ナディさん、ナディさんじゃないですか。


    …あ?


    それから、エリスさんも。


    あ。


    また来てくれたんですね。


    …え、と。


    女房も屹度、喜びますよ。
    ああ、絶対に喜ぶだろうなぁ。


    …エリス。


    クシ。


    クシ?


    そう、クシ。


    そうだ、今夜はうちに泊まっていってください。
    是非!


    あー…。


    クシ、チャスカは元気?


    …?


    はい、とっても。


    …チャスカ?


    結婚式の時には恥ずかしい姿を見せてしまって。


    あんた、もしかしてチャスカの旦那?


    はい、お久しぶりです。
    僕、お二人の結婚式に行けなかったので。


    ああ、それはまぁ良いけど。


    僕達をお祝いしてくれたように、お二人の事をお祝いしたかったなぁ。


    どうして来なかったの?


    エリス。


    それが…その、二日酔いになってしまって。


    二日酔い?


    酔っ払い?


    実は、その…女房が。


    チャスカが、


    どうしたの?


    腹に子が出来て。


    ああ。


    だから?


    村をあげての…まぁ、親父様がそうさせたんですけど、祭になっちゃって。
    それで、つい。


    飲まされたと?


    僕も嬉しかったので、つい。


    んー…それはまぁ、仕方ないんじゃない?


    良かったね、クシ。


    へへ、ありがとうございます。
    立ち話もなんなんで、うちに来てください。
    女房も喜びますんで!


    それ、なんだけどさ。


    ?
    なんですか?


    この二人も良い?


    二人?


    …アキラ、いいます。


    ……こ、コイユル。


    コイユル?
    君、コイユルって言うの?


    う…。


    いい名前だね!
    僕の女房の名前も星


    …っ。


    あ。


    この子、ひとみしり、なんです。


    ああ、そうなんだ。
    脅かしちゃってごめんね、コイユル。


    ……。


    可愛いなぁ。
    やっぱり女の子が良いなぁ。


    でクシ、良い?


    勿論、良いですよ。
    お客さんは多い方が良いし、何よりナディさんとエリスさんの連れなら!


    そ、ありがと。
    じゃ、行こっか。


    いえっさ。


    あの、ナディさん。


    うん?


    本当にわたしたち、いいですか…?


    クシ、良いんでしょ?


    はい、勿論!
    今夜の飯はきっと、豪華なものになるぞー!


    飲みすぎ、注意?


    あはは、気をつけます。
    さぁ、行きましょう!








    チャスカ、チャスカ!!


    …?


    チャスカ、どこだ?


    どうしたの、クシ?
    お腹でもすいたの?
    お昼、食べたばかりなのに。


    チャスカ、お客さんだ!


    お客さん?


    きっと、驚くぞ!


    …もう。
    また、連れてきたの?
    今度は


    チャスカ、久しぶり。


    え?


    チャスカ、元気そうだね。


    ナディさん…と、エリスさん?


    な、驚いただろ?
    な?な?


    ナディさん、エリスさん!


    わ。


    お久しぶりですね、ナディさん、エリスさん。


    と言っても、この間の結婚式で会ったけどね?


    ふふ、そうでしたね。


    チャスカ、本当にお腹が大きいね。


    あ、これは


    こら、エリス。


    本当の事だよ?


    そうだけど。
    チャスカ、子供が出来たんだって?


    はい、そうなんです。


    エリスと一緒。


    え?


    エリス。


    …えへへ。


    でチャスカ、そのおかげで旦那があたし達の結婚式に来られなかったんだって?


    そうなんです。
    この人、また飲みすぎてしまって。


    だって、しょうがないじゃないか。


    おまけに忘れてたんですよ。
    忘れて、浮かれて。


    そ、それは……


    結果、二日酔い。
    本当、莫迦なんだから。


    ……面目無い。


    でも出発の前の日に祭なんかやった父も悪いんです。
    母も口を滑らせてしまうから。
    ナディさんたちの結婚式が終わってから話そうと思っていたのに。


    チャ、チャスカ、それよりナディさんとエリスさんに座ってもらおうよ。
    折角、来てくれたんだからさ。


    じゃあクシ、お水を汲んできて。


    うん、任せろ!


    ナディさん、エリスさん、狭い家ですけどどうぞ。


    ありがと。


    ありがとう。


    後のお二人も。
    ナディさんたちのお友達なんですよね?








    あー、おいしい。


    おいしいね。


    旅、まだ続けているんですね。


    まぁ、ね。


    ナディは旅をしていないと死んじゃうから。


    エリス。


    目が。


    …悪かったなぁ。


    えへへ。


    ふふ。
    今夜はこの家で休んでいって…と言いたいんですけど、すみません。
    見たとおり、狭くて…。


    ああ、良いわよ。


    大丈夫だよ、チャスカ。
    星の下は慣れてるから。
    ね、ナディ。


    まぁ、そうだけど。


    いいえ、またあの離れを使ってください。


    『良い?』


    はい、父も喜ぶと思います。


    でもチャスカ、あの離れに四人は無理じゃないか?


    ああ、そうね。
    じゃあ


    アキラ、コイユル。


    二人はそこで休んで?


