加賀さんが、来て呉れたんです。








   ……。


   ……。


   …あの、赤城さん。


   …何ですか、加賀さん。


   赤城さんは此処で、どんな風に過ごされていたんですか。


   …。


   …。


   ……戦いに明け暮れていましたよ、ずっと。


   …然う、ですか。


   時には大きな傷を負って、時にはみっともなく敗走して。
   それでも沈まずに、今日(こんにち)まで。


   …。


   私が沈まなかったのは…全て、加賀さんに逢う為だと。


   ……私はそこまでの存在でしょうか。


   …。


   ……かつての私は貴女を守れなかった。
   守れず、先に沈んだ……貴女を、残して。


   ……かつての貴女が沈んでいくのを。


   …。


   …私は、見ている事しか出来なかった。
   僚艦である貴女を……私にとって唯一無二の存在だった、貴女を。


   …赤城さん。


   ……貴女は私を守りたい、然う言いましたね。


   …はい。
   それが…それこそが、私が存在する意義だと。


   …若しも本当に私を守って呉れるなら。
   守りたいと思って呉れるなら。


   ……。


   …私より先に、逝かないで下さい。


   ……それは。


   …真に私を守りたいと、言うのならば。


   ……。


   …私の心を、守って下さい。


   ……心。


   …傍に、居て下さい。
   若しも先に逝くと言うのなら……私は後を追います。


   それはなりません。
   貴女は


   貴女が居ない世界に、何の意味が、何の未練があるのでしょうか。
   私が守りたいのは…貴女が居る世界です。
   この世界に再び生まれてきて呉れた、貴女なんです。


   ……。


   貴女が居ない世界、なんて……。


   …。


   …もう、貴女が居なかった頃の私には、貴女の熱を知らなかった私には戻れないのです。
   どうあろうと……もう、二度と。


   …。


   …だからお願い、先に逝かないで下さい。
   何があろうと…共に居て下さい。


   …赤城さん。


   ……二人で生きて、逝く時は二人で。


   …それが貴女の願いなのですか。


   …。


   ……ならばその願いを叶える為に、私は。


   ……。


   赤城さん。


   …はい。


   二人で生きて、逝く時も二人で。


   加賀さん…。


   …この手を、決して離したりは致しません。
   何があろうと…決して。


   …ッ。


   ……。


   …嬉しい。
   嬉しい…。


   …赤城さん。


   ……。


   ……。


   …明日から、また。


   …共に、参ります。


   どうか、隣に居て下さい……どうか、どうか。


   …ずっと、私は貴女の隣に。








   思えば、あの時の赤城さんと加賀さんは初々しい恋仲のような、けれど時を共に重ねた夫婦のような。
   そんなどちらとも取れるような空気を纏っていたような気がします。








   待って下さい、姉さん。
   歩くのが、早いです。


   遅い、遅いぞ、筑摩。
   早くせんか。


   そんなに急がなくても間宮さんは無くなりませんよ。


   然ういう問題では無いのだ。


   では、どういう問題なんですか。


   筑摩、お主、最近弛んでいるのではないか。


   …弛んで?


   然うじゃ。


   …然うですか?


   吾輩が然う言っておる。


   …姉さんが言うのなら。


   だからまた、一から鍛え直す必要があると吾輩は考えたのだ。


   …。


   聞いておるのか、筑摩。


   はい、聞いています。
   だって姉さんの話ですもの。


   なら、良い。
   良いか、筑摩。


   はい、姉さん。


   吾輩はお主より少しだけ、お姉さんじゃ。
   だから、妹であるお主を守る義務がある。


   ……。


   だからと言って守られてばかりじゃ駄目なのだ。
   筑摩自身、強くならなければならぬのだ。


   …はい、姉さん。
   私は…姉さんを守る為に、強くなりたいと思っています。


   馬鹿め。
   妹を守るのが姉の役目だと言ったろうが。


   では妹は姉の為に何も出来ないのですか。


   そんな事は無い。
   筑摩、お主が居るから吾輩は今よりも強くならないといけない、なろうと思える。
   吾輩一人では駄目なのだ。


   姉さん…。


   筑摩、ちゃんと吾輩に付いてくるのだぞ。


   はい、姉さん。
   私は姉さんにずっと……。


   ん。


   …はい?


