な話、なのだけれど。


   う、うん。


   ……母、が。


   母……お母さんが、どうかした?


   ……会って、話がしたいって。


   会って、話……て。


   ……。


   若しかして……あたし、に?


   ……うん。


   ……。


   ごめんなさい、急に連絡が来て……嫌だったら、断るから。


   ……いや、会うよ。


   む、無理は


   しない、緊張はするけど、無理はしない。


   ……。


   そ、それに、ほら、会うのは初めてじゃないし、大丈夫、うん、だいじょ


   母は私達の今後のことで話があるらしいの。
   だか、ら?


   …………。


   ま、まこちゃん。


   ……よし、結婚を認めて貰おう。


   え。


   が、頑張るよ、亜美ちゃん。
   あたし、頑張るから。


   ま、待って、まこちゃん。
   この国では未だ、同性婚は


   定番は、娘さんをあたしにください、だよな。
   それとももっと違う方が良いのかな。


   まこちゃん、


   いや、あたしの亜美ちゃんへの気持ちを分かって貰うには捻らず真っ直ぐに伝えた方が良いな。
   となると、やっぱり……








   ……。


   ……。


   ……落ち着いた?


   ……うん、大分。


   ねぇまこちゃん、今回は断った方が……急な、話だったし。


   いや、大丈夫だよ。


   でも。


   ちょっと、動揺しちゃっただけだから。


   ……ちょっとには見えなかったわ。


   急な話ではあるけど、今直ぐじゃないんだろ?
   だったら、心の準備をする時間もある、し……?


   ……。


   え、と……亜美ちゃん?


   ……今度の日曜、なの。


   今度の、日曜……?


   母にはいくらなんでも急過ぎると言ったのだけれど、直近で時間が取れるのはその日だけらしくて。
   だったら直近でなくても良いでしょうって返したのだけれど……とりあえず、まこちゃんに聞くだけ聞いてみて欲しい、と。
   本当に、何を言っても聞いて呉れなくて。


   こんどの、にちよう……きょうは、なんようびだっけ、あみちゃん。


   ……金曜日よ。


   きんよう……つまり、にちようは、あさって……あさっ、て……?


   ね、やっぱり今回は断りましょう?
   まこちゃんにだって都合はあるのだし、母の我侭に付き合う必要はないわ。


   分かった。


   ……まこちゃん?


   心の準備、いや、覚悟を決める。
   なに、今日と明日、二日もあれば、


   まこちゃん、遠い目をしているわ。
   戻ってきて。


   あたしは木星を守護に持つ戦士、命を懸けた戦いに幾度もこの身を投じてきた。
   今回のことだって、ちゃんと乗り越えてみせる。
   乗り越えて、亜美ちゃんとのハッピーライフ、ハッピーホームを築いてみせる。


   やっぱり、落ち着いてなんていないわ。


   名字はどうしようか。
   同姓? それとも別姓?
   あたしはどっちでも良いかな。


   まこちゃん、とりあえず甘いものでも食べて落ち着きましょう?
   私の和栗のモンブランが良い?
   それとも、かぼちゃの


   ははは、やだなぁ。
   あたしはだいじょーぶだよ、マーキュリー。


   私は亜美よ、マーキュリーじゃない。


   新婚旅行はどこが良いかなぁ。
   国内……海外は、飛行機が必須だしなぁ……。


   まこちゃん、しっかりして。
   母には断りの連絡をしておくから。


   亜美ちゃん。


   は、はい。


   ずっと、考えていたんだ。


   な、何を……?


   亜美ちゃんのお母さんに、あたし達のことをちゃんと伝えなきゃって。


   ……。


   だけど、あたしは意気地がないから。
   覚悟を決めることが、ずっと出来ないまま、ここまで来てしまった。
   それじゃ、だめなんだ。仮令、分かって貰えなくても


   あの、まこちゃん。


   なんだい、亜美ちゃん。


   母は……私達の関係を、大分前から、知っているわ。 


   ……うん?


   と言うより、気付いていたみたいで。
   その、母は無駄に勘が良くて……曰く、母親の勘らしいのだけれど。


   ……つまり?


   私達、高校生の時に付き合い始めたでしょう……?


   う、うん……。


   私、中学生の頃からまこちゃんのお部屋にはよくお泊まりに行っていて、
   その頃から……元々、うさぎちゃんの影響もあったのだけれど……少しずつ、明るい表情をするようになっていたみたいなの。
   それで、なんとなく、然うではないかと思い始めたらしくて。


   ……。


   そ、それでね、まこちゃんと同棲する……母には同居と言ったのだけれど、それで確信に変わったみたいなの……。


   ……そう、なんだ。


   あ。


   あ、あたし、どの面下げて、会えば、良いのかな……。


   ま、まこちゃん。


   意気地のないあたしが、もたもたしている間に、亜美ちゃんのお母さんは……。


   そ、そんな深刻に考えないで?
   母が私達の交際を快く思っていないようだったら、とっくの昔に言われていたと思うの。
   母は物事を、はっきりとしておきたいタイプだから。


   そ、そう、かな……。


   母にしてみれば私とどうなりたいか、それを直接、まこちゃんの口から聞きたいだけなのだと思うの。


   …………。


   え。


   ……土下座、しなきゃだめかもしんない。


   土下座って、なんでそうなるの。
   大袈裟よ、まこちゃん。


   だ、だって、若しかしたら痺れを切らしたってことも、あ、あるじゃないか……。


   顔を上げて、まこちゃん。


   こんな意気地のないあたしに、大事な娘を任せられないって……。


   あぁ、もう。


   そ、そうだったら、どうしよう……。


   まこちゃん。


   ……はい。


   いざとなったら、駆け落ちすれば良い。


   ……へ?


