………。


   …ジャ。


   う……。


   ……ャ。


   …。


   ……。


   ……ここ、は。


   ……。


   う、ぐ…ッ?


   ……この、ねぼすけ。


   ぐ、ぅぅうぅ…


   ……。


   …、…ァ…。


   …苦しいか。


   ……。


   けど、こんなのは苦しみのうちに入らない。


   …ぁ…、ぁ、ぁ……。


   何故、お前だった。


   …。


   何故、お前は殺されなかった。


   …ぅ…、…っ。


   何故、我らは焼かれなければならなかった…ッ!


   …ぁ…。


   ……。


   ……はぁ。


   ……。


   …げほッ、はぁ…げほッ、げほッ。
   ぜぇ…ぜぇ……。


   生きたまま炎に喰われる。
   肉が焼けていく臭い。
   為す術も無く。


   ……ぜぇ…は、げほッ、はっ…。


   絶叫、声無き悲鳴。
   黒く残った人だったもの。


   …やめ、て。


   年老いた者、力溢れる者、子を宿した者、小さき命、お前を除く全ての者。


   ……い、や。


   何故、お前だった。


   ……。


   何故、お前が選ばれた。


   ……ちが、う。


   何故。


   あたし、は…!


   ……。


   …えらばれてなんか、いない。
   えらばれたくなんか、ない…!


   ……。


   どうして、あたしだけ…どうして、あたしだけが!


   …だったら。


   あ…。





   そ  の  命  、 寄  越  せ  。





   あ、ぁ…。


   ……。


   か、かあさん…。


   ……。


   とう、さん…。


   ……。


   にいさん…。


   ……いらないんだろ。


   み、みんな……。


   だったら、


   あ、あぁ…。


   わたしに、


   ぼくに、


   おれに、


   い、いやだ…こない、で…。


   よこせ。


   ちょうだいよ。


   いらないんだろ。


   えらばれたくなんか、ないんでしょ。


   あ、ぁあぁ…!


   だったら、


   おまえが、しねよ。


   あんたが、しねばよかった。


   どうして、おまえだけ。


   どうして、わたしがしななければいけなかったの。


   やだ、来るな…来ないでぇ!!


   さぁ、


   さぁ、


   さぁ、


   さぁ、


   あぁぁぁぁぁああああ………!!!


   …にがさない。


   にがさない。


   にがさない。


   たすけて。


   たすけてよ。


   くるしい。


   あついよ。


   のどが、かわいた。


   からだが、やけていくよ。


   ねぇ、


   ねぇ、


   ねぇ…。








  Traumfresser. 
-夢喰い








   はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。


   ……。


   あ、あぁ……。


   ……どうしたの。


   あ…。


   ねぇ、どうしたの…。


   い、いやぁぁ…!


   ……。


   …あ、あぁ。


   こわいの…?


   …。


   こわいんだね…。


   …み、んなが。


   ……。


   村のみんなが、あたしを…。


   …。


   …赦してくれないのは、分かってる。
   でも、でも……。


   …だれも、たすけてくれない。


   ……。


   けっきょく、あなたはあなたがだいじなんだよ…。


   …違う!
   あたしは、あたしは…。


   …わたしが、たすけてあげる。


   え……。


   …ほら、きたよ。


   …ッ!


   あれらはあなたのいのちが、ほしいの。
   ひとり、いきのこったあなたのいのちがうらやましいの。


   好きで生き残ったんじゃない…っ!


