エリスの熱が、下がらない。








   …ふ。


   …。


   ……。


   エリス。


   (な、でぃ…)


   …目、覚めた?


   ん…。


   …タオル、温くなっちゃったね。


   …ん。


   …。


   …よ、と。
   どう?


   (つめた、い…)


   …そっか、良かった。


   …。


   水も新しくしないと…。


   …。


   ……熱い。


   はぁ…。


   エリス…。


   …。


   ……エリス。


   …、ぃ。


   うん、なに…?


   (さわっ、て…)


   …。


   (…さ、わ、っ、て)


   …うん。


   ……はぁ。


   …。


   (…だい…じょう、ぶ)


   …!


   …か、ら…。


   エリス…エリス…。





   感情を抑え切れない。
   もしも、このまま熱が下がらなかったら。
   もしも、もしも。





   (な、でぃ…)


   …エリ、ス。


   ……。


   …ごめん。
   あんたの方が、辛いのに…。


   …ん。


   ずっと、つらいのに……。


   ……。


   …なのに。


   …。


   ごめん……止まりそうに、ない。


   ……






   涙が溢れて止まらない。
   エリスを失ってしまうこと。
   それが怖い。怖くて仕方がない。





   ……。


   (…の、ど)


   …え。


   (か、わ、い、た…)


   のど…かわいた…あ。


   …。


   ご、ごめん、エリス。
   今


   …



   エリス…?


   (……の、ま、せ、て)


   の、ま、せ、て…?


   ん…。


   …。


   …?


   …良いよ。
   水で良い?


   …。


   …分かった。
   待ってて。


   ……。


   …。


   ん……。


   ……。


   ……。


   …もっと飲む?


   
ー…。


   いらない?


   ……。


   ありがとう、は?


   …?


   …なんでって顔して。
   しょーがないなぁ。


   (…な、でぃ、も)


   なんだとぅ?


   …。


   …エリス?


   ……、……。


   なに…?


   (…い、い、こ)


   ……。


   はぁ……。


   …エリ…ス。


   (…そ、ば、に)


   いるよ。
   離れない。


   ……ん。


   ずっとエリスの傍にいる。
   ずっと。


   (…め)


   え。


   (ご、は、ん…)


   …。





   高熱で、声も失って。
   本当に苦しいのはあなたなのに。
   なのに、あなたは。





   (く、い、し、ん、ぼ…)


   …。


   な……ぃ。


   …ばか。
   あたしなんかの心配より、自分の心配しろ…。


   (う、う、ん…)


   ……だったら。


   …。


   早く、元気になってよ。


   …。


   …ごはん、作ってよ。
   あたしはもう、あんたのごはんじゃないと駄目なの、知ってるでしょ…。


   ……ん。


   エリス…。


   …。


   …あんたの声が、聞きたい。


   …。


   あたしを好きって、言ってよ…。


   (…す、き)


   …。


   (だ、い、す、き…)


   …。


   (……な、か、な…ぃ、で)


   ……あたし、を。


   …。


   あたしを、一人にしないで…。


   …。


   あんたがいない、と……。


   …。


   ……エリス。





   あなたがいなければ、こんな世界、意味なんてないのに。








   だって、例えば。
   私がいなくなる時に、一緒にいなくなって欲しいだなんて。
   言えるはずないのに。





   …。


   は…は…。


   …解熱剤、栄養剤……なんでも良いから、効いてよ。


   …はぁ。


   ……なんでも良いから、エリスを助けてよ。


   ……。


   エリスを…あたしから、奪わないでよ。





   …あなたの声が遠い、遠くなる、聞こえない。
   一言だって、聞き逃したくないのに。
   あなたのすべてを、離したくないのに。





   ……。


   ……そうだ、ごはん。


   …。


   ごはん、食べないと…エリスが、心配する。


   …。


   ……でも、エリス。


   …ぅ。


   おなか、すかないのよ…。


   …。


   ねぇ、くいしんぼのあたしがよ?
   食欲がね、全然ないの…。


   ……はぁ。


   ねぇ、おかしいでしょ…?


