-Under the Starry Sky(R-18)






   メール。


   ……わ。


   へへ、お待たせ。


   う、ううん。


   よいしょ、と。


   あの、ユゥ……?


   ん、なぁに?


   ……これ、なぁに?


   ふふ。


   ユゥ?


   花の冠。


   はなの、かんむり?


   花で編んだ、冠だよ。


   ……お花、なの?


   うん、あたしが育てた花。
   メルに似合うだろうなぁって。


   ……。


   思った通り……良く、似合ってる。


   ……私には、勿体ないわ。


   そんなこと、ない。


   ……ぅ。


   とても良く似合ってる……すごく、可愛いよ。


   あ、あの、ユゥの分は……。


   あたしのは、これ。


   ……葉っぱ?


   然う、葉っぱの冠。


   お花じゃないの?


   あたしは葉っぱかなぁって。
   かっこいいだろ、葉っぱの冠。


   ……。


   あれ、かっこわるい……かな。


   ……ううん、良く似合ってるわ。
   だけど……。


   う、うん。


   お花の冠も似合うと思うの。


   そ、然うかなぁ。


   次が、あるのなら……その、お揃いにしましょう?


   うん……然うする。


   でね、ユゥ。
   作り方を、教えて欲しいの。


   作り方?


   お花の冠……ユゥが被るのは、私が作ってあげたいの。


   ……。


   わ、私じゃ上手に作れないかも知れない、けど……。


   ……ううん、そんなことない。


   ユゥ……。


   今度、教えてあげるね。


   ……ありがとう、ユゥ。


   こちらこそ、ありがとう……メル。


   ん……。


   ……。


   ユ、ゥ……。


   ……水星の、姫君。


   ……!


   あたしと……どうか、永遠の契りを。


   ……。


   この想いは、永久に変わることなく……?


   ……。


   メ、メル……?


   ……。


   そ、そんなに嫌だった?
   え、えと、は、外そうか?


   ……ちがう、の。


   で、でも、泣いて……わ。


   ……ユゥ。


   な、なに……。


   ……本当に、交わして呉れる?


   え……?


   ……ちぎ、り。


   ……ッ。


   わ、私と、契りを……永遠、の……ん。


   ……。


   ユ、ゥ……。


   ……交わしても、良い?


   わたしで、いい……?


   ……あたしには、メルだけだよ。


   あぁ……。


   ……メルは、あたしで良い?


   ユゥが、いい……ユゥじゃなきゃ、いや……。


   ……じゃあ、決まりだ。


   う、ん……。


   ……。


   ……ぁ。


   いい……?


   え、い、いま……?


   ……だめかな。


   だ、め……。


   ……わかった。


   そ、そうじゃ、なくて……あの……。


   ……メル?


   はなかんむり、が……つぶれ、ちゃう……。


   ……あぁ。


   せっかく、ユゥがつくってくれたのに……。


   ……だいじょうぶだよ、メル。


   で、でも……。


   ……こうすれば、だいじょうぶ。


   ……。


   ね……。


   ……う、ん。


   また、あとで……かざって、あげる……。


   うん……ユゥ……。


   ……。


   ……。


   ……いい?


   ……。


   メル……ん。


   ……きて。


   ……。


   きて……ユゥ。


   うん……。


   ……っあ、……。


   ……。


   や……、みみ、は……ひゃっ。


   ……いつも、やだっていう。


   ……ぁ、……んっ、ん……。


   けど……みみ、すきだよね……?


   ……や、……しゃべらない、で……。


   まるくて……まっかで……ほんと、かわいい……。


   ユ、ゥ……ん、……っん。


   なんだか……きょうの、メル……。


   や、だ……しゃべら、ない、でぇ……。


   ……すごく、かんじてる?


   ……ッ。


   ……くち、おさえないで。


   ん……ぁ。


   ……て、じゃまだよ?


   あ、や、やだ……。


   こえ、だして……だれも、いないから……。


   で、でも、ほし、が……、や……ぁ、っ……。


   ……こえ、きかせて。


   ひぁっ……、っん……。


   ……あ、こら。


   ……。


   て、だめだっていったろ……?


   ……だ、って。


   こんど、おさえたら……おさえつけて、しまうからね。


   ……。


   そんなこと、したくないんだ……わかってる、だろ……。


   ……ユ、ゥ。


   ほら……せなかに、まわして?


   ……いじわる、しないで。


   そう、させているのは……メルだよ……。


   わた、し……。


   ……はずかしがってるメルは、すごく、かわいいけど。


   あ……い、やぁ……。


   みだれてる、メルも……ひどく、かわいいんだ……。


   ……り、…………で。


   ん……なんだい?


   あま、り……つよく、しないで……。


   ……ごめん、やくそくできない。


   ユゥ……ユゥ……ユゥ……。


   それでも……なるべく、やさしくするから。


   ……っぁあ!


   かたく、なってる……。


   ……いわない、で。


   ふく、は……。


   ……。


   はずかしい……?


   ……ね、ぇ。


   なぁに……?


   ……かく、して。


   かくす……?


   ……ほし、から。


   むしろ、みせつけてやりたいな……。


   ……おね、がい。


   ん……わかったよ、メル。


   ……は、……ぁ……。


   かくして、あげるから……こえは、がまんしないで。
   きかせて、ほしんだ……メルの、なきごえ……。


   ……っ。


   かわいいこえ、きかせて……。


   ……おねが、い。


   ……。


   かくして……おねがい、ユゥ……。


   ……なきごえ、きかせてくれる?


   ……。


   きかせて、くれるなら……かなえて、あげる。


   ……はずかしい、の。


   ん……しってる、よ……。


   ……だか、ら。


   だから……?


   ……かんじなく、させて。


   ……。


   なん、にも……あなたいがい、なに、も……。


   ……うん、わかった。


   は、ぁ……。


   あぁ……きれいなメルが、みたいな。


   ユゥ……あま、り……。


   ……すこしだけなら、いい?