   ……。


   …あ。


   だから。


   ……ちがう。
   ちがう、ちがう、ちがう…。


   …だいじょうぶだよ、ナディ。


   ぁ……。


   …わたしが、まもってあげる。


   エリ、す…。


   …わたしが、あのひとたちから。


   ……。


   そう、わたしがあなたを。


   ……う、ん。


   …め、とじてて。


   ……。


   それから、みみも…。


   ……。


   …そう、いいこ。


   ……エリス。


   ナディ……。





   まじょ…おまえが…また、おまえが…。





   …そう。
   わたしは、まじょだから…。


   それは、わたさない。


   わたせ。


   よこせ。


   かえせ。


   かわいい、わたしたちのこども。


   かえせ。


   かえして。


   ひとつのいのちを。


   わたしたちのきぼうを。


   ナディは、わたしだけのひとだから。


   かえせ、


   かえせ、


   かえ


   ごめんね。





   ……ブツ。





   ……あぁァァ。


   アァァァァァァ…ッ。


   アァ、ガァァァァァァ…ッ!


   モエ、ル…モエテイク……ッ。


   アツ、ィ…。


   イタイ…。


   クルシイ……。


   …イヤダ、シニタクナイ。


   タスケテ…タスケテヨォォォォ…。


   アァァァァァ……。





   ……うぅ、うぅぅぅ。





   ナディ…。


   …いや、いやぁぁ。


   ……だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。


   やめて、みんなをたすけて…。


   ……。


   あぁぁ…あぁぁああ……。


   ……あと、もうすこしでおわるから。


   …あ、…あぁぁ…、


   ……だから、








   ……ッ!


   ………ナディ。


   …はぁ。
   はぁ、はぁ、はぁ、っ、…はぁ…はぁ。


   ……。


   …うっ。


   ……。


   …ッ、…ぇ…ッ!!


   ……。


   …はぁ、はぁ、はぁ…。


   …ナディ。


   さわる、な…。


   ……。


   …きたな、はぁ、いから。


   ……なく、ない。


   う…っ。


   ……。


   ………はぁ、はぁ、はぁ。


   ナディ……。


   ……さわらない、で。


   …。


   ……。


   …ごめんね。


   ……。


   ごめんなさい…。


   ……。


   …でも、さわらせて。
   さわりたいの…。


   ……。


   …ナディ。


   はぁ……。


   もう、こわくない…。


   …。


   …こわいゆめはもう、おわったから。


   …ッ!


   あ…。


   ……。


   ナディ……。


   ……はぁ……はぁぁ…。


   ……。


   ……。


   …いいよ。


   ……。


   わたしを、たべて……。








  Gefrorene Flamme. 
-凍てついた炎








   ……。


   …ナディ。


   ……。


   ナディ……。


   ……。


   ナディ…ナディ…。


   ……、で。


   …。


   …呼ばないで。


   ……。


   …また、おかしくなりそうだから。


   ……。


   …あんたに名前を呼ばれると。
   あたしは、あたしでいられなくなる…。


   ……。


   …ちがう。
   もう、あたしは……。


   ……ナディ。


   ……。


   ナディ…。


   …おねがい、いまだけは。


   ……。


   …また、たもてなくなる。
   また、さっきみたいに…。


   …。


   さっきだけじゃない…。
   いままで、なんども、そうやってあんたを…。


   …いいよ。


   ……。


   さっきみたいに、なって…。


   …いやだ。


   ……。


   あんな、の……。


   …だって、あれも。


   ……。


   あなた、なんだよ…。


   …ちがう。
   あんなの、あたしじゃ…


   ううん、ちがわない…。


   …。


   …あれが、あなたなんだよ。


   ちがう、ちがう…。


   …ずっと、あなたはあなたをとじこめてきた。
   とじこめて、いつわりのあなたを…ちがう、いまとなってはそれもあなたなんだよね…。


   あたしは、あたしは……。


   …でもね、ナディ。
   いつまでも、とじこめてなんかおけないの…。


   …やめ、て。


   だって……。


   …あたしに、やさしくしないで。


   あなたは、わたしをみつけてしまったから…。


   ……う。


   わたしは、あなたをすきになってしまったから…。


   …あ、たシ、は。


   ……わたしは、あなたをはなすことなんてできない。
   もう、にどと…。


   ……。


   ねぇ…。


   ……。


   …すきだよ。
   だいすき…。


   …。


   だから…いいの。


   …エ、リ…ス。


   たもたなくて、いい……。


   ……。


   …あなたに、もとめられる。
   それが、わたしはうれしいの…。


   もとめ、る…。


   …うれしいの。


   ちがう、そんなんじゃない…。


   …じゃあ、なぁに?


