…幼馴染?


   うん。


   …美樹さやかと佐倉杏子が?


   うん。


   ……。


   えと、ほむらちゃん?


   ……。


   そんなに驚くことかな…。


   …いいえ。
   それで?


   えと。
   杏子ちゃんはさやかちゃんと一緒に暮らしているの。


   杏子…いえ、佐倉さんのご家族は?


   ……。


   ……。


   …杏子ちゃんの家、そんなに大きくはない神社だったんだけど。


   …神社。


   杏子ちゃんがさやかちゃんの家に遊びに行ってる時に、火事になって。


   …。


   …その時に。
   火の回りが、異常に早かったって…。


   …然う。


   放火、だったんだって…。


   …酷い話ね。


   うん…。


   …犯人は?


   一応、捕まったんだけど…精神がどうとかで、結局。


   …ああ。


   杏子ちゃん、他に頼る親戚がいなかったみたいで。
   施設に入るしかなかったんだって。


   それで、何故美樹家に?


   ご両親同士が、懇意にしていたから。


   …だから、二人は幼馴染なのね。


   物心ついた時にはもう、隣にいたって。
   さやかちゃんと杏子ちゃんは腐れ縁だって言うけど。


   ……。


   一緒に暮らし始めてもう、大分経つから。
   だから二人は幼馴染と言うより、ほとんどもう、家族みたいだなって。


   ……。


   特に今はさやかちゃんと杏子ちゃん、二人で暮らしているから。


   二人で?


   さやかちゃんのパパとママ、今、見滝原にいないの。


   ……。


   …さやかちゃんね、小さい頃から杏子ちゃんの事、大好きだったんだよ。


   …美樹さんが?


   ううん。


   …じゃあ、何故分かるの。


   だって、写真見せて貰ったから。


   …。


   さやかちゃん、いつも杏子ちゃんにくっついて写ってるの。


   …それで、佐倉さんは?
   佐倉さんも美樹さんが?


   多分…ううん、絶対そうだと思う。
   だって。


   …。


   …さやかちゃんを見る目、いつもとても優しいんだもん。


   ……。


   わたしとさやかちゃんと杏子ちゃんは友達だけど…でも、あの二人の間には入れない。


   …。


   少し淋しいな、って思う事もあったけど。


   まどか…。


   でもね、今はほむらちゃんがいてくれるから。


   …。


   わたしね。


   …うん。


   二人は本当の家族になっちゃえばいいのにって、思うんだ。
   だって、あんなに。


   …。


   …あんなに、お互いの事が好きなんだから。


   ところで、まどか。


   …うん?


   その…上条恭介という少年は?


   上条君?
   上条君がどうかしたの?


   その、美樹さんは…。


   …?


   …いえ、何でもないわ。


   ねぇ、ほむらちゃん。


   …なに、まどか。


   お昼、どこで食べようか。


   …まどかとなら、どこでも良いわ。


   じゃあ、中庭。


   屋上でなくても、良いの?
   前は


   屋上は、さやかちゃんと杏子ちゃんの場所だから。















  W a l t z















   わぁ。


   …?


   かき、いっぱいなってる。


   …。


   すごい、すごい。


   ねぇ。


   …わ。


   かき、たべたいの?


   …。


   でも、きにのぼっちゃだめだよ。


   だめなの?
   なんで?


   かきのきは、おれやすいんだって。
   とうさんが、いってた。


   ふぅん。


   ねぇ、かきたべる?
   かき、すき?


   うん、すき。
   あまいのが、すき。


   …。


   どうしたの?


   うちのかき、しぶいんだ。


   えー…。


   でもね。


   うん。


   かあさんがかきをほすと、すっごく、あまくなるんだ。


   ほんと?!


   うん、ほんと!


   たべたい!


   じゃあ、うちにくる?


   うん、いく!


   へへ。


   ね。


   なぁに?


   なまえ、なんていうの?


   あたし?


   うん。


   あたしは









   さやか。








   ……う。


   …。


   …さやかちゃんとしたコトが。


   おい。


   わぁ!


   弁当、持ってきたぞ。


   おっそーい。


   そんなに遅れてないぞ。


   一分でも遅刻は遅刻です。
   待ちくたびれて寝ちゃったじゃないよ、ダーリン。


   …間抜けな顔だったよ、ハニー。


   て、誰が間抜けだ。


   口開けて、涎が今にも垂れそうだった。


   …マジかー。


   ま、あたしは見慣れてるから良いけど。


   うっさいわ。


   ほれ、弁当。
   食わないのか。


   食うわよ。
   杏子も食べていくんでしょ?


   どうするかな。


   食べていけ、ダーリン。


   …分かったよ、ハニー。


   ところでダーリン、今日のお弁当は?


   チャーハン。


   チャーハンかよ。


   文句があるなら食うな。


   その選択肢はない。
   おかずは?


   チャーハンには具があるだろ。
   今回はツナと卵だ。


   おう、イッツシンプル。


   シンプルなのが一番うまい。


   そうかもしれないけどさー。


   さっさと食おうぜ。
   授業、始まっちまうだろ。


   むー。


   間抜け面。


   うっさい、ばか。


   ……。


   …本当にチャーハンだけだし。


   スープ、飲むかい?


   て、スープあるんかい!


   チャーハンには中華スープだろ。


   あるなら早く言え。
   授業、始まっちゃうでしょ。


   どうせ、寝るんだろ。
   腹いっぱいで。


   さやかちゃんをなめんな。
   せいぜい、ぼんやりするくらいだ。


   半分寝てるもんじゃないか。


   やかましい。
   スープ、早く。


   たく、さやかは我侭だなー。








   モモも、いく…。


   ……。


   モモ、あのね。
   きょうは


   モモもいくの…。


   ……。


   モモ、きょうはおかあさんとおるすばん。
   ね。


   やだ…。
   モモもいく…いくの。


   ……。


   モモ、いいこだから。


   おねえちゃんと、いくの…。


   ……。


   モモは、かぜをひいているから。
   ねてないとだめなんだよ。


   いや、いや…モモも、いっしょにいく…。


   ……。


   …さやかちゃん。


   ……。


   あたし、やっぱりきょうはモモのそばに…


   …いや。


   さやかちゃん…。


   …まえから、たのしみにしてたの。
   きょうこちゃんがうちにくるの、たのしみにしてたの。


   でも…


   …ケーキだって、あるんだよ。


   ……。


   きょうこちゃんと、ふたりであそびたい。


   …でも。


   モモちゃんはいつも、いっしょだった。
   だから、きょうは…。


   ……。


   ねぇ、うちにきて。
   きてよ。


   ……。


   おねえちゃん…おねえちゃん……。


   …モモ。


   ……。


   …あたし、やっぱりいけない。
   さやかちゃん、ごめんね。


   …!
   どうして…!