    …え?


    ナディ、エリスは…?


    あたし達はまぁ、よっぽどじゃなければ、眠れるから。
    ねぇ、エリス。


    うん、ナディ。


    それはだめです。
    エリスさんはみおも、だからわたし、外でいいです。


    え、身重?


    大丈夫だよ、ナディがいてくれるから。


    だめ、です。
    エリスさんは自分のこと、もっと、だいじにしてください。


    ナディがしてくれてるから


    ナディさん。


    うん?


    ナディさん、もっとちゅうい、しないとだめです。
    なにかあったら、どうしますか。


    いや、あたしは


    わたし、ずっと、みてきました。
    エリスさんのからだ、旅でつかれてます。


    そうなんだけど、


    だからエリスさん、ベッド、ねるべき。
    ナディさん、もっと気にかける、だめです。


    アキラ、


    ナディさん。


    …だってさ、エリス。


    押し切れられてた?


    …ま、良いけどさ。


    ナディさん。


    うん?


    エリスさんが身重って、もしかして。


    うん、まぁ、子供かな。


    まぁ!
    クシ、聞いた!?


    ああ!
    明日は祭だな!


    いや、それは良いから。


    いいえ、いいえ。
    クシ、父に言ってきて!


    ああ、任せろ!
    明日は村をあげての


    いや、だから良いから。


    ナディさんたちはこの村の人間も同然ですから!


    て、一回結婚式に出ただけなのに。


    それだけで十分じゃないですか!
    チャスカ、行ってくる!


    行ってらっしゃい。
    そうだ、離れの事も言ってきてね。


    応!!


    あー…行っちゃったよ。


    …ありがたいね?


    うん、そだねー…。








    聞いたぞ!
    ナディ、エリス!!


    …わお。


    おじいちゃん、元気そうだね。


    エリス、腹に子がいるって本当か!


    うん、本当。


    何故、わしのところに真っ先に来なんだ!


    いや、そう言われても。


    ね?


    今夜はあの離れで休むと良い!
    いや、今夜はうちで飯を食うと良い!
    チャスカ、クシ、お前達も来い!


    はい、お父さん。


    応、親父様!


    ん、そちらはナディたちの連れか?


    そ。


    うん。


    良し、今夜は皆うちに来い!
    飯や酒で、大いに歓迎するぞ!!


    は、はは。


    ナディ。


    ん?


    飲みすぎ、注意?


    いや、飲まないから。


    少しなら、良いよ?


    だから


    良いよ?


    …じゃあ、少しだけ。


    ふふ。








    ああ、わしは構わんぞ。


    ほんと?じいちゃん。


    なぁ、サチャ。


    ああ、構わないよ。
    うちは大歓迎さ。


    ありがと、ばあちゃん。


    おばあちゃんは「木」なんだね。


    おや、私の名前の意味が分かるのかい?


    うん、ナディに教えて貰ったから。


    そうかい、そうかい。
    ナディ、あんたはなかなか良い娘を選んだもんだね。
    あたしの名前の意味を知ってる白い人間なんざ、今時、そうはいないさ。


    教えてくれって、それはもう強請られてね。


    ははは、尚更良し、だ。
    エリス、あんたは肌の色は違うが、良い子だね。


    ありがとう。


    良し、今夜は腹いっぱい食べていきな。
    酒もたんと、お飲み。


    たんと、は駄目かな。


    おや、何故だい?
    チチャは嫌いかい?


    好きだけど、この子が…ね?


    酔っ払いは嫌い?


    おや、ナディは酒に弱いのかい。


    弱くはないと、思うけど。


    弱いよ?


    …まぁ、そんなわけで。
    少しにしとく。


    おやおや、尻に敷かれているのかい。


    そう、敷いてるの。


    エリス。


    …ふふ。


    たく。


    ただし、だ。


    うん?


    守ってもらわんといかん事が三つばかりある。
    それはこの村で生きる全ての皆が守るべきものでな。
    わしらが生まれるずっと以前から定められているものだ。


    ああ。


    一つ、怠けるな。


    …。


    二つ、


    嘘は吐くな。


    む?


    三つ、盗むな?


    ナディは分かるが、エリスはナディに教わったか?


    うん、ナディに教えて貰った。


    そうか!


    あたしは死んだばあちゃんから。


    そうやって繋がっていくものだからな。


    厳しかったけどね。


    はは、それは良い事だ!
    だからこそ、今のお前があるんだからな。


    そんなもんかなぁ。


    ああ、そうだ。
    だからこそ、エリスのような娘と一緒にいられるのだからな。


    ふぅん。


    …嬉しい?


    聞くな。


    ふふ。


    で、アキラとコイユル、だったかい?


    は、はい。


    …うん。


    あんたらは守れそうかい?


    わ、わたしは、


    …。


    アキラ、あんたには…そうだね、水汲みと洗濯でもして貰おうかね。


    はい。


    料理は出来るかい?


    はい、できます。


    それは良いね。
    コイユル、あんたは良い名を貰ったね。
    うちの末娘と同じだよ。


    …。


    あんたには家畜の世話をして貰う。
    まずはクイの世話からだ。
    出来るかい?