   …。


   ……ねぇ、おかしいねって言って。


   …。


   ねぇ…ねぇ、エリス…。





   …太陽のように。
   大地のように。
   そして、空のように輝く瞳を持っているあなたが好き。





   ……。


   う…うぅ……。


   (……な、か…な…ぃ…で)


   …。


   (……な、でぃ)





   …もしも私がいなくなっても、泣かないで。
   泣くよりも、私と一緒に来て。
   他の誰かとなんて、幸せにならないで。





   ……。


   (……あぁ)


   エリス……?


   (……わ、た、し、は)


   …大丈夫。
   きっと、熱は下がる…下がるよ…。


   (……わるい、まじょ…だから)


   …エリス?


   (な、でぃ…)


   …なに。


   (…よ、ん、で)


   エリス。


   ……。


   何度だって。
   もういい、いやだって言われても、何度だって呼んであげる。
   だから…。


   (……こえ、を、あげ…て)


   え…。


   (わ、た、し、だ…け、を…)


   エリス、なに…?
   分からないよ。


   ……。


   エリス…?


   あ……ぃ。


   …あ。


   あ…ぅ……ぁ。


   エリス、エリス。


   はっ…はっ、…はぁ…。


   エリス…!


   ……、ぃ。


   …ばか。
   なに考えてんだ…。


   …。


   まだ起き上がれるハズ、ないのに……。


   (……だ…ぃ……て)


   ……そんな、の。


   はぁ……。


   ……こんな時に笑うな、ばか。





   あなたの中が、わたしの還る場所。
   ふたりが、わたしたちの世界。
   それ以外の意味なんて、持たせないで。








   奇跡、と言うものがあるのなら。





   ……。


   …あ。


   ……。


   エーリース。


   …?


   なに、じゃない。
   まだ起きてちゃだめでしょーが。


   …。


   大丈夫、じゃない。


   …。


   …ほら、まだ少し熱い。


   …。


   笑ってごまかすな。


   …。


   あ、ごまかしてない?
   このやろ。


   …。


   とにかく、まだ寝てる。
   今は良くても、夜になったら分からないでしょ。


   …?


   熱ってのは昼間より夜に出るもんだから。
   だから油断出来ない。


   …。


   知ってる?
   だったら…


   …。


   …え、なに。


   …。


   あー……。


   ……。


   でもあの時は…。


   ……。


   …あんたのせいじゃないから。
   あれはあたしが…。


   …。


   …それに今は。
   傷、出来た時はちゃんとあんたに見てもらってるから…。


   …。


   …。


   …あたしの事は良いから。
   寝なさいって。


   …。


   つまんない、じゃないから。


   …。


   寝ないと…薬、飲ませちゃうわよ?


   ……。


   そう、あの苦い薬。


   …。


   あれ、本当に苦いわよねぇ。


   ……。


   …なに。


   ……。


   …なに、にやにやしてんのよ。


   …。


   いや、だって、あんたが…。


   …。


   ……だからしょうがなく、だな。


   …?


   …ああ、もう。
   そうよ、しょうがないなんて思って…


   …。


   …エリス。


   ……。


   …このあまえんぼめ。


   ……ぃ、…?


   …うっせ。
   分かってるから、言うな。


   …。


   …。


   …。


   …声、早く戻れば良いのに。


   …。


   …そりゃ、少しは分かるけど。
   でも…


   …。


   …あんたの声が、聞きたい。


   ぅ……。


   …だからって無理はしない。


   …。


   ……でも、良かった。


   …。


   本当に、良かった…。


   …。


   …ん。


   ……。


   …泣いてなんか、ないわよ。


   …。


   ……もう、泣いてない。
   だって…。








   『貴女が掛けてくるなんて、珍しいわね。携帯、持たせてると言うのに。』


   …。


   『まぁ良いわ。時間の事も問わない。それでエリスは?元気?』


   …。


   『…ナディ?』


   …。


   『どうしたの?』


   ……ブルーアイズ。


   『うん?』


   あたしの命をエリスに返すには、どうすれば良いの。


   『…え?』


   教えて。


   『…何を言っているの、ナディ。』


   良いから、教えてよ。


   『…エリスがどうかしたの?』


   どうでも良いでしょ。
   早く教えてよ。


   『……』


   ブルーアイズ。


   『…それ、本気で言っているの。』


   言ってる。
   だから、


   『……』


   ブルーアイズ!


