彼女はあの時、悲しい嘘は吐かないで、と言った。
    けれどあの時の私は本気で思っていた。
    悲しいと言う感情は私には無く、そうしてしまいたいと強い願望、欲求、
    私達には本来無いものを男だからと言う理由で持つリカルドへの憎しみにも似た嫉妬、それから。
    そうされたい、されてしまいたいと言う、抑え切れない程の、欲望、肉欲、彼女と言う名の生への渇望。
    “それ”、はいつも私を突き動かす。特に抱かれている時はひどく、狂おしいまでに、彼女を求めてしまう。
    自分が人間で無くなる事なんて、問題じゃなかった。
    そもそも私は最初から人間じゃない。どこまで行ってもその事実は変わらない。変えられない。
    彼女が私を人間だと言ってくれる事、然う見てくれている事は嬉しい。凄く、嬉しい。彼女が居るから私は人間で居られるから。
    だけど…やっぱり私は創られた存在で、魔女で、彼女と同じ人間じゃない。なれない。
    そして“それ”を叶える為には…彼女を。彼女を私と“同じ”にしなくてはならない。
    そう、同じに。








    エリスー。


    ナディ。


    お待たせ。
    留守番、ありがとね。


    どういたしまして。
    お給料、貰えた?


    うん、ばっちり。
    これで暫くごはんに困らない。


    良かったね。


    うん、良かった。
    で、これ。


    うん?


    お土産。


    アイス?


    そう、アイス。
    溶けないうちに食べちゃえ。


    少し溶けてる。


    だーかーら。
    早く。


    うん、ありがとう。


    …。


    なに?


    自然になったなぁって。


    当たり前の事。


    はいはい。


    マンゴー?


    ストロベリーが無かったから。


    珍しいね?


    品切れだって。
    あんたと同じ好みの人間が多いって事なのかもね。


    ふぅん。


    何か変わった事はあった?


    何も無いよ。


    そっか。
    良かった。


    男の人に声を掛けられたくらい。


    は?


    掛けられたの。


    …なんて?


    今、一人?って。


    …で?


    今は一人だよって答えた。


    答えんで宜しい。
    そういうのは無視すれば良い。


    それから嫁を待ってるって言ったの。


    ……。


    変な顔されて、笑われた。


    …そうだろうけど、むかつく。


    だから恋人って言い直した。


    …ああ、そう。


    そんなのどうでも良いから一緒に行こうって言われたけど、行かないって言ったよ。
    それからナディはそんなのじゃない、て。


    と言うかそもそもそういう輩は下心しかないから。
    相手にしないで良いの。


    でも相手にしなかったら腕、掴まれた。


    は?!


    ここ。


    ……なんだとぉ。


    だから、答えたんだよ。


    どこのどいつよ、それ。


    もう、いないよ。


    …掴まれて、どうしたの。


    思いきり、振り払った。
    いやだから。


    ……。


    力は使ってないよ?


    …あ、うん。
    分かってる。


    ……。


    ああでも!
    すっごい、むかつく。
    今直ぐそのうすらタコス野郎に風穴空けてやりたい。


    だめ?


    いや、本当にはやんないけど。
    それくらいむかつくって事よ。


    …。


    ちょっとだと思ってたのがいけなかったのかもしんないけど!
    ああ、むかつくなぁ!


    …ナディ。


    なに。


    ……。


    何よ、エリス。


    大丈夫だよ。


    あんた、知らない野郎に触られて


    ナディが触ってくれれば。


    え…。


    …触って?


    …。


    ん…くすぐったい。


    …こんなんで良いの?


    …。


    本当に…


    …だめ、って言ったら?


    ここじゃ、出来ない。


    知ってる。


    …。


    …。


    えと…その前にごはん、かな。


    今夜の宿は?


    探す予定。


    野宿じゃない?


    今夜はベッド。


    やったね?


    贅沢を言えば固くなければ良いなぁ。


    きりがない?


    まぁ、そうなんだけど。
    でもシャワーは欲しいでしょ?


    うん、そうだね。


    お湯が出たら最高なんだけど…ま、そんなコト言ったら贅沢になるし。


    一緒にとは言うけど。


    …。


    ん?


    毎回、言ってる。


    言うのはタダ。


    また、変な言葉覚えて。


    タダより高いものは無いんだよ?


    あーはいはい、そうね。


    一緒?


    …う。


    決まり。


    こらこら。


    たまには。


    あんたねぇ。


    …ベッド以外。


    ちょ、こら。


    冗談。


    …に、聞こえないのよ、あんたは。


    つまりはナディも私と同じだから。


    なんでそうなる。


    なんだかんだ言っても、最後は叶えてくれるから。


    ……。


    仲良し夫婦?


    ……え、と。
    ごはん、行こうか。


    何がいいかな。


    タコス以外がいいかな。


    エリスのごはん?


    が、一番好きって言って欲しいの?


    言わないの?


    どうしようかな。


    別に言わなくてもいいよ。


    じゃあ言わない。


    もう、作らないだけ。


    な…。


    ん…?


    ………。


    ナディ。


    ……エリスのが一番好きだけど、今回はどっかの店で。


    いえっさ!


    …くそぅ、口じゃもう敵わないなぁ。


    元からだよ?


    あーそうね…っておい。


    えへへ。


    たく。
    んじゃ行こうかね。


    うん、行こう。








    …にしても。


    ん…。


    あんたを一人にしとくの、考えないといけないかもしれない。


    …いまさら?