   だ、め……。


   ……わからなく、してあげるから。


   あ……っ。


   ……やっぱり、きれいだ。


   だめ……ぬがさない、で……。


   ……ぜんぶは、ぬがさないから。


   あ……ぁ……。


   それに……さ。


   ……ユ、……あぁっ。


   ……。


   ふ……ん、っ、……あ、ぁ……っ。


   ……ぬがさないと、できないから。


   ん、ぁ……や……いや……。


   ふふ……あめだま、みたい……いや、あめだま、よりも……。


   や、だ……しゃべら、ない、で……。


   ……。


   ユ、ゥ……ユゥ……ユゥ……。


   ……ん?


   はぁ……。


   んー……。


   ……な、に。


   すこし、おおきくなった?


   ぇ……。


   むね。


   ……っ!


   触れた、感覚が……いや、見た目も……。


   なって、ない……!


   いた……っ。


   ばか……!


   あ、あぁ。


   ばか……ユゥの、ばか……。


   ご、ごめんよ、メル……もう、言わないから。


   ……ユゥ、は。


   な、なに……。


   ユゥは……おおきいほうが、いいの……。


   ん、いや……そんなことは、ないよ。


   でも……。


   メルなら、それでいいんだ……。


   ユゥ……ぁ、……。


   そう……おおきさなんて……そんなのは、どうでもいい…………。


   ん……あっ、……あぁ……。


   ……。


   あ、や……。


   ……くすぐったい?


   う、うぅん……。


   じゃあ……かんじてる?


   ……。


   あぁ……たまらない。


   ……あ。


   ねぇメル、もう……。


   ……まっ、て。


   ……。


   まって、ユゥ……まって……。


   まてない。


   け、ど……ま、だ……。


   ……もう、いれたい。


   や、まだ……だって、まだ…………ひゃぁっ。


   ……こんなに、なってる。


   あ、ぁ……。


   ……ねぇ、きこえる?


   ……。


   じゃあ……ほら、みて?


   ぃ、や……。


   ……そっか。


   ねぇ、ユゥ……ほんとう、に……ぁ。


   ……あついね。


   あ、あ、あぁ……ぁぁぁぁぁ……。


   ……すごく、あつい。


   ユ……ゥ……。


   ……いたい?


   ……。


   そっか……よかった……。


   ……ぁ、あっ。


   うごかすね……。


   も、ぅ……ぁっ、あ……っ。


   ……メル……メル。


   あっ、あっ、あぁ……っ。


   ……しめつけて……しめつけてよ……メル……。


   ユゥ……っ、ユゥっ……。


   ……。


   ……?


   ねぇ、メル。


   ユ、ゥ……?


   もういっぽん、いい……?


   え……ぁ。


   ……いれても、いい?


   あ……だめ……。


   いたく、しないから……もっと、はいりたいんだ。


   や、いや……あ、ぁ……。


   ……だいてよ、メル。


   だめ……もぅ、はいら……。


   ん……ゆっくり、ね……。


   ……だめ……だめぇぇ……。


   きつ、い……け、ど……。


   あ……、あぁぁぁぁ……。








   ……。


   ……。


   ……メル。


   ……。


   あの……落ち着い、た?


   …………きらい。


   え。


   ……ユゥ、なんて。
   きらい……きらい……。


   あ、あぁ……。


   ……もう、にどと。


   ごめん、ごめんよ……。


   ……もう、ゆるさない。


   ……。


   ユゥ、なんて……だいっきらい。


   メ、ル……。


   ……。


   メル……メル……。


   ……いや。


   ……ッ。


   さわらない、で……。


   ……も、ぅ。


   いつも、そう……ユゥは、いつも。


   し、しない、しないから……。


   そう、やって……いつも、いうのに。
   それ、なのに……。


   あ、あたし、ど、どうしたら……。


   あなたなんか、さいてい。


   う。


   ……。


   メ、メル……メル……あぁ、あぁぁ……。


   ……。


   ……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめん、なさい……。


   あやまれば。


   ……。


   ゆるされると、おもっているの。
   いつもそうやってあやまるけど、ぜんぜん、かわらないじゃない。
   いっつも、くちばっかりで。


   ……。


   ないたって、ゆるさない。
   なにをしたって、もう。


   ……。


   あなたとは、もう、あわない。


   ……ッ。


   どこかに、いって。
   わたしのまえから、いなくなって。


   ………わかっ、た。


   ……。


   も、ぅ……あわ、ない……メルの、まえ……から、……きえ、る……。


   ……。


   だ、だけど、これ、だけ……。


   いらない。


   ……。


   ……すてて。


   わかった……。


   ……。


   ほんとうに、ごめん、なさい………。


   ……。


   じゃ、あ……。


   ……。


   …………あ。


   ……。


   ……う。


   ……。


   う、うぅぅぅ……。


   ……。


   あぁぁ……。


   ……先生。


   あぁぁ、ぁぁぁぁぁ……。


   ……ごめんなさい。


   ……っ、あぁぁ……っ。


   私には、もぅ……。


   …………。


   ……ユゥ。


   …………。


   ユゥ……!!


   ……。


   ユゥ。


   ……め、る。


   戻ってきて、ユゥ。


   い、いいの……。


   ……戻ってきて。


   で、でも……。


   お願い……ユゥ。


   メル……メル……メル……。


   ……。


   き、きたよ……。


   ……。


   め、める……。


   ……ごめんね、ユゥ。


   な、なんで……。


   ……ごめんなさい、ユゥ。


   メ、メルは、わるくない、わるいのは、あたし、だから。
   あ、あたし、ばかで、さいてい、だから、だから……。


   ……。


   メルに、いつも、ひどいこと、して……ゆ、ゆるして、なんて、もう……。


   ……ばかは、私なの。


   え……。


   ねぇ、ユゥ……。


   な、なに……。


   ……わたしのいうこと、なんでもきいて。


   な、なんでも……?


   そう……なんでも。


   い、いいよ。


   ……ほんとうに、いいの。


   い、いいよ、な、なんでもいって。


   ほんとうに、きいてくれるの……。


   う、うん、きくよ。
   なんでも、きくから。


   ……もっと、ちかくにきて。


   な、なに……?


