…。


   ……。


   …。


   ……ま。


   …。


   …さま。


   …。


   …ねえさま。


   ……う。


   ねえさま。


   …。


   ひえい、ねえさま。


   ……な。


   ひえいねえさま。


   …あぁ。






   …やっと、みつけました。





   …ぅ。


   …姉さま。


   …。


   比叡姉さま。


   ……はるな。


   …そろそろ起きて下さい、姉さま。


   ……。


   …比叡姉さま。


   はるな…?


   …はい、榛名です。


   ……。


   ん…。


   ……ほんとうに、はるなだ。


   …姉さま、未だ夢の中に居らっしゃるのですか?


   ゆめ…。


   …夢を見るのはもう、お仕舞いにして。
   目を開けて…。


   …。


   ……榛名を、見て下さい。


   …。


   ………比叡さん。


   …榛名。


   ……お早う御座います、比叡さん。


   ん……お早う御座います、榛名。


   …いつも、思うのですが。
   お昼寝の後でも言うものなのでしょうか…?


   ……起きたらやっぱり、お早うだと思うんです。
   それがお昼寝だったとしても。


   ……。


   何より…目が覚めた時、誰よりも大事に想っている人に言って貰えると、嬉しい。


   ……比叡さん。


   だから…榛名。


   はい…。


   ……。


   改めて…お早う御座います、比叡さん。


   はい…お早う御座います、榛名。


   ん…比叡さん。


   …ふふ。


   榛名の頬に何か付いていますか…?


   …笑顔が。


   笑顔…?


   …榛名の笑顔が。


   それは…付いているとは言わないと思います。


   ……。


   …くすぐったいです、比叡さん。


   ……きれいになったなって。


   え…?


   …元々、榛名はきれいだったけど。


   ………。


   …きれいです、榛名。


   ……もぅ。


   ん…?


   …そういう事、言わないで下さい。


   …?
   どうしてですか…?


   …どうしても、です。


   ……。


   …。


   …顔が赤くなった榛名は、かわいいですね。
   とても、とても、かわいらしい…。


   だから……もぅ。


   …。


   ……本当に起きて下さい。
   じゃないと…。


   …もう少し、こうしていたいんですが。


   駄目です。


   ……あと、もう少しだけ。


   あ…。


   ……榛名の膝枕、好きなんです。


   …そんな事言っても、駄目です。


   む……。


   ……さぁ、起きて下さい。


   …榛名。


   ……駄目です。


   …。


   …寝かせておいてあげたい気持ちはあるんです。
   でも…。


   ……榛名、顔を。


   え…?


   …顔を。


   ……。


   …近づけて、呉れませんか。


   ……いや、です。


   …。


   ……だって。


   だって…?


   ……此処は外、です。


   …誰も居ませんよ。


   そういう問題じゃ…ありません。


   では…どういう問題ですか?


   ……外、なんです。


   でも。


   …ん。


   ……姉さまと、呼んでいない。


   …。


   …ふたりしか、居ませんよ。
   今、此処には…私達しか。


   ……。


   榛名…。


   ……約束、して下さるのなら。


   約束…ですか。


   ……ちゃんと、起きて下さると。


   …。


   …約束、して下さい。


   ……分かりました、約束します。


   …。


   …。


   …少しだけ、ですよ。


   …。


   少しだけ…ですから。


   …はい、少しだけです。


   約束、守って…あ。


   ……。


   ……。


   ……。


   ………ひえい、さん。


   …有難う、榛名。
   約束は、守ります。


   ……。


   …よ、と。
   んーーーーー。


   ……。


   あぁ、良く寝ました。


   …良く、寝てました。


   ……。


   …何ですか。


   やっぱり、きれいになりました。


   …ッ。
   もう…。


   あ。


   …私、先に行きます。


   私も行きます、一緒に行きましょう。


   ……嫌です。


   榛名。


   …。


   榛名。


   ……。


   榛名。


   ……もう。


   …。


   …。


   …手、良いですか?


   ……はい。


   …。


   …。


   …では行きましょうか、榛名。


   はい…比叡さん。








   お、今日も今日とて仲睦まじいじゃない?


   伊勢。


   …伊勢。


   手、離さなくたって良いって。
   今更、なんだからさ。
   ねぇ、比叡?


   んー、然うですねぇ…。


   ……。


   知らない子、今となってはもう居ないんだし。
   もっと堂々といちゃいちゃしてれば良いのに。


   んー…。


   ……知りません。


   まぁ、良いけどね。
   で、なになに?二人でお散歩?


   いえ、お昼寝をしてました。


   …。


   昼寝?ふたりで?


   いえ、私だけ。


   …。


   それ、どうなの。
   比叡が寝てる間、榛名はかなり退屈してるんじゃないの?
   折角、ふたりで居るのに。


   それは…。


   …榛名は、大丈夫です。


   えぇ、ほんとかなぁ。


   …ええ、と。
   榛名が傍に居て呉れると良く眠れて。


   …。


   いっそ、ふたりで寝れば良いのに。


   私はそれでも良いんですけど…。


   …膝枕が出来ません。


   膝枕?
   ああ、膝枕ねぇ。
   比叡って案外、助平よね。


   え、何でですか。


   …。


   榛名の太腿が好きなんでしょ?
   感触とか、温もりとか、匂いとか。


   えと、それは……。


   ……伊勢。


   榛名もそれでしあわせを感じたりしてそうだし。
   でもさぁ、それでもひとりで寝てるのはどうかと思うけどなぁ。
   今は良くても長い目で見たら、ね。


   …。


   …榛名はそれでも構いません。


   ま、ふたりの勝手だからね。
   良いんだけどね。


   …。


   …ところで、伊勢。
   伊勢は何をしていたの。


   私?
   鬼ごっこ。


   …鬼ごっこ?


   鬼ごっこって?


   うちの、ちびっこと。


   木刀を持って、ですか?


   鬼ごっこって木刀は要らないわよね…?


   いやいや、流石にそろそろ丸腰じゃね。
   命、取られかねないし。


   …。


   思ってたのだけど…どんな鬼ごっこなの、それ。


   なかなか良いわよ、楽しくて。
   比叡、今度一緒にやってみない?
   稽古代わりに、ね。


   然うですねぇ…。


   …やるのですか、姉さま。


   いつでも声を掛けて。
   うちのちびっこ、いつだってやる気満々だから。


   はは…考えておきます。


   …出来れば止めて下さい、姉さま。


   に、しても。


   …榛名、そんなに強く握らなくても大丈夫ですよ。


   …面白がってやりそうなんです、姉さまの場合。


   榛名、大きくなったよねぇ。然う、大人になったと言いますか。
   ねぇ比叡、そろそろ、良いんじゃない?


   …。


   …。


   そういえばさ、榛名が未だちびっこだった頃にさ?
   外で昼寝をしてる比叡を探して、泊地内を走り回ってた事があったよね。
   一度だけじゃなくて、何度か。


   …ああ、ありましたね。


   …それが何でしょうか。


   その姿を見て、いつも、何かに似てるなぁと思ってたんだけど。
   今、分かったのよ。
   何だと思う?


   んー…何だろう?


   …榛名は、榛名です。


   あのね、豆柴。
   ちっこい躰、短い手足を精一杯動かして一所懸命にとてとてと走ってるのがなんとなーく豆柴っぽくて。


   マメシバ…?


   …それって。


   柴犬は知ってるでしょ?
   それの大きくならない版。


   …。


   ……伊勢。


   いやさぁ、似てたんだよねぇ。
   実際の豆柴は見た事無いんだけど。


   小さい柴犬…子犬?


   見た事無いのに、どうして似てるって分かるの。


   好きな人を探して走り回ってるんだもの。


   …。


   だからってどうして犬なの。
   犬じゃなくても


   でも、猫ではないでしょ?


   ……うん、可愛いかも。


   …比叡姉さま?


   でも今となっては榛名の方が飼い主みたいだけどね。
   いや、比叡は最初から飼い主ではなかったか。


   …え?


