あの時は本気で射殺されるかと思ったって言ったら、ばかじゃないのーと言われた挙句大爆笑されました。 あーー、あーーー。 ……。 …何でしょうか。 お取込み中のところ、すみません、けど。 ……蒼龍さん。 …蒼龍? あの、此処、一応外で、敷地内なんですよね…? …。 …。 うわ、それがどうしたって顔、してる…。 …蒼龍さん。 ……。 あー、うん。 すみません、お邪魔ですよね、すみませんでした。 …。 …。 …え、と。 青葉なら、未だ、知らないと思います。 …何の話でしょうか。 ……また、青葉。 ええと、先刻の音? あれ、私、です……私の声、です。 ……。 …音。 なんとなく、なんですけど。 その、あの赤城さんが今までに見た事も無いお顔をしていたものですから、つい……出来心、と言いますか。 …。 …。 …う、目が怖い。 と言うか、お二人ともなんとなく似てません…? …。 …。 え、えと…それでですね。 これこそ、絶好の好機と思ってしまったと言いますか…。 ……成程、然うですか。 …。 …そしたら。 まさか…こんな濃い事になるとは、思っていなくて。 蒼龍さん。 …。 は、はい。 貴女も見ていたので知ってはいると思いますが。 改めまして、此方は本日着任した加賀さんです。 ご存知の通り、私の僚艦でもあります。 加賀です。 然う、貴女が“蒼龍”なのね。 これからどうぞ宜しくお願いします。 あ、はい、改めまして私は航空母艦蒼龍型一番艦の蒼龍です。 こちらこそ、宜しくお願い致します。 それから。 …。 は、はい、なんですか。 加賀さんは…加賀は、私の良人となる人です。 …。 へぇ、然うなんです……え。 えー!? …然うですよね、加賀さん。 …。 それって、つまり……え、えぇ? …。 蒼龍、さん。 は、はい。 …。 赤城さんは…赤城は私の乙嫁となる人です。 つまりは、然ういう事です。 ……。 …。 …。 …え、えと。 分かりました…いえ、突然の事で色々混乱してますけど、分かりました。 有難う御座います。 …。 え、えーと。 赤城さん、加賀さん。 はい。 …何でしょうか。 この度は、その…おめでとうございます。 …有難う御座います。 …有難う御座います。 やっぱり、どこか似てるような…。 …。 …。 …えぇ、と。 その、羨ましいです、はい。 …羨ましい? …。 私には未だ、居ませんから。 …。 …居ない? 私の相方。 未だ、来て呉れなくて。 …ああ。 ……。 だから、その。 赤城さんが羨ましいです。 ずっと待っていた人と逢えた事が。 …契りまで交わす事が。 …蒼龍さん。 …貴女も待っているのですか。 はい…ずっと、待っています。 だけど…あのバカ、なかなか来てくれないんです。 ほんとにバカだから。 ……。 …必ず、来るわ。 え。 …加賀さん。 私が赤城さんに…然う、呼ばれたように。 “飛龍”も、必ず。 …だと、良いんですけどね。 まぁ、私達は契り云々なんて話にはならないでしょうけど。 ……。 ……。 …本当に良かったですね、赤城さん。 それと加賀さん、私の事は呼び捨てで良いですから。 一航戦のお二人にさん付けされるのは…恐れ多い、ので。 …。 …。 お邪魔をしてしまい、本当にすみませんでした。 私、もう行きます。 …。 …。 え、と…行っても、良いですよ、ね…? ……。 ……。 …あの、加賀さん。 はい。 …私、怖かったですか。 …。 …。 …私はもっと、見たいと思っています。 え…? 色々な赤城さんを。 色々な、私…。 はい。 だからもっと、見せて下さい。 ……。 赤城さん? …私と加賀さん、似てるって言われましたね。 ああ、言われましたね。 似てると、思いますか。 …いえ、あまり。 ですよね…。 繰り返しますが、私は赤城さんのように表情が豊かなわけではありません。 赤城さんのように、美しいわけではありません。 赤城さんのように可憐なわけでも無ければ、赤城さんのように可愛らしいわけでもありません。 ……。 赤城さんのように も、もう良いです。 然うですか? は、はい…。 けれど、蒼龍には然う見えたのでしょう。 到底、理解は出来ませんが。 …あの、加賀さん。 はい、何でしょうか。 私も、良いですか。 …? 私は…加賀さんのように凛としたお顔をしていません。 …は? 私は加賀さんのように、美しいわけではありません。 私は加賀さんのような、立ち居振る舞いが出来るわけでもありません。 私は加賀さんのように… …待って下さい、赤城さん。 いいえ、待ちません。 私には加賀さんのように…一目惚れした人と契りの約束を交わす勇気など、無いのです。 …。 …少しは、分かりましたか。 ……赤城さん。 …。 勇気では無いのです。 …え。 ただ、自然に。 言葉として、紡いでしまっただけなのです。 ……自然、に。 はい。 …。 赤城さんを見ていたら…想いが溢れてきてしまった。 それが言葉となって、貴女に。 ……。 …望んだ答えではありませんでしたか。 ……加賀さんは、素敵な人です。 え。 これまで会った人の中で一番…ああ、どうしよう。 赤城さん…? …私、貴女が好きすぎてどうにかなってしまう。 知れば知る程、もっともっと好きになってしまって…。 ……。 …ああ。 赤城さん。 ……。 …私と、同じですね。 あ。 ……私も、貴女の事を知る程に。 ……。 …今宵、でしたか。 え…。 ……契りを。 あ……。 …後悔、しませんか。 ……しま、せん。 本当に…? …しません。 分かりました…では、今宵に。 ………は、い。 永久の春、なぁんて、そんなものはあるわけ無いのだけれど、ね。 天龍ちゃん。 …あぁ? 春ねぇ。 は? 春。 …桜ならとっくに散ったぞ。 然うねぇ。 今年も儚く、あっと言う間に、散ってしまったわねぇ。 …然ういう言い方をするのはお前ぐらいだよ、龍田。 そーぉ? あーあ。 出撃も演習もねぇと、暇で仕方ねぇ。 あらぁ、暇なの? 暇だよ。 お休みも大事よ? 俺は戦いたいんだ。 だらだらしてんのは、性に合わねぇんだよ。 ふぅん? て、おい、くっつくな。 あ、れ。 ああ? 春の意味、かしら? はぁ? 赤城さんと、あれは新しい人ね。 確か航空母艦の人が来たと言っていたから。 はぁ? あのちっこいのが、航空母艦だぁ? あらぁ、艦娘は見掛けによらないものよぉ? と言うか…何やってんだ、あれ。 だから春よ、天龍ちゃん。 どこが春なんだよ、龍田。 分からない? 天龍ちゃんは相変わらず、駄目ねぇ。 うるせぇ。 赤城さんにも漸く春が来た、と言う事よ? ……。 やっぱり、分からない? …意味が分からねぇ。 ふふ、やぁっぱり。 天龍ちゃんの然ういうところ、好きよ? …と言うか、春ってなんだよ。 ああやって、いちゃついてる事が春なのかよ。 あらぁ、いちゃついているのは分かるの? ありゃどう見ても、然うだろ。 じゃあ、春満開ね。 ま、俺には関係ねぇな。 然うねぇ、私にも関係無いわねぇ。 けど。 うん? 赤城さんのあんな顔は、見た事ねぇな。 …へぇ? 龍田、赤城さんの戦中の顔、見た事あるか。 あるわよ? じゃあ、分かるだろ。 うーん、然うねぇ。 なんだよ。 そこはあの人が居なかった頃の赤城さんの日常生活時の表情と比較するところよ、天龍ちゃん? あぁ? でもそこが、天龍ちゃんが天龍ちゃんである所以なのよねぇ。 龍田。 ねぇ、天龍ちゃん? …なんだよ、そろそろ離れろ。 私達の春は、未だかしらぁ? ……は? なぁんて、ねぇ。 …あら。 つか、本気で離れろ。 あらあら。 おい、龍田。 春、真っ盛りねぇ。 だから、意味が分からねぇ。 ねぇ、加賀さん。 はい。 あの、ね。 何でしょう。 …若し、若しもね。 何ですか。 私が断っていたら、加賀さんはどうするおつもりだったのですか。 断る? 何をですか。 …。 ? …加賀さんって、凄いですね。 凄い? 私が? まさか。 だって、断られる可能性を考えなかったのでしょう? 私だったら…考えてしまうわ。 ……。 …加賀さん? 私は赤城さんに何を断られるのでしょうか。 ……。 ……? …加賀さんって。 赤城さん? …もう。 可笑しいですか。 可笑しいです。 然うですか。 然うです。 嬉しいのですか? それとも、楽しいのですか? 両方、です。 加賀さんのばか。 すみません。 私は赤城さんの事となると、馬鹿になるようです。 …。 こんな私ですが、赤城さんは宜しいですか? …良いに決まってます、ばか。 決まってるのですか? 然うだと言っています。 ……。 可笑しい? はい、とても。 私は赤城さんと一緒に居ると、楽しくて仕方が無いようです。 他人事みたいに言うんだから。 そういうつもりは無いのですが。 本当に? 本当です。 これでも私は嬉しいのです、とても。 分かり辛いかも知れませんが。 …。 もう少し、貴女のように笑える事が出来るように。 どうか、お時間を下さい。 …でも私はそんな加賀さんも好きですから。 ……。 …加賀さんは私の事、好きですか。 はい、好きです。 とても。 …真剣なお顔で。 ……。 …。 …ところで、赤城さん。 二つ、お尋ねしたいのですが。 …なに? 一つは、青葉と言う者の事。 もう一つは。 はい。 結局、私は赤城さんに何を断られるのでしょうか。 ……。 …赤城さん? 口が開いてますが…。 ……加賀さんって。 教えて頂ければ、と思うのですが。 ……。 ん、赤城さん…? …加賀さんの、ばか。 赤城さんは加賀さんと、それはもう、しあわせそうに笑っていたのです。 おめでとうございます、赤城さん! ケッコン式はいつやるんですか?! おめでとうございまっす! ごちそう、いっぱいですね! おめでとーございますーー!! みんなでお手伝い、しないと!! おめでとうなのです!! 式はドレスですか!?それとも白無垢?! レディだったら真っ白なドレスよ、絶対! いや、赤城さんなら白無垢もとても似合うと思うな。 駆逐艦みんなで、お祝い、しますから!!! ……。 ……赤城さん、これは。 …つまりは、こういう事です。 つまりは…どういう事ですか。 この小さな子達は先刻から何なのですか。 恐らく、ですが。 一寸…何ですか、貴女達は。 号外が出たのではないか、と。 号外…? …矢張り、見られていましたね。 申し訳ありませんが、赤城さん。 もう少し、分かり易く……て、本当に何なの。 …青葉さんはこの鎮守府で広報を担当している方です。 広報? と言っても、自称なのですが…それでも彼女が書く記事は駆逐艦の子達からとても人気がありまして。 その記事はきちんと取材をして、勿論許可を取った上で、形にする…が本来なのですが。 …。 