    何よ、今更って。


    だって…ん、前からだったから。


    …と言っても。
    ここまでひどくは無かったでしょ。
    そもそも前は賞金稼ぎがほとんどだったし、だからあまり離れなかったし。


    …。


    今日なんて10分も離れてなかったハズなのに。


    …ナディの姿が見えなくなったら、すぐだったよ。


    ……目、付けてやがったな。


    はぁ…。


    かと言って、過保護すぎるのもなぁ…。


    …過保護?
    エリスが?


    この場合はあたし、が。


    …。


    …あんたの事だから大丈夫だと思うけど。


    …けど?


    やっぱり面白くない。


    …ナディはさっぱりで。


    あ…?


    エリスはもてもてだから?


    …。


    せくしー?


    …ばぁか。


    あ、ん…。


    あんたのどこがセクシーなのよ。


    ……。


    セクシーってのは、


    でも少し、大きくなったよ。


    大きく?


    …むね。


    あー……。


    ナディがいつも


    いや、それは関係無いから。


    でも本に


    本に書いてあるのが全て正しいと思ったら大間違い。


    ……そう、なの?


    そう。
    何でもかんでも鵜呑みにしちゃだめって言ってるでしょ?


    …ふぅん。


    それからそーゆうコトを自分で言うなって何度言えば…


    ん、ん…。


    ……。


    …ナディ。


    ……まぁ、確かに前より、は。


    …。


    けどこれはあたしがどうとかじゃなくて、大体いつもなんて


    きもちいい?


    え?


    触って。


    ……。


    きもち、よくない?


    …だから!


    だめ。


    む…。


    …大きな声、だめ。


    ……別にこれくらいなら


    エリスには言うのに。


    …違うでしょ、それとは。


    どう違うの?


    …。


    教えて。


    …だから、違うの。


    どこが?


    ……。


    ん…!


    …ほら、違う。


    ……。


    分かった?


    …。


    それとも…。


    は…あ、あ!


    …もっと分からせて欲しい?


    ……。


    ね、エリス。
    今夜の宿も安いから、多分、壁が…


    …ナディはこれの時だけ。


    ん、まだ何かあるの?


    意地悪になった。


    …。


    前は一生懸命でかわいかったのに…。


    なんだとぉ。


    …あ、ぅ。


    ……あんたこそ、いつまで上から目線でいるつもり?


    ナディ、ナディ…。


    ……。


    そ、こ…。


    ……知ってる。


    ……ぁ。


    …エリスの好きなトコは。


    …。


    …。


    ……つもり?


    …は?


    優しくて不器用なまま、だから。


    …。


    …意地悪だけど、一生懸命。


    ……。


    かわいい。


    …このやろ。


    ふふ。


    ……あたしだって、ねぇ。
    前よりかは…。


    …知ってる。


    …。


    知ってるよ…ナディ。


    …くそぅ。


    …。


    …。


    ……ナディ。


    …けど。


    …。


    ……本当に、考えないと。


    なにを…?


    エリスを一人にする事。
    ここのところ、本当に多すぎる…。


    …簡単なこと。


    ん…。


    ……私を、一人にしなければいい。


    ……。


    しないで…ナディ。


    ……分かってる、けど。


    けど、なに…?


    …。


    …は、ぁ。


    ……今のあんたは。


    …。


    あたしで、さえ…。


    …ん、んぅ。


    ………。


    ナ、ディ…も、ぅ。


    ……うん。


    …このまま、は。


    …。


    ちゃんと…。


    …わかってる。


    ……やだ、でていかないで。


    ん…。


    …そのまま、で。


    ……むずかしいことばかり。


    だって…。


    …わがまま。


    …。


    ま…そーいうところも好き、だけど。


    ……しってる。


    こいつめ…。


    …えへへ。


    …。


    …。


    ……エリス。


    …好き。


    ……。


    いじわるなナディも…。


    …っ。


    ……だいすき。


    エリス…エリス…。


    ………。








    …。


    …ねぇ、ナディ。


    …ん。


    わたしね…。


    …うん。


    セックスが、すき…。


    ……。


    ナディとする……。


    ……なにを言い出すかと思えば。


    …いいたかったの。


    ……。


    いけないこと…?


    …いけなくは、ないけど。


    …。


    ……はずかしい。


    …ナディは恥ずかしがりやだから。


    あのなぁ…。


    …ん。


    普通はそーゆうこと、なかなか言えないと思うんだけど…。


    ……いえるよ?


    あんたはね…。


    …。


    …。


    …きらい?


    ……で、聞くのがあんたよね。


    ききたいから。


    …。


    …だめ?


    …。


    …。


    ……溺れる。


    …?


    って、言葉があるじゃない?


    おぼれる…。


    まぁ、そういうことなわけ。


    …どういうこと?


    本が好きなエリスなら分かると思うけど。


    ……。


    …良く言ったもんよねぇ。


    ナディ、泳げなかったの?


    …はい?


    溺れる。


    …それはわざとか?


    …。


    ……いつだか。


    …?


    トカゲを助けに川に飛び込んだあんたを助けたの、誰だっけ…?


    …。


    …忘れたとか、言わせない。


    ……あなた。


    お…。


    …わたしの、あなた。


    ……。


    ……あかい。


    まぁた、台詞じみたことを言ってだな…。


    …。


    ……まぁ。


    おでこ…。


    ……あんたとするのは、きもちいい…けど。


    わたしとだけ…?


    ……。


    …だけ?


    知ってて…。


    …だいじなこと。


    ……。


    …。


    ……あんただけよ、ばか。


    …。


    ほかのなんて、知りたくもない。


    …好き?


