今日も無事、終わりましたなぁ。
   あー、長かったぁ。


   ……。


   ねぇねぇ、杏子。


   ……。


   今日さ、ゲーセン行かない?


   ……。


   て言うのもさ、取って欲しいのがあるんだけど…。
   この前、まどかと買い物に行った時に見つけてさ。
   もちろん、あたしも挑戦したんだけど…取れなくてさ。


   ……。


   だから…その、杏子に取って欲しいなって。
   ほら、杏子ってそういうの得意でしょ?


   ……。


   ねぇ、杏子。
   聞いてる?


   …ああ、聞いてるよ。


   行くでしょ、ゲーセン。
   欲しいの取ってくれたら、好きなの一つ、奢ってあげる。
   たいやきでも、クレープでも、アイスでも、お団子でも…


   ……。


   …ねぇ、杏子。
   本当に聞いて…


   …ッ。


   え。


   ……あ。


   …びっくりした。


   …。


   ……なんで。


   …悪い。


   ……。


   え、えと…ゲーセン、行くんだったな。
   行こうぜ、さやか。


   ……。


   さやか。


   …あんた、さ。


   ……なんだよ。


   最近、あたしのこと、避けてない…?


   …。


   …当たり、なんだ。


   そんな事ねーよ。


   …じゃあ今の、何。


   それは…ちょっと考え事してて。
   それで、


   じゃあ、今だったらいいのね。


   え。


   ……。


   さ、さやか。


   何よ。


   ……。


   ……。


   …ゲーセン、行くんだろ。
   早く行こうぜ。


   …。


   行かないのか。


   …どうして、あたしの顔を見ないのよ。


   ……。


   ねぇ、杏子。
   あたし、あんたに何かしたかな?
   避けられるようなこと、した?


   …何もしてねーよ。
   もう、いいだろ。


   ……。


   で、何が欲しいんだよ。
   またなんかのぬいぐるみか。
   あんたさ、結構そういうの…


   …はっきり言ってくれなきゃ、分かんないわよ。


   …。


   分からないのよ、ばか…!


   …!


   …もう、いい。
   行かない。


   なんでだよ、欲しいんだろ。
   だったら


   もういいって言ってるの…!


   取ってくれって言ったのは、さやかだろ!?
   それが


   もう、いいの…!


   …さやか!
















  C o n c e r t o















   美樹、お客さんだぞー。


   は、誰?


   ……。


   隣の組のヤツだってさ。
   美樹に話があるんだってよ。


   ふぅん。


   ……。


   俺が言うのもなんだけどあいつ、なかなか、いいやつだぞ。


   中沢、それ、絶対に面白がってるだけでしょ。
   と言うかほんとに知ってんの?


   ……。


   じゃ、伝えたからな。


   …やれやれ、しょーがないなぁ。


   行くのか。


   まぁ、一応ね。
   聞いちゃったし。


   …ふぅん。


   なになに、面白くないのかな?


   …うっせぇ、行くなら早く行けよ。


   やきもち?


   うぜぇ。
   早く行け。


   あーもう、しょうがないなぁ。
   拗ねてる杏子ちゃんの為にも早く戻ってきてあげましょうかねぇ。








   ……。


   ……。


   ……。


   …えーと。
   杏子、うちに帰ってきたらなんて言うのかな?


   …。


   て、こらこら。
   無視すんなー?


   …。


   …。


   …ゲーセン、行ってくる。


   その格好で?
   補導されちゃっても知らないぞぉ?


   …。


   言っときますけど、さやかちゃんはお迎えになんか行きませんからね?


   ……。


   て、杏子。


   …。


   杏子。


   …なんだよ。


   どうして黙ってるの。
   どうして何も言わないの。


   …は?


   昼休みからずっと、だんまり決め込んで。
   話しかけても無視するし、帰りだって、さっさと先歩いて行っちゃうしさ。
   一緒に帰ろうって言ってるのに。


   …。


   大体、呼び出しの事だったらなんでもなかったって言ったじゃん。


   …だから?


   だからって。


   あたしには関係、あるの?
   ないよねぇ?


   …。


   いつ、あたしが気にしてるって言った?
   そんなの、あんたが勝手に思い込んでるだけだろ。


   ……。


   大体さ、なんでもなかった?
   告られておいて、よくもそんな事言えるよね。
   おまけにあっさり断ってさ。
   莫迦じゃないの。


   ばかって。


   いっそ、付き合ってみれば良かったじゃん。
   あの坊やの事が吹っ切れてるんだったらさぁ。


   …!