   ちかくに、きて……だっこ、して。


   え、え。


   しんだいのうえで、いつも、してくれるように……。


   しんだいの、うえ……。


   ……。


   ……あ!


   ……。


   で、でも、あってるかな……。


   ……あなたがおもうように、やってみて。


   けど、まちがってたら……。


   ……たとえ、まちがっていても。
   おこらないわ……だから、ね?


   う、うん、わかった……。


   ……ん。


   あ、でも、その前に。


   ……?


   こ、これ……も、もう一度……。


   ん……かぶせて。


   う、うん……!


   ……ありがとう、ユゥ。


   や、やっぱり、良く似合ってる……。


   ……やっぱり、私には勿体ないわ。


   も、勿体ないのは、あたしだよ……。


   ……え?


   メ、メルは……こんなばかなあたしには、本当に、勿体ないひとなんだ。


   ……。


   え、えと……そ、それじゃあ、いくよ。


   まって。


   え。


   ユゥも。


   あ。


   あたま……。


   ……うん、メル。


   ……。


   あ、ありがとう。


   ……素敵よ、ユゥ。


   あ、あぅ……。


   ……照れてるの?


   ……。


   ふふ……かわいい。


   ……メル。


   ユゥ……お願い。


   うん……任せて。


   ……。


   少しだけ、じっとしていてね……。


   ん……。


   ……。


   ぁ……。


   あ、ご、ごめん。


   ……ううん、へいきよ。


   けど、


   へいき、だから……つづけて?


   う、うん。


   ……。


   ……よし。


   ユゥ……。


   ……なに?


   ううん……よびたかった、だけ。


   そっか……。


   ……。


   ……座るね。


   うん……。


   ……。


   ……はぁ。


   えと……あってた?


   ……ん。


   よ、よかった……。


   ……こうされるのも、すきなの。


   ……。


   あなたに、くるまれているようで……だいすき。


   あたしも、好きだよ……。


   ……そうなの?


   メルを、くるんでいるようで……ずっとこうしていたいって、思うんだ。


   ……うれしい。


   ね、メル……からだ、だいじょうぶ……?


   うぅん……あまり、だいじょうぶではないわ。


   そ、そうだよね……。


   ……あのね、ユゥ。


   もう、しない……。


   ……。


   ……もう、しないから。


   先生に、ね……。


   ……え?


   言われたの……過度に甘やかしてはいけないって。
   甘やかしすぎると……際限が、なくなってしまうからって。


   え、ええと……?


   それで、先生もね……ねぇ、ユゥ、あの先生がね……。


   うん。


   失敗、したんだって……甘やかさないように、甘やかし過ぎないようにって……していた、筈なのに。


   ……。


   それなのに、失敗、してしまったんだって……。


   ……メルの先生でも、失敗することなんてあるんだ。


   ふふ、そうなの……ね、びっくりしたでしょう?


   うん、した。
   失敗なんてしたことないって、思ってた。


   ……でも、失敗しないひとなんていないの。


   そういや、師匠は何度も失敗したことがあるって言ってたなぁ。
   そのたびに、引っ叩かれたって。


   ……引っ叩かれた?


   それがね、物凄く痛いらしい。
   なんだったら、敵から一撃を喰らってしまった時よりも痛いんだって。


   敵、よりも……。


   ジュピターにね、手痛い一発を喰らわすことが出来るのは……己のマーキュリーだけ、なんだって。


   ふふ……お師匠さんらしい。


   あのね、メル……。


   ……なぁに、ユゥ。


   ほっぺたを引っ叩いて、欲しい。


   ……。


   そ、それぐらい、ひどいこと、した、から。


   ……め、つむって。


   うん、分かった。


   ……。


   い、いつでも、いい……よ。


   ……。


   や、メル、こ、これじゃあ……。


   ……もう、痛い目には遭ったでしょう?


   いや、でも……ん。


   ……。


   だ、だめだよ、メル……こ、これじゃあ、あたし……。


   ……でも、忘れないで。


   へ……。


   ……貴女が私に、本当に酷いことを、したら。
   私は……貴女を、嫌いになってしまうかも知れない、と言うことを。


   ……!
   わ、分かった、忘れない、一生……ううん、生まれ変わっても、忘れない。


   ん……なら、この話はもうおしまい。


   メル……。


   ……きついことを言ってごめんね、ユゥ。


   ううん、あれくらいじゃないと……ばかなあたしは、また、繰り返してしまうから。


   ……。


   ん……メル?


   ……あの、ね。


   う、うん……。


   ……なれて、いないから。


   なれて……?


   ……だから、いきなりはやめて。


   ……。


   ……ね?


   ……。


   ユゥ……?


   ……えと、メル。


   うん……?


   ……な、なにを?


   ……。


   あう。


   ……ユゥのばか。


   ご、ごめん、よ……。


   ……ほんとうに、わからないの。


   えと、えと……。


   ……まだ、はいってるみたいなの。


   え……?


   ……ゆび。


   あ……あ!


   ……わかった?


   う、ん……わかった……。


   ……だったら。


   い、いきなりは、しない……よ。


   ……。


   け、けど、メル……いきなりじゃなきゃ、いいの?


   ……も、ぅ。


   あ、そ、そういうことじゃ、ない……?


   ……ユゥの、ばか。


   う……ごめんなさい。


   ……こわかったの。


   ……。


   ……いっぽんでも……なのに。


   もう、しない……しない、よ。


   ……それ、でも。


   ……。


   ……ばか。


   うん、ごめん……。


   ……。


   ……。


   ……ちぎり。


   ……。


   ……ここでかわしたこと、わすれないで。


   うん、忘れない……忘れないよ、メル。


   ……。


   ……つかれた?


   ん……すこし、だけ。


   ごめんね……メル。


   ……ううん。


   ……。


   こうしていると……ユゥのおとが、よく、きこえるの。


   あたしの……?


   ……とても、やさしい、おと。


   そっか……。


   ……。


   少し、眠る……?


   ……こうしてて、くれる?