   ちがう、ちがう…。


   …なにが、ちがうの。


   う、うぅ……。


   …ナディ。


   ……。


   …どんなりゆうでも。
   りゆうさえ、なくたっていい…。


   ……う。


   あなたが、わたしをもとめてくれるなら。


   ……。


   …だから。


   う、うぅぅ……。


   ……ねぇ、ひとりで。


   …。


   ひとりで、ねむらないで…。


   …。


   …いつも、ひとりでまるくなっているあなた。


   …。


   こんなにちかくにいるのに、いつもひとりで…。


   ……。


   …ねぇ、わたしをいれて。
   あなたのなかに…。


   ……エリ、ス。


   あなたのこころのなかに、ほんのわずかでもいい……わたしを、おいて。


   エリ、ん…。


   ……。


   ……エリス。


   どんなあなたでも、あいしてるの…。


   ……。


   …あいして、いるの。


   ……。


   ナディ……。


   ……こわい、こわいよ。


   うん……。


   …ゆめを、みる。
   また、あのゆめを…。


   ……。


   …みんなのこえが、においが、はなれない。
   きえて、くれないよ…。


   …うん。


   エリス、エリス……。


   …ナディ。


   あ、あぁぁ……。


   …わたしが、まもってあげる。


   …。


   …なんどだって、あなたをまもってあげる。


   ……。


   そう、なんどでも…わたしは。







  Zeitfresser 
-時喰い








   ……。


   ……。


   ……あたしは。


   …。


   …いきていちゃ、いけなかったのかな。


   ……。


   …いっしょに、しねばよかった。


   ……。


   …あたしには、なにもないのに。
   ひとをころして、いみもなく、いきて……。


   …あるよ。


   …。


   いまは、あるよ…。


   …エリス。


   あるってかんじて、ナディ……。


   エリス……。


   …ん。


   ……。


   …もっと、すって。
   もっと、もっと…。


   …。


   ……いま、ナディはあかちゃんだから。


   ……。


   ここがナディのいばしょ……。


   ……。


   …ここだけが、ナディのいるべきばしょ。


   …。


   ……あ、ん。


   はぁ……。


   …つよくかんじゃ、だめ。


   ……。


   …そう、いいこ。


   ……。


   ナディ…。


   …。


   ……。


   ………。


   …ナディ?
   ねむったの…?


