この子の、傷だらけの背中を、見て。
ああ、あたしはこの子が本当に好きなんだって。
本当に好きになってしまったんだって。
改めて、思ったんだ。
……。
…ねぇ。
うん…?
……。
…くすぐったいよ、さやか。
なおして、あげようか…。
……。
…せなか、の。
……。
あたしなら、きれいに…。
…言ったろ。
…。
このままで、いい。
…でも。
さやか。
…せっかく、きれいなはだなのに。
……。
…もったいないよ。
これで、いいんだ。
…。
…いいんだよ、さやか。
どうして…。
躰の傷痕は、あたしがしてきた事の証拠なんだ…。
…。
…消してはいけない。
そう、思うんだよ…。
…きょうこ。
どのみち、消せないんだけどさ。
……
さやか…あんたと出逢ってから、そう、思えるようになったんだよ。
…あたしのせいなの。
いや、違う。
……。
あんたは…あたしがなれなかった自分なんだ。
なりたかった自分なんだ。
…あたしは。
あんたのように、強く、なりたかった…。
……つよく、なんか。
あんたのようにはもう、なれない…だからこそ。
……。
この痕は、消してはいけないんだ。
…そんなこと、ない。
……。
だってきょうこは、きょうこは…。
…。
…ずっと、まちがえてくれてた。
あたしのために、ずっと…。
……。
…あたしは、あんたのようにはなれない。
あんたのように、だれかのためにまちがえてあげるなんて、できない…。
…さやか。
あたしは、あんたのようになりたい…。
あんたのように、つよくなりたい…。
…強くなんて、ないよ。
…。
あたしは…あんたがいなければもう、生きていけないから。
…。
生きて、いけないんだ…あんたが、いてくれないと、だめなんだ…。
…きょうこ。
さやか…ずっと、いっしょにいて。
あたしといっしょに、いきて…。
…ずるいよ、きょうこ。
え…。
…あたしだって、いいたいよ。
さやか…。
ねぇ、きょうこ…。
…。
…すき、すきなの。
あんたがいないと、だめなの…。
…さやか。
あんたにあいされてないと、もう…。
……。
…もう、だめなの。
だめ、なの…。
……さやか。
ねぇ…すき、だいすき。
…さやか…さやか…。
ねぇ、ちゃんとつたわってる…?
ねぇ…。
R h a p s o d y
この子の手はあたしのより、少しだけ小さい。
この子の肩幅は思っていたより、狭かった。
好きになって初めて、気が付いたものたち。
この子はあたしと同じ、女の子だという事。
…You may say I'm a fool。
……。
Feelin' the way that I do…。
……。
I believe in friends and laughter…。
……。
…And the wonders love can do。
……。
I believe in songs and magic…。
……。
And that's why I believe in you…。
…きょうこって、さ。
うん…?
なにげに、にほんごじゃないうた、うたうよね…。
そうか…?
うん、そう。
うーん…。
…なんで?
なんでって、言われてもなぁ…。
…じゃあ、いまのうたは?
……。
ねぇ…。
…うち、さ。
うん…。
古いレコードが、いっぱい、あったんだ…。
…ふるいレコード?
今時、珍しいだろ…?
…あたし、きいたことない。
……。
いいなぁ…。
…そうかな。
うん…。
でも、音はそんなにいいもんじゃないぞ…?
そうなの?
聞けば聞くほど、痛んでいっちゃうんだ…レコードって。
…どうして?
再生すんのに針を使うから。
…はり。
見たこと、ないか?
…あれ、はりなの?
再生針って言うんだ。
…へぇ。
埃にも弱いしなぁ…。
埃があるとブチって音がしてさ…。
…くわしいね?
よく、聞いてたからな…。
…ひとりで?
いや…母さんと妹と、三人で。
…おとうさんは?
……。
……。
…レコード、元々は親父のだったんだ。
古い歌が、好きでさ…。
うん…。
…うんと小さい頃は、家族で聞いてた。
でも…。
……。
…考えてみれば日本語じゃない歌ばっかりだったかな、あるの。
だから、なんだ…?