    …クイ。


    あんたの目の前の皿に盛ってあるだろ?


    …。


    そう、そいつさ。
    美味しいだろ?


    ……う、ん。


    あんたにはそれの世話をして貰うよ。
    大事な栄養源だから、怠けて死なせてしまったら…分かるね?


    う、うん。


    まぁ、そんなやわなもんじゃないけどね。
    でも、怠けるのは駄目だよ。


    うん。


    良し、良い子だ。
    まるで昔のチャスカを見ているようだよ。
    器量も良いしね。


    ……。


    お母さん。


    なんだい、チャスカ。
    腹の子は元気かい?


    順調ですよ。


    クシ。


    は、はい、母上様。


    腹の子を大事にするんだよ。
    一人目だからじゃなく、これから先の子もだ。
    大事にしなかったら、あたしが容赦しないからね。


    はい!


    …なぁ、ナディ。


    うん?


    わしのかみさん、暫くは死にそうにないと思わんか?


    あはは、じいちゃんより長生きするかも。


    だろうな。


    ところで、エリスや。


    うん?


    あんたの腹にも子がいるって本当かい?


    うん、本当。


    順調かい?
    今のところ、腹はそんなに膨らんでいないようだけど。


    うん、大丈夫。
    私も…赤ちゃんも。


    そうか。
    ナディ。


    ん?


    あんたは女だからいちいち言わなくても分かってると思うけど。


    え、え?


    エリスを大事にしなかったら、このあたしが容赦しない。
    分かったね。


    は、はい……。


    良し、良い子だ。
    それでこそあたしの娘だよ。


    …て、いつから。


    飯を食ったその時からさ。


    て事は、チャスカとクシの結婚式の時からってコトかい…。


    エリス、あんたもだよ。


    うん。


    いっぱい食べて、ナディに大事にされて、元気な子を産みな!


    うん、サチャ。


    ……。


    …ナディ、すごいね?


    と言うか、ばあちゃんより凄いかも…。


    そうなの?


    …似たようなものかも。
    つか、似てないんだけど…。


    強い?


    …うん。


    そっか。


    ナディ、女は強くなきゃ、股座から子なんぞ産めないよ!


    …う。


    またぐら…?


    そうさ!
    エリス、いずれあんたの


    お母さん、もう止めてください…。








    Así nació la primera pareja de horneros...
     こうしてカマドドリの最初の恋人が生まれました。


    …ああ、参った。


    ナディ。


    ああ、エリス…。


    …まだ、酔ってる?


    いや、さっきよりかはいくらかマシ…。


    …さっきより?


    ばあちゃん、酒は強いわ、あんたの事で説教はされるわ…あーもぅ。


    ……だいじょう、ぶ?


    うん、まぁ…さっきよりかはね。
    ありがと、コイユル。


    ……。


    …と。


    ……。


    …ま、良いや。
    それにしてもコイユルの方が優しい。
    誰かさんと比べて。


    …誰かさんって、誰のこと?


    さーぁ?


    …。


    …ほら、そんな顔するな?


    誰かさんのせい。


    はいはい、ごめんね。


    …。


    コイユル、それ、また読んでたの?


    …うん。


    その話、好き?


    うん。


    そっか。
    誰かさんと一緒だ。


    …誰。


    あたしの子をお腹に宿してる子。


    ん…。


    …機嫌、直してよ。


    ……して。


    うん?


    …大事に、して。


    ……してるじゃない。


    ……もっと。


    …もっと、ね。


    ……かまど、どり。


    …?


    うん…?


    エリスと、ナディ…かまど、どり。
    だから…すき。


    ……。


    …んー。


    ……違うもん。


    て、こらこら。


    …う。


    そこは……うん、って言うところじゃないの?


    ……。


    …ねぇ、コイユル?


    ふふ…。


    …あ。


    お…。


    ナディとエリス、かまどどり…。
    けんか、しても…。


    …。


    …喧嘩は、してないんだけどな。


    ナディ。


    …なぁに、エリス。


    キス。


    …は?


    カマドドリ、だから。


    …してたっけ?


    してる。


    …コイユル?


    エリスが、いってるなら。


    …こらこら。


    早く。


    …酒、飲んでるけど?


    ……。


    …それでも、良いの?


    ……しょうがないから。


    ああ、そうかい…。


    …コイユル。


    ……ん。


    …エリス。


    ………。


    ……。


    …熱い。


    ……まぁ、飲んでるから。


    …あまり、飲んでないのに。


    ……やっぱり、弱くなったかな。


    あんまり、強くない…。


    …そう言うけど。
    あんたと逢う前は…


    ……。


    …と。
    コイユル、もう目開けても良いわよ。


    ……かまどどり。


    ん…。


    ……。


    …コイユル?


    いく、の…。


    …。


    …。


    …わたし、ここにいるの。


    ……。


    ……。


    …もう、あえないの。


    会いに来るよ。


    …。


    ナディも私も、忘れないから。
    だから…会えるよ。


    …つれて、いって。


    …。


    …。


    わたし、ふたりのこどもになりたい…。


    …コイユル。


    なりたい…いっしょに、いたい。


    ……子供だよ。


    エリス…?