   『分からないわ。』


   …。


   『私には。恐らく、エリスにしか分からない。』


   …役立たず。


   『ええ、然うよ。』


   あんたも魔女なんでしょ。


   『ええ、然うね。』


   だったら…!


   『私はエリスでは無いわ、ナディ。』


   …!


   『私には分からないし、出来ない。』


   …あ、そ。
   じゃあ、もう良い。


   『待って。』


   …。


   『エリスに何かあったのね。』


   …。


   『ナディ。』


   …熱が。


   『……。』


   熱が、下がらないのよ…。


   『…いつからなの。』


   …。


   『…ナディ。』


   酷く苦しいだろうに…あたしの心配なんかするのよ、あの子。
   それどころじゃないくせに…。


   『…薬は?』


   …飲ませた。
   けど、効かない。


   『……だから、命を返したいと。』


   …。


   『でも若しも、出来るとして。』


   …。


   『…貴女自身、どうなるか分からない。』


   …だから?


   『……。』


   あたしは、エリスがいなくなるのが嫌なだけ。


   『…然うでしょうね。』


   あたしはエリスに生きて欲しい。
   これからも。


   『けれど、隣に貴女が居なければ意味が無いわ』


   …。


   『エリスを一人ぼっちに…』


   あたしだってエリスが隣にいなければ意味なんてない!


   『……。』


   ……ないのよ、ブルーアイズ。


   『……ああ。』


   …。


   『……薬が効かないって言ったわね。』


   …うん。


   『…思わないわけでは無かった。けれど…。』


   ……創られたからって言いたいんでしょ。


   『……。』


   …こんなのって、無い。


   『……貴女に命を分けた事で、』


   …。


   『エリス自身の生の力が弱まった事は、否定出来ない。』


   …。


   『…まるで空想の話だけれど。でも貴女達にとっては現実なのよね。』


   ……。


   『……だったら。』


   ……。


   『エリスの傍から離れなければ良い。』


   …そんなの。


   『聞いて、ナディ。』


   …。


   『分けたとしても、元々は一つだったもの。若しも、完全には分かたれていないとしたら。』


   …?


   『それでバランスを取り合っているとしたら。貴女にしか、出来ない。』


   ……。


   『これはあくまでも可能性の話。』


   ……。


   『でもエリスを助けられるのは、貴女しか居ない。』


   ……。


   『ナディ、しっかりなさい。貴女がそんなんじゃ、エリスが心配するでしょうが。』


   ……。


   『貴女はエリスを一人ぼっちにするつもりなの。』


   ……。


   『そんなの、私が許さないわ。』


   …あたしが一人ぼっちになるのは、


   『ならないわ。エリスがさせないもの。』


   ……意味分かんない。


   『ナディ。』


   …もう切る。
   エリスの傍にいないと。


   『ええ、然うよ。分かっているなら、さっさと行きなさい。』


   …偉そうに。






   それを起こす為なら、あたしは。








   奇跡なんて、一瞬でこの肌を見捨てるだけ。





   エリス。


   …う。


   まぁた、起きてて。


   …。


   たく。
   仕方ないやつだなぁ。


   うー。


   …。


   …。


   …外、行きたい?


   …。


   熱、見るよ。


   ん…。


   ……ちょっと熱いなぁ。


   …。


   …と言うわけで。
   まだ、だめ。


   …うー。


   熱が下がって、体力が戻れば。
   いくらでも、外に行ける。


   …?


   そうよ。
   だから大人しくしてる。
   分かった?


   …。


   よしよし。
   んじゃ、ごはんにしよっか。


   …。


   なに、その顔。


   …。


   食べたくないなら、あげない。


   …う、…ぅ。


   ん…?


   …。


   …食べる?