   筑摩、あれを見よ。


   …なんでしょう。
   あ。


   あれは赤城と……もう一人は誰じゃ?


   加賀さん…だと思います。


   加賀?
   誰じゃ、それは。


   今日、着任された正規空母の方です。
   …然う、あの人が赤城さんの。


   ほほう、正規空母か。
   赤城と一緒だな。


   二人で…お散歩でもしているのでしょうか。
   赤城さんが案内しているとか。


   ふむ、然うかも知れんな。


   ……あ。


   …ん?


   ね、姉さん。


   赤城と加賀、何やら…


   見ちゃ駄目です!


   …ふご。


   ……え、えと。


   ち、筑摩、前が見えぬぞ。


   良いんです、見えなくて。


   何が良いのじゃ、これじゃ歩けぬ。


   とりあえず、回れ右して下さい。


   何がとりあえずなのじゃ、ええい、離せ。


   …赤城さんと加賀さんが。
   と言うより、あの赤城さんがあんな顔するだなんて…。


   筑摩、聞いておるのか…!


   姉さん。


   なんじゃ!


   この事は青葉さんには言っては駄目ですよ。


   …青葉?
   何故、青葉が出てくるのじゃ!


   …赤城さんのあんな表情。
   絶対に良いネタにされてしまうわ…。


   筑摩、離せ、離さぬのか。


   …。


   筑摩。


   …ねぇ、姉さん。


   何じゃ…!


   私、姉さんの事一番大切に思っていますから。


   …は?


   ずっと、お傍に居させて下さいね。


   何を言っているのじゃ、当たり前じゃろうが。
   お主は吾輩の傍に居るのだ。


   はい、姉さん。


   いい加減に離せ、筑摩。


   小さかった頃のように、手を繋いでも良いですか?


   は?


   そしたら、離してあげます。


   むむ…。


   ……。


   …ふむ、筑摩は仕方無いヤツじゃな。
   良し、繋いでやるから、離せ。


   絶対、ですよ。
   あとあの二人の事を青葉さんに言っては駄目ですからね。


   分かった、分かったから離せ。


   はい。


   …やれやれ、全くだな。


   姉さん。


   筑摩、ほれ。


   …。


   早くせんか。


   …はい、姉さん。


   では、行くぞ。


   この筑摩、いつまでも利根姉さんと。








   赤城さんが、待っていて呉れたんです。








   ……赤城さん。


   …はい。


   契りを、交わしませんか。


   …契り、ですか?


   はい。


   …それは夫婦になると言う事ですか。


   …。


   ……違うのですか。


   いえ…然うかも知れません。


   …何を思って、然う言ったのですか?


   ……。


   …。


   …多分、然ういう事だと思います。


   何ですか、それ…。


   …夫婦になるとまでは、考えていませんでした。


   ……。


   …すみません。
   けれど、決して軽い気持ちで言ったわけではないのです。


   …知っています。
   加賀さんは軽い気持ちで然ういう事を言う人では無いですから。


   ……不思議ですね。


   …不思議、ですか。


   私達は…人の子としては今日、初めて逢ったのに。


   ……。


   …誰よりも、互いの事を知っている。


   ……知らない事もありますよ。


   …。


   …人の子としての貴女。


   ……赤城さん。


   鉄の塊だった頃の貴女の躰は、こんなに柔らかくは無かったでしょう…?


   …何しろ、鉄の塊でしたから。


   ふふ…。


   ……可笑しかったですか。


   はい…とても。


   …貴女の笑い顔はとても、可憐で。


   ……。


   私は……目を、奪われてばかりです。


   …貴女は少し、表情が硬いですね。


   ……嫌、ですか。


   嫌…?