   ……。


   …このままずっと、わたしのなかにいてね。


   ……。


   ……。


   …エリ…ス…。


   ……ほんとう、は。


   ん……。


   …なかった、いのち。


   ……。


   あのばしょで、うしなわれていたハズのいのち…。


   ……。


   …ねぇ、ナディ。
   あなたは、しらない…。


   …。


   …ここじゃない、せかい。
   そこにはあなたとわたしのこどもがいて…。


   ……。


   …こどもがほしいってなんどもねだっては、あなたをたくさんこまらせた。
   でも、あなたはかなえてくれたの…。


   …。


   …うれしいって、いってくれたんだよ。
   わたし、しんでもいいっておもってしまうくらい、うれしかった…。


   ……。


   …でも、あなたはやっぱりなやんで。
   ひとりできめて、ひとりでがまんして…そんなあなたが、わたしはたまらなくいとしかったの。


   ……。


   …ほかのせかいではね。


   ……。


   あなたは、わたしを……いっぱい、あいしてくれるの。
   はずかしがるわたしを、なんどでもほしいっていって…。


   ……。


   …そのせかいのあなたは、あんまり、なやまないみたい。
   あなたとは、せいはんたいだね…。


   ……。


   …こどもも。
   ひとりじゃ、たりないって…。


   ……。


   …じぶんのからだのこと、かんがえないで。
   わたしのこと、なんどもだいて。
   わたし、なんどもあなたのこと、うけとめて…。


   ……。


   …あなたを、うけとめるたび。
   あなたのいのちをかんじるたび…。


   ……。


   …どのせかいのわたしも、ひどく、しあわせをかんじてた。
   しあわせで、どうかなってしまうくらい…ううん、とっくになってた。


   ……。


   …でもね、ナディ。
   いまのわたしは、あなたがすき…。


   ……。


   …どんなあなたでも、わたしはあなたをすきになる。
   あなたがほしくて、じぶんを、おさえきれなくなる…。


   ……。


   …そのせいで。
   ほんとうのことを、かえてしまったとしても…。


   ……。


   ねぇ、このせかいのあなたはこどもをのぞんでくれる…?


   …。


   ……わたしはまた、あなたのこどもをうみたい。


   ……。


   なんどだって…うみたいよ、ナディ。


   ……エリス。


   ……。


   …あんたは。


   ……。


   ……あんたが、むらをやいたの。


   ナディ……。


   …あんたが、ころしたの。


   ……。


   …なにか、いってよ。


   ……。


   あたしは…ほんとうはあのばしょで、しんでいたの。


   ……。


   …どうして、しなせてくれなかったの。


   できない。


   …どうして。
   そしたら…


   …そうしたら、このせかいのわたしはあなたにあえない。


   ……。


   そんなせかい、いや…。


   …それだけで。


   ……。


   そんなことのためだけに、あんたはあたしをいかしたの…。


   …。


   …あんたは、魔女だから。
   あたしには理解できないちからを、あんたはもっているから。


   ……。


   …あのとき、しんでいたら。


   ……。


   ……。


   …やだ、はなれないで。


   ……。


   はなれないで、ナディ…。


   …いまさら、はなれられない。


   ……。


   そうさせたのはエリス、あんただから…。


   ……。


   …だから。


   あ……。


   ……あたしは、あんたを。


   ……。


   …こわして、やりたい。


   ……。


   あんたを、ほかのあたしになんか、やらない。


   ……。


   …やるくらいなら、ころしてやる。


   ……あぁ。


   ……。


   …それで、いい。
   わたしを、あいしてくれるなら…。


   …。


   …ほかのせかいのわたしは、わたしじゃない。
   それでも、わたしはわたしだから…。


   …。


   ……なんどでも、ころして。


   …どうか、してる。


   あなたが、わたしをみつけてしまったときから…。


   …でも、ほんとうはあのときに。
   あんたは、あたしを…。


   …。


   …そうなんでしょう、エリス。


   ……いつのきおくか、わからない。


   …。


   でも、わたしは…つくられたときにはもう、あなたをしっていた…それだけ。


   …だから、かえた。


   ……。


   ……。


   …あなたのだいじなもの。


   …。


   …なんどだってこわして、わたしはあなたをてにいれる。
   わたしがいなくては、いきていけないようにして…。


   …エリス。


   だって、わたしがそうだから……。


   ……。


   だから…あ。


   ……。


   …ナ、ディ。








  Häftlinge des Schick 
-運命に囚われし者たち








   ……もしも。


   …。


   …もしもあの時、あたしが死んでいたら。


   しなせない。


   …。


   ん、あ…ッ。


   ……もしもって、言ってる。


   ……。


   …もしも、死んでいたら。
   あんたは、どうなっていたの。


   …。


   ……曰く、ほかにも世界があるのなら。
   そういう世界もあることになる。


   …そのせかいに。


   …。


   わたしは、いない。


   …いない?