   伊勢、それはどういう意味…?


   離しちゃ駄目よ〜?
   ま、離しても離れないでくっついてそうだけど。


   …何を?


   伊勢、何を言っているの?


   んふふ、なんでもなーい。
   さて、そろそろ行こうかな。
   うちのちびっこが





   いせ…ッ!





   …と、来たわね。
   比叡、榛名、離れて。


   みつけたぞ!


   だから、何?


   やあぁぁ…っ!!


   …甘いッ!!


   あ…!


   そんなんじゃ一生、私からは一本は取れないわねぇ。
   いつまで経っても、ひよこのままってね。


   …くそ。


   じゃ、比叡、榛名。
   またね。


   あ!


   ちびっこ日向、悔しかったら私から一本取って見なさいな。


   いせ、まて…ッ!


   待たなーい。
   さんざ待ったから、もう待ちたくなーい。


   いせーーー!!








   …あれは鬼ごっこと呼んでも良いんですかねぇ。


   どうでしょう…でも、普通のではないですよね。


   寧ろ、ちゃんばらごっこのような…。


   …やらないで下さいね。


   いや、流石に…私、一応高速戦艦だし。


   ……。


   ほら、足の速さが…。


   …そういう問題ではないです、姉さま。


   …。


   …。


   …ねぇ、榛名。
   前から、思っていたのですが。


   …はい、何でしょうか。


   榛名と伊勢は仲が良いですよね。
   話し方が砕けてて、正直、少し羨ましいです。


   …それを言うのなら、姉さまと霧島だって然うです。


   霧島?


   …どうしてですか。
   私には、その…丁寧なのに。


   どうして…あまり、深く考えた事は無いですが。


   …やっぱり、一緒に居た時間が長いからでしょうか。


   それもあるかも知れませんね。


   ……私にも然うして欲しいです。


   榛名にも…?


   ……。


   …え、と。
   じゃあ、これからなるべく然うしま…然うするね。


   ……はい。


   だから、榛名も。


   …無理です。


   えぇ。


   ……。


   んー…。


   …。


   しかし伊勢は日向が来てから、とても、楽しそうですよねぇ。


   …ずっと、待っていましたから。


   気持ち、分かるんですよね。
   私もずっと、榛名を待っていたから。
   榛名が来て呉れた日の事は多分、いや絶対、忘れない。


   …姉さま。


   今はふたり…なんだけどな?


   …いつ、誰と会うか分かりません。


   いつでも名前で呼んで欲しい…の、だけど。


   …。


   …未だ、恥ずかしいですか?


   ……。


   …まぁ、焦らないから良いですけどね。


   あの…姉さま。


   うん、何ですか?


   …若しも、榛名が未だ来ていなかったら。
   それでも、待っていて呉れましたか…?


   勿論。
   私はずっと、待ってますよ。


   …。


   榛名が好きですから。


   ……比叡さん。


   はい、榛名。


   …あ。


   ……やっぱり名前だけで呼んで欲しいな、皆の前でも。


   …。


   …今とは、言わないけど。
   でも…いつかは。


   ……頑張ります。


   …気合、入れて?


   ……全力で、です。


   ふふ…そっか、然うだった。


   …あの、比叡さん。
   近い、です…。


   …うん。


   うん、ではなくて…その。


   榛名は離れて欲しい…?


   ……。


   …ん?


   ……面白がっていません、か?


   面白がってはいませんよ…可愛いなぁ、とは思っているけど。


   …やっぱり、面白がっています。


   ……キス、しても良いですか。


   な、なんでそうなるんですか…。


   …近いので。


   ……さっき、しました。


   …榛名。


   …。


   ん……?


   ……。


   ……ええ、と。


   …しまし、た。


   …。


   ……しました。


   あ……はい。


   …。


   …。


   …比叡さん、頬が赤いです。


   ……うん。


   …。


   えと…これは一本取られた、かな。


   ……ふふ。


   榛名…。


   …もう、駄目です。


   ……はい。


   …。


   …榛名、私って助平なのかなぁ。


   はい…?


   榛名の膝枕、好きだし…。


   ち、違うと思います、けど…。


   …無性に触りたくなる時があるし。


   え…。


   ……。


   あ、あの…比叡、さん。


   ……榛名は、ありませんか。
   その、私に…。


   …ッ。


   …あ、いえ、そのぅ。
   い、いつもではないですから…うん、いつもじゃないから。


   ………あり、ます。


   え。


   ……わたし、だって。


   …。


   …。


   ……榛名。


   い、今は、戻らないと…。


   …。


   …いまは、だめ、です。


   ………はい。


   …でも、その。


   …。


   …。


   でも…なんですか。


   ぁ…。


   ……はるな、つづきがききたい。


   あ、あの……だから、その。


   …。


   あ、あの、あの、ですね……。


   は、はい…。


   ………あと、で





   いちゃいちゃ、してるのか?





   …へ。


   …え。


   それがいちゃいちゃするって、ことなのか。


   …日向?


   な、なんで…え、なんで…?


   いせがいつもいってるんだ。
   ひえいとはるなは、なかがいいから、もっといちゃいちゃしたいと。
   したくてしかたない、と。


   は、はい…?


   ひゅ、日向、どうしてここに居るの…?
   伊勢を追いかけていったんじゃ…。


   みうしなった。
   あいつはにげあしがはやい、やっかいだ。


   そ、然うですか…。


   え、えと、追わなくても良いの…?


   もちろん、おう。
   じゃましたな、すまん。


   あ、いや、別に邪魔は……続きは、聞きたかったけど。


   ね、姉さま…。


   ひえい、はるな。


   な、何でしょう…?


   な、なに…?


   いちゃいちゃしたいのだったら。
   すればいいとおもうぞ。


   な…。


   ひゅ、日向…ッ!


   それとも、してはだめなものなのか?


   あ、いや、駄目ってわけ、じゃ…。


   …此方を見ないで下さい、姉さま。


   ふむ…?


   …。


   …。


   まぁ、いい。
   はるな、よかったな。


   …?


   …え?


   ひえいと、あえて。
   こんごうと、きりしまと、あえて。


   ……。


   ……。


   ひえい、はるなをひとりにするなよ、もう。


   …もう、しない。
   もう、しない。


   姉さま……。


   うん、ならいい。
   さて、いせをおわなければ。


   ……榛名、私は。


   …。


   それにしても、いちゃいちゃとはなんだ?
   いせは、しらないことばをいうから、こまる。


   ……え、と。


   …あぁ、もう。








   …。


   …。


   …あの、榛名?


   ……何でしょうか、姉さま。


   …。


   …。


   …その、さっきの続き、は。


   ……。


   えと…伊勢、何処に行ったんでしょうね。


   …何処でしょうね。


   伊勢って、そんなに逃げ足早かったでしたっけ…?


   …日向は此処に来て未だそんなに経っていないので。
   此処を熟知している伊勢には…。


   …。


   …姉さま、その手は何でしょうか。


   や、その…何でしょう?


   …榛名に聞かれましても。


   そ、然うですよね……うん。


   …。


   …。


   …でも、下ろされないのですね。


   な、何ででしょうね…?


   ……榛名に、聞かれましても。


   …。


   …。


   は、榛名。


   …だめ、です。


   …。


   ……いまは、だめです。


   …。


   …いま、は。


   ごめん…ッ!


   え…きゃ。


   ……。


   ね、姉さま……。


   ……ごめん、榛名。


   だ、だめ


   む、無性に…!


   …ッ。


   …無性に、榛名に、触れたいです。
   触れたくて、触れたくて…あ。


   ……。


   は、榛名…。


   ……流されてなんて、だめです。


   な、流されて…?