   ……私は貴女の様には笑えません。


   …当たり前です。


   う…。


   …貴女は加賀さんなんですから。
   だからこそ。


   ……。


   …私は貴女が好きなんです。
   貴女のその、苦笑いのような笑い方でさえ…とても、愛しい。
   嫌なんて、思うわけがない…。


   ……赤城さん。


   …はい。


   ……もっと強く、抱き締めても。


   …同じ事を、思っていました。


   ……。


   …加賀さん。


   私は……貴女が、愛しいです。


   …。


   ……気持ちが、溢れてくる。
   どうにも、出来ない…。


   ……私も。


   ……。


   …どうか、契りを。


   ……。


   …私と、交わして下さい。


   ……私と夫婦になって呉れますか。


   …夫婦と言う意味で良いのですか。


   ……はい。


   …良かった。


   ……。


   ……加賀さん、私を貰って下さい。


   …赤城さん、私は貴女の物です。


   ……。


   ……。


   …ふふ。


   …笑わせてばかりですね。


   だって。


   …だって、なんですか。


   まさか出逢ったその日のうちに、夫婦の契りを交わす事になるなんて…。


   …時期尚早だったでしょうか。


   ……まさか。


   …。


   …私はずっと、待っていたんですから。
   寧ろ、遅い位です…。


   ……すみません。


   良いです…願いが一つ、叶ったのですから。


   ……。


   …加賀さん。


   はい…。


   …不束者ですが、末永く宜しくお願いしますね。


   ……こちらこそ。


   ……。


   ……。


   ……ふふ。


   …赤城さん?


   ……しあわせ、です。


   …。


   ……加賀さんは、ん。


   ……。


   …かがさん。


   ……もっと、しあわせに。
   私が、必ず…。


   ……加賀さんも、ですよ。


   …。


   …加賀さんがしあわせでなければ、私もしあわせにはなれない。
   それを、忘れないで…。


   ……赤城さんが、傍で笑っていて呉れるなら。


   …。


   いえ…笑っていなくても。
   貴女が、居て呉れれば…私は、しあわせです。


   ……。


   …二人で、もっとしあわせになりましょう。


   ……今よりももっとですからね、加賀さん。


   はい…赤城さん。








   赤城さんと加賀さんがお互いを愛しむように微笑み合っていた事を、今でも良く覚えています。








   扶桑姉さま、今日は穏やかな日ですね。


   ええ、然うね。


   あの、姉さま…。


   何かしら、山城。


   その…あの。


   どうしたの?


   …いいえ、何でもありません。


   何でも無いの?


   …。


   ふふ、おかしな子ね?
   何でも無くなんか、無いのでしょう?


   …お姉さま。


   うん、何かしら?


   ……あ。


   ふふ。


   ね、姉さま…。


   ねぇ、山城。


   は、はい。


   今日は本当に、穏やかで良い日ね?


   はい、姉さま!


   さぁ、それではこのまま行きましょうか。


   い、良いのですか?


   山城は良くない?


   よ、良くないわけなんか、ありません…!


   ん?


   ……。


   山城?


   ……私。


   なぁに?


   ……しあわせ、です。


   …。


   ……こんな穏やかな時がずっと、続けば良いのに。


   …山城。


   ……。


   生きていれば、嵐のような日もあるわ。
   然う、いつまでも夜が明けぬような日々も。


   …。


   でもね、山城。
   だからこそ、こんな穏やかな日がとても愛おしく思えるのだと思うの。


   ……姉さまぁ。


   あらあら。


   …私、私。


   今日の山城は、昔の小さかった頃の山城みたいね。
   甘えん坊で。


   ……。


   …ふふ、良い子。


   姉さま……。


   ……あら?


   …?
   姉さま…?


   …あそこに、居るのは。


   ……。


   赤城さんと……あの人が加賀さん、かしら?


   …今日着任された正規空母の方、ですよね。


   ええ。
   二人で、お散歩でもしているのかしらね。


   …。


   ……あら。


   …。


   えと……山城、あまり見ない方が良いかしら。


   ……。


   山城?
   山城?


   ……良い、な。


   はい?


   …!
   な、なんでもありません…!!


   あ、山城…。


   い、行きましょう、姉さま。
   あ、あまり見ていては、その……青葉さんのようになってしまいます!


   ああ、青葉さん。
   彼女が今の赤城さんと加賀さんを見たら、屹度、記事にしてしまうわね。
   号外ってやつかしら?


   だ、黙っていましょう、姉さま。


   ええ、その方が良いわね。


   ……。


   山城?
   そんなに気になるの?


   い、いえ…!


   ふふ、赤城さん、しあわせそうね?


   …ッ。


   加賀さん、も。
   今日初めて逢った者同士とは思えないわ。


   ……然う、ですね。


   じゃあ、行きましょうか。


   …あの、姉さま。


   うん、なぁに?


   …手、このままでも良いです、か?