   結局、あんたは今でも坊やを引きずってるんだ。
   他の女と付き合ってる事が、本当は面白くないんだ。
   吹っ切れたなんて言って、その実、全然なんだよ。
   あいつ以外の奴になんて、興味ないんだ。


   ……。


   一途だよねぇ。
   だけどさぁ、


   言いたい事は、それだけ?


   …あぁ?


   それが言いたかった事?


   ……。


   だとしたら、あたしは答えるよ。
   恭介の事はもう、関係ない。
   確かに今でも大切な存在である事には変わりはないよ。
   だって、幼馴染だからね。


   …。


   それから、あたしは…好きでもない人と付き合える程、器用じゃない。
   試しに付き合ってみるなんて事も、あたしには出来ない。
   付き合ってるうちに好きになるかもなんて…つまり、それまでは無理をしろって事でしょう?
   自分に嘘を吐けって事でしょう?
   もしもそれでいいって相手が言ったとしても、あたしは良くない。
   あたしはそんな自分を、許す事は出来ない。


   …ばっかじゃねーの。


   そうだよ。
   そんなの、あんたに言われるまでもないよ。


   ……。


   で?
   すっきりした?


   …。


   ゲーセン行くのはいいけど、ごはんまでには帰ってきてね。
   あんたが好きなオムライス、作っておくからさ。


   …ッ。


   …。


   …今日は帰らない。


   ごはん、どうするの。


   関係ないだろ。


   …。


   …いちいち干渉すんな。
   うぜぇんだよ、そういうの。


   …あんたってさ、いつもそうだよね。


   …。


   肝心な事は何も言わない。
   言わない代わりに、悪態ばかり吐き出す。
   まるで小さい子みたい。


   …!
   なんだと…!


   杏子、ちゃんと言って。
   あたしの顔を見て、言って。
   あたしはちゃんと受け止めるから。
   どんな言葉でも、受け止めるから。


   ……。


   杏子。


   ……放っておいてくれ。


   ……。


   …頭、冷やしてくる。


   帰ってくる?


   ……。


   作って、待ってるから。
   帰ってくるまで、あたしも食べないから。


   …勝手にすればいいだろ。


   だって一人で食べたって、おいしくないもの。


   ……。


   …だから、待ってる。


   ………行ってくる。


   ん、行ってらっしゃい…杏子。








   ……。


   ねーちゃ、はやく、はやくー。


   タツヤ、走ったらだめだよ。
   転んじゃう。


   ……。


   ねーちゃ、あめー、あめー。


   傘、持ってきてよかったね。
   でも、あんなに晴れてたのになぁ。


   ……。


   あめー、いっぱーい。


   小降りになってくれたからよかったけど。
   でもそっか、もうそんな季節なんだね。


   ねー。


   ……。


   あーー。


   …?
   タツヤ?


   ……。


   ねーちゃ、あそこ、あそこーー。


   …あそこ?
   あ…!


   ……。


   杏子ちゃん!








   ……。


   杏子ちゃん、大丈夫?
   ちゃんとあったまった?


   ……。


   服、ママのシャツでごめんね。
   わたしのじゃ小さいし…。


   ……悪いな、まどか。


   ううん。
   でも、どうしたの?


   ……。


   さやかちゃんとは一緒じゃなかったの?


   ……。


   …さやかちゃんと何かあったの?


   ……まどかには関係ないだろ。


   …。


   ……いや、悪い。


   …ううん、ごめんね。
   言いたくないことだって、あるよね。


   ……。





   まどか、お友達は大丈夫そうかい?





   うん、パパ。


   そうか、良かった。
   これから夕ご飯の支度をしようと思っているんだけど、良かったら食べていかないかい?


   ……。


   杏子ちゃん、良かったらどう…かな。


   ……。


   せめて服が乾くまで…ね?


   ……。


   杏子ちゃん…。


   …あたし、さやかにひどい事言ったんだ。


   え…。


   ……それなのに、さやかは怒らないんだ。


   ……。


   それどころか……。


   …杏子ちゃん。


   なぁ、まどか…。


   …なに。


   まどかには…その、好きなヤツっているのか…?


   え…えぇ?