   …日向に、言われたから。
   だから、姉さまはそんな気になったつもりで…。


   ち、違う、違います、榛名。


   …とにかく、だめです。


   は、榛名は。


   …。


   榛名は…私、に。


   ……がまん、できなくなってしまうから。


   え…。


   …だから、いまは。


   ……。


   …。


   ……私は、榛名に、触れたい。


   …。


   ……榛名は、どうですか。


   …。


   それだけ…それだけ、聞かせて下さい。


   ………。


   …。


   ………触れたくないわけ、ないです。


   …。


   …触れて欲しくない、わけ。


   ……。


   ……。


   …有難う、榛名。


   ……姉さま。


   うん…良し、行こうか。
   いい加減にしないと…ね。


   …。


   …?
   榛名…?


   …。


   えと…どうしましたか…?


   ……ごめんなさい、比叡さん。


   え、何がですか…?


   …ごめんなさい。


   どうして、謝るの…?


   ……。


   …榛名。


   ………だめだと言ったのは、榛名なのに。
   なのに…。


   …私は、嬉しい、です。


   ……。


   少しだけ…少しだけ、良いですか。


   …。


   ……榛名。


   …比叡、





   どーん!でちーー!!





   …ぐえッ。


   え、あ…きゃあッ。


   もう、もどかしいんでち!


   …い、いたた。


   ……うぅ。


   どっちでもいいから、さっさと押し倒しちゃえばいいんでちよ!
   どーんと!


   は、榛名、大丈夫?


   ……榛名は、大丈夫、です。


   まったく!


   ゴーヤさん、いきなり何するんですか…って、居ない!!


   榛名、は、だいじょう…


   な、何だったの…。


   ……。


   榛名、本当、に…?


   ……。


   ……あ。


   …。


   ご、ごごごめん…ッ!!!


   ……はるなは、だいじょうぶ、です。


   す、直ぐ、退けますから、退けま…え。


   ……。


   は、はる、な…?


   ……比叡さん、が。


   は、はい…。


   ……かばって、くれましたから。


   え…?


   …。


   あ、ああ。
   いや、その、あ、あれです、受け身が間に合って良かった、うん、良かったです。
   咄嗟でしたけど、ほんとに、良かった。


   …。


   ……ええ、と。


   …ぁ。


   …!


   ……ひえい、さん。


   榛名……。


   ……。


   …榛名。


   ………ひえいさん。





   …あのぉ、すみません。





   ……。


   ……。


   何があったのか、私には分かりませんけど…。
   こんな所で転がっているのは、流石に、どうかと思います…よ?


   ……はい、すみません。


   …はい。








   ……。


   比叡。


   …。


   Hey、比叡。


   …あ、はい。
   何でしょうか、お姉さま。


   ぼんやりしているようデスガ。
   何か考え事でもしていたノ?


   考え事…あ、いえ。


   歯切れが悪いデスネ。


   …その、榛名の事を。


   榛名の事?


   …大丈夫かなぁ、と。


   …。


   …やっぱり、心配で。


   それは私も同じネ。


   出来れば一緒に出たいんですけど…。


   それは私達が決める事では無いワ。


   …分かってるんですけど。
   でも、榛名の背中は私が守るって…。


   比叡。


   …はい、すみません。
   ただの我儘です…。


   我儘は良いワ、誰しもが抱えているものダカラ。
   でもネ、比叡。


   はい…お姉さま。


   今、貴女のすべき事を蔑ろにするのはNo、ヨ。


   ……すみません 金剛お姉さま。


   分かれば、良し。
   では続きをしましょうカ。


   はい…。


   ……。


   ……。


   …By the way、比叡。


   はい…何でしょう。


   霧島の事は心配ではないノ?


   え?


   霧島も出陣してイマス。


   …。


   …。


   …勿論、心配してますよ?


   然うネ、まさか、忘れていたなんて事、


   ありません、ありませんから!


   …。


   ほ、本当に、です。


   霧島は練度が高いから、安心だなんて事、


   な、無いです、戦にはいつだって安心なんて事はありません!
   慢心は、No、です!


   …然う、なら良いデス。


   は、はは…。


   …。


   …。


   …比叡。


   は、はい、比叡、ちゃんとやっております。
   焦げてしまわないよう、ちゃんと、見ております。


   榛名とは何処まで進んだノ?


   …え?


   榛名と。
   あの日から、同じ部屋で、一緒に眠っているのでショウ?


   はい。


   それで、何処まで?


   何処まで…?


   …。


   …どういう意味でしょうか。


   恋仲なのでショウ、二人は。


   恋仲……こいなか…。


   だとしたら。
   行き着く先は?


   ………。


   …。


   ……ええ、と。


   …比叡。


   は、はい。


   Kissは?


   きす……え、キス?


   したノ?


   …。


   …唇に。


   あ。


   …。


   ……ええと。
   何故、そのような事を…?


   私は貴女達のお姉ちゃんヨ?


   ですが…。


   それで?


   その…えと……はい。


   その先は?


   その、先………。


   …。


   ……お姉さま、先とは?


   …。


   あの、お姉さま…?


   …壊れてしまうかも、知れないから。


   へ…?


   その熱を、ぶつけたら。


   すみません、仰っている意味が…。


   榛名は未だ、改にもなっていないワ。
   それは分かっているわネ?


   あ、はい、それは分かっています。


   ならば。
   その先に行くのは、禁止、デス。


   …え。


   ……あの子の心は未だ、幼い。
   …そして、貴女も。


   う、うーん…?


   比叡。


   あ、はい。


   その意味が分かったとしても。
   No、ヨ。


   …。


   OK?


   …はい、分かりました。


   …。


   ……ええ、と。


   …はぁ。
   まぁ、良いワ。








   …。


   榛名。


   …。


   榛名、聞こえてるの。


   …え。
   ああ、霧島…何?


   何、じゃないわよ。
   何か考え事をして心が此処に無いようだけど。
   感心しないわね。


   …そんなこと。


   じゃあ、何を考えていたか当ててあげましょうか。


   …別に良いわよ。


   比叡姉さんの事。


   …霧島。


   心が逸るのは、分かるけれど。
   此処は未だ海の上よ。


   …分かってるわ。


   然うかしら。


   …何が言いたいの。


   泊地に無事に帰還するまでが出陣。


   …幼子に言うみたいに。


   実際、然うでしょう。
   改にもなってないのだから。


   …姉さまは大きくなったって言って下さるわ。


   比叡姉さんは貴女に甘いだけ。


   …。


   不貞腐れたって現状は何も変わらないわ。


   …不貞腐れてなんか、いない。


   …。


   …。


   はぁ。
   然ういうところが未だ幼いと言うのよ。
   心が未熟なの。


   ……早く逢いたいんだもの。


   だと、しても。
   海に…然う、恋情を持ち込まないで。
   沈むわよ。


   ……。


   然うしたら。
   比叡姉さんがどうなるか…分からないのかしら?


   ……。


   勿論、金剛お姉さまも。
   あの方がどれ程、私達が揃う時を待っていらっしゃったのか…分からない程莫迦ではないでしょう。


   …。


   比叡姉さんだけじゃないの、貴女を待っていたのは。


   ……分かってるわよ。


   なら、良いけど。


   …。


   お喋りはお仕舞い。
   さ、今一度、気を引き締め直しなさい。
   さっさと帰る為にも。


   …ねぇ、霧島。


   何。


   …改ってどうすればなれるの。


   は?


   …練度を高めればいいという事は分かっているわ。
   でも


   少なくとも、今の榛名ではなれない。
   それが現実よ。


   …。


   焦ったって、仕方がないわ。
   こればかりは戦闘経験を積んでいくしかないの。
   あと…心の方も。


   …。


   私達は艦娘、成長するふね。
   成長するのは…しなければいけないのは、躰だけじゃないのよ。


   …。


   比叡姉さんの隣に早く立ちたい気持ちは、一応、分かるけど。
   でもだったら尚更、海の上に余計な感情は持ち込まない事ね。


   ……。


   …貴女、直ぐ黙り込むけど。
   考え込んだって……まぁ、良いわ。


   ……背中を、守りたいの。


   背中…?