   ……。


   よろしい。
   じゃあ、


   …。


   …分かってるわよ。
   食べさせてあげる。


   ……。


   で、食べ終わったら薬。
   オーライ?


   ……。


   あ、こら、そっぽ向くなって。


   …ぅぅ。


   エリス。


   …。


   …キスだと、うまく飲ませらんないのよ。


   …。


   …。


   …。


   …あーもう、分かったわよぅ。
   つか、道連れにしようとしてるだけでしょ。


   …。


   はいはい、夫婦ははんぶんこね。
   苦いのもはんぶんこ、はんぶんこ。


   ん…。


   …たく。


   ……。


   ん、今度は何が言いたいのかね。


   ……。


   …エリス?


   (…な、お、た、ら。)


   …治ったら?


   (つ、く、て、あ、げ、る、ね。)


   …。


   ……?


   ……。


   …ぃ。


   ……楽しみに、してるから。


   …。


   もう、すっごい食べる気満々だから。
   覚悟、しててよね。


   (……なきむし?)


   ばぁか、泣いてないわよ。
   つか、早々泣いてばかりいられるかぁ。


   ……。


   でも、本当に楽しみだから…ちゃっちゃと治す。
   良い?


   (……いえっさ。)








   …エリス。


   は……は…。


   エリス…。


   はぁ…。


   …ずっと、傍にいるよ。


   …。


   淋しい思いは、させない…。


   …ぅ。


   …違う。


   …。


   淋しい思いをしたくないのは…あたし、だから。


   (……し…てる。)


   …。


   (…おなじ、だから。)


   …あたし、は。


   ……。


   あんたに、命を貰った…。


   …。


   …だから。


   …。


   あんたが死ぬ時は、あたしも死ぬ。


   ……はぁ。


   …あたしは、生きてはいけない。
   あんた無しでは…。


   …。


   …だから。


   (……わたしの、ナディ。)


   …。


   …。


   ……もしも、本当に。


   う…。


   ……エリス。


   (ナ、ディ……。)


   …あんたに返す、から。


   …。


   …だからまだ、死なないで。


   (…でも、ナディとなら。)


   …もう少し、あんたと旅がしたい(生きたい)
   あんたと見たいものがいっぱいある。


   …。


   …ほら、遊園地とかさ。
   まだ、あんたを連れて行ってないじゃない…?


   (…ゆうえん、ち。)


   …生きて、二人で行こうよ。
   いや…違うか。


   (……そのため、に。)


   それで死ぬとしても、後悔はしない。
   あんたと一緒だから。


   (…めちゃくちゃ、だよ…ナディ…。)


   エリス……。


   ……ぅ。


   …どうすれば、いい。


   …。


   あいつは一緒にいろって言った。
   けど、それだけじゃ足りない…。


   (……ブルー、アイズ。)


   ……。


   (…ナ、ディ。)


   ん…。


   (ナディ……。)


   ……ああ、そっか。


   ……。


   …こうすれば、いいや。


   ん……。


   …苦しいかもしれないけど、勘弁してよ。


   (……いい、よ。)


   エリス…あたしには力は、ないけど。


   ……。


   でも……あの時、あんたが抱いてくれたように。


   ……。


   あたしも、するから…。


   …。


   …生きて、エリス。


   ……。


   もう少し、あたしと…。


   (……うん。)


   ……生きて。


   ……。









   …。


   …。


   …もう良い?


   う…。


   そっか。
   でも大分食べられるようになったかな。


   …。


   んじゃ、エリス。


   …。


   ごはん、食べ終わったら?


   …ぅ。


   渋い顔しても、だーーめ。


   …。


   ちゃんと、してあげるから。


   …。


   ちゃんと同じ思い、してあげるわよ。


   うー…。


   ちゃっちゃっと治して。
   あたしにごはん、作ってくれるんでしょ?


   …。


   じゃないとずっとあたしのごはん、食べるハメになるわよ?


   …。


   素直すぎ。


   (……す、き、だ、よ?)


   米、あんたが作ってくれるようにならないのよね。
   同じようにやってるつもりなのに、なんでだろ。


   (…ナディらしい。)


   なんだって?


