空を、見上げる。 あの頃と変わらぬであろう、蒼と白。 視線を下ろして、前を見据える。 矢張りあの頃と変わらずどこまでも広がる、青と藍。 振り返る。 大将を討って喜んでいる仲間(と呼ぶらしい)、者達。 其処に、私が必要としている者の姿は無く。 かつては、そこに在ったもの。 居て呉れた、もの。 もう一度、空を仰ぎ見る。 ああ。 空と、海は、あの頃と変わらず、其処に在り続けるのに。 “加賀”。 …“赤城”は、此処に居るわ。 此処、に…。 赤城さん……!!! …。 赤城さん、此方に来て下さい! 早く! …蒼龍さん。 一体全体、何事ですか。 新しい娘が…! …ああ。 それが、何か。 それより、帰還の支度は… ああ、もう! 失礼します、赤城さん!! …何を。 口で伝わらないなら、実際に見て貰った方が早いでしょう!! …離して下さい。 早く、赤城さん! 私に、触らな どうか、一瞬を! どうかどうか、見逃さないで!! お願いですから!! ……何を、言っているの。 さぁ、赤城さん!! ………。 …あかぎ、さん。 …え。 ああ、間に合わない…! あれ、は…。 赤城さん、早…え。 加賀さん、加賀ぁ…!! え、ええと。 兎に角、急いで赤城さん!! 本当に、本当に…!!! …赤城、さん。 あ、ああ、あああああ…。 君 来 タ リ テ 我 春 ヲ 知 ル …失礼します。 加賀さん。 ……。 改めまして私は航空母艦、赤城と申します。 これからどうぞ、宜しくお願いします。 …こちらこそ、お願い致します。 それで、どうでしたか。 …何が、ですか。 提督にご挨拶、したのでしょう? …ああ。 別にどうとも思いません。 どうとも、ですか。 …はい。 …。 …用件はそれだけでしょうか。 加賀さん、食事は未だですよね。 …食事? 私、これからなんです。 良かったらご一緒しませんか。 ……。 お腹、空いてませんか。 …幾らかは。 ならば、決まりです。 行きましょう。 …赤城さん。 ここの食事はとても美味しいですよ。 加賀さんも屹度、気に入ると思います。 赤城さん。 はい? …手、離して貰いたいのですが。 あ、ああ。 すみません、嫌でしたか。 …いえ。 ……。 …。 加賀さん。 …はい。 これから、宜しくお願いします。 …。 私は貴女を待ってました。 ずっと、待ってました。 私を、ですか…? はい…だから、嬉しいのです。 貴女が、来てくれて。 ……。 …少し、はじゃいでしまったのかも知れません。 迷惑だったら…ごめんなさい、謝ります。 …迷惑と言うわけでは。 本当に? …。 …本当に迷惑ではありませんか? はい。 …良かった。 ……。 …ならば。 …? お部屋、ご一緒でも構いませんよね。 …部屋を。 それとももう、決められてしまったでしょうか? …いえ、未だです。 ああ、良かった。 実はもう、鳳翔さんにはお話してあるのです。 …。 空母寮なら、どの部屋を使っても構わないと言う言葉を頂きました。 当人同士が構わないのなら相部屋でも良いと。 …。 …やっぱり、ご迷惑ですか? …迷惑と言う話ではありません。 寧ろ、赤城さんは私と一緒で良いのですか。 はい、勿論です。 一緒が良いのです。 …。 私、ずっと一人だったんです。 だから、加賀さんと二人になれて…本当に嬉しいんです。 ……どうしてですか。 貴女が加賀さんだからです。 ……。 …待ってたんです。 ずっと、この日を…。 …私が一航戦だからですか。 …。 だから、赤城さんは… それもあります。 けれど、それだけではありません。 …。 加賀さん。 私は貴女と一緒が良いんです。 貴女でなければ、私は、駄目なんです。 …。 …? 加賀さん…? ………。 か、顔が…。 だ、大丈夫ですか…? ……だめ、です。 え、ええ? ……。 どこか悪いのでしょうか…。 今、鳳翔さんを… …大丈夫です。 ですが 大丈夫です、だから行かないで下さい。 …あ。 ……。 …加賀さん。 ……私は、貴女に会いたかった。 …。 …だけれど、いざその時になったら。 赤城さんは、私を……。 …。 ……その、赤城さん。 …はい。 ……お部屋、ご一緒しても良いでしょうか。 はい…是非、ご一緒して下さい。 …分かりました。 その申し出、謹んで…いえ、喜んでお受け致します。 …。 …。 ふふ。 …赤城さん? 有難う御座います、加賀さん。 …お礼を言われる事では。 いいえ、言わせて下さい。 どうしても言いたいのです。 然うですか…。 はい。 …こちらこそ、有難う御座います。 どういたしまして。 …不慣れなので、色々とご迷惑を掛けると思います。 どうぞ、宜しくお願いします。 はい、どんどん掛けて下さい。 ……。 ふふ、冗談です。 ……赤城さん、貴女と言う人は。 私が、なんでしょうか。 …いえ。 気になります。 言って下さい。 …。 加賀さん? …思っていたより、その。 その、なんですか。 ……やっぱり、止めておきます。 どうしてですか。 ……。 加賀さん。 …それより。 食事に行きましょう。 お腹が空いてきました。 …分かりました。 では、行きましょうか。 ……ご馳走様でした。 ご馳走様でした。 ……。 加賀さん。 …はい。 如何でしたか。 …何が、ですか。 …。 …。 つい先刻、同じような会話をしたように思えます。 …いえ、しました。 加賀さんには省略してお話してはいけないんですね。 覚えておきます。 …すみません。 いえ、私が至らぬだけですから。 赤城さんが至らないわけではありません。 私が お食事、如何でしたか。 …。 すみません、遮ってしまって。 …いいえ。 お口に合いましたか。 ただ黙々と食べていたようでしたけど。 …。 …合いませんでしたか。 いえ……とても美味しかったです。 …本当、ですか? はい、本当です。 ……。 …何でしょうか。 …加賀さん。 はい。 加賀さんもいっぱい、食べるんですね。 …はい? 私、良く食べるって言われるんです。 自分ではそんなつもり無いのですけど…皆に言わせると良く食べているように見えるらしくて。 …いえ、食べると思います。 加賀さんには言われたくありません。 ……すみません。 ふふ…。 ……可笑しいですか。 はい、とても。 …然うですか。 ……。 あの…何ですか。 …私、やっぱり少しはしゃいでいるようです。 ……。 加賀さん、これからご予定はありますか。 いえ…今日の所は特段、ありません。 着任したばかりなので、今日の所は休めと提督に命じられています。 私も無いんです、実は。 …赤城さんも? 鳳翔さんが加賀さんは今日着任したばかりで全くもって不慣れだろうから、 私を今日一日、加賀さんの傍に、と提督に進言して呉れたんです。 だから、演習もありません。 …すみません。 何故謝るのですか? …私の事など、気にして頂いて。 当たり前です。 鳳翔さんも私も、加賀さんが大事なんです。 ……大事。 良かったら、少し外に行きませんか。 あ、でもその前に。 …。 荷物、私達の部屋に運ばないといけませんね。 今、何処にあるのですか? …ありませんよ。 …? 荷物など、有りません。 在るのは…この身、一つです。 ですが、 貴女も、見ていた筈です。 私が生まれ落ちたその時を。 ……。 ……すみません。 いいえ…配慮が足りませんでした。 いけませんね…。 …赤城さん。 ……。 あの、お願いがあるのですが…良いでしょうか。 …はい、何でも言って下さい。 本が、欲しいのです。 …本、ですか? はい。 それで…本とは、何処にあるものなのでしょうか。 ……。 …あの、赤城さん? 本は酒保で売っています。 …売っている。 と言う事は、お金が必要なんですね。 然うなりますね。 ……然うですか。 加賀さん、良かったら いえ、それはお受け出来ません。 するわけには、いきません。 …未だ、言い終わっていませんが。 先に遮ったのは赤城さんです。 ……。 ……。 …加賀さんって、若しかして頑固ですか? 頑固…? …それから、負けず嫌い。 ……。 ……ふふ。 …可笑しいですか。 はい、とても。 でも、分かりました。 では、お貸しする事にします。 …え。 それでは食器のお片付けをしてから、参りましょう。 