かもなぁ。
…いっぱい、きいてたんだね。
ん…。
…だって、いまでもうたえるんだもん。
それしか、なかったからな…。
……。
…さっきの歌は、さ。
うん…。
小さい頃のお気に入りだったんだ…。
だから、母さんにせがんではよく聞いてた…。
……。
もちろん、意味なんて分からない…でも、お気に入りだった。
…あたしも、すきかも。
…。
ううん、すき。
…ふふ。
きょうこ…?
…いや、なんか嬉しいな。
…。
自分が好きだったの、スキって言ってもらうのってさ…。
ん…きょうこ…。
…好きな人、に。
……。
……。
…すきなひとに、なに?
…。
きょーうこ…。
…やめた。
えー、なんでよぅ…。
……。
ねーぇ…。
…恥ずかしい。
えー…。
……。
…やだ。
きょうこちゃんってば、すっごいかわいいんだけどー…。
…うるせぇ。
かわいい、かわいい……。
…ちょーしにのんな、ばか。
……。
……。
…おんなのこ、だもんね。
あ…?
…きょうこも。
……悪かったな、見えなくて。
そんなこと、いってないじゃない…。
……。
て、なにげにあたしよりちいさいし…あし、も。
……。
ちょっと、いがいだった…。
…そうかい。
きょうこは、かわいい、おんなのこ…。
…やめろ。
うぶなやつめ…。
…さやか。
うりうり、こうしてくれる…。
ちょ、やめろ…。
きょーこぉ…。
…ああ、もう。
うぜぇ…。
……じゃあ。
…。
…はなれたほうが、いい?
…。
はなれて、ほしい…?
……そのままで、いい。
…。
…。
…かわいいヤツめぇ。
あー…。
…ね、きょうこ。
なんだよ…。
…さっきのうたのいみ、は?
あ…?
いみ。
…言ったろ。
意味も分からずに聞いてたって。
いまも?
…ガッコ、行ってないからな。
……。
むしろ、さやか。
お前の方が
えいごは、にがて、です。
…だよなぁ。
おい、こら。
得意なの、あるのか。
あるわよー。
体育だろ、どうせ。
…おんがくも、すきよぅ。
……。
……。
…I believe in you。
ん…?
…いくら、さやかでも。
これくらいなら、分かるだろ…。
む…。
I believe in you……さやか。
……。
……。
……。
…なんか、言えよ。
I believe in you、 too。
……。
さやかちゃんだって、これくらい、わかります。
…返されるとは思わなかった。
えへん。
…すげぇ、恥ずかしい。
じぶんでいっておいて。
うー……。
…あたしだって、はずかしいんだから。
口が悪くて、態度も悪くて、簡単に言えば粗暴で、乱暴で。
不器用で、やり方が下手糞で、でもその根幹にはあるのは慈悲深さと、誰よりも温かい思いやり。
沢山、傷付いて、一番大切で大好きだった人に捨てられて、きっと今だってその傷は完全に癒えてないと思うのに。
誰よりも愛されたいのは、きっと。
ポリアンナ物語?
知ってる?
うん、知ってる。
え、ほんとに?
読んだこと、あるから。
そ、そうなんだ。
よかった探しをする子なんだよ。
よかった探し?
どんなことが起きてもね、その中からよかったと思える事を探し出して明るく振る舞うの。
どんな事…。
でも、どうして?
あー…うん、まぁ。
杏子ちゃんのこと?
…まぁ、そんなところかな。
…。
あいつさ、小さい頃にしてたんだって。
もしかして、よかった探し?
みたいなこと、かな。
…。
お父さんが杏子にそう、教えたんだって。
どんな人間でも、いいところは必ずある。
どんな辛い出来事でも、いいと思えることが必ずあるって。
…。
だから信じることを、愛することを止めてはいけないって。
…そうなんだ。
なんだかね。
…。
…いっぱい、傷付いて。
自分の為に、魔法を使い切るって言い切って。
でも、あたしの為に…あんたなんかを、沢山、心配してくれて。
…。
…ほんと、不器用だったけどね。
さやかちゃん。
なんだかなぁって。
…好きなんだね、杏子ちゃんのこと。
……うん、好き。
大好き…。
…。
…今でもね、恭介のこと、好きだよ。
忘れる事なんか、きっと、出来ない。
どんなに時間が経っても。
…うん。
酷いヤツだよねぇ…あたしって。
でも、きっと。
…。
そんなさやかちゃんのことが、杏子ちゃんは好きなんじゃないかな。
…。
そんなさやかちゃんだから、杏子ちゃんは好きになったんじゃないかなぁって。
…ばかだなぁ、あいつ。
……。
こんなあたしを、好きになって…さ。
……。
…好きだって、言ってくれるの。
真っ直ぐな目をして…いつも。
…わたしね。
…。
最初は杏子ちゃんのこと、とても意地悪な子だな…って、思ってたの。
少し、怖かったし…。
…まどかが?
