-love me do(前世・少年期) いつもありがとう、メル。 ううん、私にはこれくらいしか出来ないから。 メール? う。 これ「くらい」、じゃ、ないよ? ……。 メルにしか出来ないことだから、これ「くらい」じゃない。 ……うん。 へへ。 ……ふふ。 ……。 ……? なぁに……? メル、きれいになった? え。 うん、やっぱりきれいになった。 そ、そんなこと、 あるよ。 ……! 顔、すぐ真っ赤になっちゃうね。 真っ赤なメルはかわいい。 ……あまり、からかわないで。 揶揄ってなんか、いないよ。 メルはきれいになったし、相変わらず、かわいい。 ユ、ユゥ。 はは。 も、もう、やっぱり揶揄ってるんじゃない。 揶揄ってないって。 うそ、揶揄ってる。 だから、揶揄ってなんかいないよ。 だって笑ってるじゃない。 うん、真っ赤になってるメルはすごくかわいいからね。 つい、笑っちゃう。 私で遊ばないで。 遊んでない、あたしは思ったことを言ってるだけだよ。 よりたちが悪い。 えー? もぅ……っ。 怒ったメルもかわいい。 だ、だから、ん。 ……。 ……ユゥ。 メルは、かわいいね。 ……もぅ。 あはは、っ。 ……? ……。 ユゥ、どうしたの? ……笑ったら、ちょっと、響いた。 あ。 ……骨、折れてた? 完全に折れてはいないわ……ただ、ずれていないだけかも知れない。 そっか……ま、直ぐに治るからいいや。 だけど、骨折には変わりないから。 あまり無理はしないで。 うん。 完全に折れて、若しもそれが臓腑に傷を付けてしまったら……いくら、あなたでも。 大丈夫だよ、メル。 心配しないで。 ……。 然うなったとしても、大丈夫。 ジュピターだからさ、あたし。 ……ジュピターだとしても。 うん? 無理をし続けたら……いつかは、壊れてしまうわ。 ……。 ……お願い、あまり無理はしないで。 うん……分かった。 ……。 ……分かったけど、やらなきゃいけないから。 ……。 あたしは、誰よりも強くならなきゃいけないんだ。 然うなる為に、あたしは造られたのだから。 ……ジュピター、だから。 何より、メルを守りたいんだ。 ジュピターとしてではなく、あたしとして。 ……。 もちろん、ジュピターとして果たさなきゃいけないことがあるのは分かってるよ。 でも、それ以上に。 ……。 ほら、メルを……えと、マーキュリーを守るってことはさ? プリンセスや国を守るってことにも繋がると思うんだ。 ……。 マーキュリーは要なんだ、失うわけにはいかないだろ? 代わりは幾らでも居るって言っても、直ぐには使えないし。 ……ジュピターだってそうじゃない。 ジュピターは、 ジュピターだって要だわ。 誰ひとり、欠けてはいけないのよ。 ……。 それに、私だってあなたを……ん。 ……。 ……ユ、ゥ。 し……。 ……ごめん、なさい。 いや……あたしも、ごめんね。 ……。 ん……メル。 ……私にも、癒す力があれば良いのに。 ……。 どんな傷でも、癒せる力があれば……。 ……今でも、十分だよ。 だけど……。 ……ねぇ、メル。 ……。 あたしに触れて良いのは、メルだけだよ。 ……え。 あたしの躰に触れて良いのはメルだけ……今、然う決めた。 ……今は、それで良くても。 決めたんだ、もう。 でも、それじゃあ、あなたのからだが 心に決めたんだ、もう変えることなんて出来ない。 ……。 メルもどうか、そのつもりでいて欲しい。 ユゥ、ほんとうに……。 ……あたしは、メルだけのものだよ。 ……ッ。 勝手に決めて、ごめんね……。 ん……ユゥ……。 ……メル。 ……。 ねぇ、メル……あたし。 ……だめ。 ……。 傷に、響くから……。 ……大丈夫だよ、これくらい。 だめよ……。 ……本当に大丈夫だから。 だから、メル……。 ……。 ……触るだけじゃ、もう足りない。 もっと、欲しいんだ……メルのこと。 ……。 ……もっと、メルの奥に触れたい。 今は……だめ。 じゃあ、いつだったら良い……? ……。 それとも……されたく、ない? ……傷が、治ったら。 ……。 そう、したら……。 ……今の傷が、治ったって。 ぁ……。 ……どうせまた、新しい傷が出来てしまうよ。 ……。 もっと酷い……それこそ、動けなくなるような傷を負ってしまうかも知れない……だったら、今……。 ……。 今だって、良いじゃないか……どうしても、欲しいんだ……メルの、ことが……。 ……。 ずっと、欲しかったんだ……だから、メル……お願いだから、許してよ……。 ……。 ……あ。 ……。 メ、メル……。 ……。 ご、ごめんよ、メル……もう、言わないから……。 ……。 泣かない、で。 ……ごめん……なさい。 あ、謝らないで、あ、あたしが悪いんだ。 メルは、何も悪くない。何一つ、悪くない。 ……。 ……あたしは小さい頃から、メルを泣かせてばかりだ。 ……。 ……今夜はもう、帰るよ。 本当に、ごめんね……メル。 ……。 だ、だけど……また、来ても良い……? ほ、欲しいなんて、もう、言わないから……。 ……。 か、勝手なことを言ってるのは、分かってる……でも……会えなくなるの、は……。 ……。 メル……あたし、は。 ……明日も、鍛錬するのでしょう。 え……? 明日も、明後日も……ずっと、あなたは。 ……うん、するよ。 そうして、また、新しい傷を……。 ……そしたらまた、手当てして欲しい。 ずっと、なくならない……ひとつ、治っても……それ以上に、また……それをずっと、繰り返して……。 ……それが、あたしの運命だから。 ジュピターになったら。 ……。 ……もっ、と。 然うならない為に、マーキュリーが居る。 ……。 然うだろ……? ……わた、し。 傷は負い続ける、戦えば無傷ではいられないから。 だけど。 ……。 マーキュリーが居て呉れれば、ジュピターは壊れない。 ……。 マーキュリーがジュピターを守って呉れる……だから、ジュピターは力いっぱい戦える。 ね……然うだろう? ……。 ……ずっと傍に居て、メル。 メルが傍に居て呉れるなら……あたしは、大丈夫だから。 ……。 それじゃ……帰るね。 ……あした。 ん……? ……同じ時間に、来て。 ……。 ……来て。 ん、分かった……また来るよ、同じ時間に。 ……まってる、から。 うん、待ってて……。 ……ぁ。 えと……おやすみの、口付け。 あ、いや、また来るよの口付けかな……。 ……。 ど、どっちでも、良いかな……あ、やっぱりだめかも……。 ……もう、ユゥったら。 あ、あはは……。 ……ねぇ、ユゥ? な、なんだい……。 ……もう一度、して。 え、なにを……。 ……おやすみとまた来るよ、の。 ……。 だめ……? ……だめなわけ、ない。 ん……。 …………じゃあ、また明日。 ……うん、また明日。 ……。 ……はぁ。 …………メル。 ……。 ……来たよ、メル。 ユゥ……。 入っても、良いかな……。 ……うん、入って。 ありがとう……。 ……あ。 あ、えと……。 ユゥ、その顔……。 あー、うん……ちょっと、ね。 今日はやけに狙われちゃって。 先ずは、手当てを だ、大丈夫だよ。まずいとこには当たってないから。 あのね、大分ずらし方が分かってきたんだ。 完全に躱すことは出来ないけど、まともに喰らわなければ十発く……ううん、百発くらいなら貰っても平気なんだよ。 だけど、腫れているわ。切り傷だって出来てる。 ちゃんと手当てしないと。 平気だよ、放っておいても だめよ。 鼻血も出したのでしょう? けど、骨は折れてない筈だよ。痛くないし。 少し赤くはなってるだろうけど、なんてことないから。 そういう問題じゃないわ。 右目だって目蓋が腫れて、視界が狭く…… ……。 ……だめよ、ユゥ。 手当てを、しないと……。 湯浴み、したんだね。 ……。 ……すごく、どきどきする。 ユゥ、だめ……手当てが、先よ。 昨日の胸の処置も……骨折しているのだから、ちゃんと補強しておかないと。 治りが、遅く……。 ……。 ……だめ、ユゥ。 先に、メルが欲しい。 ……。 ……ゆうべはずっと、メルのことを考えてた。 ……。 だから……ん。 ……先に手当て、を。 そうじゃなきゃ……許さない。 ……。 顔だけじゃない……ちゃんと見せて、全部。 ……どうしても、だめ? だめ。 ……。 ユゥ。 ……分かったよ。 ん……なら、座って。 ……本当に平気なのに。 ユゥ。 ……分かったって。 不貞腐れないで。 ……別に、不貞腐れてなんかいないよ。 不貞腐れてるでしょう。 先ずは上の服を脱いで。 ……。 肩、痛めたのね。 ……骨が、ちょっと外れた。 脱臼にちょっとはないわ、自分で嵌めたの? ……いつものことだし、もうあんまり痛くないし。 然ういう問題じゃないっていつも言ってるじゃない。 あぁ、やっぱり少し腫れてる……。 ……少しだし、平気だよ。 ユゥ。 ……うー。 脱臼は再発を繰り返す恐れもあるし、骨折を伴う場合だってあるのよ。 現に それ、もう何度も聞いてる。 何度でも言うわ。 本当は自分で嵌めるのだって良くないの。 周囲の血管や神経を傷付けて だったらずっと、あたしの傍に居てくれよ。 脱臼したら、直ぐに嵌めて呉れよ。 ……それは それじゃあ、自分でやるしかないじゃないか。 他にやって呉れるひとが居なければ、自分でなんとかするしかないんだ。 ……。 ジュピターになればどうせ日常茶飯事になるんだ。 いちいち、気にしてなんか…… ……。 ……ごめん、メル。 これじゃ、ただの八つ当たりだ……。 ……顔と肩にお薬、塗るから。 うん、じっとしてるよ。 ……肩は固定しておくけど、無理はしないで。 うん……ありがとう。 ……。 ……ごめんよ、メル。 ううん……気にしないで。 本当のこと、だから……。 ……。 ……胸の痛みは、どう? うん、未だ少し痛むかな……だけど、補強されてるから酷くはなっていないと思う。 ……。 ……メル? 口の中、見せて。 口? ……。 ……。 ……歯が、抜けてる。 あー、ぐらぐらしてたから……まぁ、そのうち生えてくるよ。 ……。 メル……。 ……痣、ゆうべは此処になかった。 ……。 こんな、ぼろぼろで……ここ、まで。 言ったろ。 ……。 ……ゆうべはずっと、メルのことを考えてたって。 けど……。 からだの中が、熱いんだ。 ……。 ……熱くて、熱くて、どうにかなってしまいそうなんだ。 ユゥ……。 ……下も看て呉れるんだろ、言って呉れたら脱ぐよ。 う、ん……。 ……。 ……あの、 謝るのはなしで。 何度も言ってるけど、メルは自分が悪くないのに直ぐ謝るクセがある。 それは……あまり、良くないよ。 ……、 ほら、また謝ろうとした。 ……ごめんなさい。 だから……あぁ、いや、これじゃだめだ。 ……下、脱いで貰っても良い? うん、待ってて。 あ、急がなくても良いから。 急ぎたくもなるよ。 ……。 ……メルは、分かってない。 わたし……。 ……湯浴みをしたメルは、いつもより、美味しそうなんだよ。 …………。 ……くちびるなんて、今直ぐにでも。 ……。 ……あ。 ……。 ち、違う、えと、なんだっけ、こういう時に言うの……えと、えと……。 ……もぅ。 い、色っぽい……つやっぽい……? 知らない、ばか。 あ、あぁ……。 ……。 メ、メル……? ……ユゥの、ばか。 いった! ……ここ、打撲してる。 あ、はい……すみません。 どうして謝るの。 な、なんとなく。 ……膝は擦り傷、足首の腫れは大分引いてる。 爪も、大丈夫……。 ……。 ……ここ、動かしても痛くはない? うん、そこはもうあまり痛くない。 ん、経過も順調……。 ……。 ……良かった、下はそこまで酷くない。 ……。 ……。 ……あの、メル? もう、終わった……? からだ、拭いてあげる。 え。 ……。 あ、あたし、汚い? 一応、水は被ってきたんだけど。 ……私が、したいだけ。 え、えぇ。 ……待ってて。 め、メル、それより……。 ユゥ。 ……はい、待ってます。 ……。 ……失敗、した。 何を失敗したの。 あ、いや、なんでもない。 ……じっと、してて。 う、うん……。 ……。 ……。 ……。 ……? えと、メル……? ……体温が、いつもより、高い。 ……。 ……ねつが、こもっているのね。 ……。 その……くるしい? ……少し。 そう……。 ……ねぇ、メル。 ……。 怒らないで、聞いて欲しい。 ……うん。 ……。 ……。 ……メルのことを、考えると。 ……。 躰の中が、熱くなる……小さい頃から、あったけど……メルの、その、からだに触るようになった頃から、酷くなったと言うか。 じ、実際、それで、自分を抑え切れなくなって、メルに……。 ……。 し、師匠と、鍛錬してる時は、それがどこかに行って呉れるんだけど。 ……。 最近は、特に、酷いんだ……。 す、すごく、言いづらいんだけど……メルの、その………かんがえて、しまって……。 ……。 ゆうべ、も……。 ……あなたのからだのなかのねつを、さますのは。 ぅ……。 ……べつに、わたしでなくてもいいの。 な、なにを……。 ……ねぇ、ユゥ。 な、に……。 ……わたしのこと、すき? す、すきだよ。 ……わたしいがいのひとに、からだを、さわらせたくない? さ、さわらせたくない、だからきのう、そうきめた……。 ……。 メ、メル……も、ぅ。 ……わたしを、あなたに、あげる。 ぇ……。 ……ちいさいころから、そう、きめてた。 ……! わたしは、あなたがすき……だから、あなたにあげたい。 メ、ル……。 めいわくかも、しれないけど……。 迷惑な、わけ……ッ。 ……もらってくれたら、うれしい。 あ、あぁっぁぁ……! ……。 ……もう……おさえ、きれない……。 …………ユゥ。 メル……あたし……あたしが、もらっても、いい……? うん……ユゥが、のぞんでくれるなら。 ……っ。 あなたのねつを、さましてあげたい……これからも、ずっと……わたし、が、あなたの。 ……。 ユゥ、わたしを……。 ……いい? ……。 もう、いい? がまん、しなくていい? ……ん、しないで。 や、やさしくする、やさしくするよ。 するから、だから。 ……あなたはいつだって、やさしいわ。 はぁ……、は、ぁ……。 ……抱いて、ユゥ。 -余燼(パラレル) ……。 ……。 ……ん、ぅ。 ……。 はぁ……。 ……お早う、亜美さん。 おはよう、ございます……。 と言っても、未だ薄明の頃なんだけどね。 ん……。 はは、未だ眠たそうだ……。 ……まことさん、はたけは。 畑? ……朝、いつも早いですよね。 あぁ……なに、日の出はもう少し後だし。 今日はちょっとだけ寝坊ってことにしておくよ……。 ……いいの? そういう日もあるさ……生きていれば、ね。 ……。 からだ……どこも、おかしいところはない? ……? からだ……? ……痛いとか、気持ちが悪いとか、どこか不快だとか。 ……。 その……こういうことは、はじめてだから。 ……はじめて? 力の加減が出来ていたか……ちょっと、分からなくて。 あたし、常人よりも力が強いから……若しも、どこかおかしなところがあるなら……。 んん…………。 ……ある、かな。 不快では、ないのですけど……違和感、なら。 違和感……痛みでは、ない? ……痛みでは、なくて。 なんでしょう……初めての感覚で、なんと言って良いか分からない……。 はじめて……。 ……。 ……そっか。 ん、まことさん……。 ……大夫の髪の毛は、きれいだね。 かみのけ……。 柔らかくて……指で掬えば、指の間をさらさらと流れていく……。 ……。 瞳の青は、まるで蒼玉のようだ……あたしの心を、惹き付けて止まない……。 ……そんな。 肌も白くて……雪のよう。 すごく滑らかで……こういう肌のことを、玉のような肌って言うのかな……。 あの、まことさん……。 ……そうそう、肌肉玉雪って言うんだっけ。 褒め過ぎ、です……。 ……。 あ……ん。 ……うん、ついた。 また……。 ……大丈夫、ここなら隠れて見えない。 然ういう問題じゃ……何か所、つけるつもりなのですか……。 つけられるだけ、かな。 ……これ以上は、だめです。 うん?若しかして、数えてた? ……。 ……桜色になった。 兎に角、もうだめです……。 分かった……じゃ、これで最後にするよ。 あ……っ。 ……うん、今はこれでお仕舞い。 も、ぅ……。 ……消えた頃にまた、付け直すよ。 ……。 ……ね、大夫。 もう、知りません……。 ……拗ねてる大夫も、可愛いな。 拗ねてなんか。 ……これは、驚いた。 何がですか。 大夫でも口を尖らせることなんてあるんだなぁ。 まるで小姑娘のようで……なんだか、悪いことをしている気分になる。 ……っ、もうっ。 お、と。 まことさん。 あはは……ごめん、ごめん。 ……。 ごめんよ、大夫……もう、言わないから。 ……そんなこと、言って。 揶揄ったことは、謝る。 どうか、許して欲しい。 ……。 どうか……どうか。 ……もう、言わないで。 うん、言わない……。 ……。 ……愛らしいと言うのは、だめ? …………それ、小姑娘扱いしていませんか。 してない、してないよ。 それに、大人にだって言うだろ? ……どちらかと言うと、うさぎちゃんや美奈子ちゃんのような、 うさぎちゃんは分かるけど、美奈は違うな。 ……私が言いたいのは、然うではなくて。 ねぇ、だめかな……。 ……いい歳をした女に向けて、使う言葉じゃありません。 歳なんて、関係ないさ。 ……関係、あります。 ないよ。 幾つになろうが、関係ない。 ……自分が言われても、然う思えますか。 うん? まことさんは、可愛いひと。 ……うん? 私が見てきたひとの中で、最も愛らしいひと。 ……。 これ程までに愛おしく思えるひとと、出逢ったのは……生まれて、初めて。 ……ええ、と。 どこか、あどけなくて……正直で、誠実で、少しだけ不器用で、誰よりも真っ直ぐで。 村の人はあなたのことを朴念仁とか朴訥とか言うけれど……本当に、然うだったの? あ、あたしは、あまりひとと関わろうとしてなかったから……ひとが、苦手なんだ。 然うは、思えないわ。 だって、こんなに懐こくて愛らしいのに。 あ、愛らしいは、違うんじゃないかな……他も、褒め過ぎだけど。 ううん、違わないわ。 だってあなたの笑顔は、本当に。 う。 ……本当に可愛らしくて、愛おしい。 あなたが幾つになっても、おばあちゃんになっても……私は屹度、然う、思うでしょう。 …………。 ……ね、どうですか? あ、いや……これは、かなり……。 でしょう? ……けど。 けど? ……大夫に、言われるのなら。 ……。 は、恥ずかしいけど……悪くはない、よ。 ……。 だ、だからさ……あたしも、言いたいな。 いや、どうしても嫌だって言うなら……言わないように、努力はするけど。 ……。 ね、良いだろ……。 ……小姑娘のようは、やめて。 うん……? ……流石に、それは。 あぁ……分かった、それは言わない。 ……絶対、ですからね。 うん、絶対……。 ……。 ねぇ、大夫……もう、一度。 ……や。 ん……? ……いや。 あ、あぁ……分かった、もうしない。 ……。 けれど、大夫……これっきりなんて、どうか、言わないで欲しい。 どうか、どうか……。 ……と、呼ばないで。 え……なに? 大夫と、呼ばないで。 ……。 ……お布団の中では、然う、呼ばないで。 うん……亜美さん。 ……。 ん……。 ……もう一度、聞かせて。 もう一度……? ……。 ……なにをだい? 分かってるんでしょう……? ……間違ってるかも知れない。 思っていることを、聞かせて……。 ……間違っていても、怒らない? それは……どうでしょう。 えぇ、だったら言い難いな……。 ……ふふ。 亜美さん……。 ……聞かせて、もう一度。 ……。 もう、一度……。 ……好きだよ。 ……。 好きだよ、亜美さん……。 ……まこと、さん。 二度も言ってしまったけど……合ってた? ……。 間違ってた、かな……。 ……ねぇ。 ん……? ……消えてしまう、前に。 ……。 つけて……あなたの、あと。 ……幾つでも。 ぁ、ん……っ。 ……同じ場所、だから。 数は、増えてない筈だよ……。 ……今とは、言ってない。 いや、ひとつだけでも濃くしておこうかと思って。 ……。 これ……どれくらいで、消えてしまうものなのかな。 ……これだけ強く吸われたら。 うん……? ……恐らく、一週間くらいは残ってしまうわ。 一週間かぁ……長いようで、短いか。 いや、短いようで、長いかな……。 ……。 ね、どっちだと思う? ……知りません。 あれ、不満そう……? ……いいえ。 ふふ……かわいいな。 ……まことさん? はは、ごめんごめん。 ……もぅ。 ね、消えてしまう前に新しいのを望むと言うなら……良いって、ことかな。 ……何が、ですか。 その……しても。 ……。 だって、然うだろ……? ……知らない。 消えてしまう前に、と言ったのは……亜美さんじゃないか。 ……。 ね、亜美さん……。 ……まことさんの、ばか。 うん、ごめんなさい……。 ……。 ……ところで、さ。 ……。 ……合ってた? それとも、間違ってた……? ……。 もう、だめ……かな。 ……、ない。 と……。 ……だめじゃ、ない。 ……。 ……顔、だらしないことになってますよ。 そりゃ、なるよ……ならない方が、どうかしてる。 ……。 ね……数、増やしてしまうと思うけどいい? ……つけないで。 む……。 ……見えるところ、には。 あぁ……。 ……。 だけど、ひとつくらい……見えるところにも、つけてみたいな。 例えば……、 ……ぅ……。 ここ、とか……。 ……だめ。 はは、やっぱりだめかぁ……。 ……。 ふふ……好きだよ、亜美さん……大好きだ。 ……あぁ。 ね……あたしにも、聞かせて欲しいな。 同じ言葉を……あたしにも。 …………わかった。 