   勿論よ、山城。


   …!
   はい…!!








   “私”には、屹度、“貴女”だけなんです。
   “貴女”は…“貴女”も、然うだったら。








   ……。


   ……。


   …赤城さん。


   ねぇ…加賀さん。


   …はい。


   ……私、貴女とこうしていて気が付いた事があるの。


   …なんでしょうか。


   私……若しかしたら、独占欲が強いかも知れません。


   独占欲…ですか。


   …誰にも渡したくない。


   ……。


   …然う、思っている自分が居るんです。


   私は赤城さんのものです。
   誰のものにもなりません。


   …でも、然う思ってしまうの。


   ……困りましたね。


   愛想、尽かしてしまう…?


   …まさか。


   ねぇ、加賀さんはどう…?


   …私、ですか?


   私が若しも、


   譲りません。


   ん…加賀さん。


   …誰にも譲りません。


   例えば……相手が提督でも、ですか?


   当然です。


   まぁ…。


   誰であろうと、赤城さんは譲れません。
   赤城さんは…私の守るべき僚艦であり、そして乙嫁となる人なのですから。


   ……。


   …赤城さんと契りを交わすのは、私です。
   提督であろうと誰であろうと、決して、譲れません。
   決して、譲りません。


   加賀さん…。


   ……。


   …。


   …困りました。
   私も赤城さんの事を言えないようです。


   …ふふ、然うですね。
   けど、良かったです。


   …良いですか?


   はい…とても。
   だって。


   …だって、なんでしょう。


   加賀さんは私だけ、なんですよね?


   …。


   …言って?


   ……私は赤城さんだけです。


   嬉しい…。


   …赤城さんは


   言わせるのですか?


   …私には言わせました。


   ……私、狡いみたいです。


   …。


   …こんな狡い女でも、本当に愛して呉れますか。


   もう、後戻りは出来ません。


   …。


   …し、する気もありません。
   私は…貴女を愛してしまったのですから。


   ……加賀さん。


   …この想いは未来永劫、変わらず貴女に。


   ……後悔、しませんか。


   後悔?


   …私は屹度、凄く重たい女だと思います。


   重い?


   …出来れば加賀さんの重荷にはなりたくない。
   でも、私…


   失礼します。


   …え。


   ……。


   わ…。


   赤城さん。


   か、加賀さん…。


   私は、貴女を離しません。
   私は、貴女だけを恋慕い、愛し続けます。
   私は、貴女をしあわせにする為に、この命を使います。
   私は、…ん。


   ………。


   …赤城さん。


   加賀さん…加賀さん……好き…。


   ……。


   ……。


   …赤城さんは、軽いですね。


   ……。


   とても、軽くて。
   重くなんか、ないわ。


   …もう、然ういう意味では無いのに。


   …。


   …抱っこされるなんて、いつ以来でしょうか。


   された事、あるのですか。


   着任した頃…今よりも躰が小さかった頃、鳳翔さんに。


   ああ。
   なら、良いです。


   …他の人だったら駄目だったんですか。


   ええ、駄目です。
   考えただけでも…頭にきます。


   …もう、加賀さんったら。


   ……。


   ふふ、ふふ。


   …赤城さん。


   はい、何でしょうか。


   いつでも言って下さい。


   え。


   いつでも、して差し上げます。


   え、え…?


   ……。


   い、いつでもって……と、とりあえず、皆の前ではしないで、ね?


   分かりました。
   が、気分が高揚したら分かりません。


   …それって。


   赤城さん…!


   きゃあ…ッ。


   ふふ。


   か、加賀さん…。


   艦載機になったような、そんな気持ちになりませんか?


   そ、それより、恐いわ…。


   大丈夫です、絶対に離したりなんかしませんから。


   あ、ああ。


   赤城さん、赤城さん。


   あ、回らないで…目が…。


   ふふ、ふふふ。








   あの二人を見ていたら、永遠、と言う言葉を信じてみても良い気がしてきたんだよ。
   まことにロマンチックで、馬鹿馬鹿しい話かも知れないけれどね。








   分かる?


   …はい?


   分かるかなぁって。


   …えと。
   何の話でしょう?


   …。


   提督?


