-暗黒星(現世1) 其れは、私が一生涯を懸けて愛すると心に決めたひと、だったもの。 ……。 ……。 ……いつ、から。 魘されてる時から。 ……そう。 起こそうと思って、声を掛けたんだ。 あまりにも、苦しそうだったから……だけど。 ごめんなさい。 ん……なにが。 ……起こして、しまったわ。 そんなの、なんでもないよ。 それに……汚して、しまった。 それも、なんでもない。 ……そうじ、しておくから。 いや、あたしがするよ。 けど、 言ったろ、なんでもないって。 ……。 亜美ちゃんは、しなくて良い。 良いね、しなくて良いんだよ。 ……ごめんなさい。 具合が悪いって時に、謝ってる場合じゃないだろ? ……それ、でも。 亜美ちゃん。 ……。 ……亜美ちゃん。 もう、大丈夫よ……。 ……然うだったら、良いんだけどね。 だから、お願い……。 そんな顔色で言われたって説得力なんてないよ。 ……。 全部、吐いてしまった方が……いや、もう、ないか。 ……来ないで。 一度、口の中を濯いで…… ……ッ! や……! ……。 ……お願い、触らないで。 亜美ちゃん。 心配して呉れて、ありがとう……だけど、私のことは、放っておいて。 ……出来ないよ。 ……。 放っておくことなんて、出来ない。 ……お願い、だから。 ごめん、どうしても出来ない。 ……見ないで。 亜美ちゃ お願い、今の私を見ないで。 ……。 あなたには……あなたにだけは、見られたくないの。 ……そうだろうなって、思ってたよ。 ……。 だけど……もう、無理だ。 放っておくなんて、あたしには出来ない。 ……まこちゃん。 向こうに、居るから。 ……。 何かあったら直ぐに呼んで。 ……。 ……必ず、呼んで。 …………ごめん、なさい。 ……。 ……まこちゃん。 ……顔色、未だ悪いね。 でも……さっきよりも、良くなったから。 これ、着替え。 あたしのだけど……良いよね。 ……ありがとう。 もう、触っても? あ……うん。 ……ベッドには未だ、戻らない方が良さそうだね。 ん……。 そしたら……一旦、ソファに座ろうか。 ソファなら、横にもなれるし。 ……。 ……ひとりで、座っていられそう? う、ん……。 然う……じゃ、ちょっと待ってて。 どこに、いくの……。 ……どこにも、行かないよ。 いや、いかないで。 ……直ぐに戻るから。 まって、まこちゃん……まって。 ……亜美ちゃんのこと、だから。 まって……。 ……しなくて良いって、言ったのに。 まこ、ちゃん…………。 ……はぁ。 ……。 亜美ちゃん……着替えは、ひとりで出来そうかい? ……いかないでって、いったのに。 直ぐに戻るって、言っただろう。 いってほしくなかった、の。 それなの、に。 ……亜美ちゃん、こそ。 どう、して……。 あたしがするって、言っただろう。 あ……。 どうして素直に聞けないんだよ。 こんな時にでさえ……いつも言ってるだろう、亜美ちゃんは甘えても良いんだって。 それなのにどうしてひとりでやろうとするんだよ、抱え込もうとするんだよ。 しんどい時は、甘えて呉れよ。頼って呉れよ。 ……は、ぁ。 あたしじゃ、だめなのかよ……あたしじゃ、亜美ちゃんの……。 ……い、…や。 あたし、は……。 ……ぃ……や………。 ……? 亜美、ちゃん……? …………い……。 ……! 亜美ちゃん……! ……ん、……な……さい。 亜美ちゃん、亜美ちゃん。 ごめ……ん……な、さい……。 な、んで……。 ごめんなさい……まこちゃん……ごめんなさい……。 謝って欲しいわけじゃ、ないんだ……あたしは、ただ……。 ……っは、ぁ。 ただ、亜美ちゃんに……もっと、必要とされたいだけ、なんだ……。 ……あなたのことが、すき。 ……っ。 あなたのことが、すきなの……だから……。 だったら……。 すき、だから……できない、の……。 できないって……。 ……あまえて、しまったら……とめられなく、なってしまう……そんな、きが、するから。 構わない。止める必要なんてない。 あたしはもっと、甘えて欲しいんだ。もっと、もっと、亜美ちゃんに。 ……でき、ない。 なんでだよ……。 ……おいていかれたく、ないの。 何を言ってるんだよ……置いて行くわけ、ないだろ。 ひとりに、もどりたく、ないの……。 ひとりになんて、するわけないだろう……! あまえたら、きっと……めいわくを、かけてしまうわ……だか、ら。 迷惑なんかじゃない、ないんだ。 ずっと……そうして、きたの……ちいさい、ころから……ずっと……がまん、してきたの……。 もう、良いんだ。我慢なんて、しなくて良いんだよ。 ……めいわくを、かけないように。 ひとりで、なんでも……できる、ように。 良いんだよ、亜美ちゃん。あたしにだけは、しなくて良いんだ。 まこ、ちゃん……。 ……あたしは何があろうとも、亜美ちゃんの傍に居る。 居たいんだよ、あたしが。ずっと、亜美ちゃんの傍に居させて欲しいんだよ。 ……こわい、の。 亜美ちゃん……。 あなたをうしなうのが、こわいの……あきれられて……がっかり、されて……すてられるの、が……。 ……。 まこちゃん、わたし……わたしの、こと……。 ……ばかだな。 ぅ……。 ……ほんっとばかだ、あたしは。 まこちゃん……。 ……好きだよ、亜美ちゃん。 ぁ……。 ……不安にさせて、ごめんね。 ……。 ……着替え、手伝うよ。 で、も……。 いや、かな……。 ……そんな、こと。 ない……? ……う、ん。 じゃあ、良い……? ……。 こわい……? …………。 だいじょうぶ……だいじょうぶだよ、あみちゃん。 ……あまえて、も。 うん……あまえて、ほしいな。 ……。 こわがらないで……あたしを、しんじて……ね。 ……ありが、とう。 どう、いたしまして。 ……。 ……。 ……ねぇ。 なんだい……? ……おいて、いかないで。 いかないよ。 ……ひとりに、しないで。 しないよ。 ……ずっと、そばにいて。 いるよ……ずっと。 ……。 はは、やっぱり大きいね。 ……だきしめられている、みたい。 え。 ……。 えと……それ、だったらさ。 ……ぁ。 この方が、良くない……? ……ん。 ね、この方が良いだろ……? ……うん。 ん、良かった。 ……あったかい、わ。 だろ……? あたしさ……体温、高いんだ。 ……ん、しってる。 そっか……。 ……ね、まこちゃん。 ん……なぁに? ……もう、みたくない。 えと、何をだい……? ……あなただった、もの。 あたしだった、もの……? ……。 ……若しかして、夢の内容? ……。 それは、前世の……? ううん……ぜんせいのきおくじゃ、ない。 だって、わたしのジュピターは……。 ……。 ……あんなの、わたしは、しらない。 しらないのに……ひどく、はっきりとしていて……。 ……。 あれは、なに……いつの、きおくなの……。 ……或いは、記憶じゃないのかも知れない。 ……? ……石の、記録。 いしの、きろく……。 ……分からない、けど。 あ……あぁ……。 ……亜美ちゃん? いや……いやぁ……いやぁぁ……。 亜美ちゃん。 もう、いや……みたくない……いやよ……や……いやぁぁぁぁぁ……ッ。 亜美ちゃん……ッ。 ……んッ、……っ、……。 ……。 ……。 ……あたしを見て、マーキュリー。 ジュピ……ター……。 ……あたしは、此処に居るよ。 あ、あぁぁ……。 ……もう、大丈夫。 ジュピター……ジュピター……。 ……ずっと、傍に居る。 おねがい……ジュピター……わたし、を……。 ……あぁ、分かってる。 ジュピ、ター……。 ……マーキュリーの、望みのままに。 顔は焼け爛れ、皮膚は裂け、腹は割かれ、臓物は、零れ落ちた。 其れでも其れは、変わらず、私の愛しいひと。 -予感(現世2) 「行ってらっしゃい」って、見送って貰ったんだ。 ……どこに、行くんだろう。 え、なに? いや、なんでもない。 今、何か言わなかった? 言ったけど……ま、独り言みたいなものだから。 然う? うん、大したことじゃないよ。 なら、良いけれど……。 ……それよりここ、教えて貰っても良いかな。 ええ、勿論。 ……。 ここは…………。 ……。 ……まこちゃん? ん……。 聞いてる……? あぁ……ごめん、ちょっと聞いてなかった。 もう、ちゃんと聞いて? うん、ごめん。 ……。 ん、なに? ……本当に、大したことじゃなかったの? なにが? 独り言……。 ん、本当に大したことじゃないよ。 なんて言ったの? 大したことじゃないから。 ……言いたくない、こと? そんな大層なものじゃないから。 気にしないで。 ……。 え、と……ちょっと、集中力が切れてるみたいだ。 少し休憩にしない? ……うん。 今日はね、レモンタルトを作ってみたんだ。 ふわふわのメレンゲつき。 ……美味しそうね。 気に入って呉れたら、嬉しいな。 ……屹度、気に入るわ。 はは、然うだったら良いな。 ……。 然ういえば亜美ちゃん、進路の紙はもう出した? ええ、出したわ。 そっか。まぁ、然うだよね。 まこちゃんは? んー……あたしは、未だ。 え? ちょっと、ね。 どうして。 まこちゃんの夢は ん、少し思うことがあって。 でもま、提出期限までには出すつもり。 ……。 亜美ちゃんに話せないことではないんだ。 ただ、少し……ひとりで、考えてみようと思って。 ……然う。 あぁ、だからってお勉強を疎かにするつもりはないよ。 やっぱり勉強は必要だもんな、どんな道を選んだとしても。 ……。 はい、おまたせ。 ……ありがとう。 お茶はニルギリにしてみました。 ん……いい香りね。 ニルギリってさ、現地の言葉で「青い山」って意味なんだって。 インド南部に位置する西ガーツ山脈南部、ニルギリ丘陵で生産されているのよね。 だとしたら、タミル語かしら。 うん、然うなんだ……て、詳しいね亜美ちゃん。 タ、タ、タミ……えーと。 タミル語? そうそう、それ。 タミル語も知ってるんだね。あたしなんて聞いたこともなかったよ。 まこちゃんが淹れて呉れるお茶は、どれも、美味しいから。 うん? だから、気になって。 以前に、少しだけ調べてみたことがあるの。 そっか。 気になると調べる、亜美ちゃんらしいなぁ。 ……ねぇ、まこちゃん。 高校を卒業したら、なかなか会えなくなっちゃうのかな。 亜美ちゃんは益々、忙しくなっちゃうだろうし。 そんなこと、 ……恋人同士だとは言え。 まこちゃん、私は。 だけど、それはしょうがないことなんだよね。 亜美ちゃんはずっと、夢を叶える為に頑張ってきたんだし。 あたしだって…… まこちゃん。 あたしも忙しくなるかも知れないけど、連絡はちゃんとするから。 聞いて、まこちゃ 火傷、しないようにね。 ……。 うさぎちゃんたちはもう、出したのかな。 レイちゃんの学校はどうなんだろう、やっぱり同じなのかな。 レイちゃんは夢がたくさんあるから、しぼって書くのはすごく難しそうだね。 最終的には、歌って踊れる宮司さんになったりして。 ……。 みんな、叶うと良いなぁ。 まぁ、うさぎちゃんの夢は間違いなく叶うだろうけどさ。 もう、叶える気はないの。 うん? まこちゃんにだって、叶えたい夢が幾つもあるでしょう? お嫁さん、お花屋さん、それから、ケーキ屋さんにだってなりたいって。 うん、然うだね。 然うだねって……そんな、他人事みたいに。 自分の店が持てたら良いなぁって、今でも思ってはいるよ。 お嫁さんは……ま、相手次第かな。 ……。 やだなぁ、どうしてそんな顔をするのさ。 あたしは別に諦めたわけじゃないんだよ。 ただ、ほんの少し考える時間が欲しいってだけ。 ……お嫁さん。 ん? 相手次第って、言ったわよね。 うん、こればかりはひとりじゃどうにもならないし。 相手が同意して呉れないとね。 ……。 言っておくけど、亜美ちゃんと別れる気なんて更々ないからね。 ……まこちゃん。 それだけは、変わらない。 私も ……。 どうして……どうして、そんな顔をするの。 私だって、変わらない……変わるわけ、ないじゃない。 ……うん。 ねぇ、そんな顔しないで。 ん……ごめんね。 まこちゃん。 ……ちょっとだけ、抱き締めても良いかな。 聞かないで。 ……と。 …………好きよ、まこちゃん。 うん……あたしも好き、大好きだ。 ……同意なんて、もう。 だけど、今はだめだろう……? そんなこと、ない……まこちゃんが、望んで呉れるなら。 亜美ちゃん。 ……望んで、呉れないの。 ううん、望んでるよ……心の底から、望んでる。 だけど……亜美ちゃんの夢を叶えることの方が、先だよ。 まこちゃんと一緒になったって、 うん、亜美ちゃんなら出来ると思う。 だったら、 ……。 まこ、ちゃん……。 ……ねぇ、亜美ちゃん。 な、に……。 ……戦士として、どれくらい生きることになるのかな。 あ……。 ……屹度、ずっとだよね。 ……。 木野まこととしての夢を、叶えても……叶えたところで、それは無駄になったりしないかな。 無駄になるなんてこと、ないわ。 然うかな。 然うよ。 亜美ちゃんはさ、お医者さんだろう? 戦士として生きることになっても、その知識や技術は十分に活用出来る。 だけど、あたしは? ケーキやお花が役に立つ? ましてや……亜美ちゃんのお嫁さんになることが、戦士として生きるのに、邪魔になったりはしない? 役に立つことが重要なのではないでしょう? それに……その、私のお嫁さんになることが邪魔になるだなんて、そんなこと。 木野まこととしての人生は、本当に、必要だったのかな。 ……! ……あたしのお父さんとお母さんは、ジュピターを生む為だけに居たのかな。 そんなこと……! ねぇ、亜美ちゃん……あたし達は死んだら何処に行くんだろう。 お父さんとお母さんが居る場所には、屹度、行けないよね。 あたしは、セーラー戦士だから。 ……。 やっぱり、何処にも行けないのかな。 死んだらまた転生して……ずっと、戦士としての使命を果たしていかないといけないのかな。 それは永遠に終わらないのかな。 ……まこちゃん。 いやなわけじゃ、ないんだ。 亜美ちゃんと……マーキュリーとずっと一緒に居られるし。 ……。 ね……次、生まれ変わったら。 あたし達はどんな名前を付けられているんだろう。 あたし達はどんな夢を抱いているのだろう。 ……。 あたしと亜美ちゃんは、どんな出逢い方をするんだろう。 気は合うのに喧嘩ばかりしてたら面白いね。うさぎちゃんとレイちゃんみたいにさ。 …… どんなに離れていたって、あたし達は必ず出逢う。 願わくば、次の生でも……また、亜美ちゃんと。 ……それをずっと、考えていたの。 ……。 然うなのね。 ……昔の夢をね、見たんだ。 昔の夢……前世? いや、あれはあたしの前世じゃない。 あたしじゃない、誰かの……けど、あたしと同じ姿をしているんだ。 細かいところは、違うけど……だけど、同じなんだ。 ……。 あれは間違いなくジュピターだ……だけど、あたしじゃない。 あたしが知らない、ジュピターなんだ。 ……然う。 驚かないんだね。 ……私も、見たから。 亜美ちゃんも? ……見始めたのは最近、なのだけれど。 