   それくらいの気持ちで会えば、なんてことはないわ。


   い、いや、駆け落ちって


   まこちゃんは私と引き離されても平気なの。


   へ、平気じゃない、多分、死にそうになるよ。
   もう、無駄に自信があるよ。


   大丈夫、ちゃんと話せば良いだけ。
   それに、母は……もう、分かっているわ。


   わかって?


   私の気持ちと、覚悟。


   ……。


   だから、あとは……まこちゃんの気持ちを、まこちゃんの言葉で、母に伝えるだけ。


   ……亜美ちゃん。


   恐れずに、怯まずに……まこちゃんは、伝えれば良いのよ。


   ……うん、分かった。


   だけど、ひとつだけ……母ははっきりしない物言いは、好きではないから。
   それだけは


   娘さんをあたしにくださいって。
   必ずしあわせにするって、はっきり伝えるよ。


   ……。


   うん、覚悟、決まった。
   もう、大丈夫。


   ……え、と、文言はまこちゃんに任せるけれど。


   うん。


   それはちょっと……恥ずかしいわ。


   え、なんで?
   定番だろ、これ。


   然う、だけど……なんか、ちょっと。


   そしたら、何が良いかな。


   ……。


   うーん……。


   ……思いつかなければ、それでも良いけど。


   良いの?


   ただ、どうやってしあわせにするのか……それは、詳しく問われると思う。
   口で言うだけなら、簡単だと。


   ……。


   すごく面倒なのよ……母……。


   ……それは、しょうがないと思うよ。


   しょうがない……?


   大事な一人娘のことだもの……変なヤツには、任せられないだろ……。


   変なヤツって……まこちゃんは、


   親って、そういうもんなんじゃないのかな……多分。


   ……。


   例えば、さ?
   亜美ちゃんだったら、あたしの両親になんて言う?


   私だったら……。


   ……。


   ……色々、考えるとは思うけれど。


   うん……。


   現状を説明した上で、今後、このしあわせをどのように維持していくか、しあわせだと思って貰えるにはどうしたら良いか、
   幾つかのシミュレーションと絡めて、私の出来得ることを


   父さんと母さん、多分、吃驚するだろうなぁ。


   ……だめ、かしら。


   ううん、その真剣さに吃驚すると思う。
   あたしは亜美ちゃんに大事にされてる、これからもずっと大事にして貰えるだろうって、きっと、思って呉れる。


   ……。


   ……あたしの頭がもう少し、良かったらなぁ。


   ねぇ、まこちゃん。


   ……ん?


   まこちゃんの良いところって、真っ直ぐなところでもあると思うの。


   うん。


   真っ直ぐに……それこそ押し通してしまうくらいの気持ちで、伝えれば、良いんじゃないかしら。


   それで、亜美ちゃんのお母さんは


   納得、させるのよ。


   ……。


   それで、だめなら、


   駆け落ちは、最終手段として。
   兎に角、伝えてみるよ。亜美ちゃんのお母さんの目を見て、真っ直ぐに。


   ……。


   ね。


   ……うん。


   それで、日曜のいつ?


   えと……夕方、なのだけれど。
   食事をしながら、話したいみたい。


   ん、分かった。


   お店は、まこちゃんのお返事待ちだから、未だ決めてはいないようなのだけれど……。


   ドレスコードがあるようなお店かな。


   いえ、もっと気軽なお店でとは言っておいたわ。


   そっか。
   じゃあ服は、店が決まってからで良いかな。
   一応、考えてはおくけどさ。


   ん、それで良いと思う。


   よし。
   それじゃ、食べようか。


   ん……然うね。


   亜美ちゃん。


   なぁに?


   はい、あーん。


   ……。


   ほーら。


   ……私にも、やらせてね。


   はは、それは願ったり叶ったりだよ。


   もぅ……まこちゃんは。


   ほらほら、あーん?


   ……。


   ふふ、かわいい。


   ……ん、おいしい。


   ん、良かった。


   ふふ……。


   じゃ……次は、あたしがしてもらう番。


   ん……ちょっと、待って。


   うん、幾らでも待つよ。


   ……まこちゃん。


   ん。


   はい……あーん。


   あー……。


   ……。


   ……ん、おいし。


   ふふ。


   はは。


   ね、まこちゃん。


   なんだい、亜美ちゃん。


   モンブランとミルクレープ。
   今度、作ってみるのでしょう?


   うん、然うなんだ。
   作ったら亜美ちゃん、食べて呉れる?


   ん、もちろん。


   じゃ、よく研究しとかないとね。


   ふふ……然うね。


   今度、久しぶりに食べ歩きがしたいなぁ。
   ね、どうかな。付き合って呉れる?


   うん。


   やった。


   まこちゃん、はい、あーん。


   え、もうしたよ。


   まだ、はんぶんじゃないもの。
   だから、ね。


   ええ、照れるなぁ。


   今更?


   じゃ、次はあたしがやろっと。


   恥ずかしいわ。


   はは、今更だよ。


   ふふ。


   ……うん、おいしい。


   ……。


   ん、なに?


   ……ずっと一緒に居たいって、思っただけ。


   うん、ずっと一緒に居よう。


   ……ん。


   それじゃ、次は亜美ちゃんの番。
   はい、あーん……。








  -Drowning(現世・名字呼び)





   ん~♪


   ごきげんね、木野さん。


   そりゃあ、期末テストが終わったからね。
   明日から、いや、今日からまた水野さんと


   期末テストが終わったらそれでおしまい、と言うわけではないのだけれど。


   今は期末テストが終わった喜びに浸りたい。
   そして水野さんと


   答案が戻ってきたら、分かっているわよね。


   今回は出来たと思うんだ。
   色んなものを我慢して勉強したから。


   そもそも普段からちゃんとお勉強をしていれば、テスト勉強なんて、わざわざ、しなくてもいいのだけれど。
   そう、普段から、欠かさずに、ちゃんと、お勉強をしていれば。


   ……十分、してると思う。


   増やす?