   ねぇ、鳳翔さん。


   はい、なんでしょう。


   どんなものなんだろうね。


   …。


   私にも姉妹がいるけど。
   前世からの繋がりってわけじゃないし。


   …姉妹艦の話ですか?


   いや、違うよ。


   …。


   赤城さんと加賀さんの事。
   あの二人は姉妹艦ってわけじゃないでしょや?


   …ああ。
   然うですね、違います。
   ただ…


   一航戦として、共に戦った。
   加賀さんは赤城さんを守って、でも加賀さんは赤城さんよりも先に。
   赤城さんはそれを見ている事しか出来なくて、最終的に彼女も同じ場所に沈んだ。


   …はい。


   ごめん。


   …はい?


   先に謝っておこうと思って。


   …これから言う事に対して、ですか。


   うん。


   ……。


   以前の生の記憶が残っているのは、どういうものか。
   ただの人である私には理解しようが無い。


   …。


   それを引き摺る艦娘も居る。
   そもそも引き摺るなと言う方が土台無理な話。


   …。


   赤城さんは特に…それが強かったように思える。
   彼女の戦い方は、命を失うのを恐れないそれ。
   それは勇敢であると同時に、無謀とも愚かとも言える。
   一つ間違えば命を粗末にしているようにしか見えない。


   …ですが、提督。
   私達は戦う為に生まれた、兵器です。


   然うだね。
   その通りだよ。


   …あの子は特に。


   だけどね、鳳翔さん。
   こんな事は大っぴらには言えない事だけど。


   …はい。


   赤城さんみたいな娘ほど、私は生きるべきだと思う。
   いざとなったら、背を向けて逃げても良い。


   …それは。


   まぁ、難しいと思うけどね。


   ……。


   だけど、加賀さん。
   彼女が来た。


   …提督。


   二人は姉妹艦では無い。
   だから、姉妹の絆があるわけじゃない。
   でも、それでも、赤城さんと加賀さんの間には。


   ……。


   加賀さんを見ている時の赤城さんの顔は、今までに見た事が無いそれだった。
   普通の女の子と変わらない、そんなね。


   …。


   これは、私の願いだけど。


   …何か、お考えがあるのですね。


   未だ少し、早いかも知れないけどね。
   けど、早く来れば良いと思ってるよ。


   ……提督。


   うん?


   二人が、戻ってきたようです。


   …然う。


   提督。


   そろそろ執務に戻ろうか、鳳翔さん。


   願いは存外、早く叶うかも知れませんよ。


   ん?


   …ふふ。


   鳳翔さん?


   私、あの子のあんな顔を見るのは初めてです。


   …あの子?
   それは赤城さんの事?


   どうぞ、ご自分の目で。


   んー……おぅ。


   …提督は、あります?


   鳳翔さんが無いのに、私があるわけないでしょや?
   さっきの話、聞いてた?


   ですよね。


   ですよ。


   ……。


   …これは、用意しとこかな。


   用意、ですか。


   然う、用意。


   …。


   だけど、あんな姿青葉辺りにでも見られたら。
   また、大騒ぎになるねぇ。


   …でしょうね。


   やれやれ、賑やかな事は良い事だ。


   困っているのですか?
   それとも、喜ばしいのですか?


   さぁ、どっちだろ。
   何にせよ、人のああいう顔を見るのは私は好きだよ。
   上の、いつも仏頂面な姉が相方を連れてきた時と同じ顔、しててさ。








   …“私”にとって“貴女”は、屹度、掛け替えの無い存在なのでしょう。
   “貴女”にとって…“貴女”にとっても、然うであったら。








   ……。


   …大丈夫ですか、赤城さん。


   …。


   …。


   ふふ…もう、大丈夫です。


   本当に…ん。


   ええ、本当です。
   だから、そんなに心配しないで?


   …。


   じゃないとこの指、唇から離しません。


   ……。


   …加賀さん?


   ……むぅ。


   それは了承と受け取っても?


   ……。


   ふふ。
   ね、目が回るとは、あんな感じなのですね。


   …すみません、調子に乗ってしまったようです。


   もっと乗っても良いですよ。


   …いえ、もう乗りません。


   ねぇ、加賀さん。


   …はい。


   加賀さんは私よりも躰が小さいのに、力持ちなんですね。
   艤装も付けていないのに、私をあんな風に持ち上げるなんて。


   …力持ち、なのでしょうか。


   ええ、とても。


   …人の子である赤城さんは、軽かったですが。


   …。


   とても、とても。


   …ね、加賀さん。


   はい。


   楽しかった、です。


   …。


   …本当に、して呉れますか?


