-Bacchanalia(前世) ……ねぇ、マーキュリー。 ……。 何か、弾いてよ……。 ……何が、良いの。 そうだなぁ……静かな曲が、良いな。 ……分かった。 はぁ……。 ……未だ、ぼんやりする? うん……頭の中、白い靄が掛かってるみたい……。 ……躰は? ちょっと、気怠い……。 ……然う。 あ……。 ……違う曲が、良かった? ううん……あたしの、大好きな曲だ。 続けても……? ……うん、続けて。 ……。 こどもの頃……よく、弾いて呉れた曲だ……。 ……然うだったかしら。 然うだよ……。 ……あなたが言うのなら、然うなのかもね。 うん、然うなんだ……。 ……。 ……あの時間も、好きだったなぁ。 あの頃は、未だ……。 ……ん。 上手に、弾けなくて……酷いものを、聴かせていたわ。 そんなこと、ないよ……あたしは、メルが奏でる音が大好きだったから。 ……先生のような、美しい音を奏でることが出来なくて。 旋律も、律動も、外してばかりで……。 だとしても、あたしは、メルから生まれてくる音が大好きだった……何よりも、大好きだったよ。 ……合わせて、歌って呉れたわよね。 私が間違えても、何度も……。 そうそう、然うだった……ふふ。 なぁに……? ふたりで奏でるのは、すごく、楽しかったなぁって……。 ……然うね、とても楽しかったわ。 ね、今でも楽しいよ……。 ……ええ、然うね。 マーキュリー、今度さ……。 ……ふたりで、奏でましょう。 うん……。 ……あなたは。 ん……なに? あなたは、子どもの頃から歌が上手だったわ。 然う、だったかな……。 ……歌もまともに歌えなかった私に、優しく教えて呉れたの。 唯一、あたしがメルに教えられるものだったから……。 ……唯一では、ないわ。 ん? ……とても、羨ましかったの。 ……。 ユゥの、少しだけ低い歌声が……空まで響く、その声が。 とても、とても、羨ましかった……。 メルだって、上手だったじゃないか……。 ……あなたのようには、歌えなかったもの。 言ったでしょう、歌もまともに歌えなかったって……それは、今でも。 メルがあたしのように歌えないと言うのなら、あたしだってメルのようには歌えないけどな……。 ……私のように、歌ったところで。 メルの声はまるできれいな水のように透き通っていてさ、竪琴が奏でる音色と重なると、本当に美しくて……然う、それは今でも。 ……。 あたしの声では、然うはならなかった……だから、あたしはメルが羨ましかったよ。 ……然ういうものなのね、きっと。 然ういうもの……? 然う……私達はいつだって、然ういうものなの。 ……そっか。 ……。 ……。 ……駄目ね。 うん……? ……上手に、言葉にすることが出来ない。 まるで、あの頃の私のよう……。 ……メルは、話すのが苦手だったんだっけ。 あなたはいつだって、言葉が出てこない私を待っていて呉れたわね……。 ……意識していたわけじゃあ、なかったんだけどな。 あの頃は、メルが話すのが苦手だなんて……思っても、いなかったし。 ねぇ、ユゥ……? ……なに? 今でも、あなただけよ……私が、心から安心して話せる相手は。 ……ん。 もう少し、続ける……? ……良いかな。 ええ……良いわ。 ありがと……メル。 ……。 ……はぁ。 ……。 ……ねぇ、マーキュリー。 なに……ジュピター。 ……憶えて、ないんだ。 然うでしょうね……。 ……やっぱり、面倒なことになってる? 大したことは、ないけれど……一応、ね。 ……どれくらい? 壁の破損と、感電した者が数十名……。 ……程度は? 治療に時間を要する者が何名か居るけれど……幸いにして、命に別条はないわ。 ……壁は? ちょっとした穴が空いたくらい……かしら。 ……ちょっとした穴、か。 明日あたり、マーズに凄く怒られそうだ……。 故意ではないのだし、そんなには怒られないと思うけれど……。 ……それでも、小言くらいは喰らうだろう。 まぁ、然うね……。 やだなぁ、面倒だなぁ……。 ……その時は、隣に居てあげるわ。 うん……? ……余計な小言を言われそうになった時は、ね。 本当……? ……反省は、しているのだから。 マーキュリーが隣に居て呉れるなら、良いや……。 ……それに、私も故意ではないにしろ結果的には加担してしまったようなものだし。 え……? ……。 マーキュリー……? ……ああなってしまったあなたに近付けるのは、私だけ。 止められるのも、マーキュリーだけ……だよ。 ……あの時、あなたね。 う、うん……。 ……私を見た途端に、酷く甘えてきて。 あー……多分、安心したんだな。 ……皆の前だと、言ったところで理解出来る状態ではなかったから。 だから、少しだけ……少しだけ、ね。 少し、だけ……。 ……周りに、氷の霧を。 ……。 ……。 ……よく、通電した? ええ……。 ……範囲は? 恐らく……回廊の柱と柱の間の距離、くらい。 ……半径? …………半径。 それは……やっちゃったね。 ……思っていた以上に、放電範囲が広くて。 まぁ、でも、あたしが悪いしなぁ……。 ……素面だったら、そんな判断はしなかった。 ……。 調査の結果……ほぼ全ての果汁に、酒精が混入されていたことが判明したの。 それって……。 ……私もあなたも、引き当ててしまった。 然うか……然ういうこと、か。 ……然うでなければ、あなたが酒精を摂取するなんてこと。 あたしが間違ったわけじゃなかったんだな。 ……ええ。 そして、マーキュリーも……。 毒見は、されていた……けれど、除けることなくそのまま通してしまった。 ……然うは、言ってもな。 毒見はされているから大丈夫だと言う認識は……もう、捨てるべきだわ。 全く、感じなかったよ……においも、味も。 いいえ、毒見役は気付かなければ……然うでなければ、意味がないのよ。 若しかしたら、ただの酒好きかも知れない。 ……は? 月の民は、此処が少々、呆けている所があるだろう? 月の民と言っても、宮殿に仕えている者がそんなことでは……。 ……それも判明して、良かったんじゃないのか。 ……。 もう一度、問い詰めるべきだ……きつく。 ……ええ、然うするわ。 そんなこと、出来ればしたくないのにな……。 ……けれど、しなければ。 あたしが、しようか……? ……いえ、マーズがするでしょう。 然う、か……それは、怖いな。 ……はぁ。 ……。 ……こんなことは、もう二度とあってはならないわ。 私は兎も角、あなたは体質的に摂取するべきでないから……。 マーキュリーもだろ……頭が鈍るって、いつも言ってるじゃないか。 ……鈍った結果が、あのざま。 ……。 ……。 ……最悪、だな。 本当、に……。 ……それで、やった奴は。 部下が、調べているわ……直ぐに、分かるでしょうけど。 ……わざとだったら、軽いお咎めじゃ済まないな。 済ませる気も、ないわ。 ……。 ……。 ……マーズの小言を喰らうの、すごくいやだ。 ……隣に、居るわ。 ……。 ねぇ……ユゥ。 ……なに、メル。 ……。 あ、疲れた……? ごめんよ、メルも大変だったのに……。 ……少しだけで良いから、旋律に合わせて歌えない? え……。 ……鼻歌でも、良いわ。 ……。 ……ユゥの歌声が、聞きたいの。 ん、んん……あ~あ~~。 ……? ユゥ……? ……うん、大丈夫だ。 ……。 それじゃ……合わせるね、メル。 ……うん、ユゥ。 うー……。 ジュピター! ……う? ジュピター、もう大丈夫よ。 ……みずの、きり。 大丈夫よ……ジュピター。 ……マーキュリー? 然うよ……ジュピター。 マーキュリー……マーキュリーだぁ……。 意識は、あるのね……。 うん、あるよ……へへ……。 ……からだが、熱いわ。 うん、そうなんだ……なんか、すごくあつくて、おちつかないんだ……。 然う……でももう、大丈夫よ……。 うん、マーキュリー……。 ね……私のお願い、聞いて呉れる? なんでも、きくよ……マーキュリーのおねがいだったら、なんでも……。 ん……それじゃあ、深く息を吸って? ……。 息を、吐いて……それから、私と呼吸を合わせて。 ……こきゅうより、くちびるをあわせたいな。 ……。 ね、いいだろ……? ……だめよ、ジュピター。 なんで……? 皆が、居るから……。 ……だから? 見られて、しまうわ……。 ……そんなの、どうでもいいよ。 ジュピター……お願い、聞き分けて。 やだ。 ん……ジュピター。 ……うーーー。 ジュピター……? からだが、おもうように……うごかないよ……マーキュリー……。 ……今、あなたの躰の中では ほら、みて、マーキュリー……。 え……? ばちばちってさ、きれいだろ……? ……! あはは……。 いけない……! ね……もっと、きれいなのを、 全員、退避……ッ! みせて……、 急いで……ッ!! あげる……、 だめよ、ジュピター……! ねぇ……? だめ……ッ。 ……はぜよ、らいきゅう。 く……。 ……。 ……。 やっぱり、マーキュリーのほうが……ずっと、きれいだな……。 ……被害、は。 あはは、あはははははは……。 ……。 ねぇ……もっと、みたい……? ……ううん、もう十分よ。 ありがとう、ジュピター……。 えー……? ね、ジュピター……。 なぁに、マーキュリー……。 ……私を、見て。 ……。 お願い……私だけを、見て。 私も、あなただけを見ているから。 ……うん、わかったぁ。 う……。 ……マーキュリー……マーキュリー……。 あ……んっ。 メル……。 ……は、ぁ。 メル……メル……。 ……ユゥ。 すきだ……だいすきだよ……メル……。 ……私もよ、ユゥ。 うん……。 だから……わたしだけを、みていて。 うん……メル……。 ……ん。 ……。 ……え。 ね……もっと、ほしいな……。 ……どうして、まだ。 いい……? ……ぁ。 いい、よね……。 ん……まって、ユゥ……。 ……まてない。 あ……っ。 ……メル。 ……すいせい、よ。 メル……。 ちり、て……ん、……われらを、おおいかくせ……。 マーキュリー。 ……。 マーキュリー。 ……ジュピター。 お疲れ……マーキュリー。 ……あなたも。 壁の修理、やっと目途がつきそうだよ。 ……然う。 まぁ修理と言うより、新しく作ってるようなものだけれど。 然うね……。 隣、座っても良い? ……ええ、勿論。 ごはんは、食べた? ……ううん、未だ。 じゃ、一緒に食べよう。 ……持ってきたの? うん、作ってね。 ほら、お茶もあるよ。 ……ありがとう。 どういたしまして。 はぁ……。 ……疲れているね。 ん……。 ……顔色が、あまり良くない。 大丈夫よ……未だ。 今夜は、一緒に眠ろう。 ……。 たまには、あたしの部屋で……さ。 ……考えておくわ。 色好い返事を、待ってるよ……。 ……ええ、然うして。 ……。 ……。 で……こっちは、どうなってるんだい? ……聞きたい? こうなったのは、あのばかのせいだし……見つかったのなら、 残念、ながら。 ……。 ……未だ発見に至らず、よ。 そっか……。 行方を晦まして、一週間……何処に居るかは、分からないけれど、 何をしているかは、容易に想像出来るな……。 ……でも良いわ、いずれは分かることだから。 その時は? ……容赦なんて、すると思う? 全く、思わない。 ……悪ふざけにも、程があるわ。 ……。 絶対に、許さない。 どうして、あんなことをしたのか……徹底的に、吐かせてやるの。 ……こんなに怒ってるマーキュリー、初めてだ。 当たり前でしょう? まぁ、これだけの被害が出たら 一つ間違えば……あなたは此処に、居なかった。 ……。 壁は修理出来るし、新しく作り直すことだって出来るわ。 けれど、あなたは……壊れてしまったら、おしまいなの。 おしまい、なのよ。 ……。 彼女だって、知っている筈なのに……それ、なのに。 ……ほんとばかだな、あいつ。 彼女は、命を軽んじている。玩具にしている。 そんなの、許せるわけがない。 ……。 ……絶対に、許さないわ。 マーキュリー……。 ……ん。 ……。 ちょっと、なに……。 ……もう、愛おしくて。 は……? ……あたしの為に、こんなに怒って呉れるなんて。 そんなの……。 ……そんなの? ジュピターは、どうなの……。 あなただって、怒っていたじゃない……。 うん、マーキュリーに酒を盛ったことは今でも許してないよ……。 ……怒っているようには、見えないわ。 これでも、怒っているし……許しては、いない。 ……だったら。 マーズも、怒り心頭だしさ……水と火に責めを負わされるのかと思うと、 だから、あなたは良いの? ……どうしようかなって。 だめよ。 ん……マーキュリー。 ……雷にも、加わって貰うの。 今回は、徹底的に……? 然う……今回は、徹底的に潰 ……。 ……徹底的に、反省して貰うわ。 ……今、潰すって言おうとした? してない。 戦に臨む時のような目を、していたような。 それは、否定しない。 ……。 言ったでしょう……絶対に許さないと。 ……これはもう、手遅れだな。 ジュピター。 うん? 若しも、私が 徹底的に、潰す。 絶対に、許さない。 ならば……分かるでしょう? ……あぁ、すごくね。 加わって、呉れる……? ……勿論だよ、マーキュリー。 ん……ジュピター。 ……ね、今夜はあたしの部屋に。 考えておくって、言ったわ……。 ……答えは、未だ? 未だ、よ……。 ……然うか、それじゃあ。 ……。 ごはんに、しようか。 ……ねぇ。 なんだい……? ……庇おうなんて、思わないで。 誰を……? ……今、行方不明になってるばかを。 全く、思っていないよ……最初から、ね。 ……なら、良いわ。 ん……。 ……ね、何を作ってきて呉れたの? あぁ……マーキュリーが好きなのを、作ってきたんだ。 いっぱい食べて呉れると、嬉しいな。 いっぱいは、食べられないけれど……頂くわ。 うん、どうぞどうぞ。 ……どれも、美味しそうね。 だろう? 収穫したばかりの野菜を挟んだんだよ。 ふふ、それは新鮮ね。 然うなんだ。 さぁさ、召し上がれ。 ん……頂きます。 あたしも、頂きま ……うん、美味しいわ。 ……。 ……? ……マーキュリー。 ジュピター……? ……一瞬、だけど。 どうかしたの……? あいつが、見えた……ような気がする。 ……どれに。 これと……それから、これ。 ……分かった。 帰って、きたのか……? マーズ、聞こえるかしら……ええ、然う……それで……。 ……ん、美味しく作れた。 ええ……ええ……分かったわ……。 ……。 ……ジュピター。 食べられない? ……ううん、食べられるわ。 そっか、良かった。 ……。 お。 ……うん、とても美味しい。 へへ、良かった。 ……。 捕まる、かな。 ……分からないわ。 然うだよ、な。 本当、厄介だわ。 ……あたし、思うんだけどさ。 なに。 あのばか………やっぱり、ク ジュピター。 ……。 ここでは。 ……うん。 ……。 ……ね、マーキュリー。 なに……ジュピター。 食べ終わって、少し休んだらさ。 合わせの練習をしようよ。 ……。 時間、ない? ……いいえ、少しなら取れるわ。 じゃあ、する? けど、そっちは大丈夫なの? あぁ、大丈夫だよ。 それに、これもやらなきゃいけないことだからさ。 ……然うね。 じゃ、決まりだ。 ん。 お茶、飲むかい? ええ、頂くわ。 それじゃあ、どうぞ。 ありがとう。 どういたしまして。 ねぇ。 ん? からだ、大丈夫? あぁ、もう大丈夫だよ。 すっかり、抜けたみたいだ。 ……然う。 ……。 ……良かった。 うん……。 ……今後は、もっと気を付けるから。 うん……ありがと、マーキュリー。 ……どう、いたしまして。 ……。 ……。 ……からだ、大丈夫だから。 ……。 今夜……。 ……待ってるわ、ユゥ。 ……。 ……迎えに来て呉れるんでしょう? あぁ……勿論だよ、メル。 ……。 ……必ず、行く。 ……うん、待ってる。 -Bound by Fate(前世・少年期) メル……ッ! ……っ! 助けて……ッ! ユ、ユゥ……? 助けて、助けてメル……ッ!! ど、どうしたの? し、師匠が、師匠が……ッ。 お師匠さんが、どうかしたの? わ、分からない、分からないんだ、分からないんだけど、なんか、おかしくて……! なんか、おかしい……? きゅ、急に、おかしくなったんだ、それまで、なんでもなかったのに、いきなり……。 ……。 師匠を、助けて……。 ……待ってて、ユゥ。 どうしよう、メル……どうしよう……。 直ぐに、先生を呼ぶから。 あんな師匠、初めて見たんだ……あんな姿、一度も、見たことないんだ……。 ……大丈夫よ、ユゥ。 あたし、何も出来なくて……どうして良いか、分からなくて。 あなたは、ここに来たわ。 メル……。 知らせに、来て呉れた。 だって……あたしには、それしか。 私の部屋に来て、私に知らせて呉れて。 あなたは、あなたが出来ることを、ちゃんと果たしたの。 でも……でも……。 ね、ユゥ……あなた達には、私達が居るわ。 ……ん。 お師匠さんには、先生が。 あなたには、私が。 ……。 後は……私達に、任せて。 うん……メル。 ……。 よかった……。 ……ねぇ、ユゥ。 ん……なぁに……? 思い出せる範囲で、良いから。 ……? お師匠さんが、どんな様子だったのか……教えて、呉れる? ……師匠、が? 思い出せることだけで、良いの……。 ……師匠が、どんな様子だったか。 然う……ゆっくりで良いから、思い出してみて。 ……。 若しも、何か思い出したら……私に、教えて。 ……うん、わかった。 ありがとう……ユゥ。 えーと……。 ……思い出せなくても、良いから。 ……。 ……。 ……あのね、メル。 ん……。 師匠の、からだ……ね。 ……うん。 