   今だけでもう、いっぱいいっぱいです……。


   そう?


   そうだよ。


   ふぅん。


   あのさ、本当に我慢したんだ、だから水野さんと


   満点ならば、見直す必要はないのでしょうけど。


   ……70点ぐらいじゃ、だめ?


   だめね、全然。


   平均点よりも上なら、


   どうせならもっと上を目指しましょう?


   ……。


   ね。


   ……はい。


   よろしい。


   ……ところで、水野さん。


   夕方からは塾よ。
   分かっているとは、思うけれど。


   だよねぇ。


   だから、迎えに来て。


   はい、喜んで参ります。
   いつもの時間でいい?


   ええ。


   分かった。必ず行くね。
   あ、夕ごはんは何がいい?


   ……。


   でさ、テストも終わったことだし、今夜くらいはお勉強なしでさ……?


   木野さん。


   ん、なになに?


   ……尻尾。


   へ?


   木野さんって、大型犬よね。


   ……ゴールデンレトリバー?


   サモエド。


   えと、ラブラドールレトリバー。


   秋田犬。


   んー、セント・バーナード。


   アラスカン・マラミュート。


   え、知らない。


   バーニーズ・マウンテン・ドッグ。


   あ、それは聞いたことがある。


   お手。


   わん。


   やっぱり。


   いや、今のはただのノリで。
   と言うか、なんだこれ。


   ふふ。


   あたし、すっかり水野さんの犬だなぁ。


   木野さんがそれでいいのなら、私は構わないわ。


   いや、大分構う。


   そう?
   残念だわ、一生可愛がってあげようと思っていたのに。


   それは悪くない。


   なら。


   けど、ひととして水野さんを守って、ずっと水野さんの隣にいたい。
   一生のパートナーとして、生きていきたい。


   ……。


   そういうわけだから、水野さん。
   今夜はあたしと、諸々我慢していたあれこぐえ。


   ねぇ、木野さん。


   み、水野さん、首、は、だめ、かな……。


   木野さんも、いかがわしい映像には興味がある?


   ……は?


   ある?


   いや、なんで?
   と言うか、「も」って何?


   年頃でしょう?


   まだ、中学生だけど。
   そんなの、見られないけど。


   見られるのなら、見てみたい?


   いや、だからなんで?
   いくら身長がでかいと言っても、一応、あたしも女子だよ。


   性別は関係ないと思うの。
   問題は、興味があるかないか。


   それじゃあ、逆に聞くけど


   今は私のことではなく、木野さんのこと。


   ……。


   興味、ある?
   ない?


   …………ないよ。


   間があったわね。


   ないよ。


   ないの?


   ないって言ったら、ないよ。
   何度も言わせないでよ。


   だって、木野さん。


   だって、なんだよ。


   最近はすぐに、そういうことをしたがるから。


   ……。


   興味あるのか、気になって。


   ……いや、待って。


   うん?


   あたしは水野さんが好きだから、水野さんと……その、したいと思うだけで。
   そういうのが見たいってわけじゃ、全然、ないよ。


   ……。


   あのさ、水野さん。
   あたしは


   なら、いいの。


   え。


   興味が、ないのなら。


   あ、うん、そっか。
   て、ちょっと待って。


   待たない。


   あ、あたしに聞いたんだから、


   砂場を覆うブルーシートに隠されていたんですって。


   え、何が?


   そういったビデオが。
   しかも、一本や二本じゃなかったみたい。


   あぁ……。


   砂場を覆っている筈のブルーシートが、何故か、折り畳まれていたらしくて。
   不審に思った陸上部の女子が調べて、それで。


   見つかった、と。


   どこで手に入れて、どうやって持ってきたのかしらね。
   学生鞄には、入り切らないだろうし。


   ……莫迦としか、思えない。


   ああいうものはやっぱり、家には置いておけないもの?


   多分……見つかったら、大変なんじゃないの。
   色々、と。


   色々って?


   詳しくは分からないけど、気まずいとか。


   だから、学校に?


   それもあるだろうけど……どうせ、貸し借りでもしようと思ってたんだろ。
   それか、テストも終わったことだし、集まって誰かの家で見ようとしてたとか。
   しかし、莫迦だなぁ……。


   ……。


   なに……さっきも言ったけど、興味ないからね。
   見たいと思ったことなんて、一度も、ないからね。


   私だけ?


   うん?


   興味が、あるのは。


   ……。


   そうなの?


   ……そうだよ。


   そ。


   ……それで、水野さんは?


   私?


   そういうの、興味


   あると思う?


   ……分かんないから、聞いてるんだろ。


   あると、言ったら?


   ……それなら、それで。


   一緒に見てくれる?


   ……水野さんが、言うのなら。


   ……。


   な、なに……。


   本当は興味が


   ないよ……勘弁してくれよ、もう……。


   私も、ないわ。


   ……。


   あるわけ、ないじゃない。


   ……そっか。


   ね、木野さん。
   塾に行くまで。


   うん……うちに、おいでよ。


   ん、そうする。


   スーパーに寄っていこうかな。
   付き合ってくれるだろ?


   ん。


   食べたいのがあったら、遠慮なく言ってね。


   ……お鍋。


   うん?


   お鍋が、食べたいわ。


   あぁ、最近は寒くなってきたもんねぇ。
   じゃ、今夜はお鍋にしよう。希望のお鍋はある?


