-Ember(現世1)





    ……躰、冷やすわよ。


   ん……。


   ……眠れないの?


   んー……まぁ、そんなとこ。


   ……。


   もう少しこうしているよ。
   亜美ちゃんは先に


   ここにいるわ。


   ……。


   ……あなたと。


   そっか。


   ……迷惑じゃない?


   まさか。


   ……。


   迷惑じゃ、ないよ。


   ……これを。


   うん?


   躰を、冷やしてしまわないように。


   あぁ、ありがと。
   それじゃ、亜美ちゃんと。


   私は


   いいから、ふたりでくるまろ。
   ふたりの方があったかいだろ?


   ……うん。


   うん、あったかい。


   ……まこちゃんは少し、冷たいわ。


   あ、ごめんよ。
   となると、もう一枚持ってきた方が


   でも、大丈夫……私が、あたためてあげるわ。


   お……。


   えと……いつも、あたためて貰ってるから。


   恥ずかしくなっちゃった?


   ……。


   ふふ……それじゃ、お言葉に甘えて。


   ……慣れないことは、言うものじゃないわね。


   たまには良いと思うけどなぁ。
   とっても、嬉しいし。


   ……。


   はは。


   ……看病なら、幾らでもするけれど。


   ……。


   苦しい思いは、して欲しくない。


   ……味覚が無くなるのって、地味にしんどいんだよなぁ。


   問題はそこなのね。


   ま、高熱もしんどいけどね。
   眠れないし、折角眠れても怖い夢を見たりするし。


   ……何を考えていたの。


   特段、何も……ただ、ぼんやりしてた。


   ぼんやり……ね。


   どうやっても眠れない時はベッドから離れるのもひとつの手、なんだってさ。


   脳が眠れない場所と記憶してしまうから。


   そう、それ。


   ……声、掛けて呉れれば良かったのに。


   こんなことに、亜美ちゃんを付き合わせるわけにはいかないよ。


   ……。


   うわ。


   ……あなたが隣に居ないことの方が、いや。


   ……。


   ……いやなの。


   そんなに?


   ……。


   そんなに、あたしがいないと……いや?


   ……然う、言った。


   ふふ……。


   ……いじわる。


   え、どうして?


   ……分かってて、言ってるんでしょう。


   然うでもないよ。


   ……嘘吐き。


   分かっていたら、不安になることもないのに。


   ……。


   ……。


   ……まこちゃ


   この町ってさ、ずっと、明るいよね。


   ……然うね。


   こんなに明るかったら、星も見えないよ。


   ……星が、見たいの?


   眠れない時は星を見てた。


   ……。


   お父さんとお母さんが居る場所。
   聞いた事ない?ひとは死んだら星になるって。


   ……あるわ。


   あたしのお父さんとお母さんは木星に居るのかな。
   なんて、今だったら思ったりするよ。


   ……然うだったら、素敵ね。


   然うだねぇ。


   ……。


   ねぇ、水星と木星ってどれくらい離れているのかな。
   すごく遠いのかな。


   ……近くは、ないわ。


   太陽から水金地火木、だっけ?


   えぇ、然うよ。


   太陽に一番近い水星は暑そうだね。


   昼間の温度は赤道部分で最高430度に達すると言われているわ。
   温度を和らげてくれる、大気や海がないから。


   うん、暑いどころじゃなかった。


   けれど、夜はマイナス160度。


   寒暖差とかって言う話じゃない。


   ふふ、然うでしょう?


   あれ、面白かった?


   ええ、まこちゃんの反応がね。


   ふぅん、まぁいいけど。


   ……木星と水星が接近しているように見える時間があるのは知ってる?


   いや、知らない。
   それはいつ?


   今年だったのだけれど、残念ながら、もう過ぎてしまったわ。


   えぇ、残念だなぁ。
   次はいつ?


   来年……だけど、見るのは難しいわ。


   どうしてだい?


   太陽に近過ぎるの。


   全く見ることは出来ない?


   ……運が良ければ午前中の北東、地平線の低い場所に。


   そっか、じゃあ一緒に見ようよ。


   良いけれど……見られる可能性はかなり低いわよ?


   それでも良いよ。


   ……。


   亜美ちゃんとふたりで見たいと思うんだ。
   仮令、見られなかったとしても。


   ……。


   約束、して呉れる?


   ……うん、良いわ。


   ん、楽しみ。


   ……忘れないでね。


   もちろん、忘れないよ。


   ……。


   水星と木星の接近、かぁ。


   ……分かってるとは、思うけれど。


   ん?


   星同士が接近するわけではないの。
   あくまでも、この星からだと然う見えると言うだけの話。


   あー……うん、分かってるよ?


   ……。


   まぁ、それはそれとして。
   星同士が近付く時だってあるだろ?なんだっけ、公転?それの関係で。


   ……あるには、あるけれど。


   水星の公転はすごく速いんだっけ。
   で、木星はゆっくり。


   木星の公転周期は11.86年で、水星は約88日。


   それじゃあ近付けるのは、ほぼ一瞬、かなぁ。


   ……。


   ん……亜美ちゃん?


   ……私達は、違うわ。


   ……。


   ……。


   ……然うだね。


   ……。


   ね、初めての時のこと、憶えてる?


   ……いきなり、なに。


   いや、なんとなく。


   ……なんとなくで話すことじゃない。


   ん、ごめん。


   ……忘れるわけ、ない。


   ん。


   ……まこちゃんは、


   忘れるわけ、ない。


   ……。


   あの時の亜美ちゃんは初々しくてかわいか……痛い。


   ……まこちゃん。


   いや、今もとってもかわいいよ。


   然う言うことじゃない。


   あ、はい。


   ……もぅ。


   あ、あはは……。


   ……ねぇ、本当になんとなくなの。


   昼間には聞けないかなぁって。


   ……茶化さないで。


   ……。


   まこちゃん。


   ……からだは、こんなに近くにあるのに。


   ……。


   どうして、かなぁ……。


   ……だから。


   ん……?


   ……確かめ合う必要があるのよ。


   ……。


   ねぇ、まこちゃん……ん。


   ……ベッドに、戻ろうか。


   もう、良いの……?


   ……眠くは、ないんだけど。


   なら……。


   ……分かってるくせに。


   ううん、分からないわ……。


   ……。


   ……分からないの。


   じゃあ、分からせてあげるよ。
   一晩かけて……ね。


   ……。


   ……連れて行って、あげる。


   ねぇ……。


   ……いやなら、今のうちに。


   いやじゃ、ないわ……。


   ……然う?


   それより、も。


   ……。


   ……次、目が覚めた時は。


   ……。


   ……隣に、居て。


   …………ん、分かった。


   ……。


   ……約束、するよ。


   ちゃんと、守ってね……。


   うん……ちゃんと守るよ。


   ……。


   ……もう一度、聞くけど。


   いやじゃ、ないわ。


   ……じゃ、遠慮なく。


   は、ぁ……。


   ……きれいだね。


   まこちゃん、も……。


   ……ありがと。


   ね、ぇ……。


   ……愛してるよ、亜美ちゃん。


   ……。


   このからだが、滅んで……石だけに、なっても。


   ……わたし、も。


   ……。


   まこちゃん……。


   ……ここから、先は。


   あ……ぁ……。


   からだで、話そうか……。


   ……う、ん。








  -You are the one.(現世2)





   うさぎちゃんと美奈子ちゃんは高校生活でもずっと補習を受けるつもりなのかなぁ。
   もう少しやる気を出せばなんとかなると思うんだけど。


   ……。


   衛さんのお嫁さんになるから、アイドルになるからって言うけど。
   ある程度はしておいた方がいいと思うんだよねぇ。
   今のところは戦いもなくて、落ち着いているし。


   ……。


   特にうさぎちゃんは……未来のクイーンからの手紙、平仮名ばっかりだったろ?
   間違いもあったし……あれは、流石にどうかなって。


   ……。


   亜美ちゃん?


   ……え。


   どうしたの?
   ずっと黙っているけど……調子、悪い?


