はぁぁ。


    白いね。


    周りも。


    うん、白い。


    まんまと積もってくれたし。


    積もったね。


    寒くない?


    大丈夫。


    んーー。


    ナディ?


    やっぱり寒い。


    雪、積もったから。


    あたしもだけど。


    …?


    どう見てもあんたの方が寒そうに見える。


    そうなの?


    特に頭と首元。
    髪の毛が短いからかなぁ。
    寒々しく見える。


    ナディはふさふさだから。


    ふさふさって。
    長いって言ってよ。


    じゃあ、ふさふさで長い。


    けんか、売ってんのかぁ?


    ううん、売ってない。
    それで何、食べるの?


    ん?


    朝ごはん。


    そうだなぁ。
    やっぱりあったかいのが良いな。
    あんたが何が良い?


    んー…。


    アイス、は止めてよ?


    …寒いから?


    そう。


    私もあったかいのが良いな。


    どんなのが良い?
    なんでもいいは、無しで。


    んー……。


    この辺りだとやっぱりサルテーニャ、かな。
    まぁ、他でも食べられるけど。


    サルテーニャ?


    パンみたいなのに、煮物が汁ごと入ってるの。
    食べたこと、なかったっけ?


    いつもタコスだったから。


    それは前の旅ん時でしょーが。


    えへへ。
    サルテーニャ、おいしそうだね。


    おいしいわよ。
    肉が入ってるけどあまりしつこくもないから、今のあんたには良いかもしれない。
    食べるのはちょっと大変だけど。


    なんで?


    気をつけないと汁が中身ごとこぼれて、台無し。


    ああ。
    じゃあ、それにする。
    ナディは?


    あたしは店に行ってから決めようかな。
    サルテーニャじゃちょっと物足りないし。


    朝からくいしんぼ?


    うるせ。


    ふふ。


    何が良いかな。
    とりあえず、米が食べたいな。


    お米?


    そう、米。
    米はお腹に溜まるから。


    …くいしんぼ。


    分かってるから、言わんで宜しい。


    …ふふ。


    たく。


    お肉は食べるの?


    まぁ、食べようかな。
    折角町にいるんだから、ソーセージ以外の肉も食べないと。


    牛?
    豚?
    鳥?
    それとも、クイ?
    リャマ?


    おいおい。
    でもサフタ・デ・ポヨが食べたい。
    ちょっと辛いけどフリカセでも良いかな。


    がっつり?


    いや、そこまでじゃない。


    足りる?


    こら。


    えへ、ごめんなさい。


    元気になるとすぐにこれ、だ…。


    …お腹、なった。


    あんたのせいでね。
    とりあえず、どっかの店に入ろ。


    どこ?


    そうだなぁ…。


    …。


    ん、あそこにしよう。


    あそこ?


    美味しそうなニオイがする。


    …。


    お腹、空いてるのよ。


    うん、知ってる。


    なら、良い。


    ジュース、飲んでもいい?


    良いけど。


    けど?


    躰、冷やすわよ。


    そっか。
    じゃあマテ茶にする。


    でもモコチンチってジュースがおいしいのよね。
    一回しか飲んだことないけど、モモが入ってて。


    …意地悪?


    エリスこそ、甘いもの好きよね。


    …意地悪。


    飲んでも良いわよ?


    …飲みたい。


    ふふ。


    …早く行こう。


    うん、行こ。
    で食べたら、買い物しよう。


    保存食?


    それもあるけど。
    ちょっと、ね。


    …ちょっと?









    あーおいしかったぁ。
    満足満足。


    いっぱい食べたね。


    だってお腹すいてたから。


    うん。


    フリカセ、思ってたより辛くなくて良かった。
    豚肉じゃなかったけど、鶏肉でも十分おいしかったし。


    うん、あまり辛くなかったね。


    あたし、あの店好きだな。
    値段のわりには、量もあるし。


    じゃあ、私も好き。


    サルテーニャ、気に入った?


    おいしかったから。


    それは良かった。


    ナディに食べられた。


    一口じゃない。


    ナディの一口、エリスの一口じゃないよ?


    だからあたしのフリカセ、あげたでしょ?


    うん、もらった。
    パンもおいしかったね?