   もちろん……。


   ……。


   ……おやすみ、メル。


   うん……ユゥ……。








  -愛火(パラレル)





   ……ふぅ。


   大丈夫ですか……?


   あぁ、うん……大丈夫、大丈夫。


   お水を……。


   ん、ありがとう。


   どういたしまして。


   ……あぁ、美味しい。


   お食事はどうしましょうか……?


   うーん、然うだなぁ。


   そろそろ夜市の時間ですし、屋台街に行ってみますか?
   それとも、何か買ってきて此処で食べますか?


   どちらでも、良いけれど……。


   あの……若し良かったら、買ってきます。
   食べたいものがあったら言って下さい。


   ……。


   お米、包子、麺、羹……お肉と、お魚だったら、どちらが良いでしょう。
   甘いものだったら、豆花や鳳梨酥、芋圓などが美味しいと言う話ですよ。


   ……いや。


   食欲、ありませんか……。


   一人で、行かせるわけにはいかない。
   行くのなら、あたしも行く。


   大丈夫ですよ。
   この街の治安はそこまで悪くありませ


   治安が良かったら、あんな騒動は起こらないよ。


   あ……。


   旅芸人の少女を、大の男どもがよってたかって痛めつけるなんざ、道理に悖る。


   ……。


   周囲の男達も囃し立てるばかりで、助けに入ろうともせず、女達は我関せずと言わんばかりに、見向きもしない。
   騒ぎを聞き付けて、捕吏が来たから良かったけれど……若しもあのままだったら、あたしは。


   ……。


   だから、ひとりで行かせるわけにはいかない。


   ……ですが。


   少し休めば大丈夫、動けるようになるよ。
   ちょっとひとに酔っただけだからね。


   ……はい。


   しかし、街ってこんなにひとが多いんだったっけ……や、久しぶりに見たよ……。


   ひとが多いと、目が回ってしまいますよね。


   然うなんだ……あらぬ方向からひとが来るものだから、避けるのも大変だよ……。


   ひとが多い場所……私も、苦手なんです。


   亜美さんは都で生まれ育ったんだろう……?
   都の方が、ひとは多そうだけれど……。


   はい、多いですよ……。


   ……。


   本当に、多いんです……多いから、昼も夜も騒がしくて……一日中、ひとの声が聞こえてきて……。


   ……然うだろうね。


   家は中心部から少し離れたところにあったから、まだ良かったのですが……大学の周囲はお店も多く……然うなると当然、ひとも、集まり易く……。


   あぁ……。


   私が籠りがちだった理由のひとつです……。


   それは、大変だったね……。


   私がもう少し、他者に迎合出来ていれば……また、違ったのでしょうが。


   いや、無理をしても良いことはないよ。
   躰や心を壊してしまったら、もう、元には戻らないからね。


   ……都に居た頃の、私は。


   ……。


   呼吸をすることも儘ならなかった……そんな気が、します。
   ずっと、息が苦しくて……水の中で、藻掻いているような……。


   ……然うか。


   だけど、今は……。


   ……。


   ……今は、貴女の傍で。


   呼吸、出来てる……?


   ……はい。


   ん……良かった。


   ……。


   さて……それじゃあそろそろ、行こうか。


   ……え、もう?


   あぁ、もう大丈夫だよ。


   ですが、未だ顔色が……もう少し、休んでからの方が。


   あまり遅くなると、屋台が閉まってしまうだろう?


   屋台は日が替わる頃まで、やっていますから。


   けど、早く行かないと売り切れてしまうんじゃ。


   大丈夫ですよ。
   何かしらは、売っていますから。


   えぇ、折角だから選びたいじゃないか……。


   何か食べたいものでもあるのですか?


   ん、いや……。


   まことさん?


   ……鳳梨酥。


   はい?


   鳳梨酥が、気になるなって……。


   あぁ。


   それと、豆花……昔、何度か食べたことがあるんだ。
   果物とか豆とか、入ってることなんて滅多になかったけど……それでも、美味しかったからさ。
   また、食べてみたいなって。


   然うなのですね。


   うん……だから、売り切れたら残念だなぁって。


   ふふ、大丈夫ですよ。
   そんな直ぐには売り切れたりなんかしませんから。


   然うかなぁ。


   はい、私を信じて下さい。


   けど。


   ね?


   ……うん。


   そんなに心配なのですか?
   でしたら矢張り、私がひとりで


   それは、だめ。
   絶対に、だめ。


   ……だったら。


   む……。


   ……ちゃんと、休んで?


   ……。


   ね……?


   ……はい。


   ふふ……お茶を頂いてきましょうか。


   ううん、水で良いよ。
   もういっぱい、貰えるかな。


   はい、勿論。


   ……。


   あ……。


   ……あぁ、落ち着く。


   もう……零してしまったら、どうするのですか。


   ん……ごめん。


   もぅ……。


   ……こうした方が、早く、動けるようになると思って。


   そんなわけ、


   あるんだ。


   ……。


   ……この街は、色んなにおいが混ざっていて。
   だけど、こうしていれば……。


   ……まことさん。


   亜美さんのにおいしか、しない……。


   ……汗、が。


   それすらも、いいにおいなんだ……。


   あ……ん。


   ……はぁ、やっと落ち着いたような……そんな、気分だ……。


   だめ、ですよ……。


   ……分かってる、楽しみは夜まで取っておくよ。


   言っておきますけど、今夜はしませんよ。


   え。


   え……じゃ、ありません。


   いや、でも、久しぶりに……。


   しません。


   ……だめ、かい?


   だめ……この宿の壁は、薄いから。


   塞いで、あげるけど……。


   ……それでも、だめ。


   少しだけ……。


   聞き耳を、立てられますよ。


   ……うん?


   然うだと、分かったら。
   それでも、良いのですか。


   いや、それはやだなぁ。


   私も嫌です。
   ですので、我慢して下さい。


   ちぇ……。


   もぅ……まことさん?


   ……壁が厚い宿が、取れていたらなぁ。


   だとしても、だめです……疲れているのだから、ちゃんと休まないと。


   ……。


   なんですか。


   ……負ぶって、あげるよ?


