……。


   …さやか。


   ……なんで、かな。


   …。


   …なんであたし、魔法少女なんかになっちゃったのかな。


   ……。


   …分かってるよ。
   あたしはただ、恭介の腕を治したかった…ただ、それだけだったのに。


   ……。


   …結局、あたしは。
   どう、したかったのか……どう、して欲しかったのか…。


   ……。


   …ううん、本当は分かってたの。


   ……。


   …全部、自分の為だった。


   ……。


   ありがとうって、好きだよって…言って欲しかったの。
   他の誰かなんか見ないで…あたしだけを、見ていて欲しかったの…。


   …。


   …ただ、愛されたかったの。
   ただ、ただ…。


   ……。


   ……あたしって、本当ばか。


   …人間なんてものは。


   …。


   そう、出来てるんだよ。
   そう、創られてるんだよ。


   ……。


   …見返りを求めない人間なんか、屹度、いないんだ。


   …。


   さやか。


   ……あたし。


   …。


   …これからどうしたらいいのか、分からない。
   分からなくなっちゃったよ…杏子。


   …だったら。


   恭介は仁美に取られちゃった…。
   あたしの全てだったのに…。


   …。


   …こんな力、もういらない。


   だめだ、さやか。
   そんな事を


   こんな力、もう…いらない!


   さやか。


   …だって。
   だって…!


   さやか、


   こんな力があったところで、あたしはぁぁ…!


   …!
   止めろ…!!


   どうせ、誰も救えない!誰も、あたしを必要としてくれない!!


   さやか…!


   誰も、あたしなんか愛してくれない…!!


   さやか…!!


   もう、いらない…!
   何も、いらない…!!


   さや


   ああぁぁぁぁぁぁぁぁ…ッ!!!


   さやかぁぁ!!


   ……あ、あぁぁ。


   ……お願いだ、さやか。


   どうして、止めるの……。


   ……お願い、だから。


   どうして、どうしてよ……。


   ……。


   ……あたし、なんか。


   …。


   …も、う。


   なぁ、さやか…。


   ……。


   …こんなに傷を作って、こんなに血を流して。
   痛かったよな…辛かったよな…。


   …痛み、なんか。


   ……。


   いたみ、なんか…。


   …たとえ、躰は痛みを感じなくても。


   ……。


   傷は確かに、ここにあるんだ。
   この中にあるんだ。


   ……。


   ……さやか。


   ……。


   …あたしは、あんたを必要としているよ。


   …やめてよ。


   必要なんだ。
   他の誰でもない、あんたが。


   …やめて。


   止めない。


   …どうしてよ。


   一緒に、生きよう。


   …。


   さやか。


   …なに、いってるの。


   好きだ、さやか。


   ……なに、を。


   一緒に生きよう。
   これからの人生を、あたしと。


   ……。


   あんたがあたしの隣にいてくれさえすれば、あたしはどんな人生でも構わない。
   だから。


   …。


   …あたしと、生きて。


   ……あ、ぁ。


   ……。


   ……あた、し。


   うん…。


   ……あたし、は。


   ……。


   …あ、ぁぁ。


   ……。


   ……うあぁぁぁぁぁ、ん。









   ……。


   …杏子ちゃん。


   ……よぉ、まどか。


   …。


   …今日も、か。


   ……うん。


   そう、か…。


   ……。


   …これで何日目だっけ。


   ……。


   さやか、怒ってるんだな…。


   ……。


   …あたしのことなんか、もう。


   !
   杏子ちゃ


   ごめんな、まどか。


   え…?


   …気、遣わせちまって。


   そんなこと…。


   ……。


   杏子ちゃん…。


   …明日、また来るよ。


   待って、杏子ちゃん。


   …。


   その、よかったら一緒に帰らない…?


   …。


   さ、さやかちゃんの代わりとかじゃないの。


   …分かってるよ。


   ……。


   …ほむら、怒ってるだろうなぁ。


   ほむらちゃんが…?


   …帰ろうか、まどか。


   う、うん。


   ……。


   ……。


   ……。


   …あ、あのね。


   うん…?


