恋人が出来て、初めて迎えるクリスマス。
   14年間生きてきて、初めて恋人と過ごすクリスマス。
   特別な、そう、とっても特別なクリスマス。








   さやか。


   杏子!


   今日は遅かったな。


   うん、今日は日直だったから。


   そのわりには遅すぎないか?


   帰ろうとしたら先生に用事、頼まれちゃって。


   そうか。
   じゃあ、仕方ないな。


   えっへっへ。


   ん、なんだい?


   今日もお迎え、ご苦労。


   どういたしまして。


   待たせてごめんね。


   別にいいさ。
   ちゃんとさやかは来たから。


   …ん。


   じゃあ、帰るか。


   うん!


   …。


   …へへ。


   まだ学校内だぞ?


   …いいの。


   …。


   いつもより遅いから、人も少ないし。


   部活のヤツらがいるだろ?


   …。


   ん?


   …杏子は、やなの?


   別にいやってわけじゃない。


   じゃあ、いい?


   ああ、いいよ。


   あたしもいいの。
   杏子とこうしたいの。
   早く、したかったの。


   …そうかい。


   それにほら、くっついてた方があったかいし。
   知ってる?今日は冬将軍さまが到来して、今年一番の寒さなんだって。


   確かに今日は寒かったなぁ。
   昨日までに比べたら。


   12月の気温なんだって。


   へぇ。


   でも今年一番って言っても、これからどんどん寒くなるから。


   毎日、一番って言ってそうだな。


   ね。
   杏子、寒くない?


   今は平気だ。
   さやかがくっついてるから。


   …。


   ありがとな、さやか。


   う、ううん。


   さやかはあったかいよな。


   …そう、かな。


   ああ、すっげーあったかい。


   …う、ん。


   ところでさやか、今日はどこか寄っていくかい?


   …んーとね、CD屋さんに行きたい。


   CD屋か。
   欲しいのでも出たのかい?


   うん。
   杏子と聞きたいなって、思って。


   あたしと?


   そ、杏子と。


   ふぅん。
   じゃ、CD屋な。


   ね、杏子はどこか寄りたいとこある?


   あたしは特にないよ。


   ほんとにー?


   ああ。
   さやかの好きなところに行こう。


   買い食いは?
   おなか、すいてない。


   …。


   きょーこ?


   …少し。


   ふふ。
   たいやき?クレープ?お饅頭?それとも、お団子?
   それともハンバーガーとか?たこ焼き?


   団子、かなぁ。


   オッケ、お団子ね。


   …。


   ん、杏子…。


   …でもな、さやか。


   う、うん…。


   …一番食いたいのは、お前だよ。


   ぅ……。


   ……。


   ……。


   …無理なら、いいよ。
   無理強いは、したくない。


   あ、あのね。


   …おう。


   きょ、今日、ね…。


   ……。


   お、親、いないんだ…だから。


   …そうだったか?


   きゅ、急にそうなったの…。


   …。


   …だから。
   今日は、うちで…。


   …。


   そ、それで…そのまま…。


   ……。


   …。


   …そうか、今日はいないのか。


   ね、泊まってく…?


   いいか?


   …と言うか、泊まって。


   おう、分かった。


   …と言うか、ずるい。


   何が?


   …あたしばかりに、言わせて。


   ん?


   …泊まりたいって、言え。


   ああ。


   …ああじゃないっつの。


   泊まりたい。
   朝までさやかといたい。
   いつだって。


   …ぅ。


   言ったぞ?


   …ばか、ずるい。


   さやかは難しいな。


   あんたがあっさりしすぎなの。
   もう。


   さやか。


   …。


   さやかの部屋、あたし好きなんだ。


   …。


   さやかに包まれてるような気がしてさ。
   ほら、さやかの匂いがするだろ?
   だから。


   …。


   …いつも以上に、よくしてやりたくなるんだ。


   …ッ!


   …ん、さやか?


   もう、言わないで…。


   …。


   …恥ずかしいから。


   ……おう。


   ……。


   ……。


   …杏子。


   ん…なんだい?


   そ、その…。


   …。


   …いっぱい、食べてもいいから。


   ……。


   な、なんて、言わないから…!


   …じゃあ、勝手に食うだけだ。


   ……ぁ。


   腹いっぱい…な。


   ……胃もたれ起こしても、知らないんだから。















  O s t i n a t o















   すっかり、クリスマスなのな。


   12月に入ったら、もーっとクリスマス一色になるよね。
   イルミネーションとさ。


   まだ11月だってのに。
   日本人ってクリスマス、好きだよなぁ。


   と言うより、イベントが好きなんだと思う。


   イベントねぇ。


   ハロウィンとか、バレンタインとかもさ。
   あと、イースターとか!


   どれも日本のじゃないってのにな。
   挙句、好き勝手やっちまってるし。


   それ、好き勝手やってきた杏子が言う?


   はは、そうだなぁ。


   …聖職者の娘として、許せない?


   いや、別に。
   あたしには関係ないし。


   …関係、ない。


   やりたいヤツは好きにやればいいさ。


   …杏子は?


   うん?


   好き?


   好きって?


   …クリスマス。


   ……。


   …どうでも、いい?


   どっちかと言うと、苦手。


   …なんで?