    …。


    エリスとする…。


    ……どうしても言わせる気かい。


    …。


    …ほとんど言ってるようなもんなのに、て。


    ……いって。


    つか、舐めるな…。


    …。


    …食むな、こそばゆい。


    ……。


    こら、エリス…。


    …言ってくれないから。


    ……。


    …。


    ……言ってもしそうだけど。


    うん、すると思う…。


    ……たくもぅ。


    …。


    …エリス。


    ん…。


    おかえし。


    ……あ。


    …。


    ……ナディ。


    …。


    くすぐったい…。


    …このまま食べてやろうか。


    …。


    …どうする?


    鼻、たべるの…?


    …。


    ん?


    ……じゃあ、鼻から食べてやる。


    …。


    …。


    ……やーだー。


    いやじゃないくせに。


    迫真のえんぎ。


    どこが。


    …。


    …。


    …えへへ。


    …ふふ。


    ナディ…。


    ……エリス。


    ……。


    ……好きだから。


    …。


    その…あんたとするの、は。


    …。


    …。


    ……いっしょ。


    …まぁ、仲良し夫婦だし。


    …。


    ……なによぉ。


    なかよし?


    ……聞きなおすな。


    …。


    …。


    ……に、なった?


    え、なに…。


    ……わたし。


    …?
    なに…?


    ……むね、すこしだけ大きくなった。


    …まだ言うか。


    ここも…。


    ……こらこら。


    ナディと、いっしょ。


    ……だから、言ったでしょ。


    うん、いわれた…。


    …気にして。


    …。


    あんたはあんただから。


    …。


    ……あたしはそれだけで、いい。


    …それ、わたしの言葉。


    良いじゃない。


    …うん、いいよ。


    …。


    …。


    ……たく、こいつは。


    …へへ。


    …。


    …?
    ナディ…?


    ……に、なった。


    え、なぁに?


    一度しか言わない。


    もう一度、いって。


    やだ。


    ナディ。


    お子ちゃまって言ったの。


    ……。


    なんて、ね。


    …ナディ。


    はは。


    ……まだ、だめなんだ。


    え?


    …。


    エリス…?


    ……。


    あ、あー…。


    ……まだ。


    いや、お子ちゃまと言っても、これはその場のノリと言うか…。


    …。


    ……そ、その。


    …。


    え、エリス…。


    ……。


    エリス、あの


    もう、ねよう。


    …へ。


    ねよう?


    で、でも…。


    …気にしてないから。


    …。


    だいじょうぶ…。


    …でも。


    わたしは、わたしなんだよね…?


    …。


    …こんなわたしでもいいんだよね?


    エリス…。


    こんな私でも、ナディは…。


    …こんなじゃない。


    …。


    こんなじゃない…。


    …。


    ……ごめん。


    …ううん。


    …。


    …ナディもおこちゃまだから。


    ……は?


    ……してる時。


    な、なんで?


    …あかちゃんみたいだから。


    あ、あかちゃん…?


    …。


    …え、えと。
    それはどういう…


    あかちゃんみたいなの。


    …。


    …。


    …あかちゃんみたいって。
    あたし、そこまで…。


    ……。


    …。


    ……おいしい?


    な、なんの話かな…?


    …。


    え、エリスー…?


    …でないのに。


    ぶ…ッ。


    出ない。


    ば、ばばばか…ッ。


    …ばばば?


    な、なに言ってるの…ッ。


    でも、でないよ?


    当たり前でしょ、もう…ッ。


    …でもナディ


    言わなくていい、てか、言うな。


    いっしょうけんめい…


    だ、だから、


    ……すってる。


    あーー!


    ……かみつかれることもあるけど。


    か、噛みついてはない…!


    …。


    あ、いや、そうじゃなくて…。


    ……あかちゃん?


    ……。


    …ん?


    ……あー。


    …好き?


    …。


    すき?


    ……好きじゃ、悪いか。


    あ…。


    …悪いか。


    …。


    …。


    ……わるく、ない。


    …。


    …。


    ……落ち着くのよ。


    …すってると?
    出ないのに?


    じゃ、なくて!
    それと出ないとか言うな…!


    …。


    だ、大体、そん時はそれどころじゃないし…!


    …じゃあ、どういうところ?


    …。


    ナディ…?


    な、なんであんたはそーいうコトばかり…。


    …ねぇ、ナディ。


    …。


    …。


    …してる時の話じゃなくて。


    ん…。


    …今、の話。


    ……くすぐったい。


    …。


    …どうして落ち着くの?


    …聞くな。


    ききたいから。


    …そればっかり。


    だって、聞きたいから。


    …。


    ナディは…聞きたいこと、ないの?


    ……。


    …。


    …お子ちゃまだから。


    …。


    エリスが傍にいるって…そう、思えて。


    …。


    ……安心、するの。


    …。


    い、言ったわよ。


    …安心するんだ。


    ど、どうせ、今度はあまえんぼって言い出


    …そっか。


    …。


    そうなんだ…。


    …そうよ。


    ……。


    ……。


    おこちゃまだね。


    …うるせー。


    結婚、してるのにね。


    だからうるせー。


    …えへへ。


    つかなんでこんな話、に…。


    …。


    ……はぁ。


    二人が……が、おこちゃまじゃなくなったら…。


    …?


    ……本当、の。


    …。


    ……なんでもないよ。


    …本当の、なに?


    なんでもない。


    言って。


    なにも言ってない。


    言ったでしょ。


    なんでもないって言ったよ。


    なんでもなくはないでしょ。


    …なんでもないから。


    エリス。
    あんた、まだ…。


    …。


    エリス…。


    …おやすみなさい。


    え。


    ……ねむくなった、から。


    …。


    …。


    ……あたしには言わせるくせに。


    …。


    ……ずるいヤツ、だ。


    ………ん。








    ・








    「~~!」





    …?