    …離れて、いたって。
    ねぇ、ナディ…?


    …。


    ねぇ…。


    ……初めて、の?


    うん…初めての。
    だから、コイユルは…。


    …あ。


    ……貴女はこの子の、お姉さんなんだよ。


    う……。


    …コイユル、私達は貴女と離れてしまうけど。
    でも、離れてないの。


    …。


    …貴女はいつだって、一人じゃない。


    ……。


    私達がここからいなくなったとしても。
    アキラがいるから。


    ……。


    …それに、あの町にだって。


    …。


    コイユル、アキラの事好き…?


    ……あきら。


    …好きじゃない?


    ……う、うん。


    だったら…


    …でも、
ママじゃない。


    ……。


    …それでも、アキラは。


    ナディ…。


    アキラはあんたの事を、愛してる。
    自分の子供のように…ね。


    …。


    …じゃなきゃ、こんなとこまで連れて来られない。
    ついて来ない。


    ……。


    …ところで、アキラは?
    さっきから姿が見えないけど。


    …ナディ。


    ん?


    …アキラはチャスカの家だよ。
    ここは、狭いから。


    ああ、そうだったっけ…。


    ……。


    …じゃあ、エリス。
    コイユルの事、お願いね。


    …ナディ。


    三人で寝るには…まぁ、なんだ。
    狭いでしょ?


    …うん。


    こら、そんな顔しない。
    お母さんなんだから。


    …いえっさ。


    コイユル、エリスの事、宜しくね。
    もしも何があったら、あたしを叩き起こしに来るのよ?
    じいちゃんの家にいるから。


    …たたき、おこすの?


    あんたはお姉ちゃんなんだから。
    夜の暗闇にだって負けないように。
    良い?


    ……。


    じゃあ、エリス。
    また、明日。


    …うん、明日。


    ……。


    …ん?


    …。


    コイユル…?


    …いっしょ。


    …。


    かまどどり、は、いっしょ…だから。


    …けど、コイユル。
    あんたはあたしが…


    ……へいき、だよ。


    …。


    ナディ、やさしいから…。


    …。


    …エリスがおしえて、くれたから。


    ……。


    ね、エリス…。


    …うん、ナディは優しいの。


    だから、へいき…。


    ……そっか。


    だからナディ、来て…。


    …。


    …早く、来て。


    ……なんて声、出すんだ。
    子供の前で…。


    …だって。


    あんなに嫌がってたくせに…酒臭いって。


    …いじわる。


    意地悪になっちゃうんかい…。


    …ナディ、いじわる?


    こら、コイユル。


    …ん、ごめんなさい。


    ……。


    …?
    ナディ…?


    …あんたの髪、こんなに柔らかかったんだ。


    …。


    綺麗な黒髪だし。
    サチャも言ってたけど、器量も良いし…ね、エリス。


    …。


    て、エリス…流石に勘弁してよ?


    …じゃあ、早く。


    たく…ほんと、しょーがないなぁ。


    ナディ。


    うん?


    こんど、ナディ、よんで。


    …あ?


    かまどどり。


    えぇ。


    読んで。


    て、エリスまで。


    …読んで、ナディの声で聞きたい。


    ああ、もう…しょうがないなぁ。








    ……。


    …アキラ。


    …?


    ……。


    …エリス、さん?


    うん。


    …どうしたんですか?


    それはこっちの台詞?


    ナディさんは…


    酔い潰れちゃった。


    ……。


    …いつも、私ばかりゆっくり寝てるから。


    エリスさん、だいじにしない、だめです。
    おなかに赤ちゃん、


    私はナディが大事なの。


    …。


    大事な、人なの…。


    …エリスさん。


    ……ナディ、自分の事より優先してくれるから。


    …。


    だから、私が大事にするの。


    ……。


    ……。


    …ナディさん、やさしい。


    うん…。


    エリスさんも、やさしい…。


    …私は、優しくないよ。


    いいえ…。


    優しくなんか、ないの…。


    …だったら、どうして。


    …。


    コイユルさん、たすけましたか。


    …。


    コイユルさんみたいなこども、たくさんいる。
    その中で、どうしてコイユルさん、たすけましたか?


    …だけ、だよ。


    …?


    コイユルは……ナディに似てたから。
    ただ、それだけ。


    …じゃあ。


    ね、優しくなんかないでしょ…?


    ……。


    …私は、魔女だから。


    え?


    自分勝手で、我侭で、そのせいで大好きな人に一生消えない傷を負わせて。


    ……。


    …ナディさえ、いてくれればそれで良いって。
    本気で思っているの。


    エリスさん……。


    ……。


    ……。


    …アキラ、ごめんね。


    ……なぜ、ですか。


    コイユルのこと…。


    ……。


    ……。


    …エリスさん、やっぱりやさしいです。


    ううん…。


    …いっしょに連れていく、つもり、だったんでしょう?