   さ、さやかちゃん…。


   きょうこちゃんはいっつも、モモちゃんばっかり!


   …。


   あたしとあそんでても…いつも、いつも…。


   あ…。


   …う…、っく、……。


   ……。


   ……ふたりで、あそびたいの。
   きょうこちゃんと、ふたりで…。


   ……。


   …たのしみに、してたの。
   ずっと、してたの…。


   ……。


   うぅぅ…、あぁぁぁぁん…。


   ……モモ。


   おねぇ、ちゃ…。


   …ごめん。
   きょうだけ、だから。


   ぁ…。


   …さやかちゃん。


   きょう、こ、っ、ちゃ…ん…。


   いこう。
   あたしも、さやかちゃんとふたりであそびたい。


   …!
   うん…!


   かあさん、いってきます。
   モモ。


   やぁ…モモも、いく…。


   …げんきになったら。
   また、さんにんで…。









   ……。


   …おい、さやか。


   ……。


   おい。


   …んお。


   午後の授業、始まるよ。


   ……。


   ほら、起きろ。


   …やだ。


   おい、こら。


   やーだー、こうしてるのー。


   うげぇ。


   ねぇ、ダーリン。


   …それ、そろそろ止めないか。


   えー、なんでー?


   …なんでも、だ。


   ダーリン、ダーリン。


   …苦しい、離れろ。


   ……。


   さやか。


   …さぼっちゃおうかな。


   …。


   …どうせ、眠くなるし。
   だったら杏子とこうしてた方がいいし。


   あたしはそろそろ帰るぞ。


   え、なんで。


   なんでって。
   いつもは弁当食ったら


   …やだ、ここにいて。


   さやか。


   …いて。


   ……。


   ……。


   …どうしたんだよ、さやか。


   ねぇ、杏子…。


   …ん?


   あたしと初めて逢った時の事って、覚えてる…?


   さやかと…?


   …うん。


   ……。


   ……。


   …気付いたら、隣にいたって感じだからなぁ。


   だよねぇ…。


   …二つか、三つか。
   それくらいだったけか?


   と、あたしも思ってたんだけど。


   …?


   赤ちゃんの時、逢った事あるらしいよ。
   うちの親曰く。


   あー、それは覚えてないな…。


   お宮参りだって。


   ああ。


   ……。


   ……。


   …ねぇ。


   授業、いいのか。


   午後の国語って眠くなるのよねぇ…。


   …どの科目でも大して変わんないじゃないの。


   杏子って、さ。


   …なんだよ。


   結構、人気あるんだよねー…。


   …は?


   主に女子に。


   …なんだそれ。


   あたしとこうしてお弁当食べてるの、見てる子達がいるみたいでさぁ。
   それで。


   ……。


   …学校、ろくすっぽ来ないから。
   余計に。


   意味、分からない。


   …学校、来ればいいのに。
   そしたらきっと、モテモテな学校生活が


   御免だ。


   ……。


   あたしはさやかがいれば、良いよ。


   …。


   さやかがいれば、それで。


   …なによ、それ。


   そのままだよ。


   …ひきこもり。


   うっせ。


   そのくせ、ベンキョーは出来てさー。
   意味、分かんないっつの。


   教科書読めば、大体は分かるだろ。


   それはあんたと、一握りのヤツらだけ。


   そんなもんかね。


   そんなもんなの。


   ふぅん…あ。


   ……。


   予鈴、鳴ってるけど。


   …いい。


   ……。


   さやかちゃんは、さぼります。
   もう、決めました。


   …だったら。


   ……。


   帰ろうぜ。
   うちに。


   ……。


   鞄は……


   じゃじゃーん。


   …マジか。


   杏子ならそう言ってくれると思ってました。


   と言うか、共犯者にしたかっただけだろ。


   …えへへ。


   たく。
   まどかに言っとけよ。
   確か保健係だったろ。


   メール、もう送った。


   マジか。


   …えっへん。


   えばるようなコトじゃねーし。


   …だって。


   だって、なんだよ。


   …杏子と、いたかったんだもん。


   家にいる時は一緒にいるだろ。


   …ずっと、いたいんだもん。


   ……。


   ……あたしも、なろうかなぁ。


   だめだ。


   …まだ、言ってないのに。


   言わなくても、分かる。


   …。


   さやかは…だめだ。


   …なんでよ。


   だめなもんは、だめなんだ。


   …なによ。


   ……。


   あたしだって…。


   …頼むから。


   ……。


   ……。


   …杏子はいつも、ずるい。


   ずるくてもいい。


   ……。


   …本当に帰るのか。


   うん…帰る。


   ……。


   …杏子。


   坊やのとこには。


   …。


   …寄らなくて、いいのか。


   杏子も、来てくれるなら。


   知ってるだろ。


   …。


   あたしは、あいつが好きじゃない。


   …うん、知ってるよ。


   気に入らない。


   知ってる。


   ……。


   ……。


   …あいつは、さやかを一番に想ってない。
   だから、嫌いだ。


   …杏子のばーか。


   うっせ、ばか。


   ……。


   ……。


   …別れようかな。


   ……。


   キスも、してくれない。
   手も、握ってくれない。
   デートだって、ろくにしたことない。


   ……。


   …いつだって、ヴァイオリンの事ばかりで。
   きっと、誰でもよかったんだよねぇ…。


   …。


   …早いもの勝ちってヤツ?


   ……。


   …だって、あいつの一番はいつだってヴァイオリンなんだから。


   ……。


   ……怪我を、したって。


   ……。


   …ね、キスして。


   ……。


   杏……ん。


   ……。


   ……やっぱり、杏子がいい。


   むかつく。


   …え?