    えーと…。


    …。


    この町出たら、しばらくは西に行ってみるかな。
    ねぇ、


    あ。


    ん?


    呼ばれてる。


    え、なに?


    ナディ。


    うん?


    呼んだ?


    まだ、呼んでないけど。
    なんで?


    呼ばれたから。


    誰に?


    …。


    エリス?


    …あ。


    て、どこ行くの。


    ナディ、向こう。


    どこよ。


    あそこ。


    あーー……ん?


    久しぶりだね。


    て、あれ…。





    「エリス!
    ナディ!」





    リリオ。


    リリオ?


    エリス、ナディ。
    ひさしぶりだね。


    うん、久しぶりだね。


    て、大きくなったわね。
    ねぇ、エリス。


    うん、大きくなった。


    ほんとう?


    うん、本当。


    エリスはきれいになったね。


    そうかな。


    うん、すごくきれい。
    ナディのおかげ?


    え…。


    そうなの?


    …て、あたしに聞くな。


    だって。


    あ、あたしは別に…。


    ナディは鈍感なの。


    ふふ、そうなんだ。


    て、おいおい…。


    ナディはかわってないね。


    …どうせ、


    ふふ、じょうだんだよ。
    ナディもきれい。


    …ありがと。


    エリスのおかげ?


    うん、そう。


    …て、おいこら。


    ちがうの?


    う…。


    嘘はだめ?


    ……じゃあ、それで。


    ナディは素直じゃないの。


    て、エリス…!


    ふふ、ナディおもしろい。


    …たくもう。
    リリオ、一人なの?
    あいつは?


    パパはおかいものちゅう。
    パパもげんきだよ。


    あ、そう。
    ま、どうでもい


    …ふぅん。


    ……う。


    ?


    …いるんだ。


    い、いや、エリス。
    リリオが一人でこんなとこにいたらかえって心配でしょうが。


    …。


    な、なに…


    どうして焦るの?


    あ、焦ってなんかないわよ。


    ……。


    エリス?
    どうしたの?


    ううん、どうもしないよ。


    そう?


    うん。


    ナディ?


    な、何でもないから。


    …。


    そ、それより、リリオ。
    前よりずっと、喋れるように


    あ、わかった。


    …え?


    けんか、したんだ。


    …けんか?


    いやいやいやいや、してないしてない。


    ふうふげんか?


    …夫婦げんか。


    あのね、リリオ。
    あたし達は別に喧嘩してるわけじゃ、


    ふふ。


    …?


    な、なに…?


    ふたりはふうふなんだ。


    ……はい?


    うん、そうだよ。
    ね、ナディ。


    つ、つかリリオ、急になんで…


    ゆびわ。


    …指輪?


    くすりゆびに、してるから。
    まえはしてなかったよね?


    前はそうじゃなかったから。
    でも、今は。


    ちょ、エリス…。


    夫婦、だから。


    おそろい?


    うん、お揃い。
    でも本物の指輪じゃないの。


    …う。


    そうなの?


    元はナディのピアス。


    …うぅ。


    そうなんだ?


    や、別にお金が無いから買えないとかじゃ、


    でも、エリスのたからものなんだ。


    うん、凄く大事。


    ……。


    ナディも?


    …うん。


    そっか。
    じゃあふたりはしあわせなんだね。


    …。


    …うん、まぁ。


    ……しあわせ。


    て、エリス…?


    …?
    エリス?


    …。


    しあわせじゃ、ないの…?


    ……。


    …ナディ?


    ごめん、リリオ。
    エリス、あんた顔色が少し悪いわよ。
    大丈夫?


    ……はぁ。


    エ、エリス、だいじょうぶ?


    ………。


    …!


    あ…!


    エリス…!!








    …ナディ、エリスだいじょうぶ?


    熱に少し、やられたのかもしれない。


    …。


    前はこんなこと、あまり、と言うか全然なかったんだけど。
    いつからかな、あの旅が終わってから…。


    …。


    …大丈夫。
    少し休めばまた、元気になるから。


    …うん。


    ありがとう、リリオ。
    エリスのこと、心配してくれて。


    …ねぇ、ナディ。


    うん…?


    エリスはしあわせじゃないの?


    え…。


    …さっき、かなしそうなかお、してたから。


    ……。


    ナディはエリスのこと、すきなんだよね。


    …勿論。


    エリスは…。


    ……好きって言ってくれてる。


    じゃあなんでだろう…。


    ……。


    …。


    …リリオ。
    リカルド、大丈夫?


    パパにはちゃんと、いってきたから。


    そっか、しっかりしてるね。
    あいつの娘とは思えないな。


    …エリス。


    …。


    エリス、なきそうなかおしてる…。


    …。


    ……ナディも。


    …あたし?


    だいじょうぶ…?


    …大丈夫よ。


    …。


    けど…少し、ね。


    …。


    ……もしも本当に。


    …。


    エリスが悲しい思いをしているのなら…それは、あたしのせい。


    …どうして?


    どうしてかな…。


    …。


    …結婚して。


    …。


    ずっと、一緒にいるって誓ったのに…。


    ……。


    …ま、式は挙げてないんだけどね。


    おかねがないから?


    はは。


    …でもたぶん、そんなことじゃないよ。


    …。


    わからないけど…エリスはナディのことがだいすきなんだとおもう。
    だから…。


    …。


    ……すきだから、かなしいのかもしれない。


    ……何よ、それ。


    …。


    何なのよ…。


    …。


    …この、ねぼすけエリス。
    早く…早く、目を覚ましてよ。


    …ナディ。


    いつものように…あたしを見てよ。


    …。


    ……エリス。


    いとしい、ゆえに。


    …?
    リリオ…?