   ううん、平気よ。


   そう?


   ええ。


   なら、いいけど……。


   ……。


   ……ねぇ、亜美ちゃん。


   なぁに……?


   今週の土曜は、どうかな。
   うちに来られる、かな。


   ……うん、大丈夫よ。


   そ、そっか。


   ……?
   まこちゃん……?


   あ、なんでもないよ。
   ちょっと緊張してただけ。


   ……緊張?


   あ。


   ……まこちゃん?


   な、なんでかなぁ。
   亜美ちゃんがうちに来るのなんて今更、なのにね?


   ……。


   恋人同士になったからかなぁ、なんて。


   ……。


   あ、いや、と、特に深い意味はないんだ。
   あ、あたしってば何言ってるのかなぁ。
   は、はは。


   ……。


   え、えと、じゃあさ、帰りに一緒に買い物しようよ。
   それで夕飯を決めよう。


   ……ええ。


   えと、お泊まりは……。


   ……してもいい?


   も、もちろん。
   じゃあ、朝ごはんも考えないと。


   ……。


   あの、食べたいものがあったら遠慮せずに言ってね。
   なんでも良いは、なし、だから。


   ……。


   塾が終わる頃に迎えに行くよ。


   ……塾、今週の土曜日はないの。


   え、そうなの?


   ええ……だから、お買い物をしたらそのまままこちゃんのお部屋に行けるわ。


   やった!


   ……。


   ……でもお勉強タイム、かな。


   ふふ……もちろん。


   ですよね。


   ……。


   そのまま来られると言うことはお昼も考えなきゃね。
   ね、食後のデザートは何がいいかな?
   折角だし、張り切って作っちゃうよ。


   ……。


   食べたいの、なんでも言ってね。
   あんみつでも、なんでも、亜美ちゃんが好きなの。


   ん……いつもありがとう、まこちゃん。


   へへ、どういたしまして。


   ……。


   楽しみだなぁ、土曜日。


   ……ねぇ、まこちゃん。


   ん、なんだい?


   土曜のこと、なんだけれど。


   あ、やっぱり、無理そう……?


   ううん、そうじゃないの。
   あの、ね……。


   う、うん。


   ……うちに、来ない?


   え。


   い、いつもまこちゃんのお部屋にお邪魔してばかりだから、たまにはうちで……と、思ったの。


   お、お邪魔なんて……あたしは亜美ちゃんが来てくれるのが嬉しくて、だから気にしなくてもいいんだよ。


   ……うちは、いや?


   い、いやでは、ないけど……。


   ……けど?


   いいの?


   ……心配しないで、母はいないから。


   あ、うん、そっか……じゃ、なくて。


   ……。


   いなくても、その……。


   ……ごめんなさい。


   え、なにが。


   ……いや、よね。


   そ、そんなことない、嬉しいよ。
   亜美ちゃんちにお泊まりなんて、考えただけでどきどきしちゃうよ。


   ……。


   あ、や、どきどきってのは、その慣れてないから、と言うか。
   ほら、いつもはみんなでお邪魔するだろ?
   あたしだけの時もあるけど、お泊まりはしたこと、ないし。


   ……。


   あ、お泊まりはなし、かな。


   ……ううん、泊まって。


   い、いい、の?


   どうして?


   うちは一人暮らしだけど……亜美ちゃんちは、お母さんがいるだろう?


   土曜はいないわ。


   でも日曜になったら帰ってくるだろ?


   母は金曜から一週間、いないの。
   だから気にしないで。


   え、一週間も?


   学会なの。


   一週間もかい?


   珍しいことではないから。


   その間、亜美ちゃんは


   ええ、ひとりよ。


   ……。


   大丈夫、慣れているから。


   亜美ちゃん……。


   だから……気にしないで、ね?


   ……。


   まこちゃん……。


   ……。


   ……やっぱり、いや?


   そんなことないよ。


   じゃあ……。


   なんて言うかな、亜美ちゃんちはお母さんとふたりで暮らしてる場所だから。
   いないとは言え、そんなところにあたしが入ってもいいのかな……て。


   ……。


   え、ええと……本音を言えばお邪魔したいし、その泊まってもみたい……。


   ……じゃあ、来てくれる?


   う、うん……。


   いやなら、


   いやじゃない、行きたい。


   ……無理してる?


   し、してない、全くしてない。


   ……本当に?


   ほ、本当だよ。


   ……。


   亜美ちゃんちに行ってもいい?


   ……うん、来てくれると嬉しいわ。


   じゃあ、お邪魔致します……。


   ……。


   ……やば、今から緊張してきた。


   私の気持ち、分かった……?


   ……え?


   まこちゃんのお部屋にお泊まりしに行く、私の気持ち。


   …………。


   ……分かった?


   うん……かなり。


   ふふ……良かった。


   ま、まさか、その為に?


   ううん、その為だけじゃないわ。
   でも。


   ……でも。


   誘う方も同じように緊張するものなのね。


   ……。


   ……知らなかったわ。


   あ、亜美ちゃん。


   ……なに?


   た、楽しみだね。


   ん……そうね。


   ……今からこんなんでどうする、まこと。


   え、なぁに?


   な、なんでもないよ?


   そう?


   うん、楽しみで落ち着かないだけ。


   ……遠足前の小学生?


   かも。


   ふふ……まこちゃんったら。


   あ、あはは。


   ……でも、うれしい。


   ……。


   まこちゃんが、来てくれて……本当に、嬉しい。


   ねぇ、亜美ちゃん。
   これはちょっとした提案なんだけど。


   なぁに?


   良かったら、お母さんがいない間、うちに……。


   それは出来ないわ。


   あ、だよね……うん、そりゃそうだ。


   ……そこまで、甘えるなんて。


   甘えてよ。


   ……。


   甘えて欲しいんだ。


   まこちゃん……。


   うちにおいでよ、亜美ちゃん。


   ……けど、


   来たい?それとも来たくない?


   ……そんな、の。


   どっちかで答えて。


   ……ずるい、わ。


   そうだよ、あたしはずるいんだ。


   ……。


   それに。


   ……。


   ……将来は、一緒に、暮らせたらって。


   ……。


   と、ともかく。
   あたしは亜美ちゃんに来て欲しいんだ。
   甘えて欲しいんだよ。


   ……。


   ど、どうかな。


   ……嘘は、吐けないわ。


   え……?


   ……行きたくないなんて、言えない。


   じゃあ。


   だけど……。


   ……おいでよ、亜美ちゃん。


   ……。


   ふたりで、過ごそう?


   ……かんがえ、させて。


   ……。


   今は……それで。


   ……うん、分かった。


   ごめんなさい……まこちゃん。


   ううん、こっちこそごめんね。


   ……。


   時間はまだあるし、その、ゆっくり考えてみてよ。


   …………うん。








   …………。


   ………まこちゃん?


   ……!


   なに、してるの……?


   ……。


   まこちゃん……?


   あ……いや、月がきれいだなと思って。


   月……?


   うん……亜美ちゃんも、見てみる?


   ……いいえ、いいわ。


   そ、そう。


   ……落ち着かない?


   ……。


   落ち着かない、のね。


   ……そんなこと、ないよ。


   お勉強している間も、どこか上の空だったわ。


   ……。


   ごめんなさい……私のせい、よね。


   それは違うよ。


   私が、我儘を言ったから。


   亜美ちゃんのせいじゃない、これはあたしの問題なんだ。
   それにあたしはちゃんと言ったろ。亜美ちゃんちに行きたいって。


   でも


   亜美ちゃん。


   ……何か、飲む?


   ん……貰おうかな。


   じゃあ、待ってて。


   ありがとう、手伝うよ。


   ……ううん、手伝って貰う程じゃないから。


   動いてた方が、落ち着くんだ。
   だから、


   お願い、やらせて。


   ……。


   ……お願い。


   うん……分かった。


   ……。


   あ、あのさ、亜美ちゃんちのキッチン、きれいで使いやすかったよ。


   ……私達ふたりではあまり使うことがないから、汚れないのよ。


   埃ひとつ、なかった。
   ちゃんとお手入れしてる証拠だよ。


   ……まこちゃんが来てくれるから、お掃除しただけ。
   いつもはそんなにきれいではないわ。


   それでも


   お手入れなんて、してないもの。
   母も……私も。


   ……。


   ……まこちゃんに大事に使ってもらえて、きっと、喜んでいるわ。


   キッチンが?


