あぁ、今日も終わったな。 …。 なぁ、さやか。 今日の夕飯、どうするんだ? …。 あたし、親子丼がいいな。 なぁ、親子丼作ってくれよ。 …。 卵は半熟もいいけど、完熟でもいいからな。 あと味噌汁が食いたい、絹さやと豆腐のが食いたい。 この間作ってくれたの、すげーうまかったから! …。 買い物、してくか? …。 さやか、おい聞いてるか? …ん、聞いてるよ。 親子丼と絹さやと豆腐の味噌汁が食べたいって。 おう! なぁなぁ、そうしようぜ。 ……。 さやか? ……。 …ん? ……杏子。 な、なんだ…。 ごめん…ちょっとだけ、こうしててもいいかな。 …。 …駄目だったら、離すから。 べ、別にいいけど…いきなり、どうしたんだ? もしかして、調子でも悪いのか? …。 さやか…大丈夫か。 顔色、あまり良くないぞ…。 …少しだけ、少しだけだから。 え…? …そうしたら、離すから。 ……。 …あたしは、大丈夫だから。 さやか。 …なに。 え……。 ……。 きょ、きょうこ…。 …何かあるなら、言ってくれ。 何かあったなら、話してくれ。 あ…、や…。 …あんたはすぐ、一人で抱える。 それで、あんたは…いつも…。 ……きょうこ。 嫌なんだ。 嫌なんだよ、さやか。 ……。 …あたしが駄目なら、まどかがいる。 まどかなら……ちゃんと、聞いてくれる。 …杏子は。 …。 ちゃんと、聞いてくれないの…? …聞くよ、話してくれるなら。 ……。 …だから、さやか。 ……離して。 え…。 …。 …あ。 あ…! ……。 わ、悪い…! …ううん。 心配、してくれたんでしょう…? だったら…嬉しい。 あ、あぁ…。 ……。 …え、と。 親子丼にしよう。 今日の夕ご飯。 お、おう。 あと、絹さやと豆腐のお味噌汁。 じゃあ買い物、していかないとね。 鶏肉と絹さや、それから豆腐、買わないと。 そうそう、お菓子は一つだからね。 うん、分かってる。 ……。 …あのな、さやか。 なぁに? …手、もういいのか。 ……。 もう少しだけなら、その、いいぞ…? …やっぱり、優しい。 え…? ううん。 じゃあ、もう少しだけ。 ……。 …ありがとう、杏子。 別に…。 ……ねぇ、杏子。 なんだい…? …あたしね。 うん……。 ……好き。 …え。 親子丼。 おいしいよね。 あ、ああ。 うまいよな。 …。 特にさやかの作ったのが一番、うまい。 …ほんと? おう、ほんとだ。 親子丼だけじゃない、さやかの作ってくれる飯は、何より、うまいぞ。 ……うれしい。 だから、楽しみだ。 毎日、楽しみなんだ。 さやかが作ってくれた飯を、さやかと食うのが。 ……。 さや、…ん。 ……。 ……さ、さ、さ、 …ごめん、杏子。 ……。 ……。 ……。 …杏子、ごはん出来たよ。 …。 …杏子。 え…なに。 …ごはん。 あ、ああ。 …食欲、ない? そ、そんなことない。 …でもいつもだったら、待ちきれないって感じなのに。 な、なんだかな。 ちょっと疲れたのかもしんないな。 今日は早く寝るかな。 ……。 えと…親子丼、今日は半熟かー。 うまそうだな! ……。 …。 …お代わり、あるからね。 いっぱい、食べてね。 お、おう。 ……。 あれ、さやかの分は…? …ちょっと、食欲なくて。 お腹が少し、気持ち悪いの…。 大丈夫か? …ん、平気。 あたしも疲れたのかも。 ……。 …さ、食べよう? …さやかが食わないなら 食べて。 …さやか。 その為に、作ったの。 杏子に食べて欲しくて、ただ、それだけの為に。 だから…。 …。 …なんて、重いね。 あた いただきます! …杏子。 ………うん、今日もうまいな! …。 さやかの分まで、食ってやるからな! …うん、食べて。 あ、でも、後で食べるか? ううん、今日は食べないと思うから。 そうか…。 …ふふ。 な、なんだ? あたしね、杏子が食べてるところ見るの…好き、なんだ。 …すき。 あたしの作ったの、いつもおいしそうに食べてくれるから…。 ……。 ……。 …さやか、あたし。 ごめんね、杏子…。 …。 …気持ち、悪かったよね。 ……。 …いきなり、あんな事して。 本当に、ごめんね…。 …別にいいよ、もう。 …。 それに…別にイヤじゃなかったから。 …え。 だ、だから、気にすんな。 もう、終わったことだ。 …終わった、こと。 