    すべてを、ほっす。


    …。


    …ナディも、エリスも。
    よく、にてるんだね。


    ……。


    エリスはきっと…ナディがほしいんだね。


    あたしを…。


    …。


    …あたしはもう、エリスのものなのに。


    …。


    エリスだけの……。















    白くて小さな躰。
    あの旅をしてた頃と、ほとんど変わらないそれ。
    でも少しだけ胸が膨らみ、躰の線もまた柔らかくなって、それから。
    訪れた躰の変化、それは彼女を女とし、またその証となり、あたしと同じと言う事をはっきりさせる。
    その躰に触れ、薄い躰に自分の汚い情欲を押し付け、けれどそれを、罪悪感すらも受け入れてくれる優しさに甘え、溺れ。
    いつだってあたしは彼女が大事だった、自分の命を懸けても守りたかった。
    けどあの旅が終わる頃、彼女があたしを好きだと言ってくれて。
    自分の想いを自覚して、欲しくて、穢してしまいたくて、自分だけのものにしてしまいたくて。
    だから、彼女があたしの子を望んでくれた事は…くれている事はたとえ不可能な事だと知っていても、心が震えた。
    その綺麗な瞳が、穢れを知らなかった筈の躰が、今尚無垢な心が、純粋な魂が、その全部が、あたしを欲しいと言ってくれる。
    こんな仕合わせなこと、屹度、ない。
    あたしは彼女の願い、想い、あたしの全てを懸けても、叶えてあげたい。
    辛
〈ツラ〉み、痛み、苦しみ、そんなのは、あげたくない。そんなものは、あたしが受ければ良い。
    誰よりも、仕合わせになって欲しい。
    それがあたしの望み、願い。それなのに。
    彼女は抱かれている時、うわごとのように繰り返し言う。はっきりとは聞き取れないそれ。彼女の願い、叶えて欲しい事。
    あたしが欲しくて。あたしの子が欲しくて。彼女はあたしを求める。狂おしいまでに、あたしの全てを求める。
    こんなあたしなんかで良いのなら、全部あげたい。あげてしまいたい。なのに、出来ない。
    …そう、本当は出来ない筈だった。あたし達が同性であるが故に、絶対に。
    彼女は出来ると言った。彼女は出来ない事は口にしない。嘘も…悪い嘘は吐かない。
    方法は分からない。…嘘。屹度、その力を使うのだろう。魔女の力を。神の力とさえ、言われたその力を。
    もしも、子供が出来るのなら。出来たのなら。あたしは、どんなにも。
    ……でも。
    そんなこと、あたしには出来ない。あたしは人間で…彼女もまた人間だから。
    違う。あたしは彼女の為なら人間であることなんて、どうでも良い。なんにでもなる。なんにでもなれる。
    彼女が、喜んでくれるなら。笑ってくれるなら。
    彼女の全てが、あたしのものになるのなら。








    …。


    …ナ、ディ。


    …エリス。
    気がついた…?


    …こ、こ。


    リリオがね。


    …リリ、オ。


    今はいないけど…。


    ……。


    気分、まだ悪い…?


    …みず。


    ああ、あるよ。
    ちょっと待ってて。


    …。


    …はい。
    冷たくはないかもしれないけど…。


    ……。


    …こら。


    つめたい…。


    …約束、したでしょうが。


    ナディしかいないよ…。


    …そうだけど。


    ……ごめんなさい。


    …。


    ん…。


    …熱、下がったかな。


    …ナディの手、気持ちいい。


    となるとまだ、ちょっとあるかな。


    …。


    出発は明日にしよう。
    今夜はゆっくり休んで。


    …ごめんね、ナディ。


    なんで謝るのよ。


    …。


    …時間はいっぱい、ある。
    焦る旅でもないし、あの頃のように追われる旅でもない、目的があるわけでもない。
    あたし達が思うように、ゆっくり行けばいいの。


    …けど。


    こぉら、エリス。


    …。


    あたし達は夫婦で…家族なのよ?


    …。


    そんな顔、しないの。


    …うん。


    他にどこか…


    …おなかが少し。


    ああ…。


    …。


    …そっか。


    …?
    なぁに…?


    ん、いや…。


    …なぁに?


    なってからかなぁ、って。


    …なって。


    ……生理。


    ……。


    あれからだな…て。
    エリスの躰が…。


    ……。


    エリス…。


    ……ごめんなさい。


    こら、また。


    …私が、望んだから。


    …。


    私が…わがままだから。


    …何を言っているの?


    ……。


    エリス…。


    ……もっと、もっとって、思ったから。


    …。


    …だから、だから。


    ありがとう。


    …?
    ナディ…?


    すごく、嬉しい。


    …。


    …エリスがあたしを欲しいと思ってくれること、嬉しい。


    けど…。


    …あたしもそうなのよ。


    ん…。


    ……あたしも、エリスがもっと欲しい。


    ぁ…。


    …けど、ごめんね。


    …。


    分かっているのに…知って、いたのに。


    ……ううん。


    …。


    私は人間で…ナディも人間だから。


    …。


    ……だから、分かっているの。


    …。


    間違ってること…分かってるの。


    …エリス。


    でも…でも、止められないの。
    しあわせなのに……ナディがくれたのに、なのに。


    …。


    ……もっと、欲しいの。
    ナディが……欲しいの。


    ……泣かないで。


    ないてないよ。


    …嘘吐き。


    …。


    ぼろぼろ、零して。


    …違うよ。
    涙じゃない…。


    …素直じゃない。


    あ…。


    ……こういう時こそ、素直になれ。


    ……ぅ。


    ……愛して、いるから。


    …。


    あんたしか、いらない。


    ……ナ、デ…ィ。


    …少し、眠って。
    早く、元気になって。


    …。


    …あたしの為に。


    ……。


    …分かった、相棒?