たまに…こういう事も、ありまして。 つまりは、どういう事ですか。 ……。 赤城さん。 今回は…私達の事が記事になったみたい、です。 私達の事? 私達の何が記事になったと言うのですか。 ……。 赤城さん? …貴女と私の事ですよ、加賀さん。 貴女達、いい加減にしなさい。 赤城さんから離れて、無暗矢鱈に赤城さんに触らないで。 ……。 赤城さん、大丈夫ですか。 …大丈夫です、けど。 その、こういう事は初めてで…。 気分が優れないのですね。 …いえ、気分は大丈夫なのですけど。 その、少し…と言うか大分、恥ずかしいものなのだな、と。 恥ずかしい? …皆に知られてしまった事、が。 皆に知られる…? ……貴女と私が恋仲になったと言う事、を。 ……。 …出来ればそっとして欲しかったのですけど。 もう、手遅れですね…加賀さん。 …それでこの騒ぎなのですか。 ……はい。 この泊地は…。 …その、こういう話は皆好きみたいで。 直ぐ、噂として流れてしまうんです…。 誰と誰が恋仲など…関係無いではありませんか。 …ですけど。 女の子と言うものは、然ういう話が好きらしいのです…加賀さん。 赤城さんもですか? いえ、私はあまり他人の事は…。 あまりと言う事は …少なくとも、貴女に逢うまでは恋と言うものには興味無かったのですけど。 貴女が私を変えてしまったので。 ……。 …と言っても。 誰かと誰かが恋仲…と言う事には矢張り、興味は無いのですけどね。 ……赤城さん。 …はい、加賀さん。 取り敢えず。 …。 部屋に、戻りましょう。 …手を、引いて呉れますか。 赤城さん、私の手を。 ……はい、加賀さん。 番(つがい)と言う言葉を…ふと、思い出しました。 赤城さん、大騒ぎになっていましたけど大丈夫で…は、無さそうですね。 …祥鳳さん。 え、と。 戻ってきた早々、なのですが。 鳳翔さんが執務室まで来て欲しいとの事です。 ……ああ。 ……。 貴女が…加賀さん、ですか。 …然うです。 貴女は? 私は祥鳳型航空母艦一番艦の祥鳳と申します。 これからどうぞ、宜しくお願いしますね。 ……。 …? あ、あの…? …宜しくお願いします。 は、はい。 あ、あの、加賀さんも来て欲しいとの事でした。 …然うですか。 ……加賀さん。 行きましょう、赤城さん。 恐らくは提督の指示なのでしょうから。 …でしょうね。 知らせて呉れて有難う御座います、祥鳳さん。 いいえ。 …では行きましょう、加賀さん。 …はい。 あの、赤城さん。 加賀さん。 …はい? ……。 その……良かった、ですね。 …。 …。 待ち望んでいた人と廻り逢えた事、それはとてもしあわせな事だと思います。 …。 …。 私は…お二人が並んで歩く姿を、見られて。 とても…とても、嬉しく思います。 …。 …。 あ、えと…呼び止めてしまって、すみません。 …いいえ。 祥鳳さん。 は、はい。 有難う。 い、いえ、そんな。 …祥鳳さん。 は、はい、加賀さん。 …有難う。 …! こちらこそ、有難う御座います…! …。 …。 あ、いえ、変ですよね…。 …いえ、そんな事は。 祥鳳さん、それではまた。 加賀さん。 …ええ、行きましょう。 赤城さん。 あの時、日向が居なかったのはほんっとうに、残念だったなぁ。 あ、噂のお二人さん。 …こんにちは、伊勢さん。 加賀です、宜しくお願いします。 こんにちは、赤城さん。 人の子の形では初めまして、加賀さん。 私は伊勢型航空戦艦一番艦の伊勢です。 あの、伊勢さん。 私達の事は お二人の事は多分、知らない人は居ないんじゃないかってくらいになってますよ。 あ、出撃してる子は未だ知らないと思いますけど、でもそれも時間の問題かな。 …然うですか。 ……。 まぁ、良いんじゃないですかね。 何れ、知られるんですし。 然う、お二人の意思に関わらず。 …。 …。 あはは、そんな顔しないで下さい。 楽しいのは、良い事じゃないですか。 私も日向が居たら…屹度、お酒飲んじゃうくらい楽しんでたかも。 それはお酒を飲む口実だと思いますけど。 …。 うん、然うとも言うかな。 でも、楽しい事目出度い事を肴にして飲むのは楽しいですよ。 何より、お酒が美味しいし。 …。 …伊勢さん。 はい? 私達は貴女の肴になるつもりはありません。 お二人には、ね。 言ったでしょう?お二人の意思はもう、そこには無いって。 …。 …。 ともあれ、今の赤城さん。 すっごく良い顔してますよ。 そんな顔、初めて見ました。 …伊勢さん。 加賀さんは、んー…多分良い顔、かな。 ……。 ふふ、良いですね。 やっぱり飲んじゃおうかなぁ、日向は居ないけど。 誰か代わり……然うだ、良かったら一緒に飲みません? 赤城さん、お酒は飲めましたよね。 嗜むくらいには。 ですが、今は鳳翔さんに呼ばれているので。 …。 ああ、お呼び出しですか。 じゃあ、そのうちに。日向が来た時にでも、ご一緒して下さい。 いつになるかは、分かりませんけど。 加賀さん、お酒は飲めますか? ……。 飲めません? …赤城さんがご一緒するなら、私が行かないわけにはいきません。 へぇ。 …何ですか。 言っておきますが、私も嗜む程度には飲める筈です。 筈、ですか。 けど、その小さな躰で? まるで元服したばかりの少年の様、ですけど。 …伊勢さん。 ……。 はい、失礼しました。 