   つくられて、いない。


   ……。


   …つくられていたとしても。
   それは、わたしじゃない。


   …どうして


   ちがうの。


   …。


   …わたしはあなたとであうことで、わたしになれる、なれたから。
   わたしとしてつくられたとしても、それはわたしにはなれない。


   …意味が分からない。


   ……。


   ……。


   …ナ、ディ。


   ……。


   ん、ぁ…ん、ん。


   …エリス。


   そ、う…。


   ……。


   …わたしは、あなたとあうためにつくられた。


   ……。


   あなたをまもって…あなたに、あいしてもらうため。


   …だれに。


   …。


   だれに、造られたの。


   ……。


   …下衆なヤツらってのは、知ってる。
   でもじゃあだれから、造られたの。


   ……まじょ。


   ……。


   …ひとりの、まじょ。
   それは…。


   ……それは。


   あなたの……ははおや。


   …あたしの?


   それが、すべてのはじまりだった…。


   …。


   …。


   …は。


   ……。


   あたしの母親?
   そんなわけ、


   …ないって、いえる?


   ……。


   あなたのきおく、それはほんもの…?


   …く。


   …それがほんものだったとして。
   それは、ほんとうにあなたのおかあさんだった…?


   ……本当、の。


   …あなたを、うんでくれた?


   ……。


   …あなたは、しらないだけ。


   ……。


   …。


   …あんたは、知ってるの。


   わたしのなかにいる、だれか…。


   …。


   …いつも、ないているの。


   それが、あたしの母親だって言いたいの。


   ……。


   …もしも、そうなら。
   あたしたちは…。


   ……。


   …なに、それ。


   ……。


   なによ、それ……。


   …。


   …それが本当だとしたら。
   じゃあ、あたしとあんたの子供はどうなるのよ。


   ……。


   教えてよ、エリス…。


   ……わからない。


   …。


   わたしはまだ、うんでいないから。


   …だから。


   ……。


   あたしにあんたを、孕ませろと。


   …して、くれたら。
   うれしい…。


   ……できるわけ、ない。


   ……。


   …そんなこと、聞かされて。
   できるわけ、ない。


   ……。


   …だって、その話が本当なら。
   あたしとあんたは…。


   ……あなたのははおやの、まじょは。


   ……。


   ひとりのひとを、あいした。


   …。


   …あいして、あいして。
   そのひとのこどもをのぞんだの。


   …それが、あたしだと。


   おきてに、そむいた…ううん、はむかった。


   ……。


   …まじょたちのちは、とても、こくなっていたから。
   あたらしいちを、いれるべきだったんだって…。


   …。


   …でもそのまじょがえらんだひとは、おんなのひとだった。


   …。


   ……だから、まじょのちからをつかった。
   つかってはいけないちから、せいぶつのこんげんをくつがえすちからをつかって、まじわった…。


   ……。


   …そして、あなたがうまれた。
   みじかいあいだだったけど、まじょはしあわせだった…。


   ………。


   そして…わたしがつくられた。


   …あたしの母親の一部を使って。


   ……。


   ……。


   ……ナディ。


   ……。


   …わたしは、あなたの


   やめてよ。


   …。


   …そんなの、信じられるわけない。


   ……。


   あたしが、あんたと…。


   …そのまじょは、じぶんがいるべきところへかえらなければいけなかった。
   うまれたこどもをいとしいひとにあずけて。


   ……。


   …まじょの、せかいのことわりをやぶった、まじょ。


   ……。


   たったひとりのまじょのために、くずしてはいけないきんこうがこわれてしまった。
   そとをめざし、むらをでていくものがあらわれた。


   ……。


   …でもみんながみんな、あなたをうんだまじょのようになれたわけじゃないの。


   ……どういうこと。


   プロジェクト、リヴァイアサン。


   …。


   …そとにでた“ただのまじょ”は、ちからがよわまっていく。
   でも、かんたんなちからはつかえたから。


   …。


   ……つかまえられて、じっけんされて、おかされて。
   からだのいちぶをなんどもなんどもきられて、とりだされて、さいごにはきがふれてしんだ…。


   …。


   ……そのひとつが、わたしになった。


   ……。


   ちが、こかったから…だから。


   ……ついて、いけない。


   …。


   わけが、分からない…。


   ……うん。


   ……。


   ……。


   ……。


   …わたし、だけ。


   …?