    ……いえっさ。


    …。


    …ナディ。


    ……傍に。


    …。


    ……隣で、眠ってもいい?


    …いて。


    …。


    いて…いて、ナディ。


    エリス……。


    ……あ。


    ん…?


    水…。


    …まだ、飲む?


    …。


    …どした?
    やっぱりいらない…?


    …あのね。


    なぁに…?


    ……飲ませて。


    …。


    ナディに…飲ませて、欲しい…。


    …この、あまえんぼめ。


    なかよしふうふだから…。


    ……。


    …だめ?


    ばぁか…。


    …。


    ……だめなわけ、ないでしょ。


    うん…。








    …エリス?


    …。


    ナディ、ねちゃったの…?


    …起きてるよ。


    あ。


    …ありがとう、リリオ。


    エリス、もうだいじょうぶなの?


    …うん。


    よかった…。
    …ナディはねてるんだ?


    うん、よく寝てる。


    …。


    …ほんとだ。


    んん…。


    …ナディ。


    エリス。


    うん…?


    ナディのこと、たいせつなんだね。


    …うん、すごく大切。


    じぶんよりも?


    …うん。


    そっか。


    …大好き、だから。


    ナディも。


    …。


    おなじようなこと、いってたよ。


    ……夫婦、だから。


    ふふ、そうだった。


    すぅ…すぅ…。


    …でも、だめだよ。


    …?


    ナディもエリスのこと、たいせつだから。


    …。


    エリスは…もし、ナディがいなくなっちゃったら。
    どうするの?


    …そんなの、


    …。


    ……いや。
    そんなの、いや…。


    ナディもきっと、おなじだよ。


    …。


    エリスがいなくなっちゃったら…ナディも。


    …。


    …だから。
    だめだよ、エリス。


    ……。


    ナディもだめだからね。
    ぜったい。


    う…うぅ。


    ……ナディ。


    …エ……


    …ナディ?


    ……じょ…、ぶ…。


    …!


    ……、ら。


    ナディ…ナディ…。


    …ん。


    ……すき…だいすき。


    ……すぅ。


    ねがお、なんだかこどもみたいだね。


    …。


    ね、エリス…?


    私だけ、なの。


    え?


    ナディをこんな顔にできるのは…。


    …。


    …私だけ、だから。
    だから…。


    ……エ、リ…。


    私はここにいるよ…ずっといるよ、ナディ…。


    ……ん。


    ナディ…。


    ……ね、エリス。


    ん…?


    だいじょうぶ?


    …どうして?


    からだのことじゃないよ。
    もちろん、からだもしんぱいだったけど。


    …。


    いまのエリス、しあわせそうなのにつらそうだから。


    ……リリオにはそういう風に見えるんだね。


    うん。


    …私は大丈夫。
    しあわせ、ナディに貰っているから。


    だからだよ。


    …。


    だから、よけいにかなしくなるんだとおもう。


    …悲しくなんか。


    ね、エリス。


    …。


    ナディはエリスのこと、だいすきだよ。


    …知ってるよ。


    だから…きっと、だいじょうぶ。


    …。


    エリスだってナディが…え、と、なんていうんだろ…。


    …。


    …そうだ。
    あまえてきても、へいきでしょ?


    …嬉しい。


    ナディもそうだよ。


    …。


    いいじゃない。


    …?


    ふたりできめたことなら。
    わたしは、どんなことでも、おうえんする。
    だってわたしは…。


    …。


    ふたりが、だいすきだから。


    …リリオ。


    エリス…それから、ナディ。


    …。


    ずっとずっと、わたしはふたりがだいすきだよ。


    ……ありがとう、リリオ。








    ん、んん…。


    …起きた?


    いま、だれか…


    ナディ。


    む、ぅ…。


    …。


    ……くるしいよ、エリス。


    …ごめん?


    …。


    …。


    …あたし、寝てた?


    おもいきり。


    …ごめん。


    ううん、良いよ。


    …ん。


    ナディ…。


    …あんたは寝た?


    寝てるよ、今。


    …いや、そうじゃなくて。


    …じゃなくて?


    体調、悪いんだから…ちゃんと寝ないと。


    だから、寝てるよ。


    ……。


    ナディと…。


    …まぁ、いいや。


    …。


    ねぇ、エリス…。


    …なに?


    おなか、痛い?


    …。


    大丈夫?


    …うん。


    そっか、よかった…。


    ……大好き。


    …だから、苦しいって。


    …。


    こら…。


    キス、してもいい?


    …。


    いい?


    …あんたは。


    …。


    体調、悪いんだから大人しく寝んの。


    …寝てるのに。


    もっとちゃんと寝る。


    …。


    ほら。


    ……リリオがね。


    リリオ…?


    …だいすきだって。


    エリスのこと?


    …ナディも。


    …。


    ずっと…。


    …そっか。


    …。


    …。


    ……キス、してもいい?


    …こら。


    したい。


    …いきなり意識無くしたヤツの言うことか。


    …。


    ……つか、この体勢じゃできないでしょーが。


    してくれる?


    …。


    ……して、くれる?


    …軽く、よ。


    …。


    ……元気になったら幾らでもしてあげるから。


    ほんと?