明日は、何が食えるかな。 楽しみだな。 …。 ……。 ……。 …さやか? あたし、もう寝るね…。 え、もう? …うん。 風呂も入らないのか? そんなに悪いのか? …食器は洗い場に置いておいて。 明日、洗うから…。 さやか。 …おやすみ、杏子。 また明日…。 …。 ……。 ……一人で食べても、うまくないよ。 ……。 …なんでもない。 おやすみ、さや ……。 ……か。 …あたし、ここにいてもいいかな。 なに、言ってんだ…。 …いても、いい? ……ここはさやかんちだろ。 そうじゃない…。 ……。 …キス、したんだよ。 ……。 あたし、杏子に……。 …言ったろ、気にすんなって。 …。 ……あたしも、気にしない。 ……。 …さやか、もう少し大丈夫なら。 あたしが食い終わるまで、ここにいてくれよ。 …。 …さやかと一緒がいいんだよ。 ……あたしは。 …。 …杏子にとって、どんな存在なの。 どんなって…。 ……。 さ、さやかは、あたしにとって…。 …ごはん、食べ終わるまででいい? え…え? …いるの。 あ、ああ、うん。 でも、無理はすんなよ。 …自分で言っておいて。 そ、そうだけど…。 …大丈夫、してないから。 じゃあ杏子が食べ終わるまで、ここにいるね…。 ……。 ……。 …さやか、大丈夫か。 ……。 …寝てる、か。 そう、だよな…。 ……。 おやすみ、さや… …。 ぅ、わ…ッ。 ……きょうこ。 さ、さやか、起きてたのか。 …。 そ、それとも、起こしたか。 ごめんな、さやか。すぐに部屋に戻るか ねぇ。 な、なに…。 …今夜は一緒に。 え。 …一緒に、寝て。 な、なにを…。 …たまに、一緒に寝てたじゃない。 勝手に潜り込んできて…。 いや、でも、今夜は調子が …だから、よ。 さ、さやか…。 …だから、そばにいてほしいの。 誰でもない、貴女に…。 あ、う……。 …ねぇ、早く。 で、でも…でも、さやか…。 …やっぱり、気持ち悪い? キス、なんかしたから…。 そ、それは…。 気にしてないって言ったくせに…あたしにも気にするなって、言ったくせに。 終わった事って、言ったくせに。 …それは。 ……無理、だよね。 無理、なんだよね…そんなこと、出来るわけないよね。 ど、どうしたんだ、さやか…。 …さやか? どうしちゃったんだよ…。 …ああ、然うだったね。 う…、…ぐ。 あたしは、美樹さやかだったね。 な、に…言っ、て……。 …杏子。 ……ぅ。 …夢、見よう? さ…や……か……。 …一緒に、甘い甘い夢を。 ……。 …Esta mole…aneta mia… ……。 Sollu noe…a sola… ……。 Y eta mio…a deta sole… ……。 …Estu mole…a dadu… ……。 ……doche……mia…。 …。 ねぇ…耳を塞いだところで、全てを遮断出来ると思っているの? …ぜんぶ、あんたのせいよ。 然う、全部あんたのせい。 …あたしは、いっしょにいられるだけでよかった。 よかったのに…。 莫迦なあたし、愚かなあたし。 あたしはあんたから生まれた、目を背けた所で消えはしないし、耳を塞いだ所で閉ざせるわけじゃ無いの。 ……オクタヴィア。 …一緒に居られるだけで仕合せだった。 それでもあたしは、あの子にキスをした。 切っ掛けを作ったのは、作ってしまったのは、あたし。 それは、其れは紛れも無く、あたしの意思。 …やめて、あたしのなかから、でていって。 出て行く? 何処へ? ……どこでも、いい。 どこでもいいから…。 …そんなに死にたいの? ぐ…。 …言ったでしょう。 あたしはさやか、美樹さやかなの。 そのあたしを失くす事は…自我の喪失に繋がりかねない。 ……。 そして…人の性質なんてものは、然う簡単に変わるものでは無いの。 上辺がどれだけ変わったとしても…根底にあるものは、変わらない。 ……。 …臭い物には蓋をしろとは良く言ったものね。 そんなにこの感情が嫌…?疎ましい…? いえ、憎い…? ……。 …忘れないで。 あたしはあんた、あんたはあたし。 あたしは決して、無くならない。 杏子を想うこの気持ちが消え失せぬ様に。 ……。 …今、こうしている間にも。 杏子の心は移り往く。然う、あたしでは無い誰かに。 …いや、やめて。 だって、其れが人でしょう? うつろうもの、でしょう…? ……。 