   ……ええ。


   そう、かな……。


   ……そうよ。


   亜美ちゃんがそんな風に言うなんて……珍しいね。


   ……きっと、まこちゃんの影響。


   あたしの……。


   ……自覚している以上に、影響を受けているんだわ。


   えと……なんか、ごめん。


   どうして謝るの?
   私は、嬉しいのに。


   そ、そうなの?


   ……まこちゃんの影響じゃなかったら、嬉しいなんて、思わないわ。


   ……。


   ……。


   ……そう、言えばさ。


   なぁに……?


   うさぎちゃんが、変なことを言ってきたんだ。
   亜美ちゃんとあたしがなんとなく似てきたって。


   ……そう。


   そ、そしたらね、美奈子ちゃんまで変なことを言い出したんだよ。


   なんて?


   ふたりは元々、似てたって。
   それがより、近くなっただけだって。
   特に……。


   ……。


   亜美ちゃんがあたしの影響を、その、良い意味で……受けてるって。
   そ、その時は何言ってんだろこいつと思ったんだけど……。


   ……私達のリーダーはよく見ているわね。


   ほ、本当にそうなの……かな。


   ……ええ、本当にそうなの。


   ……。


   美奈子ちゃんは言ったんでしょう……良い意味でって。


   ……うん。


   そんな顔、しないで……?


   ……けど、それが悪いものだったら。


   悪いものって?
   例えば、なぁに?


   ……。


   ね……自信、持って?


   ……だけど、己惚れてしまいそうで。


   良いじゃない……己惚れても。


   ……。


   ねぇ……まこちゃん。


   ……なんだい。


   好きよ。


   ……。


   だから……本当に、嬉しいの。


   亜美ちゃん……。


   ……これからもあなたの影響を受けて、今よりももっと、あなたに近付きたいと思ってるの。


   あぁ……。


   ……うん?


   嬉しくて……顔、が。


   ふふ……にやけてる。


   あー……。


   ……ね。


   ん……。


   時々、でいいから……また、うちに来て。


   ……。


   なんて……もう、いやかしら。


   ……どうしてそうなるのさ。
   そんなわけ、ないだろ……。


   ……だって。


   だって、なんだよ。


   来てから……ずっと、落ち着かない様子なんだもの。


   だから、そんなことは


   ある、でしょう?
   現に今だって。


   あ。


   ……全然、私を見てくれないわ。


   亜美、ちゃん……。


   目が合っても、すぐに逸らされてしまう。
   ねぇ、どうして。


   そ、それは、


   ……私を、見て。


   う……。


   目を、逸らさないで……月なんか、見ないで。


   ……。


   ……私だけを見て、今だけは。


   亜美ちゃん、それ以上、は……。


   ……どうして、見てくれないの。


   見たくないわけじゃ、ないんだ……むしろ、見たい……。


   だったら。


   た、だ……。


   ……ただ、なに。


   刺激が、いつもより強くて……特に、今の亜美ちゃんは。


   ……刺激?


   お、おかしいよね……お風呂上がりの亜美ちゃんなんて、見慣れて……は、いないけど、それでも、見ているのに。
   ただ、場所が違うだけで……それ、だけなのに……どうして、こんなに……。


   まこちゃん……。


   ……気を、張ってないと、持っていかれそう、で。


   持っていかれる……て、何に?


   ……お願い、亜美ちゃん……ちょっと、離れて。


   いや。


   ……っ。


   いや……離れたく、ない。


   ……お願い、だから。


   甘えて欲しいと、言ったのは。


   う。


   ……まこちゃんじゃない。


   い、言ったけど……今、は。


   ……若しも、私が、欲しいのなら。


   お願い、だよ……亜美ちゃん……。


   私のことが欲しいと、そう、言って。


   な……。


   ……。


   亜美ちゃ……ん。


   ……好きよ、まこちゃん。


   だめ、だよ……亜美ちゃん。


   ……どうして。


   ここは、亜美ちゃんとお母さんの……だから、あたしなんか、が…………。


   まこちゃんのお部屋だったら、いいの?


   ぅ……。


   ……そうじゃないと、思うわ。


   ……。


   ねぇ、まこちゃん……今日、私の家に、誘ったのは。
   私が、そう、されたかったから。


   ……え。


   はじめては……自分の部屋が、良かったから。


   なにを、言って…。


   そう言ったら……あなたは、どう思うかしら。


   ど、どうって……。


   ……疚しい女だと、思うかしら。


   そ、そんなことは、思わないよ……すこし、びっくりは、したけど。


   ……。


   亜美ちゃん……ほんとう、に。


   何より……まこちゃんのにおいが、欲しかったの。


   あ、あたしの、におい……?


   ……そうすれば、ひとりでも淋しくないって。


   ……。


   ばかみたい、よね……自分でも、そう、思うもの……。


   ……。


   ……ごめんなさい、まこちゃん。


   あやまらないで。


   ぁ……。


   ……謝る必要なんて、ない。


   けど……困らせて、しまったわ……。


   ……困っては、いないよ。


   だけど……。


   ……ここはね、亜美ちゃんのにおいがするんだよ。


   ……。


   亜美ちゃんの部屋は、特に……当たり前、なんだけどね。


   ……まこちゃん、私。


   月がきれいですね。


   ……なつめ、そうせき?


   ん、流石……。


   ……ん、……まこ、ちゃん。


   だけど、あたしとっては、水星がきれいですね……かな。


   ……へんだわ、それだと。


   いいじゃないか、あたしにとっては……なんだから。


   …………。


   欲しいって言っても、いい……?


   ……いって、ほしい。


   のぞんでも、いい……?


   ……のぞんで、もっと。


   ……。


   ん……まこちゃん……。


   ……いやだったら、言って。


   いやじゃ、ないわ……。


   ……ベッドに着いてしまったら、止められないと思う。


   ……。


   だから……ん。


   ……はやく、つれていって。


   はぁ……。


   ……。


   ……このにおい、あたしは昔から、知ってる。


   ……?


   いつだって、このにおいに……あたしは。


   ……。


   惑わされて……或いは、焦がれて、ばかりなんだ。


   まこ、ちゃん……。


   ……亜美ちゃんが、欲しい。


   ……。


   もう、止められない……いい、ね。


   ……わたしも、ほしい。


   …………。


   ……っ、あ。


   亜美ちゃん……あみちゃん……。


   ……まこ、ちゃ……。


   ……。


   ……ずっ、と……あなたのこと、が……。








  -青い衝動(名字呼び)





   生きる、ということは徐々に生まれることである。


   サン・テグジュペリ。


   ……。


   意外かもしれないけど、あたし、読書家なんだ。


   もう知ってるわ。


   そ?


   ええ。


   確認でもされたのかと思った。


   今日も授業をさぼって図書室にいたでしょう。


   残念、今日は屋上。
   暑くもなく、寒くもなく、なかなか過ごしやすかったよ。
   まさに読書日和。


   あぁ、そう。


   面白くない?


   どうして?


   外れて。


   別に。


   水野さんも誘いたかったな。


   それは残念だったわね。


   うん、本当に。
   水野さんが隣にいてくれれば最高だった。


   ……。


   やっぱり、水野さんに教わった方が分かりやすい。


   ……だからって、授業をさぼっていい理由にはならないわ。


   さぼってばかりじゃないよ。
   最近はわりと真面目なんだ。


   ふぅん。


   水野さんと同じ高校に行きたいしね。
   内申、だっけ?それも気にしておかないと。


   ……。


   嬉しい?


   ……手遅れにならないうちに、ちゃんとして。


   ちゃんとってなんだろうね?