   わたしだけが、それをしってるの…。


   …。


   ほかのせかいのわたしたちは、そのことをしらない…。


   …。


   …しらないのに、わたしにみせつけるの。
   あなたとまじわるしあわせ、を…。


   …。


   …どうして、わたしだけなんだろう。


   ……。


   どうして、わたしだけ…。


   …あんたの中には。


   あ……。


   何人の、あんたがいるの。


   ……。


   …そのせいで、あんたは。


   ナディ……。


   …そのせいで、あたしが生かされて。


   ……。


   ……。


   …あなたは、このせかいにいてはいけないひと。


   ……。


   でも、わたしはつくられた…このせかい、に。


   ……。


   ……ナディ。


   ……。


   まじわりたい…。


   …。


   …あなたと、ひとつになりたい。


   ……。


   そのために、わたしは……。








  Flüchtiges Gedächtnis 
-うたかたの想い








   キジャ。


   …あ、母さん。


   こんな村の外れで、何をしているの?


   空。


   空?


   見てた。


   そう。
   さぁ、下りてらっしゃい。


   もう少しここにいるよ。


   だめ。


   む。


   おばあちゃんが生きていたら、怒られてるわよ?


   …むー。


   さぁ、ナディ。


   …はーい。


   気をつけてね。


   うん。


   ……。


   しょ、しょ。


   ふふ、男の子みたいね。
   いっそ、男の子の方が良かったかしら?


   それ、前にも聞いたよ。
   兄さんにも弟がよかったって言われるし。


   でも、お父さんは貴女が女の子で良かったって言ってるでしょう?


   父さんはね。


   父さんだけじゃないわよ。
   顔、汚れているわ。


   ん…。


   おばあちゃん…私のお母さんも。


   ……。


   勿論、私も。
   女の子は可愛いもの。


   男の子も、でしょ。


   ええ、子供は皆可愛いわ。
   然う、みんな…。


   …?
   母さん…?


   ……。


   どうしたの?
   また、胸が痛むの?


   …ううん、大丈夫よ。


   父さん、呼んでくるよ。


   大丈夫だから、キジャ。


   本当に大丈夫なの。


   ええ…大丈夫。
   さぁ、帰りましょうか。


   うん。


   ……。


   …何?


   手、繋いで帰りましょう?


   ええ、いいよ。
   もう子供じゃない。


   いいえ、子供よ。
   然う、私の。


   いいって。


   キジャ。


   …うぅ、分かったよ。


   うん、良い子ね。


   …母さんがどうしてもって言うから。


   そうね。


   ……。


   …ねぇ、キジャ。


   なに。


   おばあちゃんが私を拾ってくれた話、


   聞いたよ。
   血が繋がってないって。


   そう、私とお母さんは本当の親子じゃない…。


   でも親子なんでしょ。


   うん、然うなの。


   母さん、ばあちゃんに似てるよね。


   そうかしら?


   言い出したら、絶対曲げない。


   それって頑固って事かしら。


   父さんが言ってた。


   まぁ。


   母さんの名前も昔の言葉なんだよね。


   ええ、然うよ。
   お母さんがつけてくれたの。


   わたしのも。


   …。


   …?
   母さん?


   …貴女は、お母さんに良く似ているわ。


   わ…。


   然う、私よりも…私達よりも、ずっと。


   母さん、どうしたの。


   ……忘れないで、キジャ。


   う、うん。


   …血の繋がりなんか無くたって。
   親子に、家族になれる事を…。


   …うん。


   なって、いた事を…。


   ……。


   貴女がこの先、真実を知ったとしても。
   どうか忘れないで、覚えていて。


   しんじつ…?