   人が無駄に多くて。


   …無駄にって。


   ……。


   ……。


   …家族で過ごしてた頃を思い出すんだよ。
   だから、どうにもね…。


   …杏子。


   父親の説教を聞いて、母親が絵本を読んでくれて、小さなケーキを妹と分け合って食って、皆で歌を歌って。
   サンタは来なかったけど、あったかいクリスマスだった。


   ……。


   それを嫌でも思い出させてくれる。
   だから、苦手。


   …そっか。


   と言うかさ、なんで恋人同士で過ごしたがるのかな。


   …だめ、なの?


   別にだめとは言わないさ。
   でも、家族は唯一無二の存在だろ。


   …恋人だって。


   いや、違う。


   ……。


   家族は…たとえ、どんなに離れても家族だ。
   そう、どんなに離れても。


   ……。


   …と。
   さやか、CD屋に着いたぞ。
   入ろう。


   …ねぇ、杏子。


   うん?


   …やっぱり、なんでもない。


   ?
   さやか?


   …入ろ。


   おう。





   Last Chrsitmas、 I gave you my heart……。





   あ。


   ん?


   この歌が欲しいの。


   この歌?


   今、流れてるの。


   …洋楽?


   うん。


   へぇ、珍しいな。


   あたしだってたまには聞きます。


   クリスマスの歌だからかい?


   …。


   図星。


   …杏子と聴こうと思ったの。


   ああ、これか。
   でも


   最後のクリスマスって、なんか、ロマンティックじゃない?


   …は?


   ラストクリスマス。


   …。


   だから…ね。


   …ああ。


   あ、あのね、杏子…クリスマス、は…


   言いづらいんだけどな、さやか。


   …え。


   …。


   そんな…あたし、まだ何も言ってないのに…。


   これ、去年のクリスマスって意味だぞ。


   ……え?


   だから、最後のクリスマスじゃない。
   「last」は確かに「最後」って意味もあるけど、「去年の」って意味もあるんだ。
   学校で習わなかったのか?


   …え。
   えー…。


   その顔は…覚えてなかったな。


   ……。


   もっと、言うと。
   この歌、失恋した歌だぞ。


   …うそ。


   嘘じゃない。


   …と言うか杏子、意味分かるの?


   まぁ、これくらいなら。


   …。


   去年のクリスマス、僕は君に心を贈ったんだ。


   …。


   でも次の日、君はそれをあっさり捨ててしまった。


   …。


   だから今年は、涙を流さないでいいように、


   …。


   特別な誰かに、贈るつもりなんだ。


   …マジか。


   大体だけど、そんな感じだと思う。


   ……うぅ。


   さやか。


   …なんか、夢が壊れた。


   ……。


   あーー…。


   …余計なこと、言ったか?


   ううん…でも、ちょっと凹んだ。


   ……。


   あー、そっかー…失恋の歌、かー…。


   でも、前向きな歌だ。


   あーうん、そうね…。


   ……。


   ……。


   …ごめんな。


   …なんで?


   …。


   …そんな顔、しないでよ。
   あたしはもう、引き摺ってなんかないんだから。


   …でも。


   今はあんたがいるから。


   …。


   …あんたがいてくれるなら。
   あたしは大丈夫だから。
   ね。


   …さやか。


   分からなかったあたしが、悪いんだし…。


   …買うの、やめるか?


   ……。


   あたしは…。


   …杏子は、捨てないでくれるよね?


   捨てる…?


   …あたしの、心。


   当たり前だ。


   …絶対?


   絶対、だ。


   …そっか。
   へへ、良かった…。


   ……。


   …ね、一緒に聴く?


   さやかが、そうしたいなら。


   …もう。
   たまにはあんたがしたいこと、言ってよ。


   …。


   …いつも、あたしばかりでさ。


   さやかと一緒なら、あたしはそれでしあわせなんだ。


   …。


   だから…さやかがあたしと聴きたいと思ってくれてるなら、あたしもそうしたい。


   ……。


   …それじゃ、だめかい?


   もう…いっつも、ずるいんだから。








   ……。


   ……。


   …あんまり前向きじゃなかったな、これ。


   そうなの…?


   …未練たっぷりってわけでもねーけど。


   ふぅん…。


   …。


   …分かっちゃうのも、大変だねぇ。


   ま、大変ってほどでもないけどな…。


   …それ、あたしへの嫌味?


   なんでそうなる。


   …どうせ、あたしは英語がだめですよーだ。


   あたしだって文法とか、きちっとしたのは分からないんだけどなぁ。


   それでも聞き取りが出来るだけ、いいんです。


   …そんなもんかね。


   そんなもんです。


   …ふぅん。


   ……。


   …さやか?


   これ、失恋した歌なんだよね…。


   …ああ、そうだ。


   あたしが、思うに。


   …うん?


   恋で受けた傷は、恋で癒すのです。


   …魚のか?


   それ、わざと言ってるでしょ。


   ふ…。


   …。


   ……もう一度、聴くかい?


   その、笑い方。


   …ん?


   ……なんか、大人みたいでいや。


   ……。


   …もう、いいや。
   ね、何か飲む?


   さやか。


   …なに。


   言いかけたこと、あったろ。


   …。


   …CD屋に入る前にさ。


   ……。


   …さやか。


   ……忘れちゃったよ、もう。


   …。


   …大した事じゃ、なかったし。


   だったら、なんでそんな顔するんだ。


   ……。


   さやか。


   ……。


   …ちゃんと、聞く。
   だから。


   ……クリスマス。


   …。


   …あたし、杏子と過ごしたい。


   あたしと…。


   …だって。


   …。


   初めて、なんだもん…。


   …。


   …恋人(きょうこ)と、過ごしたい。
   ずっと、一緒にいたい…でも。


   ……。


   …。


   ……ばかだな、さやか。


   う……。


   …言ったろ。
   さやかがしたいこと、しようって。


   …だけど。


   さや


   だけどあんたがしたいって、あんたもしたいって思ってくれなきゃ意味ないの…!