   思い出しただけで、むかつく。


   ……。


   …帰るぞ、さやか。


   ん、帰ろ…。


   ……。


   ん。


   ……しっかり、掴まってろ。


   うん…。








   ……。


   ……。


   ……。


   ……きょうこちゃん。


   ……。


   ……。


   ……。


   …きょうこちゃん。


   ……。


   ……。


   ……ぅ。


   ……。


   …、……く。


   ……。


   ……。


   ……。


   ……。


   ……。


   ……ぅぅ。


   ……。


   …っ、……。


   …ずっと。


   ……。


   そばに、いてあげる…。


   ……。


   あたしが。


   ……。


   きょうこちゃんの…きょうこの、となりにいてあげる。
   あたしは、いなくならない。


   ……。


   ぜったいに、いなくならないから。
   だから。


   ……。


   …だから、きょうこ。









   ん、なに。


   ……。


   …?
   さやか?


   ……。


   …寝言か。


   ……。


   はぁ。
   おい、さやか。


   ……。


   さやか。


   ……んぉッ。


   …。


   なに、なんなの…?


   着いたぞ。


   ……うち?


   いや。


   ……。


   ちょっと寄り道。


   …んー?


   ……。


   …て、ああ。
   今日は月命日だったけ…。


   …うちはそう、言わないけどな。


   正辰祭だっけ?
   毎年の命日にやるの。


   へぇ…良く覚えたな。


   そりゃあ、ね。
   あたしは杏子の彼女だもの。


   いつからだよ。


   ずっと前から。


   聞いてないぞ。


   今、初めて言いました。


   …寝惚けてんのか。


   ううん。


   …下ろすぞ。


   優しくね。


   ……。


   ……。


   ……。


   …ねぇ、杏子。


   うん…?


   …約束、ちゃんと覚えてる?


   約束?


   あの日にした…約束。


   ……。


   …ずっと、隣にいてあげるって。


   ……。


   …忘れないでよ。


   覚えてるよ。


   …なら、いいけど。


   さやか。


   …なに。


   あたしは、さやかが生きていてくれればそれでいい。


   ……。


   …と言うか。
   お前、寝すぎ。寝るの、早すぎ。
   抱き上げてすぐってどういうことだよ。


   だって、なんだかすごい眠いんだもん。


   下ろすにも下ろせなかったんだぞ。


   でも、背中?


   しょうがないだろ。


   いやいや、杏子の背中も気持ちいいですから。


   あのなぁ。


   お姫さまだっこのままでもよかったけど。


   ばか。
   ずっと変身してられるか。


   変身してなくても、出来るくせに。


   …恥ずかしいだろ、ばか。


   て言うかさぁ。


   なんだよ。


   一人で来るつもりだったの。


   …。


   さやかちゃんも連れてこないと。
   絶対。


   えー…。


   えー、じゃない。


   ……。


   ……。


   …あたしは、元気だよ。


   杏子は今日も、元気です。


   ……。


   ……。


   …さて、帰るか。


   うん。


   ……。


   杏子。


   …うん?


   おんぶ。


   …自分で歩け。


   やだ、おんぶー。


   恥ずかしいから、いやだ。


   あたしは平気だもん。
   おんぶ、おんぶ。


   甘えるな、ばかさやか。


   あー。


   ……。


   置いていかな…う。


   ……。


   ……。


   …さやか?
   どうした?


   …お腹、ちょっと痛いかも。


   お腹?


   ……うん。


   ……。


   ……。


   …ほら。


   ……。


   さっさと、帰ろう。


   …嘘って、言わないの?


   そういう顔をしてる時は、嘘でも冗談でもない。


   …。


   動けないか?


   ううん……。


   …。


   …へへ。


   寝ててもいいぞ。


   …やっぱり杏子大好き。


   ……それは、どうも。


   えへへ…。








   …杏子?


   ……。


   それ、どうしたの。


   ……別に。


   別にって。


   ……。


   杏子。


   …放っておいてくれよ。


   …。


   …なんだよ。


   それ、どうしたのって聞いてるの。


   …どうでもいいだろ。
   さやかには関係ない。


   関係ある。


   …。


   学校、抜け出して。
   何を、してるの。


   …うるさいな。


   そんなりんご、うちにはなかった。


   ……。


   買うお金、あんたが持ってたなんて知らなかった。


   ……。


   杏子。


   …うるせーな!


   ……。


   あたしのことなんか、放っておいてくれよ!


   行こう。


   …。


   返しに。
   一緒に謝ってあげる。


   は?


   それからちゃんとお金を払って買ってこよう。


   ……。


   ね、杏子。


   …いやだ。


   ……。


   いやだ…ッ!


   杏子!


   と言うかなんなんだよ、あんた!
   何しようがあたしの勝手だろ!


   勝手じゃないわよ!


   いちいち、うぜぇんだよ!


   …ッ!


   もう、放っておいてくれよ!


   誰が!


   …う。


   誰が、放っておくもんか!


   ……。


   あたしはあんたの隣にいる、いるの!
   だから絶対、放っておいてなんかあげない!


   ……。


   一人になんか…!









   さやか。


   ……ぅ。


   …大丈夫かい?


   ……だめ、かも。


   薬飲むなら、何か食べた方が良いよ。


   …たべたく、ない。


   何も?


   ……おなか、いたい。


   ……。


   こしも、いたい……。


   ……。


   いたいよぅ、きょうこぉ…。


   …早退して、良かったと言うかな。


   ……。


   久々だな、そんな酷いの…。


   ……うぅ。


   ……。


   ……なん、で。


   …うん?


   こんなにいたいなら…もう、いらない。


   ……。


   …うぅぅぅ。


   さやか…。


   ……。


   …少しは楽になるといいけど。


   ……。


   …ごめんな。
   その痛みがどんなものか、分かってあげられない。


   ……。


   …あたしにはないから。


   きょうこ…。


   …。


   …て、あつい。


   ……。


   でも…きもち、いい。


   ……。


   …もっと、さすって。


   …うん。


   ……。


   ……。


   …ありがと。
   だいすき…。


   ……ん。


   はぁ……。


   …少し落ち着いたら、りんご、あっためてやる。


   ……。


   それ食べて、薬飲んで。
   そしたらベッドで…。


   ……。


   …なぁ、さやか。


   …?