   ……本当は私が話してあげるべきなのに。


   母さん、何を言っているの?
   良く分からないよ。


   …ええ、然うね。
   変だったわね。


   変、じゃないけど…。


   …さぁ、帰りましょう。
   今日はキジャ、貴女の好きな…


   あ…。


   え?


   む、村が…


   …。


   母さん、村が…。


   ……あぁ。


   母さんはここにいて。


   キジャ。


   父さんに知らせて、それから


   駄目よ。


   …え。


   駄目、なの。


   母さん、何を


   あそこに行ったら、貴女は死んでしまうから。


   え…。


   …今日、貴女は。


   何を言っているの…。


   ……。


   母さん、離して。
   村が


   私には、出来ない。


   あ。


   キジャ、行って。
   村の反対へ。
   貴女の足なら、間に合うわ。


   か


   村には、行ってはいけない。
   魔女が、貴女を探しているから。


   まじょ?
   まじょってなに、母さん。


   さぁ、行きなさい。


   いやだ!


   …。


   母さん、


   行きなさい、キジャ!


   …あ。


   …お願い。
   行って、生きて。


   ……。


   お母さん、キジャは…私の子です。
   だから…渡せません。


   …。


   何をしているの。
   行きなさい。


   …やだ。


   ……もう、子供ではないのでしょう?


   ……。


   大丈夫、大丈夫よ。
   生きていれば…きっと。


   ……。


   …さぁ、キジャ。





   み つ け た 。





   …!


   あ…。


   やっと…やっと、みつけた。
   やっと、このひがきてくれた…。


   キジャ!


   か、母さん…。


   渡さない、渡さないわ…!


   そこを、どいて。


   嫌よ。


   どいて。


   退かないわ。


   …どうしても、どかないの。


   然うよ。
   この子は私の子供だから、子供を守るのが親だから。


   ……。


   …キジャ、前に出てきちゃ駄目よ。
   絶対に、駄目よ。


   母さん、でも


   どかないと、しんじゃうよ。


   私はね。
   でも、この子は死なせないわ。
   絶対に。


   ううん、しんじゃうよ。
   ほのおが、もうすぐ、ここにもくるから。


   いいえ、死なせないわ。
   私が死なせない。


   むりだよ。
   まじょのちからだから。


   無理だろうが、知らないわ。


   ……。


   魔女、貴女には。
   キジャは渡さない。


   …わたしのこと、しってるの?


   ええ。


   …どうして。


   私の、もう一人の育ての母が魔女だったから。


   ……あぁ。


   だから、この日が来る事は


   あれは、わたしじゃないよ。


   …。


   あれはわたしじゃない。


   ……そうだとしても。


   そして、このせかいのナディはしぬことがきまってた。
   わたしが、いなければ。


   ……。


   あなたのせいで、ナディはしんじゃうから。


   …私の、せい?


   だから、ナディをわたしにわたして。
   はやく。


   ……。


   …わたしてくれないなら。


   ……どうして、私が。


   あなたをまもって、ナディはしんじゃう。
   だから。


   私、を…。


   はやく。


   ……。


   わたさないのなら、


   約束、して。


   やくそく…。


   …必ず、必ずこの子を守って。
   何があっても。


   ……。


   貴女がこの子を、愛してくれているのなら。
   貴女がこの子の家族になってくれるのなら…


   …。


   …貴女も、私の子供になるから。


   …ちがうよ。
   わたしは


   いいえ、然うよ。
   然う、決めたの。


   ……。


   …親は子供の仕合わせを願う者。
   ならば。


   ……。


   最期にひとつだけ教えて。
   貴女の名前は?


   …いまはまだ、ない。


   然う…じゃあ。


   ……。


   エリス。


   …エリス。


   私の、もう一人のお母さんの名前。
   そこからちょっとだけ貰って。


   ……やっぱり、わたしは。


   エリス。


   ……。


   キジャを…どうか、キジャをお願いね。








  Das Gebet von Drachen 
-龍の祈り








   ...Die letzte Hälfte