   ……。


   …ないんだよ、杏子。


   ……。


   …。


   …したくないわけ、ないだろう。


   う…。


   一緒にいよう、さやか。


   …いいの?
   あたしと、いてくれるの…?


   いたい。


   …あ。


   なぁ、さやか。


   …なぁに。


   今度、家族に紹介するよ。


   …え?


   ちゃんと、紹介したいんだ。


   ……それ、って。


   と言っても、お墓参りになっちゃうんだけどな…。


   ……。


   …いや、かい?


   あ、あたし…。


   …うん。


   あたしなんかで、いいのかな…。


   …なんかって?


   ……。


   …さやかじゃなきゃ、だめなんだよ。


   ……。


   …答え、今すぐくれなくてもいい。
   でも、考えておいて欲しい…。


   ……。


   クリスマス、は。


   …杏子。


   大事な人と過ごそう。
   そう、お前と…。


   ……あ。


   さやか……。


   …ま、待って。
   何か、飲むって…。


   …後でいい。


   きょ、う…こ。


   ……さやか。


   …ぅ、……ふ、ぁ…。


   ……。


   …ま、って。


   ……待てない。


   おね、がい……。


   ……。


   …けし、て。


   ……。


   でん、き…おねが…い。


   ……おう。








   ジーザスラブズミー!


   ……。


   ディスアイノウ、フォーザバイブルテルズミーソゥ!


   …うん。
   杏子は歌が上手だね。


   えへへ。


   神さまも屹度、杏子の歌声を褒めて下さるだろう。


   かみさまがほめてくれるの?


   そうだよ。


   かみさまにも、きこえてるの?


   ああ、神さまにはどんな小さな声でも届く。
   だから、杏子の歌も神さまにはちゃんと聞こえているんだよ。


   そうなんだ!


   さぁ、もっと聞かせておくれ。


   うん!









   ……。


   …Jesus loves me。


   ……。


   This I know、For the Bible tells me so。


   ……。


   Little ones to Him belong、


   ……。


   …They are weak、but He is strong。


   ……。


   ……。


   ……。


   …あたしは。


   ……。


   ……何を、しているのだろう。


   ……。


   あたしは……。


   …ほんとうだよ。


   ……。


   …なに、やってるのよ。


   ……さやか。


   ……。


   ……。


   …いつから?


   …。


   …いつから、あたしをひとりにしてたの。


   ……。


   …ねぇ、きょうこ。


   ……。


   …あんたのぬくもり、のこってないよ。


   さやか…。


   ……ねぇ、きょうこ。


   ……。


   …ひとりに、なりたいの。


   ……。


   ……そんなはず、ないよね。
   きょうこは…あたしといっしょにいてくれるんだもんね…。


   …。


   …だから、あたし。
   たべられてもいいって、いっぱいたべられたいって、おもったんだもん…。


   ……さやか。


   クリスマス…。


   …。


   …やくそく、きょうこはやぶらない。
   ぜったい…やぶらない。


   …当たり前だ。


   う…。


   …独りになりたいわけじゃない。
   もう、なりたくない。


   ……。


   …ちょっと、頭を冷やしてただけだよ。


   ……なんで。


   聞きたいか…?


   …ん、…きょうこ。


   ……際限が無くなるから、だよ。


   さいげ…ん?


   …いっぱい食うとは言ったけど。
   流石に限度があるだろ…?


   …あ、ぅ。


   ……なぁ、さやか。


   ……。


   全然、食い足りないんだよ…もっともっとって、思ってしまうんだよ。


   …きょうこ。


   ……一度外れてしまった箍は、もう、元には戻らない。
   戻せない…。


   ……。


   ……だから。


   そんなもの、はずしたままでいい。


   …さやか。


   たべたりない、なら。


   ん…さやか。


   もっと、たべればいい。
   もっと、たべたいっていえばいい。
   がまんなんて、しなくていい。


   ……。


   …おなか、いっぱいにしてあげる。
   あたしが、かならず…。


   ……。


   …だから、もっとたべて。
   ほかのひとのことはたべないで。


   他の…?


   ……うわきは、いや。


   浮気…て。
   どこからそんな話が…。


   …きょうこはぜったい、もてるもん。


   は…?


   …あたしとちがって。


   わけが分からない…。


   ……とにかく、だめ。
   ぜったい、だめ…。


   …するわけ、ないだろう。


   う……。


   …どうして、欲しがるんだ。
   他なんて、要らない。


   …きょう、こ。


   ……。


   ……。


   …さやか、もっと。


   う、ん…。








   ……。


   じーざすらぶずみー。


   ……。


   でぃすあいのう、ふぉーざばいぶるてるずみーそぅ…。


   主、われを愛す。


   …へ。


   さやかさんが賛美歌を歌っているなんて。


   …ああ、仁美かぁ。


   どうしたんですの?
   心ここに在らずと言う様子でしたけど…。


   んー…。


   …何か悩み事でもあるようでしたら。


   悩み事ってほどでもないんだけどねー…。


   …。


   …うん、悩んでるわけじゃないんだ。


   そう、ですか…。


   ねぇ、仁美さ。


   はい。


   クリスマスに予定って、ある?