   ……約束、したんだもの。


   …。


   ……だから、私は。


   はぁ。
   榛名。


   …。


   もう一度、言うけれど。
   焦っても、仕方ないのよ。


   …。


   お喋りが過ぎたわね。
   帰れたら、今日の出陣の…。


   ……もっと深く、触れて欲しいの。


   は…?


   ……。


   …。


   …。


   …だから止めてって、海の上にそういうのを持ち込むのは。








   榛名…!


   …。


   榛名、お帰り!


   …あ。


   榛名!


   …姉さま!


   私が行くから、其処に居て下さい!


   いいえ、榛名が…。


   良いから!


   …はい、姉さま。


   良し!
   気合、入れて、行きます!!


   …姉さま。


   ……。


   ……。


   …お帰り、榛名!


   榛名、只今戻りました…。


   ごめん、待っていたかったんですけど、


   いいえ、いいえ、良いんです。
   来て下さっただけで、榛名は…嬉しいです。


   怪我は無いですか?大丈夫ですか?


   はい、榛名は大丈夫です!
   服は少し破けてしまいましたけど、躰の方は…


   !
   榛名…!


   …きゃ。


   お帰り、お帰りなさい、榛名。


   あ、あの、姉さま…。


   …本当に、良かった。


   は、榛名、汚れているので、その…。


   ……。


   ……姉さま。


   …お帰り、榛名。
   無事で、良かった…。


   ……はい、姉さま。





   あーーー……。





   ……。


   ……。


   私達も、居るんですけど。


   …比叡、貴女は少し落ち着きなサイ。


   ……はい、お姉さま。
   え、と、霧島もお帰り。


   …ごめんなさい、金剛お姉さま。
   榛名、只今戻りました。


   私は榛名のついでじゃないんですけどね。
   金剛お姉さま、霧島、只今戻りました。


   ふたりともお帰りナサイ。
   ふたりが無事で嬉しいデス。


   …ごめん、霧島。
   忘れてたわけじゃ、ないから。


   …あの、比叡姉さま。
   このままだと榛名、動けません…。


   さぁ、どうだか。


   比叡、そのままだと榛名が動けないワ。
   とりあえず、離れナサイ。


   …あ、はい。
   霧島、本当に忘れてなんかないから。
   ただ、一寸、榛名の事が…


   あの…姉さま。


   はいはい、分かってますから。
   とりあえず、間宮券一枚で勘弁してあげます。


   比叡。


   …はい。
   榛名…。


   え、と…姉さま、その、また後で。


   …はぁ。
   金剛お姉さま。


   …付ける薬が無いとはこの事デス。


   うん…また後で、榛名。


   姉さま…。


   はいはい、今生の別れってわけじゃないから。
   行くわよ、榛名。


   …とりあえず、比叡がその手の事に鈍くて本当に良かったネ。








   榛名。


   はい。


   改めて、お帰り。


   榛名、無事帰還しました…比叡さん。


   うん…。


   …。


   …榛名。


   あの…。


   良く、頑張ったね。


   …。


   霧島から聞きました。
   榛名はとても良く頑張っていると。


   …榛名には勿体無いです。


   そんな事無い。
   榛名は本当に良く頑張っています。


   …。


   霧島は厳しいかも知れません。
   でも、彼女が言っている事は間違いではないから。


   …はい。


   …。


   ん、比叡さん…。


   …本当は一緒に出られたら良いんだけど。


   ……。


   けど、今は…。


   …必ず、比叡さんの隣に立てるように。
   比叡さんの背中を守れるように、なる為に。


   …。


   榛名、全力で、頑張ります。
   頑張りますから…だから。


   …待っています、榛名。
   でも、私も負けないようにしないと。


   …だめです。


   え…?


   …榛名が追い付けなくなってしまいます。


   …。


   ……。


   …嬉しいです、けど。
   そんな事じゃ、駄目ですよ…?


   …分かっています。
   榛名の…我儘、です。
   ごめんなさい…。


   …。


   …?
   比叡さん…?


   我儘を抱く事は…悪い事じゃないよ、榛名。


   …。


   …今度、一緒に演習に出られるように進言してみようかな。
   ねぇ、榛名…?


   …叶ったら、榛名、とても嬉しいです。


   じゃあ…気合、入れて、進言します。


   ふふ…はい。


   ……。


   …あの、比叡さん。


   …なぁに、榛名。


   カレー…とても、美味しかったです。


   でしょう?
   お姉さまと一緒に作ったんです。
   今日は鳳翔さんが忙しそうにしていたから。


   …比叡さんが作って呉れるごはん、榛名は大好きです。


   今日はお姉さまと一緒、でしたけど…。


   …。


   私は…榛名が作って呉れるごはんが、大好きです。


   う…。


   …ふふ、榛名。


   比叡さん、くすぐったいです…。


   …榛名が居て呉れて、嬉しいんです。


   ……榛名、も。


   …。


   …。


   …そろそろ、寝ましょうか。
   もう少しこうしていたいですけど…明日も、ありますし。


   ……あ、あの。


   ん…?


   ……。


   …榛名?


   …。


   どうしましたか…?


   ……ても。


   …?


   …ひえいさんに、さわってもいいですか。


   うん…?


   あ……いえ、その…。


   …良いですよ。
   どうぞ、榛名。


   あ。


   ん?


   ………。


   …。


   ……。


   …榛名、少しくすぐったいです。


   …!
   ご、ごめんなさい…。


   ふふ、謝らなくても大丈夫ですよ。


   …。


   …。


   ……おなか、割れてます。


   うん…。


   ……。


   …硬いでしょう、私の躰。


   ……。


   良いんですよ。
   私は戦艦ですから。
   その為に鍛錬しているのですから。


   ……比叡さんは改なんですよね。


   はい、然うです。


   …改になるには。


   ひとそれぞれ、です。
   確かに目安となっているのは練度ですけど…改装は心にも負荷をかけるので。
   躰だけでなく、心も…。


   …。


   …大丈夫です、榛名。
   焦らなくても、ちゃんと榛名は…


   ……榛名は今直ぐにでも、なりたい。
   なって……比叡姉さま、に。


   ん…。


   ……せなかも、かたいです。


   はるな…。


   …。


   ……はるな。


   ……ぁ。


   …私は榛名の柔らかい躰が大好きです。


   …ッ。


   抱き心地が良いので。


   ……だめ、です。


   駄目、ですか…?


   …榛名も戦艦、なんです。
   これではいつまで経っても、比叡さんの隣には…ん。


   ……。


   …比叡さん。


   ……焦らないで、良いんです。


   …。


   …榛名もちゃんと、改になれる日が来る。
   だから…榛名の速度で頑張れば良い。


   ……でも。


   戦は、続きます。
   恐らく、長く。
   短期決戦となれば確かに話は違ってきますが。


   …。


   幸い、幌筵(ここ)の司令は功を焦る方ではありません。
   どちらかと言うと腰を据えて私達を育てようとして呉れている方です。
   だから…焦る必要は無いんです。


   ……。


   …て、榛名は姉妹で一番足が速いんでしたっけ。
   じゃあ、思っているよりも早くなれるかも。


   ……改に、なれば。


   …戦の前線に立つようになるでしょう。
   然うしたら今以上に…ん。


   ………。


   …榛名?


   榛名は、私は。


   う…。


   ……ねぇ、ひえいさん。


   う、うん…。


   …榛名の事、欲しいって、言って呉れた事。


   …。


   ……榛名、嬉しかったんです。
   本当に、本当に、嬉しかったんです…。


   ……榛名。


   でも、その欲しいは…。


   …っ。


   ……どういう意味、だったのか。
   今の榛名には、分からないんです…。


   …どういう、意味?