   ……木野さん。


   分かってるよ。


   ……うんざりするのよ。


   知ってる。


   ……親にまで、連絡して。


   あいつらのやりそうなことだ。


   ……本当、なんなのかしら。


   怒ってるね。


   ……不愉快なだけよ。


   うん、怒ってる。


   今だけで、いいの。


   ……ん。


   今だけ、欺ければ。


   それ、優等生が言うことじゃないなぁ。


   やめたもの、そんなものは。


   ん、そうだった。


   ……。


   うん、痛いよ。


   ……私のことが、好きなら。


   分からせてやるさ。


   ……。


   あたしがどれだけ水野さんのことが好きだってこと。


   ……私に?


   いいや、あいつらに。


   ……。


   言葉にして伝えるわけじゃないよ、一応、言っておくけど。


   ……そんなの、当たり前でしょう。


   あたしは一途なんだ。


   自分で、言う?


   水野さんが言ってくれないから。


   ……言わないわよ、そんなこと。


   んー……まだまだ、信用が足りないってことかな。


   ……。


   ま、いいや。
   いや、良くないけど。


   ……どっちなの。


   あたしの努力次第、だけど、それが認められないのは少々しんどいな、と。


   ……。


   ん、なに。


   ……別に、何も。


   ふぅん。


   ……。


   それで、なんで?


   ……なんでって?


   サン・テグジュペリ。
   なんか意味があるんだろう?


   ふと思い出しただけよ。


   ふと思い出しただけ、ねぇ……。


   それ、式が間違ってる。


   えー。


   どこが間違っているかは


   待って、自分で考える。


   そ。


   うーん……。


   ……。


   ……なに?


   何が。


   ずっと見られてるような気がする。


   自意識過剰。


   そうですか。


   それで分かったの?


   考え中、だよ。


   教えてあげても、良いけれど。


   少しは自分の頭で考えなきゃ、だめだろ。


   ええ、そうね。
   水は低きに流れ、


   人は易きに流れる。
   はいはい、分かってますよ。


   ……はぁ。


   水野さん。


   ……何。


   あたしがこの問題を解き終わったら。
   休憩、しようよ。


   ……それはいつになるのかしら。


   そんなには掛からないよ。
   もう、分かったから。


   ……へぇ?


   ……。


   ……。


   ……これで、どうだい?


   面白くないけど……正解。


   あはは、やった。


   ……。


   そんなに面白くない?


   ……いいえ、とても喜ばしいわ。


   拗ねてるような顔、してるよ。


   この顔は生まれつきなの、残念ながら。


   かわいいよ、仏頂面をしてても。


   ……さらっと出てくるのね。


   うん。


   それと、好みがやっぱりおかしい。


   そうかな、おかしくないと思うけど。


   ……ちょっと。


   かわいいよ、水野さんは。
   素直じゃないところとか。


   ……触らないで。


   はい、ごめんなさい。


   はぁ……。


   じゃ、休憩にしようか。
   冷たいのとあったかいの、どっちがいい?


   ……温かいの。


   分かった、ちょっと待ってて。
   美味しいの、淹れてくるから。


   ……。


   ん……なに。


   ……汗。


   汗……?


   ……だと、思っただけ。


   ……。


   ……見間違い、だった。


   あの、水野さん。


   ……なに。


   くすぐったいんだけど。
   あと、立てない。


   ……ここ、急所なのよね。


   物騒。


   ふふ。


   ……。


   ……木野さん。


   何、考えてるの?


   ……別に、何も。


   誘ってる?


   ……何に?


   あたしは、別に、構わないけど。


   ……飲みもの、持ってきてくれるんじゃなかったの。


   持ってくるよ、水野さんが離してくれたら……ね。


   ……。


   水野さん。


   ……やっぱり、冷たいものがいいわ。


   ん、分かった。


   ……。


   ……で、どうする?


   なに、が。


   ……さぁ、なんだろうね?


   ……。


   いらっとしてる。


   ……してないわ。


   ふむ……。


   ……。


   ねぇ、水野さんはさ……何も考えたくないって思うこと、ある?


   ……どうしてそんなことを聞くの。


   聞いてみたくて。


   ……あるわ、私だって人間だもの。


   そっか。


   ……それを聞いてどうするの。


   別に、どうもしない……水野さんが、望んでいないのなら。


   ……。


   ……体温、上がってるよ。


   そんなの。


   うん、ただの当てずっぽう。


   ……それで、木野さんにはあるの。


   うん……?


   ……何も考えたくないって、思うこと。


   そりゃああるよ、人間だし。


   ……そういう時は、どうしてるの。


   何もしないし、何も考えない。


   ……。


   だって、そうするしかないじゃないか。


   ……単純。


   じゃあ、水野さんは……ん。


   ……。


   ……暑い?
   耳まで、真っ赤だよ……?


   ……うるさい。


   お……。


   ……。


   ……はじめては、それなりに色々と考えていたんだけど。


   もう、喋らないで。


   ……水の低きに就くが如し、元々は孟子だっけね。


   喋らないでって言ってるでしょ、んん。


   ……。


   …………ここは、いや。


   シャワーは……?


   ……。


   分かった……じゃ、ベッドに行こうか。


   ……軽い。


   緊張の裏返し、だよ。


   ……。


   ……これでも、あがり症なんだ。


   どこが、よ……。


   ……本当、なんだけどな。


   ……。


   優しくするよ……出来る限り、だけど。


   ……そういうの、いらない。


   なんせ、はじめてだから……出来なかったら、ごめんね。


   だから、いらない。


   ……はいはい、ごめんね。


   きのさん。


   ……気が変わったら、すぐに言って。


   ……。


   うん、いたいかな。


   ……ばか。


   こわくは、ない?


   ……おこらせたいの。


   まさか。


   ……。


   ……あたしがさ、怖いんだよ。


   …………。


   大事に、したいんだ……はじめてなら、なおさら。


   ……もう、いい。


   ……。


   いいから…………はやく、つれていって。


   うん……任せて。







   ……。


   あ、起きた?
   冷たいの、言ってくれれば用意するよ。


   ……からだが、おもいわ。


   いいよ、ゆっくりしてて。


   ……のどが、かわいた。


   ん、すぐに用意する。


   ……。


   とっておきのを用意するからさ、楽しみにしてて。


   ……からだが、おもいの。


   まだ起き上がれない?


   ……どうして、へいきなの。


   うん?


   きのさんは、どうして、へいきなの。


   平気……て?


   ……まるで、何でもないようだわ。


   は……?


   ……何も、なかったみたい。


   何もなかったみたいって……そんなわけ、ないだろう?


   ……。


   これはまだ、用意しない方がいいかな……。


   ……くるしそう、だった。


   声、少しかすれちゃってるね。
   喉、痛くはない?


   こきゅう、くるしそうだったわ。
   まるで、水の中でもがいているようだった。


   ……。


   ……あんなに苦しそうだったのに。
   あれは、なんだったの……?


   なんだったのと、言われても。


   ……。


   水野さん?


   ……やっぱり、はじめてじゃないのね。


   え、なんで?
   なんで、そうなるの?


   手慣れてる。


   は、どこが?
   全然、なんだけど。


   ……わたしだけ、ばかみたい。


   ちょっと待って、水野さん。
   何がどうしてそういう考えになるの。
   あたしは手慣れてなんか、いないよ。


   ……。


   ねぇ、水野さん。


   ……。


   あのさ……いいかげん、傷付くよ。


   ……きずつく?


   そうだよ……好きなひとに信用されないのは、結構傷付くんだよ。
   水野さんだって、そうだろ……?


   ……すきなひとなんて、いなかったもの。


   いなかったって、今は……いる、だろ。


   ……。


   あ、あたしに……その、信用されなかったら。


   そのときは、そのときよ。


   ……。


   それに……それが、あなたのじょうとうくだってことも。


   ……!