   クリスマスですか?


   そ、クリスマス。
   あいつとさ、どっか行ったりするのかなぁって。


   ……。


   …て、聞いちゃまずかったかな。


   いいえ。


   …。


   多分、何も無いと思います。


   ないの?


   はい。


   仁美はそれでいいの?


   ……。


   クリスマスなのに。
   少しくらい、さ。


   …正直な事を言えば。


   うん。


   …良くは、無いですわ。
   矢張り、お会いしたいですし…お話も、したいです。


   だよねぇ。
   レッスンだかなんだか知らないけどさぁ、もうちょっと彼女の事大事にしろってーの。


   ……。


   うん、何?


   …さやかさん、少し変わられましたね。


   そうかな。


   …はい。


   ま、いつまでも引き摺ってても仕方ないし?


   ……。


   …それに今は。


   綺麗になられた、と。


   …うん?


   恋を、しているのですね。


   …。


   …新しい恋を。


   ……まぁ、ね。


   ……。


   なんて言うかさ、今でもあいつの事は好きだよ。


   …はい。


   でも、それだけ。
   以前のような…苦しかったり、辛かったりすることがもうないの。


   ……。


   ねぇ、仁美さ。


   …。


   あたしで良かったら話、聞くからさ。


   …さやかさん。


   あいつはさ、女の子の気持ちが全っ然、分かってないからさ。
   大変だと思うんだ。


   …。


   だから、いつでも話してよ。
   で、あまりにも酷かったら…あいつの背中、引っ叩いてやるから。
   あたしの親友泣かしたら許さないぞってね。


   …ありがとう、ございます。


   なんの。


   さやかさん。


   んー?


   さやかさんも、何かあったら私に話して下さい。
   いつでも、聞きますから。


   …うん、ありがと。


   それで、さやかさん。


   ん?


   さやかさんこそ、クリスマスのご予定はあるんですの?


   …うん、あるよ。


   それは…。


   …約束、したんだ。


   ……。


   ずっと一緒にいるって…いてくれるって。


   …羨ましいですわ。


   でしょ?


   ねぇ、さやかさん。
   さやかさんの想い人ってどんな方ですの?


   さぁてねぇ。


   教えてくれませんの?


   うん、内緒。


   えぇ…。


   ふっふ。


   ずるいですわ、さやかさん!


   なんとでも言いたまえ~。


   むぅぅ。


   …まぁ、ね。


   …?


   いつかちゃんと、話すよ。


   …いつか、なんですの。


   うん。


   ……。


   ごめんね、仁美。
   でも、ちゃんと話すから。


   …必ず、ですから。


   ん。


   ……それで。


   ん?


   賛美歌なんて、誰の影響ですの?


   あー、まぁね。


   さやかさんは影響を受けやすいですから。


   あー…。


   ましてや、英語だなんて。


   何をぅ。
   あたしだってね、英語の一つや二つ…。


   絶対、好きな人の影響に間違いないですわ!
   だって、あのさやかさんが英語の歌なんて!


   …おい、こら。
   あのさやかさんってなんだよ。


   英語が堪能な方ですの?
   それとも?


   いや、だから…。


   ぜーーーったい、そうですわ!!!


   …あーー。








   佐倉さん。


   …。


   さ、く、ら、さ、ん。


   …何。


   何じゃないわ。
   折角の紅茶が冷めてしまうじゃないの。


   あー、うん。
   悪い。


   それから。
   私、これでも受験生なのよ。


   マミさんの頭なら、大抵は受かるさ。


   …簡単に言ってくれて。


   なぁ。


   何。


   …これ、何のお茶?


   出す前に、言った筈だけど。
   確認の意味も込めて。


   …ふぅん。


   全く。


   …。


   ケーキは?


   …食べるよ。


   そう。


   ……。


   はぁ。
   佐倉さん。


   …んー?


   お八つを貰いに来たわけじゃないのでしょう?


   …いや、お八つを食いに。


   ……。


   …マミさんのケーキはうまいよなぁ。


   心の籠ってない言葉、本当に有難う。


   …捻くれてね?


   貴女が心を籠めるのは一人だけでしょうし?


   …本当にうまいんだけど。


   ふぅん。


   …作り方、今度あいつに教えてやってよ。


   それは、良いけれど。
   で、あの子に作らせて、貴女はそれはもう美味しそうに頬張るわけね?


   …斜め上で捉えるの、止めた方がいいんじゃね。


   ……。


   ……。


   …それで。
   少しは考えてくれたの。


   …何を。


   編入。


   ……。


   佐倉さん、貴女さえ良ければ住所をここにおいて、


   前も言ったけど


   美樹さんとの未来を望むのならば。


   …。


   少しは先の事も考えないと、駄目よ。


   …今だけで精一杯なんですけど。


   それで?


   …。


   いつまでもふらふらしてるわけには、いかないでしょう。


   ……。


   佐倉さん、聞いているの。


   …お茶、飲んでるの。
   冷めたら小言、言われるから。


   あのねぇ…。


   ……。


   まさか、とは思うけど。
   独りに戻っても良いなんて、考えてないわよね。


   …なんで?


   或いは、独りになりたい。


   …わけが分からない。


   ……。


   あたしは…さやかとずっと一緒にいたいんだ。
   もう、独りになんてなりたくない。


   …それは、一生と言う意味?