うん……。 ……これは、きっと。 ……? 亜美さん……? ……余韻、だわ。 よいん……? て、なんのこと……? …………そういう、ことなのね。 ええ、と……。 ……好き。 わ……。 好きよ……まことさん……。 ……うん。 ……。 ……気になるかい? ……。 さっきから、ずっと、なぞってるだろう……? ……ごめんなさい、くすぐったいですよね。 うん、まぁ……少しね。 ……。 良いよ……そのまま、続けても。 ……けど。 良いんだ、亜美さんの好きにして欲しい。 ……。 ……。 これは……かたなきず、ですか。 うん……然うだよ。 これは、しょうきゅう……つききず……ほかにも……こんなに……。 ……全部、戦で出来た傷だよ。 いくさ……? ……然う、戦。 まことさん、は……。 ……防人、だったんだ。 さきもり……て、あの。 他には、ないかな。 ……然う、ですよね。 驚いた? ……ごめんなさい。 はは、良いよ……覚悟は一応、してたから。 ……痛み、ますよね。 いや、今はもう痛むことはないよ。 昔の傷だからね。 ……そんなこと、ない。 うん……? 古い傷は……時折、思い出したように痛むものです。 季節の変わり目、雨が降る前、寒さで躰が冷えた時……ひとによって、違うけれど。 ……。 本当に痛むことは、ないのですか。 痛むのだったら、私に 見せたくなかったんだよ、亜美さんには。 ……それは、どうして。 好きだから。 ……。 見せたくないし、見られたくもなかった……こんな傷だらけの、躰なんて。 怖がられても嫌だし、若しも気持ちが悪いなんて思われて、避けられることにでもなったら……立ち直れないと、思ったし。 ……そんなこと、しません。 ……。 私は、しないわ。 ……それは、亜美さんが医生だから? それは……それも、あります。 だけど、それ以上に……。 ……。 ……あなたのことが、好きだから。 そっか……。 だから、痛む時は だけど、最初からじゃなかったろう……? え……。 その気持ちは。 ……。 それに……気持ちが通じ合っていても、やっぱり怖いものだよ。 好きなひとに、こんな傷痕を見せるのは。 まことさん……。 ……もう少し、続けるかい? ……。 はは……ちょっと、くすぐったいな。 ……私は、最初から。 ん、なんだい……? ……これからは、我慢しないで。 ……。 痛む時は診せて下さい。 ……痛むことなんて、ほとんど お願いです。 ……。 ……無理は、しないで。 痛む時は、温めるんだ。然うすれば、幾らかは和らぐから。 だから、亜美さんの手を煩わせずとも 煩わせるなんて、言わないで。 ……。 ……お願い、言わないで。 参ったな……本当に、大丈夫なのに。 ……薄々、感じてはいたんです。 なにを……? ……あなたは自分の躰に対して、どこか無頓着なところがあると。 ……。 この額の傷も、然う……ひとつ間違ったら、痕になってしまうのに……それなのに、あなたは。 ひとつやふたつ、増えたところで問題ない。 今更、変わらない。 そんな考え方のままだったら、 傷痕が残ろうが、肌が焼けようが、腕が捥げようが、足を切り落とされようが、目を抉られようが、骨が砕けようが、 いつか、いつか、 死ぬことは、怖くない。 やめて。 死を恐れていたら、戦えない。 何も守れない、敵人を、殺せ やめて、まことさん。 ……。 お願い、やめて……。 ……なんて、さ。 然う考えてたんだよ……昔は、ね。 昔……? ……今はもう、違うつもりだよ。 ……。 けど、傷に対しては確かに無頓着かも知れない。 これからは、気を付けるし……改めようとも、思う。 まことさん……。 ……亜美さんと、生きていきたいからさ。 わたし、と……。 自分でもこんな風になるとは、思わなかった。 あたしはさ、朴念仁で朴訥な人間だったから。ひとと関わるのが嫌で、村の皆ともあまり口を利かなかった。 それが今じゃ、こんなだ。 ……。 亜美さんに……一目で、心を奪われて。亜美さんのことばかり、考えるようになって。 話をしてみたくて、笑顔が見てみたくて、近くに行きたくて、少しでも長く、一緒に居たくて。 兎に角、どうにかしたくて……空回りばかり、して。 そのせいで、美奈には笑われてばかりいてさ……けど、何も言い返せないんだ。 本当のこと、だから。 ……。 己の躰の傷を気にし始めたのも、亜美さんと出逢った頃からだ。 こんな傷だらけの躰を見せたら、どう思われるか……そんなの、今まで考えたこともなかったのに。 今思えば、莫迦みたいだ……だって、然うだろう? 亜美さんには己の想いすら伝えていない、伝えたところで叶うかどうかも分からない。 そもそも亜美さんは医生なのだから、こんな躰を見たところで……医生として、対処するだけだろうに。 ……。 ……そのうち、夢にまで見るようになった。 夢と言えば、あの頃のことばかりだったのに……。 ……。 仮令、醜い傷痕を見せることになっても……それ以上に、亜美さんのことが欲しかった。 欲しくて、欲しくて、夢にまで、見て……。 ……。 滑稽だ、本当に……笑う美奈に返す言葉なんて、あるわけない。 何処を探したって、見つかるわけがない……。 ……まことさん。 ねぇ、亜美さん……あたしの躰、醜くないかな。 ……醜くなんか、ないわ。 それは、亜美さんが医生だから然う言って呉れるんじゃないの? 見慣れて、いるから……だから。 違う。 ……。 確かに私は医生だから……そのたまごの頃から、傷痕を多く残す躰を見てきたわ。 