    そうそう、パンもおいしかったなぁ。
    ちょっと食べすぎたかも。


    腹八分目?


    なんでだ、こら。


    くいしんぼ。


    どんだけ人を大喰らいにさせれば気が済むんだっつの。


    ナディはそうだよ?


    まだ言うか。


    お腹、いっぱい?


    だから、そー言ってるでしょが。


    言ってないよ?


    お腹いっぱいです。
    ごちそうさまでした。


    そっか、良かったね。


    そーだねー。


    また、行く?


    行きたい?


    ナディが行くなら、行く。


    うーん、そうだなぁ。
    もう一回くらい、行こっか?
    どうせ今日出発は無理だろうしね。


    うん、行く。


    よし、決まり。


    決まり。


    さて、腹ごしらえもしたコトだし。
    買い物、行こっか。


    何を買うの?


    それは行ってからのお楽しみ。


    お楽しみ?


    そ、お楽しみ。


    …昨日はお楽しみでしたね?


    は?


    て、言われたこと、あった。


    ……いつの話だ。


    えと


    思い出さないでよろしい。


    ナディが言ったのに。


    良いから。


    …お楽しみってなに?


    だから、


    行けば、分かるの?


    …行けば、分かるよ。


    ふぅん。


    その為には手ごろな店、あったら良いんだけど。


    …?


    大きい町じゃないけど小さくもないから、それなりにはありそうだけど。
    エリス、とりあえずあっちに…?


    …。


    なに、どこ見てんの?


    …こども。


    子供?


    女の子。


    その子がどうしたの?


    こっち、見てた。


    あたし達をって事?


    目、あった。


    …どこから?


    あの角。


    いないじゃない。


    もう、いないよ。


    ……。


    …少し、似てた。


    似てる?


    …ナディに。


    止めてよ。


    …ナディ?


    行くよ、エリス。
    さっさと買って、さっさと宿に帰ろ。
    今日はあそこでもう一泊するから。


    うん、分かった。


    うん。


    ……。


    ほら、エリス。


    …ねぇ、ナディ。


    …なに。


    あの子、


    見なかった事にしろ、とは言わない。
    けど、構うわけにはいかない。


    …どうして?


    きりがなくなる。


    …。


    あんたが思っている以上に、いっぱいいるのよ。
    いつか、話したでしょ?


    …。


    それから。
    あっちから近付いてきても、こっちからは不用意に近付いてはだめ。


    …。


    エリス。


    …ナディも。
    同じこと、してたんだよね。


    …。


    …。


    …そうよ。
    だから、おおよその手口は分かるのよ。


    …。


    …行くよ、エリス。


    ……うん。








    こっちの色が良いかなぁ。


    …。


    でもエリスにはやっぱり、白の方が似合うかな。


    …。


    真っ白も良いけど、こういう白も良いかも。
    でも白は汚れが目立つか。


    …。


    エリス、あんたはどれが良い?


    …私?


    あんたのだからね。
    あんたが選んだ方が良いでしょ?


    …これ。


    これ?


    これは?


    えー…。


    だめ?


    でもこれは


    ナディの色だから。


    うーん…。


    …ねぇ、ナディ。


    うん?


    お楽しみって、


    首巻きと帽子。
    買ってあげる。


    …。


    持ってて困るコトはないから。


    …ナディは?


    あたしは良いや。


    なんで?


    なんでも。
    エリス、ほんとにこの色が良いの?


    …うん。


    でもこの赤はちょっと…。


    …合わない?


    いまいち…かなぁ。


    …ナディとは合うのに。


    …。


    …。


    …まぁ、全く似合わないわけでもないけど。
    でもあたしはここまで赤くない。


    …。


    それにこの赤だったら、あたしは白の方が良いと思うけどなぁ。


    …じゃあ、白で良い。


    …。


    …。


    …オレンジ。


    …?


    赤っぽいオレンジは?
    これなら髪の色と合わせても…


    …。


    …エリス。


    …なに。


    さっきの子、そんなに気になるの。


    …。


    エリス。


    …。


    …あたしに、似てたから?


    ……うん。


    …。


    …。


    …そんなに似てたの?