   ……。


   きょ、杏子ちゃん…?


   なぁ、人を好きになるって…なんなんだ。


   ……。


   …どうしていいか、分からないんだ……。


   杏子ちゃん、それって……。


   …分からない…分からないんだ…。


   あ!


   ………さや、か…。


   杏子ちゃん…ッ!








   ……。


   …さやか。


   ……なんで、来るのよ。


   なんでって…。


   …来ないでよ。


   …。


   どうせ、あたしの顔なんか見たくないんでしょ。
   どうせ、あたしなんかに触れられたくないんでしょ。


   …そんな事、言ってないだろ。


   じゃあ、なんで?!
   なんで、避けるの?!


   避けてなんか


   さっきだって…!


   …。


   …さっきだって、ちょっと触れただけで。


   それは…。


   ……。


   それは…ちょっと驚いただけで。
   別にさやかの事を避けてるとか、そういうんじゃなくて…。


   ……。


   …。


   …顔、見てよ。
   見て、言ってよ。


   …見てるよ。


   見てないよ、全然、見てくれてないよ…!


   さやか、あたしは


   言ってくれないのだって…!


   …う。


   …何も言ってくれない方が、ずっと。


   ……さやか。


   ねぇ、杏子…あたし、杏子に嫌われるようなこと、した…?


   …してないよ。


   はっきり言ってよ。
   あたしの事、どう思ってるの。


   どう思うって…。


   ねぇ…どう、思ってるの。


   さ、さやか…。


   …ねぇ、杏子。


   あ……。


   ……。


   さ、さや…。


   …ねぇ、分かる?


   な、なにを……。


   …ねぇ、あたしの心臓の音、伝わってる?


   や、やめろ、さやか……。


   ……教えて、杏子。


   あ、う……。


   ……あたしの事、好き?


   ……。


   ……。


   ……だめ、だ。


   …。


   だめだ、こんな事……。


   …どうして。


   どうしてって……。


   ……ねぇ、やわらかい?


   …ッ!
   止めろ…ッ!!


   ……。


   ……。


   ……。


   …ふざけてする事じゃあ、ないだろ。


   ……それ、本気で言ってるの。


   だって…そうじゃなきゃ…。


   …。


   ……。


   ……ふざけてこんなこと、できない。


   ぁ…。


   できない、できないよ…できないよぅ……。


   さ、さやか……。


   ……。


   ……。


   ……。


   …泣かないで。


   ……。


   さやか…頼むから。


   ……。


   あたしは…さやかの事、嫌いになったりしないから。
   だから…もう。


   …。


   え……。


   ……。


   え、え、ぇ……。


   ……。


   さ、さ、さや……。


   …きょうこ。


   ぁ……。


   ……きょうこぉ。


   さや……んぅ。


   ……。


   …や、やめて。


   ……。


   こんな、こと…。


   …あたしのからだ、きたないでしょう?


   …。


   だから…ふれたく、ないんでしょう?
   ふれられたく、ないんでしょう…?


   ち、ちがう…そうじゃない、そうじゃないだろう…さやか…。


   ……。


   なんで…なんでだよ……なんで、あたしなんかに…。


   …ねぇ、おねがい。
   あたしを、あいして…。


   …!


   ……あいして、ください。


   ………だめだ…だめだ…だめだ…。


   きもちわるくて、ごめんね…。


   …っ。


   …でも、とめられないの。
   だってずっと…こうしたかったの…されたかったの…。


   ……はぁ。


   …おねがい、あたしをころしてください。


   はぁ……は、…は…っ…。


   ……ころして。


   …さやかッ。


   ………。


   さやか、…さやか……さやか…っ。


   ……やっ、と。









   ……。


   ……。


   ……う。


   あ。


   ……。


   杏子ちゃん、気がついた…?


   ……、か。


   大丈夫…?


   ……。


   杏子ちゃん、いきなり倒れちゃって…。
   それから、ずっと…。


   ……や、か。


   …さやかちゃんの名前、呼び続けてて。


   ……さやか。


   …わたしは、関係ないかもしれないけど。
   でもね…。


   ……ごめん、ごめんなさい。


   杏子ちゃん…?