   (でも、おいしいよ。)


   まぁ、熱で味覚がおかしくなってるだろうし?


   (ううん、おいしい。いつだって。)


   …そ。
   なら、良いや。
   て、良くない。


   …。


   あたしが良くない。


   …。


   笑うな。
   こっちは切羽詰ってるんだから。


   ……。


   だから、笑うなって。
   もう。


   (…わるくないかも。)


   あー?


   …。


   あーもう。
   ほら、薬、飲むわよ。


   (…どうせ。)


   エーリース。


   …。


   …早く、治せ?


   ……ん。


   よし。
   じゃあ……。


   …。


   …はぁ。


   …?


   分かってるわよ、分かってるけど、苦いもんは苦い。


   …。


   薬は苦いもの。
   よし!


   …。


   ………ん。


   ん…。


   ……。


   …んぅ。


   ……。


   ……。


   …飲んだ?


   (……に、が、い。)


   薬ってなんでこんなに苦いのかな。
   もうちょっと飲みやすくしろっての。


   ……。


   口直ししないとやってらんない。


   ……。


   …ん?


   (……もう、ひとつ。)


   …。


   …。


   …エリス。


   (……ナディ。)


   …しっかり、抱き締めて。


   (つ、よ、く…。)


   …勿論。


   …。


   …エリス。
   エリス……。


   (……ごめんなさい。)


   …。


   …。


   ……ばぁか。


   …う。


   夫婦、なんだから。
   当たり前。


   …。


   二つで、一つ。
   でしょ?


   ……。


   …泣き虫。
   泣くな。


   (…ないてないよ。)


   …。


   ……。


   ……エリス。


   …、…ぃ…。





   欲しいのは、この肌を焦がす程の貴女の。















  L l á m a m e















   んーんーんー。


   …子供?


   んーーんーー。


   こんにちは。


   …んお?


   こんなところで、何をしているの?


   …。


   ここは町から離れているけれど…一人で来たの?


   …。


   うん?


   …。


   …ん?


   …。


   …この子、どこかで見た事がある顔をしているわね。
   と言うより、この目…。


   …。


   私はこの家に用があるのだけど。
   良いかしら?


   だめ。


   …。


   いまは、だめ。


   それは何故かしら?


   だめだから。


   それだとどうして駄目なのか、分からないわ。


   …。


   貴女は


   …。


   あ。


   はいっちゃ、だめ。


   待って、待ちなさい。


   ねつ、だから。
   だれもはいっちゃだめ。


   …熱?
   それはエリスの事ね?


   …。


   私は…この家に居る二人の友人なの。
   だから、中に入れて。


   …。


   ナディとエリスは、中に居るのでしょう?


   …。


   ナディとエリスに……あ。


   …。


   あ…!!








   エリス…!


   …?


   ひとが、きた。
   だめっていったのに、きた。


   …エリス。


   ……。


   体調はどう?


   …。


   エリス…?


   ……。


   貴女、声が…。


   ……。


   …ナディ。
   ナディは?


   ここにいるわよ、ブルーアイズ。


   ナディ。


   勝手に入ってきて。
   つかなんであんたがこんなトコにいるのよ、支部長さま。
   お仕事は?


   …。


   まぁ、良いや。
   で、何の用?


   エリスは大丈夫なの?


   見たとおりだけど。


   …。


   エリス、お茶飲む?


   …。


   うん。
   あんたは?


   …。


   て、どこ行くの。


   そと!


   そ。
   あまり遠くに行くんじゃないわよ。


   いえっさ。


   ブルーアイズ、そういうわけでこれ、あんたの分。


   …ねぇ、ナディ。


   いらないなら、良いけど。


   有難う、頂くわ。
   それであの子は誰。


   子供。


   誰の。


   さぁ。


   ナディ。


   言わなくても、分かってんじゃないの。
   あんたの事だから。


   …いつ?


   いつだって良いじゃない。


   貴女たち…。


   よいしょ、と。
   エリス。


   …。


   …まだ少し熱い。
   けど、大分安定してきたかな。


   ん…。


   いつ、産んだの。


   あ?