故に、それに対して美醜を感じることもない。あるのはただ、診療の対象だと言うことだけ。 だけど、まことさんに抱くこの感情は……そういうものとは、違う。 ……ぅ。 醜いなんて、思わない。 これは、見慣れてるからじゃない。 医生だから、じゃないの。 ……亜美さん。 どうか、分かって……どうか、伝わって。 ……。 私は、あなたが……あなたのことが、好 ……。 …………まこと、さん。 痛むんだ。 ……。 雨が降る前や、冷え込んだ朝に……その時は亜美さん、診て呉れるかい……? ……はい、勿論です。 じゃあ、これからはお世話になろうかな……。 ……なろうかな、じゃなくて、必ず診せて。 はい、分かりました……。 ……今は、大丈夫ですか。 今……? 季節の変わり目、ですから。 言われてみれば、確かに。 若しも、少しでも痛むのなら。 ありがとう、でも今は大丈夫だよ。 本当に? あぁ、本当だ。 痛むようだったら、直ぐに言うから。 約束、して呉れますか。 うん、するよ。 ……良かった。 ……。 ん……まことさん。 ……どうしよう、か。 もう、日の出の頃は過ぎたのだけれど……。 ……。 あの……お腹は、空いてないかい? お腹、ですか……? うん、空いたかなぁって。 ……いえ、特には。 そっか。 まことさんは空きましたか……? いや……あたしも、然うでもないかな。 ……ね。 ん、なに……? いつもだったら、畑で作業をしている時間ですよね……。 あぁ……然うだね。 ……良いのですか? あぁ……良いんだ、今日くらい。 こんな日はもう、ないのだからさ……。 ……? 初めての朝は……今日だけ、だから。 ……。 だろう……? ……然う、ですね。 だから……良いんだ。 あの……朝食の支度は。 ……。 ん、まことさん……。 ……いつも、だったら。 ……。 空が白む頃に起きて、身支度をする。身支度が済んだら、先ずは畑に。 少し作業をして、それからごはんを食べる。 普段の今頃だと、畑で作業をしていて……朝餉には未だ少し、早い。 ……。 亜美さんの、朝餉の時間は……。 ……もう少し、遅いです。 そうそう……同じ頃合い、だったっけ。 ……はい。 ね、朝餉は何が良い……? ゆうべはご馳走になったことだし……今朝は、あたしが作るよ。 ありがとうございます……でも、私が作ります。 作らせて、欲しいんだ。 けれど、まことさんは畑に行った方が……今朝はいつもよりお寝坊をしているのだし。 作業する時間を少しでも取った方が良いと思います。 ……。 まことさんが畑に行っている間に、作っておきますから……。 ……甘えてしまっても、良いかな。 はい……もちろんです。 その代わり、今夜はうちに来て欲しい。 え……。 ね、良いだろう? ……え、と。 なんなら、そのまま泊まって呉れても……。 ……。 あ、いや……流石に、だめかな。 ……ふふ、まことさんったら。 け、けど、ごはんは良いだろう? 一緒に食べたいんだ。 ……はい、喜んで。 よ、良かった。 ふふ……。 ……。 ……ねぇ、まことさん。 なんだい……亜美さん。 ……瞳を、よく見せて。 瞳……あたしの目、どこか悪いところでもあるかい? ううん、違うの。 ただ、あなたの瞳が見たいの。 ん、分かった……。 ……。 ちょっと、照れるな……。 ……あぁ、やっぱり。 ん、なに……? ……あなたの瞳は、翠玉のよう。 すいぎょく……って、あの翠玉? とても、きれいな色……。 いや、翠玉は言い過ぎじゃないかな……あたしの目は、そんな大層なものじゃないよ。 いいえ、いいえ、とてもきれいです。 若しかしたら、翠玉よりも……。 いやいや、それはないと思うな……。 ……いけませんか? え? 然う、思っては……いけませんか。 い、いや、いけなくはないけど……。 ……じゃあ、良いですよね。 うん、まぁ……良い、かな。 ずっと。 ……? ……ずっと、この瞳に映して欲しかった。 ……。 叶って、嬉しい……。 ……。 ……。 ……ねぇ、亜美さん。 はい……。 ……起きる時間は、疾うに、過ぎているし。 それこそ、腹の音が鳴ろうものなら、酷く間抜けなんだけど……。 ふふ……然うですね。 ……それでも。 ……。 もう一度……もう一度、だけ。 ……はい。 い、良い……? ……もう一度だけ、なら。 あ、あぁ……。 ……今朝はふたりでお寝坊、ですね。 うん、然うだね……だけど、こんな日もあるさ。 ……生きて、いれば? うん、然うだよ……それに、さ。 初めての朝は……今日だけ、だから。 うん……。 ……ん、……まことさん。 何度も、言ったけど……。 ……何度でも、聞かせて。 好きだよ……亜美さん。 ……ん。 亜美さんは……。 ……わたし、も。 ……。 す……ぁ……。 ……愛してる。 まこ、と……さん……。 ……ずっと、そばにいて。 -契りを籠む(原初) 来い! ジュピター!! ……。 ん、好し。 ……此れが。 メル、改めて紹介するよ。 此れが、ジュピターだ。 歳星の、蒼龍……。 此れは私が卵から孵し、仔の頃より育てた龍。 言わば、妹の様な存在だ。今の所、私にしか懐いていない。 ……玄武、いえ其れ以上に。 ジュピター、彼女はメルクリウス。 私の生涯の伴侶に為るひとであり、お前にとっては二人目の主人と為る。 若しも粗相を働こうものなら、お前と雖、も……? え……ぁ……。 おい、こら! 何をしている、ジュピター!! ……っ。 