    ……。


    ナディさん、にてるから。
    はじまり、そうだったとしても。


    ……。


    …やっぱり、エリスさんはやさしい。
    ナディさんと、よく、にています…。


    私は…


    …だからこそ、ナディさんは。
    あなたをあいしてる…そう、思います。


    ……。


    …エリスさん。


    ……。


    かぜ、ひきます。
    ナディさん、しんぱいします。


    …アキラも、ひいちゃうよ。


    はい、そうですね…。


    ……。


    …エリスさん、じぶんをだいじ、してください。


    ……ナディが、してくれてるから。


    それでも、です。


    …。


    …ナディさん、あなたをだいじにする。
    でもエリスさんがしなければ、いみ、ない。


    ……。


    …それは、ナディさんも同じ。
    ナディさんのひだりうで、このままだと、使えなくなるかもしれない。
    オレホン、いってました。


    …!


    だから、エリスさん。


    ……私のせいなの。


    …。


    ナディの左腕がああなったのは…。


    …そう、ですか。


    ……私の我侭のせい、で。


    ナディさん、きっと、そうおもってない。


    ……。


    わたし、よくわかりません。
    けど、ナディさんはそんなひと、ちがいます。


    …。


    …エリスさん。


    …。


    コイユルさん、ほんとうにいいですか…?


    ……。


    ナディさんは…あなたが連れていく、いえば。
    きっと、かなえてくれる…でしょう?


    ……。


    だったら…。


    …知ってるよ。


    …。


    知ってるの…。


    …じゃあ。


    でも、だめなの。


    ……。


    …だめ、なの。


    どうしてですか…。


    ……。


    ……。


    …ねぇ、アキラ。


    はい…。


    コイユルの病気は…治る?


    …はい、なおります。
    かならず。


    …でも、今はまだ、治ってないんだよね。


    ……かんぜん、には。


    ……。


    でも、それなら


    …だめだよ。


    ……。


    …だめなの。


    ……。


    アキラ、コイユルを…よろしくね。


    エリスさん…。


    …私達は、私はこの子で精一杯だから。


    ……。


    ……コイユルを、しあわせにしてあげて。


    むせきにん、です。


    ……。


    そんなの、むせきにんです…。


    ……ごめんなさい。


    …。


    …ナディに言われた。
    コイユルだけじゃないって。


    …。


    …でも、私は。
    ナディに似てるコイユルを…。


    だったら…!


    …でもコイユルはナディじゃない。
    なかった…。


    ……。


    それに私は…ナディをとられたくないの。


    そん、な……。


    ……だから、怖いの。


    ……。


    この子が生まれて…もしも、同じような気持ちになったら。


    …。


    ……それでも、この子は私達の子供だから。


    エリスさん……。


    ……。


    …もう、もどりましょう。
    からだひえる、よくありません…。


    …アキラは。


    はい…。


    なんで、ここにいたの…?


    …わたし、は。


    ……あの人の事、想ってたの?


    ……。


    …アキラはつよいね。


    え…。


    …私だったら、離れられない。
    離れて生きるなんて、出来ない…耐えられない。


    …つよくなんか、ありません。


    ……。


    けど……。


    …コイユル。


    ……わたし、こどもうめない。
    だからじゃ、ない…。


    …。


    …エリスさん、わすれないで。


    ……。


    コイユルさんのこと、いっしゅんでも、あなたのこどもになってたこと…どうか、わすれないでいてあげて。


    ……うん。


    ……。


    ……。


    …さぁ、ナディさんのところに。


    ………。








    …エリス。


    ……。


    人が、動けないの知ってて。


    …ナディ。


    ……エリス。


    どうして、来てくれなかったの…。


    ……。


    …どうして。


    コイユルを一人には出来ないでしょ。


    ……。


    …本当は。


    …。


    迎えに行こうと思ったよ。


    …本当?


    当たり前だ。
    身重のあんたを、放ってなんかおけるか。


    ……。


    …それで、どうだった?


    どう…?


    あんたの事だから意味も無く、ましてやあたしに黙って星の下になんか、行くわけない。
    でしょ?


    …!


    …本当は行かせたくなかったんだけどね。


    ナディ…。


    …エリス、おいで。


    ……。


    おいで…エリス。


    ……。


    ……。


    ナディ…ナディ…。


    …こんな冷たい躰で寝床に入ったら、コイユル、起こしちゃうでしょ?


    ごめんなさい…。


    …それに、この子にも良くない。


    ……。


    …勿論、あんたにとっても。
    あたしはそれが一番…


    ……。


    …エリス。


    ……あったかい。


    あんたは、冷たい…。


    …ごめんなさい。


    もう、勝手に出歩くな……?


    ……う、ん。








    これ、良ければ朝ごはんに食べてください。


    ありがと、チャスカ。


    ありがとう。


    いいえ、どういたしまして。
    でも本当は一緒に食べたかったんですが…。


    『ありがとう、チャスカ』


    …どういたしまして。


    今度会う時はそのお腹の子にも会えるかもね。


    はい。
    だから屹度、また来てくださいね。


    だって、ナディ。


    オーケイ、エリス。


    それに私もエリスさんのお腹の子に会いたいですから。


    だってさ、エリス。


    オーケイ、ナディ。


    ふふ。


    で、クシは?
    やっぱり?


    …弱いのに、好きなんです。
    もう。


    ナディと同じ?