   あの子、貴女にそっくりだわ。


   あたしに?


   髪の色、肌の色、それに…


   顔はあんまり、似てないわよ。


   ……。


   拾った、とは言わないけど。


   …誰との子なの。


   あんたねぇ、あくまでもあたしが産んだって言いたいの。


   だってあまりに、も…?


   …。


   …エリス。


   …。


   え、何…。


   エリス、それじゃブルーアイズには分からないわよ。


   ……。


   ナディ、エリスは


   あの子の目は、エリスに似ている。
   あたしには似てない。


   ……あ。


   ま、そーいうコト。


   ちょっと待って。


   いやだ。


   どういう事なの。
   まさか、エリスが


   待たないって言った。


   …。


   さて、と。


   …良く、決断したものね。


   あ?


   だって然うでしょう?
   エリスが貴女以外の誰か、と…?


   …。


   …。


   …え、何。


   そんな事、誰がさせるか。


   …。


   え、…え?








   ……。


   いっちょ前に守ってるつもりなのよ、あれで。


   …ナディ。


   まぁ、手の届かないところに行かれても困るから。


   …やっぱり似ているわ、貴女達に。


   ……。


   幾つになるの。


   …さぁ、いくつだったっけ。


   笑えない。


   別に笑わせるつもりなんか、無いし。


   …。


   …。


   …あの子の親は?


   …。


   ナディ。


   …産後の肥立ち。


   …?


   ってのが、良くなくてさ。


   …それはエリスのね?


   …。


   …。


   …体力が落ちると、発熱しやすくはなってた。
   特にあの力を使うと、その負荷に躰が耐えられない。


   …。


   簡単な力なら、まだ良いんだけど…。


   …それでも、使わせてはいないのでしょう。


   ……。


   貴女は心配症らしいから。


   ……あの子が。


   ……。


   来てからは、余計出しやすくなった。


   …栄養のあるもの、ちゃんと食べさせてあげたの?


   タコスとか?


   ナディ。


   …なるべく、エリスの好きなものを食べさせてあげているつもりだけど。


   …。


   あまり、量を食べないから。
   あの子が来てからは特に、食が細くなった。


   …バランスが崩れたんだわ。


   …。


   …貴女が突然、私に連絡を取ってくるから。


   それで、わざわざ?


   仕事でもあるわ。
   近いうちにこの辺りの視察をするつもりだったから。
   前倒しにしただけ。


   …あ、そ。


   …。


   …。


   …食事は?


   あたしが。


   …然う。


   ま、見てくれは悪いけど。


   でも、エリスは喜んで食べてくれるのでしょうね。


   …問題、は。


   …。


   あいつ。
   エリスのじゃないっていっつも、文句たれやがってさ。


   …ああ。


   贅沢なヤツなんだ。


   貴女も、でしょう?


   あ?


   誰よりも貴女が、エリスの作る食事に飢えている。


   …。


   違う?


   …うっせ。


   …。


   …。


   …そうやって。


   …。


   貴女はエリスの傍に居るのね。


   …いろって言ったのは、あんた。


   ええ、然うね。
   けれど。


   …。


   …あの子が居るって知っていれば。


   言わなかったって?


   …いいえ、それでも言ったわね。


   …。


   …だけど、ナディ。


   …。


   貴女達はもう、二人じゃない。


   …だから?


   もしも。
   もしも、貴女達が…


   …それでも。


   …。


   生きては、いけないのよ。


   …ナディ。


   分かってる…頭では。
   けど、躰がそれ以上に…。


   …。


   …感じている。
   どうしようも出来ないくらいに。


   ……。


   …独りには、させたくない。
   それは…エリスも同じだと思う。


   …。


   独りの淋しさは……知ってる、から。


   …良かったわ。


   うん?


   その気持ちがあるのならば。
   あの子は独りにならない。


   …。


   言っておくけど。
   絶対に、私は引き取らないわよ。


   誰があんたなんかに。
   機械女に育てられたら、とんでもないコトになる。


   ええ、然うよ。


   …。


   …。


   …ブルーアイズ。


   うん?