   …さやかちゃん、ね。


   うん…。


   いつも、杏子ちゃんのこと話してたの。


   …。


   …休み時間も、お昼時間も。
   気付けば、杏子ちゃんの話ばかりで…。


   ……。


   …杏子ちゃんの話をしてる時、さやかちゃんは本当にしあわせそうで。
   本当に杏子ちゃんのことが好きなんだなぁって。


   ……。


   だから…ありがとう、杏子ちゃん。


   …まどか?


   さやかちゃんは明るくて、優しくて、面白くて、楽しくて。


   ……。


   それから…とても繊細で、不器用で。


   …うん。


   本当は傷付いているのに、それを見せないで。
   いつだって、無理に笑って。明るく、振る舞って。
   淋しいのに、悲しいのに、そんなのを全部、自分の中にしまいこんで。


   ……。


   …さやかちゃんはただ、杏子ちゃんと一緒にいたいだけなの。


   ……うん。


   今だって本当は…


   まどか。


   ……。


   …あたしさ、さやかがいないと駄目なんだ。


   …。


   駄目、なんだ…。


   …ごめんなさい。


   どうしてまどかが謝るんだ…?


   …わたし、何も出来ない。


   本当に、出来ないと言うのなら。


   …。


   …今、泣きそうな顔で心配してくれるまどかはここにいない筈さ。


   ……。


   ありがとう…まどか。
   あんたがさやかの友達でよかった。


   …。


   …まどかのうち、どっちだっけ。
   家まで送るよ。


   …ううん、途中まででいいよ。
   ありがとう、杏子ちゃん。


   ……。


   今夜も行くの…?


   …ああ、行くよ。


   ねぇ、杏子ちゃん。


   …なんだい。


   さやかちゃんのこと…。


   …。


   …好き?


   ああ、好きだ。


   …。


   …大好きだ。
   誰よりも…さやかが。


   そっか…。


   …なぁ、まどか。


   …。


   ……さやかに、逢いたいよ。


   …さやかちゃん。


   ……。


   杏子ちゃんが迎えに来るの、いつもいつも、嬉しそうに待ってた。
   杏子ちゃんが来る方を見て、まだかなまだかなって。
   少しでも遅いと、心配して…今日は来ないのかなって、小さい声で言って。


   ……。


   …行って、あげて。


   ……。


   …さやかちゃん、きっと待ってると思うから。


   でも…。


   待ってるから。


   ……。


   …少しの時間だって、いいんだよ。


   まどか…。


   …逢いたいなら、逢いに行かなきゃだめだよ。


   ……そうか。
   そうだな…。


   うん…そうだよ。


   ……。


   …じゃあ、ここで。
   ありがとう、杏子ちゃん。
   杏子ちゃんと帰れて、嬉しかった。


   …そう言ってもらえると、あたしも嬉しいかな。


   あのね。


   …おう。


   また、ね。


   …おう、またな。


   さやかちゃんのこと…よろしくね。








   ……。


   ……。


   ……。


   ……ねぇ。


   …。


   …まだ、起きてるの。


   ……うん。


   眠れないの…?


   …ちょっと、な。


   ちょっと…なに。


   …落ち着かない。


   ……。


   …さやかの部屋で、さやかのベッドで。


   …。


   …少し手を動かせば触れられる距離に、さやかがいる。


   ……だから、落ち着かない?


   うん…。


   …それって、別々に寝たいってことなの。


   いや…。


   …。


   …一緒で、いい。
   一緒が、いい。


   …でも、落ち着かないんでしょ。


   ……。


   …杏子。


   ……。


   ……。


   …眠れなくても、いいんだ。


   ……どうしてよ。


   ずっと、さやかを感じていられるから。


   …。


   …眠ってしまったら、朝になってしまうだろう?


   そんなの、当たり前でしょ…。


   …だから、いいんだ。


   ……わけが分からないわよ。


   さやか…。


   …。


   …さやかは、あったかいな。


   ……。


   …あんたが隣にいるだけで。
   こんなにも、あったかい…。


   …ねぇ。


   ん…?


   …寝る気、ないなら。
   あたしが寝るまで、お喋りに付き合って欲しいんだけど。


   …。


   …いやなの。


   いや…いいよ。
   話そう、さやか。


   ……。


   ……。


   …あんたって、さ。


   うん…。


   …マミさんと、どんな関係なの。


   マミさんと…?