   …きたないのは、あたしなんだ。
   あたしは、さやかのことが…。


   ……。


   …さやかを、まともに、みられなくなった。
   さやかに、みられるたび、からだがあつくなった。
   さやかが、あたしにふれるたび…どうか、なりそうで。


   …。


   …いっそ、じぶんのものに、したいって。
   そういうふうに、おもってしまう、じぶんがいるようになった…。


   ……。


   …それほどまでに、ゆめは、なまなましかった。
   ことばも、ねつも、においも、かんしょくも…ぜんぶ、あたしのなかにのこった、のこってる。


   …。


   …たとえ、ゆめだとしても。
   そして…ゆめのように。


   …。


   そうおもってしまう、そんなじぶんが、ゆるせなかった…。
   けして、しまいたかった……けど。


   ……。


   …なんで、あたしは。
   なんであたしは、こんなにも…おまえが。


   …。


   なんで、おまえは…こんなにも、あたしのなか…に。


   ……。


   なんで、そんなゆめを、みさせるんだよ……。
   あたしは、そんなゆめ、みたくなかった…。
   そんなじぶんに、きがつきたくなんか、なかったよ…。


   …。


   …さやか。


   …。


   …ほかのやつのものになんか、なるな。
   ならないで……。


   …。


   さやか…さやかぁ………。


   …杏子ちゃん。


   ……。


   ……。


   …ごめん、まどか。


   ……ううん。


   きもち、わるいだろ……。


   …気持ち悪くなんて、ないよ。


   うそだ…だって、あたしは。


   …。


   ゆめのなかで、なんども、なんども……ああぁ。


   ……人を、好きになる事。


   …。


   それがたとえ、同じ女の子だったとしても。
   わたしは気持ちが悪いなんて、思わない。


   ……うそ、だ。


   どうして…?


   …。


   …ね、杏子ちゃん。
   杏子ちゃんはさやかちゃんのこと…。


   …いわないで。


   ……。


   さやかは…しあわせに、なるんだ。
   なって、ほしいんだ…。


   …わたしも、そう思ってるよ。
   でもね。


   …。


   …さやかちゃんのしあわせは、さやかちゃんにしか分からないんじゃないかな。
   さやかちゃんにしか、決められないんじゃないかな…。


   ……。


   …だからね。
   もしも…さやかちゃんが杏子ちゃんの気持ちに応えたら。
   それは…杏子ちゃんにでも、どうしようもないと思うんだ。
   だってそれは…さやかちゃんの心が決めた事だから。


   ……さやかの、こころ。


   …うん。


   ………さやか。


   …杏子ちゃんのしあわせも、杏子ちゃんにしか分からない。
   けどそのしあわせが…。


   …。


   …さやかちゃんと一緒にいる事なら。
   わたしは、うれしい…。


   …うれ、しい?


   ……。


   どうして、だ…。


   …どうしてだろうね。
   でも、そう思うの。


   ……。


   …もう少し、休んでて。
   ごはん出来たら、呼びに来るから…。








   …もしもし。


   「もしもし、さやかちゃん?」


   …どうしたの?
   メールじゃなく、電話してくるなんてさ。


   「あのね、杏子ちゃんが…。」


   …あいつなら、今は外に出てるよ。


   「さやかちゃん。」


   …うん?


   「杏子ちゃん、雨の中、ただ立ってたの。雨が降ってるのにも、気付いてないようだった。」


   ……。


   「どこを見るわけでもなく、でもどこか寂しそうに立ってたんだよ。」


   …そう、なんだ。


   「お願いさやかちゃん、杏子ちゃんを迎えに来てあげて。」


   …今、まどかの家に?


   「うん。だから…」


   …杏子は帰りたいって言った?


   「え?」


   頭、冷やしてくるって…それで、出て行ったから。


   「…喧嘩、したの?」


   ううん…してないよ。
   ただ…ちょっと、ね。


   「……。」


   …まどか、杏子の事、お願いね。


   「さやかちゃん…どうして。」


   …まどかんちにいるなら、安心出来るからさ。


   「……。」


   …もしかしたら帰りたくないって言うかもしれないけど。
   そうしたら…


   「あのね、さやかちゃん。」


   ん…?