   …いらないなんて、言うなよ。


   ……。


   そりゃ、痛いのはいやだけど…それでも。


   …ねぇ、きょうこ。


   ん…?


   ……。


   …さやか?


   ……。


   …。


   …きょうこ。


   お前の子供。


   …。


   見るまで、あたしは死なないんだ。


   ……なによ、それ。


   お前に似たら間抜けな顔になりそうだけど。


   ……。


   …でも屹度、可愛いだろうから。


   やめてよ。


   ……。


   …じぶんで、じぶんのじかん、きめないでよ。


   ……。


   あんたのじかんは、あんただけのものじゃない…。


   ……。


   …そんなの、ききたくない。


   ……。


   それに。


   …。


   …あたしがよめにいくときは、あんたもいっしょなんだからね。


   ……え?


   いっしょ、なの。


   …それはどうなんだ。


   いいの、いっしょなの。


   …居たたまれない。


   そしたら、まいにちいっしょにねるんだから…。


   …いや、それは。
   と言うか今も…


   あたしがそうだといったら、そうなの…。


   ……子供、は。


   たいがいじゅせいが、あります…。


   …そういうことばかり、お前は。


   ……。


   ……分かった。
   じゃあ、一緒に行ってやる…。


   よろしい……。


   ……。


   …ずっと、となりにいてあげるんだから。


   だったら。


   ……。


   …いや、なんでもない。


   あたしのこと、もらう…?


   ……。


   …よめに。


   ……坊やは、どうするんだよ。


   わかれる。


   ……。


   …あたしのこと、いちばんにおもってくれないヤツなんて。
   いらない…。


   ……さやかは、ばかだな。


   きょうこのほうが、もっと、ばか……。


   ……。


   …おおばか。


   ……そうかもな。


   ……。


   …少しは落ち着いたかい?


   ん……たぶん。


   じゃありんご、あっためてきてやる。


   …バニラアイス。


   冷えるだろ。


   …うー。








   小さい頃は神さまがいて。


   …。


   毎日愛を届けてくれた。


   …。


   心の奥に仕舞い忘れた、


   ……。


   大切な箱、開く時は今。


   ……うるせぇ。


   りんご、良かったね。


   ……。


   でも次はないから。


   …どうでもいい。


   良くない。


   ……。


   きょーうこ。


   ……わ。


   帰ったら、一緒に食べよ。


   ……はなせよ。


   て、言われて離すさやかちゃんじゃありません。


   …うぜぇ。
   ちょーうぜぇ。


   知らない。


   ……。


   ねぇ、杏子。


   ……。


   ……。


   …?
   なんだ…


   てい!


   …いてぇッ!


   ふふん。


   な、なにすんだよ!


   でこぴん。


   …。


   なんだ、やるかぁ。
   よし、来い。


   …くだらね。


   ……。


   ……。


   …あのさぁ、杏子。


   …。


   くだらなかろうが、なんだろうが、あたしは杏子といるのが好きだから。


   ……。


   だからうざいって言われても、一緒にいるから。


   …ばかじゃねぇの。


   杏子もばか。


   …。


   ばか、ばーか。


   …うっせ、ばかさやか。


   ふふ。









   ……ひと、ふた、み、よ、いつ、


   ……。


   む、なな、や、ここの、たり……。


   ……。


   ふるべ、ゆらゆらと、ふるべ……。


   ……。


   …誰だ、あんた。


   ……さぁ。


   ……。


   佐倉杏子。


   …。


   ……。


   …あんた、誰だ。
   なんであたしの名前を


   学校。


   …?


   ……。


   …あんた、あの転校生か。


   ……。


   …家のもんから聞いた。
   まどかと仲がいいんだってな。


   美樹さやか。


   ……。


   …幼馴染だそうね。


   だから、なんだよ。


   …別に。


   ……。


   ……。


   …あれは使い魔だ。


   見れば分かるわ。


   ……。


   …正しい選択ね。


   そんなこと、あんたに言われる筋合いじゃない。


   暁美ほむら。


   …あ?


   名前。


   …どうでもいい。


   ええ、そうね。


   ……。


   …風見野ではないのね。


   …。


   なわばり。


   …あんた、なんなんだ。


   貴女と同じ、魔法少女。


   ……。


   ……。


   …あんた、何がしたいんだ。
   何が、言いたいんだ。


   別に、何も。


   ……。


   ……。


   …見滝原が欲しいのか。


   …。


   …でも、やらねーよ。
   あたしはまだ、


   要らないわ。


   ……。


   …この町を守りたいわけじゃない。


   ……。


   でしょう、佐倉杏子。


   ……。


   …ワルプルギスの夜。


   …?


   いずれ、この町に来るわ。


   …なんだと。


   この町は壊滅。
   犠牲者はこの町の住人のほとんど。


   ……。


   貴女の美樹さやかも。


   させない。


   さぁ…どうかしら。


   大体、どうして


   知ってるから、よ。


   ……。


   …信じろとは言わないわ。
   そのつもりも無い。


   ……。


   …だけど。
   貴女一人では勝ち目は無いわ。


   …だから、なんだよ。


   …。


   あろうが、無かろうが。
   そんなの、知らない。


   ……。


   ……。


   …美樹さやかを、失くしたくないのなら。


   あんたと手を組めってか。


   …強制はしないわ。


   ……。


   ……。


   …あたしはあんたを守らない。
   勝手にやる。


   結構だわ。


   ……。


   ……。


   …!


   ……。


   …出やがった。


   出ないんじゃ、無かったのかしら。


   うるせぇ。


   ……。


   …邪魔、すんなよ。


   ええ、しないわ。








   …マホウ、ショウジョ?


   ……。


   ……。


   ……。


   …ぷ。
   あはははははは。


   …。


   なになに?
   杏子ってばそういうの、実は好きだったの?


   ……。


   で、憧れちゃってるとか?


   ……。


   と言うか杏子、そういうのほっとんど見なかったくせに。
   なによぅ。


   ……。


   まさか杏子がねぇ。
   魔法少女とはねぇ。


   さやか。


   いやいや、杏子だって女の子だもんね。


   さやか。


   うんうん、まぁいいんじゃない?
   さやかちゃんはそんな杏子も


   さやか。


   好きだぞ、と。


   ……。


   …え。


   ……。


   ……え、と。
   これが俗に言う、コスプレってヤツ…かね?