   それは……スーパーに行ってから、決める。


   うん、じゃあそうしよう。


   ……。


   ふふ。


   ……なに。


   最近は食べたいの、よく言ってくれるようになったなぁって。


   ……なんでもいいはだめって、木野さんが何度も言うから。


   そうだよ、なんでもいいが一番困るんだ。
   だからこれからも食べたいのがあったら、言ってね。


   ……ん。


   よしよし、素直。


   ……。


   ……はぁ。


   溜息?


   なんだか、力が抜けちゃったみたい。


   ……色々、考えていたのに?


   うん、そうなんだ……て、水野さん。


   ふふ、分かりやすい。


   ……そうだよ、あたしは単純だからね。


   木野さんって。


   今度は、なに。


   出逢った頃とは、ちょっと、違うような気がするわ。


   どんな風に?


   出逢った頃は……格好、つけてた?


   ……。


   若しくは、取り繕って


   好きなひとには、良く、見られたいだろ。


   ……。


   今だって、そう思ってるよ。
   けど、どうにも、緩んでしまって。


   ……ふふ。


   好きなだけ、笑って。


   ね、今夜は泊まってもいい?


   もちろん。
   あたしは、そのつもりでいたよ。


   期待、してた?


   うん、すごく。


   そ。


   ……ねぇ、水野さん。


   なぁに、木野さ……


   ……犬って、さ。


   ……。


   しっかり褒めて、ご褒美をあげると……喜ぶだけじゃなくて、もっと出来るようになるんだって。


   ……それは、躾の話でしょう?


   そう、だけど……。


   ……叱ることも、大事よね。


   い、今は、褒めることの話をしてるんだよ。


   ……つまり、頑張ったご褒美が欲しいと。


   だめ、かな……。


   けれど、結果は?


   ……結果は大事だけど、過程だって大事だろ。


   過程を評価するのならば、結果を見てからにしないと。
   頑張ったところで、結果が伴わなければ……


   ……すこしだけでも、いいんだ。


   私の犬になりたいの……?


   ……犬になりたいわけじゃ、ないよ。
   あたしが、本当になりたいのは……水野さん、の。


   ……私の?


   ……。


   木野さん……?


   ……今は、無理だけど。


   うん……。


   水野さん……あたしと、結婚して欲しい。


   ……。


   ……返事は、今じゃなくていい。


   年齢も、だけど。


   ……。


   この国ではまだ、出来ないわ。
   認められていないもの。


   ……そうだけど、そうじゃなくて。


   ……。


   と、とりあえず、時間はいっぱいあるから……考えて、おいてよ。


   ……ねぇ、木野さん。


   なに……。


   ……あなたの気持ちが、ずっと、変わらないで、いてくれるなら。


   変わらないよ、ずっと、変わらない。


   ……16歳に、なったら。


   ……。


   返事を、するわ。
   だから……その時まで、


   待ってるよ。


   ……。


   待ってるから。


   ……うん。


   ……。


   ……。


   ……ね、木野さん。


   なんだい……。


   夜……お勉強を全くしないわけには、いかない。


   ……分かってるよ。


   だけど。


   ……ん。


   少しだけなら……いいわ。


   ……ほんと?


   ……。


   やった……。


   ……その代わり、ちゃんとしなきゃだめだから。


   ん、分かってる……へへ。


   ……顔。


   うん、ごめん……。


   ……早く、行きましょう。


   と……。


   ……時間が、勿体ないから。








   ん~~……ふふ。


   ……ごきげんね。


   うん、とってもね。


   ……はぁ。


   足、痺れた?


   まだ、大丈夫だけれど。


   じゃあ、もう少しだけいい?


   はぁ。


   ……やっぱり退けた方がいいかな。


   もう少しだけ、なのでしょう?


   水野さんが嫌なら退ける。


   ……嫌じゃないわ。


   じゃあ、いい?


   ……ご褒美なのでしょう、これが。


   一度でいいから、してみたかったんだ……。


   ……そんなに、いいの。


   うん、すごく……。


   ……。


   ふふ……なんだか、新婚さんみたいだ。


   ……これだけで?


   しあわせなイメージが、する……。


   ……こんなの、別に新婚じゃなくたって。


   欲しがったら、きりがないんだ……。


   ……。


   ……きりが、ないから。


   ……。


   早く、水野さんと一緒に……。


   ……ねぇ。


   なに……。


   ……どうして、今まで言わなかったの。


   うん……?


   ……木野さんのことだから、ずっと、してみたいと思っていたのでしょう?


   うん……そうなんだ。


   ……どうして?


   呆れた目、或いは冷めた目で見られそうで……。


   ……そんなの、今更じゃない。


   そう、なんだけど……。


   ……言うだけ言ってみれば良かったのに。


   ……。


   ……くすぐったい。


   あ、ごめん……。


   ……わざと?


   ち、違うよ……。


   ……。


   水野さん……?


   ……昔も、こうしてあげていたような気がする。


   昔……?


   ……前髪、目に掛かって邪魔じゃない?


   ん、ちょっと邪魔かも……今度、切ろうかな。


   自分で?


   前髪くらいなら……ね。


   ……ふぅん。


   あぁ……気持ちいい……。


   ……どっちが?


   ……?


   撫でられているのと……私の太腿を、枕にしているのと。


   どっちも。


   ……あ、ん。


   どっちも、気持ちいい……。


   ……木野さん、手。


   うん……ごめん……。


   ……ねぇ、本当にわざとではないの。


   わざとじゃ、ないよ……。


   ……わざとじゃないと、したら。


   水野さんの肌って、すごく、なめらかだよね……。


   ……なんだと、言うの。


   んー……。


   ……木野さん。


   なに……?