   「…杏子ちゃん、急に倒れたんだよ。」


   ……。


   「…濡れてる体をあっためてもらう為にお風呂に入って貰って、その後に。」


   …雨の中、立ってるから。


   「眠ってる間ずっと、さやかちゃんの名前を呼んでたんだよ。」


   ……。


   「杏子ちゃん、さやかちゃんが来てくれるのを待ってると思うの。」


   ……杏子。



   「だから、お願い…迎えに来てあげて。」


   …。


   「待ってる…待ってるから…だから。」








   生まれ変わって

   貴女の私に

   為りたい気持ち

   秘めた夜は…








   …あたしって本当、莫迦だよね。


   …。


   さっさと、迎えに行けば良いのに。


   ……。


   どうして、行かないの?


   …杏子が帰りたくないのなら。


   じゃあ何故、待っているの?
   本当は一秒でも早く、帰ってきて欲しいくせに。


   ……。


   杏子、倒れちゃったんでしょう?


   …あんたには関係ないでしょう。


   ご挨拶だね、美樹さやか?


   …。


   あたしは、あんた。
   あんたは、あたし。
   言われなくても、分かってるくせに。


   …。


   あんたの感情は全部、あたしの中にも在る。
   あたしの感情は…今となってはもう、そっちには流れないかも知れないけれど。
   でも、元々は、あんたの感情だから。


   ……。


   …ねぇ?
   あの唇とキス、したいのでしょう?
   あの腕に抱き締めて、貰いたいのでしょう?
   それ以上の事だって


   止めて。


   セックス、したいのでしょう?
   心が千々に乱れてしまう程、淫らに。


   止めてって言ってるでしょう。


   杏子としたくてしたくて、堪らないくせに。
   その気持ちが抑え切れなくて、隠れて自分を慰めているくせに。


   止めてよ。


   その指を、杏子の指に見立てて…躰を慰めて。
   杏子の声を、何度も想い出して…心を慰めて。
   何度も、その名前を呼んで…果てては、泣いて。
   でも本当は、ちっとも慰められてなんかいなくて。


   黙れ…!


   …莫迦な、あたし。


   ……。


   未だ、懲りていないの…?


   …。


   全てを懸けても良い位に、恋い慕っていたのに。
   全てを投げ捨てても良い位に、好きだったのに。
   でも結局、何も出来なかった。


   …。


   …指を咥えて見てるだけじゃあ、欲しいものは手に入らないの。
   然う、入らないのよ…。


   …あんた、杏子に何かしたの。
   何を、したの。


   …さぁ?
   何だと思う…?


   答えなさいよ。


   …一寸だけ、夢を見て貰っただけ。


   夢…?


   …大丈夫、この時間のこの躰は未だにあの子の色には染まっていない。
   それはそれで残念な事なのだけれど…?


   …あんた、まさか。


   言ったでしょう?
   この躰は未だ何者にも染まってないって。
   まぁ、心は染まり切って、限りなく黒に近い赤色に成っているかも知れないけれど。


   …オクタヴィア。


   ずぅっと、あの場所であの子を見ていた。
   あの場所に導かれなければ、識る事は出来なかった。
   杏子が、あの子が、あたしの為にしてきて呉れた事。
   あたしが、莫迦なあたしが、それを何度も跳ね除けてきた事。
   然う、本当にあたしの事を見ていて呉れたのは、あんな無神経な幼馴染なんかじゃ無かった。


   …。


   あたしはね…欲しいの。
   そんな杏子が欲しくて、欲しくて…堪らないの、さやか。


   ……。


   …この気持ちをあたしに植え付けたのはあんた。
   植え付けさせたのは、杏子。繰り返される時の中で、幾度も幾度も。
   だからあたしはいつだって、飢えている。
   ただ、ただ、杏子の想いが欲しくて。
   ただ、ただ、杏子に満たして欲しくて。


   …。


   …あんたは、あたし。あたしは、あんた。
   だけど…あんたが愚図のままだったら、あたしが貰う。
   良いでしょう?どうせ、あたしはあんたなんだから。
   あんたの躰で、善がってあげる。でも心配しないで、感覚は伝えてあげるから。
   だからあんたは、それを見ていれば良い。
   愛されてるあたしを、仄暗い場所から、黙って見てるしか出来なければ良いのよ。


   …。


   …いつまでもくだらない正しさに縛られて。
   いつまでも、囚われていれば良い。


   …言いたい事は、それだけ?


   ……さぁ?


   オクタヴィア。


   …あたしは、恋慕の魔女。
   恋焦がれて、愛される夢を見る。


   ……。


   …然うでしょう、あたし?








   ……。


   …きょうこ。


   …。


   ねぇ、きょうこ…おきているんでしょう…?