   ……。


   …きょう、こ?


   さやか。


   い、いやいや、でもまぁ、似合ってるね。
   うん、かわいいかわいい。


   全部、本当の事だよ。


   本当って、まぁ、そんな格好をされたら…ねぇ?


   この間のこと、覚えているだろう。


   こ、この間って…?
   何か、あったっけ…?


   ……。


   杏子、分かったからさ。
   とりあえず、


   あたしは、魔法少女なんだ。
   なったんだ。


   だ、だからさ、それは分かったって。


   ……。


   …杏子、ねぇ。


   ……。


   ねぇ…。


   ……全部、本当の事なんだ。


   ……。


   …あたしは、戦わないといけない。


   何とよ…ねぇ、何と戦うって言うのよ。


   ……。


   ねぇ、杏子…。


   …お前を殺そうとしたのと。


   …ッ!


   ……魔女。


   な、何言ってるの…。


   あたしの家、家族を焼き殺した、あいつの事、覚えているか。


   …。


   …あいつは、精神がどうとかで。
   結局、裁かれなかった。


   …だけど、その後。


   ああ、そうだ。
   勝手にくたばった。


   ……。


   …でもあれは全部、魔女のせいだったらしい。


   魔女…。


   …。


   …ちょっと、待ってよ。
   意味が分からないわよ…。


   …分からなくても良い。


   そ、そんなの!


   …夢じゃないんだ。


   でも、だって…!


   ……あたしは。


   杏子、ねぇ、あれは夢だったんだよ。
   だから


   でも、あたしの家族が焼き殺されたのは夢じゃない。
   夢なんかじゃ、ない。


   そう、だけど…で、でも……。


   さやか。


   …う。


   ……学校にはもう、行かない。


   なんで…。


   ……。


   ねぇ、杏子……ねぇ。









   ……さやか?


   ……。


   …今朝は早いな。
   起きてて、大丈夫なのか…?


   …あさがえりかよ。


   ……。


   おはよう。


   …ああ、おはよう。
   えと、お腹の調子はどうだい?


   ……。


   学校には


   …この、うわきもの。


   は…?


   ……オンナのにおいがする。


   はぁ…?


   …朝帰り。


   ……。


   ……。


   …ばか。
   何言ってんだ。


   …だって、そうじゃない。


   そうだけど…お前が思ってるのとは違うだろ。


   同じよ。


   あたしは


   …朝帰りは、朝帰りじゃない。


   ……。


   ……。


   …厄介だな。


   …!


   さやか、あたしは


   …知ってるわよ。


   だったら。


   …昨日ぐらい、傍にいてくれたっていいじゃない。


   ……。


   …杏子は魔法少女だもんね。
   戦わないといけないんだもんね。


   …さやか。


   どうせ、厄介よ。
   面倒よ。


   面倒とは言ってないだろ。
   それに厄介なのは…


   ……。


   …ん?


   ……。


   …それは。


   ……。


   ……朱印帳、か?


   ……。


   でも、どうして…。


   …目が、覚めたから。


   ……。


   お父さんが持ってたの、なんとなく、思い出して。


   …お前、何時に起きたんだ。


   ……。


   躰、大丈夫なのか。


   ……これ。


   …。


   小父さんの字、でしょ。


   …ああ、そうだ。
   父さんの字だ。


   ……。


   …久しぶりに見たよ。


   ……。


   さやか…もしまだ躰の調子が良くないようなら、今日は


   書いて。


   …え?


   杏子も、ここに。


   ……。


   …宮司の娘、なんでしょ。
   だったら、書いて。


   でも、あたしは


   書、い、て。


   それにうちの社は


   ぐだぐだ言うな。
   あたしが書けって言ってるの。


   ……。


   ……。


   …書いたこと、ないから。


   知ってる。


   …時間、かかるぞ。
   それでも


   いいから。
   書いて。


   ……書道道具、貸して。


   ……。


   …墨汁でいいよな。


   ……。


   半紙は……。


   …やっぱり。


   うん?


   一発勝負にしろ。


   はぁ?


   はい。


   いや、ちょっと待て。
   筆持つのも久しぶりだってのに


   やかましい。


   …さやか。


   杏子の字ならそれでいい。


   ……。


   だから。


   …後で文句言わないでよ。


   言わない。


   ……。


   ……。


   …朝っぱらから何してんだ、あたし。


   ……。


   ……。


   ……。


   …ふぅ。


   ……。


   ……。


   ……。


   …ほら、これで良いだろ。


   ……。


   朱印はないから…?


   ……杏子の字、だ。


   …さやか。


   やっぱり、あんまりうまくない…。


   …お前な。


   小父さんの字はこんなにきれいなのに。


   …父さんのようには書けない。


   でも。


   ……。


   …杏子の字、あたしは好き。


   ……。


   だから、これでいいの。


   …そうかい。


   ねぇ。


   …次はなんだい。
   言っとくけど、浮気とかはなしにしてくれよ。


   けが、しなかった?


   …怪我?


   痛くない…?


   ……。


   ……。


   …今朝のさやかにはついていけないな。


   ねぇ…。


   ……手当て、してくれるか。


   うん…。


   …じゃあ、頼むよ。


   さやかちゃんに任せておけば、バンジ、大丈夫。


   …どうだかなぁ。


   ……。


   ……お腹、大丈夫か。


   …まだ少し、痛い。
   でも、やるから。


   ……ああ。


   ……。


   ……。


   …血、固まってる。


   ……なぁ、さやか。


   ……。


   転校生に、会ったよ。


   …転校生?


   いつだかお前が話してた、まどかと仲が良いって言う…。


   …暁美、ほむら。


   ……。


   どうして杏子が。
   まさか。


   …同じだった。


   同じ…?


   …魔法少女。


   え……。


   …。


   どうして転校生が…。


   …それは分からない。


   杏子。


   …浮気とか、言うなよな。


   ……。


   …う゛。


   ……。


   …さやか、痛い。








   ……。


   さやか。


   ……。


   さやかぁ…ッ!!


   ……あぁ。


   傘もささないで、何やってんだよ…!


   ……おそい、よ。


   躰、こんなに冷たくなってるじゃないか!