では、楽しみにしてますね。 では、私達は。 …。 はい、また。 どうぞ、おしあわせに。 ……。 ……。 …加賀さん。 赤城さん。 私の躰は、小さいですか。 …。 ……。 …艦娘が、生まれてくる時。 何故か、その大きさに違いがあります。 …。 初めから青年と呼ばれる程の大きさであったり、または少年、或いは幼子のようであったり…、 稀に、赤子のような姿の者さえ。 赤子…。 何故かは、今のところ、分かっていません。 私は、まるで“元服した少年”の様な姿をしているのでしょうか。 …伊勢さんの目に然う、映っただけに過ぎません。 …。 幼子の様な姿の娘も、ちゃんと、成長します。 艦娘は…一般的には人の子より、成長が早いんです。 ……。 加賀さん…。 …いえ、なんでもありません。 …。 …。 …加賀さんの躰は確かに少し小さいかも知れません。 けれど。 …。 貴女は私を軽々と抱き上げて呉れました。 だから。 …。 だから、その……。 …そんな顔、しないで下さい。 あ…。 その…困って、しまいます。 困、る…? …と言うのでしょうか、この感情は。 兎に角、そんな顔をしないで下さい。 …。 貴女が嫌でなければ、私は大丈夫です。 嫌なわけ…。 …けれど、赤城さん。 は、はい。 私はお酒が飲めるでしょうか。 貴女と。 …はい? 躰が小さいと…何か、差支えがあるのでしょうか。 ……。 …。 …真面目な顔で。 …? 赤城さん? ふふ…確かに、人の子は子供と呼ばれる時期は飲んではいけないようです。 けれど、貴女は艦娘なので…さて、どうでしょうね。 …可笑しいですか。 そんな真面目な顔して、言うんですもの。 この顔は…。 ……。 赤城さん。 …かわいいです、加賀さん。 …。 ふふ…ふふ…。 …急ぎましょう、赤城さん。 はい…加賀さん。 ……。 千代に、八千代に。 然う、謳ったのは。 別に咎めようと言うわけでは、無いですから。 そんなおっかない顔しないで良いですよ、赤城さん。 …。 と、加賀さん。 …。 寧ろ、皆に紹介する手間が省けました。 なんて、考えていないわけでもありません。 なかなか、やって呉れちゃいましたね。 …提督。 …。 祝言の日取りはどうしましょうか。 矢張り、大安の方が良いのでしょうかね。 提督。 そんな事を言う為に、私達をお呼びしたのですか。 然う。 と、言ったらどうするつもりですか? …。 …。 加賀さん、目が怖いですよ。 先にも言いましたけど、別に咎めるつもりはありません。 貴女達がどのような関係になろうが、要は。 …艦娘としての責務を果たしてさえいれば、其れで良いのですね。 …。 まぁ、立場上として言えば然うなりますね。 でもま、それだけでもありません。 …では。 …。 この泊地で、初めてでしょや。 なんだかんだ言って。 …? 初めて…? …でしょや? 姉妹艦でくっついているのは、それはもう、朝から晩まで、良く見るけれど。 けれど、貴女達の関係は然うじゃない。 名前の由来も山と国、全く持って、関連があるわけじゃない。 …仰っている意味が。 全く持って、 青葉が書いた記事が事実ならば。 貴女達はこの泊地で初めて、艦娘同士で夫婦になろうとしている二人になる。 しかも、あの悪趣味なカッコカリでも無さそうで。 ……。 …カッコカリ? あの名称は正直、胸糞悪い。 ねぇ、赤城さん? …話を進めて呉れませんか、提督。 …。 正直な事を言えば、逢ったその日のうちにそこまで行くとは思ってませんでしたけど、ね。 …。 …。 此処に呼んだのは。 その気持ちに嘘偽りが無いのかを ありません。 ありません。 ですよね。 知ってます。 …提督。 …。 とりあえず、力を抜いて下さい。 私にしてみれば、二人が然うなるのは喜ばしい事ですから。 だって、然うでしょや? 大切な誰かが出来ると言う事は、おいそれと沈むわけにはいかなくなる。 犬死するわけには、いかなくなる。 …犬死。 ……。 と、言いましたけど。 二人同時に失う危惧もあるわけで、これまた、なかなか難しいですね。 …申し訳ありません。 此処まで来ても、提督が何を言わんとしているか… ……。 前置きが長くなりました。 おめでとう、二人とも。 つまりは、それだけ言いたかったのです。 ………。 ………。 はっはっは。 見て鳳翔さん、二人の顔が面白いよ。 赤城さんのこんな顔、初めて見ました。 …この人は。 …赤城さん。 私はこの日を一生、忘れません。 二人の笑顔が、心からの笑顔が見られた、この日の事を。 ごめんなさいね、二人とも。 赤城さんは知っていると思うけど…提督は、ああいう人なの。 …知っています。 ……。 あれでもちゃんと、祝福して呉れているのよ。 こんなご時世、そして、艦娘として生を受けたとしても、以前の生が中で息衝いていたとしても。 今この時に、しあわせになろうとしている者達を、誰にも止める事は出来ない、咎める事も出来ないと。 若しもそんな輩が、少なくともこの鎮守府で居たら……いえ、これは止めておきましょうか。 …大体、想像がつきますが。 …。 昔から人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて…とは言いますけどね。 ともあれ、大変でしたね赤城さん。 皆にさんざ、声を掛けられたでしょう? …いえ、全ては慢心が招いた結果です。 