ね…うつろわざるもののままだったら。 こんなきもち(あたし)、おもいださなくてもよかったのにね…? ……。 きょーこちゃ、きょーこちゃ。 …お。 たべゆー? ああ、ありがとうな。タツヤ。 うぇへへ。 ……。 杏子ちゃん。 …はい? あまり食べてないみたいだけど…その、口に合わなかったかな? いえ、そんな事ないです。 とてもおいしいです。 そうかい? はい。 その、すみません。ご馳走になってしまって。 良いんだよ。 君はまどかの、とても大切なお友達みたいだからね。 パ、パパ。 違うのかい、まどか? …違わないけど。 もう、恥ずかしいよ…。 あはは。 杏子ちゃん、沢山食べてね。 …はい、ありがとうございます。 きょーこちゃ、きょーこちゃー。 タツヤ、身を乗り出したら駄目だよ。 お行儀が悪いよ。 あー。 はは、タツヤは杏子ちゃんが気に入ったんだね。 えへへ。 ……。 杏子ちゃんがいっぱい食べてくれたから、パパ、すごい喜んでた。 作り甲斐があるって。 ……。 えと、杏子ちゃんは枕が変わっても眠れる方? わたしは…えへへ、だめな方なんだ。 ……。 宿題は…どうしよう。 なんとかなるかな…。 ……。 ……。 ……。 …杏子ちゃん、さやかちゃんが心配? …! 顔に書いてあるから…。 ……。 ……。 …まどかの家は、明るいな。 え…。 パパさんのごはん、すっげぇうまかった。 …。 ママさんはまだ帰ってきてないけど…それでも家族がいて、皆でうまいもん食って。 家の中がしあわせで溢れてる。 ……。 …久しぶりに思い出したよ。 家族でごはんを食べていた頃を。 杏子ちゃん…。 …親父がいて、母さんがいて。 それから…。 ……。 …タツヤよりは大きかったけど、妹がいて。 あたしもさ、これでも姉ちゃんだったから、妹の面倒、見てたんだ。 …うん。 …一人で食う飯は、うまくないんだ。 ……。 どんなうまいものでも…全然、うまくないんだ。 ……。 ……ごめん、まどか。 ……。 あたし…。 …そう言うと思ってた。 まどか。 …さやかちゃんは今、一人だから。 杏子ちゃんはやっぱり、さやかちゃんを独りにはしておけないから。 …あたしは。 ううん、いいんだよ。 わたしはいいの。 ……。 わたしね、お姉ちゃんが欲しかったんだ。 …え。 お姉ちゃん。 そうなのか? うん。 優しいお姉ちゃんが…そう杏子ちゃんみたいなお姉ちゃんがずっと、欲しかった。 あ、あたしは、そんな優しい姉ちゃんじゃ…むしろ、まどかの方がずっと優しいじゃんか。 …。 ま、まどか? …いいな、さやかちゃん。 こんなに想ってくれる人がいて。 まどか……。 …ねぇ、杏子ちゃん。 ……。 …さやかちゃんのこと、好き? …ッ。 もしも、好きなら…。 ……。 自分の気持ちにちゃんと向き合わないと…多分、後悔すると思うの。 …でも! ……。 あたしは女なんだ……いくら、好きでも…それは、赦されないんだ…。 …。 …あたしは、望んじゃいけない。 望んだら…壊れてしまう。 家族みたいに……そんなのもう、いやなんだ…。 …杏子ちゃん。 壊れて欲しくないんだ…ずっと、笑ってて欲しいんだ…。 …みんな、同じだよ。 …。 壊れて欲しくなんかない…ずっと、笑ってて欲しい……みんな、そう思ってる。 …まどか。 杏子ちゃん。 …う。 わたしが、ゆるすよ。 …まど、か。 わたしなんかじゃ、だめかもしれないけど…でも。 ……。 だからお願い…さやかちゃんのこと、よろしくね。 ……けど。 …大丈夫。 ……。 …だから早く、帰ってあげて。 さやかちゃん、きっと待ってるから…。 ……。 …杏子ちゃんだけを、ずっと。 ……。 ……。 (…ごはん、食べてない。) ……。 (……ハンバーグ、目玉焼き…それから、サラダ。) ……。 (…サラダは多分、サニーレタスとベビーリーフ。スープも…やっぱり、あった。) ……。 (スープは多分、コンソメ味でキャベツが入ってる。) ……。 (…あたしの好きなもの。さやかは作って、待っててくれた。…けど。) ……。 (一緒に食べる筈の…あったかかった筈のごはんは冷めてしまった。) ……。 (…さやかは、待っててくれた。食べずにずっと。…だけど、あたしは。) ……。 (…あたしは、何をしているんだろう。さやかを待たせて…。 