   ……。


   なんだったら、背負子を使っても……む。


   疲れているのは、貴女も同じです。


   あたしは、


   兎に角、だめ。


   ……はい。


   もぉ……。


   ……都まで、おあずけかなぁ。


   ……。


   最後にしたのは、いつだったっけ……。


   ……あぁ、もう。


   ……。


   しょうがないひと、ね……。


   ……じゃあ。


   だめです。


   ……ですよね。


   ……。


   けど、一緒に眠るのは……良いだろう?


   ……何も、しないのなら。


   口付けして、抱き締める。


   ……。


   それ以上のことは、しないから。


   ……絶対、ですよ。


   うん、約束する。


   ……破ったら。


   その時は……村に帰るまで、しない。
   おあずけを、受け入れる。


   ……。


   良いだろう……亜美さん。


   ……村に、帰るまで。


   亜美さん……?


   ……だったら、…………ないで。


   え、なに……?


   まことさんの、ばか。


   え、な、なんで?
   若しかして……村に帰っても、しばらくはおあずけのまま?


   ……。


   え、えと……亜美さん?


   ……もう、大丈夫そうですね。


   う、うん?


   そろそろ、行きませんか。


   ん、どこに?


   今夜のごはんを、食べに。
   或いは、買いに。


   あ、あぁ、然うだね。
   そろそろ、行こうか。


   大丈夫そうですか?


   うん、もう大丈夫だ。


   ……。


   ……得物を、と。


   これから、また。


   ん?


   人が多い場所に、行きます。


   多分、大丈夫だとは思う。
   けど若しも、だめだったら……また。


   ……。


   ……こうしても、良いだろう?


   若しも、私が酔ってしまったら……。


   ……その時は、ふたりで休もう。


   ……。


   よし……それじゃ、行こうか。


   ……はい、まことさん。








   ごはん、どれも美味しかったねぇ。


   はい、とても。


   魯肉飯、麺線に、豆花、鳳梨酥……本当に、美味しかった。


   胡椒餅をお持ち帰りしましたけど、食べられますか?


   うん、食べられる。


   食べ終わった時は、お腹いっぱいと言っていたのに。


   お腹いっぱいだったけど、少し散歩したら熟れてきた。


   ふふ、然うですか。


   亜美さんは?


   私はもう、お腹がいっぱいで。


   然うか。


   やっぱり、ひとつにしておいて良かったです。


   一口も食べられそうにない?


   ちょっと難しそうです。


   そしたら……ひとりで食べてしまうけど、良いかい?


   はい、どうぞ。
   温かいうちに食べた方が美味しいですから。


   じゃあ、遠慮なく。


   お茶を淹れますね。


   ん、ありがとう。


   ……外、角灯がきれいですね。


   然うだね……まぁちょっと、と言うより大分、騒がしいけどね。


   ふふ……然うですね。


   丁度、祭の時期だったんだな……道理で、人が多いわけだ。


   どうぞ、まことさん。


   ありがとう。


   胡椒餅は美味しいですか?


   うん、とても。
   一口、食べてみるかい?


   ううん、大丈夫です。


   そっか……じゃあまた今度、その時は一緒に。


   はい……。


   ……。


   ……人酔いは、大丈夫そうですね。


   ん、なんとかね。
   亜美さんは、大丈夫かい?


   人酔いは、しなかったのですが……少し、くたびれてしまいました。


   然うか……じゃあ、先に。


   ううん……。


   ……。


   ……。


   ……しかし、騒がしいなぁ。
   夜中まで、続くのかな……。


   ……旅芸人の、女の子。


   ……。


   今、どうしているでしょうか……治療は、ちゃんと受けられたでしょうか。


   どうだろう……受けられていたら、良いが。


   ……私が、動けていたら。


   それでも、行かせるわけにはいかなかった。


   ……。


   ……捕吏が関わった奴らを捕縛し終えた頃には、もう、居なくなっていた。
   恐らく、混乱に乗じて仲間が連れて行ったのだろう……。


   その中に、医生に当たるようなひとは……。


   ……薬師が居れば、良いのだけれど。


   街の医生には……。


   あの旅芸人の一団は、この国の者ではないように見えた。恐らくは流れものだろう。
   だとすると、煙たがれて診て貰えないかも知れない。


   医生は、何処の国の者であろうとも、どんな身分の者であろうとも、分け隔てなく診なければならない……それが、私達の使命です。


   然う、なんだろうね……けれど、皆が皆、然うであるとは限らないだろう?
   それは多分、亜美さんの方が良く知っていると思う。


   ……。


   流れもの……異民だからこそ、難癖をつけられたのだろう。
   戦で受けた傷が未だ残っているようなら、余計に……仮令、当時の敵人じゃなかったとしても。


   ……。


   あの子は、とてもきれいな顔をしていた……思い通りにならなくて、特に酷くやられてしまったのかも知れない。
   暫く、芸は出来ないだろう……。


   なんて……。


   足を折り、顔が腫れあがるまで殴って……祭りでなければ、あんな無頼者どもが集まることはなかったかも知れない。
   けれど、祭りでなければ……あの一団もこの街に来ることは、なかっただろう。


   ……なんて、惨いことを。


   ああいった一団には必ず用心棒が居る筈なんだけど……雇えなかったか、或いは、契約が切れて新たに探している最中だったか。
   なんにせよ、時機が悪すぎた……。


   この街に未だ居るでしょうか。
   滞在している場所さえ、分かれば。


   それは難しいけど……どうしても気になるようだったら明日、一緒に探してみようか。
   今から行くのは、危ないから駄目だけれど……夜が、明けたら。


   ……。


   うん?


   ……一緒に、探して呉れますか。


   あぁ、勿論。


   まことさん……。


   ずっと、気になっていたのだろう?


   ……。


   だから、屋台街にひとりで行かせるわけにはいかなかったんだ。
   行かせたら……戻ってこないような、そんな気がしたから。


   ……。


   ひとりで、探してみるつもりだったんだろう?


