-Waterfall from Koudelka(現世1) はぁ。 ……どうだい? ん……大分。 落ち着いた、かい? ……進化を止めた生物に存在意義ってあるのかしら。 んー、然うだなぁ。 ないとは言わないけれど、生物としてそれで良いのかとは思うかな。 人類の宇宙進出……かつては、あんなに夢見ていたと言うのに……それこそ、軍事利用をしてまで……。 軍事利用か……民生用の製品や技術でも、結局、転用可能なんだよなぁ。 戦争は、起こしてはいけないけれど……それで発展してきたのも、また、事実だし。 若しも、火星への植民が……あの環境の中で、移住は可能かどうか……様々な研究も、されて……。 実現していたら、今頃、どうなっていたんだろうねぇ。 やっぱり、ひとりくらいは向こうに行くことになってたのかなぁ。 となると、有力な候補はひとりだけれど……どうだろ。 ……矢張り、生物は停滞すべきではないわ……進化を、止めてはいけないのよ……。 ところで。 ……。 寒くは、ない? ……おかげさまで。 それなら、良かった。 ……あなたは、大丈夫なの。 うん、誰かさんの躰が熱いからね。 ……。 お喋りして……気分、少しは紛れたかい? ……あまり。 だよねぇ。 ……失敗、したわ。 度数が、マーキュリーにはちょっと高かったね。 一杯だけなら、と思ったのが……間違い、だった。 けど、珍しいね。 ……飲みたくて、飲んだんじゃない。 知ってるよ。 ……やっぱり、好きにはなれないわ。 良いんじゃないかな、別に。 無理して好きになるようなものではないし、さ。 ……心臓の動きが、鬱陶しい、気持ち悪い。 いっそ、止めて、しまいたい……。 うん……未だ、駄目そうだね……。 ……ジュピター。 もう少し、夜風に当たってる? それとも……部屋に、一旦戻ろうか。 ……けど。 それにもう、伝えてあるから……抜け出しても、大丈夫だよ。 マーキュリーもあたしも今回の持て成し担当ではないし、終わる頃に、何食わぬ顔で戻っていればそこまでは問題にならないってさ。 ……いつの間に。 で、どうする……? ……。 分かった、それじゃあ戻ろう。 ……戻るなんて、言ってない。 顔が、言ってる。 あたしと戻りたいって、さ。 ……ジュピターは、 こんなマーキュリーを、ひとりにはしておけないよ。 ……ふたりも、抜けたら。 大丈夫。 ……ん。 ヴィーが、居る。 ……あぁ。 あいつに任せておけば、まぁ、大丈夫だろ。 マーズも居ることだし、ね。 ……後で、何か要求されそうね。 ケーキでも焼いてやるさ、酒入りのね。 ……どうして、あんなに飲めるのかしら。 体質もあるけど、何より、好きなんだろ。 ……。 じゃ、戻ろうか。 ……自分で、歩けるわ。 良いから、良いから。 ジュピターは、マーキュリーを守るものだからね。 ……来賓客に、見られるわ。 宴もたけなわ、誰も見てないさ。 それに今回は非公式で近しい人達の方が多いし、見られたところで、 それでも、いや。 ですよね。 ……。 さ、マーキュリー。 ……せめて、目立たないようにして。 はい、分かってます。 ……。 ……よし、それじゃあ行こうか。 はぁ……。 ん……息が、熱い。 ……かがないで。 かいでは、いないけど……。 ……。 いや、だからって、呼吸を止めなくても。 ……だって、嫌いなんだもの。 昔から、苦手だったもんなぁ。 ……もう、飲みたくない。 んー……然うだねぇ。 ……はぁ。 ん……フルーティーなにおい。 ……まこちゃん。 お、と。 ……まこちゃんも、飲んだのでしょう。 度数が低いのを……少しだけ、ね。 ……。 あたしも、あまり得意ではないから。 ……嘘吐き。 嘘は言ってないよ。 あたしの体質は良く、知ってるだろう? ……味は、嫌いではないくせに。 まぁ、然うなんだけどねぇ。 ……。 よし、うまく抜け出せた。 ……ねぇ。 ん? ……早く、連れて行って。 お……。 ……静かなところに、お酒のにおいがしないところに、早く行きたい。 早く、ふたりきりになりたい……? ……そこまでは、言ってない。 言ってないだけ、じゃなくて……? ……ばか。 はは。 ……早く。 分かった……任せて。 でも、走っては…… ……早歩きは、得意なんだ。 しって、る……。 ……お、と。 へやに、ついたら……。 ……。 こえを、かけて……。 ……ん、分かった。 ……。 それまで、ゆっくりしてて……亜美ちゃん。 ……ん。 ……亜美ちゃん。 ……。 亜美ちゃん。 ……ついた、の。 うん。 ……そう。 着いて、30分くらいは経ってるけど。 ……。 ん? ……着いたら、声を掛けてって言ったじゃない。 掛けたんだけど……よく、寝てたから。 それでも、よ。 良く眠ってるのに起こすのはなぁって。 けど、それでも声は掛けたよ。 何回? 耳元で、小さな声で、三回ほど。 ……。 あっと言う間だったよ、落ちるの。 疲れが、出たんだろうね。 ……本当に、失敗した。 大丈夫さ、未だ終わってないから。 ……然うだとしても。 ついさっき、マーズが様子を見に来たよ。 直ぐ、戻っちゃったけど。 ……それで? 眠ってるって言ったら、無理はしないで良いわ、だってさ。 ……。 マーキュリーはもう、仮令こういう席であっても、飲まない方が良いね。 ……言われなくても、もう二度と、飲まないわ。 お菓子だったら、未だ、平気なのにね。 あ、でも、サヴァランとかキルシュトルテとかは苦手か。 ……はぁ。 お水、飲む? ……飲む。 じゃあ、はい。 ……。 隣、座っても良いよね。 ……良いけど。 ん。 ……。 どうだい、気分は。 ……最悪。 はは、だと思った。 ……。 心臓の方は、どうだい? ……少し、落ち着いたと思う。 止めたいとは? ……もう、思ってないわ。 あぁ、良かった。 ……。 お腹は、すいてない? ……すいてない。 そっか。 ……けど。 けど? ……まこちゃんが作ったスープが、飲みたい。 よし、任せろ。 え。 え? 今から、作るの? 然うだけど? でも未だ、公務ちゅ…… ……。 ……う。 ……うん、酒のにおいがする。 ……。 卵スープぐらいなら、そんなに時間は掛からないよ。 ……材料、あるの。 こんな時の為に、用意しておいた。 卵にごま、醤油に塩胡椒、それから鶏ガラスープの素。 ……。 卵に含まれるアミノ酸が、アルコールから亜美ちゃんの肝臓を守って呉れて、二日酔いの予防にもなるってわけさ。 ……しってる、けど。 あ、卵スープじゃない方が良い? ……ううん、それで良いわ。 うん、それじゃ。 ……公務中、なのに。 気にしない、気にしない。 そんなわけには、いかないでしょう……。 ねぇ、亜美ちゃん。 ……な、 ……。 ……まこ、ちゃん。 ね、どうして飲んだの……? ……。 いつもだったら、飲まないのに……どうして? 一緒に居たの、なかなか顔が整ったひとだったよね……? ……。 若しかして、そのひとに、勧められたから……? ……違うわ。 へぇ……? ……そんなわけ、ないでしょう。 それじゃあ、なんで……? ……。 亜美ちゃん……? ……少し、腹が立って。 うん……? 酔っているとは、言え……まこちゃんと、私のこと。 ……。 未だ、然ういうひとが居るのかと思ったら、無性に。 だから、目の前で一気に飲み干して、立ち去ってやろうって。 なんだい、それ……。 ……何よ。 すっごく、腹立つな。 ……。 どうせ、乗り換えれば良いとか言ってきたんだろ、どこのどいつだ。 ええ、と……。 でもね、亜美ちゃん。 そんなくだらないことに、乗っては駄目だよ。 それが向こうの手口かも知れないからね。 うん、然うね……。 まぁ、あたしが傍に居るから、そんなことには絶対にさせないけど。 ……。 あたしの亜美ちゃんを口説こうなん、て……。 ……ふふ。 えと……亜美ちゃん? ……本当、ね。 うん? まこちゃん。 なんだ…… ……。 ……うん、甘いにおい。 もう、飲まないわ。 何を、言われても。 うん、然うして。 まこちゃんの悪口を、言われても。 うん……うん? 本当に、腹が立ったのよ。 だからって、怒りをお酒にぶつけては駄目ね。 ……痺れるくらい、後悔させてやりたいな。 ふふ、だめよ? 分かってるけど。 ふふ……ふふ。 今頃、酔っ払ってきた? ううん、違うわ。 ちょっと気分が良いだけ。 ふぅん……。 ……からだが、熱いわ。 それは、いけないね。 然うなの。 ……。 でも、今はだぁめ。 ……分かってるよ。 ふふ……。 ……卵のスープ、飲む? ん……飲む。 飲んだら? 少し休んで、戻るわ。 だよね。 まこちゃん。 なんだい、亜美ちゃん。 ありがとう……好きよ。 ……あたしも、好きだよ。 ん……。 ……。 ……ね。 なんだい……? ……期待して、待ってても良い? うん……もちろんだよ。 -Thunderstorm(現世2) ……。 うふふ。 ……はぁ。 うふふふふふ……。 ……一応、聞くけれど。 ふにふにふに……。 亜美ちゃんに酒入りのチョコを食べさせたのは、今年は、誰だい。 耳たぶ……ふふ、触り心地が良いわ…。 と言うより、混ぜたのは誰。 レイちゃんはそんなこと、しないと思うけど……しないよねぇ、レイちゃん。 ふふ、ふふふ……。 年々、無駄に巧妙になっていくのはなんなんだい。 あたしも、亜美ちゃんも、分かっているから気を付けていると言うのに。 今年は毒見までしたんだぞ、それなのに。 ねぇ、まこちゃん……軟骨、噛んでも良いかしら。 はぁ、気が付かなかったあたしのせい? あぁ、然うだよ、然うだけど、そもそも、酒入りのものを誰かが混ぜなければこんなことにはならないんだよ。 毎年毎年、本当にさぁ……いい加減、飽きて呉れよ。あたしだってもう、慌てふためく歳じゃないんだよ。 ねぇ、いいかしら……? 同じことの繰り返しでさ……何が、面白いんだか。 流石に、付き合ってられないよ。 ……ねぇ、いい? は、面白い? む……。 たまには、うさぎちゃんと衛さんに……は、あっちは面白くない? いっつも、べたべたいちゃいちゃしてるから……? まぁ、それは分かるけどさ……あ、いや、なんでもないよ、うさぎちゃん。 ……。 こんなことを考えている暇があるなら、新しい恋人でも……ん。 ……ばか。 あー……んん、兎に角、だ。 ……。 毎年、亜美ちゃんに反省させられることになるのに、なんで懲りないんだい。 友達だからって、なんでもやっていいことにはならない。やっていいことと、やってはいけないことがあるんだよ。 もう、子供じゃないんだから分かるだろう。 ……つまんない。 未だ高校生? あぁ、然うだな、だけど、小学生でもないよな。 そもそも小学生でも分かるようなことなのに、高校生が分からないのはどうかしてるよな。 なんだったら、来年はもう、高校生じゃなくなってるよな。 ……。 ここまで言っても、やめない……あまりにも、度が過ぎるようだったら、こっちにも考えがあるからな。 まこちゃん、つまらないわ……。 良いかい美奈子ちゃん、本当に、今年で最後にして呉れよ。 確かに酔っている亜美ちゃんは可愛いよ、可愛いけどさ、あたしは恋人を見世物にするつもりは全くないし、したくもないんだよ。 あぁ、言うよ。あたしと亜美ちゃんは付き合ってる。そして、あたしは亜美ちゃんのことを誰よりもとても大切に思ってる。 今更、隠すつもりはないよ。 ……。 あたしはもう、亜美ちゃんを玩具にされるのは嫌なんだ。 あたしは良いよ。けど、亜美ちゃんを巻き込むのだけは絶対に止めて呉れ。 若しも、止めるつもりがないと言うのなら……さっきも、言ったけれど、 ……レイちゃ 亜美ちゃん、待った。 いや、待たない。 あたしの耳なら、幾らでも触って良いから。 だって、つまらないんだもの……まこちゃんったら、美奈子ちゃんばっかり相手にして。 全然、私を見て呉れようとしない……。 うん、ごめんね。 もう、止めるからね。 だからね、触って比べてみようと思うの。 まこちゃんの耳が一番だと言うことは分かっているのよ? でもね、やっぱり比べてみたいじゃない? まこちゃんの耳が一番だと言うことを、確信する為にも。 あーうん、そっか。気持ちは、分かるよ。 ふふ、でしょう? でもね、亜美ちゃん。 若しもあたしが亜美ちゃんが一番だということを確信する為に、亜美ちゃんにしていることを他のひとにし それは、いや。 