   …。


   マミさんは…簡単に言えば先輩だよ。
   魔法少女の。


   …。


   沢山、教えてもらった。
   戦い方も、魔力の制御の仕方もマミさんに教わった。


   …。


   …マミさんがいなかったら。
   あたしは未熟なままだったかもしれない。
   或いは、とっくに死んでいたかもしれない。


   …でも。
   あんたは自分の為に力を使ってた。
   マミさんとは違う。


   …ああ、そうだよ。


   ……。


   そうしなければ、生きてこられなかった。
   そうしなければ、死んでた。


   …。


   …自業自得、そう思い込まなければ。


   ……そうやって、生きて。


   …。


   意味なんて、あるの。
   ただ、自分勝手に生きて。


   …意味なんてものは。


   …。


   生きているからこそ、ついてくるものなんだ。


   …。


   …生きているからこそ、言える事柄なんだ。


   ……。


   …死んでしまったら、何も成さない。
   ましてや、あたし達は。


   ……。


   ……。


   …それだけ?


   …?
   それだけ…?


   …マミさんとあんたの関係。
   本当に先輩後輩ってだけ?


   …。


   …どうなの。


   ……。


   …。


   …姉さん。


   …。


   そう、思ってた。


   …今は違うの?


   多分、違わない。


   …何よ、多分って。


   ん…。


   …本当は好きなんでしょ。
   マミさんのこと。


   …さやか。


   ねぇ…本当は、あたしよりも。


   …。


   …じゃなきゃ、おかしいもん。
   あたしなんか、好きになるはずないもん…。


   さやか。


   …あたし、なんか。


   あたしが好きなのは、さやかだよ。


   …。


   …マミさんの事は、嫌いじゃない。
   どちらかと言えば、好きだと思うけど…。


   ほら、やっぱり。


   でも、さやか。


   …。


   あたしが一緒に生きたいって思ってるのは、さやかなんだ。


   …なんで、よ。


   さやかが、好きなんだ。


   ……どうして、あたしなんか。


   さやか…。


   あ…。


   ……。


   …や、だ。


   ……好きなんだ、さやか。


   やだ…やだ……。


   ……。


   うぅぅぅ…。


   ……さやか。


   ねぇ…どうして、あたしなんか好きなの…好きになってくれたの。
   あたし、杏子にふさわしくないのに…。


   …相応しい?


   そうだよ…。


   …だったら。
   あたしこそ、さやかに相応しくない。


   ……。


   …自分勝手に生きてきた。
   力を使って盗みだってした。人が殺されるのを分かっていて、目を逸らしてきた。
   何度も何度も。


   …。


   …あたしこそ、さやかに好きになって貰える筈なんてないんだ。
   さやかの傍にいていい存在じゃ、ないんだ。


   ……。


   …それでも。
   あたしは、さやかと生きたい…ずっと、生きていきたい。


   ……ばか。


   …。


   あんたも、ほんとばか…。


   …ああ。


   ……。


   …?
   さやか…?


   …ねぇ、だったらあたしに教えてよ。


   教える…?