   ……やっぱり、気が付いていたのですね。


   つれあい、だからね。


   あ……。


   なんとなく、分かるんだ。


   ……。


   亜美さん。


   ……それでも。


   うん。


   ちゃんと、戻るつもりではいたんです……。
   ひとりでは危ないことは、分かっていたし……少し、街のひとに話を聞いてみて、それで。


   行かせなくて、良かった。


   ……。


   ごめんよ……あたしは、亜美さんが最優先なんだ。


   ……まことさん。


   あたしがひとに酔って動けなくなっていなければ……探しに、行きたかったのだろう。
   あたしが、足を引っ張ってしまった……本当に、ごめん。


   いいえ、まことさんが悪いわけではありません。
   然うまことさんは、何も悪くない……あなたを気遣えなかった、私が悪いんです。


   まさか。
   亜美さんはいつだってあたしを


   幾ら体力に優れていたとしても、全く疲れないわけではないのです。
   旅と言う普段とは異なる状況の中で、まことさんは少しずつ、自覚症状がないまま疲れを溜め続けて……それが今回、人酔いと言う形で出たのかも知れない。


   それは、考え過ぎだよ。
   あたしはひとが多いところは苦手なんだ。
   ひとの多さは、亜美さんも見ただろう?


   ……。


   亜美さ


   私は、いつだってあなたが一番なの。


   ……。


   ……天秤に掛けるなんて、本当は、あってはならない。


   ひとのこ、だから。


   ……。


   医生と言っても……ひとのこ、なんだ。


   ……然うだと、しても。


   亜美さん、こっちに。


   ……。


   ……こっちに、おいで。


   私……。


   ……おいで、亜美さん。


   ……。


   明日になったら一緒に、探そう……あたしも出来得る限りのことは、する。
   その為に……今夜はちゃんと休もう。疲れを、残してしまわないように……。


   ……。


   さぁ、亜美さん……こっちに、おいで。


   ……はい。


   うん……。


   ……。


   ……?
   どうした……?


   ……あの、まことさん。


   なんだい……?


   ……こんな時、に。


   ん……?


   ……。


   ……あ、若しかして湯場に行きたいのかい?
   楽しみに、していただろう……?


   ……。


   それじゃあ、湯にゆっくりと浸かってから……?


   ……これ、を。


   え?


   ……これを、まことさんに。


   これは……。


   ……根付、です。


   ねつけ……?


   ……きれいな、翠玉だったから。


   これを、あたしに?


   ……お守りになればと、思って。


   お守り……。


   その……受け取って、頂けますか。


   勿論……ありがとう、亜美さん。


   ……ごめんなさい、こんな時に。


   ううん、嬉しいよ……すごく、嬉しい。


   ……。


   だけどあたし、貰うばかりで……。


   ……もうずっと、貰ってばかりだから。


   いや、でもこんな立派なものは……。


   ……つれあいになる、その前から。


   ……。


   まことさん……あなたには、貰ってばかりなの。
   だから、少しでも……ん。


   ……大事にする。


   ……。


   大事にするよ……ずっと。


   ……ありがとう。


   お礼を言うのは、あたしの方だよ……。


   ……。


   ……必ず、認めて貰う。


   ……。


   亜美さんのお母さんに……そして、君をあたしの本当のつれあいに。


   私も、母に……あなたこそが、私の生涯のつれあいだと。
   私には、あなただけだと……。


   ……。


   ……。


   ……湯場。


   ……。


   どうしようか……?


   ……今日は、もう。


   良いの……?
   楽しみに、していただろう……?


   ……いいの。


   そっか……それじゃあ、夜が明けてから、


   ……。


   亜美、さん……?


   ……ごめんなさい、まことさん。


   どうして……?


   ……若しか、したら。


   ん……。


   ……眠れないかも、知れません。


   ……。


   きっと、考えてしまって……。


   ……あぁ。


   だか、ら……。


   ……。


   ごめんなさい、まことさん……ごめんなさい……。


   ……謝らなければいけない理由なんて、どこにもない。


   ぁ……。


   ……この喧騒だ、何処にも聞こえやしないさ。


   け、ど……。


   ……少しだけ、だよ。
   良く、眠れる為に……。


   ……。


   ……いざとなったら、噛んで。


   そんなこと、出来ない……。


   ……気にしなくて、良いから。


   あなたに……きずを、つけるなんて。


   ……なんてこと、ないさ。


   だめ、よ……。


   ……じゃあ、手を。


   ……。


   今回だけ……ね。


   ……は、い。


   亜美さん……。


   まこ……ん。


   ……。


   ……ふふ。


   ん、なに……?


   ……香辛料の、におい。


   あぁ……いや、かな。


   ……いいえ。


   じゃあ……いい?


   ……。


   ん……あみさん。


   ……もっと、して。








  -I Will Always Love You(前世・先代)





   マーキュリー、これやる。


   要らない。


   せめて見てから言って呉れよ。


   要らないのに?


   要らないかどうかは、見てからでも遅くないだろ。


   時間が、勿体ないのだけれど。


   あたし、疲れて幻覚でも見てんのかな。


   体力お化けのあなたが?


   あたしでも疲れるんだ、だから癒して呉れよ。


   だったら、自分の部屋に戻って休んだら如何かしら。


   お前、今までぼんやりしてただろ。


   いいえ?


   いや、してた。
   此の目で、確(しか)と、見た。


   幻覚ね、さっさと自室に戻って休んだ方が良いわよ。


   またさぼってたんだろ、どうせ。


   さぼってはいないわ、やるべきことが終わったから休んでいただけ。


   今日はもう、やることないのか?


   あるわよ。


   そのわりには寛いでるよな。


   だって、休息時間だもの。


   じゃ、あたしも寛ぐとするかな。


   此処で?


   然うだよ、良いだろ。


   良くないわ、私はひとりで寛いでいたいの。


   恋人の傍で寛ぎたいと思って、何が悪い?


   悪いわね、私の意思は無視しているのだから。


   これ、綺麗だろ。


   座って良いなんて、一言も、言っていない。


   使って呉れると嬉しいな。


   要らないと言った筈だけれど。


   お前は天邪鬼だからな。
   本当に要らない時は、要らない、とも言わないんだよ。


   これ、櫛よね。


   あぁ、然うだよ。


   何処で?