あの、赤城さ 私も負けず嫌いなんです、どちらかと言えば。 ……。 出掛ける前に私達の部屋がある空母寮に案内します。 良いですよね? …はい。 ふふ、じゃあ行きましょう。 加賀さん。 ……。 空母寮は他の寮より少しだけ、古びているんです。 改築して欲しいと言う人は居るのですが、私は今のこの寮が好きです。 …。 着きました。 此処です。 …此処、ですか。 はい。 ……。 どうぞ、加賀さん。 今日から貴女の部屋です。 ……。 さぁ、遠慮しないで下さい。 …この部屋で赤城さんは。 生活をしています。 ……。 …矢張り、私と一緒では嫌ですか? 一人の方が良かったですか? ……いえ。 では…お邪魔致します。 それ、変ですよ。 …変、ですか。 言ったでしょう? 今日から、加賀さんはこの部屋で生活をするんです。 私と、一緒に。 …赤城さんと一緒に。 はい。 ……赤城さんと、一緒に。 ねぇ、加賀さん。 あ、はい。 手を繋いで、入りましょうか。 はい……え。 では、手を。 赤城さん? 何を言っているのですか? 手を繋いで入りましょう、と言いました。 どうして手を繋ぐ必要があるのですか…あ。 だって加賀さん、なかなかじゃないんですもの。 なかなかじゃないって…。 だから、一緒に入ろうと思いまして。 お言葉ですが……一人で、入れます。 でももう、繋いでしまいました。 ……。 では、入りましょうか。 お邪魔します、は、無しですよ? ……赤城さん。 言ったでしょう? …聞きました。 今日からこの部屋は 私、はしゃいでしまっているんです。 …。 だから、許して下さい。 ……。 加賀さん。 …分かりました。 では…お願い致します。 はい、喜んでお受け致しますね。 ……。 …では、どうぞ。 ……はい。 ……。 ……。 ……如何でしょうか。 …。 ……また、省略してしまいました。 ここが、赤城さんの部屋… …それから、加賀さんの部屋です。 ……ここで、私は生活するのですね。 赤城さんと、一緒に。 …はい。 ……然う、ですか。 寝る時は畳の上にお布団を敷きます。 ね、聞いて下さい。 …何でしょうか。 お布団、最初から二組あったんです。 ……。 私がこの部屋に来た時にはもう、あったんです。 ……然うだったんですか。 はい。 可笑しいですよね、私一人しか居ないのに。 お布団だけ、二組あるなんて。 …然うでしょうか。 でも、然うですね。 加賀さんの為にあったんですね。 …。 …だから私は、一人だったんですね。 ……赤城さん。 ……。 …お待たせしてしまい、申し訳ありません。 え。 ……すみません、己惚れてしまったようです。 …。 …。 …ふふ。 ……可笑しいですね。 はい…とても。 でも…嬉しいです。 ……。 ね、加賀さんは寝台の方が良かったですか? 寝台…。 べっど、と言うものです。 お布団を畳に直接敷かず、台の上に敷くんですよ。 私は…畳に直接敷くお布団の方が良いです。 ふふ、私と同じですね。 …同じ、ですか。 加賀さん。 …はい。 これからずっと、宜しくお願いします。 ……。 …? 加賀さん…? 赤城さん。 は、はい。 不束者ですが、これからどうぞ宜しくお願い致します。 …わ。 貴女は私が守ります。 必ず。 ……。 …? 赤城さん…? ……加賀さん。 …はい。 ……。 …赤城さん? ……まるで嫁いできたみたいです、それ。 嫁いで…? ……それから、まるで。 ……。 …な、なんでもありません。 で、では、外に行きましょうか。 赤城さん、気になります。 ならないで下さい。 寧ろ、ならないで。 ですが か、加賀さん。 はい。 さ、最初は酒保に行きましょう。 え。 はい。 然うと決まれば善は急げです、参りましょう。 しかし未だ部屋に来たばかりで 善は急げ、です。 赤城さん、待って下さい。 赤城さん。 ……。 ……。 ……。 …あの、赤城さん。 ……。 どうされたのですか? …どうもしてません。 ですが…部屋を出てから一言も話して下さらない。 それまではずっと、喋っていたのに。 …本当にどうもしてませんから。 なら、良いのですが…。 …。 …。 …私、喧しかったですか? 喧しい…赤城さんが? …一人でずっと、話していて。 ……。 …喧しかったですよね。 いいえ、それはありません。 …。 私は…話すのがあまり得意ではありません。 だから…。 …。 …。 …だからやっぱり、喧しかったですよね。 私は赤城さんの声が好きなようです。 …え。 だから、喧しいなんて思いません。 寧ろ、もっと話して下さい。 …! お願いします。 赤城さんが話して下さらないと…良く分からないのですが、とても居心地が悪いような気がしてならないのです。 ……。 ……。 ……。 …あの、 私。 …はい。 ……本当に嬉しかったんです。 とても、とても…嬉しかった。 …。 …加賀さんの声が、聞こえた時。 ああ、やっと加賀さんが来て呉れた…と、思ったんです。 …赤城さんは。 …。 …どうしてそんなに、私の事を。 …正直な事を言います。 どうか、気を悪くしないで聞いて下さい…。 …気を悪くなんかしません。 ……本当に? 本当です。 嘘は嫌いです。 …あの、ね。 はい。 ……貴女なんか来ない。 だから、待たない…待ってなんか、いない。 …。 私は、一人で戦って、そして一人で沈めば良い。 私は、艦娘なのだから。それが私の存在意義なのだから。 …。 …だけど加賀さんの声を聞いた瞬間、胸の、このあたりが酷く熱くなって。 それから…私はやっぱりずっと待っていたんだって。 ……。 …自分の気持ちに蓋をして。 だってこんな気持ち、蓋をしなければ…私の、心は。 ……。 …ごめんなさい、加賀さん。 答えになっていませんよね…。 謝る必要など、ありません。 …ねぇ、加賀さんは。 加賀さんは、どうだった…? …私、ですか。 その……私と、逢って。 …。 …。 …この人だ、と思いました。 私が守るべき人は、赤城さん、貴女だと。 …嬉しくは、無かった? ……。 …。 ……赤城さん。 はい…。 …これが嬉しいと言う感情ならば。 私は、嬉しかった…貴女に、逢えて。 ……。 …嬉しいと、思っています。 加賀さん…! は、はい。 ……。 …え。 あ、赤城さん…? …。 どうしましたか、何処か悪いのですか? それとも、私が言った事で気分が… …違います、違うの。 ですが…。 ……ごめんなさい、こうしていれば直ぐに治まるから。 ……。 …治め、ますから。 赤城さん…。 ……困らせてしまって、ごめんなさい。 ……。 …少しの間。 少しの間だけ、だから…。 …。 ……。 ……。 ……。 赤城さん。 …。 手を、繋いでも宜しいでしょうか。 ……かが、さん? …。 あ……。 …すみません、繋いでしまいました。 ……謝らないで下さい。 …ですが、了承を頂いていません。 そんなもの…。 ……。 …今は、必要無いと思います。 ……今は、ですか。 然うです…寧ろ、求めないで下さい。 求めないで……加賀さんが思ったようにして下さい。 ……。 …私は、その方が嬉しいですから。 ………分かりました。 …だから、このままで居て良いかなんて。 聞かないで下さいね…。 …了解です。 ならば、聞きません。 …。 このままで行きます、赤城さん。 …はい、加賀さん。 …。 …。 …赤城さん。 はい…。 …案内、宜しくお願いします。 ……あ。 …すみません。 ふふ…然うでした。 任せて下さい、加賀さん。 …お願い致します。 酒保に行ったら、その後は、甘味処に行きましょう。 加賀さんと一緒に食べてみたい餡蜜があるんです。 餡蜜、ですか。 それは赤城さんが好きなものなのですか? …。 違うのですか? …はい、好きです。 然うですか。 でしたら是非、食べてみたいです。 …はい、是非。 楽しみです。 …。 …。 …加賀さん。 赤城さん。 ……ふふ。 可笑しいですか? …はい、とても。 嬉しくて…とてもとても、可笑しいです。 ……。 …その本で良かったのですか? はい。 …他にもありましたけど。 いいえ、これで良いのです。 赤城さんが選んで呉れましたので。 …確かに、お勧めはしましたけど。 それに装丁と言うのですか。 赤城さんと同じ色をしてます。 とても、気に入りました。 …それは内容と関係無いですよ、加賀さん。 読むのが楽しみです。 …加賀さん。 はい、何でしょうか。 ……私、少し変かも知れません。 変? 矢張り、何処か悪いのですか。 ならば、少し休みましょう。 あ、あの。 赤城さんが言っていた甘味処は未だでしょうか。 未だならば、何処か他に… あの、加賀さん。 赤城さん。 手を、離します。 …え。 …。 か、加賀さん、何を…。 …どうぞ。 ど、どうぞって…な、何をしているのですか。 どうぞ、私の背に。 ……え。 ……。 そ、それは私を背負う…と言う事ですか? …私の背では不足だと思いますが。 か、加賀さん、私は大丈夫ですから…。 ……。 だから、立って下さい。 …いいえ。 本当に大丈夫ですから。 お願いです、立って。 …。 …加賀さん、お願いです。 ……。 …ごめんなさい。 変とは言いましたが…躰が不調なわけでは無いのです。 だから…だから……。 ……。 加賀さん…。 ……すみません。 え…。 …貴女を困らせてしまいました。 すみません。 い、いえ…。 …本当に大丈夫ですか。 ……はい、大丈夫です。 …然うですか。 ……。 …? 矢張り、何処か…。 …手、貸して下さい。 手を? 分かりました。 ……。 ……。 …嫌だったら、言って下さい。 ……? …ん。 あかぎ、さん…? ……変なのは、此処です。 胸……心臓? ……はい。 …。 …あ。 直ぐに戻りましょう。 そして、 ち、違います、そうじゃなくて。 違いません。 心臓は言わば人の子の動力源、そこに変調を来したとならば… 聞いて下さい…! ……。 …此処に、触っていて下さい。 ……分かりました。 ……。 ……。 …分かりますか。 ……。 …鼓動が早いんです。 おまけに、凄く五月蠅くて……私、こんな事は初めてなんです…。 …。 ……分かりません、よね。 …いえ、分かります。 確かに…これは。 あ…や。 ……。 か、かがさん……て、うごかさないで…。 ……。 …だめ、です。 ……赤城さん。 ん…ん。 ……。 …わたし……なんて、声を…。 赤城さんは、柔らかいですね。 …! それに、温かい。 …ッ。 …此処に手を置いていると、より、赤城さんを感じる事が出来ます。 ………。 …私はこれが好きかも知れません。 いえ、好きになったかも知れません。 ……。 …すみません、抱き締めてみても良いですか。 え、え…ぇ。 ……。 …かがさん、あの。 ……思ったようにしただけです。 駄目でしたら…今直ぐ、離します…。 ……。 うん……やっぱり、好きです。 ……。 …赤城さんの手は柔らかい。 躰も…とても、とても、柔らかい。 ……かがさん、だって。 ……。 ……わたしも、いいですか。 はい。 …。 …。 ……加賀さん、は。 …。 …加賀さんは、ちょっと熱いですね。 私よりも、少しだけ…。 …私は排熱が多いようなのです。 若しも不快ならば…。 いいえ…私、好きです。 この熱さが…加賀さんの熱が…好きです。 ……。 …かがさん。 かがさん…。 ……ところで。 …はい。 本当に大丈夫ですか。 …はい、…いえ。 駄目でしたら今日はもう、帰りましょう。 …餡蜜、加賀さんと食べたいんです。 次の機会でも… …どうしても、食べてみたいんです。 …。 …だから、帰るなんて言わないで下さい。 ……分かりました。 …。 …。 …あの、加賀さん。 はい、赤城さん。 …手、また良いですか。 勿論です、赤城さん。 あら、春がやって来たようですね。 ……。 …こんにちは、間宮さん。 いらっしゃい、赤城さん。 それと… …。 加賀さんです。 本日、着任されました。 然うですか。 初めまして、加賀さん。 …加賀と申します。 宜しくお願いします。 間宮さん、あの…良いですか。 はい、餡蜜ですね。 二つで良いですか? は、はい、宜しくお願いします。 ……。 加賀さん、今日は天気が良いので外で食べましょう。 …はい、分かりました。 ふふ。 …? 間宮さん…? …。 春だなぁって。 …春? 春…どういう意味ですか? 手を繋いで来たんですよね? 此処まで。 こ、これは…その。 …然うですが。 何か問題でも… 今日、初めて会った者同士とは思えないですね。 とても、仲睦まじくて…どこか、微笑ましい。 ま、間宮さん…! …仲睦まじい。 ふふ。 こんなに顔を赤くしている赤城さん、初めて見ました。 赤城さんでも動揺するのですね。 ……。 ……赤城さん。 では、暫し待っていて下さい。 直ぐにお作りしますので。 …。 …。 ……赤城さん。 …。 …大丈夫ですか。 ……大丈夫です。 …。 …それより、食べましょう。 …はい。 ……あら。 …どうしましたか? あいす、くりーむ…。 ……。 …のっていた? いえ…のっていなかった、はず…。 …赤城さん、此処に覚書らしきものが。 覚書…見せて下さい。 はい。 『小さな春の訪れの喜びと、日頃のご愛顧に感謝を込めて。』 ……間宮さん。 …。 …食べましょう、加賀さん。 ……はい、頂きます。 …。 …。 ……。 …………美味しいです。 …え? とても美味しいです。 …。 赤城さんが食べたいと仰ったのも頷けます。 これは…とても、美味しい。 ……。 ……。 …気に入って貰えて、嬉しいです。 はい、とても気に入りました。 是非、また食べたいものです。 …。 …。 …くす。 …? 可笑しかったですか? はい。 だって、未だ食べ終わっていないのに。 …。 流石に気が早いですよ、加賀さん。 …すみません。 ふふ。 …ん。 あいすくりーむが、ここ…左の頬に、ついてます。 …ああ。 ……。 …赤城さん? どうされ しぃ。 …む。 少し、じっとしていて下さい…。 …。 ……。 ……。 …はい。 もう、良いです… ……。 ……よ。 ……。 ………ああぁ。 …。 すみません…ごめんなさい……。 …赤城さん。 ……何も、言わないで下さい。 そして、忘れて下さい…寧ろ、無かった事にして下さい…。 無理です。 …う。 ……。 …だったらせめて、何か反応して下さい。 反応…ですか。 だって…加賀さん、何も。 …。 私が今、加賀さんにした事…分かって、ますよね。 …唇の端を舐められました。 と、私は認識していますが…違いますか。 ……違いません。 そして。 それについての私の反応を、赤城さんは求めて ごめんなさい。 やっぱり、しなくて良いです。 どちらですか。 ……。 …どう反応すれば、赤城さんに満足して頂けたのでしょう。 …。 ……。 か、考え込まなくても良いですから…! いえ、考えさせて下さい。 暫し、お時間を貰います。 だ、だから良いんです…ッ。 お願いだから、止めて下さい…ッ。 ……。 ……うぅぅ。 赤城さんは、可愛い人ですね。 …へ。 ころころと言ってる事が変わる。 それと同時に表情も変わる。 とても、可愛いと思います。 …ッ。 私には良く分からない感情だったのですが、赤城さんを見ていたら理解出来たような気がします。 可愛いと言う言葉は、若しかしたら、赤城さんの為にあるのかも知れませんね。 か…ッ。 …か? ……。 赤城さん? ……それ以上、言わないで下さい。 心臓が、保たなくなって……壊れて、しまいます…。 え。 ……。 赤城さん、赤城さん。 …だいじょうぶ、です。 いえ、とても大丈夫そうには思えません。 今直ぐ、帰りましょう。 だいじょうぶですから。 いえ、駄目です。 ……。 赤城さ 加賀さんの、ばか。 ……え。 …ばか、加賀さんのばか。 ……。 ………加賀さんのせい、です。 私、の……。 …。 …私が、赤城さんを。 ……。 ……。 ……。 ……申し訳ありません、赤城さん。 …責任、取って下さい。 責任…どうすれば、良いのですか。 ……そんなの。 貴女は私が守ります。 この命に懸けても、貴女だけは 然うじゃありません。 そんな事、私は望んでいません。 …え。 ……。 …ですが、私は。 私は、貴女を守るた…… ……。 ………め、に。 ……。 ……あかぎ、さん。 …責任、取って下さい。 