でも、話してみたら全然違ってた。
…。
杏子ちゃんね…本当にさやかちゃんのことばかりだったよ。
あたしのことばかり…。
…わたしよりもずっと、さやかちゃんのことを分かってた。
…。
…わたしね、思うの。
二人は、とてもよく似てるんだって。
…似てるかな。
まっすぐなところ。
誰かにとても優しいところ。
自分の為じゃなくて誰かの為に、頑張れるところ。
…。
…すごいなって、思うの。
わたしには…出来ないから。
ねぇ、まどか。
…なに?
あたしね、杏子が好き。
…うん。
まどかのことも、好き。
……。
…恭介のことも、仁美のことも。
でも。
…。
違うんだよね…?
……。
ね、さやかちゃん。
…なに、まどか。
しあわせ?
…。
もしもそうなら…とても嬉しいなって。
思うの、思えるの。
…まどか。
しあわせに、なってほしい。
さやかちゃんも、杏子ちゃんも…みんな。
ばーか。
…あう。
まどか、あんたもならないと。
…わたしも?
そう。
…。
ねぇ、まどか。
…なに、さやかちゃん。
この先、どうなるかなんて、分からないけど。
うん。
あたしは、しあわせだから。
…。
…杏子に、出逢って。
杏子に、想われて。
…。
…いっぱい、愛されたい。
いっぱい、愛してあげたい…。
…うん。
それから、まどか。
…?
ありがとう。
…さやかちゃん?
あたしの友達でいてくれて。
…。
大好きだよ、まどか。
…さやかちゃん。
あたし、しあわせだよ。
とても、とても。
…ありがとう、さやかちゃん。
わたしも、大好きだよ…。
初めての恋、叶わなかった恋、破れてしまった恋。
二回目の恋、叶った恋、叶えられた恋。
あたしだけを見つめてくれる人、絶対に一人にしないと言ってくれた人、何よりも愛したい人、愛してあげたい人。
けれどあたしは、与えられてばかり。
あいつはいいヤツだ。
…まどかのこと?
あいつは…お前のこと、本気で心配してた。
お前の痛みを必死に分かろうとして、出来なくて。
それでもお前の傍にいようとした。
…うん。
さやか。
…なぁに。
あいつは、いいヤツだ。
そんなあいつを泣かせるような事、もうするな。
……。
さやか?
聞いてるのか?
…そんなの、あんたにいわれたくない。
…。
というか、そんなかおでほかのおんなのはなししないでよ。
むかつく。
他の女って。
まどかはお前の友達だろ?
……。
さやか。
…やさしいかお、で、はなさないで。
……。
…いやなの。
……。
……。
…お前が先に話し出したんだろう。
……。
しょうがないな…。
…さんかげつ、なんだって。
うん?
…ほんもの、じゃなければ。
本物…?
…ほんものじゃなければ、ボロがでる。
でたら…。
…。
…おわっちゃうんだって。
……。
あたしたち、は…
あたしは。
…ん、きょうこ。
終わらせるつもりなんて、ない。
…。
言ったろ、あたしはお前がいなければ生きていけないって。
…きいたよ。
だから
でも…!
……。
でも…。
…でも、なんだい?
でも、でも…こわくなるの。
怖く…?
しあわせだっておもうほど、ふあんになるの…。
…ばかだな。
そうだよ、あたしはばかだから。
どうしようもなく、ばかだから…!