   青い星で。


   ……はぁ。


   良いだろ、これぐらい持ち帰っても。
   恋人への、ただの土産なんだから。


   これぐらいなら、持ち帰っても良いのだけれど。
   マーズの小言が、面倒なのよね。


   適当に流しとけ、そんなもの。


   貴女はそれで良いのでしょうけど、


   お前も然うだろ、あたしのこと言えるかよ。


   全く、しょうがないわね。


   気に入って呉れて、何よりだ。


   そんなこと、一言も、言ってない。


   顔を見りゃ分かる。
   お前、わりと分かりやすいんだよ。


   貴女に言われるなんて、私もおしまいだわ。


   いよいよ、似た者になってきたな。


   はぁ。


   溜息ごと、奪ってやろうか。


   近い。


   良いだろ、これくらい。


   良くない。


   さぼってたんだろ?
   なら……良いじゃないか。


   用が済んだのなら、ん。


   ……。


   ……。


   ……んっ?


   ……。


   いってぇ。


   これ、良いわね。


   使い方が、違うだろ。


   然う?
   丁度、良かったんだけど?


   それは頭に刺すもんじゃない、髪の毛を梳くものだよ。


   護身用として、身に付けておこうかしら。


   護身用として使うのなら、あたし以外の奴に


   何を言っているの?
   寧ろ、貴女専用でしょう?


   お前なぁ。


   ありがとう、大事にするわ。


   ……。


   何?


   ……気に入って貰えたようで、何よりだよ。


   ええ、然うでしょう?


   なぁ。


   なに。


   使ってみて呉れよ。


   ええ、良いわよ。


   いや、だから、だな。
   あたしの頭に刺すんじゃなくて。


   ただの冗談じゃない。


   お前の冗談は分かりづらい。


   分かりやすいって、言ったばかりなのに?


   冗談と言いながら刺すのがお前だろ、マーキュリー。


   然うかしら。


   然うだよ。
   それより、髪の毛を梳いてみて呉れよ。


   今は別に必要ないのだけれど。


   必要なくたって良いだろ、少しくらい。


   どうしようかしら。


   マーキュ


   ジュピター。


   ……なんだよ。


   頭。


   いや、だからさ……。


   梳いてあげるわ。


   ……は?


   梳いて、あげる。


   あたしじゃなくて、お前の髪の毛を


   良いじゃない、たまには。


   ……良いけど、あたしが贈った櫛でやらなくても良いじゃないか。


   貴女、好きでしょう? 私に髪の毛を梳いて貰うの。


   ……好きだけど。


   ほら、早くして。


   ……あぁもう、くそぅ。


   ふふ。


   ほら。


   ……。


   何。


   でかいのよ、貴女。


   しょうがないだろ、でかいんだから。


   小さくなって。


   無理言うな。


   ……。


   刺すな、痛い。


   小さく、なって。


   はいはい、今直ぐに。


   ……。


   今度は、何。


   ……何でもないわ。


   ふぅん……て、いてぇっ。


   髪の毛、傷んでるわね。


   や、お前、引っ張るなよ。


   ……。


   聞いて


   ねぇ、ジュピター。


   ……何。


   一緒に湯浴み、する?


   する。


   ……。


   いつ、する? 今か? 
   あたしはいつでも良いけど、でも、今が良いな。


   今は、しない。


   じゃあ、今夜か? 今夜でも良いな。
   それで、そのまま朝まで一緒に……て、だから痛いって言ってるだろ!


   今夜。


   あ?


   今夜、一緒に。


   ……。


   その時にまた、梳いてあげるわ。


   ……あたし、なんで刺されたの。


   なんとなく、かしら。


   ほんと、お前なぁ……。


   だって、面白くないんだもの。


   はいはい、然うだな……。


   ねぇ。


   ……なに。


   こういう「女」が、好みなのでしょう?


   ……自分で、言うか。


   違うの?


   ……違わないよ。
   思い通りになる「女」なんか、面白くない……。


   ……。


   あぁ、気持ち良いな……。


   ……ねぇ。


   あー……?


   ……。


   ……マーキュリー?


   ジュピターくさい。


   ……。


   ふふ……ふふ……。


   ……悪かったな、ジュピターくさくて。


   好きよ?


   ……知ってるよ。


   ……。


   ……ジュピターのにおいとは、言わないんだよな。


   言ってるじゃない。


   ……はいはい、然うだな。


   ……。


   なぁ……マーキュリー。


   ……なに。


   休息時間は、いつまでだい……?


   ……さぁ。


   ふぅん……。


   ……。


   なら……良いよな。


   ……いいえ、だめよ。


   あたしも、マーキュリーのにおいを、堪能、したいんだけど……。


   ……それは。


   う。


   ……夜に、して。


   ……。


   はい、おしまい。
   私は、仕事に戻るわ。


   ……然うかい。


   あなたは?


   あたしも、戻るよ。
   戻りたくは、ないけど。


   ……そ。


   また、夜に来る。


   待ってるなんて、


   言わない、だろ?


   ……ううん、言うわ。


   ……。


   面白い顔。


   は。


   それじゃあ……また、夜に。


   あぁ……また、夜に。


   ……。


   ……必ず、来るよ。


   ん……。


   ……。


   ……。


   ……なぁ、マーキュリー。


   なに……。


   きれいだろ……その櫛。


   ……えぇ、とても。








   あー……。


   ……。


   ほんっと、良い湯、だったなぁ……。


   ……それ、さっきも聞いたわよ。


   だって、久々じゃないか……ふたりで、湯浴みするの……。


   ……髪の毛、ちゃんと拭いて。


   あぁ、分かってるよ……寝台、濡らしちゃうもんな……。


   私は寝台、あなたは床。
   寝る場所を別々にすれば良いだけの話。


   それは、やだなぁ……。


   ……はぁ。


   ……。


   手が、止まってるわよ。


   あぁ、うん……つい、見惚れてしまって。


   ……。


   マーキュリーは、短いから……乾くの、早いよな……。


   ……髪の毛に時間を割くなんて、無駄だもの。


   長いのも、一度くらいは、見てみたいけどな……。


   ……一生、ないわね。


   そっか……。


   ……長い方が、良いのなら。


   あたしは、マーキュリーの一部だから好きなんだよ……他のヤツの髪の毛なんて、長かろうが短かろうが興味ない……どうでも、良い……。


   ……。


   あぁ、きれいだな……。


   ……ジュピター。


   んー……。


   あまり、見てないで……鬱陶しい、から。


   だって、きれいなんだ……ずっと、見ていられる……。


   髪の毛を、梳いているだけなんだけれど。


   こんな時じゃなきゃ、見られないだろう……?