だろう? あたしも、嫌なんだ。 ……。 亜美ちゃんなら、分かって呉れるよね? ……わかる、わ。 うん。 ……ね、まこちゃん。 なんだい? ……私の相手、してくれる? 美奈子ちゃんじゃ、なくて……私の。 うん、もちろんだよ。 ちゃんと反応、してくれる……? あぁ……いくらでも。 ほんとう……? あぁ、本当だよ……だけどね。 ……だけど、なに? それは……。 ん……まこちゃん。 ……ふたりきりになってからに、しよう? ふたり、きり……? 見せたくないんだ……亜美ちゃん以外のひとには。 ……わたし、いがい? ふたりきりの時に見せる顔は……亜美ちゃんにしか、見せたくない。 あの顔を見て良いのは、亜美ちゃんだけなんだ……。 ……あぁ。 亜美ちゃんは、見せても良い……? 見られても、良いかい……? ううん……私も、いや。 ほかのひとになんて、みせたくないわ……。 ……。 ……あなたは、わたしだけの。 あたしと、してもね……。 ……ん。 亜美ちゃんのかわいい姿は、あたしだけのもの……だから、誰にも見せたくない。 ……。 分かって、呉れた……? ……うん、まこちゃん。 ん……良かった。 まこちゃん……。 心臓、どきどきしてるかい……? してるわ……とても、どきどきしていて……口から、飛び出してしまいそうなの。 そっか……じゃあ、一緒に水を飲もうか。 お水……? 然う、お水。 一緒に飲もう? ……うん、飲む。 それじゃ……はい、亜美ちゃん。 ありがとう、まこちゃん。 どういたしまして……零さないように、気を付けてね。 もぅ、まこちゃんったら……。 ……うん? わたし、こどもじゃないわ。 あぁ、ごめんごめん。 ……もぉ。 はは。 ……ふふ。 ねぇ、亜美ちゃん。 なぁに、まこちゃん。 お水を飲んだら……今日はもう、帰ろうか。 ……かえるの? 嫌かい……? ……まこちゃん、も? うん、一緒に帰ろう。 ……。 いや……? ……ううん、いやじゃない。 まこちゃんといっしょなら、かえる……かえりたい。 うん……それじゃあ、ふたりで帰ろう。 ん……。 ……。 ふふ……まこちゃん。 ……と、言うわけだから。 うさぎちゃん、レイちゃん、あたし達はもう帰るよ。 ……おみず、おいしい。 えーつまんないじゃないよ、誰のせいだと思っているんだよ。 亜美ちゃんは楽しみにしてたんだぞ、それなのに。 ……む。 そもそも、美奈子ちゃんが また、みなこちゃんなの。 うん、ごめんね。 美奈子ちゃんの相手なんか、もう、しないからね。 ……おみず、のまないの? 今、飲むところだよ。 ……はやく。 ん……うん、美味しいね。 ねぇ……。 ……ん? はやく、かえろ……。 ん、然うだね……早く、帰ろう。 ……はやく、かえって。 ごめん、レイちゃん。亜美ちゃんのコート、取って貰えるかな。 うん、ありがとう。うさぎちゃんも、ありがとう。途中なのに、ごめんね。 ……。 亜美ちゃん、帰るのにコートを着ようか。 外は、寒いからね。 ……さむくても、まこちゃんがいればへいきなの。 それじゃ、あたしのコートの中に入るかい? ……それだと、あるきづらいわ。 だろう? ……きたほうが、いい? 着て呉れたら、嬉しいな。 ……うん。 ありがとう。 ……。 ……あとは、マフラーと。 ん……。 うん……それじゃあ、帰ろうか。 うん……! ……と。 ふふ、ふふ……。 亜美ちゃん、みんなに挨拶しないで良いの? ……? みんな……? またねって。 うさぎちゃん……レイちゃん……またね。 あ? あぁ、はいはい、またね美奈子ちゃん。 ……みなこちゃん。 亜美ちゃん、行こ みなこちゃんに、まこちゃんは、あげない。 ……と。 ぜったいに、あげないわ。 ……。 あげないん、だから……。 ……。 ……。 ……とうとう、落ちちゃったか。 ぅ……。 ……レイちゃん、もう一度手を貸して貰っても良いかな。 うん……ありがとう。 ま……ちゃ………は……。 美奈子ちゃん、これで満足かい。 ……。 亜美ちゃんは、酒に弱い。 たかがお菓子の酒ぐらいでと、思うかも知れないけれど。 ……ぅ。 それでも、酒には変わりないんだ。 中毒にならないと、絶対に言えるか。言えるのか。 ……。 分からなくても良い。分からなくても良いから、しないで呉れ。 もう二度と、して呉れるな。 ……まこ……ちゃん……。 ~~♪ ……。 ~~~~♪ ……うた。 ~~~♪ うふふ……。 お、気が付いた? ん……ふふ、きもちいいわ。 良かった。 ……やだ、とめないで。 ん。 ふふ……まこちゃんのて、あったかい。 然うだろう? あたしの手は冬でもあったかいんだ。 ……どうして、かしら。 それはね……亜美ちゃんをあっためる為だよ。 まぁ、そうなの……? 亜美ちゃんが凍えてしまわないように、いつだって、あたしの手はあったかいんだ。 昔から、然ういう風に、出来ているんだよ。 むかしから……? 然う……ずぅっと、昔から。 それじゃあ……。 うん? まこちゃんのことは、だれがあたためてあげるのかしら……。 さて、誰だと思う? ……。 分からない……? ……わからない、わ。 本当に? ……。 本当は、分かっているんだろう……? ……わたし、 然う、当 だったら、いいな……。 ……もぅ、亜美ちゃんは。 う。 しょうがないんだから。 ……まこちゃん、くしゃくしゃしないで。 そんな亜美ちゃんは、こうしてやるんだ。 やめて。 やだよー。 かみのけ、くしゃくしゃになっちゃう。 だって、くしゃくしゃにしてるんだもの。 やめてってばぁ。 くしゃくしゃと言えば、寝起きの亜美ちゃんって本当に可愛いんだよね。 寝癖と寝惚け眼のセットがもう、ね。小動物のような可愛さでさ。 あんな亜美ちゃん、あたししか見られないと思うと……うん、たまらない。 いまは、ねおきじゃないわ。 寝起きみたいなもんだよ。 ちがうもん。 んーん、違わない。 ちがうの。 違わない。 むぅ。 あぁ、可愛いな。 まこちゃんのばか、もう、しらないんだから。 然う? じゃ、好きなだけ、くしゃくしゃにしちゃおうかな。 まこちゃん。 あはは。 ……もぅ。 ね、亜美ちゃん。 ……なによ。 亜美ちゃんしか、居ないよ。 ……? あたしを温めることが出来るのは……亜美ちゃん、「あなた」だけだよ。 ……。 いつだって、「あなた」だけなんだよ。 わたし……なの? うん、然うだよ。 ……。 亜美ちゃん? ……でも、わたし。 でも、なんだい? むかしからたいおん、ひくいし……いつだって、「あなた」のたいおんのほうが、たかくて……あたためてもらって、ばかりで……。 温めるのは何も、躰だけでは、ないだろ? ……? ほかに、あるの……? あるさ。 ……。 いつもの亜美ちゃんだったら、直ぐに答えが分かるんだけどなぁ。 ……さっきから。 うん。 あたまが、まわらないの……なんだか、ふわふわ、していて。 そっか……じゃあ、しょうがないね。 くしゃくしゃされたから、よけいに、まわらなくなっちゃったの。 あぁ。 あぁ、じゃ、ないの。 ごめんごめん。 ごめん、は、いっかい。 はい、ごめんなさい。 ……にやにや、してるわ。 これでもちゃんと、反省してます。 ……ほんとに? 本当に。 ……。 信じられない? ……しんじて、あげる。 うん、ありがとう。 ……まこちゃん。 なんだい、亜美ちゃん。 ……なでるのは、やめないで。 うん、分かった。 ……ねぇ。 ん……? ……まこちゃんのことは、わかるの。 ……。 さっきだって、まこちゃんがうたっているって……まこちゃんのうたごえだって、ちゃんと、わかったの。 ……そっか。 ん、まこちゃん……。 ね……亜美ちゃんを撫でているこの手は、誰のだい? そんなの、かんたん……まこちゃんのて、よ。 ん……正解。 ……もぅ、まちがえるわけないじゃない。 いったでしょう……? まこちゃんのことは、わかるって……。 ふふ、そっか。 もぅ……。 ……。 あぁ……ほんとうに、きもちいいわ……。 ……ごめんね、亜美ちゃん。 ……? なにが……? 楽しみに、していたのに。 ……たのしみ? 皆で、集まるの……楽しみに、してたろう? それは……まこちゃんも、だわ。 どんなケーキをつくるか、まえから、かんがえて……わたしにも、きいて。 ふたりで、決めたんだっけね。 うん、そうなの。 ……。 ……そう、いえば。 ごめん。 みんな、は……? ……みんなは、いないよ。 どうして……? ……。 まこ、ちゃん……? ……ここはレイちゃんの家じゃない、あたしの部屋なんだ。 まこちゃんの……あぁ、いわれてみれば、そうだわ……。 途中で、帰ってきちゃったんだ。 ……。 亜美ちゃんに あぁ、そういうこと、なのね……だからわたし、ふわふわして、からだがあついのね。 ……今までは、なんだかんだ言っても、帰ることまではしなかったんだけれど。 今回は……気持ちを、抑え切れなかった。 そう……。 ……ごめんね、亜美ちゃん。 ふふ、どうしてあやまるの……? だって……楽しみに、してたから。 まこちゃんだって、たのしみにしてたわ……? ……そう、だけど。 ねぇ、まこちゃん……ありがとう。 ……どうしてだい? つれてかえってきて、くれたのでしょう……? だから、ありがとう……。 ……お礼、なんて。 もう、あやまらないで……? ……けど。 ね……? ……うん。 ん。 あと、ね……。 ……うん? あたし、美奈子ちゃんにかなりきついことを言ってしまったんだ。 あぁ……。 溢れてくる言葉を、押し止めることが出来なくて……どうしても、許せなくて。 ……うん。 それでもう、居られないと思って……ううん、同じ場所に居たくないと思って。 ……かえって、きちゃったのね。 ……。 みなこちゃんなら、きっと、だいじょうぶよ……。 だって、みなこちゃんだもの……。 ……あたしも、然うは思ってるんだけど。 ふふ……でしょう? ……それでも、言い過ぎたかなって。 わたしもね、きっと、おなじことをするとおもうの……。 ……亜美ちゃんも? どうしても、ゆるすことができないとなったら……。 ……そっか。 ね、まこちゃん……。 ……ん。 みなこちゃんのこと、きらいになってしまった……? ……いや、なってないよ。 ん……なら、だいじょうぶ。 ……亜美ちゃん。 レイちゃんとうさぎちゃんは、みなこちゃんのそばにいるの……? ……未だ、居ると思う。 だったら、だいじょうぶ……きっと、だいじょうぶ。 ……うん。 たぶん、だけれど。 ……うん? いまごろ、レイちゃんに、おこられているのではないかしら。 ……。 ね、そうは思わない……? ……そう、思う。 ふふ……。 はは……目に、浮かぶなぁ。 ……ね、まこちゃん。 なんだい……亜美ちゃん。 私のために、おこってくれて……。 ……。 ありがとう、まこちゃん……とても、とても、うれしい……。 ……。 ……もぅ、なんて顔をしているの? どんな顔、してるんだろ……自分じゃ、分からないや。 ……。 亜美ちゃん……? ……からだが、おもい。 あぁ……もう少し、休んでいた方が良いよ。 けど、これじゃあ……。 うん? ……あぁ、そうだわ。 ねぇ、まこちゃん……お願いが、あるの。 なんでも、言って。 ……頭を下げてもらっても、良い? 頭? こう、かい? ……。 わ。 ……おかえし。 え、えぇ。 ふふ、ふふ。 えと、亜美ちゃん? 私だって、ねぐせがあってねぼけ眼なまこちゃんが好き。 それなのに、あまり見せてくれないから……不満に、思っているの。 ……えぇと。 ね。 ……。 ありがとう……? ……どう、いたしまして。 ふふふ……。 えと……そろそろ、頭を上げても良いかな。 だぁめ。 えぇぇ。 おかえし、なんだもの。 ……お返し、かぁ。 そう、おかえしなの。 じゃ……しょうがない、か。 ふふ。 ……かわいいな、亜美ちゃんは。 まこちゃんだって、かわいいわ。 ……。 ……まこちゃんにひざまくらをしてもらうの、久しぶりね。 然うだねぇ……亜美ちゃんはあまり、こういうのを強請って呉れないからね。 ……だって、恥ずかしいんだもの。 あたしは、もっと、強請って欲しいんだけどなぁ。 ……いやよ。 でも、して貰うのは……好き、なんだろ? ……。 わ……。 ばか。 ……はい、ごめんなさい。 ……。 ……ね、キスしてもいいかな。 