   そうやって……。


   ……はぁ。


   ……。


   もう、いいよ。


   ……。


   なんて、いいわけないだろ。
   あーどうしたらいいんだよ、くそ。


   ……きのさん。


   せっかくここまで来たのに、やっとこんな関係になれたのに、今更諦められるか。
   水野さんにどうにか近付きたくて、なんとかしたくて、かったるい授業にだって出てさ。
   高校なんてどうでも良いと思ってたけど、水野さんと一緒なら行ってもいい、寧ろ行きたいと思ったんだ。
   内申点なんて、面倒なものも考えて。


   ……。


   あたしは水野さんと、大人になったら一緒になりたいって本気で思ってるんだ。
   その為ならば、あたしは……なんだって、やってやる。
   それくらいの気持ちで、あたしは……。


   ……。


   ……どうしても好きなんだ、離れることなんて出来ない。


   ……。


   好きなんだよ……こんな気持ちになったのは、水野さんだけなんだよ……いい加減、分かってくれたっていいじゃないか。


   きのさんって。


   ……なんだよ。


   わたしのこと、ほんとうにすきなのね。


   だ、だから、そうだってずっと言ってるじゃないか。
   誰かをこんなに好きになるのは初めてなんだ。
   それなのに、


   ごめんなさい。


   ……は?


   私は、こういう性格なの。


   ……。


   だから、いやになったら、


   ならない、なるわけないだろ。


   ……。


   なんで笑ってるのさ、こっちは


   好きよ。


   ……。


   あなたの、そういうところ。


   ……そういうところって?


   私に夢中なところ、とか?


   ……。


   ふふ……。


   ……あの、さ。


   なぁに?


   若しかして、だけど。


   だけど?


   ……あたし、弄ばれてる?


   ……。


   ……。


   ……ふふ。


   水野さん……流石に性格、悪くない……?


   こんな私は嫌い?


   ……。


   嫌い?


   ……嫌いじゃないけど、弄ぶのはたまにだけにして欲しい。


   弄ばれるのは、いいのね。
   木野さんって、そういう性癖持ちなのかしら。


   ……冷たいの、用意してくる。


   木野さん。


   ……もう、勘弁して。


   あなたにとって、私は特別?


   うん……とっても。


   私との将来を考えるくらいに?


   ……そうだよ。


   ……。


   ……楽しそうで、何よりだよ。


   違うわ、嬉しいのよ。
   だからね、ずっとあなたと一緒にいたいって改めて思ったの。


   ……。


   ずっと、ずっと、あなたと。
   私も、いたいわ。


   ……それ、本当に思ってる?


   信じられない?


   ……信じるよ、あたし、単純だから。


   そういうところも、好き。


   ぐ……。


   ぐ?


   ……だめだ、ベタ惚れ過ぎる。


   ……。


   水野さん、もう一度抱いてもいい?


   ……なんでそうなるの?


   そうしたいから。


   私がいやと言ったら?


   しないよ、当たり前だろ。


   ……。


   なに。


   ううん……好きだなって、思っただけ。


   う……。


   ね……冷たいの、飲みたいわ。


   ……今、用意してるよ。


   とっておき、なのよね。


   うん、気に入ってくれたらうれしい。


   きっと、気に入るわ。
   だって。


   ……だって?


   あなたが、用意してくれるんだもの。


   …………あぁ。


   なぁに?


   ……一生、頭が上がらない気がするって思っただけ。


   そんなこと、ないと思うけど。


   ……ところで。


   うん?


   からだ、どこもおかしくない?


   おもいわ。


   それだけ?


   それだけって?


   ……。


   ……下腹部が、ちょっと変な感じかしら。


   え、と……痛くは、ない?


   ……。


   その、いたかった……?


   ……少し。


   ごめん……。


   ……けど、思っていたよりも。


   ……。


   きもち、よかったわ。


   ……え。


   やさしく、してくれたのでしょう?
   はじめて、だから。


   その、つもりだけど……。


   余裕が、なかった?


   ……そんなの、あるわけない。


   あぁ、だからあんなに苦しそうだったのね。
   若しかして……欲に飲み込まれまいと、必死になっていた?


   あの、冷静に分析されると、恥ずかしいんだけど……。


   ね、そうでしょう……?


   ……そうだよ、水野さんの言う通りだよ。


   ふふ……ね、木野さんの余裕がない顔、もっと見たいわ。


   ……ぐぅ。


   ぐぅって言うひと、初めて見た。


   ……あたしも、初めて言った。


   ふふ……。


   ……あーもう。


   夢中になるひとの気持ちが、少しだけ、分かったわ。


   ……何に。


   さぁ?


   ……。


   ……でも、私はあなただけ。


   はぁ……なんだか、なぁ。


   ねぇ。


   ……なんだい。


   もう一度、抱いて。


   ……。


   知りたいの、もっと。


   ……。


   木野さん、お湯がわいてるみたいだけど。


   ……は。


   考えておいて。


   いや、考えるも何も。


   それとも、次は私が木野さんを抱いた方がいいのかしら。


   な……。


   だって、そうでしょう?
   形は、同じなわけだし。


   いや、次もあたしが抱く。
   もっと、教えたいから。


   ……。


   ……。


   ……ねぇ、木野さん。


   なに……。


   ……今更、なのだけれど。


   うん……。


   ……少し、恥ずかしくなってきたわ。


   ほんとに、今更だよ……。


   ……どうしよう、かしら。


   とりあえず、布団にくるまってたらいいんじゃないかな……。


   ……。


   ……。


   ……だから木野さんは先に起きて服を着ていたのかしら。


   ……。


   そうなの?


   ……これでもね、水野さん。


   なぁに?


   ……あたしだって恥ずかしいし、からだも、おもたいんだよ。


   ……。


   ……よし、もういいかな。


   ……。


   水野さん、まずはこれを見て。


   ……ん。


   ね、きれいな青だろう?


   ……これは。


   マロウブルーって言うんだ。
   因みに、喉にもいいんだよ。


   ……きれいな、あお。


   だろ?


   けど、これがとっておきなの?


   いや、これからだよ。


   ……。


   これね、夜明けのハーブティーって呼ばれてるんだ。


   ……どうして?


   それは、見ていれば分かるよ。


   ……。


   少しずつ、ね。


   ……。


   ほら、変わってきた。


   ……むらさき?


   そう、紫。


   ……きれいね、興味深いわ。


   だろう?
   だけど、まだまだ。


   ……まだ変わるの?


   そう、面白いだろう?


   ……青が、紫に変わるのは。


   ん?


   葉……いえ、花の色素が抽出されて深くなっていくから、かしら……。


   ……流石、水野さん。


   ……。


   水出しにすれば、もっと、青が楽しめるんだけどね。


   そう……。


   さて、それではこれを。


   ……レモン?


   そう、レモン。


   ……リトマス試験紙。


   うん?


   アルカリ性から酸性に……そうすると、色が変化する。


   ……。


   ねぇ、そうでしょう?


   ……それは見てから言って欲しかったな。


   早く見せて。


   はいはい、そう急かさないでね……。


   ……。


   ……どうかな。


   きれいね。


   答え、先に言われちゃったけどね。


   ううん、それでも。


   面白い?


   ええ、面白いわ。
   こんなハーブティーもあるのね。


   楽しんで貰えて良かった。
   それじゃ、飲み易いように……。


   青と、紫と、ピンク……。


   ……。


   ……きれいだわ。


   どの色が一番好き?


   ……。


   あたしは青が一番好き。


   ……私の色、だから?


   うん、そうだよ。
   だけど。


   ……だけど?


   水野さんの青の方がきれいだよ。


   ……言うと思った。


   期待、してただろ?


   ……知らない。


   顔、赤い。


   ……。


   ……すごく、かわいい。


   つめたいのじゃ、ないわ。


   ……だから、氷をね。


   ……。


   さ、どうぞ。
   あたしの水野さん。


   ……まだ、あなたのものになってない。


   あたしは、水野さんのものだけどね。


   ……。


   嬉しい?


   ……私、だけ。


   ん?


   ……なのでしょう。


   そうだよ……そろそろ、信じてくれる?


   ……。


   まだ、かな……。


   ……もっと、分からせて。


   ん……。


   ……もっと。


   うん……分かった。


   …………。


   ……おいしい?