急に、ふるえ出したんだ……。 ……それは、何処で? ……部屋……師匠、帰ってきたんだ……。 どこから……? ……外から。 その時、部屋の中は寒かった……? ううん、寒くはなかった……と、思う。 ……。 そんなこと、今までに一度もなかったから……どうしたのかと、思って。 だから、聞いたんだけど……なんでもない、気にするなって……然う、言うだけで。 だけど、ずっとふるえてて……止まらないんだ……。 ……寒さによるものではない、躰の震え。 そのうち……うぅって言うだけになっちゃって……。 せめて寝台まで運ぼうと思ったんだけど……師匠、雷気の制御が出来ないみたいで。 師匠のからだのまわりで、ばちばち弾けてて、近付こうとすると、爆ぜてしまいそうで……。 ……雷気の制御が、出来ない。 あたしの力では、どうにも出来なくて……寧ろ、あたしの雷気で、余計に酷くなってしまいそうで。 それで、どうしようって思ってるうちに、動かなくなっちゃって……呼んでも、応じて呉れなくて……声も、聞こえなくなっちゃって。 息をしているのかも、分からなくて……。 ……意識、障害。 あとは……あとは……。 ……ありがとう、ユゥ。 あ、そうだ……。 ……うん? 今の師匠には、誰も近付けない……多分、メルの先生でも。 私達なら……ううん、私達だけなの。 え……? ジュピターに、近付けるのは。 ……。 水気を纏う、マーキュリーだけなの。 ……どういう、こと? 水は、雷気を通す。 そ、そうだよ、だから、 けれど純水ならば。 じゅんすい……? 不純物を含まない或いはほとんど含まない、純度の高い水のこと。 ただの水が雷気を通すのは、不純物が多く含まれているから。 えと……。 水という物質は本来、雷気を通さない絶縁体なの。 ……。 先生の水気は……不純物を一切、含まない。 それは本当のマーキュリーだけが持っている、力。 ……それなら、だいじょうぶなの? うん……大丈夫。 ジュ、ジュピターのらいき、でも……? 仮令、ジュピターのものであっても。 で、でも、やっぱり、あぶないよ……。 私達マーキュリーは、然ういう風に出来ているの。 ……。 然う……遠い昔から、私達は、然ういう風に出来ているの。 ……そう、なの。 だから……先生は、大丈夫。 そう、なんだ……。 ……然う、先生なら。 そっか……じゃあ、だいじょうぶだね……。 ……うん。 へへ……よかった……。 ……。 ……ねぇ、メル。 なぁに、ユゥ……? ……ぎゅっとしても、いい? うん……。 ……。 ……ねぇ、ユゥ。 なぁに、メル……。 お師匠さんが然うなってしまう前に、何か変わったことはなかった? かわった、こと……? 然う……いつもはしないこと、いつもとは違うこと……。 ……。 お師匠さんの行動に、何か、引っ掛かるものはなかった……? ……ひっかかる、もの。 なんでも、良いの……。 ……わからない。 何か……。 そんな、の……わからない、よ……。 ほんの少しだけでも、良いの……例えば、 そんなの、わかんないよぅ……っ。 あ。 ……うぅぅぅ。 あぁ、ごめんなさい……ごめんなさい、ユゥ……う。 ……。 ユ、ゥ……。 ……。 ユ……ゥ……くる……し……。 ……。 ぁ……ぁ……。 ……あぅ。 ……。 ……だ、れ。 せん、せ……。 ……メル、の。 ……。 ししょうが、ししょうが……ぁ。 ……は、ぁ。 ……。 ……ユ、ゥ。 ここで、まっていれば、いいの……? ……。 うん、わかった……まってる……。 ……先生。 はぁ……。 ……私は、ユゥの傍に居ます。 ……。 ……はい、分かりました。 どうぞ、お気をつけて……。 せんせい……。 ……ユゥ、向こうに。 ……。 向こうで、私と……。 ……へへ。 ユゥ……? ……やらかくて、いいにおいがした。 ……! すごく……やさしい、においだった……。 ……。 ね、メル……ししょうは、もう、だいじょうぶだね……。 ……わたしが。 だって、メルのせんせいが、いってくれたから……。 ……あなたの、なのに。 へへ……。 ……ユゥ。 うん……メル? ……。 なに……? ……なんでも、ない。 そう……? ……。 ねぇ、メル……ん。 ……。 メ、ル……? ……むこうに、いきましょう。 向こう、って……。 ……わからないの。 ……。 ……来て、ユゥ。 う、ん……。 ……。 ……メル。 ここで……私、と。 でも……。 ……いつも、みたいに。 だけど、いまは……。 ……。 メル、その……うれしい、けど。 ……聞いて。 え……? ……私の、話を。 メルの、はなし……? ……そう、ジュピターの話。 ジュピターの……。 ……さぁユゥ、座って。 ……。 お願い……座って。 ……うん、わかった。 横になっても……良い、から。 ううん、起きてるよ……。 ……どう、して。 まってるって、やくそく、したから……。 ……わたし、よりも。 メ ユゥ。 え……わっ。 ……。 な、に……。 ……わたしじゃ、だめなの。 だ、だめって……? ……いつも、ねだってくるくせに。 メル……どう、したの……? この方が、話しやすいから。 け、ど……。 ……。 メ、ル……。 ……いや、なの。 なに、が……。 ……わたしは、いいにおいじゃ、ないから。 そ、そんなこと……。 わたしは、せんせいよりも、いいにおいじゃないから。 ユゥはいやなの、もういやになってしまったの。 い、いやになんか、なるわけ……。 ……。 メ、メルだって、いいにおいだよ……。 ……メル、だって。 ど、どうしたの、メル……。 ……どうも、しないわ。 ……。 どうも、しないの……。 ……メル。 ごめんなさい、ユゥ……。 ……なんで。 ……。 ……どうして、あやまるの? ……。 メル……? ……あさましい、から。 あさましい……? ……お師匠さんが、大変なのに。 ……。 それ、なのに……。 ……師匠なら、大丈夫だよ。 ……。 だって……メルの先生が、行って呉れたから。 ……。 だからね、あたしはここで待ってるんだ……メルと、一緒に。 ……わたし、と。 然う、メルと……メルと一緒なら、あたしも、大丈夫なんだ。 ……。 ね、メル……? ……ね、ぇ。 なんだい……? ……このままで、いさせて。 うん……いいよ。 ごめんなさい……。 ……なんで、あやまるの? ……。 そうだ……ね、だきしめても、いい? ……だきしめて、くれるの。 ふたりで、くっついていれば……もっと、安心するよ。 ……。 でさ、話をしよう……メルの話、ちゃんと聞くよ。 だから……わ。 ……。 ん……いいにおい。 ……わたし、と。 メルが……いちばん、すき。 ……。 いちばん、すきだ……。 ……ほん、とう? うん……ほんとう、だよ……。 ん……ユゥ……。 ……メルは、睫毛も青いんだなぁ。 ……。 長くて……とても、きれいだ。 ……体毛は、ほぼ、同じ色になるものだから。 ほぼ、同じ色……? ……ユゥの睫毛も、髪の毛と同じ色をしているわ。 睫毛だけじゃ、ない……眉毛、も。 んー……。 ……場所によっては、くすんだりはするけれど。 違う色になることは……あ。 ……。 ……ユゥ。 ねぇ、メル……。 ……なに。 ここも……そう? ……。 今度、よく だめ。 同じ色か、 絶対に、だめ。 確かめた 絶対、絶対、だめ! そ、そんなに? 絶対、いや。 え、えと……。 ……。 若しかして……恥ずかしい? ……。 然うなの? ……ユゥは、恥ずかしくないの。 あたし? 確かめると、言うことは……明るい場所で、と言うことでしょう。 まぁ、暗いと見えな だから、絶対にいや。 あ、あー……。 ……確かめるなんて、そんなこと。 じゃ、じゃあさ。 ……。 今度、一緒に湯浴みを しない、絶対に、しない。 今後一切、しない。 え、えぇ……。 ユゥのばか。 で、でも、湯浴みは あわよくば、確かめようと思っているのでしょう? 絶対、しない。 ……うぅ。 ばか。 ……ごめんなさい。 知らない。 ご、ごめん、ごめんよ……。 ……ユゥのばか。 ……。 ……そんなに、気になるの。 ……うん。 私が……その、教えたら。 ……。 それで……満足して、呉れる? ……。 ……やっぱり、教えない。 ……メルは、知ってるよね。 ……。 あたしは……定期的に検査、しているから。 ……検査とは、違うもの。 でも、知ってる……。 ……それに、検査は下着まで脱がないもの。 躰の手当ても、して貰ってるし……。 ……手当てだって、全部脱ぐわけではないわ。 湯浴みも、何度か一緒にしてるし。 ……それだって、薄暗い中でだもの。 ……。 ……はっきりと、見えないもの。 それでも、メルは知ってる。 ……だって、それは。 あたしがジュピターで、メルがマーキュリーだから? ……。 ジュピターは……マーキュリーの全部を、見てはいけないの? 確かめては、いけないの……? ……。 