そんなさやかが、あたしはたまらなく好きだよ。
…。
…好きだよ、さやか。
大好きだ…。
きょうこ…。
なぁ、さやか…もしもあんたが終わらせたいと思ったら。
その時は
そんなこと…!
…だったら、終わらない。
終わらないんだ…。
…ほんとう?
ああ、本当だ…。
…きょうこ、…きょうこ。
さやか…。
……。
…あたしには、お前が必要だ。
誰よりも、お前が…。
……うれしい。
……。
…でもね、きょうこ。
ん…。
あたし、あたしね…やっぱり、こわいの…。
……。
きょうこに、やさしくしてもらえば、もらうほど…あいされてるって、かんじるほど…。
…ばか。
ごめんね、きょうこ…。
なんでだよ。
…あんたのこと、いっぱいあいしてあげたいの。
きょうこがあたしのこと、あいしてくれているように。
いっぱい、あいしてあげたいのに…。
…。
でもあたし、
それって。
…あ。
あたしのこと、好きじゃないってことなの?
…!
ちがう…!
どう、違うの。
ねぇ、さやか。
きょう、こ…。
…今更、諦めろって言うの。
ちがう…。
出来ないこと、分かってるくせに…知ってる、くせに。
ちがう、ちがうの。
どう、違うの…!
あたし…!
……。
あたし、きょうこがすき、きょうこがいてくれればなにもいらないの…!
……。
ねぇ、すき…すきなの。
……。
あんたが…あなたが、すきなの。
だから、ふあんになるの…こわいの。
……。
ごめんね、きょうこ…かってなことばかり、いって、ごめんね…。
……。
…あいしてるの。
でも、どうしたらいいのか…わからないの…。
…ばかさやか。
……。
さやかは、ばかだ。
…あ、ぅ。
ばか…。
……きょぅ、こ。
……。
ねぇ、あいして…ここにいるって、ばかなあたしにおしえて。
なんども、なんども、おしえて…。
…いいよ。
いくらでも、教えてやるよ…さやか。
あぁ…。
…だからさ、さやか。
あんたもここにいるって、あたしに教えてよ…。
……。
教えて…さやか。
…すき、…だいすき。
……。
あたしは、ここにいるよ…。
どこにも、いかない…。
…。
だから、おねがい…ずっと、つかまえてて。
さやか…!
あ、あ…。
すきだ、すきだ、さやか、だいすきだ…。
…は、ぁ。
さやか…さやか…さやかぁ……。
きょ、ぅ……。
赤い髪、あたしよりもずっと長い、美しい色。
赤い瞳、その中にあたしが映る、澄んだ色。
炎の色、血の色、燃える空の色、命の色。
この子を形付けるもの、この子がこの子である証、その全てが愛しいと思っているの。
……。
…ね。
うん…。
…うたわないの?
……。
えいごのうた…ききたい。
…あぁ、…うん。
きかせて…?
…。
きょうこ…。
…ごめん、ねむい。
……。
う…。
…さきに、ねないで。
……。
あたしより、さきに。
…きょうの、さやか。
ん……。
…わがまま、だ。
いまさら…?
…。
…じぶんのためにいきろっていったの、だぁーれだ?
……。
ね…?
…あたし、だ。
……。
…さやか。
ね、うたって…。
…うで、しびれるよ。
……。
…あたま、すこしずらして。
どかせって、いわない…?
…いわないよ。
というか、いわせないだろ…。
とうぜん…。
……。
…きょうこ。
なぁ、さやか…。
…なぁに。
ふあんになったら、いつでもいって。
…。
…なんどだって、おしえてやるからさ。
ねぇ、きょうこ。
…なんだい、さやか。
ふあんになったら、いってね。
…。
…いってね。
ん、わかった…。
……。
…ふ、ぁあ。
……。
……さやか。
……。
…くび、かむなって。
ねようと、してるから。
…あくび、しようとしただけだろ。
……。
…おい。
ねぇ。
…なんだい。
あたしが、したら。
…?
…きょうこが、あたしにしてくれること。
……。
あたしが、きょうこにしたら。
きょうこは、うれしい…?
……。
…もぅ、わからないの?
いや…。
…いやなの。
じゃ、なくて。
…じゃあ?