   ……寝ないで。


   寝ないよ……。


   ……目、瞑らないで。


   きもち、よくて……。


   ……だから、瞑らないで。


   つむってるとさ……。


   木野さ


   水野さんのやわらかさを、より、感じられ……てっ。


   ……。


   な、なに……?


   もう、おしまい。


   え、え。


   そろそろ、塾に行く時間だから。


   も、もう、そんな時間?


   早めに行って、予習でもするつもり。


   いや、でも、まだ来たばかりで……


   もう、十分でしょう。


   え。


   ご褒美。


   ……。


   足、そろそろ痺れてしまいそうなの。


   ……そっ、か。


   それじゃあ……また、後で。


   うん……。


   ……。


   え、と……ご褒美、ありがとう。


   ……どういたしまして。


   夕ごはん、楽しみにしててね。


   ……ええ。


   迎えに、行くから。


   ……。


   行ってらっしゃい、水野さ


   ねぇ。


   ……え。


   あなたばかり、ずるいわ。


   え、な、何が……。


   猫にだって、必要でしょう?


   水野さ、ん……っ。


   ……。


   …………ねこっ、て。


   ねぇ……きのさん。


   ねこの、ごほうびって、なんだろう……。


   ……なんだと、おもう?


   ええ、と……。


   ……。


   ……またたび、とか?


   そう……だったら、あなたがそれになって。


   え……。


   ……。


   ま、待って、待って、水野さん。


   ……いや。


   塾に、行くんじゃ……。


   ……やめた。


   え、えぇ……。


   ……今はそれよりも、ご褒美が欲しいわ。


   さ、さぼり……?


   ……木野さんが、私に教えたんじゃない。


   だけど、塾は……。


   それに……その方が、木野さんはうれしいでしょう?


   う……。


   ……いやなら、ふりほどけばいい。
   わたしをふりほどくなんて、あなたにとっては造作もないことでしょう……?


   ……。


   しないの……?
   だったら……つづける、けど。


   ……シャワー。


   いらないわ。


   ……ここじゃ、せなかが。


   あとで、なでてあげる。


   ……これが、みずのさんにとって。


   あなたにとっても、でしょう?


   ……。


   ……ね、そうで


   わかった。


   ……え。


   ……。


   きのさ


   じっと、してて。


   あ、や……。


   ……撫でられるのは、嬉しいけど。


   おろして、きの


   みずのさんの背中が痛くなるのは、いやだ。


   ……は。


   ……。


   ちょっと、待っ


   いやだ、待たない。


   どうして、あなたがすることになっ……う。


   ……ごめん、ちょっと乱暴だった。


   わたし、が……っん。


   ……あたしが、どれだけ、我慢していたか。


   きの、さん……。


   ……今から、教えてあげるよ。


   だ、め……。


   ……ごほうび、欲しいんだろ。


   だから、それ、は……ん、……や。


   よるまで、がまんしようとおもっていたのに……ひざまくらで、まんぞくしようとおもっていたのに。


   ……ぁ。


   みずのさんが、わるいんだ。


   ……ジュピ、ター?


   ちがう、あたしはまことだよ。


   ちがう、あなたは……そのめ、は……。


   ……そのくち、ふさいでもいいかな。


   い、や……ん、……っん、ぅ。


   ……。


   ……い、や。


   みずのさん……マーキュリー。


   ……っ。


   からだのなかが、あついんだ……ねぇ、いつものように、さましてよ……。


   はな、して。


   あつくて、ほしくて、たまらないんだ……だからいいだろう、マーキュリー……。


   いや……ッ!


   ……いいね、その目。
   たまには、こういうのも……。


   ん……っあ、……。


   ……わるく、ない。


   いい、かげんに……。


   マーキュ……


   ……。


   ……みずの、さん。


   きのさんじゃなきゃ、いや。


   ……。


   わたしを、すきにしていいのは……きのさんだけよ。


   ……あたし、は。


   ジュピター。


   ……ちがう、あたしは。


   わたしのきのさんを、かえして。


   あたしは……あたしは……。


   ……わたしがすきなのは、あなたじゃない。


   …………。


   それでも、つづけるつもりなら……わたしはあなたを、ぜったいに、ゆるさない。


   …………みずのさん。


   やめて、あのひとの真似をするのは。


   ……。


   あなたは。


   ……あたしは、


   だれ。


   ジュピターじゃ、ない。


   ……。


   ……水野、さん。


   木野さん。


   ……ごめんよ、水野さん。


   ……。


   ん……。


   ……本当に、木野さん?


   う、ん……たぶん。


   ……たぶんじゃ、いや。


   そうだと、思う……。


   ……そうじゃなきゃ、いや。


   ……。


   わたしをすきにしていいのは、あなただけなの。
   ジュピターじゃ、ない。


   ……。


   ……木野まことだと、言って。


   あたしは……木野、まこと。


   ……。


   あたしは、木野……


   ……。


   ……信じて、くれる?


   えぇ……信じるわ。


   ……でも。


   だって。


   ……。


   ……その瞳の色なら、よく知ってるもの。


   瞳の……?


   ……ねぇ、木野さん。


   な、なに……あ、ごめん、今退け……


   ……からだのなか、あついの?


   ……!


   ねぇ……あついの?


   ……う、ん。


   さまして、ほしい?


   ……だめだよ、水野さん。


   どうして……?


   ……塾、行かなきゃ。
   さぼる、なんて……。


   そうね……。


   ……ぅ。


   さぼったら……その分、ちゃんとお勉強しないと。


   みずの、さ……。


   ……ほんとうの、ごほうび。


   ……。


   これが、ほしかったのでしょう……?