ねぇ、メル……。 ……はずかしい、の。 ……。 ……だから。 そっか……わかった。 ……。 ……ねぇ、メル。 ……。 薄暗い中でなら……湯浴み、これからも一緒に。 ……。 ……はっきりと、見えないから。 ジュピターの目だったら……。 ううん……それでも、見えないよ。 見えていたら確かめたいなんて、言わない。 ……あわよくば、 見ようなんて、思わない。 約束、する。 ……。 だから……メル。 ……約束、して呉れる? うん……約束する。 ……破ったら、 破らない……絶対に、守る。 ……もう、言わない? うん……もう、言わない。 ……。 言わない……確かめたいなんて、もう。 ……。 ……。 ……意識的に、確かめようと思わなくても。 うん……? ……続けていたら、その、分かる日が来ると思うわ。 ……。 ……。 ……メル、真っ赤だ。 ……誰のせいだと、思っているの。 あたしの、せい……。 ……。 う……。 ……ばか。 うん……ごめん。 ……。 ……ねぇ、メル。 ……なに、ユゥ。 睫毛……睫毛が、ね。 ……。 また、目の中に入るようなことがあったら……。 ……自分でもう、対処出来るわ。 も、若しも、出来なかったら……。 ……出来るから。 ……。 あの頃とは、違うから……。 ……そっか。 ……。 然うだよね……。 ……どうやって、取って呉れるの。 え……? ……眼球を、舐めるのは。 だめ……なんだよね。 ……。 ……。 ……ねぇ、ユゥ。 なに……メル。 ……口付け、なら。 くちづけ……。 ……目蓋、に。 ……。 ……ん。 メル……。 ……。 ……睫毛、きれいだ。 ユゥの、睫毛も……。 ……。 ……栗色で、とてもきれい。 然うかな……。 ……きれいよ、ユゥ。 えへへ……少し、こよばゆいや。 ……。 ……ふぁ。 眠い……? うん……なんだか、眠くなってきちゃった。 ……少し、眠る? ううん……待ってるって、約束したから。 ……。 ……? メル……? ……あのね、ユゥ。 う、うん……。 ……今夜は、帰ってこないかも知れない。 え……。 ……お師匠さんの傍から、離れないような気がするの。 ……。 そんな気が、するの……。 ……そっか。 だから、明日の朝……昼に、なってしまうかも知れない。 ……じゃあ、安心だ。 ユゥ……? 先生が、明日まで師匠の傍に居て呉れるなら……さ。 メルも、然う思うだろ……? ……うん、思う。 ね、メル……今夜は、ここで眠っても良い? ……ん、もちろん。 ……。 ん……ユゥ。 ……メルから、離れたくない。 ……。 ……師匠に、先生が居て呉れるように。 あなたには、私が……。 ……メルが、居て呉れる。 ……。 メルは、あたしの……あたしだけの、マーキュリー。 ね、然うなんだよね……? ……わたしで、いい? メルじゃなきゃ、いやだよ……。 ……ん。 若しも、師匠のようになったら……メルに、傍にいて欲しい。 朝までずっと、傍に居て離れないで欲しい……。 ……離れない。 帰らないで、欲しい……。 ……帰らない、ずっと傍に居る。 やくそく……? ……やくそく。 へへ……やった。 ……私は、あなたのマーキュリー。 ……。 あなただけの……マーキュリー。 ……メル。 仮令……先生のような、マーキュリーになれなくても。 ……。 私は、あなたの傍に……必ず、あなたの傍に。 ……ならなくて、良いよ。 え……? ……先生のような、マーキュリーに。 ……。 あたしも、師匠のようなジュピターにはならないと思うから……。 ……。 えと……それでも、良いよね。 ……うん、良いわ。 へへ、良かった……。 ユゥは、ユゥで居て……ずっと、ユゥのままで。 ……あたしは、あたしのままジュピターになる。 だからメルも、メルのままで……。 ……マーキュリーになるわ。 うん……。 ……あなただけの、マーキュリーに。 あたしも、メルだけのジュピターになるよ……。 ……うん。 ジュピターに、マーキュリーが居て呉れるように……。 ……マーキュリーには、ジュピターが居る。 師匠は、先生だけのジュピター……。 ……あなたは、私だけのジュピター。 先生は、師匠だけのマーキュリー……。 ……私は、あなただけのマーキュリー。 ……ずっと、離れないで。 ずっと、傍に居て……。 ……約束だ。 うん、約束……。 ……。 ……ねぇ、ユゥ。 なんだい……メル。 ……私以外の、誰かを、見ないで。 見ないよ……。 ……それが、仮令。 見るわけ、ない……。 マーキュリーで、あっても。 ……うん? 私以外のマーキュリーを見ないで。 ……それは、先生のこと? ……。 え、と……。 ……ばか。 う。 ……ユゥの、ばか。 あ、あたしが。 ……。 あたしが、花冠を贈りたいと思っているひとは……ずっと、メルだけだよ。 ……。 メルだけ、なんだ……。 ……。 ね、ねぇ……憶えてる? 花冠を、贈った日のこと……。 ……忘れるわけ、ない。 ん……。 ……ちゃんと、憶えてるわ。 そっか……良かった。 ……だからもう、見ないで。 ……。 先生に、見惚れないで……私だけを、見ていて。 ……が、がんばる。 がんばるって、なに。 み、見惚れないように 絶対、見惚れると思う。 ……う。 もう……ユゥのばか。 ……想像、しちゃうんだ。 想像……? ……先生くらいになった時の、メルの姿。 ……。 そ、それで、色々……。 ……それだけじゃないと思う。 ……。 ユゥの、すけべ。 そんなことばかり、考えて。 そ、そんなこと、 ……。 ……あります、ごめんなさい。 ……。 で、でも、考えているのはいつだってメルのことだから……先生じゃ、ないから。 ……先生の艶めかしい姿を想像したことは? ……。 はぁ……本当、ユゥって。 ……師匠は、どうだったのかな。 ……。 し、師匠も、すけべだし……ジュピター、だし。 マーキュリーのこと、大好きだと思うんだ……。 ……。 だから、だからさ、先生の前のマーキュリーに……見惚れたなんて、ことも。 ……お師匠さんは、知らないと思う。 知らない……? 先生の前のマーキュリーは……お師匠さんが来た頃には、もう。 ……。 記録上では、然うなってるから……。 ……そう、なんだ。 ……。 だけど、若しも、会えていたら……見惚れてたと思うな。 師匠、あたしよりも ……どっちもどっちだと思う。 ……。 ……。 ……出来るだけ、見惚れないようにします。 ……。 メル、あたしは……。 ……ん。 先生に、見惚れることがあっても……それでも、メルだけを……。 ……。 メル……口付けを、してもいい? ……どうして。 改めて、誓う為に……。 ……。 メル……。 ……。 …………誓うよ、メル。 ユゥ……ぁ。 あたしは、メルだけだから……。 ……だめ。 ん……。 ……これ以上、は。 ……。 ……今は、だめ。 ……うん。 ……。 ……。 ……お師匠さんの、こと。 ……? ……未だ、話してない。 あぁ……。 あなたに、ちゃんと話しておかないと……いけない、から。 ……ジュピターの、話。 ……。 ジュピターの話って……なに? ……ジュピターは、お酒を絶対に飲んではいけない。 酒……? この話……お師匠さんから聞いたことは、ある? ううん、ない。 ……然う。 でも、どうして飲んじゃだめなの? 酒精が……ジュピターの体質とは致命的に合わないから。 あわない……って? ……毒に、なるの。 どく……酒が? 然う……だから、絶対に飲んではいけないの。 ……。 ……恐らく、だけれど。 うん……。 ……。 メル……? ……もう大丈夫、よね。 え、何が……? ……ううん、いいの。 うん……? ユゥ、あのね。 うん。 今回、お師匠さんが倒れた原因は……酒精に、あると思うの。 え、どうして。 倒れる前に、何か食べたり飲んだりはしていなかった? ちょっと待って……思い出すから。 ……。 ……帰ってきて……直ぐに、お茶を飲んでたような気がする。 お茶……? 然うだ、先生に貰ったお茶を飲んでた。 渋いとか、言いながら……それから、倒れたんだ。 ……先生に。 師匠は何でも飲み食いするけど、酒だけは一滴も飲んだことがない。 嫌いだからって、言ってたけど……飲めないから、だったんだ。 ……然う、お師匠さんが自ら進んで毒であるお酒を飲むわけがない。 それで、あたしにも飲むなって。 飲みたいなんて言ったこと、一度も、ないのに。 ……ねぇ、ユゥ。 お師匠さんは、どこから帰ってきたの……? 師匠は……。 ……そこに、手がかりがあるかも知れない。 師匠、は……鍛錬が、終わってから……どこかに、出かけた……。 ……一体、どこへ。 だれかが、家に来たような……あ。 ……ユゥ? 思い、出した……。 ……。 師匠……今日は、宮殿に行ったんだ。 使いのひとが来て、それで……。 ……それだわ。 え? 宮殿から帰ってきて、直ぐに先生から貰ったお茶を飲んだ。 