    あ、いや、幾らでもは流石に言いす、ん。


    …。


    …。


    ……やくそく。


    …して、欲しかったんじゃないんかい。


    したくなった。


    ……ま、いいけどね。


    …。


    …なに。


    …今度はナディの番。


    ……。


    ……。


    ……したら、ちゃんと寝んのよ。


    ……いえっさ。


    …。


    …。


    ……はい、おしまい。


    …あったかい。


    …。


    やわらかい…。


    …それから、甘い。


    …。


    ……なに。


    ううん…。


    ……くるしいって。


    えへへ…。


    …さ、寝なさい?


    ……。


    エリス…?


    ……おちて。


    ん…?


    ……いくの。


    …なぁに?


    ナディの中に…夢を、見るように。


    …。


    ……堕ちて、いくの。


    ……エリス。


    貴女のいない明日なんて、いらない。


    …。


    ……いらない。


    うん…。


    ……つよく、だいていて。


    …。


    ちゃんとあなたの中におちていけるように…。


    …あたしの中、に。


    ナディ…。


    …。


    …ん。


    ……どこにも行くんじゃ、ないわよ。
    そんな事したら…


    …したら?


    ……赦さない。


    …。


    わかった…?


    …じゃあもっとつよくだいて。


    じゃあ、ってなによ。


    …。


    強く抱かないと…


    …わたしもだくから。


    …。


    わたしの中に…堕ちてきて。


    ……。


    …わたしがいない明日なんて、のぞまないで。


    …望むわけ、ない。


    …。


    あんたがいない明日なんて…。


    …。


    そんなの、耐えられな


    …。


    …エリス。


    ……だいて、ナディ。


    ……。


    つよく…。


    ……。


    …。


    ………いえっさ。


    …。










    わたしたちは。



    あたしたちは。



    月に一度、 血を流す。










    …。


    …。


    …エリス。


    …。


    …痛い?


    …。


    …。


    …ナディ。


    ごめん…痛いよね。


    …。


    …ごめん。


    ……。








    怪我をしたわけでもなく。



    病気なわけでもない。



    けれど、流れ続ける。








    エリス…。


    …さわって。


    …。


    ふれてて、ほしい…。


    うん…。


    …。


    …つめたい。


    …あったかい。


    …。


    ナディの手は…あったかい。


    …。


    あったかい…。


    ……エリス。


    ん…。


    …冷やしちゃ、だめだから。


    …。


    だから。


    ……ん。








    痛みを伴い。



    心を不安定にさせ。



    願いが叶わなかった卵は腐り果て。








    ……ねぇ、ナディ。


    ん…。


    …ナディのときは


    あたしは…あんたほどじゃない。


    …けど、あまえんぼう。


    …。


    いつもだけど…もっと。


    …。


    …私のこと、必要?


    …ばか。
    今更何言ってんのよ…。


    …聞きたいから。


    …結婚、してるのに。


    それでも…。


    …何度も言わせて。


    何度でも…聞かせて。


    ……。


    ……。


    ……あんたがいない、なんて。


    …。


    …耐えられる筈、ない。


    …。


    いないなんてもう、考えられない。


    ……必要?


    …。


    わたしのこと…ん。


    ……。


    ん…ふ……は、ぁ……。


    ……。


    ……ナ、ディ。


    …少しは紛れた?


    …。


    …紛れるわけ、ないか。


    …ずるい。


    ずるい?


    ……。


    …ごめんごめん。
    け、ど…?


    …。


    エリ…?


    ……いじわる。


    う…。


    …出来ないの、わかってるくせに。


    …。


    ばか。


    …エリ、ス。


    …。


    そんな、に、強くしがみ、つかれ…た、ら。


    …。


    く、くるし…。


    ……ねぇ、必要?


    …。


    ねぇ…。


    ……ひつよ、う。


    …。


    あんたが…


    ……。


    ひつよう、な…ん。


    …。


    エ…ん、ふ……ぅん、んん。


    ……。


    ………は、ぁ。


    ……。








    …欲しいのは、あなただけ。



    …あなたさえいてくれれば、何も要らない。



    それは躰の叫び、貴女と一緒になれなかった命の最期の言葉。








    ……。


    ナディ…。


    …エリス。


    ……よ。


    …。


    欲しい…欲しいよ、ナディ…。


    …。


    ほしいよぉ…。


    うん…うん。


    …。


    知ってる…知ってるから。
    だから…。


    ……こんな、ことなら。


    …。


    …のぞまなければ、よかった。


    …。


    ナディの赤ちゃんが、ほしいだなんて…。


    エリス…。


    …本当は、しってた。
    ナディと私じゃ子供がつくれないこと…。


    …。


    …おとこのひとじゃなきゃ、だめなこと。


    …。


    でも…でも、どうしようもなくなっちゃったから。


    …。


    あなたがほしくて…抱いてもらえば、いっぱいになると思っていたのに…。


    …。


    …なのに。
    もっと…もっと…、って。


    …。


    ……たまごがうめるようになれば、て。


    …。


    だから…だから、ぁ。


    ……もう、いい。


    …。


    もう、いいから。


    ……ぅ。


    もう、いい…。


    ……。








    血は留まる事無く、痛みと軋みだけを残して躰の外へと流れ出す。



    いつか、その機能を失うまで。



    ずっと、ずっと、繰り返す。








    …。


    …う、く。


    ……。


    ナディ…ナディ…。


    …ねぇ、エリス。


    …。


    …ごめん。


    ちが、う、ナディは…ん。


    あたしが男だったら。


    …。


    エリスの願い、叶えて上げられる。


    …。


    …エリスにあたしの子をあげられる。


    …。


    あたしは、エリスとの子を抱く事が出来る。


    …ナ、ディ。


    独りだったあたしに家族が出来た。
    あんたがなってくれた。
    あたしはもう、独りじゃない。
    あんたが居れば。


    …。


    …でも、あたしが男だったら。
    新しい家族が…。


    …。


    ……いっそ、あたしじゃなかったら良かったね。


    …。


    あたしじゃなくて…そう、L


    それ以上は、だめ。


    …。


    …だめ。


    …。


    だめだよ…ナディ。


    …エリス。


    ナディじゃなきゃ…意味なんて、ない。


    …。


    …ナディじゃなきゃ、だめなの。


    …。


    私が好きなのは、ナディだから…だから。


    …泣いてたくせ、に。


    …。


    …。


    …。


    …だってあたしじゃ子供は作れない。
    あたしはエリスに…種をあげられない。


    …。


    …あたしじゃ、あんたの望みは叶わない。


    …。


    欲しいんでしょ…?