   ほのかに、甘いわ……これは、はちみつ?


   うん……そのままだとちょっと飲みづらいかなって。


   ……のみやすい。


   それは、良かった……。


   ……ん、……きのさん。


   水野さんの青はピンクにはならないね。


   ……当たり前でしょう?


   でも、白が桜色にはなる……。


   ……もぅ、まだ飲み終わってない。


   おあずけ……?


   ……ばかね。


   うん、そうなんだ……単純、だし。


   ……きのさんは。


   あたしはさっき、違うのを飲んだから。


   ……ちがうの?


   水、水野さんだけに。


   ……意味が分からない。


   あはは。


   ……生きる、ということは徐々に生まれることである。


   ……。


   つまりは、こういうことなのかしら……。


   ……どういうこと?


   どういうことだと思う……?


   ……そうだな。


   ……。


   ……変化、かな。


   変化……。


   ひとって常に変化してるだろ……成長って言ってもいいかな。
   知らないことを知ったり、気付いていなかったものに気付いたり……さ。
   そうやって、新しい自分は生まれる……生まれていく、とかね。


   ……そう。


   水野さんは……?


   ……生まれてきた時、ひとはからっぽだわ。


   ……。


   ただ生きるだけでは、からっぽのまま……だから、中に何かを注いであげなければならない。
   知識、経験、感情……ひとが、ひととして、生きていく為に……ひとと、生る為に。


   ……。


   ……ね、あなたは私の中に何を注いでくれるのかしら。


   愛を。


   …………。


   本当だよ。


   ……本当、あなたのそういうところ。


   信用、出来ない……?


   ……私を、がっかりさせないで?


   もちろん……あたしには、水野さんだけだからね。
   これまでも、そして、これからも。


   ……。


   飲み終わった……?


   ……美味しかったわ、ありがとう。


   それじゃ……もう、一度。


   ん……。


   ……水野さんに、あたしの愛を。


   やっぱり、私が抱かれる方なの……?


   ……うん、そうだよ。


   あ、ん……。


   ……ん、いいにおい。


   も、ぅ……。


   ……。


   ……あまり、強くしないで。


   ん……わかってる。








  -The Endless Dream(前世)





   何をしているの。


   …………ち、


   ありがとう、お茶を淹れて呉れたのね。
   あなたも湯浴みをしてきたら?


   メ、メ、メ、メ、


   着替えはないけれど……寸法が違うから、貸せないし。


   メル……ッ!


   マーキュリー。


   うえっ。


   今は、マーキュリー。


   ……ま、マーキュリー!


   何。


   血、血が……っ、ついて……っ。


   あぁ。


   あぁ、って!
   からだ痛い?どこか痛む?大丈夫、じゃ、ないよね?!


   少しだけど……洗濯したら、落ちるかしら。
   多分、大丈夫だとは思うのだけれど。


   ねぇ、大丈夫なの?!大丈夫じゃなかったむがっ。


   それでも、新調した方が手っ取り早いわね。
   ジュピター、お願いしても良いかしら。


   い、良いよ!
   幾らでも新調するよ!!


   そんなに要らない。


   そ、それより……!


   吃驚したのね、屹度。


   び、びっくり?!
   って、何が?


   からだが。


   は、はぁ?!


   ずっと、してなかったから。


   え、ど、どういうこと……?
   びっくりしたって、なに……?


   はぁ。


   マ、マーキュリー……。


   ジュピター、とりあえず落ち着いて。
   声を、抑えて。


   で、でも、


   折角のお茶が冷めてしまうわ。
   未だ湯浴みをするつもりがないのなら、一緒に飲まない?
   私と飲む為に淹れて呉れたのでしょうから。


   うん、然うなんだ……!


   だから、声が大きい。


   ……うん、ごめん。


   はぁ、しょうがないひとね。


   ……からだ、大丈夫なの。


   大丈夫よ。
   言ったでしょう、吃驚しただけだって。


   ……びっくりって、なに。


   ここ、座って。


   ……。


   座って、ジュピター。


   ……う、ん。


   ……。


   ……。


   隣に、来て。


   い、いいの?


   嫌なら、良いけど。


   い、嫌じゃないよ!


   そ。なら来て。


   う、うん……。


   ……。


   ……あう。


   あの頃よりもずっと、大きくなったわね。


   ……え?


   それに、重くなった。
   頭では、分かっていたのだけれど。


   マ、マーキュリー……?


   木星の民は水星の民よりもずっと大きくなって、そして、重くなる。
   筋力も並外れたものになるから、まともにやりあったら、私達水星の民なんて簡単に壊されてしまう。
   他の星の民も、また。


   え、えと……。


   ……けれど。


   からだ、だいじょうぶ……?
   どこも、いたくない……?


   痛くはないわ。
   ただ。


   ただ……?


   下腹部に感触が残ってる。
   あなたの感触が。


   ……。


   出血したのは……さっきも言ったけれど、ずっとしていなかったから。
   だから、躰が吃驚したのだと思う。


   ……。


   手、出してみて。


   ……え、と?


   私の手の平に、合わせて。


   う、うん……こう?


   然う。


   ……。


   ……手も、指も、大きくなってる。
   こどもの頃よりも、ずっと……。


   ……。


   ……あの頃の感覚ですれば、吃驚もするわ。
   久しぶりだから、尚更……ね。


   マーキュリーの手は、あまり変わってない……ような気がする。


   水星の民である私の成長期は、こどもだったあの頃に終わってしまった。
   これ以上大きくなることは、ないわ。


   ……小さな手だ……こんな小さな手、で。


   けれど木星の民である、あなたは違う。成長は今も尚、続いている。
   もっと、もっと……保護の戦士に相応しい躰となる為に、成長し続ける。
   あなたのお師匠さんが然うだったように。


   ……。


   ……心配しないで、私は大丈夫。


   次、は。


   うん?


   ……次はもっと、優しくする。


   ……。


   ごめん、マーキュリー……。


   ……本当に。


   う……。


   ……一途に想う相手のことだけは、大切にするのね。


   マーキュリー……。


   それで……すっきり、した?


   ……。


   それとも未だ、足りないかしら?


   ……すっきり、したよ。


   然う?なら、良かった。


   だけど、然ういう言い方はいやだ。


   ……うん?


   なんか、いやだ……。


   ……じゃあ、どう言えば良いの?


   そ、それは……えと……。


   言い方なんて、どうでも良いのに。


   だ、だって……いやなものは、いやなんだ……。


   然う言われても、他にどう言えば良いのかしら。


   マ、マーキュリーも一緒に考えてよ。


   私は言い方なんて、


   ……。


   ……本当、しょうがないひと。


   あたし達は、人形じゃない。


   ……。


   ……人形じゃ、ないんだ。


   務めだと、割り切ってしまえれば。


   ……。


   お互い、良かったのに。


   ……そんな風には、思えない。


   好きだから?


   ……大好きなんだ、こどもの頃から。


   ……。


   これで、お仕舞いは……いやだ。
   務めにするのは、もっといやだ……。


   ……誰がお仕舞いにするなんて、言ったの?


   ……。


   そんなつもり、ないわ……務めにする気も、ね。
   だって私の心は、もう……。


   ……毎晩、来ても良い?


   それはだめ、からだがもたない。


   い、一緒に眠るだけ……それでも、だめ?


   毎晩はだめ。


   し、しないから、だから。


   だめ。


   ……うー。


   全く。


   ……一緒に居たい。


   ジュピター。


   ……はい。


   ……。


   ……二日に一度くらいなら、来ても良い?


   ……。


   だ、だって、あたしは遠征とかあるし、マーキュリーだって色々あって、ここにずっと居られるとは限らないし……。


   ……。


   一緒に居られる時間なんて、言う程、ないじゃ……む。


   ……。


   ……マーキュリー。


   ばかね、本当に。


   ……。


   ……良いわ、もう。


   え、良いの。
   やっ


   やっぱりだめ。


   えぇぇ……。


   ……だけど。


   う。


   ……熱を溜め込み過ぎて動けなくなってしまう、その前に。


   ……。


   必ず、来て。


   うん、分かった!