    あんまり見てないから。
    でも…。


    …。


    …。


    …やっぱり。
    この赤はあんたには似合わない。
    きつすぎる。


    …。


    でもこっちの赤なら…オレンジがあって、そこまできつくない。
    それからこの柄もポンチョにも合う。


    …太陽の色?


    地平線に沈む、ね。


    …似合う?


    うん、悪くない。


    …本当?


    うん、本当。


    じゃあ、これにする。


    よし、帽子は決まり。
    耳あてがあるから、あったかいと思うよ。


    うん。


    あと首巻きは…これなんか、どう?


    …白?


    完全な白じゃないし、これなら帽子の柄とも合うし。


    …。


    まぁ、あんたが


    これが良い。


    これで良いの?


    うん。


    赤っぽいオレンジと…真っ白じゃない白。
    でもって、柄は同じ…。


    …。


    本当にこれで良い?


    …うん、良いよ。


    じゃ、決まりね。
    おっちゃん、これとこれ、ちょうだい。


    …。


    ああ、やっぱりアルパカのなんだ。
    じゃ、あったかいね。


    …。


    アルパカ…か。
    ねぇ、おっちゃん。
    この柄ので……。


    …。


    グラシアス。
    エリス、はい。


    …終わった?


    うん。
    早速、使いなよ。


    …いえっさ。


    …。


    ……どう?


    うん、似合ってる。


    …あったかい。


    でしょ?


    …でも。


    ん?


    首巻き、ちょっと長いね。


    ああ。
    でもま、短いよりは良いでしょ?


    そっか、そうだね。


    でしょ?


    うん。


    よし。
    じゃ、行こっか。


    どこに?
    宿?


    首巻きと帽子があるとは言え、寒いからね。
    また熱でも出したら、大変…


    …。


    ……エリス。


    ……。


    ほら、エリス。
    行くよ。


    ……いえっさ。


    …。


    …。


    …エリ





    …ぅ。





    あ。


    エリス。


    …大丈夫?


    エリス、だめ。


    立てる?


    エリ


    あ…。


    …ち。


    待って


    ここで、待ってて。


    ナディ。


    すぐに戻る。


    …ナディ。








    それは。
    あんたに買ってあげたものじゃない。


    …ッ、…ッ。


    警察には面倒だから連れて行かない。
    連れて行ったところでロクな目に遭わない。


    ……。


    大人しく離せば、このまま離す。
    離さないと言うのならば


    ナディ、やめて。


    …。


    お願い、ナディ。
    離してあげて。


    エリスのお願いでも、それは聞けない。


    でも


    エリス。
    こういう子は、この子だけじゃない。


    知ってるよ。
    でも


    ううん、あんたは知らない。


    …ナディ。


    その首巻きはエリスのもの。
    あんたのじゃない。


    …ッ。


    ナディ。


    どうしても聞けないのなら


    ナディ、だめ。


    ……。


    お願い…やめて。


    …エリス、離して。


    ナディ…。


    …この子は、あたしじゃない。


    うん…。


    似ていない。


    …。


    それでも、あんたは。


    …。


    …。


    ……。


    …はぁ。
    分かった。


    ナディ。


    けどその首巻きはあげられない。
    だから…。


    …ナディ?


    これを代わりに。


    …それ、どうしたの。


    ついでに買ったの。
    まぁ、少し気は早いかもしれないけど。


    …あ。


    これをあげる。
    だからそれは返しなさい。


    ナディ…。









    思いつき、だったんだけどね。


    …。


    アルパカだって言うから。
    おまけに丁度、同じような柄でちっこいのがあったから。


    …うん。


    いきなり見せて吃驚させようと思ってたんだけど。
    ま、しょーがない。


    本当に?


    ん?


    本当にしょうがないって思ってるの?


    なんで。


    だって、


    しょうがない。


    …。


    だけど。
    あれを自分のものにするか、金にするか。
    と言っても、はした金にしかならないだろうけど。


    …。


    でもって…誰かに持っていくか。
    それは、あの子が決めるコトだから。
    エリス、あんたじゃどうしようも出来ない。


    …そうじゃないよ。


    あ?