   おそいよ、きょうこ…。


   …。


   …ごめん、ぬれちゃうね。


   そんなのはいい。


   …うん。
   そういってくれると、おもってた…。


   ……。


   ね…なに、やってんだろね…あたし。


   ……坊やは。


   …。


   あいつは、どうした…ッ!!


   …そんなにおおきなこえ、ださないで。


   ……。


   ……。


   …なんで、あいつはいないんだ。
   なんで、さやかは一人でこんなところにいるんだ。


   ……ようじが、できたんだって。


   用事、だと…。


   …まってても、こないから。


   ……。


   メール、とか…でんわ、とか。
   したんだけど……へんじは、こないし…かかっても、こないしで、さ…。


   ……


   …そしたら、さっき。
   ごめん、やっぱりヴァイオリンのれんしゅうがどうとか…て、さ。


   ……。


   だから、


   そんなの、理由にならねーよ。


   ……。


   なって、たまるか…。


   ……。


   ……。


   …わかってたんだよ、こんなこと。


   ……。


   …わかってたんだけ、ど。
   でも…やっぱりちょっと、こたえるかな…。


   ……て、やる。


   …。


   ぶっ潰してやる…!


   …きょうこ。


   約束、したんだろ…!


   …うん。


   それを…ふざけんなよ!
   さやかを何だと思ってんだ!!


   ……いいよ、きょうこ。


   良くねぇ!


   …いいから。


   でも、さやか…!


   きょうこが、きてくれたから。


   ……。


   …あたしは、それだけでいい。


   ……さやか。


   やっぱり、だめだったんだ…さいしょから、こんなきもちは。
   だから、しょうがないんだ…。


   …何がだめなんだよ。
   さやかは


   だって…あたしがほんとうにすきなの、は。


   ……。


   ちいさい、ころから…すきなの、は。


   さや、か……。


   …ねぇ、きょうこ。


   ……。


   …なぐさめて。


   ……。


   …やさしく、して。


   ……。


   してよ……きょうこ。


   ……。


   ……やっぱり、だめなんだ。


   さやか、あたしは…。


   …やっぱり、あたしなんか。


   さやか。


   ……あたしなんか、だれからもあいされないんだ。


   何言ってるんだ。
   さやかは


   ……あたし、なんか。
   ほんとうにあいされたいひとに、あいされない、あたしなんか…。








   き え て し ま え 。









   美樹さん、私に話って?


   ……。


   ……。


   ……でよ。


   …。


   杏子を、取らないでよ。


   …何を言っているのか、分からないわ。


   惚けないでよ。


   惚けてなんかいないわ。


   あんた、魔法少女なんだってね。
   杏子から聞いた。


   だから?


   まどかを取ったくせに。
   それだけじゃ足らないって言うの。


   …。


   杏子に近付かないで。


   勘違いも甚だしいわ。


   …!


   そもそも、まどかは誰の“物”でも無いわ。


   あんた…ッ。


   それに、まどかが貴女の友達だと言うのなら。
   貴女はまどかの淋しさに気付いていたのでしょうね。


   …え。


   貴女は佐倉杏子とばかりだそうね。


   そんなこと、


   あるでしょう。
   この屋上をまどかは貴女と杏子の場所だと称したわ。


   杏子を呼び捨てにしないで!


   ほら。


   …。


   今でさえ、杏子の事ばかり。
   まどかの事なんて、本当は


   うるさい!
   あんたに何が分かるのよ!


   何も分からないわ。
   分からなくても良いもの。


   …あんた、の。


   美樹さやか。


   あんたのその顔がむかつくのよ。


   どうしようも無いわ。
   これが私の顔なのだから。


   まどかの前ではいい顔して。


   それは貴女でしょう、美樹さやか。


   あたしは違う!


   違わないわ。


   あたしは


   佐倉杏子の前では、佐倉杏子に愛されたくて仕方が無いと言う顔をしている。


   …ッ!


   そのくせ、上条恭介と形ばかり付き合って。
   貴女は何がしたいの。


   あんた、に…。


   ええ、分からないわ。
   分かりたくも無い。


   ……。





   さやか。





   ……。


   何やってるんだ。
   昼飯の時間だろう?


   …私は戻るわ。
   まどかを待たせているから。


   ほむら。


   …!


   さやかに


   止めて!


   …さやか?


   呼び捨てになんか、しないで!


   ……。


   …てめぇ、さやかに何を吹き込みやがった。


   何も。
   寧ろ、話があると言ってきたのは美樹さんの方。


   ……。


   …さやか、どういう事だ。
   こいつと何の話を…。


   ……。


   …それと、杏子。


   ……何だよ。


   時間、少し作ってくれるかしら。
   話があるから。


   …それは、


   魔法少女として、よ。


   ……。


   …だめ。


   ……。


   ね、杏子は行かないよね…ねぇ。


   ……。


   私はそれでも構わないわ。


   ねぇ、杏子…。


   …分かった。


   杏


   さやか。


   …え。


   魔法少女として、話すだけだ。
   それだけだ。


   ……いや。


   …。


   いやだ、いやだよぉ…。


   ……。


   ねぇ、杏子…杏子ぉ…。


   ……。


   何か、言ってよ…やっぱり行かないって、言ってよ…ねぇ…。








   ここはどこなんだ…ッ!


   ……。


   あれは、なんなんだ…ッ!


   ……。


   …くそ、どうなってやがんだッ!


   ……。


   さやか、しっかりしろ…!
   さやか…ッ!


   ……。


   …くそッ!


   ……きょうこ。


   さやか!


   …もう、いいよ。


   …!


   もう、いいの…。


   何がいいんだ、ばかやろう!


   ……。


   走って、さやか…ッ!
   頼むから…ッ!


   ……もう。


   さやかぁ……ッ!!


   ……。


   ……いいわけ、ねぇだろうが!


   …きょう、こ。


   ……。


   …ねぇ、いいよ。


   ……。


   おろして、ねぇ、きょうこ…。


   いやだ…ッ!


   ……。


   …さやかまで、失ったら!
   あたしは…ッ!!


   ……。


   あたしは……。


   ……じゃあ、ふたりで。


   ……。


   …ふたりで、しんじゃおう?