   …。


   …ねぇ、こっちをみて。
   あたしを、みて…。


   ……。


   ね…キス、して。
   もういちど…つよく、だきしめて。


   …。


   ねぇ…あたしのこと、すき?


   …こんな、こと。


   ん…。


   …こんなこと、したくなかった。


   ……。


   …ごめん、さやか。
   ごめん…。


   …かわいい、きょうこ。


   う…。


   …あたしは、したかった。
   ずっと、ずっと、したかった…されたかった。


   ……どうして、だ。
   あたしは、おんなで…あんた、だって。


   …にんげんって、へんないきもの。


   え…。


   あたしたちはもう、まほうしょうじょだから。
   ほかにどうるいなんて、いない。
   そうでしょう…?


   …それでも。
   あたしは、さやかに…。


   …ねぇ、それってそんなに重要なこと?
   誰かを好きになるのに…それが、そんなことが大事なことなの?


   …。


   …あたしは、きょうこがすき。
   おとことか、おんなとか…そんなの、どうでもいいの。
   あたしは、きょうこがきょうこだから、すき。
   ただ、それだけ。


   …さやか。


   ねぇ、本当にしたくなかった…?
   あたしに、ふれたくなかった…?


   …あたし、は。


   あたし、しってたよ…きょうこが、あたしのこと、すきなんだって。


   …!


   …ことばに、してくれないこと。
   ずっと、さびしかった…。


   ……いえるわけ、ない。


   …ほんとう、にてるね。


   …。


   あたしたち……。


   ……さやか。


   ねぇ、したくなかったなんて…いわないで?


   ……でも。


   したかった…て、いって。


   ……。


   …きょうこ?


   ごめん、さやか…ごめん……。


   …。


   ……あたし、さやかと。


   …あたしと?


   さやかと、ずっと…ん。


   ……そのさきは、あたしをみていって?


   …。


   …なみだなんて、ながさないで。
   ながすなら…あたしをだきながら、あたしだけをおもって、ながして。


   ……。


   ね…こっち、むいて。


   ……。


   ……。


   …さや、んん。


   ……。


   ……ん、……は…、ふ…んぅ……、………。


   ……。


   ……ころすき、か。


   そしたら、すぐにあとをおうから…。


   …。


   …ひとりぼっちより、ふたりぼっち。
   ね…?


   ……はずかしいこと、いってんじゃねぇ。


   うれしいくせに…。


   ……。


   ね…すき?


   …。


   ……ね、きょうこ。


   …すき、だ。


   ……あたしと、したかった?
   こういうこと…。


   ……したかった。
   したかったよ、さやか…。


   きょうこ…。


   …すきだ、さやか。
   きづけば、おまえのことばかり、かんがえてた…。


   …うん、しってた。


   ……。


   …ふふ、へんなかお。


   さやか、おまえ…ん。


   ……。


   …さやか、おまえな。
   ほんとうに、ころすきか…。


   うれしい。


   …。


   …うれしい、きょうこ。


   うん……。


   ……ね、もういちど。


   も、もういちど…か。


   …だって、たりないもの。
   やっと、むすばれたんだから…もっと、いっぱいにしてほしい…。


   ……。


   …きょうこのあかちゃん、ほしい。


   そ、それは、むりだろ…。


   …きせきも、まほうも、あるんだよ?


   そ、そうだけど…さすがに、それは…。


   …じゃあ、きょうこがあたしのあかちゃん、はらんでくれる?


   え…?


   ……。


   さ、さやか…?


   …ねぇ、はらんで?


   な、なにを、いって……あ。


   ……。


   …さや、か。


   ……。


   おま、え…ほんとう、に……。


   …やっぱり、あたしがはらみたい。


   ………。


   …きせきも、まほうも、あるんだから。
   ねぇ…きょうこ?









   ……。


   …杏子ちゃん?
   起きてる…?


   ……。


   ごはん、出来たから…。


   …なぁ、まどか。


   なに?


   このままだと…あたしは多分、さやかに手を出してしまうと思う。


   ……。


   …なんで、だろうな。
   あたし、女なのに…。


   …さやかちゃんのこと、好き?