   いつまでこっちに?


   然うね、明後日には戻るつもりよ。


   よっぽど、暇なのね。


   ところでナディ。


   …。


   貴女はいつまで、休むつもりなのかしら?


   …う。


   冗談よ。
   けど、手当てはつかないから。


   …分かってるわよ。


   …。


   ……頭では、分かってる。


   …。


   …けど一時、あの子の事が頭から無くなった。
   あたしも……多分、エリスも。


   ……然う。


   …。


   …。


   …でも。
   望まなければ良かったなんて、思わない。


   …。


   あたしも…エリスも。


   …思っていたら、それこそ説教してやるわ。


   なんであんたなんかに。


   私だから、よ。


   …ふん。


   …。


   …。


   …本当にあそこから動かないのね。


   …。


   守護者(ガーディアン)って、ところかしら?


   そんな大層なもんじゃないわよ。


   …。


   …。


   ……遊園地。


   …。


   体力が戻ったら、連れて行こうと思って。


   …然う。


   行ったコト、ないから。
   あの子も。


   行く機会、今までもあったでしょうに。


   …。


   屹度、喜ぶわね。


   …だと、良いけど。








   …。


   …エリス。


   …?


   起きていても大丈夫なの?


   …。


   然う。
   でもあまり無理をしては駄目よ。


   …ん。


   ここは…静かね。
   たまにはこういう所で休養を取ろうかしら。


   …。


   …ナディの事、気になる?


   …。


   …然う。
   ねぇ、エリス。


   …。


   あの子は…。


   …。


   …いいえ。
   あの子の名前を聞いても良いかしら。


   …?


   然う、名前。
   どちらが名付けたの?


   …。


   …ああ、今は声が出ないのね。
   私はナディじゃないから、分からないし…。


   ……。


   …ん?


   …、……。


   …手?
   手の平?


   …。


   …これで、良いのかしら。


   ……。


   …h、u、e、v、o?


   …。


   e、g、g……て。


   …。


   卵?


   …。


   それは、また…。


   …。


   …で、も?


   ……。


   えと…貴女が、付けたの?


   ……。


   どうしてそんな名前に…?


   …。


   エリ





   エリス、あいつがいなくなった。





   …え?


   よ、と。
   探しに行った方が良さそうかね。


   ……。


   いつもの?
   じゃあ、良いや。
   エリス、水汲んできたけど、躰拭く?
   拭けそう?


   て、待ちなさい。
   居なくなったのなら、探しに行かないと。
   手の届かない場所に行っていたら…


   …。


   拭いたら、ついでだから着替えるか。
   そしたら洗濯するかなぁ。


   貴女達、何悠長な事を…


   …。


   ブルーアイズは外。


   ナディ。


   エリスの躰をあんたに見せるわけ、無いでしょ。


   然うじゃなくて。
   あんな小さな子が一人で…


   …。


   エリスが言わないから。


   …は?


   探しに行けって。


   …。


   ……どういう事かしら。


   遠くには行ってない。
   すぐに戻ってくる。


   けれど、姿が見えないのでしょう?
   あんな小さな子が一人で


   何しろ、支部長さま曰く、守護者らしいから?


   ……。


   …?


   そう、守護者。


   (…ナディみたいだね?)


   そんな大層なもんじゃないって。
   あたしも、あいつも。


   …本当に探しに行かないつもりなのね。


   本当にまずい時はエリスが探しに行けって言うから。
   言わなければ、大丈夫なのよ。


   …けれど、


   近くにいる、でしょ?
   エリス?


   …ん。


   ……なんて事。


   エリス、自分で拭く?


   …。


   あたしに拭けって?


   …。


   あーはいはい。
   じゃ、ブルーアイズ。


   …放任主義、と言うわけでは無いのね。


   ……。


   ブルーアイズ。


   …何かしら。


   帰ってきたよ、だってさ。


   帰って…?





   エリス…!





   …え?


   ……。


   こぉら、どこ行ってやがった。
   どっか行く時はなんか言えっていつも言って


   エリス、エリス。


   …?


   これ。


   ……。


   …赤い、花?