    私が言っていること。


    …。


    だめだって言ってた。
    最初から、ずっと。


    …そうよ。


    なのに


    だから、しょうがない。
    もうあげちゃったんだし、今更返せなんて言う気もないし。


    ……。


    エリス。


    …。


    あの子、あたしに似てるって言ってたけど。


    …ナディは似てないって。


    似てない。
    だってあれはあたしのかつての姿、だから。


    …。


    似てる似てない、じゃない。
    あたしはあの子だった。


    ……。


    誰も助けてなんかくれない。
    エリス、あんたがいつだか言っていた事。


    …でも、私にはナディがいたよ。


    でもって、あたしにはエリスがいた。


    …。


    …ねぇ、エリス。


    ん…。


    …あの子を見ると、昔を思い出すのよ。


    ……。


    …きれいな服を着た人間達はいつだってあたし達を汚いものを見るような目をしてた。
    そんな汚いもの、目の中にもいれたくないって。
    人の扱いなんか、初めからされてなかった。


    …たち?


    あたしは大抵、一人でいたけど。
    でも、それでもたまに誰かと一緒だった時もあんのよ。


    …誰。


    …。


    男の人?女の人?


    …子供、だからね。
    そんな大人のような呼び方はなかった。
    それからあんたが思ってるような事もね。


    ……。


    …その中には必ず。
    自分の躰を売ってるやつがいてね。
    実際は売らざるをえないんだけど。


    …女の子?


    どっちでも。


    …どっちでも?


    どっちでも売れるのよ。


    …。


    そう、どっちでも。


    …女の人も買うの?


    はは、それはなかったかなぁ。
    ま、聞いたコトがないだけかもしれない。
    中にはあったかもね。


    …。


    ソドミー。


    …それ、なに?


    詳しい事は…あまり話したくない。


    …じゃあ、聞かない。


    …。


    …。


    …そうでもしないと、生きられなかった。


    でもナディは…。


    まぁ、ね。
    …でも。


    でも…?


    …危ない時はあったよ。


    …!


    …エリス。


    …。


    聞きたくないなら、もう止める。


    …ううん、聞く。


    …。


    …。


    …その時はうっかり寝入ちゃってさ。
    はっと気付いたら、自分よりもでかいやつが上にいてね。


    …。


    …それがまた、酒くっさい息でさ。
    生臭いのもいやだけど、あれは最悪だった。


    …それで。


    銃で。


    …。


    あたしの、昔の相棒。
    あんたもよく知ってるでしょ?


    …今も、そうだよ。


    今はただの道具。


    ……。


    今は…あんたでしょうが。


    …う、ん。


    …その時かな、初めて人を殺したのは。


    ……そう、なんだ。


    怖かったよ。


    …。


    …ただ、怖かった。


    …うん。


    あの時にあんたがいたら…なんて、さ。


    …抱いてあげたかった。


    …。


    …。


    もしかしたら、家があるかもしれない。


    …え?


    そういう場合もあんのよ。


    …あるのに、どうして。


    まぁ…親が、ね。
    どうしようもないヤツもいるのよ、世の中には。
    中には良い金で売れたって笑ってるヤツすらいる。


    …。


    …もしも、そうなら。
    故郷を焼かれるより、辛い事かもしれない。


    …違うよ、ナディ。


    ん…?


    それはきっと、比べることじゃない。


    …。


    …きっと、違う。


    そっか…。


    …。


    ま、なんにせよ、子供の力ではどうしようも出来ない。
    そう、どうしようもない。


    あの子は…。


    …分かるのは、昔のあたしと同じって事かな。


    ……。


    …。


    ……嬉しそうな顔、してたよ。


    …。


    ナディに帽子をかぶせてもらって…あの子、嬉しそうだった。


    …そう。


    …。


    …。


    …ナディ。


    エリス。


    …?


    …よし。
    熱は、ない。


    …。


    明日は出発、出来たら良いけど。
    こんだけ寒いとなぁ。


    ナディ…。


    うわ、また降ってきてるし。
    勘弁してよ、もう。


    …。


    あーもう、なんだかなぁ……?