離れよ、ジュピター!! 離れぬと言うのなら、お前と雖も容赦はせぬぞ!! ……ユ、ユ……ゥ……。 おのれ……其の様なこと、私だって未だにしたことがないと言うのに。 そ、然うじゃ、ない……でしょ、う……。 ……。 ……あ。 離れよ、ジュピター。 然もなくば……斬る。 ま、まって……まって、ユゥ……はやまら、ぁ、ん……。 其の舌、斬り刻んで……!! ま、まって…! 聞けぬ! だめ、だめよ……!! だが! わたしは、だいじょうぶ、だから……ん……。 ……私が大丈夫ではない、叩っ斬る。 あなたの、いもうとご、でしょう……? もう、すこしだけ、まって……ね……? 然しだな……! はなれて、ジュピター……いいこ、だから……ね。 待って十秒だ。 其れ以上は、待てぬ。 さぁ、ジュピター……。 ……五、六、……八、 そう……いいこ、ね……。 ……十、斬る。 待って、ユゥ。 もう、待たぬ。 ほら、見て? ジュピターは、とても良い子ね。 む……。 貴女は、私を歓迎して呉れたのよね。 私が……其の、ユゥの生涯の伴侶に為るかも知れないから。 ……。 ユゥ、ジュピターを怒らないであげて。 ね。 ……然し。 此の子は 面白く、ない。 ……。 ……凄く、面白くない。 もう……ユゥったら。 だ、だって、然うだろう? 私は、く、口付けすら、未だに、させて貰えないのだぞ?! 最近になってやっと、やぁっと、手を繋げるようになって! あ……ふふ、可愛い子ね。 あーー! あーーーーー!! ユゥ、声が大きいわ。 ジュピターが……ふふ、笑ってるじゃない。 お前、お前と言う奴は!! 仕方のない主人ね。 ね、ジュピター。 メ、メル、こいつを此れ以上甘やかして呉れるな。 付け上が……だからだなぁぁぁ!! くすぐったい……あ、そこはもうだめよ、ジュピター。 ……我が守護、歳星。 あ。 嵐を起こせ、雲を呼べ、雷を ユゥ。 …………。 そんなに、怒らないであげて? ……然し、どうしても、面白くないんだよ。 そんなに……? 惚れた女が、目の前……で。 ……。 ……。 ……ユゥ。 メ、ル……。 ……機嫌、直して? あ、うん……もう、直った。 ……単純。 メル、もう一度……。 ……もう、だめ。 いや、でも ジュピターが、見ているわ。 だったら、私の部屋で 紹介して呉れる為に、此の子を呼んだのでしょう? 其れなのに……邪険にしたら、この子に失礼だわ。 ……ならば。 うん? ジュピター、屈(かが)め! ……。 さぁ、メル。 ジュピターの背に乗って、共に空へゆこう。 空に? あぁ、然うだ。 そして……続きを、しよう。 ……其れは、出来ないわ。 どうして。 シュピターの背に乗って仕舞えば、 空へゆけるのならば……此の星を、ちゃんと見てみたい。 此の目で、見ておきたいの。 いや、幾らでも見られるだろう? いいえ……見られないわ。 此の星が見たいのならば、日を改めても良い。 明日でも、明後日でも、何時でも、君が望む時に。 今日が良いの。 今日じゃなきゃ、だめなの。 どうして今日に拘る? 今日でなくてはいけない理由があるのか。 理由……。 何故、今日でなくてはいけない? 教えて呉れ、メル。 ……。 メル、私はどうしても君のことが欲しいんだ……。 どうしても、どうしても……欲しくて、欲しくて、たまらないんだ……。 ……ねぇ、ユゥ。 ……。 ユゥはどうして、私のことが欲しいの。 其れは……君のことが、好きだから。 其れは、今日でなくてはいけないの。 其れ、は……叶う、なら。 本当に……。 ……どうしても、だめなのか。 ……。 メル……君は、 お願い、ユゥ。 ……。 貴女が生まれた此の星を。 貴女が守っている此の星を……貴女と今、見たいの。 ……。 どうか……私の願いを、叶えて。 ……ならば、せめて。 ん……ユゥ。 口付けを、許して欲しい……。 ……。 お願いだ……メル。 ……今は、未だ。 ……っ。 ……ごめんなさい。 然う、か……分かった。 ……。 ……ジュピター、待たせて悪かった。 あぁ、そんな目をするな……余計に、惨めに為るだろう。 ……ユゥ。 ちゃんと、連れてゆくよ。 一緒に見よう、此の星を。 ……ありがとう。 礼なんて、要らない。 将来の伴侶の願いを叶えるのは、当然のことだから。 いいえ、伴侶だとしてもお礼はちゃんと言うべきよ。 ……空、は。 ……。 風が、強いけど……私が支えるから、心配は要らない。 が、それでも、万が一と言うことがあるから……嫌でなければ、メルも私に躰を預けて欲しい。 その方が、安定するんだ……だけど嫌だったら、無理強いは、しない。 ううん、貴女に預けるわ。 ……。 ……此の躰を、貴女に。 やめて……メル。 ……ユゥ? 私は、単純だから……直ぐに、期待してしまう。 今だって……預けて貰えるのが嬉しくて、心が震えてるんだ。 ……。 メルには、分かるかい……? ……私、は。 さぁ、手を……共にゆこう、空へ。 ……。 メル……? ユゥ。 ……。 帰って、きたら。 ……。 ……かえって、きたら。 メル……時間が、勿体ない。 此の星は、広大だ……全てを見て回るとしたら、かなりの時間が掛かってしまう。 其れこそ、今日一日だけでは到底 続きを、しましょう。 ……え。 貴女の、部屋で……続きを。 なに、を……。 ……。 いや、でも、メル……。 ……それとも、もう、要らない? そんなわけ……ッ。 ……。 い、言ったろう……? 