   ……。


   だったら、尚の事。
   編入の事、ちゃんと考えなさい。


   …学校なんて


   どうやって生計を立てるの。


   ……。


   美樹さんだけに働かせて、貴女は何をするの。専業主婦?
   ああ、全く思い描けないわ。


   …と言うか、マミさん。


   何。


   話に全く、ついていけないんだけど。


   ……。


   ……。


   …はぁ。
   お茶、お代わりは?


   ん…もう、いいや。


   …そう。
   なら、さっさと美樹さんのところに行きなさい。


   うん。
   ごちそうさんな。


   ……。


   なぁ、マミさん。


   …何。


   独りに戻りたいわけじゃないんだ。


   …。


   でも、たまに……孤独じゃない方の、一人になりたいって。
   あたしは何してるんだろう…って。


   ……。


   …良く、分からなくなるんだ。


   ……。


   …なんにせよ。
   あたしはさやかから離れられない。
   一日でも逢えなかったら…頭、おかしくなるかもしれない。


   ……。


   …じゃ、またな。


   待って、佐倉さん。


   …うん?


   クリスマスの予定はある?


   クリスマス?


   そう、クリスマス。


   あるよ。


   それは美樹さんと?


   うん。


   なら、丁度良いわ。


   …うん?


   クリスマスパーティーをしましょう。


   …え?


   鹿目さんと暁美さんには言っておくから。


   言っておくって。
   あたしはさやかと二人で


   一日やるわけじゃないわよ。


   …いや、そういう問題じゃないだろう。








   …クリスマスパーティ、ねぇ。


   受験生って言ってるくせに、おかしいと思わないか?


   ま、受験生でも息抜きが必要なんじゃないの。


   息抜きねぇ。


   マミさんの頭なら、大抵のとこは受かりそうだけど。


   て、言ったら簡単に言うなってさ。


   …ふぅん。


   さやかも来年、受験生だな。


   うわ、イヤなコト言うな。


   大丈夫かい?


   ……。


   …お。


   クリスマス、パーティー。


   …。


   …どうしよう、か。


   あたしはさやかと二人でって言ったんだけどな…。


   …でも、断らなかったんでしょ。


   いや、あくまでもあたしはさやかと二人で過ごすつもりだよ。
   ただ。


   ……ただ、何。


   さやかが行きたいなら、話は別だ。


   ……。


   さやかはどうしたい?


   …ねぇ、杏子。


   うん?


   …さっきからさ。


   うん。


   …お腹むにむにしながら話すの、止めて。


   ……。


   …杏子。


   さやかのお腹ってさ。


   ……。


   柔らかくて、気持ちいいんだよな。
   だから、つい。


   肉ついてるって言いたいの。


   いや。
   ただ、触り心地がいいってだけだ。


   言ってるようなもんじゃない。


   …。


   …どうせ、あたしは無駄な肉が多いですよ。
   杏子はいいよねー、無駄な肉がなくてさー。


   これくらいが好きだよ。


   …は?


   あたしは。


   …これくらいって。


   腹だけじゃない。
   さやかの躰はどこをとっても、気持ちがいいんだ。


   ……。


   …無駄な肉なんか、ないさ。


   ……それでフォローのつもり?


   フォロー?
   あたしは思ってることを言っただけだよ。


   あ、ぅ……。


   …本当に、気持ちがいいんだ。


   ……。


   …なぁ、さやか。
   腹、また減ってきたよ…。


   ……。


   …食って、いいかい?


   おなか、むにむにしないで…。


   …じゃあ、かみつきたい。


   ざんねん…このたいせいじゃ、できません…。


   ……。


   あ、きょうこ…。


   …腹とは、言ってない。


   ……。


   …さやか。
   そろそろ…


   …きょ、う。


   なんだい…?


   …むかえ、おそかった。


   ……。


   こないか、と…


   …そんなわけ、ない。


   ……いないと、しんぱいになるの。


   今日は委員会だって、言ってただろ…。


   …だから、マミさんち。


   ……やきもち、か?


   うるさい、ばか…。


   …ん。


   ……ちゃんと、まっててくれなきゃいや。


   分かったよ…さやか。


   ……。


   ……さやか。


   パー…ティ…。


   ……。


   ……い、く。


   …さやかが、そう言うなら。


   でも…。


   ……。


   …よるは、ふたりだけ、だから。


   おう…。








   Dream in your heart、I feel asleep night。


   …。


   But there is only stars。


   ……。


   Like tears of the moon、Like silent moon…。


   おかあさん。


   …うん?


   えへへ。


   なぁに、杏子。


   あたしね、おかあさんのおうた、すきだよ。


   まぁ。
   ありがとう、杏子。


   あのね、あのね。


   なぁに。


   かみさま、きいてるんだって。
   おとうさん、いってた。


   ああ。


   かみさまもきっと、おかあさんのおうた、すきだよ。
   だいすきだよ。


   そうだったら、嬉しいな。


   そうだよ!


   ふふ。


   ねぇねぇ、もっとうたって。


   …。


   おかあさん。


   ね、杏子。


   なに?


   この歌ね、本当は二人で歌うのよ。


   …ふたり?


   そう、二人。
   二人で、掛け合いをするように歌うの。


   ふぅん。


   ね、杏子。
   天使には羽があるでしょう?


   …?
   うん。


   でも人間にもあるのよ。
   そう、見えない羽が。


   そうなの?