    …。


    ねぇ、エリス…。


    …ほしい。


    …。


    …ナディの赤ちゃんがほしい。
    このおなかの中に、ナディの命がほしい。
    他の人のなんて、いらない。


    …けど


    一度だけね…。


    ……。


    ナディの赤ちゃんがおなかにいる夢を見たの…。


    ……。


    私はおなかに手を当てて…その音を聞いているの。


    …。


    …ナディが傍にいてくれて、やさしく笑ってくれてて。
    すごく、嬉しくて…仕合わせで。


    …。


    …ナディの手を取ってね。
    おなかに当てたの…。


    …あたしの手の上に自分のを重ねて?


    うん…。


    …。


    音、聞こえる…?ってきいたら、ナディ、わかんない…て。


    …あぁ。
    なんか、あたしらしい…。


    …うん、すごくナディらしくて。
    わたし、笑ってた。


    …夢でもフォロー、無しかい。


    …。


    …。


    …今、みたいに。
    ナディは私のおなかに手をあてて…それから、やさしく抱きしめてくれた。


    …。


    私はナディが好き…今、私の前で泣いてるナディが、好き。


    ……。


    愛してるの…。


    …。


    …。


    ……あんたの望みは、あたしの望みになった。


    …。


    ……無理だとあんなに言っておいて。
    でももしもエリスにあたしの子が…て。


    …。


    ……嬉しかった。


    …。


    あたしの、あたしなんかの子が欲しいって…。


    …。


    家族を持つ、なんて、一生、ないって思って、いた、のに…。


    ……。


    ……あたしも同じ。


    …。


    もっと、もっと…て。


    ……あ。


    ……。


    ナ、ディ…。


    ……あたしの子、生んでよ。


    ん…。


    …エリスの中、に。
    あたしの…。


    …だ、め。


    ……できるんでしょ。


    あ、は…。


    ……だったら、生んで。


    だ…め。


    ……生んで…生んで、よ。


    ……きたな、い。


    …。


    きたない、よ…。


    …汚くない。


    ……う、ぁ。


    ……。


    だめ…だめだ、よ。


    …ほしくないの?
    もう、ほしくなくなったの…?


    ちが、う…。


    …やっぱり、あたしなんかの


    ほしい、ほしいよ…。


    …じゃあ。


    でも…いま、は。


    …。


    ……ち、が。


    ……。


    ん、あぁぁ…。


    ……血が、なに。


    …きた、ない…。


    ……エリスの血、が。


    …あ、ぁ。


    汚いわけ、ない。


    ……う、ぅぅ。


    …はぁ。


    ナ…ディ……。


    はぁ…はぁ…。


    ……ナディ、を。


    …っ、…はぁ。


    …して…も、…いい?


    …。


    ……ナディ、を。


    …してよ。


    ……。


    して…してよ、エリス…。


    …ほんと、うに。


    ……あたし、は。


    …。


    どうなったって、いい…の。


    …。


    …あんた、の…のぞみ、を…かなえてあげ…た、ぃ。


    ……。


    あんたが…わら…て。


    あぁ…。


    ……あん、た…が、あたしのそば…で…ず、と。


    ……。


    あんたを…、ずっと、あたしのもの…に、できるのな…ら。


    …ぁっ。


    ……ひとであることなんて、どうでもいい。


    あ…あ…。


    ……いいの。


    ……。


    …けど。
    あんたが…。


    …ずるい、よ。


    ……。


    自分はいいって言って…それなのに、わたしのこと…は。


    ……。


    …わたしのことばかり、おもってくれて。


    …。


    こんな、わたしのことばか…り。


    ……エリ、ス。


    わがままで…じぶんかって、で…にんげんでもない、のに…けっこん、してもらって。


    …。


    …こまらせて、ばかり…で。


    …。


    …わたしなんか、ほんとうはきえたほうがいいそんざいだったのに。


    エ


    …それはいまも、で。
    こんなち、ぜんぶ、ながれてしまえば…。


    …ん、んん。


    ……まじょじゃなく、て。
    ふつうのおんなのひと、だったら……て。


    ……。


    そしたら、こんなこと…きっと、おもわなかった、のに…。


    …。


    ナディを…こまらせること、だって。


    …エリ、ス!


    ……ごめんなさい、ナディ。


    …。


    …。


    …あたしは、うれしかった。
    そう、いった。


    …。


    ……いったでしょう、が。


    …うん……いわれ、た。


    ……。


    ……。


    ………エリス。


    ナディ……。


    ……かなえよう。


    いいの…?


    …。


    ほんとうに…いい、の?


    …むしろ、かなえてよ。


    ん、ん…。


    ……このなか、に。


    は…。


    …あたしのたね、を。


    ……。


    …あげる。


    ……。


    だから…。


    ……う、よ。


    え…。


    …ちがうよ。


    で、でも…。


    ……わたしが、ほしいのは。


    …く、あ。


    ナディ、の……。








   ...tres