見始めたってことは……亜美ちゃんも連続して見ている? ……まこちゃんも? うん……あたしが見始めたのは進路の紙を貰った頃から、かな。 若しかしたら、私達は同じ夢を見ているのかも知れない……。 亜美ちゃんが見る夢はやっぱり、マーキュリーの? ええ……私に似た、私じゃない、マーキュリーの夢。 ……そっか。 でも、その夢が原因で夢を諦めると言うのなら、 いや、諦めるつもりはないんだ。 ただ、叶える意味があるのかちょっと分からなくなってしまって。 意味なら、 或いは、あの夢は昔じゃなくて未来のあたしなのかなって。 未来……。 然う、未来……戦士として生きている、あたしの姿。 どう見ても、ケーキ屋さんやお花屋さんをやってるようには思えない……。 そんなの、分からないじゃない。 分かるんだ、なんとなく。 あぁ、あたしは……諦めたんだなって。 まこちゃん。 然う、思ったら……なんだかなぁって、さ。 勝手に決めないで。 ……。 ……お願い、決めないで。 亜美ちゃん……。 ……私達の生は戦士になる為に、使命を果たす為にあったのかも知れない。 だけど、それだけじゃない……それだけじゃないって、信じているの。 ……。 まこちゃん、私と。 学校を卒業したら、私と……ん。 ……。 ……まこ、ちゃん。 紅茶の香りがする……。 ……ばか。 ん……。 ……。 ……行ってらっしゃいって。 ……? 然う、見送られたんだ……マーキュリーに。 ……。 ……夢の中でも、いつも、隣に居て呉れる。 そして、見送って呉れる……。 マーキュリーは、シュピターの傍に居るのね……。 マーキュリーの傍には、ジュピターは居ないかい……? ……居るわ、いつも。 そして、いつだって、柔らかな笑顔で……行ってきますって、言うの。 良かった……あたし達は、ずっと一緒に居るんだ。 ……。 ねぇ……夢、叶えても良いかな。 ……そんなの、良いに決まってるじゃない。 そっか……そっ、か。 然うよ……。 ……そしたら、亜美ちゃんのお嫁さんになれるようにもっと頑張らないといけないね。 頑張るも何も、今でも十分……ううん、私には勿体ないくらい……ん。 ……夢がひとつ、増えた。 え……? ……亜美ちゃんを、お嫁さんにすること。 ……ッ。 だって……然うだろう? そ、然う、だけど……。 ……然うだけど、なぁに? わ、私……私も、頑張るわ……。 あはは、今でもあたしには勿体ないくらいなのに。 ……それでも、頑張る。 うん……ありがと。 ……ねぇ、まこちゃん。 ん……。 ……大好き。 うん……あたしも大好きだ、誰よりも愛してるよ。 ……うん。 ……あめ。 ん……。 ……あめのおとが、するような。 ふりだした、みたい……。 ……今日、降るって言っていたっけ? 所によっては……確率は、低かったけれど。 あー、当たっちゃったかぁ……。 ……洗濯物を、干していたわよね。 然うだ……洗濯。 早く、取り込まないと……。 私も、ん。 良いよ……亜美ちゃんは、ゆっくりしていて。 ありがとう……でも、私もやるわ。 けど、 ふたりの方が、早いでしょう? ……それじゃ、お言葉に甘えて。 ……。 うん? やっぱり、ゆっくりしてる? ……ふたりで暮らすようになったら、当たり前になるんだもの。 亜美ちゃん? まこちゃん。 なに? 私をあまり甘やかさないで。 へ。 兎に角、早く取り込みましょう。 亜美ちゃん。 濡れてしまうわ。 もう、濡れてるよ。 それよりも。 なに。 服、着ないと。 そのままの姿では、窓、開けられないよ。 あ、えと……ありがとう。 亜美ちゃんの肌を見て良いのは、あたしだけなんだからね。 待って、まこちゃんも着て。 え、着てるよ。 羽織っただけでしょう、ちゃんと着て。 それだと見えてしまうわ。 雨だし、誰も 着て、早く。 見て良いのは、私だけなのだから。 ……。 先に行くわね。 あ、うん。 ……結構、降ってる。 これだと……。 亜美ちゃんだけ、かぁ……へへ、嬉しいな。 まこちゃん、良いかしら。 うん、良いよ。 もう大分濡れてしまってるわ。 もっと早く気が付けば、 降るとは思ってなかったし、しょうがないよ。 また洗濯機に放り込めば良いだけの話だし。 これだけ、よね。 うん。 ありがとう、亜美ちゃん。 ううん、良いの。 じゃ、あたしはこれを洗濯機に放り込んでくる。 うん。 終わる頃には雨、止むかなぁ。 恐らくは。 あまり長くは降らないとも言っていたから。 そっか。 ……。 ベッドに戻りたかったら、戻ってても良いよ。 いえ、もう起きるわ。 と言うか、戻ってて欲しい。 ……。 雨に邪魔されてしまったし。 ……まこちゃん。 もう少し、もう少し……ね。 ……お勉強の途中だったのに。 時間なら、未だあるよ。 ……そんなこと、言って。 雨、止むと良いなぁ。 ……もぅ。 ん、これで良し。 あとは頼んだよ、洗濯機。 ……。 お待たせ、亜美ちゃん。 ……お勉強は、するから。 分かってるよ……。 ……。 ……洗濯機が止まる頃まで、ね。 そんなこと、ん、……言って。 ……だって、足りないんだもの。 も、ぅ……。 ……ふふ。 まこちゃん、も……。 ん……分かってる。 ……。 亜美ちゃん……。 ……あ。 あ……? ……血? え……? ……若しかして、背中。 背中……あぁ、それならなんでもないかな。 ……ごめんなさい。 良いんだよ……それは甘い傷、なんだから。 手当て……。 ……良いよ、後で。 でも……ん。 ……今は、それよりも。 おわった、ら……。 ……終わらないと、思うけど。 ……。 直ぐには、ね……。 もぅ……ばか。 ……けっきょく。 ん、なぁに……? ……亜美ちゃんに話しちゃったなって。 ひとりで、考えるなんて……格好、つけたのに。 ……。 あたしは、やっぱり……亜美ちゃんがいないと、だめみたいだよ。 ……そうだったら、いい。 え、なに……? ……なんでもない。 んー……。 ね……まこちゃんの、叶えたい夢の話が聞きたいわ。 もう何度もしてると思うけど……。 ……何度だって、聞きたいの。 そっか……それじゃ、少しだけ。 ん。 あたしの夢は、亜美ちゃんのお嫁さんになって、亜美ちゃんをお嫁さんにすること。 それから、自分のお店を持つこと。 ……どんなお店にするの? 然うだなぁ、小さくても良いから地元に愛されるようなお店にしたいな。 ケーキ屋さん?お花屋さん? メインはケーキ屋さんになるかも。 それでね、あたしが育てたお花を置くスペースも作るんだ。 ふふ、素敵ね。 だけど直ぐにお店を持つことは出来ないと思うから。 まずは、どこかのお店で働きたい。勉強にもなるしね。 うん。 製菓の専門学校に行って……勉強をたくさんして、製菓衛生士の資格を取りたい。 フラワーアレンジメントの勉強もしてみたいなぁ。 製菓の勉強をしながらだと、大分、難しいと思うけど……。 ……でも、挑戦したいと言う気持ちは大事だと思うわ。 うん、あたしも然う思う。 で、自分のお店を持つなら、店舗経営の勉強もしなきゃいけないと思うんだ。 折角開いたお店を潰したくないし、出来るなら長くやりたい。 然うなると……うーん、やらなきゃいけないこと、いっぱいあるなぁ。 私に出来ることがあったら言ってね。 うん、ありがとう。 夢を叶えるにはやっぱり勉強、勉強しないとなぁ。 ただなりたいだけじゃ、だめなんだよね。 入試の為のお勉強なら、任せて? はい……頼りにしてます。 ふふ。 亜美ちゃんの場合は六年、だっけ。 うん? 医学部。 うん、六年。 六年、かぁ。 