   さや、か……。


   …ひとりぼっちは、さびしいから。


   ……。


   そうすればきょうこは、ずぅっと、あたしだけの……。


   ……。


   ねぇ……。


   …ちくしょう。
   ちくしょう…。


   ……。


   ……父さん。


   ……。


   母さん……モモ……。


   ……。


   …お願い、助けてよ。


   ……。


   助けて…さやかを、助けて。


   ……きょ、ぅ…。


   ………。


   ……。





   僕と契約して、魔法少女になるかい?





   …。


   佐倉杏子。
   君にはその素質があるようだ。


   ……だれ、だ。


   僕が何者なのか、今はそれを問題にしている場合なのかい?


   ……。


   佐倉杏子。
   あれを倒したいのなら、僕と契約して魔法少女になるしかない。


   ……まほう、しょうじょ。


   魔法少女になれば。
   あれを、魔女を倒す力を君は得る事が出来るだろう。


   ……。


   そう、かつて君の家族を焼き殺す要因を作った魔女を。


   …今、何て言った。


   魔女の口付け。
   その呪いを受けた者は、どんな事でもするんだよ。
   自分の命を自分で断ったり、凶悪な犯罪を引き起こしたりね。


   ……。


   魔女は心が弱っている人間に付け込む。
   然う、今の美樹さやかのような。


   …!


   それから。
   僕と契約してくれたら、君の願いを一つだけ叶えてあげる事が出来るよ。


   …願いを。


   君が望めばの話だけどね。


   …ほんと、なんだな。


   ああ、本当だ。


   さやかを、助けられるんだな。


   美樹さやかだけじゃない。
   君自身も助かるだろう。


   ……。


   佐倉杏子。
   君の願いはなんだい?
   どんな奇跡でも、叶えてあげられるよ。


   あたしの願いなんて、どうでもいい。


   じゃあ君は


   あれを、倒す力を。
   さやかを、守る力を。


   ……。


   さやかの傍に居る為の、ずっと居られる為の、力を…!


   そうか、それが君の願いなんだね。


   よこせぇぇ……ッ!!









   ……。


   ……。


   …行くの。


   ……。


   ねぇ、行かないでよ…。


   ……。


   …ねぇ…ねぇ……。


   ……ワルプルギスの、夜。


   え…。


   …近いうち、この見滝原に来る。


   何よ、それ…。


   ……最悪の魔女だ。


   ……。


   倒せなければ、見滝原は壊滅状態になる。
   犠牲者の数も…屹度、酷い事になる。


   ……。


   …そうさせない為に、あたしは行かなきゃならない。


   ……。


   あたし一人では多分、勝てない。
   だから。


   …だから、あの女と。


   ……。


   ……そんな、の。


   さやか。


   …だから、なんなのよ。


   …。


   そんなこと、言われたって分からないわよ…。


   ……。


   だってあたし、魔法少女じゃないもん…。


   ……。


   …ねぇ、杏子。


   ……。


   ねぇ、行かないで…。


   ……。


   …そばに、いて。
   抱き締めて、キスをして……。


   ……。


   …あたしを、愛して。
   愛してよ、杏子…お願い、だから。


   ……。


   杏子…杏子…。


   …あたしは。


   ……。


   見滝原なんて、本当はどうでも良いんだ。


   …あ。


   だけど。


   ……。


   …ここは、お前の生まれた場所だから。


   ……う。


   だから、さやか。


   う、ぅぅぅ……。


   …行ってくるよ。


   ……。


   …お前を、守る。
   その為の、力だから。


   あ、ぁぁ……。


   …心配すんなよ、さやか。
   だって、あたしの帰る場所は。


   ……。


   …いつだって、お前なんだから。








   ……。


   ……。


   …ぁ。


   ……。


   杏子…ッ。


   …さやか。


   杏子、杏子…。


   …ただいま。


   ……。


   …悪い。
   部屋ん中、汚れちゃうな…。


   そんなの…ッ。


   ……。


   ……こんなに、ぼろぼろになって。


   ちょっと、ヘマしちゃって…さ。


   ……。


   …でも、大丈夫だ。
   魔法少女は痛みを遮断出来るから…。


   そういう問題じゃない…ッ!


   ……。


   …あんたが痛くなくても。


   さやか…。


   …あたしが、痛いのよ。


   ……。


   痛い、痛いよ…杏子……。


   …ごめん。


   ……。


   …あたし、治すのがどうにも苦手でさ。
   時間、かかっちゃうんだ…。


   ……。


   …骨も、何本かやっちまったから。


   ……なんで。


   …さやか。


   なんで、杏子がこんな目に遭わないといけないの…。


   ……。


   なんで杏子が、こんなにぼろぼろになるまで戦わないといけないのよ…。


   ……。


   なんで、なんでよ…。


   …なぁ、さやか。


   ……。


   …ちょっと、横になりたい。
   いい、かな…。


   当たり前でしょ…。


   ……汚れちゃっても、いいか。


   ばか…ッ。


   …う。


   ここは、あんたの家でもあるんだから…。


   ……。


   …だから、いいに決まってるの。


   そっか…良かっ、た…。


   …!
   杏子…!


   ……。


   杏子…杏子……。


   …ごめんな、さやか。


   ……。


   汚れちゃうな…。


   …いいから。


   でもお前を、血でなんか汚したくないんだよ…。


   それは杏子の都合じゃない…!


   …ぅ。


   なんで、なんでこんな時にまで…。


   …さやか。


   ねぇ、杏子…。


   ……。


   …もっと、あたしに甘えてよ。


   ……。


   傷、治してあげることは出来ないけど…でも、でも……。


   ……さやか。


   きょ…ん。


   ……。


   ……きょう、こ。


   ごめんな…さやか。


   …なんで、謝るのよ。


   ……。


   あたしは、嬉しいのに…。


   ……。


   …杏子の、ばか。


   なぁ…。


   ……。


   …おかえりって、言ってくれよ。


   ……。


   お願い…。


   ……おかえり、杏子。


   ああ…。


   おかえり…おかえりなさい…杏子…。


   …ただいま、さやか。









   ……。


   
…おねえちゃん。


   ……。


   
おねえちゃん…。


   ……やめて。


   
さやか、おねえちゃん…。


   …あたしを、呼ばないで。


   
……。


   来ないで、来ないでよ……。


   
…おいていかれるきもち、わかった?