    あたしはそこまでじゃない。


    昨日、おばあちゃんに参ったって言ってたのに?


    …ばあちゃんは別だ。


    ごめんなさい、ナディさん。
    母が…


    ああ、良いって良いって。


    お酒の事もなんですけど…見送りに来なくて。


    仕事、でしょ?
    なら、しょーがない。


    …はい。


    アキラも?


    それが…朝、起きたらもういなくて。
    だから、先にここに来ていると思ったんですが…。


    …そっか。


    でもばあちゃん、あれだけ飲んで平気なんだから凄い。


    ね。


    じいちゃんも元気だなぁ。


    本当、うちのクシだけ…。


    でも、好きなんでしょ?


    はい?


    クシの事。
    チャスカを見てると分かるよ。


    ……はい。


    はいはい、ごちそうさま。


    ごちそうさま。


    …ふふ。


    それじゃ、行こっか。


    いえっさ、ナディ。


    ナディさん、エリスさん。


    またね、チャスカ。
    ばあちゃん達によろしく。


    はい。


    ばいばい、チャスカ。


    
ラトゥカマ(またね)、エリス。


    それから。


    …。


    …コイユル。


    ………。


    元気で。


    …っ。


    チャスカ、コイユルの事


    ナディ、エリス…っ!


    …と。


    コイユル…。


    おいてっちゃ、やだ………。


    ……。


    や、だ…ぁ…。


    ……。


    うぅ…あぁぁ…。


    ……ナディ。


    …コイユル、いつかまたあんたは母親と暮らせる日が来る。
    だからその時まで…


    やだ、いっしょに、いく…。


    ……。


    エリス、エリス……。


    ……。


    …?
    エリス…?


    …。


    …エリス、それは。


    ん…。


    そっか…分かった。


    …ありがとう、ナディ。


    ……うん。


    …コイユル。
    コイユルにこれ、あげる…。


    …こ、れ。


    カマドドリの絵本。
    ナディが私に初めて買ってくれた、私の宝物…。


    …いらない。
    こんなの、いらない…。


    ……コイユル。


    あ……。


    …お願い。
    こんなのって、言わないで…?


    ……。


    …これは、私の思い出。
    大切な思い出そのものだから…。


    …。


    …だから、コイユル。
    私は貴女をずっと、忘れない。


    ……う、…っ。


    離れていても…また、会えるから。
    生きていれば…必ず、会えるから。


    …エリス。


    ………。


    …行こう、ナディ。


    ……ん。


    ナ…っ、くっ…エリ…っ。


    コイユル。


    …っく、…。


    今、あんたが被ってる帽子はさ。
    今度生まれてくるあたしの子供に贈るものだった。


    …。


    て、言ったっけ?


    …う、ん。


    今はあんたが被ってる。
    その意味、分かる?


    …。


    その帽子はあたしの子供が被るもの。
    それは、今も。


    ……あ、う。


    コイユル、あたし達はあんたを忘れない。
    血は繋がっていないけれど、そんなの、関係ない。


    ……。


    アキラと一緒に、ここに暮らして。
    元気になって、そして。


    ……。


    元気になったあんたに、あたし達は会いに来る。
    オーケイ?


    ……。


    コイユル…。


    …わたし、が。


    ……。


    ……。


    ふたり、の、ほんとうのこどもだったら……。


    ……。


    ……。


    …よかった、のに。


    コイユル!


    あ…ぅ、あ。


    エリスは言った。
    あんたはあたしに似てるって。
    だから屹度、大丈夫。


    ……。


    エリスのような素敵な人と出逢って、あんたもいつか、母親になる日が来る。
    その人との間に子供が欲しいって、いつか、思える日が来る。
    そう、あたしのように!


    ……。


    だから…どうか、元気で。


    …ぅ。


    元気でね、コイユル…。


    あぁぁ………。


    ……。


    ……。


    おか…あ、さん……。


    ……。


    ……。


    …よし。
    行こうか、相棒。


    …いえっさ、ナディ。





    ナディさん!
    エリスさん!





    …お。


    アキラ…。


    ……はぁ。


    来てくれたんだ。
    良かった。


    ありがとう、アキラ。


    おれい、いわれること、わたし、してない。


    …。


    …。


    ナディさん、エリスさん。
    コイユルさんの病気、わたし、かならず、なおす。
    あの人じゃない、けど、それでも。


    それ、なんだけどさ。
    これ、あんたに。


    …これ、なんですか。


    あいつへの報酬。
    払い忘れてさ。


    ……。


    だから、アキラに。


    ……。


    コイユルを必ず、


    治してあげて。


    …。


    それじゃあ、アキラ。


    …さよなら、アキラ。


    いいえ、さよなら、ちがいます。


    ……。


    ……。


    ナディさん、エリスさん、Lâche pas la patate...!


    …え?


    …アキラ?


    わたしのくにの、ことば。
    こういう時、使います。


    へぇ。


    どういう意味なの?


    どうか、げんきなままで。
    また会う、だからさよなら、いいません。


    なるほど。


    アキラも、元気なままで。


    ナディさん。


    うん?