お医者さんになるのは大変だよなぁ。ひとの命に関わる仕事だもんなぁ。 まこちゃんが就きたいお仕事だって大変だと思うわ。 だって、ひとが食べるものを作るんだもの。それこそ健康、ひとつ間違えば命にだって関わるでしょう? うん。食中毒は天敵、かな。 それからお花はひとを楽しませたり、癒したり、時には慰めたりもして呉れる……ひとの心に関わる大事なものだと思うの。 何よりお花だって生きてる。だから、慈しみながらひとの心に響くお花を育てるということは、とても大変なことだと……。 亜美ちゃんは然う思って呉れるんだね。 だって……私、植物がたくさん置かれているまこちゃんのお部屋に来るといつも安心するんだもの。 植物がこんなにも心に影響を与えるだなんて、知らなかった。 ふむ、それは植物達だけのおかげ? え? あたしは? あたしは、亜美ちゃんの心に影響しない? ……もう、まこちゃん? いやぁ、だってさ? 今はそんな話を……もぅ、ばか。 あはは。ごめんごめん。 ん……まこちゃん。 ……夢、叶えたいな。 一緒に、頑張りましょう……ね。 うん……。 ……あ。 亜美ちゃん……。 ……おはなし、は? 亜美ちゃんのこと、お嫁さんにしたら……ずっと、いちゃいちゃしてたい。 ……いちゃいちゃって。 一生、仲睦まじく暮らしたいってことだよ……雨が降ったら、一緒に洗濯物を取り込んだりして、さ。 ……ん。 ねぇ、亜美ちゃん……。 ……な、に。 「ただいま」って、言いたい。 ……? 亜美ちゃんに「行ってらっしゃい」って、見送って貰ったら……。 あたしはいつだって、「ただいま」って、亜美ちゃんのところに帰りたい……。 ……。 ずっと、然うやって……亜美ちゃんと、生きていきたい。 それがあたしの、一番の夢……。 ……まこちゃん。 ね、良いよね……。 ……うん。 亜美ちゃんも……一番じゃなくて、良いんだ。 あたしと生きることを、夢のひとつに……ん。 ……。 ……あみちゃん。 私も一番にしても、良い……? ……うん、して呉れたら嬉しい。 あ、……ん…。 ……ただいま。 いま……? ……なんとなく、言いたくなっちゃった。 ……。 あみちゃん……いい? ……おかえり、なさい。 うん……? ……いらなかった? ……。 え……。 ……。 まこ、ちゃん……? ……なんでもない、なんでもないよ。 ……。 なんでも、ないんだ……。 ……そう。 あみちゃん。 ……なぁに、まこちゃん。 これから、も……。 ……うん、これからも。 ……。 これからも……ずっと。 ……だから、「ただいま」って言いたかったんだ。 -Wired Life(現世・名字呼び) 手を取られ、躰を抱かれ。 死にたくないと、然う、思うのです。 ……。 ええーと。 ……木野さん。 それなりに、頑張ったんだけど……だめ、ですか。 もう少し、取れた筈よ。 あ、あたしも、もう少し、取れたかなぁと思ったんだけど。 つまらない計算ミスをしたものね。 う。 見直しは? したの? ちゃんとしていれば、或いは気付けたと思うけれど。 さっとしただけで……ちゃんとは、してないです。 ……時間は? あんまり、なかったです……。 そう。 あ、あの、水野さん……。 はぁ、まぁ良いわ。点数は上がっているし。 やっ、 計算の速度と精度を高める為に、今まで以上に問題を多く解くようにしましょうね。 ……はい。 はぁ。 あの、水野さん? ……なに。 体調、悪い? ……どうして? 顔色が、いつも以上に真っ白。 今日のお昼ご飯もあんまり食べていなかったろ? 帰りも、どこかしんどそうで。 ……。 それに最近、戦闘が続いたろう? 疲れが溜まっているんじゃないか? 今日の勉強はこれぐらいにして、少し休んだ方が良いんじゃないか? ……大丈夫よ。 大丈夫そうに見えないから言ってるんだよ。 食欲は? 食べたいものがあったら作るよ、なんでも言って。 ……はぁ。 水野さん。 ……生理なの。 え。 生理。 あ、あぁ……なるほど。 って、じゃあ、余計にちゃんと休まなきゃだめじゃないか。 ……いつものことだから。 いや、いつもじゃないだろ。 今までそんなにしんどそうにしてたの、見たことないよ。 木野さんが見たことないだけ、よ。 兎に角、心配しないで。 無理。 ……ちょっ、と。 とりあえず、休んで。 そういう時はあったかくして休むのが一番良いんだ。 食欲があればもっと良いんだけど、無理して食べるのは良くないし。 おろして、木野さん。 食べられないのなら、せめて水分を摂るだけでも……え、と、何が良いんだ。 確かカフェインは良くないんだっけ。 大丈夫だと、言っているでしょう。 いいや、大丈夫じゃない。 今の水野さんに必要なのは躰を休めることだよ。 いいから、おろし はい、下ろしたよ。 ベッドは好きに使って良いから。 勝手に決めないで、わたし、は…… 水野さん! ……。 だから、言ったじゃないか。 ……だいじょうぶ、なのに。 あのさ、水野さん。 水野さんの夢って医者になることだろ。 ……だから、なに。 医者の不養生、まさにそのまんまじゃないか。 ……まだなってない。 水野さんの将来の姿を見てるようだって言ってるんだよ。 兎に角、休まなきゃだめだ。 ……。 口を尖らせたって駄目だよ。 ……とがらせてない。 お腹は痛くない? 頭は? 吐き気は? 寒くはない? 熱は……いつもよりちょっと高めだったかな。手は冷たかったけど。 ……うるさい。 はいはい、ごめんね。 ……。 微熱はあるけど、冷たいのは良くないな。貧血気味だから鉄分が必要、だけど。 それは食欲が出てきた時になんとかするとして……ハーブティー、ココア、ホット豆乳、生姜湯……味がついているのがいやなら、白湯かな……。 ……。 ……日頃から食生活に気を付けてくれていれば良いんだけど、平気で抜くし。 食が細いんだし、せめて栄養バランスを考えてくれれば……頭が良いのに、そういうことには使わないんだよなぁ。 きのさん。 はいはい、うるさいね、ごめんね。 ……。 はぁ……水野さん。 ……なに。 食事も、だけど。寝不足もだめ。 あとストレスを溜めるのも良くないから、心を休ませてやるのも大事。 ……わかってるわよ、そんなことは。 分かっていたって、行動しなきゃだめなの。 あたしだったら、顔色が悪いお医者さんになんて診てもらいたくないよ。 信用出来ないし、余計、悪化してしまいそうだ。 ……だって、しょうがないじゃない。 しょくがなく、ない。 大体さ、水野さんだったら生理痛の症状とか生理前のケアとか、そういうの、知識として持ってるはずだろ。 うるさくて、やすめない。 はいはい、うるさくてごめんなさいね。 ……。 はぁ。本当に、なぁ。 ……きのさん。 なに。 何か食べたいのとか、飲みたいのがあったら言って。 ……コー だめ、却下。 ……。 カフェインは、だめ。 ……ヨーグルト。 うん、なに? ……ヨーグルトがたべたい。 ヨーグルト……ヨーグルトか。 うん、良いね! はぁ……。 そうだ、バナナは? バナナは食べられそう? ……すこし、なら。 よし!じゃあ、ホットバナナヨーグルトにしよう! さっすが、水野さん! ……なにが? ヨーグルトって言ってくれたから。 ……いみがわからないわ。 すぐに作るね。 バナナ、買っておいて良かった。 ……。 ん~~~。 ……へんな、ひと。 なんか言ったかい? ……べつに。 そ? へんなひとって、いっただけ。 うん? ……。 水野さん、ミントは大丈夫? はちみつは? ……どっちも、だいじょうぶ。 ん、分かった。 ……ほんと、へんなひと。 あ、また変な人って言ったな。 いってないわ。 ま、変なひとでもしょうがないひとでも、別に良いけど。 ……いいのね。 憎まれ口を叩ける元気があって良かったってことだよ。 ……。 よし、出来た。 おまたせ、水野さん。 ……。 躰、起こせるかい? ……てつだって。 お、素直だ。 これいじょう、うるさくいわれたくないだけよ。 ははは。 ……はやく。 はいはい、今すぐに。 ……。 て、完全に躰あずけてない? ……わるい? ううん、悪くないよ。 ……にやにやしてる。 緩むなって言う方が、無理。 ……あ、そ。 じゃ、ここに寄りかかって……支え、いる? ……そこまでひどくない。 そ。 だけど、ささえて。 はいはい……え? ……。 あー、えと……こんな感じで良い? ……あんまりにやにやしないで。 うん……ちょっと、無理。 ……。 ……食べられそう? こういうの……はじめて、だわ。 初めて? ……たべたこと、ない。 ……。 あったかいわ……。 ……そんなに熱くしてないから、食べやすいと思うんだ。 うん……。 ……どう? …………おいしい、わ。 ん……良かった。 ……。 ゆっくり、食べて……残しても、良いから。 ……きのさんって。 ん……? ……へんな、ひとね。 はいはい、ごめんね……変なひとで。 ……。 ……食べたら、 すきよ。 ……。 ……へんなあなたが、すき。 だったら……へんでも、いいかな。 ……。 ……食べ終わったら、少し眠った方が良いよ。 ん……。 ……なんだったら、一緒にいるけど。 ……。 いや……そこまでは、要らないか。 ……いて。 ん……? ……いっしょに、いて。 うん……分かった。 ……。 ……。 (……寝てる) う……。 (間抜けな、顔……戦士だとは、到底、思えない) ……。 (それを言うのなら……私も、ね。自覚なんて、まるでないもの……) ……。 腕……あとで痺れたなんて泣き言を言うことになっても、知らない。 ずらしてなんか……絶対に、してあげないわ。 ……。 はぁ……。 ……。 (……天井が、低い。部屋は狭いのに……緑、ばかり。 きのさんのにおいに、満ちていて……居心地が、良くて……自分の部屋よりもずっと、落ち着く場所。 ここで、一緒に……暮らすことが、出来たなら) ……ぅ。 ねぇ……? あなたは本当に変なひとね……私みたいな女を、好きになるなんて。 ……。 同性だからなんて野暮なことは、この際、言わないけれど……どうせ惚れるのなら、もう少し、まともな女を好きになれば良いのに。 堅物で詰まらなくて、口を開けば可愛げないのことばかり吐いて、甘やかされても尚、素直になることが出来ない。 強情で、頑固で、そのくせ、淋しがりで……プライドが無駄に高いのは、自己肯定感が低いから。 本当、面倒なところしか、見つからない。 ……。 顔色は良くないし、からだはやせっぽっち、肌はろくに手入れをしていないから、きれいとは言えないだろうし……。 食事は平気で抜くし、睡眠もロクに取らないし、莫迦の一つ覚えみたいに勉強ばかり優先した結果が、この体らく……。 言うことは聞かないし、意地っ張りで、どこまで行っても可愛くなくて……あなたのテストの結果だって、本当は、嬉しかったのに。 ……。 ……本当、嫌になる。 ……。 私の何処に、魅力があると言うのかしら……私は、私のことが、嫌いなのに。 ……。 物好き、蓼食う虫も好き好き、面面の楊貴妃、There is no accounting for taste......Des einen Eule ist des anderen Nachtigall....... Des gouts et couleurs on ne discute pas.......De gustos no hay nada escrito, o no se ha escrito......Tutti i gusti sono gusti...... ……。 Die Katze läßt das Mausen nicht.(生まれついた性質は変わらない)...... ……あの、水野さん。 ……。 色んな言葉、知ってるね……? ……いつから? 水野さんが、あたしの腕にしっかりと、からだを委ね直してくれた時からかな……。 ……。 うん……ちょっと、痛い。 ……無駄な肉なんて、ついてないくせに。 いや、だからこそ、とも言う……。 ……。 顔色、少し良くなったね。 ……見えないから、知らない。 さっきよりかは、ずっと、良いよ。 手も……足も、あったかくなってる。 ……きのさんの体温がうつっただけよ。 やっぱりさ、食事と睡眠と休息は大事だってことだよ。 ん……ちょっと。 水野さんは、可愛いね……。 どこが、よ……。 全部……かな。 ……かわいいところなんて、ひとつも。 そういうところも、かわいい。 あなた、は……ん。 ……。 ……きの、さん。 ……。 きょう、は……。 ……流石に、しないよ。 だった、ら……、ん……。 ね……水野さんが自分のこと、嫌いだと言うのなら。 その分、あたしが水野さんのことを好きになるよ……。 なによ、それ……。 好きなように、取れば良いよ……それが多分、一番正解に近いと思うから。 もう、やめて……撫でない、で。 ……ねぇ、水野さん。 な、に……。 ……好きだよ。 ……。 水野さんのこと……誰よりも、好きだよ。 ……しっ、てる。 何度だって、言うんだ……そうだな、一生、言い続けるかも。 ずっと一緒にいるなら、生きるなら……伝えるのを止めては、いけない。 ……それ、は。 ん……両親の教え、かな。 あたしの父さんと母さんはこどものあたしが見ても、仲が良くてね……。 ……。 一緒にいるってのは、言葉で言うより、簡単なことじゃない……。 ……それならよく、知っているわ。 ん……。 ……そもそも、私の両親は最初から間違っていた。 あのふたりは全く、合っていなかったのに……私を、生して。 その挙句に、父は私を捨て……母は、私を見ようとしない。 ……お父さんとは、連絡を取っていない? ずっと、前に……最後がいつだったか、もう、思い出せない。 ……そう。 どこぞで、新しい家族を作ったとか……けど、どうせ、長続きはしない。 あのひとは、誰かの為になんて、生きられないのだから……。 ……。 ……私は、紛れもなく、あのふたりの子。 自分のことばかりで、きっと、誰かの為になんか……ん。 ……。 ……きのさん。 水野さんと、水野さんのご両親は、違うよ。 親子であっても、違う。同じじゃ、ない。そりゃ、少しは似ているかも知れないけど、全く同じにはなりえない。 だから、同じだと思い込まなくても良いんだよ。 ……。 ほら、反面教師って言うだろ? そうなりたくないって若しも水野さんが思っているのなら……違う生き方をすれば、良いんだ。 それには先ず、違う生き方をしようと思うところから始めれば良い……。 ……。 あ、これだとまるでご両親を否定してるみたいだね……ごめん。 ……きのさんの、お父さんとお母さんは。 うん……? ……きっと、あなたに良く似ているんでしょうね。 そうかな……自分では、分からないけど。 ……あって、みたかった。 会えるよ。 ……。 と言っても、姿は見えないし、話も出来ないけど。 会うことなら、出来るよ。 ……どういうこと? 今度、お墓参りに行こうと思ってるんだ。 水野さんも、来る? ……。 その……紹介、したいし。 ……ふ。 え、笑うとこ? ……行くわ。 え。 