   …あんたがどれくらい、あたしのこと好きか。


   ……。


   言葉だけじゃなくて……行動で、教えてよ。


   さ、さやか…。


   ……ばかなあたしに、教えて。


   ……。


   ……。


   …さやか。


   どうしたの…教えてくれないの。


   ……。


   ほら…やっぱり、口だけなんだね…。
   そうだよね…知ってたよ。


   ……。


   …あたしが欲しいのはね、杏子。
   こういう「好き」なんだよ…。


   ……。


   …ねぇ、慰めてよ。
   乱暴にしてもいいから…あたしのこと、抱いてよ。


   ……。


   …あたしのこと、好きなんでしょ?
   だったら…欲しがってみせてよ。


   ……。


   証をあたしに…ねぇ、杏子…。


   ……。


   …本当に、あたしのこと好きなら。
   あたしを、貰ってよ…。


   ……さやか。


   ねぇ、あたしをあげる……好きなだけ、あげるから。
   だから…。


   ……。


   …あたしだけを、見て。
   あたしだけを、必要として。
   あたしだけを、愛して。


   ……。


   …他の人のところになんか、行かないで。


   さやか。


   ……あたしだけのものに、なって。


   …。


   …なってよ、杏子。
   なって…なって…なって……。


   …ああ。


   う…。


   …いいよ、さやか。


   ……。


   あたしは、あんたのものだ…。


   …う、そ。


   そう、誓う。
   今、ここで。


   …きょうこ。


   その証を…お前に、刻もう。


   ぁ……。


   …好きだよ、さやか。


   あ、ぁ……、ぁ…ッ。


   ……。


   きょ、ぅ…。









   ……。


   …さやかちゃん。


   ……。


   …多分、杏子ちゃんは分かってると思う。


   ……。


   学校休んでるなんて…全部、嘘だって。


   ……。


   …さやかちゃんに逢いたいって。
   杏子ちゃん、さやかちゃんに逢いたいって…。


   …でも!


   ……。


   …あの日から一度も、来てくれない。


   そんなこと、ない。
   毎日、さやかちゃんのこと迎えに…。


   あたしは…!


   …。


   …杏子に、そばにいて欲しいの。
   夜…隣で、眠って欲しいの。


   …さやかちゃん。


   ……だから、躰だってあげたの。


   ……。


   …でも、杏子は魔法少女だから。


   ……。


   分かってる…分かってるんだよ。
   魔法少女は戦わなきゃいけない、戦い続けなければいけないってことくらい。
   だって、あたしだって。


   ……。


   …杏子、言ったの。
   あたしと生きる為に戦うって…。


   ……。


   ……まどか、あたし駄目だ。


   さやかちゃん…。


   …分かってるのに、そばにいて欲しいって思っちゃう。
   戦わないで欲しいって、思っちゃう…。


   ……。


   あたし…、杏子がそばにいてくれないと…駄目なの…。


   ……。


   まど、か…。


   …杏子ちゃんも同じこと、言ってた。


   ……。


   …今夜きっと、杏子ちゃんはさやかちゃんのところに来てくれると思う。


   ……ほん、と。


   …。


   …杏子、来てくれるかな。
   こんなあたしのこと、愛想尽かせてないかな…。


   …そんなこと、絶対ない。


   けど…。


   …さやかちゃんに逢いたいって。
   泣きそうな顔して言ってた…言ってたよ、さやかちゃん。


   …あ、ぁ。


   ……。


   …杏子。
   ごめんね、杏子…。








   …らぶうぃるぐろう?


   そう。


   それ、なに?


   愛は育てていくもの。
   育んでいくもの。


   …。


   最初から完全なものなんて、此の世には無いの。
   特に愛は。


   …。


   愛は幾らでもその形を変える。
   時に人を傷付け、時に人を悲しませる事だってあるでしょう。


   …よくないものなの?


   いいえ。


   …。


   人は愛が無ければ、生きられないから。


   ……。


   愛は、育っていくもの。
   でも、一人では育てられないもの。


   …。


   ねぇ、杏子。


   …わ。


   いつか、貴女に愛する人が出来て。
   その人とずっと、愛を育んでいけたら。


   ……。


   …お父さんは少し、寂しい思いをするかも知れないけれど。
   でもお父さんだって、私を私のお父さんから連れて行ってしまったのだから…。


   …かあさん?


   ふふ、ちょっと思い出してしまって。


   なにを?


   内緒。


   えーー!?


   ふふ。


   むぅぅぅ。


   …愛は、成長し続けるもの。
   そう…ずっと、ずっと。


   ……。


   Love will grow。


   らぶ、うぃる、ぐろう。


   …そう。
   私の大好きな言葉…。









   ……。


   ……。


   ……Love will grow。


   ……。


   …銃口、頭に押し付けるなよ。


   これくらいで怯む貴女ではないでしょう。


   …あ、そ。


   貴女達の恋愛事情にまどかを巻き込むのは止めて。


   …まどかはさやかの友達だ。
   話くらいするだろうし、相談にだって乗るだろう。


   ……。


   …嫌な感触だな、これ。


   ……どうして美樹さやかのところに行かないの。


   迎えには行ってるよ。
   逢えないだけだ。


   そうじゃない。


   …。


   …佐倉杏子。


   グリーフシード。


   …。


   …魔法少女なんだ、あたし達は。


   戦いが終わってからでも…。


   …。


   …馬鹿ね、貴女。


   知ってるよ。


   ……美樹さやかが居なければ、駄目なのでしょう?