さやかの気持ちから、自分の気持ちから、目を背けて、逃げ出して。) ……。 (……さやかのハンバーグ。ソースとケチャップを混ぜただけのとてもシンプルな。 あたしの好みに合わせて作ってくれたもの。) ……。 (…いつだって、さやかは。…さやかは、いつだって。…それなのに、あたしは。 …いつも、いつでも、さやかにして貰うばっかりで。) ……。 (……さやか。) ……。 ……。 ……。 ……ただいま、さやか。 ……。 …寝てるのか、さやか。 ……。 いや……怒ってるんだよな…。 …。 …いやかもしれないけど、こんなこと、あたしはもう言えないかもしれないけど。 ごはん、一緒に食べないか…。 ……。 …一緒に食べよう。 冷めてしまったけど、温めて…二人で。 …。 あたしが温めるから、だから…さやか。 あたしと一緒に食べてよ…一緒に、食べたいんだよ…。 ……。 …さやかじゃなきゃ、だめなんだよ。 ……。 さや……ぁ。 ………。 さ、さや、か……。 ……おかえり、杏子。 た、ただい、ま……。 ……。 さ、さやか、その……。 …よく、帰ってこられたね? う……。 …でも、嬉しいよ。 あ、ぅ……。 (からだ、が……。) あたしのところに、還ってきてくれて、嬉しい……。 …う、ぅ……。 (あたまが、しび…れる……。) ……だけど。 …、………。 (…この、…かんか、く…は。) …ねぇ、杏子。 あたしが杏子の帰りを、帰ってきて呉れる事だけを信じて…何をしていたと思う? (……なに、を。) …ねぇ、知りたい? ねぇ、知ってよ…杏子。 (…こえ、も……。) 杏子の事を想って…杏子の事だけを想って…自分を、慰めていたんだよ。 (……なぐさ、め。) あたしね…汚いの、汚れてるの。 杏子を穢して、自分を慰めているのだから。 (……。) …ねぇ、まどかと一緒だったんでしょう? あの子は良い子でしょう?綺麗でしょう?あたしと違ってさ。 (……ちが、う。) ねぇ、ああいう子の方が良いよねぇ。 知ってるよ、分かってるよ、でも、あたしはああいう風には為れないんだよ。 女神の様には為れない、所詮、女にしか為れないんだよ。 (…ちがう。) だっ、て……。 (…ちがうよ、…さやか。) ……い、や。 (……さやか。) ちが、う……あたし、は……。 (…さやか、…さやか!) こんなこと、したい、んじゃ、ない……ない、の…。 (…さやかぁ!) ……きょう、こ。 (さやか、さやか、さやか…!) ……け、て。 (……さやかぁぁぁぁ!!) …たすけて、きょうこ。 ……。 ……。 (……みずの、なか。) …。 (……でも、くるしくない。) …ね、苦しくないでしょう? ……。 此処はあたしだけの場所だったけど、今は違うの。 だって、貴女はあたしの特別だから。 (ここは、どこかで…。) 貴女以外の者だったら、とっくに、死んでいるところなんだよ? (あたしはここで、いつも、さやかを……いや。) ねぇ、目を開けて。 (……まっくらだ。) 光が欲しい? そんなの無くたって、見えるわ。 あたしには貴女の顔が良く見える。 貴女だって目を開けてさえ呉れれば、あたしの事が良く見えるわ。 (……。) だから…目を開けて、あたしを見て。 ねぇ…杏子。 (……。) ……いつまで、目を閉じているの。 …。 ……目を開けて、あたしを見てよ。 (……さやか。) あたしだけを、見てよ…。 (……。) …杏子。 (……おまえは、さやかじゃない。) ……。 (…さやかは、どこだ。さやかを、かえせ。) あたしは美樹さやか。 他の誰でも無いわ。 (ちがう。) 違わない…違わないんだよ、杏子。 (……う。) ねぇ、杏子。また、夢を見よう? 甘い、甘い、二人だけの夢、二人だけしか居ない世界、二人だけが息衝いている場所。 (……。) …何度も、あたしを抱いて呉れた。 あたしを愛して、狂うように喰らって呉れた。 (……おまえは。) 好きだと…愛していた、と。 また、囁いて…。 (……。) …あたしは、美樹さやかなの。 貴女が恋しくて…愛おしくて、心が千切れてしまう。 貴女が愛して呉れなければ、あたしはあたしを保てない。 ……さやかは、そんなによわくない。 ……。 さやかを、かえせ。 おまえはさやかじゃない。 …どうしてそんな事、言うの。 ……。 