   ……け、ど。


   わたしも、ほしいわ……。


   ……みずのさん、も。


   ねこだって……ひつようだと、おもうの。


   ……。


   ……ねぇ、そうだと言って。


   うん……そうだと、思う。


   ……じゃあ。


   またたびに、なればいい……?


   ……。


   あれ、ちがった……?


   ……ふふ、あなたは間違いなく木野さんだわ。


   は、はは……。


   ……ねぇ、いってみて。


   ……?


   ……あたしのことが好きだろうって。


   ……。


   ね、言ってみて……。


   ……あたしのことが、好きだろう?


   ええ、好きよ。


   ……。


   大好きよ……木野さん。


   ……本当に好きなんだね、あたしのこと。


   そう、言ってるじゃない……。


   ……じゃあ、結婚してくれる?


   その返事は……16になってからって、言ったでしょう?


   言われたけど……待ち切れない。


   だったら、全教科で私よりも良い点数を取ってみて……そうしたら、すぐに返事をしてあげるわ。


   そ、それは……。


   ……なら、待ってて?


   うぅ……あたしの頭が、良ければ……む。


   ……。


   ……水野さん。


   ねぇ……もう。


   ……うん。


   は、ぁ……。


   …………あたしが、酔いそう。


   なら、いっそ……。


   ……。


   ……ふたり、で。








  -Let us only(前世)





   ……こんれいの、ぎ?


   マーキュリーなら、知ってるだろう?


   ……しってる、けど。


   とても、きれいだったんだ。


   なにが。


   ひときわ目立つ衣装を纏った「女」が、特に。


   ……みとれたの?


   見惚れてはいないよ。
   きれいだなぁって、思っただけ。


   ……ふぅん。


   ね、マーキュリー。


   ……まさかとは、おもうけれど。


   あたし達も、しようよ。


   ……やっぱり。


   ふたりだけで、さ……。


   ……。


   ねぇ……いや、かな。


   ん……。


   特別な衣装を纏って、笑ってるマーキュリーは……すごく、きれいだと思うんだ……。


   ……。


   ううん、絶対にきれいだ……あぁ、見てみたいなぁ……。


   ……言って、おくけれど。


   ん……マーキュリー……。


   あなたも、纏うのよ。


   ……。


   私だけと言うわけには、いかないでしょう?


   あたしは……。


   特別な衣装を纏っている私の隣で、貴女はくたびれた服を着ているつもりなの?


   ……。


   間抜けも、良いところだわ。


   間抜け、かな……。


   ええ、酷くね。


   うー……。


   間抜けなのは、この時だけで良いの。


   ……今は、何も着てないよ。


   顔の話。


   ……今は顔の話はしてないよ。


   ……。


   なに……。


   ……緩まない自信は、あるの?


   えと、どういうこと……?


   ……特別な衣装を纏った私を、見て。


   ……。


   あるの?


   ……緩む自信しか、ない。


   ほら。


   でも、それは仕方がないと思うんだよ。
   きれいなマーキュリーを前にして、顔を緩めるなと言う方が無理だろう?
   と言うより、酷だろう……。


   ならば、余計に。


   そもそも、普段の時でさえ、鼻の下を伸ばしてるって言われているぐらいなのに……。


   衣装ぐらい、特別なものにしないといけないのではないかしら。


   ……。


   想像しなくても、分かると思うけれど。


   ……衣装の刺繍は、お揃いにしよう。


   もう、してるわ。


   特別な衣装も、だよ。


   それで、どうするの?


   どうするって。


   特別な衣装。


   勿論、特別に仕立てる。
   マーキュリーに良く似合うものを、


   貴女にもね。


   ……うん。


   ねぇ、ジュピター。


   ……なに。


   私が、特別な衣装を纏って笑っている貴女を見てみたいと……。


   ……。


   ……然う、思わないとでも?


   ……。


   貴女だけだと思っているのなら……それは、大きな間違いよ。


   ……ふたり、に。


   ふたりに……?


   ……似合う衣装を、仕立てよう。


   ええ……然うしましょう。


   ……けど。


   けど、なぁに?
   未だ、駄々を捏ねるつもり?


   駄々は、捏ねてないよ……。


   ……そうかしら。


   ……。


   それで……なに?


   マーキュリーが、こんなに……ん。


   ……。


   ……マーキュリー。


   ばかね。


   ……だって。


   ……。


   ん……ん、……マーキュ、リー……。


   ……したいのでしょう、私と。


   ……。


   特別な衣装を纏った私が、見たいのでしょう……?


   ……うん、見たい。


   ならば……応えて、あげるわ。


   マーキュリー、は……。


   ……したくないことには、応じない。


   ……。


   ん、ジュピター……。


   ……好きだ、大好きだ。


   ねぇ、ジュピター……?


   ……なに、マーキュリー。


   本当に、見惚れなかった?


   ……え?


   「花嫁」、に。


   ……はなよめ?


   特別な衣装を纏って、婚礼の儀に臨んでいる「女」を然う呼ぶのよ。


   へぇ。


   それで、見惚れた?


   見惚れてないよ。
   きれいだとは思ったけど、見惚れてはいない。
   だって、「女」には興味ないし。


   ……ふぅん?


   特別な衣装を纏った「女」がしあわせそうに笑っている。
   あたしが特に興味を持ったのはそこだよ。


   見惚れてたんじゃない。


   ううん、「女」には見惚れてない。
   興味ないのに、見惚れるわけがないだろう?


   ……じゃあ。


   ぅ……。


   ……あなたは、誰に、見惚れるの?