   でも、片羽だけなの。


   かたはね…。


   だから、一人では飛べない。
   人間はね、一人では飛ぶ事が出来ないの。


   ……。


   お母さんが飛ぶにはお父さんが必要だったように。
   杏子もいつか屹度、そういう人を見つけるでしょう。
   そして、その人と生きていけたら…それはとても、幸せな事なのよ。


   …。


   この歌も同じなの。
   二人で歌って初めて、一つの歌になるのよ。
   だからね、杏子…。









   ……Love in your eyes、I feel in clear sky。


   ……。


   But there is only winds。


   ……。


   Like sighs of the earth、Like weeping earth…。


   …ねぇ。


   うん…?


   …それも、さんびかなの?


   いや、これは違う…。


   ふぅん…そっか。


   ……。


   …あたしね、えいきょうをうけやすいんだって。


   どういうことだい…?


   ……。


   さやか…?


   …もう、ばか。


   ……。


   …ああもう、むにむにできるにくがない。
   むかつく…。


   …くすぐったいよ、さやか。


   ……。


   ……。


   ……あたし、ね。


   ん…。


   ……あんたのうた、すき。


   …。


   …えいごばっかりなのが、ちょっとしゃくだけど。


   それしか、しらないんだ…。


   …しってるよ。
   ただ、いいたかっただけ…。


   ……。


   …おとうさんと、おかあさんのえいきょう、なんでしょ?


   ああ…そうだよ。


   ……。


   ……。


   …あたし、ばっかり。


   …?
   さやか…?


   …あたしは、きょうこのえいきょう、うけてるのに。
   きょうこは、あたしのえいきょう、うけてないんだもん…。


   …そんなこと、ないさ。


   あるの…。


   …さやか。


   きょうね…きょうこがうたってるうた、くちずさんでたら。


   …うん。


   あのさやかさんがって、いわれたんだよ…。


   …そのくちぶりは、あのおじょうか。


   そんなに、へんかな…。
   あたしがさんびか、うたってたら…。


   …へんじゃないさ。
   ただ…。


   …ただ?


   おぼえていたのには、ちょっとおどろいたけどな…?


   …なによぅ。
   あたしだってね…。


   …ん、わるかった。


   やだ、ゆるさない…。


   ん…さやか。


   ……ねぇ。


   …なんだい?


   あたし、ね……。


   …うん。


   きれい、に、なった…って。


   …。


   あたらしい、こい…してるから…って。


   ……。


   ……。


   ……。


   …だまらない、で。


   さやか。


   あ…。


   …さやかはずっと、きれいだよ。


   え……。


   であったころから…ずっと、きれいなままだよ。


   きょ、きょうこ…。


   …かおも、からだも。


   ん…、ん…。


   ……なにより、こころが。


   そ、んなこと…。


   …きれいだよ、さやか。


   ……じゃ、ない、のに。


   ……。


   きたない、こと…いっぱい、おもった…のに。


   …そう、おもえることが。


   ね…もぅ……。


   …きれいなんだ、さやか。


   ……ふ、…。


   ……。


   …まだ、たべたりないの。


   たりないって、いったら…?


   ……。


   ……さやか。


   クリスマス…。


   …。


   ……よるはふたり、だから。


   ああ、もちろんだ…。


   …きれいなイルミネーション、みたい。
   いっしょに、みたい…。


   わかった…いこう。


   …それから。


   あさまで、いっしょだ…そうだろう?


   ……さきに、いわないで。
   ばか……。


   …さやか。








   …ラブ、ウィル、グロウ。


   え?


   ……。


   さやかちゃん、何か言った?


   …いーや、何も。


   そ、そう?


   …うん。


   さやかちゃん、眠いの?


   んー…ちょっちねぇ。
   午前中はほんと、やばかったわぁ…。


   …と言うより、寝てたよね。
   ほとんど…。


   ん、なに…?


   え、と…昨日、あまり寝てないの?


   んー……。


   ……。


   あーだめだぁ、ねむいー…。
   午後、だるいー…。


   …。


   …さぼっちゃおうかなぁ、いっそ。
   それで…。


   きょ、杏子ちゃんと…その。


   …うん?


   ……一緒、だったんだよね。


   うん……。


   …泊まったの?


   ううん……。


   そ、そっか。


   あたしは、泊まりたかったんだけどねぇ…。
   特に昨日は、遅くなっちゃったから…。


   ……。


   …一緒にいられるのは、あたしの親がいない時だけ、で。
   そん時だってあいつ、遠慮しやがってさ…。


   …。


   …いつもさ、どんなに遅くなっても、送ってくれるんだ。
   女の子が夜、一人歩きしたらだめとか言ってさ…。
   だったら、泊めてくれればいいのにさ…。


   …さやかちゃん。


   と言うか杏子だって、女の子にさぁ…。
   棚に上げちゃってさ…。


   …杏子ちゃんは、さやかちゃんが好きだから。


   あたしだって、好きだよぅ…大好きだよぅ。


   う、うん…。


   あたしは…ずっと一緒にいたいのに。
   朝まで、いたいのになぁ…。


   ……。


   あーもう、聞いてよ…まどかぁ。


   え、な、なに…。


   あいつったらさ…。
   昨日はなかなか、おなかいっぱいになってくれなくてさ…。


   …おなか、いっぱい?


   それは…まぁ、べつにいいんだけどさぁ。


   い、いいんだ…。


   うん、いいの…それだけ、一緒にいられるから。


   ……。


   …?
   まどか…?