    …。


    …エリス。


    ……どうしたの、ナディ。


    別に何も。


    …。


    さて、と。
    これからどうしよっか。
    寝るにはまだまだ早いし、外は寒いし、夜ごはんにはやっぱり早いし。
    日雇いの仕事でもあれば良いんだけど…それはそれで、あんたを残してはいけないし。


    …。


    ねぇ、エリ


    …。


    …と。


    ……あ。


    …。


    …。


    て、どこに行くつもりよ。


    …ナディ。


    エリス。


    …。


    行って、どうするの。


    行く。


    駄目。


    …。


    分かれなきゃいけないのに。
    連れてはいけない。


    …知ってるよ。


    じゃあ


    …。


    …エリス。


    …外、寒いから。


    …。


    寒いから。


    …辛くなる。


    …。


    誰かの一時だけの優しさは、辛いだけなのよ。


    …。


    …どうせ、自分には手に入らない。
    それを、思い知らされるから。


    ……。


    だから…。


    …。


    ……。


    ……。


    ……ああもう。


    …。


    …分かった。


    …何が、分かったの。


    あたしは、あんたのそれに一生、弱いってコト。


    ……。


    行こう、エリス。


    …どこに。


    あんたが行こうとしていたところ。


    …。


    ほら。


    …いいの。


    あんたが思うようにすれば良い。


    しょうがないから?


    …。


    ナディ。


    あんたはあたしの相棒、だから。


    …。


    でも、うまくやんなきゃね。


    うまく?


    そう、うまく。


    ……?








    ただいまー。


    おかえり、ナディ。
    遅かったね?


    温いの渡してきやがったから、その場で作り直してもらったのよ。
    おいしくないでしょ、冷めてるのなんか。


    そっか。


    はい、あつあつのサルテーニャ。


    …。


    手、出して良いのよ。
    今はね。


    …。


    熱いから気をつけて。


    …。


    エリス、あんたは食べたけど


    いる。


    人のこと、くいしんぼって言うくせに。


    ナディほどじゃないよ?


    言ったな?


    うん、言った。


    そんなやつには


    ごめんなさい。


    分かればよろしい。
    それと、これも。


    ……。


    これ、なに?


    あんたが朝、飲んだのと一緒。


    モコチンチ?


    あんたは一回、飲んだから


    欲しい。


    言うと思った。
    じゃ、はい。


    ありがとう。


    どういたしまして。
    で、これはあんたの分。


    …。


    言ったでしょ。
    今は貰っても良いって。


    …。


    ありがとうって言うんだよ。


    エリスがそれを言うようになるなんてねぇ。


    間違ってないよ?


    ん、間違ってない。


    ……。


    食べな。
    お腹、すいてるんでしょ?


    …。


    食べても良いんだよ。
    でも熱いから気をつけてね。


    …。


    …大丈夫。
    あたし達はあんたから何かを奪おうってわけじゃないし、あんたをどうこうしようなんて思ってもいない。


    …。


    …あんたに痛い思いをさせるヤツも、ここにはいない。


    …。


    だから、大丈夫。


    …。


    大丈夫だよ。
    ナディは…ちょっと荒くれ者だけど、


    …!


    とても、優しいから。


    ……。


    こら、エリス。
    怯えさせるようなこと、言うな。


    うん?


    荒くれ者は余計。


    …えへへ。


    えへへじゃないっつーの。
    たく。


    …。


    …ほら、エリス。
    どうしてくれんのよ。


    ん?


    ん、じゃない。
    折角人が寒い思いまでして買ってきたってのにさぁ。


    ごめん?


    謝るくらいなら初めか、ん。


    …。


    ……ごめん?


    …あんたねぇ。


    …。


    ね、大丈夫でしょう?
    ナディはすごく優しいんだよ。


    …。


    …何が大丈夫なんだかなぁ。


    …。


    あ。


    ん?


    ……。


    ナディ。


    へぇ。
    あんた、そんな顔も出来るんだ。


    …。


    止めなくて良いって。
    あたし達は咎めてるわけじゃないんだから。
    ねぇ、エリス。


    うん。


    …。


    でもそっか。
    そんな顔、まだ出来るんだ。


    …ナディ?