   …。


   …だったら。


   くだらない事さ。


   …。


   …一人になる時間が欲しかった。
   ただ、それだけさ。


   …昼間は一人でしょう、貴女。


   そう、なんだけど。


   …。


   …さやかとはずっと一緒にいたい。
   その想いは変わらないし、寧ろ、強くなる一方だ。


   …。


   …でも時々、無性に一人になりたくなる。
   けど、独りにはなりたくない。


   身勝手。


   …うん。


   ……で。


   …。


   今夜、美樹さやかのところには?


   …分かった事が一つ、ある。


   ……それは?


   さやかに、逢いたい。
   逢って、抱き締めたい。
   キス、したい。
   その先のコトも、したい。


   …。


   …つまるところ。
   さやかがいないと駄目なんだ、あたし。


   それはとうの昔に知ってるわ。


   は…そうかい。


   佐倉杏子。
   それから、美樹さやか。


   …。


   貴女達のような二人を、巷では、バカップルと言うのよ。








   …つぅ。


   杏子…!


   ……くそ。


   杏子、杏子…!


   …さやか。


   すぐに治してあげるから…!


   …。


   あぁ…なんて、ひどい傷。


   …まだ大丈夫だよ、さやか。
   だから、


   全然、大丈夫じゃないわよ…!


   …。


   …骨、見えてるじゃない。


   動けばいい。


   お腹だって…!


   …。


   …血が、全然止まらない。


   平気だよ。


   …。


   …魔法少女、だから。


   …!


   さや


   だめ…ッ!


   ……。


   …お願いだから、あたしに治させて。


   戦いはまだ、終わってない。


   マミさんとほむらがいるじゃない…!


   …あいつらだって、傷を負ってないわけじゃない。


   けどあんたが一番、ぼろぼろじゃない…!


   ……さやか。


   …すぐに治すから。
   だから、お願い…。


   ……。


   杏子…。


   ……こんな事をしてる時間はない、な。


   …。


   …分かった。
   頼むよ、さやか。


   うん…任せて。


   ……。


   ……。


   ……。


   ……。


   …?
   さやか、どうしたんだ?


   ……。


   さやか、早く。
   頼む、早くしてくれ。


   ……、ない。


   うん?


   ……わから、ない。


   …。


   魔法の使い方が…分からない。
   思い、出せない…。


   …。


   …なん、で。
   どうして…あ。


   ……。


   待って、杏子…。


   …さやかは後ろへ。


   待って、今治すから…だから、行かないで。


   ……。


   あたしを置いていかないで…。


   …話は後だ、さやか。


   やだ…。


   ……。


   杏子…、杏子ぉ…!









   …美樹さん。


   ……。


   美樹さん。


   …え。


   美樹さん、お茶のお代わりは?


   あ…いえ、もう。


   そう。


   ……。


   ……。


   …あの。


   あの子はずっと独りだったから。


   …。


   誰かと一緒に歩むのに慣れていないだけ。
   早い話、時間が必要なのだと思うの。


   …分かってるんですね。


   私も独りだったから。


   ……でも、違います。


   そう、違うの。


   …。


   だから、違えてしまった。
   私とあの子は、重ならなかった。


   ……。


   ねぇ、美樹さん?


   …はい。


   いっそ、繋いでおくのも手かもしれないわよ?


   …繋ぐ?


   そう。


   ……でも、あたし。


   自信が無いの?


   ……。


   あの子はどこへ行っても、美樹さんのところに帰ってくる。


   …本当にそうでしょうか。


   今のあの子にとっての帰る場所は美樹さん、貴女だもの。


   ……マミさんは。


   …。


   杏子のこと、どこまで知ってて、どこまで分かってるんですか。


   そうね、貴女が思っている程じゃないわ。


   …。


   私は美樹さんよりほんの少し、あの子の昔を知っているだけ。
   ただ、それだけ。


   ……。


   ね、美樹さん。


   ……あたし、怖いんです。


   …。


   …杏子があたしのこと、好きじゃなくなったらって。
   そう思うと…あたし…あたし…。


   ……。


   …あたしの知らない杏子を知ってるマミさんに嫉妬して。


   だって、女の子だもの。
   仕方が無いじゃない。


   …う。


   美樹さん、可愛い子。


   …ごめんなさい、マミさん。
   ごめんなさい…。


   良いのよ。
   美樹さんは何も悪い事はしていないのだから。


   …。


   ねぇ、美樹さん。


   ……。


   佐倉さんが好きなのは、必要としているのは紛れも無く、貴女だから。


   ……。


   …魔法少女と言う現実はもう、変える事が出来ないけれど。
   それでも。


   …。


   支え合える誰かが一緒ならば。


   ……けど、あたしはもう。


   一緒に戦う事だけじゃないでしょう?