   …あ、あのね。


   ん…。


   ……首の、うしろ。


   首…?


   ……あかくなってる、の。


   ……。


   め、目立ってるわけじゃないんだけど…その、俯いた時にちょっと見えて。


   ……。


   だから、その…男の子たちが、ずっと言ってて。


   ……あぁ。


   ……。


   しょーがないなぁ…。


   …杏子ちゃんの、だよね。


   ……でも、そっか。


   さやかちゃん…?


   …ふふ。


   …?


   …今夜、怒ってやろ。


   ……。


   ふふ、ふふ…。


   ……あ。


   まどか、あたしね…。


   う、うん…。


   …あたし、杏子のなんだ。


   ……。


   あたし、杏……ふぁぁぁぁ。


   …。


   まどかぁ、ねむい…。


   …ちゃんと寝ないとだめだよ、さやかちゃん。


   うん……。


   …杏子ちゃんも。


   ん…言っとく。
   でも食い意地、張ってるからなぁ…あいつ…。


   …。


   …じゃないと、困るけど。


   ……。


   …あいたいな。
   はやく、きょうこにあいたいな…。


   杏子ちゃんのこと、大好きなんだね。


   …うん、大好き。
   ほんと、大好き…。


   ……。


   …クリスマス。


   …。


   朝までずっと一緒にいるって、約束、したんだ…。


   …良かったね、さやかちゃん。


   でも、その前に。


   …わ。


   マミさんちでクリスマスパーティー、なんだけどね…?
   まどかとほむらも来るんでしょ…?


   あ、う、うん…。


   マミさんのケーキ、楽しみだなぁ…。
   ねぇ、まどか…?


   …そう、だね。


   んー……。


   ……あ。


   …ごご、やっぱさぼるぅ。


   こんなとこで寝たら風邪ひいちゃうよ、さやかちゃん…。








   佐倉杏子。


   …よぉ、ほむら。


   これ、持って帰って。


   …人の恋人、これって言うなよ。
   あんただってまどかの事、これって言われたらいい気はしないだろうに。


   ……。


   殺気、放つなよ。
   あたしはあくまでも例えを言っただけだ。


   …今日一日、ほとんど寝てたわ。


   まどかにはすまなかったって、言っておいてくれ。


   本当だわ。


   …あんたも、悪かったな。
   手間、かけさせた。


   杏子。


   …うん?


   程ほどにしなさい。


   ……。


   抑えてるつもりなのでしょうけど。


   …覚えておくよ。


   ……。


   …さて。
   帰るか、さやか。
   て、起きそうにないな、これは。


   …地に足がついてない。


   うん?


   美樹さやか。


   …。


   …初めて実った恋とは言え。


   ……。


   ……。


   …なんだかな。


   …。


   どうしようもなくなっちゃうんだよ。
   そう、どうしようもなく。


   ……。


   …あんたなら、分かると思うんだけどな。


   それにしたって、今の美樹さやかは酷すぎる。


   と言うかさ、あんたはさやかに厳しすぎる。
   なんでそこまで…そう、目の敵にする必要がある?


   …。


   まぁ、あんたの感情だ。
   あんたがさやかをどう思っていようが、あたしがとやかく言うべき事じゃない。
   でもな、ほむら。


   …。


   …好きな人を悪く言われて良く思える奴は、世の中、いねぇよ。


   ……。


   なぁ、ほむら。


   …目の敵にしているつもりはないわ。


   そうかい。


   ただ、目に余るものがあるだけ。


   …。


   …特にさやかの浮かれぶりは。


   そんなに浮かれてるかな。


   言ったでしょう?
   地に足がついてない、と。


   …。


   まどかに惚気るのは本当に、止めて欲しいわ。


   …気に入らないのは、そこか。


   ……。


   どうしようもない、な。


   …私はここまで酷くない。


   どうだか。
   所詮、自分の姿は自分には見えないもんだ。


   …。


   じゃあな、ほむら。
   悪かったな。


   …ねぇ、杏子。


   ん?


   本当に好きなのね。
   美樹さやかの事が。


   …ああ、好きだよ。


   …。


   惚れたもん負け、とは、良く言ったもんだよな。


   ……。


   そんな渋い顔すんなよ。


   呆れているだけよ。


   あんたには言われたくないけどな。


   …。


   クリスマスパーティー。


   …。


   あんたも来るんだろう?
   まどかと一緒に。


   …。


   折角のパーティーなんだ。
   そんな顔してるなよ?


   …貴女はどうなのかしら、佐倉杏子。


   さやかが楽しいなら、あたしも楽しいさ。
   あんたは違うのかい、暁美ほむら。


   …二人で過ごすつもりだったのでしょう。


   過ごすよ。
   パーティーが終われば、時間は二人だけのものだ。


   …。


   誰にも邪魔はさせないさ。


   …。


   しかし。
   さやか、本当に起きないな。








   ……。


   …And on and on。


   ……


   So the sad will fall and fall…。


   ……ぅ。


   But I think all the dream…。


   ……。


   Is true anyday、For anyone…。


   ……きょうこ、だぁ。


   起きたかい、お姫さま。


   へへ…。


   ……。


   …でも、なんで?


   迎えに行くって、約束したろう?


   …そう、だけど。
   そう、じゃなくて。


   迎えに来いって、さ。


   …?


   ほむらから。


   …あたし、まどかといたと思ったんだけど。


   そのまどかに保健室へ連れて行って貰った事は?