   ……。


   はる、な…。


   ……もっと、愛されたい。


   …。


   …もっと。


   ………もっ、と。


   ……榛名は、我儘な子です。


   ……。


   ひえいさん…。


   …はるな。


   …榛名が、改になったら。
   比叡さん…私、を。


   ……はるな、を。


   ………あなたのものに、して下さい。


   わたし…の。


   …あなただけの、ものに。









   …。


   姉さん。


   …はぁ。


   比叡姉さん。


   ……。


   …。


   ……ひぇ。


   比叡、姉さん。


   な、なに、霧島。


   ああ、起きていましたか。
   てっきり未だ、夢の中かと思いましたが。


   起きてるよ、ちゃんと。


   目を開けて寝ているものかと。
   得意ですものね。


   最近はしてないよ…多分。


   ええ、榛名のおかげでぐっすり寝られているようですものね。
   今日もお昼寝ばっちりで。時間に遅れて来るぐらい、に。


   うん…まぁ。


   おまけに道で転がっているところを蒼龍さんに見られて、思い切り呆れられたとか。


   い、いや、あれはゴーヤさんに体当たりされて、それで、思いがけず、榛名を押し倒しちゃったみたいになっちゃって…。


   つまり、白昼堂々、榛名を押し倒したと。


   ち、違う。
   それにちゃんと受け身を取って榛名に怪我させないように…


   …。


   ひぇ。


   姉さん。


   …はい。


   ともあれ、起きていなかったら九一式徹甲弾を撃ち込んであげようかと思っていましたが。
   残念です。


   …大破するよ、それ。


   姉さんなら中破ぐらいで済むんじゃないですか。


   いや、それもどうかと思うよ。
   主に資材の方向で。


   その方向で良いんですか。


   痛いのも勘弁して欲しい、かな。


   …。


   手刀も勘弁して下さい。


   …。


   …ちゃんと、やりますから。
   えと、今日は何を開発するんだったっけ…。


   …。


   あ、いや、九一式徹甲弾だったね。
   うん、覚えてる、覚えてるよ、ちゃんと。


   …はぁ。
   それで、何を考えていたんですか。


   …。


   まぁ、十中八九、榛名の事でしょうけど。


   ……ねぇ、霧島。


   何でしょうか。


   …。


   …。


   ……そろそろ、榛名を私だけのものにしても良いかなぁ。


   ………。


   …痛い!


   は?


   あ、いや…その…そろそろ…だめ、かなぁって。


   …。


   ま、待った。
   霧島の手刀は、一つ間違うと、中破喰らうから。


   小破です、失礼ですね。


   それもどうかと…。


   姉のそんな話を聞かされる私の身は?


   …だって。


   だって、なんですか。
   金剛お姉さまに相談してみたらどうですか、いっその事。


   ………。


   …。


   ……。


   …本気で考えるのなら、本当に聞いてみたらどうですか。


   ……禁止って、言われてるの。


   知ってますよ。


   …でも。


   榛名も色々あって改になりましたし、そろそろ、良いんじゃないですか。


   ……。


   …。


   ……榛名が、欲しい。


   …。


   ………。


   …はぁ。
   何が楽しくて、姉達のそんな話を聞かされないといけないのかしら…。


   ……ごめん、霧島。


   よっぽど、なんですね。


   …うん、よっぽど。


   最初はその意味も分かってなかったと言うのに。


   ……うん。


   …。


   …でももう、どうしようもなくなってきて。


   …。


   ……キスだけじゃ、足りなくて。


   比叡姉さん。


   …ん。


   私、榛名の事が好きだったんです。


   …え。


   …。


   え、えと…過去形なの?
   今は好きじゃないの?


   …。


   …。


   恋愛対象として、好きだったんですよ。


   ……え?


   …。


   そ、然うなの?


   ええ、然うです。


   え、えぇぇ?


   何ですか、その反応。


   ぜ、全然、分からなかった。


   でしょうね。
   比叡姉さん、鈍感ですものね。


   え、えと…。


   今更、譲れとは言いませんよ。


   …。


   それとも言ったら


   譲らない。


   …でしょうね。


   霧島、


   謝ったら、徹甲弾、撃ち込みますよ。


   いや、謝らない。
   榛名も譲らない。


   …。


   …榛名は、私の


   冗談です。


   ……え。


   榛名はただの、直ぐ上の姉ですよ。


   ……。


   なんですか、その間が抜けた顔は。


   …え、と。
   つまり、恋愛対象じゃない…って事?


   つまり、そういう事です。


   あ、ああ…然う、なんだ。


   榛名の事は姉妹として、好きですよ。
   一応。


   そ、そっか…良かった。


   何が良かったんですか。


   あ、いや…なんとなく。


   …。


   …。


   本当は比叡姉さんの事が好きだったんです。


   ……は?


   恋愛対象として。


   ………。


   …。


   ……それも、冗談?


   いいえ?


   ………。


   …。


   ……本気の話?


   本気の話です。


   ……。


   …。


   ……えぇぇぇぇぇぇ?!


   驚き過ぎです。


   や、だ、だって…


   鈍感、ですよね。


   だ、だって、霧島が、私を…そんな。


   そこまで驚きますか。


   ……。


   …まぁ、良いですよ。
   今となったら、終わった事ですから。


   …本当、なんだ。


   ええ、まぁ。


   ………え、と。
   霧島、


   でも、若しも。


   え、若しも…?


   私では駄目ですか、と言ったら。
   或いは一度だけでも良いからと言ったら。
   比叡姉さんはどうしますか?


   ………。


   …。


   …それ、本気で?


   はい。


   ごめん。


   …随分と早い返答ですね。


   私は榛名以外考えられない。


   ……。


   私は…榛名を愛してる。
   榛名だけを、ずっと、愛してる。


   …。


   私は榛名しか、愛さない。愛せない。
   だから、応える事は出来ない。
   霧島だけじゃない、他の誰とも…。


   …。


   そもそも霧島は一度だけでも良いからなんて、言わない。
   私の妹はそんな事言う子じゃない。


   …。


   だから、霧島。


   若しも、少しでも考える素振りを見せたら。
   一式徹甲弾を撃ち込んでやろうと思っていたんですが。


   …え。


   残念です。


   ……。


   戯言ですよ、全部。


   …ざれ、ごと?


   ええ。


   ……。


   ……。


   …霧島。


   姉さん。


   冗談でもそういう事は、


   すみません。
   でも。


   …。


   榛名をしあわせにしなかったら。
   出来なかったら。


   …。


   その時は徹甲弾、全門斉射で撃ち込みます。


   ……。


   さ、いい加減作業をしますよ。


   ……約束する。


   …。


   …約束するよ、霧島。


   ……ええ、して下さい。








   …。


   榛名。


   …。


   待たせたネ、榛名。


   …いいえ、大丈夫です。
   それより…お手伝いをしなくて、本当に良かったのでしょうか。


   Yes、私がやりたかったノ。
   だから、良いのヨ。


   …。


   どうぞ、榛名。


   …有難う御座います、金剛お姉さま。


   You’re welcome, my dear.


   …。


   ふふ、榛名は猫舌でしたネ。


   …はい。
   あの…すみません、折角淹れて下さったのに。


   良いのヨ。


   ……。


   …。


   …。


   榛名。


   …はい、姉さま。


   お昼に比叡に押し倒されたそうネ。


   ……。


   多分もう、皆知っているワ。


   …違うんです、お姉さま。
   あれは、その…事故、なんです。


   Accident?


   …ゴーヤさんが突然比叡姉さまにぶつかってきて。
   それで姉さまが堪えれきれずに…。


   つまり、潜水艦の子の体当たりで?


   いきなりだったんです。
   予測も全く出来てなくて…それで。


   …。


   …あつ。


   無理はしなくても良いデスヨ、榛名。


   …はい。


   ふむ。


   ……。


   榛名。


   …はい。


   Do you love her?


   …え。


   …。


   ....Yes, I'm lovin'her.


   …。


   I love everything about her.
   I love her deeply, and with all my heart...


   ...OK, Haruna.


   ……。


   榛名、英語が上手になりましたネ。


   …お姉さまが教えて下さったからです。


   自分でも勉強したのデショウ?


   …。


   …あの子が話す英語にとても良く似ています。


   ……。


   …。


   ……お姉さま、私は。
   私はもう…幼子ではないつもり、です。


   …。


   …改になったからでは、なく。
   私は…。


   …あの子に触れられたいですか?