いや。 ……したいな。 いやよ。 ……どうしても、したい。 お酒、くさいから……いや。 ……くさくは、ないよ。 むしろ、いいにおいがする……。 そんなわけ、……ん。 ……。 ……ほら。 もぉ……。 んー……お酒、なかなか抜けないね? ……酔いは、さめたわ。 じゃ、後で一緒にお風呂に入ろうか。 ……どうして、そうなるの? そりゃ、ひとりじゃ心配だから? ……今夜は、 酒くさいのは、嫌なんだろ? ……アルコールを摂取した後の入浴は、 なに、お風呂に入るまでには未だ時間があるから。 それまで、ね。 ……入るにしても、シャワーだけにするから。 それじゃ、芯まであったまらないじゃないか。 ……。 ふたりでなら、 ……温めて、くれるのでしょう? ……。 ね、そうなのでしょう? ……然うだけど、ふたりで入りたいんだよ。 今夜は、 やっぱり、一緒に入ろう。 もぅ、まこちゃん……? 亜美ちゃんはシャワー、あたしは湯船に浸かる。 ……。 それなら 良いわけ、ないでしょう? ……だめ? だめ。 ……そっ、か。 一緒に入りたくなっちゃうもの。 ……。 だから……だめ。 ……ひとりで、大丈夫? その時の状態で、決めるから。 ……ん、分かった。 だから……一緒に入るのは、明日にしましょう? ……。 ……。 ……今日はもう、寝る? ……まだ、寝ない。 -Souvenir(現世・名字呼び) ……木野さん。 ……。 ……。 ……? ……。 なに、水野さん。 ……まだ、読み終わりそうにないの。 うん、まだかな。 水野さんは、もういいの? ええ。 そう、じゃあ帰ろうか。 読み終わってないのでしょう? だから、借りていくことにする。 借りるの? うん。 そんなに面白い? 面白いと言うか、興味深い。 水野さんも読んでみるかい? ……私は別に良いわ。 そっか、残念。 どうして残念なの。 叶うなら、感想を共有したかった。 ……どんな内容? 明治期の日本に英国から来た女性旅行家の、東京を起点に日本海側から蝦夷に至るまでの旅行記なんだけどさ。 当時の日本人の様子が書かれていて興味深いんだ。 ふぅん。 女性旅行家がね、通訳として雇ったのが日本人なんだ。 まぁ、そうでしょうね。 すごいよなぁ。 何が? 通訳が出来るくらいに、英語が出来たってことだろ? あたしなんか、水野さんに習ってやっと理解してるって言うのにさ。 やっとでは、ないでしょう。 うん? 木野さんの場合は勉強をしてこなかったから、出来ないだけ。 ……。 お勉強をするようになってからは……少なくとも、私が教えたことはちゃんと身についていると思うわ。 ……そうかな。 まぁ、つまらないミスはするけれど。 ……うん。 だからね、私と……ううん、ひとりでもお勉強を続けていれば、出来るようになると思うの。 水野さんと一緒じゃなきゃ、続かないよ。 私と同じ高校に行きたくはないの? ……行きたいです。 なら、ひとりでもちゃんとやって? ……でも、聞き取りがなぁ。 それは、練習するしかないわね。 あと、単語……。 それは、木野さんのやる気次第。 文法……。 言ったでしょう? ちゃんとお勉強すれば、と。 結局、あたしのやる気次第ってわけか。 そういうこと。 水野さんは やる気と言うより、好きだから。 だよねぇ。 だって、楽しいんだもの。 知ることは、本当に、楽しいわ。 楽しい、かぁ。 私にとってのお勉強は、木野さんにとっての読書やお料理みたいなもの。 そうそう、英語が出来るようになれば原書も読めるようになるわよ。 それはそれで、楽しいと思うけれど。 例えば、この本のとか? そう。 あぁ、それは良いかも。 翻訳されたものと比べることが出来るし。 ……。 え、なに。 ふふ。 なんかおかしなこと、言った? いいえ? うーん? 英語の本が読めるようになれば、世界が広がるわ。 読書家である木野さんだったら、それは、とても楽しいことなのではないかしら。 うん、すごく楽しいと思う。 英語で書かれている料理やお菓子の本も読めるようになるし、そうなったら。 レパートリーが、増える? そう、水野さんにもっと、美味しいものを作ってあげられるようになる。 私はもう、十分なんだけれど。 いやいや、まだまだだよ。 水野さんはさ、基本的に食に興味がないだろう? 優先順位も、当たり前のように低いしさ。 生きる為に必要な栄養素を摂ることが出来れば、それで十分。 どうせ摂るなら、美味しく楽しく摂った方がいいと思うんだ。 それは、木野さんの価値観でしょう。 そうだけど。 食事にかける時間があるのなら、 お勉強が、したい。 だから、お勉強をしながら食べられるサンドイッチが好き。 ……そうよ。 でも、そればかりだと、栄養が偏る。 ……今は、違うわ。 生きる為の栄養素が摂れればそれでいいと言うけれど、偏れば、健康を害することになるんだ。 そうなれば、生きることに……勉強をするのに、弊害が生じるかも知れない。 ……木野さんのサンドイッチは、バランスが取れているから。 そりゃ、考えているからね。 だけど、もっと、違うのも食べて欲しいんだ。 サンドイッチだけじゃ、どうしたって、偏ってしまうから。 ……これでも大分、食べるようになったのよ。 うん、知ってるよ。 けど、まだまだなんだ。 ……。 それにさ、美味しい不味いを感じられる味覚はあるだろう? だったら、美味しいのを食べようよ。一緒にさ。 ……木野さんが作ってくれるものなら、どれも、美味しいわ。 そう、食べるのに時間がかかるものさえ……。 ……。 ……木野さんが作ってくれるものなら食べたいって思うの、思えるの。 ……。 ……なに? ん、いや……もっと、好きになって貰おうって思っただけ。 ……そ。 ところで……今夜は、何が食べたい気分? 考えていなかったから、分からないわ。 そっか、そうだよね。 でも……そうね。 うん。 煮物が、食べたいわ。 煮物、か。 ……煮物は、パンに挟んで食べられないから。 煮豚や、ひじきなら。 ……出来るの? 汁がなければ、出来そうな気はする。 だけど、煮た大根や煮魚を挟むのは難しいかも。 ……煮物は、ごはんの方がいいわ。 