    エリスさん、むりさせないで。


    …ん、分かってる。


    エリスさん。


    …。


    げんきな赤ちゃん、うんでください。
    きっと、ですよ。


    …うん。


    そして、かならず……。


    …あき、ら。


    コイユルさん、会いにきてください。
    きっと…きっと。








    ………。


    ………。


    …これからの事。


    ……。


    話そっか、エリス。


    ……。


    ……。


    ……。


    …エリス。


    ……誰かの一時の優しさは。


    ……。


    辛い、だけ…。


    …。


    …ナディもそうだったの。


    あたしは……。


    …そうだったんだね。


    ……。


    ……。


    …あたしはさ、エリス。


    ナディの、言うとおりだった。


    …。


    …無責任だって言われたよ。


    それは…アキラに?


    …うん。


    そっか…。


    …ナディにも言われた。
    連れては、いけないって。


    ……。


    でも、私は…。


    ……あたしはさ。


    …。


    エリスがしたいようにすれば良いと思ったから。


    …。


    …エリスが連れていきたいのなら、連れていこうってさ。


    ……。


    …エリス。


    ……私、優しくなんかない。


    ……。


    ないの…。


    …優しくなかったら。


    ……。


    そんなにぼろぼろと泣かない。


    …。


    泣く事さえ、忘れてしまうから。


    ……。


    …あの子はあの村で、温かい人達に囲まれて、病気を治す。
    それはあたし達には出来ない。


    うん…。


    病院に連れていくことは出来る。
    けど、それだけ。


    …。


    あたし達は決まった場所にいるわけじゃない。
    もしも、あの子が星の下で苦しみ始めたら?
    あたし達には何も出来ない。


    ……。


    …それでもあの町にいたら、あんたと出逢わなかったら、治らなかった。
    確実に死んでた。


    …。


    結果だけ見れば、あたし達はコイユルを置いてきてしまった。
    けど。


    ……。


    …コイユルが命を繋げたのは、他でもない、あんたがいたから。


    違うよ。


    …。


    …ナディが、いたから。
    アキラやオレホンがいたから…だから。


    …切欠を作ったのは。


    う…。


    …紛れもなくあんたよ、エリス。


    ……。


    エリス……。


    ……。


    …あんたは、優しい。


    …!


    逢った時から…ずっと、変わらない。


    ナディ、私…わたし…。


    …エリス。


    ……。


    無責任かもしれない、身勝手かもしれない。
    それでも、これで良かったの。


    ……。


    …アキラはきっと、コイユルを大事にしてくれる。
    失くしてしまった子供達に出来なかった事を、きっと、してくれる。
    それに医者の傍にいただけあって、コイユルの病気についての知識も持ってるしね。


    …。


    …だからこれで良かったのよ、エリス。


    ……わたし。


    ん…?


    ……。


    …あの絵本。


    ……え?


    まさか、あげちゃうとは思わなかったな。
    あんなに大事にしてくれていたから。


    ……ごめんなさい。


    ん、なんで?


    …初めて、買ってくれたから。


    それは別に良いけど。
    それよりも。


    ……。


    …あの絵本は多分、あんたの思い出だったから。
    いつかのキーホルダーのように。


    あ…。


    …キーホルダーは壊れちゃったけど。
    それだって今となれば…。


    ……。


    …大事にしてくれると良いね。


    ナディ…ナディ…。


    …うん。


    ……。


    …よし。
    それじゃ、これからの事を話そうか。
    相棒?


    …いえっさ、あい


    お…。


    ……。


    …はは、お腹へった。


    ……くいしんぼ。


    だってまだ、何も食べてないし。


    くいしんぼ。


    うるせ。


    …ふふ。


    チャスカに貰ったの、食べよっか。


    うん。


    何かな。


    お芋?


    かな。


    蒸したお芋。


    芋だけかな。


    くいしんぼ?


    はは。


    …ふふ。


    お、他にもあるみたい。


    なに?


    これは…昨日のクイだ。
    やった。


    良かったね。


    しかも、ほのかにあったかい。
    良かったね、エリス。


    うん…!








    んー、今日も良い風だ。


    ……。


    ねぇ、エリス。


    …ん。


    ……。


    ……。


    …ペンギンって、見たことないよね。


    …え?


    ある?
    ペンギン。


    …本でなら。


    じゃあ、どこにいるイメージ?


    イメ-ジ…?


    そう、イメージ。


    ……。


    どう?


    …寒いところ?


    言うと思った。


    …じゃあ、ナディは?


    あたし?


    ナディのイメージ。


    そうだなぁ、あたしは…


    …。


    サボテンの下。


    …サボテン?


    サボテンの下にね、巣を作るペンギン。


    ……。


    想像、出来ないかな。


    …氷、じゃないの?


    うん、サボテン。


    ……。


    ペンギンと言えば寒いところ。
    でもそのペンギンは寒さが苦手なんだってさ。


    そうなんだ。


    聞いた話によるとね。


    見たこと、あるの?


    あるよ。


    どこで?
    どこにいるの?


    興味、持った?


    ナディが言ったから。


    そっか。


    ねぇ、どこにいるの?


    エリス。


    …?


    一緒に見よっか。


    本当?