   …。


   あの子と…触れ合いたいですか。


   ……はい。


   …。


   …姉さまに触れて欲しくて。
   姉さまに触れたくて…私は。


   …。


   ……私の心は、強くなっていないかも知れません。
   でも…それでも、私は比叡姉さまを…


   …。


   ……比叡さんを、受け入れたい。
   この躰に、この心に……比叡さんの熱を、全てを。


   ……榛名。


   …ごめんなさい、金剛お姉さま。
   私は…榛名は悪い子です。


   どうして…?


   …どうしても、欲しいんです。
   どうしても、どうしても、比叡さんが…欲しいんです。
   比叡さんが、愛しくて、愛しくて……。


   …。


   …早く、あの人のものに、なりたくて。


   …。


   ……榛名は何も変わっていません。
   あの頃と全くと言って良いほど…榛名は。


   もう良いわ、榛名。


   …。


   Don't cry, Haruna.


   …。


   貴女は…少なくとも、幼かった頃の貴女じゃない。
   私は、然う思っています。


   …。


   …屹度、どうしようもないのでしょう。
   それが…恐らく、誰かを愛すると言う事なのでしょうから。


   …。


   …榛名、貴女にあの子を支える事が出来ますか。


   ……私は。


   あの子は…何処かromantistで、地に足がついてないような所があるわ。
   傷も、決して、無くなったわけではない。
   瘡蓋となって傷口を塞いでいるかも知れないけれど…ただ、それだけ。


   …。


   榛名、貴女は地に足を付けていなければならない。
   それは、分かりますか。


   …はい。


   …。


   …。


   あの子もまた…貴女の心の支えになれるよう。


   …比叡さんはもう、私の支えになっています。
   初めて逢った時から、榛名の心は…。


   共依存では駄目なのよ、榛名。
   共倒れになってしまうのだけは、駄目なの。


   …。


   支えて、支え合って、倒れてしまわぬよう……いつか、ふねではなく、ひとのこのように。
   決して、それにはなれないとしても…。


   …。


   …人は恋をして、痛みを知って、人になると言います。
   では、ふねが恋をして、痛みを知ったら…何になるのでしょうか。


   ……私達は、私達にしか、なれません。


   …。


   …私達はふねで、艦娘で、兵器で。
   だけど、それでも…私達は、私達として、生きてゆくしかないのだと。


   ……。


   …その時に、愛しいひとが、傍に居て呉れるのなら。
   生きてゆけると…強く、生きてゆこうと…私は、思うのです。
   仮令、一人になってしまったとしても……然う、思えるのです。


   …OK、榛名。


   う…。


   屹度、大丈夫ネ。


   お姉さま…。


   だけど、忘れないで。
   貴女達はふたりではない事。
   All right?


   ...All right、my grand sister.


   榛名。


   はい。


   比叡を宜しくお願いしますネ。
   あの子をどうか、しあわせに。


   …私の全てを懸けて。


   あの子と、どうか…しあわせに。


   …。


   Haruna, I love you so much.


   ...I love you too.


   I pray for your happiness from the bottom of my heart.


   ...Thank you.


   …。


   ……有難う御座います、お姉さま。









   榛名。


   …。


   榛名。


   …。


   榛名、どうかした?


   …比叡さん。


   はい、ホットミルク。
   今夜は冷えるみたいだから。
   昼間は少し暑いくらいでしたのにね。


   …有難う御座います、比叡さん。


   どういたしまして。
   榛名には一寸熱いと思うから、冷めてから飲んで下さいね。


   …はい。


   隣、良いですか…?


   …はい、勿論です。


   うん…有難う。


   ……。


   ぼんやりしていたようだけど。
   疲れた?


   …。


   それとも…何か考え事でもしてましたか?


   …いえ、少しぼんやりしていました。


   そっか。
   あの後は金剛お姉さまとお茶会をするって言ってましたけど。
   私もご一緒したかったな…。


   …開発は上手くいきましたか?


   うん、それがですね…。


   …ん。


   失敗してしまって…。


   …では霧島に?


   はい、見事に小言を食らいました…。


   でも比叡さんだけの責任ではないですよね…?
   霧島も一緒に…


   …いや、私が集中していなかったから。


   …。


   その……榛名の事を考えてしまって。


   …私の事。


   え、えと、それにしてもゴーヤさんに吃驚させられましたよね。
   いきなり体当たりしてくるなんて。
   潜水艦とは思えない力で…。


   …。


   …え、えと。
   あの時は、ごめんね。
   押し倒すような形になってしまって…。


   …いえ、榛名は大丈夫ですから。


   う…。


   …。


   は、榛名…?


   ……もう、無くなってしまったのですか。


   え…。


   …昼間は、あんなに触れたがって下さったのに。


   あ、いや…あの時は、その。


   …やっぱり、流されてだったのですか。


   ち、違う…ッ。


   …。


   …違う、違います。
   私は…私は……。


   ……私、改になりました。


   あ…。


   …私はそれを求めてはいけないのでしょうか。
   貴女はそれを求めてはいけないのでしょうか…。


   ……それ、は。


   …いつになったら。


   …。


   …比叡さん、私は。


   榛名……あ、いや。


   …。


   …飲んだら、寝ましょう。
   明日、も…。


   ……。


   …はる、な。


   ……。


   だ、駄目です……。


   ……どうして。


   ……。


   昼間の熱は、紛い物だったのですか…。


   …違う。
   紛い物じゃない、紛い物なんかじゃないんだ…だけ、ど。


   ……欲しいと、仰って下さった事も。


   私は……私は。


   …。


   榛名…それ、以上は。


   ....Do you love me?


   え…。


   …。


   榛名…。


   ……私の事を、今でも、愛して呉れていますか?


   …。


   …それはこれからも、変わらないでいて呉れますか。


   私は…。


   …。


   ......I love you more than words can say.


   …。


   My love grows day by day, I can't think other than you.
   No one loves you so much as I do......


   …。


   私は…榛名を、誰よりも、愛している。
   ずっと、変わらない…。


   ……嘘偽り、は。


   あるわけ、無い。


   …ん。


   ……榛名。


   …。


   私は…榛名を愛している。
   榛名だけを、愛している…。
   榛名しか、もう、愛せない…要らない。


   ……あぁ。


   榛名が…欲しい。
   欲しくて、欲しくて、どうにかなってしまう…。


   …。


   榛名は私を…ん。


   ……。


   ………はるな。


   …わたしを、しあわせに、してくれますか。


   …。


   ……わたしを、しあわせに、して。


   はるなが、のぞむのなら。
   ううん、のぞまないとしても。


   …。


   ....I promise I'll make you happy.


   …。


   わたしは、わたしのすべてをかけて、はるなをしあわせにする。


   ……ならば。


   ん、はるな…。


   ……あなたも、しあわせに、なってください。


   わたしも…。


   ……わたしのしあわせは、あなたがいて、なりたつもの。


   …。


   あなたがしあわせで、しあわせになって、はじめて。


   …。


   わたしは…しあわせに、なれるの。
   だから。


   ……だか、ら。


   …わたしに、のぞんで、ください。


   …。


   わたしは、あなたを、しあわせにしたい…。


   はるなが、ここにいる…わたしをあいしてると、いってくれる…。
   これいじょう、なにを、のぞめば…。


   それいじょうを、のぞんで、ほしいのです。


   …それ、いじょう。


   ……はるなを、だいてください。


   …。


   ………私を貴女のものに。
   貴女だけのものに…。


   …榛名。


   ……比叡さん、貴女を愛しています。


   あ………。


   …貴女以外、要らない。
   欲しくない…。


   ……あぁ。


   …だから、比叡。


   …!