かんがえて、なかった…。
…。
あぁ……うん…そうか…。
…ふふ。
なんだよ…。
きょうこだって、おんなのこなんだよ…?
…まぁ、おとこじゃないよ。
かわいい、おんなのこ。
…それは、どうだか。
そうなの。
…そうかい。
だから、ね。
…。
…ね、きょうこ。
きょうはもう、ねむいよ…さやか。
あ、ぅ……。
…ふふ、さやかはいつだっていいにおいだなー。
あんたも、おなじにおいなんだけど…。
…?
おなじせっけん、つかってるでしょ…?
…そう、だけど。
さやかのにおいは、さやかだけのものだからな…。
…。
……。
…においは、うつるんだよ。
うつる…?
…そう。
ふぅん……。
…きょうこ。
……。
さきにねないで、っていったのに…。
…まだ、…ねてない…よ。
……。
ん…さやか…。
…しょうがないから。
また、こんどってことにしてあげる…。
……う、ん。
……。
…ん。
おやすみのキス…。
…おぅ。
……。
……おやすみ、さやか。
うん……。
この子はいつだって、あたしを見ていてくれる。
この子はいつだって、あたしを想っていてくれる。
この子の気持ちは、いつだってあたしに向けられている、向けてくれている。
でも、それを確かめずにはいられない、あたしは。
さやか、たいやき食いたい。
いいけど…どれがいいの?
んーとなぁ…。
…。
やっぱ、これだな。
あんこ?
おう。
さやかはどれにする?
…。
違うのにして、はんぶんこにしようぜ。
そしたら、一回で二つの味が食えるだろ?
あたしは…いいや。
食わないのかい?
うん、今回はいい。
食欲、ないのか?
お腹の調子でも悪いのか?
…。
さやか、大丈夫か?
ん、大丈夫。
心配しないで。
……。
杏子?
じゃあ、あたしもいいや。
え、なんで?
食べたいんでしょ?
さやかが食わないなら、いい。
別に
いいもんは、いいんだ。
…。
行こう、さやか。
お腹、すいてないの?
平気だ。
でも
いいんだ。
さやかと一緒じゃなきゃ、いやなんだ。
……。
さやか。
ねぇ。
うん?
たいやきとあたし、どっちが好き?
…は?
たいやきと、あたし。
……。
……。
…比べることなのか、それ。
…。
全然、違うものだろ?
…違わない。
違う。
即答じゃないの。
…。
…。
…はぁ。
さやか。
……。
腹、へった。
…たいやき、やっぱり食う?
いや、さやかが作った飯が食いたい。
…。
さやかの飯食ったら…さやかを、食いたい。
……。
…。
…それ、答えのつもり?
うっせぇ。
……。
……。
…あのね、杏子。
…おう。
赤ちゃん出来たって、言ったら。
……は?
杏子は、吃驚する?
赤ちゃんって…あの?
他にあるの?
……。
…杏子の赤ちゃん、なんだけど。
…ッ!
だから、食欲があまり
それ、本当なのか…ッ!
…。
でもあたし達、女同士なのに…あ、いや、でも。
…でも、魔法少女だし?
……。
…どうする?
本当に、出来てるんだったら。
なら?
…。
責任、取ってくれる…?
…そんなの、当たり前だ。
あたりまえ…。
責任は、取る。
当然だ。
……ね。
おう。
これが本当の話だったら、杏子はうれしい?
ああ、嬉しいさ。
当たり前だろう?
…本当に?
ああ、本当だ。
あたし達の事、見捨てない?
ばかなコト、言うな。
…ん。
そんな事、するもんか。
絶対に、しない。
…。
それとも何か、あたしがそんな事するって思ってるのか。
…ううん、思ってない。
思ってないけど…。
けど、なんだ。
……。
……。
…ばかだからさ、あたし。
さやか。
…。
…その話が本当でも、嘘でも。
あたしは、さやかを捨てたりしない。
離したりなんか、しない。
…。
あたしは、さやかが好きなんだ。
…たいやきよりも?
おう、たいやきよりも。
…うそつき。
食べ物は何よりも大事なくせに。
魔法少女、だからな。
…?