   声が大きい。


   ……うん、分かった。


   ……。


   ね、今日の夜は


   だめ。


   一緒に眠るだけでも、だめ?


   今日はだめ。


   明日は?明日はだめ?
   しないから、一緒に眠るだけだから。
   それでも、だめ?


   ……。


   良い?


   ……良いって言わないと、終わらない気がしてきたわ。


   やった!


   はぁ……仕事の邪魔だけは、しないで。


   うん、分かってるよ。


   ……はぁ。


   へへ。


   ……あなたは、本当に。


   え、なぁに?


   あなたは本当に、私のことが好きなのね。


   うん、好きだ……大好きだ。


   ……。


   マーキュリー……。


   ……木星の民の相手は、同星の民以外だと、水星の民が最適である。


   うん……?


   何故ならば、その体質は純水の性質を帯びているから。


   ……。


   特にマーキュリーの体質はその性質が強く、ジュピターの雷気であっても通さない。
   故に行為中の放雷に、他の星の民よりも、耐え得る可能性が非常に高い。


   ……。


   それが、これまでマーキュリーがジュピターの相手をさせられてきた、理由。
   務めとして、ずっと……心など、置き去りにして。


   ……うん。


   中には想い合っていたふたりも居たのでしょうけど……ね。


   ……はは、懐かしいな。


   懐かしい……?


   メルの先生も話の途中で講義?授業?そんなのを、良く挟んできた。
   そのたびにメルが脱線してますとか話の腰を折ってますとかって言うんだけど、あの頃のあたしには難しくて良く分からなくてさ。


   ……。


   渋い顔。


   ……あのひとの生徒だもの、私は。


   然うだねぇ……。


   ……頭、撫でないで。


   丸くて可愛いね。


   ユゥ。


   はい、ごめんなさい。


   ……もぅ。


   少なくとも、師匠とメルの先生は然うだった。


   ……。


   互いに恋い慕い、想い合っていた、ジュピターとマーキュリー。
   あたし達も、然うなりたい。然うでありたい。


   ……。


   ん……マーキュリー。


   ……あなた以外のジュピターにこの身を捧げるなんて、いや。


   ……。


   もう、考えたくもない。


   ……メルはあたしだけのマーキュリーだ、誰にも渡さない。
   仮令それがジュピターだったとしても……絶対に、渡さない。


   壊れる時は


   一緒だ。


   ……。


   ……。


   ……ねぇ、ジュピター。


   なんだい……マーキュリー。


   ……とりあえず、からだは大丈夫だから。
   心配、しないで……と言っても、無理なんでしょうけど。


   うん……無理。


   ……少しずつ、ね。


   少しずつ……?


   ……いきなりでは、からだがもたないわ。


   あ。


   ……ね。


   うん……メル。


   ……お茶、すっかり冷めてしまったわね。


   淹れ直すよ。


   ありがとう、でも良いわ。


   けど


   良いの。


   ……ん、分かった。


   ……。


   ……ねぇ、マーキュリー。


   なぁに。


   ……ずっと、していなかったんだね。


   ……。


   あ、あたし以外の、ひとと……。


   ……そういうの、好きじゃないのよ。


   そういうの……?


   相手を取り替え引き替えするのは、どうしても、受け入れられない。
   理解はするわ、けれど、私には出来ない。


   ……。


   ……あなた以外のひとに躰を許すなんて、いや。


   あたしだって然うだよ。


   ……。


   だから、代わりなんて要らない。
   ずっと、要らない。


   ……それで壊れてしまったら、元も子もないわ。


   それでも、だよ。


   ……私のことは、考えなくて良いから。
   あなたが壊れなければ……ん。


   ……。


   ……ユゥ。


   それ以上は、言わないで。


   ……。


   ……言うな、メル。


   ……。


   メル。


   ……ユゥ。


   ずっと、大切にする。


   ……。


   ずっと、ずっと、生まれ変わっても、ずっと。


   生まれ変わり……そんな先のことも、考えているのね。


   然うだよ。


   生まれ変わったら……それはもう、私達ではないわ。
   それでも。


   然うだとしても、あたしが愛するのは君だけだ。
   あたしの生まれ変わりが愛するのは、メル、君の生まれ変わりだけだ。


   ……。


   石に、然う、刻んでおく。
   消えてしまわぬよう、強く、深く。


   ……そんなの。


   分からないじゃないか、やってみなければ。
   だから、やるんだ。やらなければ、何も始まらない。


   ……。


   だから、メルも……ん。


   ……本当に、ばかね。


   然うだよ……もう、知ってるだろ……。


   ……ええ、知ってるわ。


   なら……メルも付き合ってよ。


   ……どうしようかしら。


   ばかをひとりにしておいたら……何を仕出かすか、分からないよ?


   ふふ……然うかも。


   それじゃあ、付き合って呉れるかい……?


   ええ、良いわ……付き合ってあげる。


   ん……じゃあ、決まりだ。


   ……。


   ……。


   ……ねぇ、ユゥ。


   なんだい……?


   ……。


   ……メル?


   からだ、ほんとうに、だいじょうぶだから。


   うん、本当に良かった……。


   ……そうじゃ、なくて。


   ……?


   ……だから。


   ……。


   ……血で汚れた敷布では、いや?


   ……!


   ……。


   ……いやなわけ、ない。







   ……数が、増えているわ。


   ん、なんの……?


   ……。


   ……くすぐったいよ、メル。


   だって、くすぐってるんだもの……。


   そっか……て、メル……。


   ……ここ、こどもの頃は弱かったけど。


   やめて、メル……くすぐったい、よ。


   いや、やめない……。


   ん……あ、……メ、ル……。


   ……ん、弱いままなのね。


   だ、だめだって……。


   ……どうしてだめなの?


   ど、どうしてって……ぁ。


   ……こんなに、鍛え上げられているのに。


   ん……んぅ……。


   ……声、出せば良いのに。


   や、やだよ……はずかしい。


   ……ひとには、さんざ、しておいて。


   メ、ル……も、う……。


   ……声、聞かせて。


   く……ぅ……。


   ……聞かせて、ユゥ。


   や、やだ……、……っ。


   ……。


   ……う、……ぅ……あ、……あ、ぁ。


   どこまで、我慢出来るかしら……ね。


   メ……ル……。


   ……あなたなら、私なんか、簡単に引き剝がせるのに。
   どうして、しないの……?


   ……。


   ……期待、してるから?


   ち、ちがう……。


   ……じゃあ、どうして?


   ほ、ほんとに……。


   ……うん?


   メル、なの……?


   ……然うよ?


   でも、メル、は……。


   ……だけど、マーキュリーでもあるの。


   く……っ、あ……。


   ……雷神と恐れられているあなたを、悦ばせることが出来るのは、私だけ。
   ねぇ、然うでしょう……?


   ……、……っ……。


   声、出せば良いのに。
   その方が、楽よ。


   ……や、だ……はずかし、い……。


   ひとにはさんざ、強請るくせに。


   は、ぁ……メル……メル……。


   ……好きよ。


   ……っあ。


   好きよ……ユゥ。


   ……っ、……っ、…ぁ…っ、……っぁ、……。


   だから……声を、聞かせて。


   ……は、ぁ……メ……も、ぅ……。


   ……。


   ……っ、う、ぁっ、……あ、ぁ……っあ、……ぁ……。


   ……いいこね、ユゥ。


   メ、メル……メル……メ、ル……。


   ……かわいいわ。


   ねぇ……ねぇ、もぅ……ね、ぇ……。


   ……。


   …………あ。


   ……私の、ユゥ。


   ぁぁっ、あぁぁ……っ……ぁ……。


   ……。


   ……っく、……ぅ…………。


   ……。


   ……はぁ、…………は、ぁ。


   ……すっきり、した?


   それ、どころじゃ、ない……。


   あら、そう……?
   じゃあもう少し、続ける……?