   (あ、り、が、と、う。)


   えへへ。


   …たく。


   (…やきもち?)


   な、ん、で、だ。


   ナディ。


   うん?


   …。


   何。


   そと!


   あーはいはい。
   どっか行く時は言うのよ。


   いえっさ。


   やれやれ。
   てエリス、なに笑ってんの。


   …。


   エリス。


   (…なんでもないよ?)


   なんでもなくないでしょ、その顔は。
   つか、やきもちじゃないっつの。


   ナディ、エリス。


   あ?


   …?


   あの子はそれを採りに行っていたの?


   …



   この時間になるといつも採ってくんのよ。
   エリスは赤い花が好きだから。


   赤い花、ね。


   ぅ…。


   然う…。


   …何。


   いいえ、なんでも。


   つか、早く出てけっつの。


   はいはい。
   じゃあエリス、また後で。


   ん…。


   つか、まだいるつもりか。


   ええ、勿論。


   …あーそうかい。








   …ぷぅ。


   …ん?


   ぷぅ…ぷぅ…。


   何、しているのかしら?


   …!


   あら。


   …。


   隣、良い?


   …。


   追い出されてしまって。
   貴女の両親は今でも見せつけてくれて困るわ。


   …みせ?


   然う、今でも。


   …。


   あの二人は昔から


   なかよしふうふ。


   うん?


   ロント、くるまえから。


   それはエリスかしら?


   うん。


   然う。


   …。


   それは?


   …?


   草笛?


   …うん。


   ナディかしら?


   …。


   口笛、指笛、草笛。
   そういう笛は得意みたいね、ナディは。


   へただよ。


   それは…然う、リャマの骨なんかで作られた笛はでしょう?


   …。


   エリスから聞いたのよ。
   ナディはそういう話、私にはしたがらないから。


   ……。


   それ、やって聞かせて。


   …。


   草笛。


   ……。


   駄目かしら?


   ……。


   …。


   ……ぷ、


   ……。


   ぷぅ……ぷぅぅ…。


   …うん。


   ……。


   有難う。


   …ぷぅ。


   …。


   ぷー…ぷぅーー…。








   エリス、良い?


   …ん。


   んじゃ、まずは左腕から。


   …。


   …。


   …。


   ……栄養のあるもの、ね。


   …?


   いや、こっちの話。
   次、右腕。


   ……。


   …。


   …。


   ……次、背中。


   (…いえっさ。)


   …。


   …。


   …。


   ……ぃ?


   …やっぱり、きれいだなって。


   ぅ…。


   んー……。


   …。


   …気持ち良い?


   ん…。


   それは良かった。
   じゃ、次は前。


   …。


   と…くすぐったい?


   …。


   …て、顔、赤らめるなって。


   (……冗談。)


   なんの、だ。


   …。


   …。


   (…ねぇ、ナディ。)


   うん…?


   …。


   なに?


   (……名前、聞かれたよ。)


   名前…ああ、あいつの名前。
   それで、どうした?


   (教えてあげた。)


   そっか。


   (私がつけたのって。)


   …うん?


   (エ、リ、ス。)


   ああ、あんたが付けたって?


   ん。


   ところで、なんて教えたの?


   (たまご。)


   それ、もしかして南と北の言葉で?


   …。


   はは、それじゃ分からないだろうなぁ。


   …?


   分からない、分からない。
   ブルーアイズは南と北の言葉しか、知らないだろうから。


   …。


   分かんないだろうなぁ。
   ま、良いけど。


   ……。


   ん、何?


   (…いじわる?)


   あんたに言われたくない。


   …。


   …いつかは、ばれるだろうけど。
   今くらいは、さ…。


   ん……。


   ……ふふ。


   (…キスするって、言ってない。)


   駄目だった?


   ……。


   …良かった。
   さ、あとは足。


   (……からは、いつかやぶられる。)


   ん…?


   (その時は…。)


   …何が、出てくるもんだか。


   ……。


   まぁ、まだ先のコトだけどね。


   …。


   分かってるわよ。
   ちゃんと……。








   ...La última parte