   ……こんなの、見慣れてるでしょう。


   見慣れる程、見せて貰ってない……。


   ……何年、一緒に生きていると思っているの。


   何年、だっけな……けど、そんなのはどうだって良い。


   ……いい加減。


   お前とあたし、今でも、ふたりで生きてる……それだけ分かっていれば、十分だ。


   ……あ、そ。


   ねぇ、櫛の具合はどうだい……?


   ……まぁまぁ、ね。


   使いやすい……?


   ……だから、まぁまぁ。


   はは……気に入って貰えたようで、嬉しいなぁ。


   ……ちょっ、と。


   マーキュリー……。


   ……未だ、途中なんだけれど。
   私も、あなたも……。


   ……同じにおいがする、な。


   髪の毛、ちゃんと拭いて……拭かないのなら。


   ……なぁ、マーキュリー。


   ……。


   ……櫛を贈る、その意味を、知ってるかい。


   月には、櫛を贈る慣習は、ないわ……。


   ……月じゃ、ないよ。
   なぁ、分かってるんだろう……?


   ……。


   お前が、知らないわけ、ない……。


   ……髪が白くなるまで、共に。


   ……。


   或いは……しあわせなことも、苦労することも多いけれど、それでも死ぬまで、寄り添って生きてゆく。


   ……やっぱり、知ってた。


   ただの言い伝え、でしょう……青い星、の。


   だけど、良いじゃないか……あたしは、気に入ったんだよ。


   ……それで、持って帰ってきたの?


   あぁ、然うだ……どうしても、お前に贈りたくて。


   ……ばか、ね。


   けれど、こんなばかが、お前は好きなんだろう……?
   飽きることが、なくて、さ……。


   ……。


   な……答え、は……。


   ……本当に、ばかね。


   む……。


   ……受け取ったことが、答え、でしょう?


   言葉でも、聞きたい……と。


   ……野暮よ。


   むぅ……。


   ……ほら、ちゃんと拭いて。


   うん……。


   ……。


   ……きれい、だな。


   櫛、なんて。


   ……。


   どれも、一緒だと思っていたけれど。


   ……違う、だろう?


   本当に、癪だけれど。


   はは……。


   ……どんな、櫛よりも。


   マーキュリー……。


   ……。


   ……あたしと、これからも。


   物好き。


   ……う。


   だけど……そんな、あなただから。


   お互い様、だろ……?


   ……一緒に、しないで。


   愛してるよ。


   ……。


   ……ずっと、傍に居て呉れ。


   命が、終わっても……?


   ……叶うなら。


   ふ……。


   ……。


   ……本当、野暮なひとね。


   悪かったな……野暮で。


   ……ねぇ、ジュピター。


   なんだい……。


   ……何が、良いかしらね。


   うん……?


   ……なんでも、ないわ。


   気になるよ……。


   ……いつか、分かるわ。


   いつか、か……じゃあ、期待して、待ってるとしようか。


   ん……然う、して。


   ……。


   ジュピター……。


   ……もう、良いかい?


   まだ、よ……。


   ……。


   ……まだ、だめ。








   ……。


   ……それ。


   ん……?


   ……それ、は。


   声、掠れてるな……。


   ……だれのせい、だと?


   あたし、だな……。


   ……それ、は?


   ん、これ?


   ……ほかに、なにが、あるの。


   これは……まぁ、ちょっとな。


   ちょっと、なに……。


   ……遺してやろうと、思って。


   だれ、に……?


   ……誰だと思う?


   ……。


   ……うん、痛いな。


   だれに?


   ……嫉妬、かい?


   ……。


   うん、痛い。


   ……ほんとは、すこしも、いたくないくせに。


   痛いよ……どんな攻撃よりも、お前のそれが、一番痛いんだ。


   ……で。


   ……。


   ジュピター……。


   ……これからも、続いていくだろう。
   この国が在る限り、姫が居る限り……あたし達が、終わってもさ。


   ……。


   ならば……次のあたしが、次のお前に、何かを贈ってあげられるように。


   ……。


   はは……面白い顔、してるぞ。


   ……つぎのあなたが。


   分かるんだよ……次のあたしも、ってさ。


   ……そんなの。


   あたし達には所詮、関係ないことだけれど……ま、なんかの役には立つだろ。


   ……ばかね。


   ははは。


   ……ほんとうに。


   ん……マーキュリー……。


   ……ねぇ。


   足りない……?


   ……。


   ふふ……甘い、痛みだ。


   ……ばか。


   あぁ……ばかなんだ、あたし。
   だから……だからこそ、お前が、必要なんだよ。


   ん……。


   ……続き、するかい?


   言わせないで。


   ……。


   ……言わせない、で。


   あぁ……。


   ……ん、……。


   愛してるよ……マーキュリー。


   ……なんども、きいたわ。


   何度でも、良いだろ……?


   ……は、……ぁ。


   返して呉れとは、言わないさ……。


   ……。


   だから、言わせて呉れ……。


   ……ほんとうに、あなたはばかなひとね。


   む……。


   ……。


   マーキュリー……?


   ……、わ。


   うん……?


   ……あいしてる、わ。


   ……。


   なぁに、そのかお……。


   ……あぁ。


   ん……ジュピター……。


   ……しあわせ、だ。


   ……。


   ……。


   ……たんじゅんな、ひと。