   ……なんで、そうなるの。


   足りていないのかと、思って。


   ……もう、かんべんして。


   ふむ……。


   ……メル。


   こんなに躰を鍛え上げていても、柔らかくて弱いところはあるのね。
   興味深いわ。


   も、もしかして、じっけん……?


   違うわよ?


   う、わ……。


   これからは、私もするわ。
   憶えておいてね。


   ……。


   私のことなら、忘れないのでしょう?


   ……わすれない、けど。


   続けても?


   も、もう、やめて。


   そ?残念。


   ……はぁ。


   それにしても、弱いとは言えやけに感じて


   やめて、それ以上は言わないで。


   ……。


   ……お願いだよ、メル。


   私以外の誰かとはしたことないのよね。


   な、ないよ。


   ……本当に?


   ほ、本当だよ……。


   ……然う、言えば。


   な、なに……。


   ……私と出来なかったら、ひとりで


   あー!あーーーー!!


   ……。


   あの、もう、考えないで


   あぁ……然ういうこと。


   ……。


   ふぅん……然う。


   ……言わないで、恥ずかしいから。


   分かったなんて、言ってないけど。


   その顔は分かった時の顔だよ、こどもの頃、よく見たよ。


   ふぅん。


   お願いだから、言わないで……。


   ……。


   うぅぅ……。


   ……耳まで真っ赤、久しぶりに見た。


   ……。


   ふふ……。


   ……メル、もぅ。


   かわいいわ。


   …………うー。


   ユゥ。


   ……な、に。


   ……。


   なに、メ……


   ……。


   ……くすぐったい、よ。


   だって、くすぐってるんだもの。


   それ、さっきもきいたよぅ……。


   ……。


   メ、メル……。


   ……数。


   な、なに……?


   数が、増えてるの。


   ……え?


   傷の、痕。


   ……。


   ……これからもっと、増えるのね。


   うん……あたしは、ジュピターだからね。


   ……。


   ……守る為に、戦う。


   ……。


   メル……? 泣いてるの……?


   ……泣いてなんか、いないわ。


   ん、そっか……。


   ……ん、ユゥ。


   ね、手当て、お願いしても良い……?


   ……私で、なくても。


   メルに……マーキュリーにお願いしたいんだ。
   だって、あたしの躰に触って良いのは……これからはずっと、メルだけなんだから。


   ……。


   ……我慢、してたんだよ。


   それは、なんの我慢……?


   ……マーキュリー以外に触れられる、我慢。


   衝動に、飲み込まれてしまわぬように……?


   ……。


   ……良かったのに。


   誰でも良いわけじゃない。


   ……。


   良いわけじゃ、ないんだ。


   ……ジュピターのそれを、抑えるのは大変だったでしょう。


   ……。


   苦しかったでしょう……?


   ……。


   無駄に意志が強いんだから……。


   ……こどもの頃、メルに出逢って。


   ……。


   受け入れて貰えて、良かったと……心から、思う。
   じゃ、なければ……あたし、は。


   ユゥ……。


   ……あたしを受け入れて呉れてありがとう、メル。


   ……。


   好きに、なって呉れて……。


   ……ごめんなさい、ユゥ。


   ……?
   どうして……?


   ……私と出逢っていなかったから、もっと、楽に生きられたかも知れないのに。


   そんなことない。
   メルと出逢えていなかったら。メルに受け入れて貰えていなかったら。
   あたしはとっくの昔に壊れてた。
   メルが居たから、あたしが居た。今はマーキュリーが居るから、あたしが居る。
   ふたりで生きようと、思える。


   ……。


   メルこそ、あたしと出逢っていなければ、


   ……屹度、耐えられなかった。


   ……。


   私の心は……そんなに、強くないもの。


   ……。


   だからこそ……あのふたりは、私達を引き合わせたのかも知れないわね。


   然うかな……メルの先生は然うかも知れないけど、師匠はそこまで考えてなかったと思うな。


   ユゥは、気付かなかったのね。


   ん、なにに?


   ……先生は、ユゥのお師匠さんが居たから、私を育てられたのよ。


   え。


   あのひと、「こども」を育てるのが下手なの。


   いや、でも、師匠も大概だったよ?
   メルも知ってるだろ?


   私には優しかったから。


   ……。


   ユゥ?


   思い出したら、腹が立ってきた。


   うん?


   あいつ、あたしのメルにべたべた触って……


   べたべたと触られては、いないけど……それに度が過ぎると、先生に折檻されていたし。


   すごい、腹が立ってきた。
   殴りたい。


   それは無理ね……もう。


   あー腹立つーーーあーーー。


   ……。


   どうにかして殴る方法、ないかな?!


   ないわね。


   だよね!
   だけど殴りたい、無性に!


   ……話が思わぬ方向に行ってしまったわね。


   うーー。


   話を、元に戻すけれど。


   どこに戻すの?


   私はあなたとこどもの頃に出逢えて良かった。
   あなたは?


   うん、あたしもメルと出逢て良かった!


   ん……なら、この話はお仕舞い。


   うん? そうなの?


   ええ、然うよ。


   そっか、じゃあお仕舞い。


   ん……。


   ……ねぇ、メル。


   なぁに。


   そんなに苦しそうじゃ、なかったよ。


   え?


   師匠は、メルの先生しか受け入れてなかったみたいだけど。
   それでも全然苦しそうじゃなかったし、好きにしてたし、折檻を受けてる時だって楽しそうだった。


   ……。


   だから、あたしも然うなるよ。
   ううん、なるんだ。


   私の先生も、だけれど……少し特殊だと思うわ、あのふたりは。


   え?


   残っている話が、ちょっと……。


   然うなの?
   でも、良いじゃないか。それでも。


   ……反抗的だったとも。


   確かさ、最も長く生きたマーキュリーとジュピターなんだろ?


   えぇ、然うね……そのおかげで、私達を育てることが出来たと聞いたわ。


   あたし達も然うなって、次のマーキュリーとジュピターを育てようよ。
   ふたりでさ。


   ……。


   ね、良いだろ?
   ふたりなら屹度出来るし、何より、楽しそうだ。


   ……楽しい。


   楽しそうだったろ、あのふたり。


   ユゥには、然う見えたのね。


   メルには見えなかった?


   ……いいえ、見えたわ。


   だろ?


   ……えぇ。


   楽しみだなぁ。


   ……ユゥはいつだって、先のことを考えているのね。


   うん? なに?


   ううん、なんでもない。


   そ?


   うん。


   そっか。


   ……。


   んー……ふふ……久しぶりだなぁ、こんな朝……。


   ……そろそろ、起きましょうか。


   え、もう?


   もう、戻らないと。


   ……。


   ……また、来て?


   うん……毎晩来る。


   毎晩はやめて。


   メルも、


   マーキュリー。


   マーキュリも来てよ、あたしの部屋に。
   いつでも歓迎するから。


   時間があったらね。


   時間は作るものだよ。


   ジュピターとは違うの。
   さぁ、支度をして。湯浴みもしないと。


   一緒に


   しない。


   その方が効率が良いよ。


   かえって悪くなるわよ、ばか。


   あう。


   さぁ、ジュピター。


   ……うん、分かった。


   いい子ね。


   いい子だから、今夜も


   だめ。


   ……はい。


   さて、ゆうべ終わらせるつもりだった仕事は……


   然うだ、大丈夫なの?


   問題ないわ、マーキュリーの務めを果たしたとさえ言っておけば。
   ジュピターが限界だったと付け加えれば、より良いわね。


   ……。


   然うでなくても、然う言っておけば上手く回るものよ。


   ……分かった。


   次は着替え、持って来て。


   ……。


   貸せないもの、私のは。


   分かった、忘れない。


   ん。


   然うだ、置いておいても良い?


   ……。


   その方が、何かと良いだろ?
   ね?


   ……あまり多くは持ってこないで、置く場所ないから。


   うん、分かった。


   ……もぅ。


   ……。


   なに……?


   とりあえず、朝ごはん一緒に食べよ。


   ……ええ、良いわよ。


   へへ……。


   ……なに。


   んーん、なんでもないよ。