   …。


   美樹さん、今の貴女はあの子の帰る場所なの。
   帰れる場所なの。


   …。


   それにね、今となったら美樹さんの方があの子の事、知っていると思う。


   …え。


   私の知らない佐倉さん。
   貴女にしか見せないもの。


   ……。


   恋人にしか見せない顔って、あるんじゃないかしら?


   …ある、んでしょうか。


   例えば。
   躰いっぱいで甘えてくる、とか?


   ……。


   ふふ。


   …あたし、帰ります。


   そう?


   あの…お茶、ごちそうさまでした。
   おいしかったです。


   ありがとう。
   この茶葉ね、最近のお気に入りなの。
   だからそういって貰えると、嬉しいわ。


   …話聞いてもらって、ありがとうございました。


   どういたしまして。


   …。


   美樹さん。


   …はい。


   さっきも言ったけれど。
   いっそ、繋いでしまうのも手だと思うわよ。


   …。


   必要無いかも知れないけれど。
   それでも一つの手段として、ね。


   ……それは、


   クリスマスパーティー。


   …?


   その時に、ね。


   ……はい。








   ……。


   …さやか。


   ……。


   さやか、もういいよ。


   …!


   これくらいなら、平気だから。
   そのうち、治るから。


   …いや!


   ……。


   治すから…必ず、治すから。


   …けど、思い出せないんだろう。


   ちがう…ちがう…。


   さやか。


   …だって。
   だって、あたしには…。


   …。


   これしか、ないのに…。


   …そんな事、ない。


   …。


   なぁ、さやか。


   ……。


   あたしもそうなんだ。


   …?


   あたしも魔法の使い方を忘れてしまった。


   …え。


   そしてずっと、思い出せないままなんだ。


   …どう、して。


   自分の願いを否定してしまったから。


   ……。


   …ちょっとした魔法は使える。
   けど、本来の魔法は未だに使えないんだ。


   ……。


   …あたしは大丈夫だ、さやか。
   だからそんな顔、するなよ。


   …。


   もう帰ろう、さやか。


   …。


   そうだ。
   帰ったら手当て、してくれよ。
   な、さやか。


   ……。


   …うん。
   じゃ、





   佐倉さん。





   マミさん、あたし達は帰るよ。


   待って。
   その傷じゃすぐには治らないでしょう?
   幾ら動けるからって


   普通の人間よりかは早く治るから。


   そういう問題じゃない。
   大体、お腹の傷の血だって止まってないと言うのに。


   そのうち止まる。


   あのねぇ、だからそういう問題ではないと言ってるでしょう?
   美樹さんが魔法を使えない以上、


   …!


   私が治すわ。


   …。


   さぁ、見せて。


   …いいよ。
   こんな事で魔力を消費しなくたって


   良くない。
   貴女は大事な戦力なのだから。


   しつこい。


   ええ、そうよ。
   言ったでしょう?大事な戦力だって。
   大体、次の戦いまでにその傷が治ってると、治せると言えるの?


   ……。


   佐倉さん。


   …。


   …なおして、もらいなよ。


   ……さやか。


   あたし、なおせないから…マミさんなら、なおせるから。


   ……。


   …なおして、もらって。


   さやか…。


   美樹さんの言う通りよ。
   さぁ、佐倉さん。


   ……。


   …杏子、おねがい。


   ……。


   あたし、杏子がけがしてるの…やだよ。
   だから…ねぇ、杏子…。


   …分かった。
   マミ、頼む。


   ……マ、ミ?


   ええ、任せて。
   美樹さん。


   ……おねがい、します。


   ちょっと退いててくれる?