    うん。


    じゃあ


    でも。


    ……。


    それはこの子が生まれたらにしようと思う。


    ……ナディ。


    あたしは、あんたの躰と子供を優先したい。


    ……。


    エリスは?
    どうしたい?


    …私は。


    うん。


    ……。


    ……。


    …ナディの好きなようにして欲しい。


    ……。


    …でも。


    でも…?


    …でも、私は。


    ……。


    ……ごめんね、ナディ。


    ん?


    …私が、望まなければ。
    旅、ずっと続けられたのに。


    あのさ、エリス。


    …。


    全部自分のせいにすんの、そろそろ止めようか?


    ……。


    あたしの腕の事も。


    ……。


    あたしは、自分で望んだから。
    だから、あたしはあんたを孕ませた。
    その為の力が欲しかった。


    …。


    その力をくれたのはエリス、あんたなのよ?


    ……。


    だから、もう止めよう?


    …だけど、ナディ。


    ……。


    このままだったら、ナディの左手、使えなくなっちゃうかもしれないって…。


    …。


    そしたら私、どうしたら良いのか…分からない。
    分からないよ…。


    もし、そうなっても。
    あんたがいるじゃない。


    …。


    あんたがあたしの左腕になってくれれば良い。
    ほら、問題無い。


    ………。


    何よ、嫌なの?


    いやじゃない、いやじゃないよ…。


    じゃあ、良し。
    ほら、あんたのせいじゃない。


    ……。


    それ、アキラが?


    …え。


    腕の事。
    まぁ、アキラ以外いないか。
    どうせ、あの藪医者が余計な事を吹き込んだに決まってる。


    ……。


    もう良いのよ、エリス。


    …。


    カマドドリ。


    …え?


    オガライティと、エウレテ。
    二人は人間のまま、結ばれる事は出来なかった。
    けど、それでも二人は。


    …。


    いつか、あんたがあたしに聞いたこと。
    その答えは…今のあたしじゃ、駄目かな。


    …ああ。


    腕が、不自由になろうとも。人間なんかじゃ、なくても。
    好きな人がずっと隣にいる、大事な人とこれからを生きていく。
    それだけであたしは…仕合わせ、だから。


    ……あぁ、ナディ。


    もしも、さ。
    あんたが責任感じてどっかに行っちゃたら…その時は。


    …そのとき、は。


    悲しい。


    ……。


    お腹の子供も連れて、どっかに行っちゃったら。
    悲しくて、淋しくてさ。


    …。


    で、左腕も動かなくなって。
    動かない左腕のせいで、あんたを思い出して。
    あたしは…そのまま、死んでいく。


    ……。


    だから、さ。


    …どこにも行かない。


    うん、行くな。


    …。


    ずっと、あたしの隣にいろ。
    いい?


    ……う、ん。


    エリス。


    …なぁに。


    やっぱり空、高いね。


    ……うん。


    あんたは。


    …。


    いつから空を良く、見るようになったのかな。


    …いつから?


    ニーナ達と一緒にいた頃くらいからかな。
    仕事、良くさぼってさ?


    ……よくじゃない。


    エリス。


    …ナディ。


    あんたに見せたいところが、ある。
    思い出した。


    …見せたいところ?


    そう、どうしても。


    …でも、赤ちゃんが生まれてから。


    いや、今このままそこへ向かう。
    ここからなら、そう、遠くない。


    え…。


    それが見られるのは、今の季節だけだから。
    だから、エリス。


    …旅、続けるの。


    もう少しだけ、付き合ってよ。


    ……。


    と言っても、あれは自然が見せてくれるものだから。
    すんなり見られるかどうかは、分からないけど。


    …それでも。


    行こう、エリス。


    連れていってくれるの?


    連れていく。


    もう少し、続けても良いの?


    あんたが嫌じゃなければ。


    …いやな、わけ。


    エリス、あんたはあたしが守る。
    お腹の子供も、あたしが守る。
    あたしの手で、必ず。
    だから。


    ナディ。


    ……ん。


    見せて。
    連れて、いって。


    …いえっさ、エリス。








    ねぇ、ナディ…。


    …ん?


    どんなところなの…?


    …教えない。


    …。


    …言っちゃったら、つまんないじゃない?


    でも、ナディはしってるんでしょ…?


    …まぁ、ね。


    ずるい…。


    …だから、見せたいんだって。


    おしえて…。


    …嫌だ。


    おしえてくれても、んん。


    ……。


    …ナディ。


    ……教えない。


    ずるい…いじわる…。


    言ってろ…?


    ……ナディの、うすらタコス。


    ……。


    ナディ…。


    …教えない。


    ……。


    ……。


    ……すき。


    …。


    ……だいすき。


    ……。


    ……。


    ……しょうがないなぁ。


    …。


    …湖。


    みずうみ…。


    これ以上は、言えない。


    ……ウィニャイマルカ。


    あの湖じゃない。


    ……。


    …もう、言わない。


    ……。


    …エリス。


    ……ナディ。


    …。


    ……みられたら、いいね。


    見せて、あげたい…。


    ……。


    …二人で、見たい。


    ……うん。








   ...el final