   ……。


   
…モモのきもち、わかった?


   そんな、の…。


   
…ねぇ、さびしいね。


   ……。


   
さびしいよね…。


   ……いや。


   
でも、さやかおねえちゃんはつれていっちゃったんだよ…。


   ……。


   
…いっしょ、だったのに。
   さやかおねえちゃんが、つれていっちゃったから…。



   ……いや…いやぁ…。


   
おねえちゃんは、ひとりになっちゃったんだよ…。


   ちがう…ちがう……。


   
なにが、ちがうの…?
   ちがわないよ…?



   …ずっと、いっしょにいてあげるって…やくそく、したの…。
   だから…だから…。


   
そんなの。


   ……。


   
さやかおねえちゃんが、かってに、したことだよ。


   …あぁ…ぁ。


   
おねえちゃんは、そんなこと、のぞんでなかったのに。
   モモたちといっしょに、いたかったのに。



   きょうこは…きょうこ、は…。


   
…さやかおねえちゃんのせいで。
   おねえちゃんは…まほうしょうじょに、なっちゃったんだよ。



   …もう、やめて……おねがい…おねがい……。


   
ねぇ、さやかおねえちゃん…。


   …やだ、やめて…もう、やめて……。


   
おねえちゃんを、かえして…。


   ……。


   
モモに、かえして…。


   ……い、や。


   
ねぇ…。


   ……すき、なの。


   
……。


   きょうこが…あのひとが、すきなの……。


   
……。


   あいしてるの……ずっと、あいしてたの…。


   
…そう、おもいこんで。


   あ……。





   あたしは、杏子を縛り付けている。
   ずっと。





   あ、あぁ…。


   美樹さやか。


   ……。


   …あたしが、居なければ。


   ……。


   …あの子は、家族と居られたのにね。
   ずっと、永遠に。


   ……。


   魔法少女になる事も。
   ぼろぼろになる事も、無かったのにね。


   ……。


   あの日、杏子を連れ出せたから。
   杏子を助ける事が出来た、なんて。


   ……。


   本当、馬鹿で愚かで自分勝手で都合の良い考え。


   ……。


   …本当は、杏子を独り占めにしたかっただけのくせに。


   やめて……。


   本当は、自分だけを見て欲しかっただけのくせに。


   …やめて。


   杏子に、愛して貰いたかっただけのくせに。


   ……い、や。


   本当は、杏子が独りぼっちになったのが嬉しかったくせに。


   ……、て。


   でもね、あたし。


   …たす、けて。


   杏子はあたしを見てくれる事なんて、無いのよ。


   ……きょう、こ……。


   あたしみたいな汚い人間、杏子は愛してくれないのよ。


   …ぅ…あぁ。


   ねぇ、あたしって…。


   ……。


   …本当、バカ。















   こいつと?


   あたしが?


   …。


   幼馴染、


   ですって?


   ええ、然うよ。


   なんだそれ。


   ないないないない、絶対ない。


   でも、


   おい、絶対ってなんだよ。


   絶対は絶対よ。


   ああ?


   と言うか、絶対いや。
   なんで杏子なんかと


   そりゃこっちの台詞だ。
   さやかと幼馴染なんて、死んでもごめんだね。


   なんですって、このばか杏子。


   うっせ、ばかさやか。


   大体、死んでもって何よ。
   死んだらおしまいじゃない、ばかなの、あんた。


   たとえだよ、たとえ。
   それくらいイヤだってことだよ、そんなのも分かんないのかよ。
   やっぱばかだな、あんたは。


   うるさい、ばか杏子!


   そっちこそうっせーよ、ばかさやか!!


   むーーー!


   うーーー!


   兎に角。
   確かに、杏子とさやかは幼馴染だったのよ。


   だから、


   ねーーって!


   私も最初は驚いたわ。
   でもただ一度だけ、そういう時間軸があったのよ。


   ありえない、


   マジ、ありえねー。


   二人で一緒に暮らしてたわ。


   杏子と?


   さやかと?


   ええ。
   もっと言えばさやか。


   何よ。


   貴女は杏子の事が、好きだった。


   …ッ!


   ぶ…ッ。


   然う、幼い頃から。


   な、ないないないない、絶対、ない!


   ま、マジか、ほむら!!


   ええ、マジ。


   ちょ、ちょっと杏子、何聞き直してんのよ!


   う、うっせーな!
   いいだろ、別に!!


   良くないわよ、ばか!


   ばかはあんただ、ばか!


   それから、杏子。
   貴女もさやかを好き、と言うより、愛してたわよ。


   は、はぁ…ッ?!


   ……。


   大事すぎて、手が出せない。
   そのせいで、さやかを泣かせていたみたいね。


   ば、ばか言ってんじゃねーー!!!


   ……。


   て、何黙ってんだ、さやか!
   あんたもなんか…


   ……。


   な、なんだよ…。


   …杏子の、ばか!!


   は、はぁ?


   ほんと、ばか!


   意味分かんねーぞ!!


   ああ、それと。


   まだあんのかよ…!


   …それと、何よ。


   ちょ、さやか…!


   全てが終わったら、貴女達は結婚すると言う約束をしていたみたい。


   結、婚…。


   …て、あの結婚、か。


   ええ、あの結婚。
   夫婦になる為の契り。


   ……。


   ……。


   本当。
   後にも先にも、あの時間軸だけだったわね。


   ……それで。


   …さやか。


   あたし達は、どうなったの。


   …残念ながら、知らないわ。


   何よ、それ。


   だって、私は。


   …。


   貴女達の結末を見る事は無かったから。


   …でしょうね。


   さやか。


   …別になんでもないわよ。


   ……ああ、そうかよ。


   ねぇ、ほむら。


   …何かしら。


   あんたが過去に戻ると、その時いた時間軸の世界はどうなるの。


   …知らないわ。


   無責任。


   …ええ、然うよ。
   私にとってそんな事は問題では無かったもの。


   ……。


   なぁ、ほむら。


   …何。


   あたしはそういうの、分かんないけど。
   でも、もしかしたら、


   平行世界。
   決して、交わる事の無い未来。


   …。


   …。


   …或いは。








   後編