    まぁ、ね。


    …うん。


    ……。


    ほら、冷めないうちにさっさと食べる。
    あたしの努力を無駄にする気かぁ。


    …。


    うん。
    いただきます。


    さ、あんたも。


    ……。


    …ねぇ、ナディ。


    んー?


    どうして


    エリス。


    …ナディ。


    なんとなく、分かるでしょ。


    …うん、分かるよ。


    なら、良いのよ。


    …そっか。
    そうだね。


    ほら、あんたも食べなって。


    いえっさ。


    じゃ、あたしも。


    ナディの分?


    勿論。


    くいしんぼ。


    はいはい、お互いさま。


    えへ。


    ……。


    おいしい?


    …。


    こら、そんなに急いで食べると


    …ッ。


    エリス。


    うん。
    大丈夫?


    …。


    落ち着いて食べなさい。
    さっきも言ったけど、あたし達は奪らない。


    …。


    うん、良い子。


    …エリスも?


    あんたねぇ。


    冗談。


    いや、あんたも良い子。


    …わ。


    って、コトにしといてあげる。


    …えへへ。


    ふふ。


    ナディ。


    うん?


    うまくいった?


    うまく?
    ああ、いったいった。


    本当?


    その証拠に誰も来ない。
    見つかったら普通、叩き出されるからね。


    そうなんだ。


    そう。


    ……。


    …言い方は悪いけど。
    こういう子を宿に連れ込むのは大抵、良い顔されない。
    そういう場所でない限り、ね。


    …そういう場所。


    詳しくは言わない。


    …ん。


    ……。


    ねぇ、おいしい?


    …。


    ナディ、おいしいって。


    そ。
    なら、買ってきた甲斐、あったかな。


    …。


    …あ。


    ……。


    ナディ…。


    …。


    …ほら、泣かないの。
    折角のサルテーニャがしょっぱくなっても知らないわよ?


    …。


    ね?


    ……ぅ。


    よし、良い子。


    …やっぱり、優しい。


    うん?


    大好き。


    …何、急に。


    言いたくなったの。


    …あ、そ。
    ま、良いけど。


    ん、良いの。








    ……。


    うん?
    ああ、すっきりした?


    …。


    うん、きれいな顔。
    服は…エリスのでもさすがに大きいか。
    エリスも小さいけど、あんたはもっと小さい子供だもんね。


    …。


    ほんとはごはんより先の方が良かったんだろうけど…。


    …。


    て、こらこら。
    逃げなくても良いじゃない。


    ナディ。


    エリス、あんたが間違ったコト言うから。


    大丈夫だよ。
    ナディは誰よりも優しいから。


    …。


    ごはん、買ってきてくれたのはナディだよ。
    お金を出したのも。


    …。


    だから、怖がらなくて良いんだよ。


    …。


    それから、ナディ。


    あ?


    私はもう、小さくないよ。


    …。


    ないよ?


    …はいはい、ごめんなさい。


    うん、よろしい。


    やれやれ。
    良く洗ってあげた?


    うん。
    でも…。


    ん?


    …。


    エリス?


    この子の、体…。


    ああ。


    ナディ?


    それくらい、予想はついてた。
    あたしも生傷、絶えなかったから。


    …うん。


    まさか、とは思うけど。


    ううん、使ってない。


    なら、良いけど。


    …。


    エリス。


    …おいで。
    絵本、読んであげる。


    …?


    ナディ、これ読んで。


    て、あんたが読むんじゃないんかい。


    練習。


    は、なんの。


    この子の。


    ……。


    練習?


    …なんじゃそりゃあ。


    …、…?


    触ってみる?


    …。


    ここ。


    …ぁ。


    ここにね…私達の


    エーリース。


    …なに?


    読むんでしょ。
    おいで。


    いえっさ。


    たく…て、何してんの。


    寝転がるの。


    は?


    三人で。


    …ああ、はいはい。
    ベッドに寝っ転がれば良いのね。


    うん、良いの。


    …。


    おいで。
    …えーと。


    そういえばあんた、名前は?


    …。


    なぁに?


    …、……!


    …分からない。


    字は?


    ……。


    じゃ、一文字ずつゆっくりと言ってみて。


    …?


    例えば…この子はエリス。
    だから、エ、リ、ス。
    オーケイ?


    …!