いつ、行くの? えと、ね……。 決めてないの? いや、今度の月命日にって思ってるんだけど……それが、次の土曜なんだ。 土曜……学校の、終わりに? うん……水野さんは塾だよね。 ……。 来る? なんて言ったけど、次は 行くわ。 ……え。 土曜の夜は、泊まっても良い? い、良いけど! けど、なぁに? 良いよ! ん……じゃあ、決まりね。 けど、塾は 聞かなくても、答えは分かっているのでしょう? ……。 ……体調は、ちゃんと整えておくから。 ん……みずのさん。 ね……キス、して。 ……。 ……キスだけ、だけど。 うん、喜んで……。 ……ん。 ……。 ……あまい、わ。 もう少し、眠るかい……? ……そばに、いてくれる? もちろん……。 ……うで、しびれてもしらないわよ? 最近、痺れないコツを掴んできたような……そんな気も、しなくもない。 ふふ……なによ、それ。 はは……ま、そん時はそん時だよ。 ……ほんと、へんなひと。 でも、そんなあたしのことが……好きなんだろ? ……ええ、すきよ。 ……。 だいすき……。 ……うん。 ……。 ……おやすみ、水野さ ……! ……くそ、なんてタイミングだよ。 きのさん、 水野さんは来なくて良いよ。 そんなわけには、 そんな躰では戦えない。 ……けど。 大丈夫、ちゃんと帰ってくるよ。 けど、 帰ってきたら……続きを、しよう。 いやよ、わたしもいく。 だめだよ。 だめといわれたって、 来るな。 わたしは、マーキュリーよ。 それが? わたしには、ブレーンとしてのやくわりが 頭が回れば、ね。 ……。 まともに動けない、頭も回らない……今の水野さんはただの足手纏いだ。 ……それでも、わたしはあなたを。 分かってるよ。 だったら……。 ……ごめんね、水野さん。 あ……。 行ってくる。 まって。 ……。 まって、まって、きのさん……。 ……あぁ、そうだ。 帰ってきたら、さ……。 わたし、も……、 おかえりって、言って欲しいな。 ……っ。 じゃ、今度こそ行ってきます。 ……い、や。 必ず、帰ってくるから。 いや……いや……おいて、いかないで……。 ……。 きのさ、ん……、……。 ……。 ……ふ、ぁ……ん、んぅ……。 ……。 ……まこ、 みずのさん。 ……。 ……必ず、帰ってくるから。 待っていて、欲しい……。 …………。 ……みずのさんが、待っていてくれるなら。 あたしは、きっと、帰ってこられるから……。 手を取って、躰を抱いて。 死なせたくないと、然う、思ったのです。 -WILL(前世) うつろいゆく季節を、越えて。 未だ見ぬ何処かで、声は響く。 ……虫の声って、存外五月蠅いものなんだな。 ジュピター。 ん、おかえり。 ただいま。 さっぱりした? ええ、おかげさまで。 貴女は眠っていたの? いや、転がってただけ。 そ。 だからって、気を抜いていたわけじゃないよ。 ……知ってる。 ね……今日はもう、終わり? 一応、は。 そ……じゃ、こっちに。 それは出来ない。 どうして? 今日の公務は、終わったんだろ? 終わっても、終わっていない。 夜ぐらい、自由はないものなのかね。 ないわね。 ふたりで散歩に行くのは? マーキュリーを抱き締められないのなら、せめてそれくらいは許されたって良いと思うんだけど。 貴女が何故、この場所に居るのか。何を為す為に居るのか。 それを今一度、考えて。 退屈で息が詰まりそうだよ。 いい加減、慣れて……初めてでは、ないのだから。 慣れそうにないなぁ。 これ。 ん……なに、これ。 彼方からの書状。 こういうのはマーキュリーの 個人的な、ね。 は? どうやら、気に入られたみたいよ。 ちょっと待って。 どうして然うなるんだ。 さぁ? 目を通すか通さないかは、貴女の判断に任せるわ。 見ない、処分しておいて。 良いの? 退屈で息が詰まりそうなのでしょう? ならば、詰まった方が良い。 ……然う。 はぁ……マーキュリーを、抱き締めたい。 ……月に帰ったら、ね。 帰ったら、か……。 ……仇討ちをすると、酷く息巻いていたそうよ。 仇討ち……? ……貴女、今日の手合せで先方の腕を圧し折ったでしょう。 んー……。 ……まぁ、首でなかっただけマシだけれど。 雷気も抑えたよ。 ……見てて、分かった。 仇討ちをされる謂れなんて、何処にもないなぁ。 命を取ったわけでもないのに、さ。 面白くなかったみたいね。 己等の隊長が容易く地べたに這い蹲ることになったのが。 そんなの、あたしのせいじゃないよ。 そもそも、得物を抜いたのは向こうが先じゃないか。 であるならば、仮令命を取られたとしても文句は言えないってことだろ。 然うね。 それに……ええ、と。 どうしてもと、言ったのは向こう。 此方は、仕方なく受けただけ。 然う、あたしはやる気なんて更々なかったんだ。 あたしは、あくまでも、マーキュリーに付いてきただけ。 で、仕方なく応じてやったら結果が気に喰わないって、勝手も良いところだろう。 曰く、沽券に関わるそうよ。 は、なんだそれ。 相手が四天王のひとりでなかったら、或いは此処までの騒ぎにはならなかったのでしょうけど。 え、あれ、してんのー? の、ひとりだったの? ええ、然うよ。 なんだ、一個小隊ぐらいの隊長だと思ってた。 まぁ、見たところ未だ年若いし。 血気だけは、 ところで、してんのーって何? ……プリンス直属の従者、よ。 余計だめだろ。弱すぎる。 あれじゃ、話にならない。 月の、それも四守護神のひとりを雄々しく打ち倒す様が見たかったのでしょうけど。 此方としては、三十年やそこらしか生きていない者に……。 ん、マーキュリー……。 ……簡単に打ち倒されて貰っては、困るの。 いいにおい……。 ……因みに貴女に書状を送ったのは、腕を圧し折られた本人。 ……。 ……ふふ、変な顔。 それ、言わなくても良くない……? ……一応、伝えておこうと思って。 良いよ、別に……知りたいなんて、ひとつも思ってないんだから。 ふふ……。 ……面白がってるだろ。 いいえ……信じているだけ、よ。 ……。 ……本当、首でなくて良かったわ。 余計、面倒なことになっていたもの……。 雷気も、抑えたんだよ……。 ……えぇ、知ってるわ。 ご褒美、呉れる……? ……帰ったら、ね。 今は……? ……今は、だめ。 少しだけ、でも……じゃなきゃ、暴れてしまいそうだよ。 ……未だ、そこまでじゃないでしょう? いや、それが……手合せの影響が、ないわけじゃない。 ……本当に? いや、それがさ。 相手が、あまりにも話にならなかったものだから……無駄に熱が残ってる状態、で。 ……つまり、物足りなかったのね。 かなり。 ……。 どうしてもって言うのなら、もっと歯応えがある奴を出して欲しかった。 いっそのこと、あの場に居る全員とやっても良かったくらいだよ。 然うすれば、雷気を燻らせることもなかっただろうに。 ……失敗したわ。 躰の中で、雷気共がバチバチと五月蠅いんだ……早く、暴れさせろってさ。 ……帰るまで、我慢出来そうにないの。 出来ないわけでもないけど……そこまで我慢したら、丸一日は吹っ飛ぶことになるよ。 ……嘘でしょう。 だから、然うならない為に……む。 ……。 部屋、一緒にして貰ったんだから……少しぐらいは、さ。 こうなるかも知れないって……想定ぐらいは、してただろ……。 ん……ジュピター。 ……しつこくは、しないよ。 だからって、軽く扱うことも絶対にしないけど……。 警護の者が、 ……見張りだろ、ただの。 分かっているのなら、 ……少しの間だけ、眠ってて貰おうか。 