   …?


   言ったら…また、先刻のように。


   …ええ、二言はありません。
   いつでも、言って下さい。


   …。


   …ですが。


   空母でも、空を飛べるのね。


   …。


   空母である私達は、空を飛ぶ事は出来ない。
   だけど…それに近い気持ちになる事は、出来る。
   加賀さんが、私とずっと一緒に居て呉れさえすれば。


   …ずっと一緒に居ます。


   ん…加賀さん。


   そして赤城さんが望むのなら、いつでも。


   ……。


   …いつでも、空を。


   約束、ですね…。


   …約束。


   はい、加賀さんと私だけの…約束です。


   …はい、赤城さん。


   ……。


   ……。


   …あの、加賀さん。


   …手を、赤城さん。


   はい…加賀さん。


   ……。








   あの時の!赤城さんの顔は!今でも忘れません!!
   忘れられません!!!








   赤城さん!
   こんにちは!!


   え。


   ……。


   これからお散歩ですか!
   良いですね!


   …比叡さん。


   ……手が。


   こんにちは、比叡さん。
   いいえ、もう戻ってきたところです。


   然うですか!


   比叡さんは…


   私はこれから榛名と午後の演習に行くところです!!


   然うですか。
   榛名さんは


   工廠に寄ってから来るって言ってました!


   …然うですか。
   どうぞ、お気を付け


   はい、有難う御座います!!


   ……。


   こんにちは!!
   貴女は


   本日着任しました、航空母艦の加賀と申します。


   初めまして!金剛型二番艦の比叡と申します!!
   貴女が赤城さんの加賀さんなんですね!


   な…。


   …どうぞ、宜しくお願いします。


   はい、宜しくお願いします!!


   比叡さん。


   はい、なんでしょうか!
   赤城さん!


   相変わらず、元気ですね。


   はい、元気です!!
   赤城さんも元気そうですね!


   私、ですか?


   はい!とっても!にこにこしてました!!


   …にこにこ、ですか。


   赤城さんはいつも難しい顔をしているので!
   だから、なんだか嬉しくなっちゃいました!!


   …私、いつもそんな顔していますか?


   はい!とっても!
   たまに怖い時もありました!!


   ……然う、ですか。


   ……。


   だけど!
   今日の赤城さんはとっても柔らかい顔をしてます!
   屹度、加賀さんが来てくれたからですね!


   …!


   ……。


   加賀さん!


   …そんな大きな声を出さなくても聞こえています。
   貴女は本当に元気な人ですね。


   はい!
   お姉さまも榛名も褒めて呉れます!
   霧島にはやかましいって言われますけど!


   …それで、何でしょうか。


   赤城さんの事、大事にして下さいね!


   …は?


   比叡さん、何を言って


   赤城さんは戦いになるといっつもいっつも無理するんです!
   だから、加賀さんが支えてあげて下さい!!


   ……いつも。


   比叡さん…!


   私は金剛お姉さまも妹の榛名も、それから末の霧島も!
   とても大事だから!皆の支えになりたいと思っています!!
   その為に毎日、頑張っているんです!!


   …貴女に言われなくても、しますよ。
   赤城さんは私が守ります、必ず。


   か、加賀さん…。


   そっか、然うですよね!
   すみません!


   …比叡さん、時間は大丈夫ですか。


   はい、もう行きます!
   赤城さん!


   は、はい。


   顔、にっこにこですね!!


   ……私、そんなに。


   青葉に見つかったら、絶好のネタになっちゃうと思います!!


   …青葉?


   それは…困りますね。


   あはは、赤城さんでも困ったりするんですね!
   知りませんでした!!


   ……。


   比叡さん。


   あ、はい?


   その物言いは赤城さんに無礼です。
   赤城さんに、謝って下さい。


   え。


   …加賀さん、良いですよ。


   良くありません。
   比叡さん、若しも謝らないのならば…


   あ、ああ。
   すみません、赤城さん!


   …いえ、大丈夫です。


   でも青葉に見つかったら本当に、若しかしたら号外扱いかもです。
   赤城さんが加賀さんと手を繋いで、にこにこしながら歩いていたなんて。


   ……。


   …赤城さん、青葉とは?