   …あ。


   マミ、そんな言い方は


   黙って。


   う……。


   …全く。
   痛くないわけ、ないでしょうに。


   ……く……ぅ…。


   ……。


   …う、ぁぁあああッ。


   …ッ。
   杏子…ッ。


   うぅぅ…ぅぅぅ…。


   杏子…杏子…。


   …思っていたよりも、酷い。
   これで良く、動けていたわね…。


   ……、……。


   きょう、こ……。


   ……、か。


   …?
   杏子…?


   …さや、か。


   なに…?
   なに、杏子…?


   …わる、い。
   手…にぎってて…くれる、か…。


   …!
   うん…!


   ……ありがと、な。


   ううん…ううん…。


   …私では完全には治せない。
   けど、傷を塞ぐくらいなら…。


   …く。
   うぅぅぅぅぅぅ……ぅぅ。


   ……きょうこ。
   きょうこ……。









   ……。


   ……。


   …さやか。


   ……。


   …寝てるのか。


   ……。


   さやか…。


   ……。


   …なぁ、さやか。
   腹が減ったよ…。


   ……。


   ……なぁ、さやか。


   ……。


   …怒ってるのか。


   ……。


   …グリーフシード、お前の分もあるんだ。
   ほら…。


   ……。


   さやか……。


   ……。


   …腹が、減ったんだ。
   減って、減って…どうにも、ならないんだ。


   …だったら。


   ……。


   どうしてもっと早く、来なかったのよ…。


   …さやか。


   どうして、一人になろうとするのよ。


   …。


   …ずっと、独りだったから?
   ずっと、自由気侭だったから?


   …。


   あたしが、重いから?


   …それは。


   そうなんだね。


   …違う。


   そうだって、言って。


   違う。


   …。


   …あたしは。


   独りには、なりたくない。
   でしょ。


   …。


   杏子は勝手だよ。


   …ごめん。


   自分ばっかり。


   ごめん…さやか。


   …。


   …それでも、離れたくないんだ。


   ……。


   離れたく、ないんだ…さやか。


   だったら。
   離れないでよ、ずっと一緒にいてよ、一人にならないでよ。


   …。


   あたしと一緒にいて。
   あたしはあんたと一緒にいたいの。
   ずっとずっと、一緒にいたいの。
   一秒だって離れていたくなんかないの。


   …。


   こんなあたしが重いのなら、いっそ、捨ててどこかに行って。
   二度と、あたしの前に現れないで。


   ……。


   …あたしの事なんか、忘れて。
   でもあたしはあんたの事、忘れない。
   死んでも忘れてなんかやらない。


   さやか。


   …だって、愛しているの。


   …。


   あんたが、教えてくれたの。
   あんたが、くれたの。
   だから、忘れる事なんか出来ないの。


   …離れない。


   …。


   さやか。
   あたしはお前から離れない。


   …。


   …お前を、愛してるんだ。


   ……。


   …欲しいよ、さやか。


   ……。


   許してくれよ…さやか。


   ……。


   腹が…お腹が、減ったんだ…。


   ……。


   さやか…さやか…。


   …ばか杏子。


   う……。


   ……ばか。








   ……。


   ……。


   ……。


   …なにか、はなしてよ。


   …。


   …なに、かんがえてるの。


   ……さやかのこと。


   うそ。


   …どうして?


   …。


   …さやかのこと、考えてるよ。


   くちではなんとでもいえるもの。


   …さやか。


   ……。


   ……。


   …はじめて、だね。


   …?