これ以上、面倒事を、増やさないで……。 ……マーキュリー。 本当に、だめ……。 ……。 ……ジュピター。 はぁ……やっぱり、だめかぁ……。 ……帰ったら、ちゃんと応じるから。 丸一日……? それは、流石に……だけど、どうしてもと言うのなら仕方がないわ。 務めで、通す? ……えぇ、そのつもり。 ふふ……じゃ、楽しみにしてるね。 ん……然うして。 ……マーキュリーも。 私は……。 ……。 ……しょうがないひと、ね。 へへ……。 ……もう、休む? ん、どうしようかな……。 慣れない場所だからって眠れないなんてこと、貴女にはないでしょう? 然うなんだけど……もう少し、マーキュリーと話がしたい。 話、ね……それじゃあ、聞かせて貰っても良いかしら。 良いけど……マーキュリーからも話してね。 ええ……分かってるわ。 んー……。 ……視察と言う名目で。 うん? 市井を見て回ってきたのでしょう? 感想を聞かせて欲しいわ……憶えている限りで、良いから。 んー……然うだなぁ。 ……。 ひとが、売られていたよ。 ひとが? 貴女、何処に行ったの。 遊里って呼ばれてる場所。 ……。 檻みたいな所に入れられた「女」が、通り掛かる「男」に愛想を振り撒いてた。 ……そんな場所に、何をしに行ったの。 見物。 見物って。 行ったことがない所にって思いながら歩いてたら、たまたま着いた。 此処からそんなに離れた場所じゃなかったんだよ。 だからって遊里に四守護神のひとりが見物って、何をしているのよ……。 ねぇ、マーキュリー。 青い星のひとらって、ひとも売り物にするんだね。 ……。 檻に入れられた「女」の他に、首に木札を掛けられた「こども」や「女」も居た。「男」も、居たかな。 聞いたら、彼らも売り物で。今日食うものがないからって、家族の者やそれ以外の奴に売られるんだとか。 で、それが彼らの為でもあるんだってさ。 ……。 生きていく為に、金とか自由とかを引き換えに己を売る、売られる。 然うしなければいけないひとが、数え切れないくらい、居るんだって。 ……。 ちょっと前に貧しき者達の間で流行り病が大暴れして、沢山死んだらしい。 それから戦、と言っても辺境での小競り合いらしいのだけれど、そこでもひとが死んだ。 そのせいで今、売られるひとが増えているらしい。 ……。 どうかな、少しは参考になった? ……この星の現状を知る上で、参考になったわ。 はは、良かった。 ……だけど、ひとりでそんな場所に行かないで。 え? ……行かないで、そんな場所に。 じゃ、一緒に行こうよ。 ……。 一緒なら、良いだろ……? ……機会があれば、ね。 ん、分かった。 ……。 ん、マーキュリー? ……湯浴みは、したの。 うん、戻ってきて直ぐにしたよ。 におい、しないだろ? ……。 ……マーキュリーがいやかなって、思って。 ……。 あの檻の中に入れられた「女」が何をさせられているかぐらい、あたしにだって、分かるよ。 ……ばか。 ねぇ、マーキュリー……。 なに……。 ……「富める者」と「貧しき者」が、この星には居るんだね。 それで、生き方に違いが出てしまう……。 ……。 星は、こんなに、きれいなのに……。 ……あなたに書状を送ったひと、ね。 うん……? ……妻がもう、居るそうよ。 ……。 力や金がある「男」は、それらに見合った分だけ、気に入った「女」や「男」を「囲う」慣習があるらしいのだけれど。 ……かこうって? 肉体関係に留まらず、金銭的な援助を行うこと……この星では、特段、珍しいことではないらしいわ。 中には進んで「囲われ者」になる者も居る……生きる為に。 ……。 そして、そのひとにも既に幾人か居るとか……。 ……は。 曰く、月の民は「男」に飢えていると……そんな話が、真しやかに囁かれているらしいわ。 ……やっぱり、首を圧し折ってやれば良かったな。 首はだめよ、命に関わるから……折るなら、腕か足にしておいて。 雷気も抑えずに、呉れてやれば良かった……命なんか、知ったものか。 ……ぁ、 然し、随分と舐められたものだな……。 ん……、だめ……。 躰が、爆ぜそうだ……。 ジュピ、……ん、ぅ。 ……。 だ、め……だめよ、シュピター……。 ……一緒に寝るだけ、だよ。 こう、む……。 だから、護衛は怠らない……。 ……そういうこと、じゃ。 とりあえず……この部屋には、近付けないようにはしとく。 ま、少し痺れるくらいかな……。 ……だか、ら。 マーキュリー……。 ……。 ねぇ、マーキュリー……やさしく、するよ……。 ……。 ……マーキュリー……。 …………、 ん、なに……。 ……ふさい、で。 ……虫の、声。 ……。 存外、五月蠅いものだと思わない……? ……貴女が気にしていることに、 ん……ふふ。 驚くわ。 ……月では、聞くことがないだろ。 月には居ない、ん……し。 ……この星は、いつ来ても賑やかだ。 冬ならば……此処までは、賑やかではないわ。 地域にも拠るけれど……此処は、冬になれば雪に覆われるから。 ふゆ? 季節のひとつ……月には、ないもの。 雪は冬になると空から降ってくる、白くて冷たいもの。 然うだ……こどもの頃、然うマーキュリーに教わったっけ。 なんにせよ……賑やかなのは、それだけ、在来種が多いと言うことね……。 ……虫だけじゃない、花や木、風、水、何かしらの音がする。 静かな時が、ほぼほぼ、ない……。 落ち着かない……? いや……それが、然うでもない。 嫌いでは、ないんだ。 然う……。 ……マーキュリーは? 私は、然うね……嫌いでは、ないけれど。 けれど? 騒がしいとは、思うわ。日中は夜と違って、ひとびとの生活音もするし。 特にひとびとが多く集まる場所は喧騒で溢れていて、手のひらで耳を塞いでも響いてくるから出来れば近付きたくない。 マーキュリーは何方かと言うと、静かな場所の方が好きだよね。 だって、その方が落ち着くもの。 今日、散歩したところも騒がしかったっけ。 怒号、猫撫で声、悲鳴、泣き声、高笑い、喚き声、嬌声……ん。 ……。 マーキュリー……? ……。 ……もう、ひとりでは行かないよ。 ……。 マーキュリー、可愛い……。 ……ばか。 ふふ……。 ……なによ。 いや、マーキュリーが目をぎゅっと瞑って、耳を塞いでる姿は可愛いだろうなぁ……て。 ……どこから、そんなこと。 ほら、耳を塞いでも響いてくるって言っただろう……? だから、ね……。 ……。 見てみたいな……。 ……見せるわけ、ない。 こどもの頃は、見せて呉れたのに。 ……もう、こどもではないもの。 今のマーキュリーでも見てみた……いや、待てよ。 目をぎゅっと瞑ってる姿だけなら、ついさっき……む。 ……ジュピター? マーキュリーはおとなになっても可愛い、な。 ……帰ったら、暫くは、応じないから。 え。 暫くは、応じない。 口付けすら、も。 そ、それは困る……。 困れば? た、溜め込んだら、それだけ、マーキュリーも大変になるよ? それでも良いの? 他のことで躰を動かして発散すれば良いでしょう。 出来ないわけでは、ないのだから。 だけど、マーキュリーとするようにはいかないよ。 然うでしょうね、私はジュピターにとって絶好の捌け口ですもの。 は、捌け口って……。 あら、違うの? 違うよ、全然、違う。 どうだが。 マーキュリー。 今回のこれは、それに近いと私は感じたのだけれど。 ……ぐ。 それでも、違うと言えるのかしら。 ……。 ジュピター? ……止められなかったのは、謝る。 で? だ、だけど、捌け口にしたわけじゃない。