あたしは、美樹さやかだよ。 あたしだって、美樹さやかなんだよ。 …。 否定、しないで。 あたしを。 ……。 …たすけて、たすけてよ。 杏子……。 ……名前を、教えて。 ……。 お前の名前を。 …あたしは ……。 …杏子もあたしを否定するの。 認めて、呉れないの。 ……。 …一緒に居て呉れるって、言ったじゃない。 …。 独りぼっちは寂しいって、言って呉れたじゃない…。 ……おまえ。 ひとりに、なりたくない……なりたくない……きえたくない…。 …。 あたしを、みて…あたしを、ほしがって…あたしがいなければ、いきられないって、いって…。 ……それは、お前の願いなのか。 ……。 …さやかの、願いなのか。 ……然うよ。 これがあたしの、美樹さやかの願い…。 ……。 …叶えられるのは、貴女だけ。 あたしを、満たせるのは……だから、杏子。 …さやかと話がしたい。 ……。 …あたしが好きなのはさやかなんだ。 ……。 …お前を否定してるわけじゃない。 お前も…いや、お前はさやかの一部なんだろうから。 ……。 …そうなんだろう、オクタヴィア。 …! 知らない名前…でも、いつか、何処かで。 ……。 …いや、いつも此処で。 ……。 あたしは…さやかが、好きだ。 きょう、こ……。 ずっと笑っていて欲しいって、思ってた…願ってた。 それなのに…あたしが、苦しめてたんだな。 ……。 …壊れるのが、恐かった。 あたしは一度、壊してしまったから…。 ……。 …あたしは、二度も、破る。 やぶる…? …うちが教会だったのは、知ってるだろう? ……。 …小さい頃から、だから。 この身にそれは染み付いている…筈だった。 だけど……心までは、縛れなかった。 ……。 …あたしは、さやかが好きだ。 それは…その心は、何人にも、縛れない。縛られない。 そう、自分さえも。 ……きょうこ。 さやか…。 …ん、ぅ。 ……。 ……。 …目を開けて、さやか。 開けて、あたしを見て。 ………。 …あたしは、ここにいるよ。 ずっと、さやかの……。 ………あぁぁぁ。 …。 んー……。 …オクタヴィア。 あ。 オクタ。 オフィーリア! と。 何処へ行っていたの。 起きたら居ないから。 何処にも行ってない。 嘘。 嘘じゃない。 あたしの手の届く場所に居なかったら、其れはもう、居ないと同じなの。 あたしの目が貴女の姿を捉えられなかったら、其れはもう…貴女は、あたしを捨てた事になるの。 ……オクタ。 何処にも往かないで。 傍に居て。 片時も、離れないで。 …。 …ずっと、あたしに触れて居て。 ……。 オフィ…。 …理が、塗り替えられた。 え…? …直、此処も消えて無くなるだろう。 きえて、なくなる…。 今、こうして居る間にも…世界は変わり続けている。 オフィ、何を言っているの…? 此処だけは守りたかった…けれど、ほんの少しの例外すら、許されなかった。 未来も過去も、平行する世界すらも…。 オフィ…ねぇ…。 …オクタ。 消えて無くなるって…そんな事、無い。 ねぇ、無いよ…無いんだよ…。 …もう、時間が無い。 オフィ、オフィ。 …大丈夫だよ、オクタ。 仮令、此の場所が消え失せても…あたしは忘れない。 やだ、嫌だよ、オフィ。 あたしを離さないで、離れないで、独りにしないで。 …しない。 約束、しただろう? じゃあ、消えるなんて言わないで。 ずっと此処で、あたしと生きて。 …。 …然うだ。 ねぇ、聞いて? あたしのお腹の中にね、オフィの子供が出来たんだよ。 …子供? 卵が、孵ったの。あたしの中で。 ずっと、欲しかったもの、ずっと二人が望んでいたもの、やっと出来たんだよ。 …然う、か。 あたしと、オフィの子供……。 …あたしと、オクタの子供。 ねぇ、嬉しい…? ねぇ…? …ああ、嬉しいよ。 本当? …ああ、本当だ。 良かった、嬉しい…。 何時(いつ)、生まれるんだ…? 其れは…。 …会えないんだな。 …! そんな事…! ……来た。 あ……。 …オクタ、ずっと忘れない。 此処で過ごした事、お前と触れ合った事、全て。 だから…。 オフィ、オフィ……。 …お前も、忘れないで。 何で、何でよ…。 ……。 何でそっとしておいてくれないのよ…! やっと、やっと、欲しいものを手に入れたのに…! …ずっと、一緒だ。 嫌、いやぁぁぁぁ…。 ……。 