   …その話は後で。
   比叡さん、演習頑張って下さい。


   はい、頑張ります!!


   では…行きましょう、加賀さん。








   若しも、久遠の絆が本当にあるのなら。
   “私達”の絆が久遠のものだったなら。
   契りを交わす事で、少しでも叶うのなら。








   赤城さん。


   ……。


   赤城さん。


   ……。


   赤城さん。


   ……。


   …。


   ……。


   …分かりました。
   赤城さんが、そのつもりなら。


   ……あ。


   …。


   か、加賀さん、手を…。


   …離しません。


   あ、う…。


   …どうして言葉を返して呉れないのですか。


   それは、その…。


   私が嫌になりましたか。


   ち、違います…!


   ならば何故、呼びかけに応じて呉れないのですか。
   手も離したままで。


   ……。


   赤城さん。


   ……加賀、さん。


   …。


   ……私、怖い顔してますか。


   …は?


   ……難しい顔、してましたか。


   いいえ。


   …。


   私は…この通り、表情に乏しいですが。
   赤城さんは…言いませんでしたか、表情がころころと実に良く変わって。


   …。


   私はそんな貴女に、心を奪われてゆくばかりです。


   …ッ。


   赤城さん。
   今度はちゃんと、返事をして呉れますね。


   …は、い。


   顔を、上げて下さい。


   ……。


   …。


   ……加賀さん、私。


   怖くなんか、ありませんよ。


   …う。


   赤城さん。


   ………。


   …え。


   ……。


   あ、赤城さん、どうしましたか。


   …なんでも、ない、です。


   ですが、目から……然う、涙。
   確か、人の子は悲しかったり辛かったりすると、目から涙と言う水を流すと…。


   …かがさん。


   は、はい。


   …ぎゅうって、して下さい。


   ぎゅ、ぎゅう…?


   ……だきしめて、と言う意味です。


   あ、ああ。
   分かりました。


   …。


   ……赤城さん。


   …私、ずっと頑張らないとって。


   …。


   ……一人で、一人でも、頑張らないといけないって。


   …もう、一人ではありません。
   ですから、一人で頑張る必要もありません。


   ……。


   …だから。
   その、泣かないで下さい…どうして良いか、分からなくなります。


   …抱き締めて下さい。


   …。


   …貴女を、感じさせて下さい。


   ……それだけで良いのですか。


   それだけで…私は。


   ……。


   …だって私は、貴女が好きだから。


   ……赤城さん。


   …ごめんなさい、加賀さん。
   もう、大丈夫で……


   ……。


   ……だめ、です。
   みんな、が……ん。


   ……あかぎさん。


   …。


   ……これを入れては、駄目ですか。


   ……。


   …若しも駄目ならば、入れません。


   ……だめです。


   …分かりました。


   ……いれて、ください。


   …。


   ……。


   ……了解しました、赤城さん。


   あ…。


   ……。


   あ、あの、今はもう、大丈夫ですから。
   なりましたから。


   …いえ、まだ涙が。


   そ、それは、加賀さんが……ん。


   ……。


   ……だめ。
   これいじょう、は……。


   …ところで、赤城さん。


   え…。


   …青葉とは。
   何の話で…






   パシャリ。





   あ。


   …あ?


   か、加賀さん、離れて!


   …何故ですか。


   理由は…後でちゃんと言うから、今は


   嫌です。


   …お願いです、加賀さん。


   ……。


   じゃないと……ああ。
   もう、手遅れかも知れない…いいえ、屹度手遅れね。


   …手遅れ?
   どういう事ですか。


   ……加賀さん。


   は……ん、う?


   ……。


   …赤城さん。


   ……もう、どうでも良くなりました。


   …どうでも良い?
   それはどういう意味で…


   ……。


   …。


   ……加賀さん、今一度言って下さい。


   …何をでしょうか。


   私と契りを、交わして呉れますか。


   …勿論です。
   私は貴女しか、欲しくありません。


   …本当に、私で良いのですか。


   何度でも言います。
   私は貴女以外、要りません。


   ……ならば、私と今宵。


   …。


   ……今宵、契って下さい。


   …。


   ……今宵、私をその腕の中に。