捌け口になんてするわけない。 言葉と躰は違うもの、然うは思わない? 言葉ではなんとでも言える、繕える。 然れど、躰は。躰は、どうかしらね? ……。 ……さっきの貴女の目、戦っている時と同じものだったわ。 愛し合っている時とは、違う色……。 ……。 ね……すっきり、したんでしょう? それで、捌け口でないなんて……本当に、言える? ……ごめん。 ……。 ごめん、マーキュ……たっ。 ……。 マ、マーキュリー? 反省、した? え……? これで、していないと言うのなら。 次は、水でも被せてあげるけれど。 あ、いや、した、すごくした、肝も冷えた……。 然う、なら良いけれど。 私達は公務中、それだけは忘れないで。 う、うん……。 じゃ、これでこの話はお仕舞い。 え、え……。 幾らかは仕方ないと思っているもの。 貴女がジュピターである限り……ね。 ……。 ……泣きそうな顔。 らんぼう、だった……? ……。 いたく、していたら……ん。 ……大丈夫、ちゃんと気持ち良かったわ。 ほ、ほんと……? ……嘘なんか、吐かない。 マーキュリー……。 ……あなたはいつだって優しいわ、ジュピター。 う、ん……。 じゃ、本当にお仕舞い。 ね。 うん、マーキュリー……。 ……。 ……もう、眠る? 疲れたでしょ……? ううん、もう少しだけ……もう少しだけ、話していても良いかしら。 うん、良いよ……マーキュリーの声、もっと聞いていたいし。 ……ありがと。 へへ……。 ……。 ……。 ……生まれて、生きて、死んでゆく。 ……? 何故かしら、此処では明確にそれを感じるの。 私達も、然うである筈なのに。 ……短命であることと、ひとの数の違いかな。 短命であるが故に、懸命に生きて、種を残そうとする。 生まれてきても、病などで死んでしまうことが多いから……兎に角、「子」を数多く生そうとする。 命を落としてしまう「子」よりも、育って呉れる「子」を多く産む為に、強い「男」の「種」を望み……その為ならば、「囲われ者」にだってなれる。 ……あたし達が数多く造られるのとは、違うのかな。 私達の場合は……石の器、だから。 然うか……然うだね。 生まれて十数年ぐらいでほとんどの「女」は「子」を産むことになる……私達では、考えられないわね。 十数年、か……想像も出来ないな。 民の間でも……ここ数百年、「出産」の報告は一度だってない。 石の器ではない彼等でさえ、「子」を産むことはない。 あたし達は、造られるもの。 わざわざ、己の躰から産み出したりしない。 ……どちらが、良いのかしらね。 うん……? 再び、私達がこの星に来る頃には……恐らく、今生きているひとびとは居なくなっているでしょう。 貴女に書状を送りつけてきた四天王の彼のひとも。 ……そいつの話は出さなくて良いよ。 ふふ、渋い顔。 折角、忘れてたのに。 ……意外に、残るかも知れないわよ? 止めて。 ……ふふ。 マーキュリー? ん、ごめんなさい。 ……あたしが憶えてるのは、憶えていたいのはマーキュリーだけだ。 分かって、ん……ジュピター。 ……面白がった、罰だよ。 もう、だめよ……? ……分かってる。 ……。 ……短命、か。 貴女はどちらが良い? 短命か、長命か? 然う。 あたしは……マーキュリーと一緒なら、短くても長くてもどっちでも良い。 マーキュリーが居ないことだけが、耐えられない……ただ、それだけ。 ……。 マーキュリーは? 私は……私も、然うね。 貴女と同じ考えだわ……。 ……ん。 ……。 もう、だめじゃなかったの……? えぇ、然うよ……だからこれ以上のことは、しないわ。 マーキュリーに煽られたら、止められなくなっちゃうよ……。 ……。 ねぇ……聞いてる? ……もう一度、だけなら。 え、良いの……? ……なんて、言うわけないでしょう? む……。 ……明日も、退屈な公務が待ってるわ。 あー……。 ねぇ……こどもの頃にした約束、憶えてる? どの約束……? ……ふたりで、来ようって。 あぁ……もちろん、憶えてるよ。 叶ったけれど……どう? 叶ったとは、言えないなぁ。 然うなの? ふたりで、自由に、たくさんの色を見て回りたい。 あの頃のあたしは然う、思っていたから。 ……なるほど。 だから叶ってないよ、未だ。 マーキュリーだって、本当は然う思ってるんだろ? ……然う、ね。 休暇の時にでも来られたら良いんだけどな……公務なんて、関係なくさ。 それは、大分難しいわ……。 だよなぁ……。 ……。 ん、なに……? ……ううん、なんでもないわ。 なんでもなくて、鼻、つまむ? ……なんとなく、可愛く見えたから。 なんだそれ……。 ……いやだった? いや、嫌じゃないよ……。 ……ん。 ねぇ、マーキュリー……。 ……なぁに。 この星の民として生まれてみたいと、思う? ……唐突、ね。 短命で、だからこそ、懸命に生きる。 今日は、然う感じることが多かったんだ。 ……。 あたし達だって懸命に生きているとは、思う。 けど、何処か……長命であるが故に、彼らの様に生にしがみ付くことは ……。 ……いや、あたし達に限っては、然うとも限らないか。 ジュピター……。 ……長命だからと言って、与えられた命の時間を全う出来るわけではないからさ。 ……。 同じ花は二度と咲かずとも、実を結び、命を紡いでいく。 それが、生。 ……それは? 顔が皺苦茶な「女」が然う、歌ってたんだ。 顔が皺苦茶な? 顔が、こう、皺苦茶なんだ。いや、顔だけじゃなかったな。 首も、手も、見える所はみんな皺だらけだった。あんなひと、見たことない。 ……それは屹度、「老婆」と呼ばれる者だわ。 ろうば? この星の民は歳を重ねていくと、身体的特徴として肌に皺が現れるようになるの。 いえ、歳を重ねれば重ねる程に刻まれていくと言った方が正しいのかしら……。 皺……あたし達で言う、ひびみたいなもの? 然うね……然うかも。 だけれど、そこまで生きるのは……この星では、難しいことだわ。 生きて五十年……それまでに、病や戦、天災、飢饉……様々な理由で、命を落としてゆくから。 ……。 貴女の問いの答え、なのだけれど。 ……うん。 貴女と一緒ならば、この星の民として生まれてみても面白いかも知れない。 生きるのは、大変だけれど……それは何処で生まれても、変わらないものだろうから。 ……本当に? 叶うことは、ないけれど……いえ、ないからこそ、然う思うのかも知れないわね。 ……。 貴女は……? ……あたしは。 ……。 マーキュリーと一緒なら、生まれてみたい。 ……然う言うと思った。 ね、若しも然うなったら名前はどうなるんだろう? 名前? 同じじゃないだろう? あぁ、然うよね……確かに、然うだわ。 どんなだと思う? この星の名前になるのだろうけど……ちょっと、分からないわね。 マーキュリーでも分からないこと、あるんだ。 悪いかしら? んーん、悪くない。 ……。 へへ……やっぱり、いいにおい。 ……そろそろ、眠りましょうか。 このまま……? ……今更、移る気なんてしないもの。 そっか……じゃ、このままで。 ……部屋。 ん……? ……一緒にして、良かった。 だろ……? ……外のひとは? そろそろ起きるんじゃないかな……多分。 ……そ。 面倒事に、なる? ……居眠りは頂けない、ただ、それだけのこと。 ん、そっか。 寧ろ、貴女に面倒事が……、 ……。 ……ん、……ん……。 ……。 ……ジュピター。 マーキュリー。 ふふ……もぅ、言わないわ……。 遠い日に交わした、約束は。 生まれ変わっても、絶やすことはなく。 後 |