    分かった?
    じゃあ、ゆっくりね。


    …、


    うん。


    …、


    …うん。


    …、


    ……。


    …!


    ナディ、分かった?


    うーん…。


    …ナディ?


    コ、イ、ユ、ル。


    …ッ!


    お、当たり?


    …ぅ。


    それは良かった。


    ナディ、すごい。


    いや、実はかなりあてずっぽう。
    考えてみればそんなうまくいくわけない。


    …。


    はは。


    …やっぱりナディはナディ。


    良いじゃない、分かったんだから。
    ねぇ、コイユル?


    …。


    でも…ちょっと驚いたけどね。


    驚く?


    コイユルは今の言葉じゃない。


    …昔の?


    教えたような覚えがあるんだけど。


    んー…。


    思い出せない?


    星?


    そう、正解。


    チャスカは明けの明星。


    そ。
    でもそっか、あんたは…。


    …。


    …あたしと、同じだ。


    ナディは月だったね。


    まぁ、ね。
    今はもう、違う名だけどね。


    うん。


    ……コイユル。


    ナディ?


    ん、なんでもない。
    じゃ絵本、読もっか。
    コイユル、おいで。


    …。


    おいで、コイユル。


    …ぅ!








    そして、オガライティは三つの厳しい試練を耐え抜いた。
    それを見届けた者達は誰もがオガライティが最も優秀な者だと述べた。
    オガライティはとても誇らしくなった…が。


    …。


    “オガライティ、私には娘がいるのは知っているな。
    お前は私の娘と一緒になり、そして、私が死んだらお前が族長になるのだ”


    …。


    すぐ後の族長の言葉を聞いて、オガライティは呆然とした。
    “僕は、僕の心はエイレテにあるのに!どうして、どうして族長の娘と一緒になんてなれるんだ…!!”


    …。


    オガライティは…


    ナディ。


    うん?


    コイユル、寝ちゃった。


    …。


    …そっか。


    可愛いね。


    …そうね。


    リリオを、思い出すね…。


    今度はリリオかい。


    ん?


    あたしに似てるって言ったくせに。


    …似てるよ。


    …。


    でも、寝顔はリリオ。


    …悪かったな、可愛くなくて。


    ナディは…。


    良いわよ、言わなくても。


    大きな、子供。


    …あ?


    ふふ。


    リリオだって大きくなったと思うけど。


    会った頃のリリオ、だから。


    あ、そ。


    うん、そうなの。


    …じゃ、今回はここまで。
    良いわね、エリス。


    私は最後まで聞いてるよ?


    じゃあ、聞く?


    うん。


    と思ったけど、コイユルが起きちゃうからやっぱりお仕舞い。


    どうしても?


    そもそもあたしはコイユルに読んでたんだし。


    …。


    あんたも疲れたでしょ。
    コイユルと一緒に昼寝でもしなさい。


    …疲れてないよ。


    躰はいつだって正直。
    また熱を出したらどうするの。


    平気なのに。


    あんたは平気でも。
    よ、と。


    …?
    ナディ。


    …この子が、お昼寝したいってさ。


    …。


    それとも寝かさないつもりなのかね?


    …でも、眠くないのに。


    我侭言うな。


    …ナディは、どうするの。


    我侭な子を寝かしつける為に、ここにいるわよ。


    …子供じゃないもん。


    子供なんて、言ってないじゃない。


    …もう、小さくないよ。


    知ってるって。


    …だから、ここに


    エリス。


    …。


    …分かってる。
    あんたは子供じゃないし…小さくもない。


    …ナディ。


    まぁ、躰は小さいけどね…。


    …。


    …不貞腐れないの。
    これでも心配して言ってるんだから。


    …心配なんて。


    この子は今よりもっと大きくなる…のに。
    あんたの躰が小さいままだったら…。


    …。


    ……大丈夫だと、信じてる。
    けど…あんたの躰はあの旅をしていた頃より、弱くなった。


    …。


    発熱は…この子が宿る前から、あったけど。
    この子が宿ってからは…多くなった。


    …。


    ちょっとした疲れ…躰への負荷で、熱を出す。
    だから…。


    ナディ…。


    …あまり、無理はしない。
    それにこれはあんただけの為じゃない…。


    …。


    約束、でしょ?