はは、分かるよ。 煮物にはやっぱり、お米だ。 ……。 煮物、どんなのがいい? とりあえず、なんでも言ってみて。 ……お魚、かしら。 魚? ええ、お魚。 それはまた、食べるのに時間がかかるものだね。 ……本当に、ね。 はは。 ……。 ん、なに? ……いいえ、別に。 そっか。それじゃ今夜は煮魚にしようか。 魚は、何がいいかな。 ねぇ、木野さん。 食べたい魚、ある? ……白身魚が、食べたいわ。 白身魚、か。 ん、分かった。 ……今夜のごはんが、決まったところで。 タラ……いや、子持ちガレイもいいな。 金目は、美味しいけど手が出せないし……。 木野さん。 ……うん? 今夜のお勉強のこと、なんだけれど。 ……勉強? 今夜は、英語。 ……。 話の流れを考えたら、ね。 ……流れを考えたら、食のことだと思うんだけど。 なぁに? はい、頑張ります。 よろしい。 ところでその本、借りるのよね。 うん、そうなんだ。 すぐに行ってくるよ。 カウンターの傍まで、一緒に行くわ。 待っててくれても、 一緒に行かない方がいい? そんなこと、ない。 行こう、水野さん。 ん。 ……ねぇ、水野さん。 なに? ケーキ屋さんに、寄ってもいいかな。 ケーキ屋さん? うん……だめかな。 いいけど……買うの? 気になるのを、見かけたんだ。 そう。 いいかな。 私の許可なんて、 一応、聞いておきたくて。 ……私は、構わないわ。 ありがと。 ……どこのケーキ屋さんなの? えとね…………の、角にあるお店。 ……あぁ、あのお店。 知ってる? 買ったことは、ないけれど……あのお店、私達が生まれる前から営業しているのよね。 そうなんだ。 店名の傍に、since……と、書いてあるから。 確かに、生まれてないや。 新しいお店では、ないのね。 うん。 ……木野さんが気になるようなケーキなんて。 水野さんも食べたいケーキ、考えておいてね。 ……私は、別に。 一緒に食べようよ、ね? ……私は木野さんのケーキが一番、好きだから。 ありがとう、そう言って貰えるのはすごく嬉しい。 ……だから、私はいらない。 今後の参考にしたいんだ。 ……。 水野さんの感想が、聞きたい。 聞かせて、欲しいんだ。 ……そんなに? うん、そんなに。 ……。 だめ、かな。 ……分かった、考えておくわ。 うん! けど、食べたいのがなかったら……買わないから。 うん、分かった。 ……。 今夜は煮魚とケーキだ。 ふふ、面白い組み合わせだね。 ……きっと、全部は食べ切れないわ。 そうしたら……ケーキは生モノだから駄目だけど、煮魚なら明日でも大丈夫だから。 ケーキ、あなたに半分あげる。 え? いや? いやじゃ、ないよ。 けど、いいのかい? ……お腹を、いっぱいにしたくないの。 水野さん? ……私は、木野さんが作った煮魚が食べたいの。 あ……。 ……もう、そういう口になってしまっているの。 そ、そっか……。 ……。 それじゃあさ、半分もらう代わりに……一口だけ、あたしが選んだのを食べてみてくれないかな。 一口だけでも、いいんだ。 ……感想が、聞きたいの? うん。 ……。 だめ、かい……? ……一口だけ、よ。 ! ……それ以上は、食べられないから。 うん……ありがとう、水野さん。 ……ちょっと。 と。 ……ここは、図書館。 え、えと……ごめん。 帰ってからに、するね。 ……許すと、思っているの。 許して、欲しいな。 ……本、早く借りてきたら? うん、そうだね。 ちょっと、行ってくるよ。 ……。 お願いします……はい、ありがとうございます。 ……。 お待たせ、それじゃ行こうか。 ……ねぇ、木野さん。 うん? 私……その本、読んだことがあるの。 え、そうなの? ……ええ、そうなの。 そう、なんだ。 ……小学生の頃に、ね。 小学生かぁ。 だから……共有、出来ると思うわ。 ……。 ……嬉しい? うん……嬉しい。 まだ、読み終わってもいないのに。 共有出来ると思うと、ね。 ……そ。 ふふ。 ……本を読んでいる時の、あなたの顔。 え、なに? なんでもない。 早く行きましょう。 あ、うん。 ……。 ……。 ……空が、曇っているわ。 うん? 雨が、降るかもしれない。 あぁ、本当だ……朝は、晴れていたのに。 ……。 寒くは、ない? ……どうして? 気温が下がっていると、思うから。 ……平気よ。 そっか……。 ……。 ね……手を繋いで、帰ろうよ。 ……。 なんて……まだ明るいし、だめかな。 いいわよ。 ……。 繋がないの? ……いいの? 繋いで帰ろうと、言ったのは? ……あたし、だけど。 気が変わったのなら、 変わらない。 ……。 いい? ……いいって、言った。 ん……そうだった。 ……。 部屋、大分暖まってきたかな? 水野さん、寒くない? ……ええ、大丈夫よ。 そっか、良かった。 ……。 紅茶も、淹れたし。 うん、準備万端。 ……。 それじゃケーキ、出すね。 ……ええ。 まずは、水野さんのから。 ……。 苺を飾った、ナポレオンパイ。 選んだ決め手はなぁに? ……歴史上の人物の名前だったから。 はは、なるほど。 水野さんらしい、のか? ……木野さんのも、出したら? うん、今出すよ。 あたしのは……じゃん、苺のショートケーキ。 ……。 ふたりとも、苺のケーキを選ぶなんてさ。 色んな種類が、あったのに。 ……そうね。 水野さんは、フルーツタルトかベリーベリータルトあたりを選ぶと思ってた。 ……どうして? フルーツ、好きだろう? ……好きだけど。 ケーキも、フルーツが多くのってるが好きだろ? リクエストもフルーツケーキが多いし、プラムケーキも好きだしさ。 ……苺もフルーツだし、ベリーのひとつよ。 そうだけど。 ……別にいいじゃない。 うん、悪くないよ。 そうだ、今度作ろうか。苺のケーキ。 ……最初から作ってくれれば良かった。 今度、作るからさ。 今から食べるケーキを、参考にして。 ……参考になんて、しなくても。 ふふ。 ……なに。 嬉しいなぁって。 ……何が。 苺のケーキ、水野さんとふたりで食べられるのが。 ……ふぅん。 それじゃ、食べよっか。 ……ねぇ。 ん? 