   …いっしょにおふろ、はいるの。


   ああ…そうだな。


   …からだ、つめたかった。


   ごめんな…。


   …だれもあやまれなんていってない、ばか。


   ……ねぇ、さやか。


   なに…。


   …その。


   おやならもう、ねてる。
   し、こんなじかんにむすめがおふろにはいってても、きにするようなひとたちじゃない。


   …。


   …だから、いつだってとまってほしかった。
   いっしょにねむってほしかった…。


   …。


   …あんたのせい、なんだから。


   ごめん…。


   …だから、あやまれっていってない。


   う…。


   ……。


   …さやか、いたい。


   しらない。


   …さやか。


   ……。


   …。


   …よなかに、めがさめて。
   となりに、あんたがねてて…。


   …。


   …ぎゅうって、そのからだをだきしめるの。
   だきしめて、あんたのにおいをいっぱい、すうの…。


   …うん。


   ……もう、ひとりではねむれない。
   ねむりたく、ない…。


   うん…。


   ……あんたの、せい。


   …責任、取るよ。


   ……。


   取る、から…。


   …きょうこ。


   ……。


   ……。


   …ふろ。


   ……。


   …気持ち、いいな。


   …。


   きもち、いい…。


   …ねないで。


   うん…。


   …ねたら、ゆるさない。


   ……それは困る、な。


   だったら。


   …腹が、減ってるんだ。


   …。


   だから。


   ……だったら。


   ん、さやか…。


   …いま、たべて。


   ……。


   …いま、すぐ。
   あたし、を…。


   …さやか!


   あ、ぁ…。


   …さやか、…さやか。


   ねぇ、たりない…もっと…、つよく…、ねぇ…。


   ……。


   …もっと、つよく…うごいて、…なか、…かき、まぜて…。


   ……!


   …あたしを、たべて。


   …さやか…さやか…ぁ…!


   きょう、…んぅぅ……、…は……ふぁ、…あぁんっ。


   ……はぁ、…あぁぁ…。


   あ、あん…あ、あ、あ…。


   ……さや、かぁ。


   …いい、いいよぉ……もっと、…もっとぉ、……きょう、こぉ……。


   ………。


   あ、あ、あ、あ、あ、あ…ぁ…ッ!!








   ……。


   …。


   …さやか。


   ……。


   …こんや、は。


   かえらせない。


   …。


   …ぜったい、かえらせない。
   かえったら…ぜったいに、ゆるさない。


   さや、か…。


   ……。


   さやか……さやか…。


   ……。


   …なぁ、もういちど。


   ん…。


   ね…いい?


   ……。


   …さやかぁ。


   ねぇ、きょうこ…ん。


   …。


   は、ぅ…ぁ。


   ……。


   …ね、ぇ。


   やだ、たりない…。


   …ぅ、……あ、ぁ。


   ……もっと、ほしい。


   …あぁ…ァ。


   ……あつい。
   きもちいい…。


   …ま、って。


   …。


   …やめろ、なんて、いわない。
   いいたい、わけじゃ…ない。


   …。


   …そのまま、で、いいから。
   いて、ほしいから…。


   …。


   でも、おねがい…うごかない、で。
   ちょっとのあいだ、だけ…だから。


   …がまん、できない。


   おねがい…きょうこ。


   …。


   ……きょう、こ。


   …ちょっとだけ、だ。
   それいじょうは…できない。


   …ありがと。


   ……。


   いいこ…だね?


   …さやか。


   ……。


   ……さやか。


   ねぇ…。


   …。


   …あたしにあえないあいだ、さびしかった?


   …。


   さびしいって…すこしでも、おもってくれた…?


   …あいたかった。


   …。


   だから、むかえにいった…まいにち、いった。
   あたしの…だいじな、にちじょう…。


   …でも、よるはきてくれなかった。


   ……。


   …むかえ、よりも。
   よる、きてほしかった…そのうでに、だかれたかった。
   らんぼうでもいい…ううん、むしろ。

   …。


   ……めちゃくちゃにされたかったよ、きょうこ。


   さやか……。


   …ごめんね、きょうこ。
   ごめんね…。


   …う。


   あなたの、だいじなにちじょう…より、も。


   ……。


   …きょうこ。


   すきだ…。


   …ん。


   すきだ、すきだ、すきだ、すきだ、すきだ…。


   …。


   …ひとりに、なってみて、わかったんだ。


   ……なにが、わかったの。


   …さやかがいないと、もう、あたしは。
   あたしはぁ……。


   …。


   ……。


   …なかないで。
   なかないで…きょうこ。


   …あたし、ばかだ。
   おおばかだ…。


   …。


   …さやかぁぁぁ。


   ……。


   ……。


   ね……さびし、かった?


   …おもい、だした。


   …。


   ずっと、わすれてた……。


   ……あたし、さびしかった。


   …。


   さびしかったよ…きょうこ。


   …うん。
   うん……。


   …。


   …。


   …いいよ、きょうこ。
   うごいて…すきに、して。


   ……。


   …あたしを。
   いっぱい、たべて…きょうこの「なか」、あたしでいっぱいにして…。








   後編