    …うん。


    まぁ、寝すぎでも疲れるんだけどね。


    …むずかしいね、人間って。


    でしょ?


    うん…ふふ。


    寝る…?


    …もう少し、お話してから。


    コイユル、起きちゃったらどうするんだ。


    …だから、もっと傍に来て。


    …。


    …こっち側。
    寝るまで、傍にいてくれるんでしょ…?


    …やれやれ。
    そういうことばかり、良く聞いてるんだからなぁ。


    ナディ。


    …はいはい。


    …。


    …こら、あまり引っ付かない。
    コイユルがいるでしょうが…。


    …寝てるから、良いの。
    それに…


    …それに?


    私はこうした方が良く眠れるの、ナディは知ってるハズだから。


    …。


    知ってるでしょ…?


    …知ってるよ。
    だから…手に負えない。


    …ねぇ、ナディ。


    …ん。


    コイユルも…疲れてたんだね。


    …。


    お腹いっぱいになって…きれいになって。
    お話を読んでもらって…。


    …多分、初めてだと思う。


    …。


    お腹はいつもぺこぺこで。
    いつも、うす汚くて。
    お話を読んでくれる人も…自分で読むことも、出来ない。
    誰も、教えてくれないから。


    …ナディは。


    うん…?


    字、どうやって覚えたの…?


    …。


    …北の言葉も。


    ……。


    結果論って、言ってたから。


    …相変わらず、良く覚えてるなぁ。


    誰か、教えてくれたの?


    ……それがさ。


    うん…。


    知らないのよ。


    …覚えてない?


    それが正しいかもしれない。
    思い出した事はあるけど、曖昧な部分は未だに残ってるから。


    …。


    思い出そうとしても…そこだけ、思い出せない。


    …そこだけ。


    思い出せないって思うことは、そこに何かしらの記憶があるからだと思うんだけど。


    …そっか。


    言っとくけど、覗かないでよね…?


    …のぞかないよ。


    なら、良いけど。


    …それに、見えなかったから。


    ん?


    …なんでもない。


    …。


    …。


    …まぁ、いいや。
    ねぇ、エリス。


    ん…。


    …どうしたい?


    どう…?


    コイユル。


    …。


    一緒には、連れていけない。
    あたしがあんたにそう言ったのは…


    …覚えてるよ。


    …。


    覚えてる…。


    …そう。


    どうしたらいいか…分からない。


    …。


    …ごめんね、ナディ。


    …なにが?


    ……わがまま、言って。


    今に始まったことじゃない…。


    …。


    …あんたは、やっぱり子供みたいね。


    …。


    面倒な事は考えない…損得だって、ない。
    ただこの子に何かしてあげたい、ただ、それだけ…。


    …。


    …そういうところ、愛しい。


    …ほんとう?


    なにが…?


    いやじゃない…?


    …ばぁか。


    …。


    二度も言わせんな…。


    …いじわる。


    なんだとぅ…?


    …えへへ。


    …。


    …でも。
    それは、ナディも一緒だと思う…。


    あたしも…?


    …ウィニャイマルカ、一緒に行ってくれたから。


    …。


    ずっと、守ってくれて…今も、守ってくれてるから。


    …エリス。


    だから…ナディも子供みたい。


    …。


    …ふふ。


    たく、もう…。


    …愛しい。


    …。


    そういうところも…。


    …ありがと。


    わたしも…ありがとう。


    …。


    …。


    …どうしたい?
    エリス。


    わたしは…。


    …。


    この子に…しあわせになってほしい。


    …。


    …私達みたいに。


    それはまた、難しいなぁ…。


    ……。


    …でも、あんたの影響かな。
    あたしもそう思えてきた。


    …ほんとう?


    うん、本当。


    …よかった。


    ……嬉しい?


    うん…うれしい。


    それは…良かった。


    ん……。


    眠くなってきた…?


    ……ん。


    おやすみ…エリス。
    あんたが眠っても、あたしはちゃんとここにいるから。


    いて…ちゃんと。


    だから、二度も言わせんなって…。


    ……ふふ、ごめん。








    ...cuatro