   …。


   …好きなら、当たり前の感情だと思うんだ。
   誰だってきっと…そうなんだと思う。


   まどかも…その、そうなのか。


   …わたしは。


   ……。


   …でも多分、触れたいって思う。


   ……それが同性でもか。


   多分、関係ないんじゃないかな…。


   …。


   確かに…色々、あるけれど。
   でも、本当に大切なことはその人が好きだということだと思うの。


   同じこと、言うんだな…。


   …おなじこと?


   いや……。


   …杏子ちゃん、ごはん食べられそう?


   いいのか…?


   パパのごはん、杏子ちゃんにも食べて欲しいな。
   わたしが言うのもなんだけど…とても、おいしいから。


   …知ってるよ。
   弁当、貰ったことあるから。
   うまいよな、まどかのパパさんのごはん。


   えへへ…そう言ってもらえると、嬉しいな。


   ……。


   …それとも、


   帰れない。


   ……。


   ……あたしは、もう。


   そんなこと……。


   ……。


   …よかったら、だけど。
   その…今日は、うちに泊まっていく?


   ……。


   …今の杏子ちゃん、一人にしちゃいけない気がするの。
   だから…。


   ……まどか。


   …。


   ……やっぱり、だめだ。
   そこまで迷惑をかけられない…。


   迷惑じゃないよ。


   …。


   …ひとりぼっちになったら、だめだよ。


   ……。


   ……。


   …ありがとう、まどか。


   …どういたしまして。


   ……。


   泊まること、さやかちゃんに連絡…


   …。


   …して、おくから。


   ……うん。


   …。


   …なぁ、まどか。


   なに…?


   その…はら、へった。


   ……。


   …さっきからすげぇ、いいにおいがする。


   ふふ…。


   …?
   まどか…?


   おかわり、あるから。いっぱい、食べてね。
   パパ、きっと喜ぶから。


   …おう。








   …うん、…うん、…そっか、…分かった。
   それじゃあ、まどか…杏子のこと、おねがいね…。


   (……。)


   ……。


   (…やっと、見つけた。)


   ……きょうこ。


   (あんたさ、いつまで強情張ってるわけ…?)


   (…そうだね。)


   (…なんだよ、らしくないじゃんかよ。)


   (…あたしは、結局…何も、変わってない。)


   (さやか……。)


   …そう、何も。


   (……さやかぁぁぁ!)


   ……。


   (……命を危機に晒すってのはな、そうするしか他に仕方ない奴だけがやる事さ。)


   …きょうこ。


   (…怯むな、呼び続けろ!)


   ……う、…く。


   (何もかもが許せないんだろ…?解るよ…。それで気が済んだら目ェ覚ましなよ……な?)


   …あ、…あぁ、…は…。


   (さやかぁ…ッ!)


   …はぁ、……ぅ。


   (……心配、すんなよ。さやか…。)


   ……きょ、ぅ…。


   (独りぼっちは…寂しいもんな……。)


   …あ、…あっ、…は…く、ぁ…。


   (………いいよ。)


   …あ、…ァ…っ…、…っ。


   (一緒に、いてやるよ……。)


   ………。


   (………さやか。)


   …きょうこ……きょうこ……きょうこ……ぉ……。


   (………。)





   …あたしは所詮、魔女にしか生れない。





   ……。


   …女神になんて、為れないの。


   ……。


   ねぇ、あたし。


   …笑えば、いいじゃない。


   笑う?
   生憎だけれど、全く笑えないわ。


   ……。


   …いつまで待っているの。
   待っているだけでは、何も変わらない。
   欲しいものは手に入らない。
   分かっているくせに、どうしても認めたがらない。


   …。


   杏子が教えてくれた事。


   …言わないで。


   あたし無しでは


   言わないで。


   …何も出来なくさせて遣れば良いの。
   本当は分かっているのでしょう…?


   ……。


   …そうして、己の想いに押し潰される。
   そうして、あたしは、魔女に生る。


   ……しられたく、ない。


   ……。


   こんなあたし…しられたくない。


   …でも、知って欲しい。


   こんな、みにくい……。


   …そんなあたしを、愛して欲しい。


   ……。


   ……こんなに、愛しているのだから。


   きょうこ…きょうこ……。


   ……繰り返した分だけ。


   …かえってきて…きょうこ…そばに、いて……。


   ……想いは募っていく、膨らんでいく。
   それはもう、この小さな躰では抱え切れない…。


   …きょうこ…きょうこ……きょうこ……。


   ………。


   …やくそく、まもって。


   ……あたしって本当、ばか。








   中編