私は単純だから、直ぐに期待してしまうって……。 だから……そんなことを言われたら、 期待して、いい。 な……。 ……ね、ユゥ。 だ、だけど、今は未だ、だめだと……。 ……私は、あなたが、好き。 ……! 好きよ……ユゥ。 ……。 だか、ら……ん、……ん……。 ……。 ……っん、……だ、め……。 ……君が、好きだ。 ……。 君が好きだ……大好きだ。 ……かえってきたら、と。 帰ってきたら……直ぐに、君を部屋へ連れてゆくよ。 ……。 そして……此の続きを。 ……ユゥ。 あぁ……。 ……待たせてしまって、ごめんなさい。 いや、良いよ……。 ……ぁ。 いいにおいが、する……。 ……わがままを聞いて呉れて、ありがとう。 こんなの、わがままのうちに入らないさ……。 ……でも、待たせてしまったわ。 ずっと、待ってたんだ……これくらい、なんてことない。 なんてこと、ないんだけど……。 ……けど? 一緒にしたかったな……湯浴み。 ……。 ね、次は……一緒に、どうかな。 ……ばか。 それ……肯定と、受け取っても良い? ……知らない。 ふ……。 ……なに。 かわいいな……。 ……かわいくなんか、ないわ。 そういうところ、も……。 ……。 たまらなく、かわいいんだ……。 ……も、ぅ。 はは……。 ……ユゥも、いいにおいね。 そう、かな……。 ……えぇ、とてもいいにおい。 メル……。 ……安心、する。 うれしいな……。 ……ね。 ん……? ……貴女の星を、見せて呉れてありがとう。 全てを見せてあげることは出来なかった……だからまた、ふたりでゆこう。 ……つれていって、くれる? あぁ、もちろんさ……。 ……ん。 ねぇ、メル……。 ……なぁに。 どうして、ゆるしてくれたんだい……? ……。 若しも無理を、しているのなら……今なら、未だ。 ……今日は、今日しかないから。 うん……? 今日、欲しかったんでしょう……? ……叶うなら。 だから……。 ……メルは、今日に拘るんだね。 ……。 どうしてだい……? ……辰星の民は、短命だから。 ……。 明日が、来るか……分からないから。 ……あぁ。 だから……今日出来ることは、今日、しておきたいの。 ……仮令其れが、望んでいないことだとしても。 ……。 若しも、君が私を欲しくないと言うのなら……む。 ……言ったでしょう。 ……。 ……あなたのことが、好きなの。 ……。 そうで、なければ……こんな、こと。 ……ごめん、メル。 ……。 考えてみれば……歳星の民の命も、同じだ。 ……。 が、此の星の民はのんびりしているから……君の様に考える者は、少ない。 ……あなたも? あぁ………けれど、此れを機に改めようと思う。 ……いいわ、改めなくても。 でも……。 ……あなたのそういうところも、好きだから。 のんびりしてるところが、かい……? ……ええ。 そう、か……では、このままで居よう。 ……。 ありがとう、メル……私の想いに、応えて呉れて。 ……。 ……。 ……つれて、いって。 あぁ……喜んで。 ……。 ……メルは軽いね、まるで羽根の様だ。 それ……出逢った時にも、言われたわ。 うん、然うだったな……。 ……いきなり、抱き上げられたから。 あの時は……。 ……本当に、驚いたのよ。 躰が勝手に動いてしまったんだよ……。 ……生まれて初めてだった、あんなことをされたのは。 然うか、其れは嬉しいな……。 ……どうして? だって、君の初めてを貰えたと言うことだろう……? そんなの、嬉しいに決まっているじゃないか……。 ……。 ん……メル? ……あなたはいくつ、私の初めてを奪うのかしら。 うん……? ……。 メル……? どうした……? ……ううん、なんでもないわ。 ちょっと……心が、落ち着かないみたい。 然うか……。 ……変ね、然う遠い昔のことではないと言うのに。 ……。 懐かしく、思うなんて……。 ……でも、分かる気がするよ。 あなたも……? ……うん、なんでだろうね。 分からないわ……。 ……さぁ、ついた。 ……。 こわい……? ……すこ、し。 私もだよ……。 ……だけど、あなたは。 初めてだよ……心から惚れている女を、抱くのは。 ……。 ……? メル……? ……気にしないなんて、言ったけど。 ん……。 ……やっぱり、少し、いや。 あぁ……。 ……な、に。 どこまでも、かわいいな……。 ……かわいく、なんて。 やさしく、する……。 ……あ。 きれいだ……メル。 ……あまり、みないで。 むりだ……めが、はなせない。 あ……いや。 ……メル、……メル。 あ……っ。 ……あいしてる。 や……。 ……あいしてるよ、メル。 ユ、ゥ……。 ……。 ……だ、め。 え……。 ……。 メル……。 ……くちづけ、して。 ……。 さいしょ、は……。 ……ん、わかった。 ……。 これで、いいかい……? ……きかない、で。 うん……。 ……あぁ。 メル……いや、メルクリウス。 ……。 此の身も、此の心も、君だけのものだ……。 ……ずっ、と? あぁ、然うだよ……ずっと、ずっと、君だけのものだ。 ……。 ん……。 ……ユピテル。 なんだい……。 ……われ、あなたを、あいす。 ……。 いのちは、めぐる……されど、おもいはかわらず。 ……われ、きみを、あいす。 ……。 このおもいは……とわに、かわることなく。 ……あなたの、そばに。 きみの、そばに。 ……えいえんの、ちぎりを。 いま、かわそう……しんせいの、ひめぎみ。 はい……あなた。 |