気になっていたケーキって、苺のショートケーキだったの? うん、そうなんだ。 季節限定でもなく、新作と言うわけでもない。 苺のショートケーキなら一年中、いつだって、買えるわ。 そうだけど……ほら、苺って今が旬だろ? だから、 いいえ、苺の本当の旬は春から初夏よ。 え、そうなの。 品種改良やハウス栽培の技術が向上したから、一年中、食べられるようになった。 今頃が旬とされている苺は、品種改良されたものよ。 じゃあさ、今が旬と言っても間違いではないよね。 ……。 だろ? ……どうして、苺のショートケーキなの。 だから、今が苺の旬だから…… 本当のことを、言って。 本当のことって? 何を、隠しているの。 別に、何も 木野さん。 ええ、と……参ったな。 ……。 紅茶が冷めてしまうし、とりあえず食べよう? 本当のことを言ってくれなければ、食べない。 あー……。 だから……教えて。 ……本当のこと、なんて。 教えて……木野さん。 ……大したことじゃ、ないよ。 やっぱり。 聞いても、面白い話では 私は、本当のことが知りたいだけ。 大したことじゃないとか面白くないとか、そんなのは、問題じゃないの。 ……。 ……。 ……あたし、さ。 うん。 お店で売られている苺のショートケーキを食べるのって……本当に、久しぶりなんだ。 ……。 このお店の苺のショートケーキ、昔ながらのって感じでさ……だから、その……。 ねぇ、木野さん。 ……。 今日はあなたにとって、何か、大切な日なのではないの? ……どうして。 もしも、そうなら。 ……どうして、そう思うの? あんなにはしゃぐあなたを見たのは、初めてだから。 ……あたし、はしゃいでた? まるで、月野さんや愛野さんのようだった。 ……流石に、あそこまでじゃないと思うけどな。 年相応。 ……え? そう、中学二年生の女の子のような。 ……それだと、いつもは違うみたいじゃないか。 あなたは……はっきり言ってしまうけれど、中学生には見えない。 中学生の落ち着き方じゃない。 ……それを言うのなら、水野さんだって。 私は。 ……。 私は……あなたの、そういうところにも、惹かれたの。 今は……ガキっぽくて、いやかな。 ううん、そんなことはないわ。 ……。 そんなことは、ないの。 だから、知りたいの。もっと、知りたいの。 色んな、あなたを。 ……久しぶりだから食べたかったと言うのは、本当のことだよ。 ……。 それも、出来れば……水野さんと、ふたりで食べたかった。 ……。 ……。 ……木野さん。 今日は、あたしの誕生日なんだ。 ……。 誕生日に苺のショートケーキ……両親が生きていた頃は、毎年、食べてた。 そう、こんな感じのケーキをね……。 ……。 今年は、水野さんが一緒だから……その、食べられるかなって。 ……ずっと、食べていなかったのね。 食べられなく、なってしまって。 ……食べられなく? 両親を、思い出してしまうんだ……どう、しても。 だから、作ったことはないし……作ろうと、思うこともなかった。 ……おばあさまには。 買ってくれると、言ったのだけれど……断った。 嬉しかったけど、食べられそうにはなかったから。 ……。 ……もう、食べられなくてもいいかなって。 食べられなくても、別に困らないし……ケーキは、他にもあるし。 ……木野さんは、そうやって。 ご、ごめんね。 ……どうして、謝るの。 め、迷惑、だったろう? どうして、そう思うの。 あ、あたしの、誕生日なんてさ、どうでも お誕生日、おめでとう。 ……あ。 そして……生まれてきてくれて、ありがとう。 ……。 あなたが生まれてきてくれたから、私は、あなたに出逢えた。 今日は……私にとっても、大切な日。 とても、とても、大切な日……。 水野さん……。 ……やっぱり、苺のケーキを選んで良かった。 え……? 同じものでは、参考にならない。 けれど、苺以外のケーキを選ぶつもりもなかった。 だから……このケーキがあって良かった。 ……あたしの為、なの? 木野さんの為でもあるし……私の為でも、あるわ。 水野さんの……。 喜ぶ木野さんが、見たかった。 ……。 だから……? ……ごめん。 何故、謝るの。 ……。 木野さん……? ……ごめん、ちょっと見ないで。 ……。 ……見ないで、欲しい。 いや。 ……あ。 見せて。 ……やだ。 見せて、木野さん。 ……だめだよ。 どうして……? ……今のあたし、すごくかっこ悪い顔をしてると思うから。 格好悪い……? だから……見せられない、見せたくない、見られたくない。 ……。 ……少し、時間を。 格好悪くなんて、ない。 ……あ。 木野さんは、格好悪くなんてないの。 で、でも……ん。 ……ね、見せて。 ……。 お願い……木野さん。 ……そんなこと、いわれたら。 無理を言っているのは、分かってる。 ……それでも。 だけど……ゆずれないの。 ……そんな、に。 ……。 ……わらわない? 笑わないわ……。 ……。 ……あぁ。 か、かっこ悪いだろ……こんな、顔……。 ……いいえ、ちっとも。 は、鼻水、だって……。 拭いてあげましょうか? ……っ。 あなたが、望むのなら。 い、いい、じ、自分で拭く……。 別に、いいのに。 ……ティッシュ、取ってもらってもいいかな。 ちょっと待ってて。 ……。 はい、顔を上げて? ……! さぁ、木野さん? じ、自分で、拭くから……。 遠慮なんか、 してない、してないよ。 あ。 ……。 本当に、いいのに。 ……あたしが、良くないよ。 ふふ……。 ……。 ……プレゼント、何も用意していないわ。 え……? ……誕生日、プレゼント。 み、水野さんが、いてくれる……それだけで、十分だよ。 あなたは、十分かもしれないけれど。 う……。 私は、良くないの。 全然、良くないの。 あ……う。 なんで、教えてくれなかったの。 そ、それは……だって。 だって、なぁに? ……聞かれなかった、し。 ……。 じ、自分で、言うのもなぁって……。 ……出逢った頃は、勝手に触ってきたり、キスだってしてきたくせに。 う。 ……。 あ、あの、水野さん……? ……なに。 水野さんの誕生日、は…… もう、過ぎたわ。 え。 過ぎた。 ……。 