   そんなの、決まってる……。


   ……。


   ……マーキュリー、君だけに。


   顔が、近いわ……。


   ……口付けを、する為にね。


   ん……。


   ……しあわせそうに、笑って欲しい。


   ……。


   あたしの、隣で……あたしだけに、見せて欲しい。


   ……ジュピター。


   ねぇ、マーキュリー……。


   ……なぁに、ジュピター。


   あたしの「花嫁」に、なって呉れる……?


   ……もう、伴侶にはなっているわ。


   然うじゃなくて……「花嫁」に、なって欲しいんだ。


   ……「花嫁」、ね。


   うん……いや、かな。


   ……今更、嫌なんて言うと思う?


   ……。


   ばかね……。


   ……いつだって、確かめるんだ。


   ……。


   確かめない、と……。


   ……貴女の「花嫁」に。


   う、ん……。


   ……して、呉れる?


   え……?


   ……して、呉れない?


   え、えと……。


   ……どうなの?


   し、したい……。


   ……私が、聞いているのは。


   う。


   して呉れるか、して呉れないか……よ。


   ……しても、


   ユゥ?


   ……メ、ル。


   ねぇ、ユゥ……私をあなたの「花嫁」に、して呉れる?


   うん……メルをあたしの「花嫁」にするよ。


   ……うれしい。


   メル……。


   ……ユゥ。


   ……。


   ……。


   ……む。


   これで、不安は晴れたかしら?


   ……。


   ふふ。


   ……しあわせに、するよ。


   ……。


   しあわせに、する……。


   …もう、して呉れたわ。


   もっと、もっとだよ……メル。


   ……。


   もっと、ずっと……。


   ……わたし、も。


   ……。


   ユゥ、あなたを……しあわせに、してあげたいわ。


   ……あたしは、


   もっと、もっと……でしょう?


   ……うん、そうだった。


   うれしい……?


   ……すごく、うれしい。


   そ……。


   ……あたしのしあわせは、いつだってここに。


   ねぇ、ユゥ……。


   ……なぁに、メル。


   すきよ……だいすき。


   ……うん、あたしも。


   あたしも……?


   すきだよ、メル……だいすき、だ。


   ……ふふ。


   今日は、すごく甘ったるいな……。


   ……たまには、ね。


   へへ……。


   ……顔が、近い。


   口付けを、する為だよ……。


   ……さっきから、してるわ。


   何度だって、するんだ……。


   ……ねぇ、知っているかしら。


   なにをだい……?


   ……婚礼の儀では、誓いの口付けをすることを。


   誓いの……?


   ……本来は、お祝いして呉れるひと達の前ですることらしいのだけれど。


   別に、そんなのはどうだって良いさ。


   ……。


   ふたりで誓って、ふたりで祝えば良い……ね、然うだろう?


   ……あなたなら、然ういうと思った。


   ……。


   ……。


   ……愛してるよ、メル。


   わたしも……。


   ……。


   ……愛しているわ、ユゥ。


   うん……。


   ……あ、ん。


   ……。


   ……まだ、したいの?


   うん……したい。


   はなし、は……。


   ……また、あとで。


   も、ぅ……。


   ……いい?


   ……。


   だめ……?


   ……ほんとう、しょうがないひと。








   場所?


   ……ここでは、できないでしょう。


   あー、確かに。


   ……。


   ん、なに?


   おぼえて、いたのね。


   うん、ちゃんと憶えてるよ。


   ……ゆうべはけっきょく、ねむってしまったから。


   マーキュリーとのことは忘れないって、言ったろ……?


   ん……もう、だめ。


   ……おはようのくちづけ。


   ……。


   からだ、しんどい……?


   ……おかげさまで。


   ごめんね。


   ……ほんとうに、そう、おもってるの。


   思ってるよ。


   ……どうだか。


   ごめんね、マーキュリー。


   ……なんでも。


   うん?


   なんでも、いうことを、きいてくれるなら。
   ゆるしてあげても、いいわ。


   良いよ、なんでも言って。


   ……。


   あれ、考えてなかった?


   ……とりあえず。


   とりあえず?


   ……なにか、のみたい。


   うん、任せて。
   マーキュリーのお気に入りを淹れるよ。


   ……。


   違うのが良い?


   ……なんだそんなことかって、おもったでしょう。


   ううん、思ってないよ。


   かおが、わらってる。


   マーキュリーと居る時はいつも然うだよ。
   こどもの頃から、然うだったろ?


   ……。


   ね、他には?
   なんでもするよ。


   ……あなたの。


   うん。


   おきにいりが、のみたいわ。


   あたしの?


   だめなの。


   んーん、だめじゃない。
   じゃ、ちょっと待っててね。


   ……はぁ。


   喉、痛む?


   ……。


   ん?


   ……それより、も。


   なんだい、マーキュリー。


   ……なんでもない。


   ……。


   ん……なに。


   ……躰、大丈夫じゃない?


   ……。


   マーキュリ


   きかないで。


   ……でも、どこか異常を感じているのなら。


   かんじていたとしても、あなたにできることは、ひとつもないわ。


   ……。


   ……やすんでいれば、へいきよ。


   痛くは、ない……?


   ……いたみは、ないわ。


   ごめんね……。


   ……。


   ……ごめん、マーキュリー。


   そんなかお、


   次は、気を付けるから。


   ……。


   だ、だからさ……どこが悪かったのか、教えて欲しい。


   ……は。


   気持ち良く、してあげたいんだ……。


   ……か。


   ねぇ、マー


   ばか。


   え。


   ほんとう、ばか。


   な、なんで……。


   ……。


   マ、マーキュリー……?


   ……ゆび。


   ゆび……?


   ゆびを、みてみて。


   指……マーキュリーの?