慢心、かしら。 待ち人が来て呉れた喜びで心が解けてしまっただけ、だと私は思いますよ。 そしてそれは、人の子の心を持って生まれた以上、仕方の無い事だと思います。 ……はい。 加賀さん。 …はい。 赤城さんの事、宜しくお願いしますね。 貴女の事だから私に言われなくても大丈夫でしょうけど。 …いえ、そんな事は。 この子はこう見えて…不器用な子ですから。 …不器用、ですか。 表面上では 鳳翔さん。 御免なさい、私が言う事では無いですね。 でも、これだけは分かって下さい。 私は嬉しいのです、貴女の笑顔を見る事が出来て。 こんな日がいつか来れば良いとは思っていたけれど……漸く、来て呉れて。 …。 …赤城さん。 赤城さんのお嫁さん姿、楽しみね。 私の、お嫁さん姿…ですか。 ええ、白無垢姿。 角隠しより…綿帽子の方が良いかしら? いいえ、二人で話して決める事ね。 …。 祝言、挙げるでしょう? その時はお手伝い、させてね。 …有難う御座います、鳳翔さん。 その時は…その、お願いします。 はい、勿論です。 加賀さんのお嫁さん姿も楽しみね。 私は、然ういうのは… 駄目ですよ。 白無垢姿の赤城さんと並ぶのですから。 それとも羽織袴の方が良いのですか? ああ、若しかして西洋風の方がお好みですか。 いえ…然ういうのは、その、良く分かりません。 ならば、そこも少しだけお手伝いしましょう。 ですが、最終的に決めるのは貴女達二人でですからね。 …はい。 …はい。 本当、楽しみね。 …加賀さん。 ……赤城さん。 二人の花嫁姿、屹度とても綺麗ね。 今だって、こんなに綺麗なんですもの。 赤城さんと加賀さんはお似合いな二人、なのね。 …鳳翔さん、もう。 ……。 そうそう。 今日の夜、提督が加賀さんの紹介も兼ねて歓迎会をすると言っています。 …ご辞退させて頂きたいのですが。 騒がしいのは好きではありません。 それは…出来ない相談ですね。 皆にきちんと挨拶するのは大事な事ですよ、加賀さん。 …見世物にされるだけのような気がしますが。 赤城さんも加賀さんと一緒に。 …はい、分かっています。 私も腕を振るおうと思っています。 宜しければ、いっぱい食べて下さいね。 ……。 …赤城さん。 ……。 赤城さん。 …え。 大丈夫ですか。 …はい、大丈夫です。 ……。 …あの、加賀さん。 赤城さん、宜しければまた手を繋ぎたいと思っています。 …。 …もう、嫌ですか。 いえ…嬉しい、です。 私も繋ぎたいと思っていたので…。 …ならば。 ……。 …。 …加賀さんの手、やっぱり熱いですね。 嫌ですか。 …ううん、好きです。 ……。 …また、見られてしまいますね。 いえ、もう見られていますね。 見たい人には見せておけば良いのです。 …。 …騒がられるのは正直、迷惑ですが。 ですが、それくらいで離そうとは思いません。 …加賀さんは恥ずかしいとは、思わないのですか。 恥ずかしい? 何故? ……。 赤城さんは恥ずかしいのですか? …慣れていない、ので。 …。 …私、本当は。 他人と…深く、関わろうした事が無いのです。 ……。 …いつも、距離を取って。 いつか、提督に言われた事があるんです。 …なんと言われたのですか。 事と場合によっては、赦しませんが。 ……。 ……。 口を開けば戦の事ばかり、で。 いつも柔和に笑っているようだけど…実際は、笑顔を張り付けているだけ。 結局のところ誰にも心を開いていないし、開くつもりも無いし、ただ淡々と日々をこなしているだけ、過ごしているだけ。 貴女は人に興味が無いのか…それとも、嫌悪しているのか。 何にせよ、貴女の心を開ける者は今この泊地には居ない、と。 …。 …実際、その通りだったんです。 私は……他人に対して、感情を持てなかった。 どうしても……だからずっと、距離を取り続けたんです。 …。 兵器である私に、感情など、必要無い。 …それは、今でも。 …。 …でも、貴女の事を考える時。 私の中でいつも…感情と言うものが、蠢いて。 …。 時に、己を見失う事さえ。 …。 …知っては、いました。 怖いと、言われていた事…だか、ら。 ……。 だ、だから…その、私。 加賀さんが、初めてなんです…。 …初めて。 こんなに、こんなにも……深く、深く。 私が初めてなのですか。 …は、い。 然うですか。 然う、ですか。 …? 加賀さん? ……。 あ。 …。 加賀さん、顔が…。 凄く、高揚しています。 抑えきれそうに、ありません。 え、え……きゃ。 赤城さん。 か、加賀さん…。 嬉しくてどうにかなってしまいそうです、赤城さん。 …あ。 ああ…! か、加賀さん、落ち着いて。 せめて、執務室からもう少し離れたところで…。 構いません。 でも……ああ、もう。 赤城さん、赤城さん。 …私も、どうにかなってしまう。 ううん、もう疾うになって…。 貴女と、ずっと。 …加賀さん。 加賀さん……。 赤城さん、貴女をずっと。 …ああ。 あいつらはどんな時でも二人の世界に居る、それだけはあの時からホンマ変わらへんのよ。 飲んでるか、バカップル。 …。 …。 なんや、執務室の近くで、それはもう盛大に、いちゃついてたんだってな? 駆逐艦の子らから聞いたで。 ……。 ……。 何しけた顔、してんねん。 誰の為の歓迎会やと思ってるの。 