それから様子がおかしくなって、倒れてしまった。 ……。 違う? ……ちがわない。 やっぱり………それしか、考えられない。 どういう、こと……? 恐らく、だけど……お師匠さんは宮殿で、お酒を飲まされた。 な、なんで。 ……分からない。 ど、どうして師匠に。 ……。 師匠は、今の、ジュピターなのに。 片腕を失っていたって、師匠は誰よりも強いのに。 ……盛られたか、或いは、命令か。 命令ならば、ジュピターは……いいえ、誰も逆らえない。 命令って、誰の……。 ……。 だ、だって、酒精はジュピターの体質に合わないんだろ? 合わないから、師匠は……。 ……然う、望んで飲むことは決してない。 だけど、命令、されたら……。 誰が、師匠に……。 ……ジュピターに命令が出来るのは、たったひとりだけ。 ……! ……ましてや、こんなこと。 なん、で……。 ……だけど、ユゥ。 未だ然うだと、決まったわけじゃないから……。 でも、然うだとしたら……。 ……。 あたし、は……。 ……酒精は。 ……。 最後は、体外に排出されるのだけれど……その為には、幾つかの過程を経て分解される必要がある。 ……。 その全ての過程で、ジュピターの躰は、異常を来すように出来ている……。 異常……。 ……ジュピターは、然う、造られているの。 造られ、て……。 ……どうして然うなったのかは、分からない。 だけど……遠い昔から、然う、出来ているの。 ……。 異常を来したジュピターは、躰が……呼吸を含めて、ゆっくりと動かなくなっていく。 場合によっては、自我すらも失って……。 ……。 制御出来なくなった雷気は、ジュピターを守るようにして、その周囲に……だからマーキュリー以外、誰も近付くことが出来なくなる。 ……なんで、だよ。 なみの木星の民であれば……ただの水星の民でも、対処は出来る。 けれどジュピターは、かつての木星の王……故に、なみの者では到底近付くは出来ない。許されない。 王に近付くことが出来るのは、水星の真(まこと)の姫であるマーキュリーだけ……。 ……なんで、師匠が。 これは、ただのお伽橋……ジュピターが木星の王で、マーキュリーが水星の真の姫だったなんて、そんな記録は残されていないから。 それでも……酒精に中ったジュピターを救えるのはマーキュリーだけ、それは作り話なんかではないから。 ……マーキュリーはどうやって、ジュピターを救うの。 先ずは、躰を温めるの。 ……。 十分に温まったら、水気を体内に送り込んで……酒精を吸収した全ての器官を、無理矢理、洗浄するの。 酒精は吸収されるのが早いから、普通に洗浄してもあまり効果はないのだけれど……水気、なら。 効果が、あるんだね……。 ……。 ……それは、くるしいの。 意識が、ないのが……せめてもの、救いなの。 あった、ら……。 ……その場合、は。 ……。 溺れているかのように、藻掻き苦しむと……。 ……。 洗浄が無事に終わったら……雷気を抑える為の、特殊な薬を打つ。 あとは、安静にして……躰の回復を、待つの。 ……もしも、マーキュリーが。 マーキュリーが若しも、間に合わなかったら……ジュピター、は。 ……壊れて、しまう。 ……。 なんで……なんでだよ。 ……。 なんで、師匠に……師匠は、ジュピターなのに……なんで……。 ……ユゥ。 ……。 あなたも、ジュピターだから……。 ……あたしも、酒を飲んだら然うなるんだね。 ……。 分かった……絶対に、忘れない。 こんな形で、教えることになるなんて……本当なら、お師匠さんが教えることだったのに……。 ……ううん、メルで良かったと思う。 ……。 師匠は、いい加減だから……説明も、下手だし。 だから、メルで良かった……。 ……。 ……メル、あたし達は。 私達は……ずっと、囚われたまま。 ……。 ……遠い昔から続く、使命に。 呪いとも呼べる、宿命に……。 のろい……。 ……月の王国が、続く限り。 ……。 解き放たれることは、屹度、ない……。 ……メル。 ……ユゥ。 ずっと、傍に居よう。 ……ええ、ずっと傍に。 ずっと、メルの傍に。 ……ずっと、あなたの傍に。 -微酔(パラレル) 大夫。 ……。 落ち着いてきたことだし、少し休け……。 ……。 だ、大夫……っ! ……あぁ、まことさん。 大丈夫かい?! 私、ですか……? ええ、ええ、大丈夫、ですよ……。 いやいや、大丈夫ではないよ。 ほーら、私はこんなにも元気……。 どう見ても、疲労困憊にしか見えない。 目は遠いところを見ているし、手だって震えているじゃないか。 遠いところを見ているのは、目を休める為に……手が震えているのは、私の修行が足りないせいです……どうぞ、気にしない下さい……。 無理だよ。 こんな大夫を見るのは初めてだ、気にしないでいられるわけがないだろう。 うふふ、まことさんったら……大袈裟、ですよ。 私なんかよりも、患者さん達の方がずっと あれは、自業自得だ。 大夫の方がずっと、大変だよ。 いいえ、これもまた、医生の務め……私は、果たさなければならないのです。 もう十分、果たしたよ。 あとは自分達でなんとかして貰えば良い。いや、するべきだ。 そうそう、丸薬が未だ足りないと思うから、今のうちに作っておかないと……。 本当にもう、大丈夫だから。 あとは、然うね……念の為に、猪の胆嚢を煎じたものを……。 外を見てきたけれど此処へ来るひとは居なかったし、行き倒れているひとも見当たらなかった。 大夫のおかげで、落ち着いたんだよ。 然うですか……でしたら、往診に行きましょう。 若しかしたら、家の中で動けなくなっているひとが居るかも知れません。 それも、大丈夫だ。 あたしがひとりひとり、確認して、名前も書いておいたから。 此処に来ていないのはレイと、うさぎちゃんくらいだよ。 レイさんは……。 あれは、薬が必要となるまでは飲まない。 だから、心配は要らない。 ですが……。 良いから、休もう。 少しでも良いから、休まなきゃだめだ。 ……でも、今、休んでしまったら。 さぁあたしと休もう、大夫。 ……まことさん、と。 然う、あたしと。 ……良いので、しょうか。 あぁ、良いんだよ。 今、湯を沸かしているから。 ……。 沸いたら、熱いお茶を淹れる……一緒に飲もう、大夫。 はい、まことさん……。 うん。 ……はぁ。 疲れたろ……お茶請けに、甘いものでも。 ……。 ……? 大夫……? ……。 大夫……! ……疲れ、ました。 あぁ……。 ……ねぇ、まことさん。 なんだい……? 本当に……休んでも、良いでしょうか。 勿論だよ……一緒に休もう、大夫。 はい……。 ……。 はぁ……。 ……ごめんよ、大夫。 ……? どうして、ですか……? あたしが、こんなことを頼んだばかりに……。 ……ふふ。 うん……? ね、まことさん……? ……なんだい、大夫。 ……。 え、と……なんだい、亜美さん。 私は、医生です。 ……。 仮令、まことさんに頼まれていなくても……私は、私の務めを果たすだけ。 然うは、思いませんか……? ……然う、思う。 でしょう……? ……ありがとう、亜美さん。 こちらこそ……ありがとうございます。 ……どうしてだい? まことさんが居て呉れなかったら……もっと、大変な目に遭うところでしたから。 ……。 ね……? ……はは、然うかも知れない。 ふふ、ふふ……。 ね、亜美さん……甘いの、食べるだろう? 麻花が、あるんだ……。 はい……頂きます。 ん……それじゃ、お茶の支度をしよう。 そろそろ、湯が沸く頃だ……。 私も……。 ううん、亜美さんは休んでいて。 でも、まことさんだって疲れているのに。 良いかい、亜美さん。 ……はい。 亜美さんは医生としての務めを果たす。 あたしは己の大切なひとの為に真心を尽くす。 ……。 と言うわけだから、亜美さんは休んでいて。 良いね。 ……はい、まことさん。 ……。 ふふ……。 ……。 ねぇ、まことさん……。 ……なんだい、亜美さん。 また、あなたのお気に入りの場所に……ん。 ……明日は、どうだい? もう……最後まで、言わせて? はは……ごめん、ごめん。 ……もぅ。 明日は、だめかい……? ……だめでは、 ん……亜美さん。 ……ないわ。 じゃあ……然うしよう。 ん……。 ……。 ……ねぇ。 ねぇ、亜美さん。 ……なぁに? ……。 まことさん……? ……いや、なんでもない。 嘘……。 ……む。 その顔は……なんでもないって顔じゃ、ないわ。 ……出てる、かな。 ええ……とても。 ……然うか。 ね……なぁに? ……。 もぅ、まことさん……? ……今度、祝事(ほぎごと)があるだろう? あぁ……確か、久しぶりなんですよね。 然う、然うなんだ……。 美奈子ちゃんとうさぎちゃんが、とても楽しみにしていると……。 ……楽しみにしているのは、子どもだけじゃない。 ……? ……子どもよりも、寧ろ、大人達の方が。 