   ……わたしを、あなたのものに。
   あなただけの、ものに…。


   榛名…ッ。


   ……。


   榛名…榛名…はるな……はるな……ッ。


   ……。


   う、ぁ……。


   …わたしの、すべてを、あなたに。


   ………あなたの、すべてを、わたしに。


   …あなたのすべて、ぶつけて。
   あなたが、おもうように…。


   …。


   …あなたの、おすきなよう、に。
   おすきなまま、に…わたしを、ほしがって。


   ………。


   ...Love me do, Hiei.


   ……。


   ……ぁ。


   …ほんとうに、よいですか。


   ……。


   ほんとうに……んん。


   …。


   …はる、…ん、んぅ。


   ……。


   .........I can't take this any longer.


   …しないで、いいんです。


   …。


   …しないで。
   も、う……。


   ……。


   どうぞこよい、わたしを、あなたのものに……。








   ……。


   …。


   ……。


   (…からだが、おもい)


   …。


   (じぶんのでは、ないみたい……)


   ……。


   ……でも、ここちいいわ。


   …。


   …。


   ……どこへ。


   …。


   …どこへ、ゆくのですか。


   ……どこにも、ゆきません。


   では、どうして…ぬけだそうと、しているのですか。


   …。


   ……こうかい、しているのですか。


   するわけ。


   …。


   …するわけ、ないです。


   ……だったら、ここにいてください。


   …。


   ……どうか、はなれないで。


   …のど、が。


   …。


   …ホットミルク、けっきょく、のまなくて。
   せっかく、あなたにいれていただいたのに…。


   ……ああ。


   のど、かわいていませんか…?


   ………いわれてみれば、すこし。


   …こえ、かすれています。


   ……あなたも。


   …だから、なにかのみませんか。


   そうですね…そうしましょうか。


   …。


   ん…。


   …だいじょうぶですか。


   あ、いや……なんと、いいますか。


   …。


   …じぶんのからだでは、ないみたいで。


   ……きもちわるく、ないですか。


   だいじょうぶです……むしろ、ここちよいくらいで。


   …。


   …?
   はるな…?


   ……おなじことを。


   …。


   おもって、いました…。


   …ああ。


   ……はるな、うれしいです。


   うん…わたしも、うれしいです。


   …こうかい、してませんか。


   まったく、してない。
   とても、うれしい。


   …よかった。


   はるな。


   はい、ひえいさん。


   なに、のみましょうか。


   そうですね…こうちゃは、だめですよね。


   ねむれなくなっちゃいますね。


   なにが、ありましたっけ…。


   …たしか。
   しきゅうされたほうじちゃがのこって…。


   …それで、よいですか。


   はい。
   おねがいしても、いいですか。


   はい…おねがい、してください。


   では…おねがいします、はるな。


   はい…ひえいさん。


   ……。


   ……。


   …はるな。


   はい…?


   …きれいだね。


   え…?


   ……はるな。


   …。


   …やわらかい、からだ。
   ちからをいれると、こわれてしまいそうで…。


   …はるなは、こわれませんよ。
   だいじょうぶ、です…。


   ……うん。


   …。


   はるな…。


   …なんでしょうか、ひえいさん。


   …。


   …ひえいさん、だいじょうぶです。
   はるなは、どこにもゆきません…。


   ……うん。


   …ひとりじゃ、ない。
   ひえいさんも…わたしも。


   うん…。


   ……。


   …。


   …おまたせ、しました。


   ありがとう…はるな。
   …て、あれ。


   …。


   ……ひとつ?


   ええ、まぁ…。


   …はるなのぶんは?


   ……わたしは、あとでいただきます。


   あと…。


   …おさきに、どうぞ。


   だけど…。


   ……あとで、いただきますから。


   …。


   …。


   …ん、わかった。
   じゃあ、さきにいただきます…。


   …はい、どうぞ。


   ……。


   …。


   ……ん、美味しい。
   喉に、気持ち良い…。


   ……。


   榛名…はい。


   …。


   …榛名?


   ……のませて、ください。


   え。


   ……。


   …。


   ………え、と。


   …。


   …それって、つまり。


   ……だめ、ですか。


   …。


   …。


   ……よし。


   …。


   榛名。


   …はい。


   ……。


   ……。


   んー、んんーー。


   ……ふふ。


   んー?


   …いいえ、ごめんなさい。


   …。


   ……ん。


   …。


   …ん、……ん。


   …。


   ………ん。


   ……はぁ。


   …。


   …これ、難しい。
   少し、零れてしまったかも…。


   ………でも、美味しかったです。


   …。


   …。


   ……ああ、なんか。


   なんか…なんでしょう。


   …。


   …。


   もっと、欲しくなってしまいます…しまい、ました。


   …榛名は、もう、貴女のものですから。


   あ…。


   ……どうぞ、お好きなままに。


   う、ん…。


   …。


   ……明日、起きられるかな。


   …分かりません。


   これは…霧島に怒られるかな。


   …怒られる時は、ふたりで。


   …。


   ……ふたりで。


   うん…榛名。


   ……。








   霧島。


   …。


   眠るのならベッドに行きナサイ?


   …はい、お姉さま。


   …。


   …金剛お姉さま。


   ん…?


   …いえ、何でもありません。


   気になるノ…?


   …いいえ。


   …。


   …すみません、お先に休みます。


   ん…お休みナサイ、霧島。


   はい…お休みなさい、金剛お姉さま。


   …。


   …。


   …二人が愛し合っている以上、いつかはこうなる日が来る。


   …。


   …。


   ……私はもう、大丈夫だと思います。


   …然うネ、私も然う願ってマス。


   お姉さまは。


   …ん?


   比叡姉さんと榛名の事、どう思っていたのですか…?


   比叡と榛名を…?


   ……いえ、すみません。


   比叡と榛名は、可愛い妹デス。
   霧島も、私の可愛い妹。
   それはずっと、変わらないワ。
   然う、ふねの頃から。


   …。


   …霧島。


   ……少し、意地の悪い事をしてしまいました。


   意地の悪い事…?


   ……だけど、比叡姉さんは全く揺らがなかった。


   …。


   ……若し、少しでも揺らいだら。


   あの子は、そんな子じゃないワ。


   …ええ、その通りです。
   莫迦みたいに、真っ直ぐで。
   真っ直ぐに、榛名だけを、見てる。
   榛名だけを、想っている。


   霧島、貴女も。


   …?


   莫迦ではないけどネ。


   …私は違います。
   真っ直ぐなんかじゃ、ありません。


   …。


   …真っ直ぐなんかじゃ、ないんです。


   …。


   ……榛名みたいには、なれない。


   なる必要なんか、無いわ。


   …。


   貴女は貴女なのだから。


   ……すみません、金剛お姉さま。


   どうして…?


   …。


   ……霧島。


   …一緒に眠っても、良いですか。


   …。


   …。


   …勿論ヨ、霧島。
   今夜は一緒に眠りまショウ。


   …有難う御座います。


   ……。


   ……。


   …思えば霧島と一緒に眠るのは初めてネ。


   はい…。


   …貴女は甘えるのがあまり上手ではないカラ。


   ……。


   榛名も然う。
   貴女達はやっぱり何処か似ている…。


   ……然うでしょうか。


   ええ…然うヨ。
   お姉ちゃんが言うのだから間違い無いワ。


   ……然うですね、金剛お姉さまが仰るのなら。


   …。


   …ん、お姉さま。


   ……おやすみなさい、霧島。
   良い夢が、見られますように…。


   ……お姉さまも。
   おやすみなさい…。








   .....Телл ме wхат ёу’ре тхинкинг оф,
   Телл ме иф ёу лове ме нот.....,


   …。


   И хаве со муч И лонг то аск ёу,
   Бут ноw тхе чанце хас гоне...,


   …。


   Wхен ёур пицтуре фадес еач даы,
   Ин мы хеарт тхе меморы стаыс...,


   …。


   Тхоугх wе рант, ёу’ре алwаыс смилинг,
   Анд И wилл холд ит лонг......


   ……はるな。


   ん…?