ははぁ、若しかして今になって恥ずかしいって思ってるんか? …あの。 「ばかっぷる」とは何ですか。 キミらみたいな奴らの事や、アホ。 人目も憚らず、いちゃいちゃしてれば然う呼ばれるに決まってるやろ。 …人目も、憚らず。 そもそも、誰も見ろとは言っていませんが。 然ういう問題ちゃうねん。 あんだけいちゃこらされれば、見たなくてもイヤでも目に入ってくるわ。 抱き上げて、きゃっきゃうふふしてれば、な。 ……。 見なければ良いだけでしょう。 そもそも「いちゃこら」とは何ですか。 意味が分からない。 は? キミ、ほんまにアホ? …加賀さん、もう。 ……。 まぁ、あの赤城の腑抜けた顔拝めたのはおもろかったけど? …。 …腑抜け。 赤城でもあんな顔、出来るんやね。 なんやら少し、ホッとしたわ。 …龍驤さん。 聞き捨てなりません。 はぁ? 加賀さん。 赤城さんを腑抜け呼ばわり。 頭に来ました。 ほぉ…だったらなんや、ウチとやるんか? 加賀さん、止めて。 赤城さんを侮辱した事、私は許せません。 侮辱、ねぇ。 キミ、あれくらいで然う受け止めるの? 龍驤さんも、止めて下さい。 …あれくらい? なんや、正規空母のクセに案外ちっちゃいなぁ、キミ。 そういや、カラダも小さいな。 正規空母って言うより、軽空 龍驤さん! ……。 んー? 本当に、止めて下さい。 加賀さん、龍驤さんは本気で言ってるわけじゃ …本気で無ければ許される、それがまかり通る道理はありません。 おお、こわ。 ……いい加減に。 …。 で、やるの? やらな 龍驤、さん。 …。 わ…まず。 いい加減に、して下さい。 ……赤城さん。 あー…。 ……。 ……。 いや、ごめん、ごめんって。 然う、怒らんといてよ。 ただの冗談やねんて。 …。 …。 ごめんって、赤城。 …分かって貰えれば、良いです。 ……。 悪かったな、加賀。 ただな、あの赤城でもあんな顔するんやなぁ出来るんやなぁ、って思っただけなんよ。 いっつも、誰も寄せ付けん、なんでもかんでも一人で抱え込んでたあの赤城が。 加賀、キミと居るとまるで一人の女の子みたいで… …。 …どういう意味ですか。 事と場合によっては あー、だから、だからな? 赤城をしあわせにしてやれって事やねん。 以上。 ……龍驤さん。 …そんな事、貴女に言われる筋合いはありません。 ああ、はいはい、然うやね。 で、飲んでる?…て、全然飲んでないやん。 全く、誰の歓迎会だと…。 ……。 ……。 …美味しかったですね。 鳳翔さんの料理も、間宮さんの料理も、どちらも。 …はい、とても。 龍驤さんは…ああいう人なんです。 あまり気にしないで下さい。 …。 え、と。 加賀さん、結局飲みませんでしたね。 飲んでみようとは、思わなかったのですか? はい。 何故、ですか…? …。 …。 …赤城さんも、飲みませんでした。 何故、ですか。 私は…その、今夜は初めから遠慮しようと思っていたので。 元々、あまり飲めないのですけどね…。 …。 …あの、加賀さん。 良かったら…その、お風呂ご一緒しませんか。 …。 その、嫌なら…良いのです。 ごめんなさい…あの、聞かなかった事に 出来ません。 …う。 ご一緒しても良いのですか。 …。 良いのならば…その申し出、お受け致します。 あ、あの…その。 ……赤城さん。 …はい…。 ……。 ……。 …この泊地は、騒がしい所ですね。 騒がしい…ですか。 ええ、とても。 静かとは、言えません。 …確かに静かとは言えませんね。 ただ、私はこれに慣れてしまっているので…。 こんな騒がしい所で…赤城さんはずっと、独りだったのですね。 …! …。 …加賀さん。 ……。 加賀さん…私…。 …私がお酒を飲まなかったのは、赤城さん。 貴女と今宵、契りを結ぶ為です。 ぁ…。 …ただ、それだけです。 ……。 …若しも。 赤城さんが飲まなかった理由が…私と、同じだったら。 …私と、貴女は。 …。 ……どこか、似てますね。 然う、でしょうか。 …同じ事を、考えていたのですから。 ……同じ。 …初めて、なんです。 …。 …誰かと契りを結ぼうと思ったのも。 契りを、結ぶのも……貴女が初めて、だから。 ……赤城さん。 だから……わたし、は。 ……。 …加賀さん、また誰かに見られてしまいます。 構いません。 …然う、ですね。 私ももう、構いません…。 ……。 …お風呂に入りましょう、加賀さん。 躰を綺麗にして……それから。 …はい、赤城さん。 縁と言うのは切っても、切れない。 然う、ぽそっと呟いたのは、誰だったっけね。 那珂ちゃん、思ったんだけどー。 …なぁに、那珂ちゃん。 遠征先で色んな赤城さんと加賀さん見てきたけど、うちみたいな二人は未だ見た事ないなぁ。 …川内姉さん。 あー、那珂ちゃんもそれ、言いたかったのにー。 逢ったその日のうちにくっついちゃうなんて。 うちに来た加賀さんは「ヘタレ」じゃないのかもね。 川内姉さん、加賀さんに失礼ですよ。 うちのじゃないんだから、良いんじゃない。 ねぇ、那珂。 然ういう問題では…。 でもでもぉ、那珂ちゃんの中では加賀さんは「ヘタレ」で決まり!なんだけどなぁ。 那珂ちゃん。 てへ。 加賀さんに言っては駄目よ。 絶対に。 はーい。 でも、赤城さんも。 他所とは違った感じだよねぇ。 それ、那珂ちゃんも思ってたー。 ……。 不思議だよねぇ、元は同じだろうにさぁ。 ねぇ。 …同じであって、同じではない。 神通? 私達の数だけ、様々な私達が居るんです。 姉さんも、那珂ちゃんも…そして、私も。 ふぅん…でもま、然うなんだろうねぇ。 て事はぁ、アイドルじゃない那珂ちゃんも居るって事?! かもよ。 かもね。 えぇ、考えられなーい! ま、夜戦好きじゃない私は居ないだろうけどね。 いや、居るかも知れませんよ。 夜、大人しく寝て呉れる姉さんが。 えー、那珂ちゃん、そんなの想像出来ない。 …私も出来ないなぁ。 つまりは、分からないって事ですね。 ふぅん…ま、良いや。 私は、私だし。 那珂ちゃんも那珂ちゃんだよー。 私も、私です。 神通はどこでもこんな感じだと思うな。 それ、どういう意味ですか。 そのままの意味。 神通は…神通、だしね。 ちょ、姉さん。 んー? …もう。 て、二人でずるいー。 那珂ちゃんも混ぜて混ぜてー。 あ、那珂ちゃん…。 …はぁ、三人揃っての夜のお風呂も良いもんだねぇ。 こんな広いのに…狭いですよ、もう。 ……。 …。 …あの、加賀さん。 …はい。 その……気持ち、良いですか? …ええ、とても。 ……。 …何より、静かなのが良いです。 騒がしいのはあまり、好きではありませんから。 …加賀さんが好きなものって、なんですか。 私が好きなもの、ですか。 …はい。 その、知りたいな…て。 ……。 ……。 …然うですね。 赤城さん、でしょうか。 え。 ……。 あ、あの…そ、然うじゃなくて、その。 好きなものを聞いてきたのは赤城さん、貴女です。 …然う、ですけど。 私が、知りたいのは…加賀さんはどんなものが好きなのか、と言う事で…。 赤城さん、と言う答えは。 間違っていますか。 ……。 然うは、思わないのですが。 わ、私は。 …。 お風呂が、好きです…。 …お風呂、ですか。 はい…。 ……。 …。 …赤城さん、今宵は月が綺麗でしょうか。 え…? 一緒に、見ませんか。 あ、あの…加賀さん? 私は、赤城さんが好きなので。 は、はぁ…。 ……。 …え、と。 大丈夫、夜は長いですから。 …! ……。 ……も、う。 貴女と一緒に。 ん…。 好きなものを、増やしていけたら。 然う、思います。 ……。 …それが答えでは、いけませんか。 い、いいえ……。 然うですか…良かったです。 …。 ああ、然うだ。 赤城さん。 …なん、ですか。 貴女と一緒に入るお風呂、私は好きになりました。 ……。 駄目ですか。 …一人で入る日も、あります。 その時は…どうするのですか。 その時は…然うですね、貴女を想いながら入る事にします。 私を、ですか…。 はい。 ……。 ……。 ……。 …赤城さん? 何を、しているのですか? ……。 赤城さん、あまり長い時間湯の中に顔を沈めていては……然う、溺れてしまいますよ。 人の子は息継ぎをしなければ…。 …かが、さん。 はい。 …私はもう、溺れています。 手遅れ、です。 …。 ……加賀さんの、せいです。 加賀さんのせいで、息継ぎも儘ならない…。 …赤城さん。 ……お月見、明日の夜では駄目ですか。 明日の夜…。 …若しかしたら、雲に隠れてしまって見えないかも知れません。 そうしたら、明後日の夜…明後日が駄目なら……。 ……。 ……今宵は、ただ。 ただ、貴女を…貴女だけを…一番近くに感じさせて下さい…。 …赤城さん。 ……早く、貴女を感じたい。 ……。 …もっと、近くに行きたい。 この時間さえ、本当はもどかしくて仕方ない…。 ……。 …一つには、なれない。 それでも……。 …。 …。 ……私は、屹度。 かがさん…。 …好きなものが、増えていくでしょう。 貴女と過ごす、日々の中で…。 ……。 …その時はこうしてまた、聞いて呉れますか。 …勿論、です。 聞かせて下さい…他の誰でもなく、私だけに。 …はい。 ……。 …赤城さん。 そろそろ、参りましょうか……。 …はい、加賀さん。 不味いよか、美味い酒の方が良いってもんだろ? 美味く飲めりゃ、なんでも良いのサ。 ふぃ、今宵の月は綺麗だねぇ。 …一寸。 うーん? あんた、未だ飲み足りないの。 ほんと、呆れるわね。 まぁまぁ、然う言いなさんなって。 どう?あんたも一献、月見酒ってね。 私はもう要らないわ。 あれしきで満足したって? あの量を「あれしき」と言うのは早々、居ないわよ。 は、あんただって飲めるくせして。 まぁ、良いや。飲まないなら、さっさと寝なよ。 …。 なに、やっぱり付き合うってか。 そうこなくっちゃねぇ、折角の初夜だってんだから。 下世話。 あんだけ見せつけて呉れたんだ、どうって事無いだろ。 あれは意識してやってるわけじゃないわ、屹度。 特に…と言うより、主に青い方。 無意識ってか。 はは、それはそれで。 あんな赤城さん、見られないわよ。 ああ、なかなか良い肴だったねぇ。 酒が進む、進む。 下衆。 人の事、言えるかっての。 でも、さぁ。 何。 今までは見られなかったけど、これからは見られるんじゃないの。 なんたって今宵、夫婦になっちまうってんだからね。 …あんたねぇ。 ほんと、下衆な顔して言うわね。 んー……。 …。 …今宵は月が綺麗だねぇ。 欠けて、いるけど。 それはそれで風情があんのさ。 人の子がいちいち、名付けてしまうくらいにね。 