何か、気になることでもあるの……? ……とても久しぶりなものだから、すっかり忘れていたんだ。 忘れて、いた……? ……。 何を……? ……祝事では、酒を飲む。 え……? ……老若男女、兎に角、飲む。 ……。 祝いごとだからと言って、止める者が居ないから……ここぞとばかりに、それこそ箍が外れてしまったかのように。 それは……。 結果……皆、生ける屍のようになる。 ……あぁ。 そのせいで次の日の有様が、それはもう、言葉に出来ないくらいに酷くてさ……。 家の前を通ると、漏れなく、呻き声が聞こえてくるんだ……。 ふらふらしながらも歩いているひとが居れば、家の前でうずくまって動けなくなってるひとも居る……。 何より、酒臭い……。 ……。 然うなるまで飲まなきゃ良いだけの話なのに、どうしたって、飲んじゃうんだよな……ひとって。 ……ひとは、何処でも同じなのですね。 都でも、然うかい……? ……ええ。 然うか……。 ……冬場だと、凍死してしまうひとも居ます。 酷く酔った挙句に、外で眠り込んでしまって……誰にも見つけて貰えず、そのまま。 あぁ……。 大きな慶事やお祭が行われる時は、前以って、丸薬を多く作り置きしておくんです。 それでも、足りないことが何度もありましたが……。 ……。 ……。 ……あたしも、飲むけど。 正体をなくすまでは、飲まないだろう……? 然うですね……。 然うなるとさ……あたしと子どもくらいなんだ、元気なの。 あの、レイさんは……? ……レイは、目を開けたまま寝る。 はい……? 酔うとさ、よく分からないことを空(くう)に向かって唱え始めるんだ……で、静かになったと思ったら、目を開けたまま寝てる。 だから、家まで連れて行って……次の日は、起きてこない。 ……飲むんですね、レイさん。 普段は、飲まないんだけど……然ういう時だけは、少しだけでも、飲むようにしてるんだとか。 曰く、祝いごとだから。 祝いごと……私も、飲んだ方が良いのでしょうか。 飲めないのに、無理はするべきじゃない。 ……一口くらい、なら。 酒は合う合わないがある。 合わない者が飲んだら、どうなるか……亜美さんなら、知っているだろう? ……はい。 だから、亜美さんは良いんだよ。 他のことでお祝いすれば良いんだ。 ……然うします。 はぁ……。 ……。 思い出したら、気が重たくなってきた……。 ……大変だったんですね。 うん……放っておけば、良いのだろうけど……然ういうわけにも、いかないだろ。 軽い人は、良いんだけど、重い人は……さ。 ……分かりました。 亜美さん……。 私は、祝事に向けて万全を期します。 ごめんよ、亜美さん……迷惑を掛けることになるけど。 ううん、良いの。 ……。 前以って、知っていた方が……準備が、出来るもの。 ……あたしも、出来ることなら何でもする。 だから……遠慮なく、言って。 ……。 もう、遠慮する間柄じゃないんだ……だから、亜美さん。 ……お願い、しますね。 うん……任せて。 ……。 ……ん、あみさん。 ふふ……。 ……うん? こんなときに、こんなはなしをするなんて……。 ……ごめん。 ううん、いいの……だってあなたが、わたしに。 あみさん……。 ほかのことに、きをとられて……むちゅうになってくれないほうが、いやだもの。 ……。 ……。 …………はずかしい? ……もぅ、いわないで。 はは、ごめん……。 ……ぁ。 こんどこそ……むちゅうに、なるよ。 ……だから、いわないで。 ……。 まことさん……? ……はっ。 大丈夫ですか? いや……ちょっと、意識が飛んでいたみたいだ。 目は開いているのに、声を掛けても反応がないから。 若しかしたら、レイさんのように目を開けたまま眠っているのかと。 はは、それはないかなぁ。 寝る時はちゃんと、目を瞑って寝るよ。 ……今夜はもう、休みましょう。 うん? 眠るには未だ、少し早いですが。 ……。 昨夜は、あまり眠れず……今日は、朝から動きっぱなしで。 まことさんと雖も、流石に限界だと思います。 いや、未だそこまでではないけど……。 お布団、敷きますね。 あ、うん……ありがとう。 ……。 然うか……今はもう、夜か。 ……ねぇ、まことさん。 ん? ……此処が何処か、分かっていますか? 此処が、かい……? ……はい。 んーー……あたしの家、ではないな。 はい、此処は私の家です。 あぁ……あたしは、帰っていなかったのか。 片付けまで終えて、少し休んだら帰ると言っていたのですが。 然うだ……亜美さんを連れて帰ろうと、思ってたんだ。 帰って、ふたりでごはんを食べて……それから。 ……あの、まことさん。 ん……。 帰ると、言うのなら……灯りの支度をします。 ……。 ……帰りますか。 若しも、帰るのなら……私も、 ねぇ、亜美さん。 ……はい。 良いかな……今夜はこのまま、泊っても。 ……。 だめ、かな……。 ……いいえ。 ん……ありがとう。 ……お布団、敷きますね。 眠る前に少し、酒が飲みたいな。 ……え。 猪口に一杯、だけ。 ……でも。 亜美さんの顔を見ながら、一杯だけ、飲みたい気分なんだ。 ……。 と言っても、ないか……。 ……いえ。 うん? あるのかい? ……お礼として、誰かが置いていかれたみたいで。 驚いた……残って、いたのか。 ……一杯だけ、飲みますか。 良いかな。 はい……用意しますので、ちょっと待っていて下さいね。 ん。 ……。 ……きれい、だな。 ……。 本当に……きれい、だ。 まことさん。 ……。 お待たせしました。 ……いや、大して待っていないよ。 こちらなのですが……。 ……あぁ、山査子の。 甘酸っぱくて、香りが良いんだ……良く、残っていたなぁ。 若しかしたら、残しておいたのかも知れませんね。 後で飲む為に? 屹度。 あれだけ飲んで、未だ飲むつもりだったのか……誰だかは、知らないけど。 ……結局、此処に置いていかれてしまいましたが。 皆、漏れなく二日酔いだもんな。 しかし、美奈まで飲んでいるとは思わなかった。 ……気が付いた時には、手遅れでしたね。 取り上げたけど、見事に酔っ払ってたな……。 ……中毒にならなくて、良かったです。 いつもだったら、レイが目を光らせているのだけれど……。 ……ねぇ、まことさん。 ん……? 良かったら……お酌、しましょうか。 え? ……。 あ、いや、嬉しいけど……良いよ、亜美さんも疲れているだろう? 然うだ、手は大丈夫かい? 大分、震えていただろう? 丸薬の作り過ぎで。 もう、大丈夫ですよ。 握力も大分、戻ってきましたし。 いや、無理は良くないよ。 ……でも。 まさか、途中から行商団が加わるなんて思ってなかったんだ。 ひとが増えるどころか振る舞われる酒も増えて、そのせいで、作り置きしておいた丸薬が足りなくなって……? ……。 ……え、と。 ……。 お願いしても、良いですか……? ……はい、勿論です。 うん、ありがとうございます……。 ふふ……どうして、敬語なのですか。 なんとなく、かな……。 ……一度、してみたかったんです。 お酌を、かい? けど、そんなに良いものでは あなたに、です。 ……。 ……初めてなので、上手に出来ないかも知れません。 その時は、ごめんなさい……。 ん、いや……その時は、その時だよ。 ……それでは、まことさん。 うん、お願いします……。 ……。 待った、それだと零れてしまう。 あ、はい……こう、でしょうか。 うん……。 ……あ。 ……、と。 ご、ごめんなさい。 はは、良いよ。 今、拭きま 待って。 ……あ。 良いよ……気にしないで。 で、でも……。 ……良いんだ。 まこと、さん……。 ……。 ……。 ……亜美さん。 …………おさけ。 あぁ……。 ……こぼれて、しまいます。 大丈夫、床に置いたから……。 ……。 ……。 ……のまないの、ですか。 ……今から、飲むよ。 ……。 ……ん、美味しい。 美味しい、ですか……? ……うん、とても。 良かった……。 ……亜美さんが、お酌をして呉れたから。 ……。 格別に、美味しいよ……。 ……まこと、 ……。 ……ん、……。 ……。 ……おさけの、におい。 ごめん……嫌だったよね。 さんざしの、あまいかおりがします……。 ……よいかおり、かい? は、い……。 ……これくらいなら、大丈夫? 飲むわけでは、ないので……あぁ、だけど。 ……うん? ……。 亜美さん……? ……飲ませて、呉れませんか。 ……。 ひとくち、だけ……。 ……だけど。 同じものを、味わってみたいの……。 ……一口だけでも、気分が悪くなってしまうのだろう? ……。 ……だとしたら、やっぱり飲んでは駄目だよ。 それ、でも。 ……駄目だ、亜美さん。 ひとくちで、なくてもいいの……ほんの、ほんのすこしだけ。 亜美さん……。 ……ほんのすこしだけで、いいから。 む……。 ……あなたのくちから、のませて。 ……。 ……。 ……ほんの、少しだけだよ。 はい……。 ……。 ……ん、……ふ、ぁ……。 ……。 ……ん、……。 ……どう、だい? あまくて、すっぱい……。 然う……山査子は、甘くて酸っぱい。 ふふ……いいかおり……。 亜美さん……大丈夫? ……のどが、おなかのなかが、あつい。 あぁ……酒が、入ったから。 ……はぁ。 ん……熱い、な。 ……。 お水、飲むかい……? ……まことさん。 う、ん……? …………。 ……あみ、さん。 あつい、わ……。 ……何が、熱いの? からだが……。 ……。 あなたの、ても……あなたの、したも。 ……酒を、飲んだからね。 もっと……ほしいわ。 ……もう、駄目だよ。 ね……もっと。 ……あたしも、飲まない。 酒はもう、お仕舞いだ……。 ……もっと、ほしいの。 酒で、ないものなら……。 ……あ、ん。 それじゃ、だめかい……? ……。 ……今夜は、やめて おふ、とん。 ……。 ……おふとん、に。 あぁ……然うだね。 やっぱり……しいておけば、よかった。 ……今直ぐ、敷くよ。 まことさんの、ばか……。 ……ごめんよ、直ぐに敷くから。 ……。 疲れている筈、なんだけどな……。 ……まだ? あぁ、もう直ぐだよ。 ……。 ……これで、よし。 ……。 亜美さ……、 ……まことさん。 ……。 はやく……。 ……あぁ。 ……。 疲れて、いるのに……。 ……。 行こうか……亜美さん。 ……ん。 ……然うだ、亜美さん。 ……。 あたし達の……祝言は、いつにしようか。 ……しゅう、げん? 言われたんだ……お前達はいつ、祝言を挙げるのかって。 ……。 あたしは、いつでも……。 ……。 ……。 ……。 ……この話は、また今度かな。 ね、ぇ……。 ……ん? いつか、あげたいわ……。 ……いつか? ……。 あたしは、直ぐにでも良いんだけどな……。 ……すぐ、に? と言っても、支度をしなければならないから……明日にとは、いかないけど。 ……。 ……亜美さん、あたしのつれあいに。 して。 ……。 ……して、まことさん。 あぁ……必ず、するよ。 ……まことさん、も。 亜美さんのつれあいに、して呉れるかい……? ……なって。 ……。 なって……まことさん。 ……うん、喜んで。 ふふ……。 ……。 ……ん……まこと、さん……。 -Stone Cold(前世・先代) ……。 ……マー、キュリー。 はぁ。 ……いれて、くれ。 またなの。 それ、は……あたしが、いいたい。 ……。 たの、む……。 ……入って。 わる、い……。 寝台まで、歩ける? あ、ぁ……。 倒れたら、私の力では運べないわよ。 わかって、る……よ。 ……。 ここまで、きたんだ……あと、もうすこしくらい、なら……。 止まって。 ……な、に。 ……。 でて、いけ……って? 然うじゃない。 じゃあ……な、に。 少し、動かないで。 うごけない、よ……どう、せ。 ……雷気の暴走は。 なんとか、な……。 ……と言うことは、爆ぜることはないわね。 ま、此の部屋が然うなることは、ないけれど……汚れるのは、嫌だから。 はや、く……やすませ、て……くれ……。 いい、かげん……げんかい、なんだ……。 ……。 たのむ、よ……マー、キュリー……。 ……良いわ。 う……。 ……。 な、に……。 ……水精よ。 ちょ、マーキュ……。 ……彼の中を、駆け巡れ。 まっ……あ、ぁぁっぁぁぁっ。 ……くっ。 お、おま……え……。 ……黙っ、て。 て、てあら……すぎ、だろ……。 ……黙ってと、言っているの。 う……く……ぁぁぁ……。 ……どうせ、後でやるのよ。 だったら、今……。 ……っ、だから、って……。 は、ぁ……。 ……く、……ぁ……あ、ぁぁぁ、ぁぁ。 …………奥、深くまで。 はこべ、ないんじゃ、……なかった、のかよ……。 ええ、然うよ……だから、意識は……失わない、で。 むり、いうな……。 がまん、して……ジュピター、でしょう……。 ……むちゃくちゃ、だ……。 く……ぅ……。 ……おまえ、だって……くるしい、だろ……が……。 そう、よ……だか、ら……がまん、して。 あぁ……く……そ……。 ……はっ、ぁ。 マーキュ……メ、ル……。 ……そのなで、よばないで。 しる、か……。 ……ほんと……ばか……。 いま、さら……だろ……。 ……。 だ、まる……な……いしきが、とぶ……だろ……。 ……ユ、ゥ。 な、んだよ……。 ……がまん、して。 してる、よ……。 ……わたしのことが、 すき、だからな……。 ……。 ……くそ、がぁぁ……。 ことばが、きたない……。 いま、だけだ……ゆるせ、よ……。 ……ゆるさ、ない。 いまだけ、だって……くっ、 ……さいご、だから。 く、ぅぅぅ………。 がまん、して。 ぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁ……!! ……っ、……。 ……ぁ、ぁぁぁ。 ……。 ……。 ……は、ぁ。 …………ころ、 ……はぁ、……はぁぁ。 す、きか……。 ……いかすため、よ。 あぁ……? ……わかってる……くせ、に。 わかって、るよ……。 ……。 ……。 ……いいわよ、……うごいても。 すこし、やすませろ……。 ……しんだいで、どうぞ。 あぁ……ゆっくり、させて……もらう、よ。 ……うごけるようになったら、かえって。 あしたまでは、いるつもりだよ……。 ……。 ……。 ……あぁ、疲れた。 こっちは、疲れを通り越して……死ぬところだったよ……。 ……。 ……。 ……いい加減に、して欲しいわね。 全く、だ……。 ……それで、歩けるの? 寝台くらいまで、ならな……。 あぁ、然う……。 ……けど。 けど……? ……手を、引いて呉れ。 嫌よ……疲れた、から。 ……なんでだよ、良いって言うところだろ。 私が、素直に言うとでも……? ……いつ、素直になって呉れるんだよ。 なる時は、なるでしょう……? ……。 ほら、早く言って……。 ……もすこし、やさしくしてくれ。 あら、優しいじゃない……十二分に。 ……あぁ、然うだな。 ……。 あぁ……やっと、着いた……マーキュリーのにおいが、いてぇ。 ごめんなさい……手が、滑ったわ。 どう滑ったら、あたしの頭に氷の粒が降ってくるんだよ……。 ……仕方ないから、お茶を淹れてあげるけれど。 それは、ありがたいな……。 飲むの……? マーキュリーが淹れて呉れるなら……飲みたい、な。 そ……高いわよ。 安く、して呉れ……。 ……。 はぁ……。 ……少しは、楽になったかしら。 あぁ、大分……けど、未だ重い。 ……然うでしょうね。 笑って、やがったよ……。 ……。 完全に、面白がってやがる……。 ……私達は、お人形ではないのだけれど。 代わりは、幾らでも居るからな……。 ……お茶にでも、混入されたの。 あぁ、然うだよ……気付いては、いたけど……。 ……全部は、飲まなかったのでしょう。 少し、零してやった……。 ……それは、行儀が悪いわね。 昔から、だからな……あたしの、行儀の悪さは。 ……マーズには、叱られた? 全部、聞き流してやった……それに分かってるだろ、マーズだって。 ……プリンセスもね。 ……。 飲み干したら、致死量……。 ……本当、洒落にならない主だな。 ……。 あれが、次期クイーンとか……笑えない冗談、だ。 ……常に、賢王とは限らない。 ある意味、賢いだろ……下手を、すれば。 ……ジュピター。 どこで、どうなったら……あんなのが、出来上がるんだよ。 ……私達も、然うでしょう。 同じもので、作っても……。 ……同じには、ならない。 なぁ、マーキュリー……。 ……なに。 先代のことは、知ってるか。 ……前も、聞かれたわね。 また、聞きたくなった。 ……会ったことは、ないわ。 あぁ、あたしもだよ。 ……使命を果たしたことしか、知らない。 あぁ……あたしもだよ。 ……記録も、それしか残ってない。 一応、同じ日にされてんだよな……片付けられたの。 ええ……然うよ。 ……。 ……はい、どうぞ。 おう、ありがとう……。 高いわよ。 安くして呉れ。 一切、しないわ。 あぁ、然うかい。 ……。 あっつ。 火傷の手当てまではしないわよ。 ……舐めて呉れるだけで、良いよ。 嫌よ。 ……少しだけで、良いよ。 嫌。 ……ちぇ。 ……。 う、わ……しっぶ。 美味しいでしょう? ……マーキュリーは飲まないのか。 飲むけど? ……色、違くない? ええ、だって私の方が薄いもの。 あたしも、そっちが良いんだけど……。 あなたは、そっち。 幾らなんでも渋すぎだろ、これ……。 私が淹れたお茶が飲みたいのでしょう? ならば、全部、飲んで? ……おかしいな、笑ってるのに可愛いと思えない。 なぁに? 飲むよ、全部。一滴残らず。 然う? どうしてもと言うのなら、薄めてあげても良かったのだけれど。 