食わなくても、なんとかなるだろ。
…。
さやかの方が大事だ。
好きだ。
……。
…?
さやか…?
…ごめんね、杏子。
…。
全部、嘘…。
…知ってるよ。
……だよね。
つくならもう少し、マシな嘘をつけよな…?
…。
でも、嬉しかったけどな。
…赤ちゃん?
だって、そうだろ?
お前とあたしに子供が出来たら、やっぱり、嬉しいじゃないか。
…。
なぁ、さやか?
お前もそう思ったから、なんだろ?
…うん、そう思ったから。
……。
…叶うなら。
あんたに似てる子供を産みたいな…。
あたしはお前に似てる子供がいい。
えー…。
二卵性の双子とか、いいかもな。
いっそ。
…ああ。
……。
……。
さやか。
…ん。
あたしはずっと、さやかと一緒だ。
…うん、あたしも杏子とずっと一緒がいい。
子供なんか、いなくても。
…うん。
……。
ごめんね。
ばか。
…ううん、違うの。
じゃあ、なんだよ。
食べ物と比べたりなんかして。
本当だよ。
…。
けど、しょうがないからな。
さやかは。
…面倒だよね、あたし。
そういうところもひっくるめて、好きだから。
あたしもしょうがないんだよ。
…。
さやか。
…なに?
その、愛してる。
……。
…愛してるから、な。
顔、真っ赤…。
…うっせ、ばか。
へへ…。
…ほら、行くぞ。
腹、へった。
何、食べたい…?
さやか。
…は?
さやか。
…もう。
それはごはんの後、でしょ…。
あの子が好き、一緒にしあわせになりたい、しあわせにしてあげたい。
でも、あの子はあたしと、あたしなんかと一緒で本当にしあわせになれる?
あたしみたいなヤツ、ずっと好きでいてくれる?
ねぇ…本当にあたしで、いいの。
美樹さん。
…。
お茶、冷めてしまったと思うから。
…すみません。
良いのよ。
淹れ直してくるわね。
……。
……。
…マミさん。
うん?
……。
…時間ならあるわ。
だから、良いのよ。
……。
今回の茶葉はね、一目惚れなの。
…?
香りがね。
…確かにいい香りですね。
でしょう?
ああでも、香りで一目惚れと言うのは変かしら?
…。
この場合だと…一嗅ぎ惚れ?
…ふふ。
……。
……。
…一寸待っていて。
マミさん。
…。
…あたし、だめなんです。
だめ…って?
…あたし、あの子に甘えてばかりで。
…。
あの子のやさしさに…甘えてばかりで、愛してもらうばかりで。
……。
…あたしは、何も返せない、返せてない。
あの子があたしにしてくれるように、したい…いっぱい、愛してあげたいのに。
…。
いつも、口ばかりで…。
ねぇ、美樹さん。
…はい。
美樹さんは佐倉さんの過去の事、ご家族の事は知っているのよね?
あの子の口から、直接聞いて。
…。
…ねぇ、美樹さん。
……。
美樹さんは佐倉さんに愛されていると。
そう、思ってる?
…それは。
それとも、疑ってる?
信用、出来ない?
そんなこと…!
あの子は貴女も知っている通り、とても不器用な子だわ。
でも、とても優しいの。
……。
…佐倉さんは心から美樹さんを大事に、大切にしている。
私の目にはそう、映ってる。
…分かってる、つもりです。
でも、怖いのね。
…。
愛されている事。
それは屹度、本人にしか分からない。
…。
以前のあの子は、人懐こい子だった。
…。
ご家族の事で変わってしまった…そう、思ってた。
でも。
…。
あの子の本質は変わってなかった。
貴女といる時のあの子を見ていると、そう、思うの。
……。
…美樹さんは、心から、佐倉さんを大切に思っている。
だからこそ、あの子は貴女に心を向けている。
開いている。
…でも、最初は。
それでも、あの子は貴女に惹かれた。
貴女がそう、させたのよ。
…。
…佐倉さんの事、好き?