十六夜と言うと音が私は好きだわ。 へぇ。 何よ。 いんや、別に。 ……。 ……。 ……加賀さん、ね。 一航戦、赤城さんの片割れ。 一緒に沈んだ、存在。 姉妹、では無いけど。 数奇な運命、ねぇ。 商船から空母になっちまったくらいじゃ、勝負にならないかね。 それはそれでしょ。 は、それもそうだねぇ。 ……。 ……。 …静かね、今宵は。 夜戦の声も、小さい子達の声も、聞こえてこないわ。 まぁ、初夜だしねぇ。 皆、気ぃ使ったんじゃないの。 …あのねぇ、隼鷹。 良いじゃないか、目出度いんだから。 おかげで私は美味い酒が飲めてるしねぇ。 あんたは飲めれば良いんでしょ。 しし。 ……。 …契り、ねぇ。 まさに人の子のようだねぇ。 ……。 難儀な事さね、飛鷹? …どうだか。 これはこれで良いんでしょ、あんたの事だから。 赤城さん、これで良いでしょうか。 ……。 赤城さん? …あ、いえ。 どうかしましたか? その…なんだか、可笑しいなって。 そんなに可笑しかったですか。 …だって、これから私達。 それなのに…こんな。 ……。 えと…有難う御座います、加賀さん。 お礼を言われるような事、しましたか? …お布団、敷いて呉れました。 大した事ではありません。 …。 …。 …え、と。 とりあえず、座って呉れますか…? はい。 ……。 ……。 ……え、と。 あの、加賀さん…。 はい、赤城さん。 こ、これから…その…。 …ふ。 な、何ですか。 いえ、少し可笑しかったので。 …酷いです。 すみません、言い直します。 可愛いらしいと、思ったので。 ……。 赤城さん。 …はい。 改めて、私と契って呉れますか。 ……はい、喜んで。 …。 …あ、あの。 はい。 ……灯り、消しませんか。 消してしまうのですか。 え。 貴女の顔が見えなくなってしまいます。 …! 出来れば…見ていたいのですが。 ……。 赤城さん? ……恥ずかしい、のです。 …。 ……貴女に全部見られるのは、構わない。 でも………。 …。 ……恥ずかしい、です。 …赤城さん。 あ…。 ……。 …待って。 お願い…灯りを、消して。 …もう少し、その顔を。 やだ…いやです、加賀さん……。 ……。 …ひゃ、…あ。 ……私が先でも、良いですか。 お願い…おねがい……あかりを、けして…。 ……。 …こわい、の。 じぶんが、じぶんでなくなってしまう……はしたないすがたを、あなたにみられるのが…だか、ら。 はしなたない…? だか、ら……。 …寧ろ、見せて下さい。 あ…だめ……。 ……きれいです、赤城さん。 やだ……やだ……。 …。 ……おねがい、…かが、さん。 おねがい……。 …少し、待っていて下さい。 ぁ……。 ……。 ……。 …お待たせしました。 これで、良いですか…? ……。 赤城さん……。 ……加賀さん。 はい…。 加賀さん…加賀さん……。 ……私は、此処に居ます。 あぁ……。 ……貴女の熱を確かに、感じています。 …ほんとう、に。 ほんとう……に。 赤城さん…。 ……かが、さん。 かがさん……。 …貴女を、私のものに。 ……私を、貴女だけのものに。 しても、良いですか…。 どうか、してください……。 それはとてもしあわせなことなのだと。 幼い私には分からなかったのです。 ……んぅ。 …あ。 ……あやなみぃ? ごめんなさい敷波、起こしちゃった? んー…なに、どったの…? …ちょっと、目が覚めちゃって。 そしたらね、お月さまがきれいだったから。 ふぅん……。 …ねぇ、敷波。 なにー…。 …契りを交わすって、何するのかな。 はぁ…? …赤城さんと加賀さんが、コイナカ? になったって、みんな言ってたけど…。 コイナカじゃなくて、フーフじゃなかったっけ…? …フーフ? フーフになるのに、チギリがどうとか…なんとか…。 …夫婦になるのに、するの? じゃないの……しらない、けど。 何を、するの? あー……。 ……。 …しらないよ、そんなの。 つか、ねむい…。 ああ、うん、ごめんなさい。 …。 …。 ……なぁ、あやなみぃ。 私ももう、寝るから。 ごめんなさい、敷波。 なんかよく、あたしにはわかんないんだけどさ…。 …敷波? まぁ、いいんじゃないの…なんか。 …何がいいの? あー……なんか? …それ、気になるよぅ。 ……。 もう。 ……かがさん、こわそうだなぁって。 加賀さん? …て、おもったんだけどさ。 あかぎさんと、いっしょだと、そんなにこわそうじゃないかなぁ…てさ。 ふたりで、もくもくと、ごはん、たべてたっしょ…? うん。 あかぎさんさ、すっごいうまそうにたべてたんだよね……。 …。 いっぱい、たべるひとだったけど……あんなにうまそうなかおは、してなかったなぁって、さ。 いっつも、たんたんと、たべてて…。 …ああ。 だからぁ…いいんじゃないの。 ……え、と。 なんか、さ……。 …よく分かんないけど。 ……。 敷波の「なんか」は当たる…ような気がするから。 …。 ……ねぇ、敷波。 ……。 …綾波も敷波もいつか、誰かと。 ……あやなみ。 …なに。 はやく、ねなよ…あやなみ、も。 …。 じゃなきゃ、あたしがねむれ、な… ……。 ……。 …寝てるじゃない、もう。 ……。 …綾波も、寝ないと。 おやすみなさい、敷波… ……おー。 …。 …。 …結局。 契りを交わすって、なにするのかな…。 肆 |