薄め 全部、飲んで呉れるのでしょう? 一滴、残らず。 ……性格が、悪い。 ありがとう。 ……冷ましてから、一気に行くか。 冷めないうちに、飲んでね? ……もう少しだけ、冷ましても? 因みに、冷めきると更に渋くなるわよ。 ……。 ゆっくり、飲んで。 味わうように。 ……あぁ、分かったよ。 ……。 しぶ……。 ……。 ん……なに。 ……一緒に飲むことが出来たら、少しは違うのだけれど。 ……。 気分は? ……まずまず、だな。 然う。 ……お前は? 疲れてる。 ……だろうな。 書物を読んでいたのに。 今度は、どんなのを読んでいたんだ? 青い星の毒物について。 ……それ、前も読んでたような気がするな。 ええ、読んでいたわよ。 暗記もしているわ。 ……珍しいな、同じのを読んでるのは。 然ういう時も、あるわよ。 明日にでも命を落としてしまわない限り、時間はあるから。 だったら、あたしと……。 書物を読む方が有意義。 仮令、一度読んで暗記しているものだとしても。 ……前も、聞いたような気がするけど。 じゃあ、聞かないで。 誰が書いたの、それ。 ずっと前のマーキュリー。 毒が好きだったのね。 ……変わり者だったんだな、お前に負けず劣らず。 私は誰にも負けるつもりはないわ。 仮令、マーキュリーであろうと。 あぁ、はいはい……然うだった。 だけともう、記録が古いのよね……特に、植物の項。 今度、一緒に行くか。 良いわよ。 それじゃ、 実験台に、なって呉れるなら。 殺す気か。 大丈夫よ、ジュピターは然う簡単には死なないから。 ジュピターとは言え、 酒精以上の毒は、ないもの。 ……毒は、毒だろ。 少なくとも、この書物に載っている毒は酒精程の効き目はないそうよ。 苦しむとは、思うけれど。 ……試したのか。 さぁ、それは分からないわ。 大分前のマーキュリーが記したものだから。 ……今は、どうなんだろうな。 その為に、調べたいの。 それは……いや、なんでもない。 実験台になって呉れる? ……考えておくよ。 ねぇ、ジュピター。 ……なんだい、マーキュリー。 その時は、一緒に死んであげるわ。 同じ毒を呷って。 ……。 冗談、だけど。 ……それ以前に、飲まないよ。 考えておくと、言ったけれど。 ……考えるまでもなかった。 そ。 お前を死なせたくない。 ……。 ……だから、飲まない。 あぁ、然う……。 ……なぁ。 なに。 ……今夜は、此処で眠っても良いだろう? さぁ……どうしようかしら。 自分の部屋まで、帰れそうにない。 さっきよりかは、動けるようになっている筈だけれど。 疲れた、動きたくない。 帰って。 いやだ、今夜は此処で眠りたい。マーキュリーと眠りたい。 私は、あなたと眠りたくない。 やだ。 なら、私があなたの部屋に マーキュリーがあたしの部屋に行くと言うのなら、帰っても良い。 ……。 いてぇ。 あなたと一緒に眠ると、狭いのよ。 でも、あったかいだろ。 けど、狭いの。 あったかくて、安心するだろ。 さっきまで、酒精に中たっていたくせに。 未だ、完全には抜けていないんだ。 知ってる。 だから……。 ……。 ……傍に、居て呉れ。 狭いのよ。 ……今度、大きいのを新調するか。 その寝台、気に入っているの。 知ってるよ。 この寝台、あたしも気に入っているんだ。 あなたのではないわ。 マーキュリーと、寄り添って眠れるから。 聞いてない。 マーキュリー。 しつこい。 傍に、居て呉れ。 ……。 居て呉れ……マーキュリー。 ……高いわよ。 構わない。 ……。 構わないから……どうか、あたしの傍に。 ……払う気なんて、ないくせに。 躰で払うよ。 ……。 実験台には、なれないけど。 ……はぁ。 はは、やった。 居てあげるとは、言ってない。 未だ、な。 ……。 ……ん。 ばか。 ……生きてて、良かった? そんなこと、微塵たりとも思ってない。 ……あぁ、然うだな。 ……。 ……ん。 ……。 ……よぉ、マーキュリー。 いつまで、寝ているの。 ……もう少し、良いだろ。 あの子が、飛んできた。 ……。 錯乱状態で。 ……だろう、な。 ……。 いてぇ。 何を考えているの。 ……はいはい、悪かったな。 ……。 それは勘弁して呉れ、血が流れる。 ……少しは、流した方が良いわ。 お前、ちびには本当甘いよな。 ……。 な、今夜は傍に居て呉れるんだろう……? ……いいえ、帰るわ。 無粋だな。 ……無粋? 邪魔、してやるなよ。 ……。 うちのちびは、お前んとこのちびが欲しくてたまらないんだ。 ……知ってるわよ。 うん? 何を今更……私が知らないわけないでしょう。 なら、ふたりきりにしてやれ。 ……。 ま、今頃は……いてぇ。 ……下衆。 はいはい、悪かったな。下衆で。 ……。 はぁ。 ……相変わらず。 あー? お人形遊びが好きなのね。 変わらず、だよ……しかも、今回は。 ……子飼いも、一緒に居た。 あぁ……お気に入りみたいだよ、悪夢のような組み合わせだった。 ……あそこだけは、変わらないと思っていたけれど。 変わらないものはないってことだろ。 ……或いは、変えたか。 ……。 ……。 ……花を、手向けてきた。 ……然う。 一応、な。 ……言うことは、何もないわ。 お前の分も。 ……礼は、言わないわよ。 別に良いよ、あたしが勝手にやっただけだから。 ……。 お前、あたし以外のやつは嫌いだからなぁ。 ……あなたのことも、嫌いよ。 嫌いだった、だろ……? ……。 ん……マーキュリー。 ……あの子、本当に心配していたわ。 分かってるよ……。 ……話しておきなさいよ。 話したところで、何も出来ないだろ……あいつには。 あの子にも関わることよ。 未だ良いと思ってたんだ。 あなたが、前以って話しておけば。 あの子は真っ直ぐに、私を呼びに来ることが出来た。 行ったろ、お前のちびのところへ。 あの子では、手に負えない。 未だ、その力はないの。 然うだけど、知らせには行ったんだからそれで良いだろ。 真っ直ぐには来なかった。 それだけ、無駄な時間を喰うのよ。 無駄と言っても、 ジュピター。 ……なんだよ、今日は随分と突っかかってくるな。 別に、然ういうわけではないわ。 怒ってるのか。 ええ、あなたの愚かさにね。 それは、今に始まったことじゃないだろ。 然うね、その通りだわ。 分かった、あたしが悪かったよ。 若しも次があったら、お前のところに……ん。 ……。 ……。 ……。 ……マーキュリー。 ……。 あー……。 ……。 ……心配、した? してない。 ……。 してないわ。 ……なぁ、マーキュリー。 ……。 帰るな、傍に居ろ。 ……。 いてぇ。 指図、しないで。 たまには良いじゃないか。 強気に 良くない、不愉快。 マーキュリー。 ……。 ……今夜は、傍に居て呉れ。 ……。 あたしを、温めて呉れ……マー、 ……。 ……冷たい、な。 そんなの……今更でしょう。 そんな顔も、出来るんだな。 ……あなたには、あなたにだけは、見せて来た筈よ。 本意ではないんだろうけど、な。 ……然うよ。 ……。 ……いつも。 いつも……? ……温めるのは、あなたの役目だったでしょう。 ……。 誰が、温めて呉れると言うの。 ……はは。 あなたが、言ったのよ。 ……なんて? この期に及んで……苛つかせて、呉れるのね。 ……ごめんな。 謝罪なんて……ん。 ……。 ……からだ、重いのではないの。 あぁ、未だ重いが……まぁ、出来ないわけでもない。 ……今夜は。 あたしの寝台は広いよ。 ゆったり、眠れる。 ……。 それに、あったかい。 ……熱いのよ、あなたは。 だから、丁度良くなるんだ……お前に分けることで、さ。 ……。 ……傍に、居て呉れ。 温めることなんて、 あたしを温められるのは、いつだって、お前だけだ。 私は、 あたしの、心を。 ……。 ……ずっと、然うしてきたんだ。 ……。 頼むよ……マーキュリー。 ……ばか。 はは、やっと出たな。 ……やっとって、何よ。 今のばかは、愛してるという意味……勿論、あたし限定。 ……どうか、してるわ。 今更……。 ……からだ。 もう、大丈夫だ……ありがとう、マーキュリー。 ……。 なぁ……良いだろう? ……良くない。 ふたりで。 ……ぁ。 温まろう。 ……。 先ずは……冷たい、唇を。 ……あのこ、たちも。 うん……? ……。 然ういう風に、出来てるんだろ……あたし達は。 ……私だけでも、抗いたかったのに。 然うしたら……今頃、あたしはここには居なかったな。 ……。 ……好きだ、マーキュリー。 お前に逢う、ずっと前から……。 ……。 良いよ……言いたく、なければ。 …………ばか。 あぁ、それで良い……。 ……は、ぁ。 それで、十分だ……。 ……あつ、い。 ……。 あなたは、いつだって……。 ……たくさん、貰って呉れ。 ん、ぁっ……。 ……ん、いいこえ。 うるさい……ばか。 ……はは。 |