   …ああ、行ったかも。
   や、もう、眠くてさぁ…。


   だからって、屋上で寝ていたら確実に風邪ひいてたぞ。


   …そしたら、杏子に看病してもらう。


   してやるけど。
   でも、ひくなよ。


   …キス、出来ないから?


   …。


   …エッチも。


   そうだ。
   だから、ひくな。


   ……。


   はは。


   …杏子はあたしの躰だけが目当てなの?


   ……。


   ね…そうなの?


   そうだったら、毎日迎えに行ったり、毎夜一緒にいたいなんて思わなかったかもしれないのにな。


   …。


   …。


   ……ばぁか。


   さやか。


   …ね、今日は帰りたくない。


   ……。


   …朝まで、一緒にいたい。


   一昨日、一緒にいたろ。


   …今日も。


   学校は?


   …休む。


   ……。


   …昨日みたいに、がっついて。
   いっぱい、食べて。


   …。


   …あたし、杏子といたい。
   ずっと一緒にいたい…。


   ……。


   …杏子だっていたいって、言ってくれたじゃない。


   さやか。


   …帰れなんて、言わないで。


   ……。


   ねぇ…言わないで。








   ……。


   …だめ。


   ……。


   …ねてるとおもった?
   ざんねん、さやかちゃんはおきてました…。


   …。


   …ここに、いて。


   どこにも行かない。


   …。


   …さやか。


   それでも、だめ…。


   ……。


   …たしかに、どこにもいかない。
   でも、あたしをベッドにおきざりにする…。


   …置き去りだなんて、大袈裟だよ。


   おおげさじゃ、ない…。


   …。


   …てのとどくところに、いて。
   いて、ほしいの…。


   ……。


   …きょうこ。


   ……。


   きょうこ…。


   …学校、本当にいいのか。


   …。


   確か、テストが近いだろう…?


   …そんなの、どうでもいい。
   あたしにとってだいじなのは、きょうこだけだから。


   …。


   …がっこう、やめちゃおうかな。
   そしたら、きょうこといちにちじゅう、いっしょにいられる。
   あたし、きょうことずっといっしょにいるの。


   …それも、いいな。


   ほんとう…?!


   …でも、駄目だよ。


   ……なんでよ。


   なんでもだよ、さやか…。


   ん…。


   中学、卒業して。
   高校に、行って。
   大学は…さやかの頭じゃ行けるかどうか分からないけど。


   …。


   …行けるわよって、言うところだぞ?


   ……。


   さやか。


   …ねぇ、きょうこ。


   なんだい…?


   …きょうこにとって、あたしがはじめてのひとなんだよね。


   うん…?


   …こいびと。


   ああ、そうだよ…さやかが初めての人だ。


   じゃあ。


   …ん。


   はつこい、は?


   …初恋?


   だれ…?
   あたしじゃ、ないでしょ…?


   …さやかだよ。


   うそ。


   …。


   …そんなの、うそ。


   ……ごめんな。


   ……。


   初恋、か、どうか分からないけれど。
   あたしは、父さんが好きだった。


   …。


   だから、さやかでいいんだよ。


   …よくない。


   なんでだい…?


   …なんでも。


   ……。


   ……。


   …さやか、好きだ。
   あたしと一緒に生きて欲しい。


   …え。


   あたしの、最初で最後の告白だ。


   …。


   …覚えてるかい?


   わすれるわけ…。


   …。


   …わすれられるわけ、ない。


   そうか…。


   …あたし、あんなまっすぐなめでみつめられたの、うまれてはじめてだった。


   …。


   …きょうすけは、ただのいちども、そんなめでみてくれたことなかった。
   あたしはしょせん、ただのおさななじみだった…。


   ……。


   …あのときの、きょうこのめ。
   あたしたぶん、いっしょうわすれない…わすれることなんか、できない。


   …。


   あたしのこと、ほんとうにすきなんだって…ほんとうに、あいしてくれてるんだって。


   …。


   …だから。


   この手を、取ってくれた。
   嬉しかったよ。


   …。


   …本当に、嬉しかった。


   だったら。


   …。


   …あたしを、はなさないで。
   ひとりに、しないで。


   …しない。


   …。


   …しないよ、さやか。


   きょうこ…きょうこ…。


   ……。


   ……。


   …。


   …ね、ぇ。


   ……。


   ……おなか、いっぱいに


   さやか。


   ん…きょうこ。


   …ごめん。


   え…。


   …独りには、しない。
   それは誓う。


   …なに。
   なんなの…。


   ……。


   きょう、こ…。


   …お前といると、自分が魔法少女だって事を忘れてしまう。
   いや、実際に忘れてたんだ。


   あ…。


   …お前を迎えに行って。
   お前を毎日のように抱いて…。


   きょ、きょうこ…。


   …あんたと生きる為に。
   あたしは、戦わないといけない。


   ……ッ。


   …だから。


   ……いや。


   …。


   いやだ。


   …さやか。


   いや…いや…。


   …。


   …どうして、おもだすの。
   どうして、おもいださせるの…。


   ……。


   …まほうしょうじょ、なんて。


   なぁ、さやか…。


   …。


   …学校への迎えは必ず行くよ、さやか。
   それが今のあたしにとっての、掛け替えの無い日常の一つだから。


   …う…あ……。


   ……そんな日常をくれたお前が、愛しいから。


   …あぁぁ…ぁ……。


   ……クリスマス。


   ……。


   必ず、二人で。


   ……きょぅ、こ。








   中編