私の誕生日は9月なの。 ……そうだ、サファイア。 そう。 ……。 ……なんで言ってくれなかったの? 聞かれなかったから。 あ、あぁぁ。 そういうことよ、木野さん。 ……9月の、何日なの。 10日。 9月10日……来年の9月10日はプレゼントを用意して、ごちそうも作って……。 来年は、受験生なのだけれど。 い、一日くらいなら、いいじゃないか。 お祝い、したいんだ……生まれてきてくれて、ありが…… ……。 ……みずの、さん。 ばか。 ……なんで。 なんでも。 ……。 ……紅茶、すっかり温くなってしまったわ。 ……そうだね。 ケーキ……ん。 ……。 ……きの、さん。 おかえし……。 ……ちょっ、と。 ねぇ……プレゼント、もらってもいいかな。 ……何も、用意していないと。 あるよ……水野さんさえ、その気になってくれれば……いますぐ、でも……。 ……。 ねぇ、みずの……む。 苺の、ショートケーキ。 ……。 私と……食べたいのでしょう? ……それは、後でも。 私は今、食べたいわ。 木野さんと、ふたりで。 ……。 ……それに、お夕飯もまだだし。 水野さん。 ……なに。 夜、寝る時間に、なったら。 ……。 ほ、ほしいな……プレゼン、ト。 ……いやよ、あげない。 お、お勉強はちゃんとするよ……する、から。 ……そんなの、当たり前よ。 ……。 ……今夜は借りてきた本を、読むのではなかったの? 明日、読む……。 ……早く、感想を共有したいわ。 ど、どうしても、だめ……? ……ん。 ねぇ、みずのさん……。 ……かっこ悪い。 え……。 ……本を読んでいる時の、あなたの顔はあんなに素敵なのに。 ……。 諦めた……? ……ケーキ、食べようかなって。 そ。 ……食べよう、水野さん。 ……。 ……? みずのさ……ん。 ……。 ……なまごろし、なんだけ、ど。 いいわ。 ……よくないよぅ。 私を、あげる。 ……。 ……もらって、くれる? も、もちろん……っ。 ……。 あ、ありがとう、水野さん、大事にする、大事にするね。 ……それ、今日だけだったら許さないわ。 いつも、だよ。 いつも、いつも、大事にするよ。 ……忘れないでね。 うん! ……だけど、木野さん。 う。 ……。 な、なに……。 ……それだけで、満足しないで。 ……? ……後日、ちゃんと用意するわ。 何、を……? ……社会人になっても使える英語の辞書を、あなたに。 英語の、辞書……。 ……私だと思って、大事に使って。 ……。 ふふ……楽しみに、しててね。 ……うん、楽しみにしてる。 うん……。 ……。 ……。 ……ケーキ、食べようか。 ん。 ね、水野さん……ナポレオン、とても美味しそうだね。 木野さんの苺のショートケーキも、ね。 本当に一口だけでいい? ええ、一口だけでも ……。 ……木野さんのお誕生日だし、二口にしようかしら。 うん、喜んで。 ふふ、なぁにそれ。 へへ。 ……そうだわ。 ん? なぁに? 木野さん、はい。 ……え? あーん? ……! して? う、うん……あー、 ……ふふ。 …………ん。 どう? ……ん、おいしい。 よかった。 じゃあ、水野さんも 私は、いいわ。 えー……。 ふふ、ふふ。 ……水野さん、あーん? しないわよ? 一回だけ。 いーや。 今日は、あたしの誕生日だし、 プレゼントはもう、決まっているでしょう? それとも、 ん、そうだったね。 これはあたしが食べよう、うん。 ふふ……。 ……。 どう? ……。 ……? どうしたの……? ……これ、少しだけだけど。 木野さん……? ……スポンジに、リキュールが入ってる。 リキュール……お酒? これくらいなら、大丈夫だと思うけど……リキュールを使った苺のショートケーキなんてあるんだな。 お酒は、だめよ。 風味づけだろうし、食べられないこともないよ。 おいしい、し。 だけど、 勿体ないし、さ。 食べてて本当に無理そうだったら、 ……だめよ、ジュピター。 うん……? ……交換、しましょう。 いや、でも、 木野さん。 ……マーキュ、リー? お願い。 ……でも、水野さんだって。 あなたよりは、マシよ。 水野さんだって、未成年だよ。 ……処分するより、 ……。 ……木野さん! あ……。 だめだと、言ってるでしょう。 ……だいじょうぶ、だよ。 そんなの、 大丈夫さ……あたしはもう、昔とは違うよ。 けど! ……それに、夜になったらプレゼントを貰えるんだから。 なにを……。 ……。 ……とにかく、だめ。 でも……たんじょうび、なんだ。 ……っ。 いちごの、ショートケーキ……みずのさん、と。 ……とりあえず、冷蔵庫に入れておくから。 あー……。 ……代わりのものを、買ってくるわ。 ……。 買って、くるから。 それを、一緒に。 ……ううん、いいよ。 でも。 いいんだ……水野さんのが、あるだろ? これは、ショートケーキでは それでも、いちごのケーキだよ。 ……。 それを……すこし、もらえれば。 ……半分あげると、言ったわ。 ……。 一緒に、食べましょう? ……うん、みずのさん。 それじゃあ……はい、木野さん。 ……また、するの? いや? ……ううん、いやじゃない。 なら……はい。 ……。 ……おいしい? うん……すごく、おいしい。 ……大丈夫? ん、へーき……。 ……本当に? 一口くらいならへーき、さ……。 ……。 へ、へへ……。 ……静電気。 あ、ごめん……痛いだろ、離れていいよ。 ううん、大丈夫よ。 ……ん。 私は、大丈夫なの。 ……そう、だった。 ……。 誕生日……なのになぁ。 ……まだ、今日は終わらないわ。 ん……。 ……これからよ、木野さん。 うん……水野さん。 ……。 ね、水野さん……。 ……なに? 水野さんも……食べて。 ……。 ね……食べて。 ……うん。 ……。 ……。 ……どう? ん……美味しいわ。 はは、同じ感想だ……。 ……そう、ね。 うれしいな……。 ……けどね、木野さん。 ん……? ……私はやっぱり、あなたが作ったケーキが一番好き。 ……。 参考に、なるかしら。 ……うん、なるよ。 そ……なら、良かった。 ……。 ねぇ……もう一回、する? ……うん、する。 後 |