   あなたのよ、ばか。


   あ、うん……。


   ……。


   え、と……爪は、伸びてない。
   布も巻いて、いないし……する時は、きれいに洗ったし。
   ごつごつは、してるけど……これは、前からだし。


   ……。


   あの、マーキュリー……。


   ……なに。


   見て、みたけど……。


   ……きが、つかないの。


   う、うん……。


   ……。


   え、えと……若しかして、動かし方が雑だった?
   乱暴、だった……?


   ……しらない、ばか。


   あう……。


   ……。


   マーキュリー……。


   ……それでもなお、せいちょうのとちゅうだなんて。


   マーキュ


   しらないっていってるでしょう、ばか。


   うー……。


   ……。


   えと……ごめん、ね。


   ……わからないのに、あやまらないで。


   そう、だけど……それでも、あたしの指に問題があるってことだけは……。


   そうじゃない。


   ……え。


   そうだけど、そうじゃない。


   ……よけい、わからないよ。


   もう、いわないで。


   ……。


   ……もう、いいから。


   う、ん……。


   ……。


   ……?
   あれ……。


   ……。


   マーキュリー、かおが


   みないで。


   や、でも……。


   みないでって、いってるでしょう!


   あ、ご、ごめんなさい……!


   ……。


   ……みみまで、まっか


   ジュピター!


   は、はい、ごめんなさい!


   ……。


   ……頭まで被ったら、苦しくない?


   くるしくない。


   けど、


   ほうって、おいて。


   あ、うん……分かった。


   ……おちゃ、はやく。


   ん……。


   ……。


   え、えと……起きなきゃいけない時間まで、未だあるから。
   ゆっくり、やすんで……。


   ……いわれなくても、そうする。


   そ、然うだよね。


   ……。


   ……あたしの指……どこが……。


   ……。


   いや、今はそれよりもお茶を……。


   ……あなたの、おししょうさんの、て。


   え、師匠?


   ……いまのあなたよりも、おおきかったわ。


   師匠の手、どんなだっけ……。


   ……とても、おおきくて、あたたかくて、やさしいて、だった。


   む。


   ……せんせいは、いつも、あのてに。


   師匠の手なんか、どうでも良いよ。


   ……。


   面白くない。


   ……ふ。


   あ、笑った。


   ……わらってなんか、いないわ。


   笑ったよ。


   ……。


   なんで、師匠の話なんか……。


   ……わからないなら、いいわ。


   どうせ、分からないよ。


   ……ジュピター。


   なに。


   ……あとで、おしえるから。


   ……。


   だから……ゆびのことは、いまはきにしないで。


   分かった、今は気にしない。
   けど、師匠の話はもう聞きたくない。


   ……ふふ。


   あ、また笑った。


   ……はやく。


   ……。


   あなたがいれてくれたおちゃが、のみたいわ……。


   ……むぅ。


   ふふ……。


   ……まぁ、良いか。


   ……。


   あ、今回で茶葉がなくなっちゃうな……。


   ……ねぇ。


   師匠の話なら、聞かないよ。


   ……もう、しないわ。


   じゃあ、なに。


   ……はなしの、つづき。


   師匠の?


   ……もうしないって、いったでしょう?


   ……。


   ばしょは、どうするの……?


   場所……。


   わすれちゃったの……?


   婚礼の、だろ。
   忘れてないよ。


   ……あなたのこと、だから。


   場所、か……。


   ただ、やってみたいってだけで……ほかのことは、なんにも、かんがえていなかったのでしょう?


   うん、婚礼の衣装を纏ったマーキュリーのことばかり考えてた。


   でしょうね……。


   楽しみだなぁ、早く見たいなぁ。


   ……だから、ばしょはどうするの。


   ふたりになれる、場所が良いな……。


   そんなばしょ……。


   ……お互いの部屋、


   せまいから、むりよ。
   それにいったでしょう、ここではできないと。


   いや、なんにせよお互いの部屋じゃ、なぁ……。


   ……。


   んー……どこか、良い場所は……青い星に行くわけには、いかないし……。


   ……きょかが、おりないわね。


   だよなぁ……。


   ……。


   青い空の下で、たくさんの花に囲まれて、しあわせそうに笑ってるマーキュリーと、婚礼の儀が出来たら……すごく、すごく、良いのにな。


   ……そだった、ばしょ。


   ん?


   ……わたしたちが、そだったばしょ。


   あたし達が……?


   あなたと、わたしと……おししょうさんとせんせい、みんなで、くらしていた、ばしょ。
   あの、ばしょなら……。


   あぁ!


   きっと、だれもこないわ……。


   然うだ、あそこなら誰も来ない!
   ふたりで、ふたりだけで、出来る!


   だけどもんだいは、どうやって……え。


   マーキュリー!


   ちょ、ちょっと、


   愛してるよ!


   い、いみが、わからな……んんっ。


   ……。


   ……や、……ふ、……っん……んぅ……。


   ……。


   ……だか、ら!


   マーキュリー。


   ……。


   あの場所で、やろう。
   ふたりの、婚礼の儀を。


   ……。


   ……あの場所で、改めて、誓うよ。


   ジュピ、ター……。


   ……マーキュリー。


   ……。


   マーキュリー……メ、む。


   ……ユゥ。


   え……あ。


   ……うわがけ。


   は、はい。


   ……おちゃは?


   ま、まだです……。


   ……そうよね。


   ……。


   はぁ……。


   ……ごめんなさい。


   あやまっているひまが、あるのなら。


   もう直ぐだよ。
   直ぐだから、ね。 


   ……。


   よ、良し。


   ……。


   お、おまたせ、マーキュリー……。


   ……。


   からだ、おこせる……?


   ……おこせない。


   て、手伝おうか……?


   ……。


   ……あ。


   ユゥの、ばか。


   あ、や……。


   ……。


   か……かわ、いい……。