私をこんな風にした責任を……。 ……。 …他の誰にも、私にした事を、私にされた事を、しないで下さい。 ほかの、だれ、か……。 …手を、繋いだり。 抱き締めたり……唇を、交わしたり。 ……。 私以外の人にしたら…許しません。 絶対に、許しません…。 ……。 ……。 ………わかり、ました。 ぜったいに、いたしません……。 …約束、して下さい。 やくそく、いたします……。 ……指切り、出来ますか。 は、い……。 ……では、小指を。 ……。 ゆびきりげんまん……。 ……。 ……約束、ですよ。 …は、い。 ……。 ……あの、あかぎさん。 …なんですか、かがさん。 わたし…わたしは。 …。 ……わたしは、あかぎさんに、こういをもってしまったかもしれません。 いえ、もしかしたら、さいしょから…。 …。 ………どう、したら、いいですか。 知りません…自分で、考えて下さい。 …じぶん、で。 ……。 ……あかぎさん。 なんです…… ……。 ………か。 ……かんがえ、ました。 ……。 まちがっていたら…すみません。 はい、丁度頂きました。 有難う御座います。 ……。 …こちらこそ有難う御座いました、間宮さん。 ふふ、お気に召して貰えたでしょうか。 …とても美味しかったです。 私も…美味しかったです。 餡蜜にあいすくりーむを入れるとあんなに美味しくなるものなのですね。 また、二人で来て下さい。 今回はバニラでしたけど、抹茶のでも美味しいですから。 ……楽しみです。 …はい、また来ます。 くれぐれも二人でですからね、加賀さん? ……はい、二人で屹度来ます。 屹度、では、駄目です。 ね、赤城さん? ……間宮さん。 ふふふ。 それでは、またのお越しをお待ちしております。 ……。 ……。 …あの、赤城さん。 …何でしょうか、加賀さん。 その……お金は必ず、お返し致します。 …本のお代だけで、結構です。 ですが、餡蜜は… …どうしても加賀さんと食べてみたかったんです。 だから…受け取りたくありません。 ……。 ……。 ……分かりました。 では、こうしましょう…。 …どうするのですか。 私は赤城さんと一緒に、あの餡蜜が食べたいです。 何度でも。 …だから、なんですか。 だから…私は赤城さんと一緒に食べたいんです。 …。 だから、その…次は、私が出します。 赤城さんと、食べたいから。 ……。 …どうぞ、ご了承して下さい。 ……ならば、こうして下さい。 …。 …他の誰かと行かないで下さい。 三人以上ならば良いです…だけど、二人きりで行くのは私だけにして下さい。 赤城さん…。 …責任、取って呉れるのなら。 ……。 …出来ないのなら、 誓います。 …。 …二人きりで行くとしたら、赤城さん、貴女とだけです。 ……絶対ですよ。 ですから、赤城さん。 貴女も… …あ。 ……私以外の誰かとは行かないで下さい。 ……。 …どうか行かないで下さい、赤城さん。 ……加賀さん。 私は…… ……。 ……貴女が、好きです。 …。 …この気持ちを、抑え切れそうにありません。 ……だったら、抑えないで下さい。 抑えないで…全部、私にください。 ……。 …私も、貴女にあげますから。 ……良いのでしょうか。 …何が、ですか。 私が…その、赤城さんの この期に及んで。 …。 ……そんな事言う加賀さんは、本当にばかです。 …すみません。 ……。 ……手。 …。 ……繋ぎませんか。 …繋いで下さい、聞かずとも。 ……すみません。 …。 ……赤城さん。 …何ですか。 その……好きです。 …。 …好きです、赤城さん。 ……ばか。 ……すみ、 ……。 ……。 ……あかぎ、さん。 …大好きです。 ……。 ……大好きです、加賀さん。 …あかぎさん。 ……だきしめてください。 はい…。 ……それから、 ……。 …かがさん。 ……貴女をずっと、お慕いし続けます。 ずっと…ずっと。 ……約束、して呉れますか。 はい…約束、致します。 …。 ……帰りましょうか、赤城さん。 …未だ、帰りたくありません。 ……。 …もう少し、二人で。 ……ならば、もう少し二人きりで。 弐 |