   …ひえいさんのうた、いまでもだいすきです。


   ……。


   …だいすきです。


   ……きりしまにはあいかわらず、はずれてるっていわれてるよ。


   きりしま……。


   …わたしは、はるなのうたがだいすきです。


   ……。


   はるなの、うたが…。


   ………すこし、せつないうたでしたね。


   え…?


   …さっきの、うた。


   あぁ…。


   ……どうして、そのうたを?


   わからない……けど、なんとなく、こころにうかんだから。


   …。


   ……ん、はるな?


   …あの。


   うん…。


   ……うで、いいですか。


   うで……。


   ……。


   お……。


   ……。


   ……ああ、そういうこと。


   …だめ、ですか。


   いいよ…はるなにはいつも、ひざまくらをしてもらっているから。
   その、おかえし…。


   あ…。


   …やだった?


   ううん…あ、いいえ。


   …ことば、いいのに。


   ………。


   はずかしい…?


   ……おねえさま、ですから。


   そうだけど……ちがうよ。
   もう、ちがう…。


   …。


   お……。


   ……。


   …かわいい。


   ……はるなは、かわいくなんか、ありません。


   そうかなぁ…こんなにかわいいのに。


   …。


   ああ…はるなは、やわらかいなぁ。


   ……ひえいさんだって。


   わたしは、かたいよ…。
   だからあんまり、きもちよくないとおもう…。


   …そんなこと、ありません。


   …。


   ……ないの。


   …はるながそう、いうのなら。


   …。


   ……。


   ……。


   ……きりしまが。


   …え。


   …。


   ……きりしまが、どうしたのですか。


   いや…。


   …いってください。


   ……はるなのこと、すきだったって。


   え…。


   …。


   …きりしまがそういったのですか?


   ……。


   ……ひえいさん?


   …ん。


   ……。


   ………。


   ……ねむって、しまったのですか。


   ……。


   …ひえいさんは、ひどいひとです。
   きりしまのきもちが、まったく、わかっていない…。


   んん…。


   ……わたしがくるまえから、あのいくさのときもずっと、あなたのそばにいたのに。
   それなのに…。


   …。


   ………でも、はるなはもっとひどいから。


   …。


   …あなたは、だれにもゆずらない。
   だれにも、ゆずれない…。


   ……はるな。


   …たとえ、きりしまにも。
   こんごうおねえさまに、だって…。


   …。


   ……はるなは、わるいこです。


   …はるなは、わるいこじゃないよ。


   ぁ…。


   ……わたしのいとしいひと、だよ。


   ひえいさん…。


   …ごめんね、はるな。
   わたし、はるなのこと、だれにもゆずらない…。


   …。


   ゆずれ、ない……。


   ……。


   …あ、れ。


   ……。


   はるな…ないてるの。


   ……いいえ、はるなはないていません。


   でも…。


   …はるなは、だいじょうぶです。


   はるな……。


   ……もう、おやすみしましょう。


   …。


   …。


   …はるな、またあしたね。


   はい…また、あした。


   ……。


   ……。


   ……。


   …ひえい、おねえさま。


   …。


   …きりしまが、ほんとうに、すきだったのは。


   …。


   ………でも、もう。


   …あした。


   …。


   ……いっしょに、おこられよう。


   …っ。


   …いっしょに。


   ……はい、ひえいさん。








  .....the fourth















   ……。


   ……。


   …よいかぜですね。


   …はい、とても。


   …。


   …この時期だけなんです。
   この風が吹くのは…。


   …そうなのですか。


   此処は…夏がとても短いので。
   外でこうして居られる時間がとても限られていて…。


   …。


   …。


   …あなたはここで、どうすごしてきたのですか。


   …。


   …。


   …私は此処で、何も感じる事無く生きていました。


   なにも…ですか。


   実際、何も感じなかった…。
   然う、何も…。


   …なぜですか。


   …。


   ……なぜですか。


   心など、欲しくなかった。


   …。


   …こんなものがあるから、と。
   何度も、呪って…この身を、呪って。
   どうして私はこんな姿に生まれ変わったのか…どうしてまた、生まれてきてしまったのか。


   …。


   …どうして、そっとしておいて呉れないの。
   どうして…眠らせておいて呉れないの。
   深海棲海?それが、何だと言うの。
   そんなもの、人の子が遺した禍根じゃない。


   …。


   私はもう……戦いたくなんか、ないのに。
   なかったのに…。


   ……これからもそう、いきてゆくのですか。
   いきてゆく、つもりなのですか…。


   …。


   …。


   …一度、私は貴女の傍に行こうと思いました。


   わたしの…。


   …でも、出来なかったのです。


   ……わたしのそばとは。


   ふねの貴女の傍に。


   …。


   其処こそが私の居るべき場所なのだから。


   …それは、


   でも、私は助けられてしまった。


   …。


   …壊れているふね、壊れたふね、だと、人の子は言った。
   でも私は…好きで壊れたわけでは、ないのに。


   …。


   ……わたしは、あなたと、もっと、いっしょに。


   …。


   いっしょに、いたかった…いきて、いたかった。
   ただ、それだけだったのに…。


   …。


   ……わかって、いるのよ。
   いくさがなければ、わたしたちはうまれなかった…であうことなんて、なかった。
   そんなことは…わかっているの。


   …。


   …けれど。
   こころが、ほしくなかったこころが……いたいの。
   あのころを、おもいだしたくないのに、おもいだして、いたむの…。


   …。


   …ねぇ、いまもいたむわ。
   あなたのかおをみて、あなたのこえをきいているのに、それなのに……とても、いたむわ。
   どうしようもなく、いたくて、いたくて…。


   …そのいたみを、とりのぞくために。
   わたしは、なにをすればいいのでしょう…。


   …。


   わたしは、あなたに、あえて、うれしい。
   でも、あなたは、いたい、と、いう。


   …。


   …わたしは、あなたに、いたみを、かんじてほしくない。
   でも、どうしていいか、わからない……。


   …貴女を、待っていたの。


   …。


   ずっと、ずぅっと、待っていたの…。


   …わたしは、あなたに、あいたかった。


   あ…。


   ……そう、おもっていたの、だと。


   …。


   このすがたにうまれるまえから、わたしは、あなたに。
   ふねのころから、わたしは、あなただけに。


   ……。


   …あかぎさん。


   ………わたし。


   …あなたが、いきて、ここに、いてくれて。
   ほんとうに、よかった…。


   …あぁ。


   ……わたしは、ここに、います。
   あなたに、よばれて、あなたに、であうために、わたしは、うまれてきました。


   ……もっと、はやく、きて、ほしかった。


   …。


   もっと、はやくに、きて、ほしかった、です…。


   …すみません。


   かがさん。


   …はい。


   いくさのうみで、また、いきなければならない、けれど。


   …。


   ……それでも、わたしと。


   いきてゆこうと。


   …。


   …あなたと、いきぬいて、ゆきます。


   あぁ…あぁぁ…。


   いっしょに、ここで。


   …。


   あかぎさん、わたしと。
   あのころ、できなかったことを、しましょう。
   いきて、ゆきましょう。


   …。


   わたしと、どうか。


   ……あなたを、あいしています。


   あいして…?


   …あいして、います。


   ……。


   ……もう、さきにいかないで。
   おいて、ゆかないで…ひとりに、させないで。


   …。


   ………ひとりはもう、いや。
   ひとりになるのは、もう、いやなの…。


   …。


   …やくそくを、して。


   やくそく…。


   …やくそくが、ほしいの。


   ……わかりました。
   やくそく、します。


   …。


   …だから、その。
   めから、みずを、ながさないでください…。


   …みず?


   その、それをみていると、こころが、いたむのです。
   だから…どうか。


   …これは水ではないですよ。


   …?


   これは…涙と、言うそうです。


   なみだ……。


   …あの頃も、人の子は。


   おもえば、ひとのこも……。


   …。


   う…。


   ……かがさん。


   あかぎさん…。


   ……やくそくしてくれて、ありがとう。


   …。


   …どうぞ、私の傍に居て下さい。


   ……はい、ずっとその傍に。