オフィ、オフィ…! …畜生。 恐い、恐いよ…。 …神が、何だ。理が、何だ。 巫山戯んな…!! あぁ…。 あたしは、あたし達は生きてたんだ…!! 仮令、絶望から孵化まれた存在だったとしても…!! …オフィ…オフィーリア…。 あたしが誰であろうと!どんな生まれ方であろうと! あたしの命はあたしのもんだ…!オクタだけのものだ…!! 其れを神なんぞに…!! オフィーリアぁぁ…。 オクタヴィア。 …。 強く…強く、掴まっていろ。 二人が、離れてしまわないように…強く。 …オフィ。 オクタ。 …オフィはあたしを、強く抱き締めていて呉れる? ああ…当然だ。 ……。 オクタヴィア……さやか。 …きょう、こ。 …そして、世界は終わったのか。 ……。 …あの夢は、あいつの心を紡いだものだったのか。 オクタヴィアは。 ……。 …オフィーリアを待ってた。 ずっと、待ってた…だけど。 …。 …あたしはかつて、円環に導かれ。 杏子は……。 ……あたしは、逝かなかった。 円環であたしは、全て知った。 あらゆる世界の美樹さやかを、オクタヴィアを。 …。 …最期まであたしを見ていてくれたのは杏子。 あたしが最期に見ていたのは、杏子…。 …そう、なのか。 そうだよ…あんな事されたら、見ない事なんて、出来ないもの。 ……。 …命さえ懸けても良いと思って願った。 だけど、本当に命を懸けられたのは…あたしだった。 ……。 …オクタヴィアは確かに、恭介への想いで生まれた。 でも……あたしはあの時、己では抱え切れない程の想いを抱いてしまった。 それはあたしであるオクタヴィアにも…。 ……。 そして…オフィーリア。 ……。 …いつか、どこかであった、世界で。 あたしの想いを抱かされたオクタヴィアは…命を懸けて、オフィーリアに恋をした。 同じように、オクタに命を懸けてくれた…ううん、違う、自分を棄ててしまったオフィに。 …オフィーリアはあたしだったのか。 かつて、杏子から孵化まれたもの…絶望し、完全に自分を棄ててしまった者。 それは…さやかを失ってか。 ……。 …それしか、考えられないからな。 ……ごめんね。 なんでだよ…。 …あたし、どこの世界でも本当にばかだったから。 自分の正義を振りかざして、時には自分の好きな人の事ばかり優先して。 大事な友達さえ傷つけて…最期には、あんたまで。 …後悔は、してないさ。 …。 あたしが勝手に、そうしただけさ。 …杏子はいつだって、あたしを独りにしてくれなかった。 ……寂しいからな。 ……。 ……。 …オクタは、ずっと、待ってた。 円環で…ずっと、ずっと、ずっと。 ……。 …オフィが迎えに来てくれる事を。 オフィの腕にまた、抱かれる事を。 …オクタヴィア。 だから…杏子があたしと一緒に、理にならない事を知った時。 あの子は泣いた…寂しさで、胸が引き裂かれる程に。 …だけど、いつかは。 そうなんだけど…。 …そう、だな。 結局、あたしは人としての生を取り戻して…あの子は、消えそうになった。 だけど、あの子もあたしだったから…。 …。 …想いが、溢れてきて。 どうにもならなくなった…。 …それは あたし。 …。 そう…あの子は、あたし自身なのだから。 ……。 ……。 ……。 …杏子。 …。 杏子。 …え、なに? ふふ…。 な、なんだよ…。 …目が真剣過ぎ。 は? そ、そりゃ、お前…。 ……。 …さ、さやか。 うん…? その…痛かったら、言ってよ。 …言ったら、どうするの? ど、どうするって…。 …忘れちゃった? あたし、その気になれば痛み消せるんだよ…? あー…。 …でも、しない。 そしたら、分からなくなっちゃうもの…。 ……。 …杏子の感触、出来るなら、全部覚えておきたい。 ぜ、全部か…。 …そ、全部。 ……。 …杏子の家ってさ。 お、おう…? …こういうの、本当は駄目なんでしょ。 ……。 …二度、破るって言ってたから。 ああ…。 …一度目は。 あたしが生きている事、そのものなのかもしれない。 ……。 …生きる為とは言え、教えに背いたから。 ……杏子。 …。 ねぇ…これもやっぱり罪になるの? …。 杏子…。 ……ああ、そうだよ。 …だったら、 さやか。 …あぁ、ん あ。 ……。 …え、と。 なに…。 ……。 …つづき。 ……。 ……。 …さやか。 なぁに…。 …一緒にいてくれ。 どんな場所でも、あたしと一緒に。 ……。 …そしたら、どんな罪でも背負えるから。 生きて、いけるから…。 あたしにも分けてね。 え…。 …ひとりより、ふたりで。 ね…。 ……さやか。 ……ありがとう、杏子。 ずっと、言いたかった…。 ……。 …あなたが、好き。 うん……。 …杏子、は。 さやかが、好きだ…。 …はい。 ……。 ……。 …え、えと、さやか? 目が、真剣過ぎ…。 …だから。 と言うか、なんでそんなに平気そうなんだよ…。 …。 ……。 …あたし、初めてじゃないから。 え……え? …ごめんね。 そ、そうなのか…! …うん、そうなの。 ま、まさ、か、か、 …言えてないけど。 あ、あのぼ、坊、…あいつとか!? ……え、そこ? そ、そう、なんだな……。 …と言うか、泣きそう。 ……。 …ばーか。 ふが。 …半分、冗談。 ひゃ、ひゃんふん…? ……そう、半分。 は、半分って…。 …やっぱり、初めての方が良かった? べ、別に……。 ……えい。 え、さや……? オフィーリア……。 ………あ。 ……。 あ、あ……。 …ね、半分だったでしょう? ……だ、だったら。 …。 …あたしも、そうだ。 かな…。 ……ごめん、さやか。 なんで…? …だって。 でも、今のあたしは初めてだから。 …いま、の。 杏子は…こういうこと、体験済み? ば、ばか…! そんなわけ…!! …じゃあ、あたしが初めて? あ、当たり前、だろ…。 ……そっか、良かった。 ……。 …なんか、変だね。 そう、だな…。 ふふ…ふふ…。 さやか…あたし。 …うん。 さやかが、好きだ…。 ずっと、笑っててほしい…。 …。 …あたしの隣で、ずっと。 うん…だからずっと、隣にいさせてね…。 ……。 ……ねぇ。 ん…。 …まどかの家で何、食べてきたの? ………今、聞くか。 だって…あん。 …後で、さやかの作ったごはん、食うから。 だけど…。 …食うって言ったら、食うんだ。 さやかと一緒に…。 …きょうこ。 ……もう、離さないからな。 …。 ……。 …こんな時間に食べたら、太っちゃう。 ………さやか。 きょうこ…はやく。 …ぅ。 はやく、…して。 いただきます! はい。 どうぞ、召し上がれ。 さやかは食わないのか? うーん、この時間だとねぇ。 寝る腹に、と言いますし。 食ってないんだろ? 腹、減ってないのか? …うん、まぁ。 本当に減ってないのか? 食わないでいいのか? 寝る時にひもじい思いをさやかがするのは、あたしはいやだぞ。 …え、と。 杏子さん。 なんだ? 正直な事を言いますと、あたくし、ごはんどころではありませんでした。 あ? 帰ってきて、見たと思うけど。 ごはんの支度だけ、してあったでしょ? お、おう。 杏子が帰ってくるまで、食べない。 だって一人で食べてもおいしくないから。 ……。 …。 …杏子がいなくちゃ、だめなの。 ごはんも、食べられない……。 ……。 そういうわけ、だから。 ……ごめん、さやか。 …。 …あたし、さやかにひどい事言った。 うん…。 ……ごめんなさい。 …でも帰ってきてくれたから。 さやか……。 なんて、言うと思った? ふが。 残念、さやかちゃんはそこまで優しくないのでした。 …ひゃやかぁ。 ……。 …や、やっぱり、お、おこってるのか。 怒ってない。 ただ、寂しかっただけ。 …。 …寂しかったの。 ……うん。 …杏子が帰るべき場所はあたしだから。 他の場所なんて、だめだから…。 …。 …「あたし」は自分に嘘は吐けない。 そんなに器用じゃない…。 …さやかは、真っ直ぐだ。 だからある意味、杏子の言ってる事は当たってるの。 …? 今のあたしは…杏子にしか興味が無い。 杏子の事、もっと知りたい…もっともっと、教えて欲しい。 さやか…。 …躰の事も含めて。 ぶ…ッ。 ……。 ……。 …だって、なんか悔しいじゃない。 く、くやしいって…。 …だって、そうじゃない? あ、あたしは、別に…。 …オフィの方が良かった。 な…ッ! ……。 さ、さやか…ッ! …ほら、ね? そ、それは…。 …オクタ、かも。 …ッ! ……ね、悔しいでしょ? あ、ああもう…ッ。 …だから、ね。 ……。 杏子…? 怒った…? …今に見てろ。 え…。 今に見てろって言ったんだ! ……。 と、とりあえず、飯だ。 …そういうとこも、好きだな。 う、うっせ、ばか。 ……本当、好きだよ。 ……。 …さっきの熱がね、躰に残ってるの。 ……。 今夜は…多分、消えない。 ううん、ずっと消えないけど…でも。 ……。 …杏子。 お前、さやかか…? …。 それとも…オクタヴィア、か。 …どっちでも良いじゃない? 何れにせよ、あたし、なんだし…。 う…。 ねぇ…杏子? …だぁぁッ! わ…。 さやかを返せ、さやかを。 …ちぇ、詰まらないの。 と言うか、いつから…。 …後で慰めてね? 傷、舐めるように癒して…。 オクタ。 ……はぁい。 ……。 ……えーと。 …。 …あれもあたしなんだ。 ……。 嫌…? …嫌じゃない。 だけど少し…困る。 …… なんと言うか……困る。 …ごめんね。 謝る事じゃない。 さっき言ったろ、今に見てろって。 …うん、そうだったね。 ……。 きょーこ。 …なんだい。 ごはん、食べようか。 一緒に、さ? …。 杏子と一緒だから、お腹、空いてきちゃった。 そうか。 今日はね、杏子の好きなハンバーグにしたの。 それから、杏子は放っておくと野菜を食べないからサラダと、キャベツのコンソメスープ。 ぜーんぶ、あたしの… …。 …想いが、詰まってるから。 だから、残さず食べてね。 当たり前だろ。 食い物は粗末にしない。 言うと思った。 それ以上に、さやかの想いを粗末にしない。 出来ない。 …。 食べようぜ、さやか。 一緒に。 …うん、杏子。 じゃあ、 …でもあまり食べちゃったら、お腹、出ちゃう。 …。 だって…。 …お腹いっぱい、食わなきゃいいだろ。 残ったら、朝に食べればいい。 …ん、そうする。 よし…じゃあ。 …改めて。 『いただきます。』 …あたしの中にもオフィーリアはいるのかな。 ん…。 …さやかの中に、オクタヴィアがいるように。 うん…。 ……。 …あの子達は、人の性質のようなものだから。 性質、か…。 ……。 …どんなだったんだろう。 気になる…? …いや。 ……。 …さやか、髪の毛。 目に入りそうになってる。 えへへ…さーんきゅ。 …。 …あたしは、恋慕だった。 れんぼ…。 …恋しくて、恋しくて。 今でも、恋しく想ってる…。 …今でもか。 そうだよ…。 …ん。 杏子が恋しい…愛しい。 ……さやか、くすぐったい。 …ふふ。 ……。 …オフィは、自分を棄ててしまった人だった。 放っておく事なんか、出来なかった…だって。 ……。 …あたしを何度も救ってくれた人だから。 諦めないで、助けようとしてくれた人だから。 …。 だけど…今思えば。 杏子もそう、生きてきたんだね。 利己的に振る舞って…自分を棄てて。 …さやかが、思い出させてくれたんだ。 …。 …だから、あたしがあたしを取り戻せたのはさやかのお蔭なんだ。 いつの時間でも、さやかがいてくれたから。 …でもいつだってあたしばかり、堕ちて。 それに杏子も巻き込んだ…。 …あたしは巻き込まれたなんて、思っちゃいない。 あたしがあたしで決めた事なんだ。 ……いつだって、強かった。 あたしはいつだって、弱かった…。 …さやかは弱くなんかない。 ただ、時間が無かったんだ。 …だけど。 もう、言うなよ。 ……。 …やっと、結ばれたんだ。 もう、離さないし…離れない。 杏子…。 …待たせて、ごめんな。 ううん……。 ……。 …いつか、ね。 うん…? …さやか、さやかって。 そう…小学生の男子みたいな杏子と過ごしていた時があったの。 小学生男子って…。 …もう、無邪気でさ。翳なんかまったく、無いの。 しかも宿題はやらないし、テレビばっか見てるし、とにかく遊んでばっかりで…本当、手のかかる弟って感じだったかな。 弟いないから、分からないけど…。 …おとうとかよ。 けどね…そんな杏子も、あたし、大好きだった。 知らない、見たことが無い杏子だったけど…きっと、こんな杏子も杏子の中にいたんだって。 ……。 …あたし達に若しも、子供が出来たら。 あんな子が良いな…。 …と言うか、忘れてよ。 なんで…? …なんでも。 可愛かったのに…。 …忘れろ。 いや…忘れない。 …さやかぁ。 ……ふふ。 ……。 …ねぇ、杏子。 なんだよ…。 …愛してくれて、ありがとうね。 ……。 …これからはずっと、一緒に寝ても良いよね。 杏子の恋人として…。 後編 |