……はい。
…。
あたし、杏子のこと…好きです。
好きで、好きで…だから、いつか来るかもしれない、終わりが…。
…。
…だってあたし、杏子が好きだから。
大好きだから…。
……。
…だからもしも杏子が、あたしなんか好きじゃなくなって。
他の誰かを好きになって…あたしから、離れてしまったら。
考えただけで、躰の…ううん、心のふるえが止まらなくなって…涙が、止まらなくなって。
……。
…杏子に捨てられてしまったら。
あたしはもう、生きていけない…。
杏子のいない夜なんて…もう、越えられない。
…。
だから、あたし…そうならないように、しないといけないのに。
杏子がずっと、あたしを見ていてくれるように…好きでいてくれるように。
でも、あたし…杏子に、何も出来なくて…それどころか、甘えてばかりで…。
…。
…杏子は、こんなあたしなんかと一緒で本当にしあわせになれるの。
あたしなんかじゃ杏子のこと、しあわせに
佐倉さんは、幸せね。
え…?
そんなに想われていて。
羨ましい。
マミさん…。
魔法少女になったら、恋する事を諦めなければいけないって。
ずっと、思っていたけど…。
…。
…思っていたから。
……。
……良いなぁ、二人とも。
…マミさん、あたし。
佐倉さんの事、好きなんでしょう?
…。
誰よりも、愛しいのでしょう?
……はい。
……。
……。
…やっぱり良いな、佐倉さん。
美樹さんにこんなに想われていて。
…マミさん。
私も恋、したいな…。
…マミさんなら、
そうだと、良いのだけれどね。
…。
…楽しい事ばかりじゃ、無いのでしょうけど。
苦しい事も、あるんでしょうけど…。
…。
それでも、二人を見ていると…。
…マミさんから見て、あたし達ってどんな風に見えますか?
そうね。
かわいい恋人同士って、感じかしらね。
…。
けれど、それだけじゃない。
…。
いざ、戦いになればとても頼りになる。
実際、二人の連携には何度も助けられたから。
…でもあたしは杏子に
美樹さん。
…。
貴女はもう少し、自分に自信を持っても良いと思う。
…自信。
貴女を好きなのは、佐倉さんだけじゃない。
私も鹿目さんも、そして、暁美さんも。
…。
みんな、貴女が好きなの。
……。
(でも一番はやっぱり、佐倉さんかしらね?)
(…!)
…?
杏子…?
(………。)
中に入ってくれば良いのに。
杏子、いるんですか…?
(……。)
(杏子、いるの…?)
(……。)
(ほら、美樹さんが呼んでいるわよ。返事、してあげないと。)
(……。)
(美樹さんを迎えに来たのでしょう?)
(……。)
(杏子…。)
(……さやか。)
あ…。
(とりあえず、中に入っていらっしゃい?)
(……いい、ここで待ってる。)
杏子…。
(外は寒いでしょう?風邪、ひいてしまうわ。)
(…平気だ。)
(杏子…!)
(……。)
(いつから…いつから、いたの。)
(……。)
(大分前から、かしらね?)
大分、前…。
(うっせーぞ、マミ。余計なコト、言うな。)
(あら、言われてまずい事だったの?)
(……。)
美樹さん。
は、はい…。
佐倉さんを中に入れてあげて?
私はその間にお茶を淹れてくるから。
ね?
(マミ、あたしは)
(黙って言う事を聞きなさい。)
(……。)
手の掛かる妹でごめんなさいね、美樹さん。
い、いえ…。
(……。)
(…杏子、今行くね。)
(……さやか。)
(逃げるなんて、まさかしないわよね。佐倉さん?)
(…しねーよ。)
(そ。なら、良いわ。)
(…いちいちうるせーぞ、お節介マミ。)
(あら、今更でしょう?)
(……うぜー。)
杏子。
…え。
ばか。
……。
なんで、いんのよ。
……。
…ほっぺた、冷たくなってるじゃないよ。
へーきだよ、これくらい。
ばか。
……。
……。
…迎えに、きたんだ。
……。
……。
…ね、中に入ろ。
一緒にマミさんのお茶、飲もう?
……。
(大丈夫よ、今回の茶葉は酸っぱいものでは無いから。)
……。
…杏子、酸っぱいの苦手だったの?
…。
知らなかった…。
……ばかマミ。
後編
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