ぷぅぅ。


   …私もやってみようかしら。


   …。


   教えてくれる?


   …ん。


   どうやるの?


   こう。


   …こう?


   ちがう。
   こう。


   …こう、かしら。


   それで、ふくんだよ。


   これで……。


   …。


   ……。


   …へた?


   もう一度…。


   …。


   …。


   ……へた。


   結構難しいのね、これ。


   かして。


   はい。


   こう、やるの。


   …。


   ……ぷぅぅぅ。





   へたくそ。





   …。


   ほら、貸してみ。


   …やだ。


   あ、そ。


   …。


   んーー…これでいっか。


   …。


   はぁ……





   ピィィィィ!





   …。


   あんたはまだ、息が弱い。
   もうちょっと


   うすらたこす。


   は?


   …。


   人が折角、教えて…て、こら、どこに


   どっか!


   そうかい。
   あまり遠くに行くんじゃないわよ。


   ……。


   たく、何だって言うんだか。


   ナディ。


   あ?


   相変わらず、デリカシーが無いわね。


   は、デリカシー?


   然う、デリカシー。


   あたしのどこが…


   あの子の顔を見て、思い出す事は無い?


   …何を。


   エリスが大事にしていたキーホルダー。


   …つか、なんであんたが。


   さぁ、なんでかしらねぇ。


   …エリスだな。


   いいえ、これはあの子からじゃないわよ。


   じゃあ、


   あれが壊れてしまった時は大変だったわよね。
   機嫌、相当損ねてしまったみたいで。


   ……悪趣味女め。


   あら、あれは仕事の一つに過ぎないわ。


   覗き見のどこが、だ。


   おかげで散々、見せ付けられて。
   会話なんて


   聞いてたんかい。


   ええ、勿論。
   それも仕事の一つだったから。


   …最低。


   真面目、と言って欲しいものね。


   あんた、もう帰りなさいよ。


   ねぇ、ナディ。


   あ?


   ここ、やっぱり良い場所ね。
   静かで。


   …だから?


   有難う。


   は、何が。


   …。


   ブルーアイズ。


   もう、終わったのでしょう?
   入るわよ。


   て、こら。


   そうそう、今晩はお世話になるつもりだから。


   は?


   有難うの理由。


   誰が良いって


   エリス。


   ……?


   今夜は


   勝手に話を進めるな、青目。








   …。


   …。


   …ブルーアイズ。


   うん?


   あんたが夕ごはん作るって言うから、任せたけど。


   今夜、泊めて貰うから。
   せめてものお礼よ。


   それはさっき聞いた。
   で。


   で?


   タコスの試作品、あたしの家族に食わせるのは止めろっつの。


   家族、ね?


   何か文句でもあんの。


   いいえ。
   これはね、南瓜の種なのよ。


   で?


   昔から食べられているものらしいけれど、それだけだと商品ではどうか思って。
   色々なものと組み合わせてみたのだけれど、どうかしら?


   まずくはないけど、だからって、おいしいわけでもない。


   二人も?


   ……。


   これ、しょっぱいー。


   そうそう、ズッキーニの種も入れてあるのよ。
   他にハイビスカスの花弁や、バナナの皮と言う案もあったのだけど。


   合わないでしょ、それ。


   だから却下になったわ。


   …。


   …。


   どうしてくれる、このがっかり感。


   やっぱり合わないかしら。
   土地によっては良く食べられているものらしいのだけれど。


   場所によって違うでしょ、食べ物なんて。


   建設的な目的も無く、ただ色々な場所を旅してた人間が言うと説得力があるわね。


   喧嘩売ってんのか。


   褒めてるのよ。


   どこがだ。
   大体、これがおいしくないのはあんたの腕のせいでもあるんじゃないの。


   私の?


   料理、出来そうにない。


   失礼ね。
   これでも少しはするのよ。


   どーだか。


   ……。


   …エリス?


   (…ん、なんでもないよ。ロント。)


   うん。


   とにかく。
   うちにこれは、無い。


   然う。
   貴重な意見、有難う。


   ああ、もう。
   今から作るのもな…。


   (…ナディ。)


   うん?


   (トマトの、食べたい。)


   トマトの……ああ、あれ?


   …ん。


   あれなら…肉無しなら、すぐに出来るかな。
   それで良い?


   ん。


   あんたは?
   食べる?


   …。


   ナディ。
   トマトのって、


   ブルーアイズ、トルティーヤは?


   ええ、あるわ。
   良かったらまた作るけど。
   あれならさほど時間、掛からないし。
   なんだったら、


   余計なのは、入れんな。


   …それでナディ。
   トマトのって?


   ソパ・デ・クリオーリャ。
   あたしの得意料理、らしい。


   らしい?


   エリスが好きなのよ。
   ねぇ。


   …ん。


   貴女にも得意料理はあるものなのね。


   あんたの分は作らない。


   有難う、楽しみだわ。


   …いつもだったらエリスが麺、入れてくれるんだけど。


   今日は私のトルティーヤで。
   我慢してね、エリス。


   …。


   で、あんたは?
   食べる?食べない?


   …ちがうの、たべたい。


   エリスのごはんとか?


   …。


   エリスが本調子になったらまた、いっぱい食べられるわよ。
   ねぇ、エリス。


   …。


   ……はやく。


   …。


   …。


   …げんきに、なって。


   …。


   (…ロント。)


   …だってさ、エリス。


   (うん…。)


   …家族、ね。


   あ、何?


   食いしん坊が二人いると大変ね、エリス。


   は?


   (そうなの。)


   て、エリス。


   …。


   笑うな、もう。


   ふふ。
   それじゃ改めて、作りましょうか。








   思い出したんだけど。


   …?


   何かしら?


   南瓜の種じゃなくて、花じゃなかったっけ。


   …。


   …。


   それからバナナの皮じゃなくて、こっちも花だと思ったけど。


   (…タコス?)


   …。


   確か…バナナの花は肝臓だか腎臓だかの薬になるってどっかのばあちゃんが言ってたような。


   …。


   …ナディ。


   あ?


   これ、美味しいわね。
   貴女が作ったとは思えないわ。


   話、逸らしやがったな。


   ねぇ、エリス。
   美味しいわね。


   …。


   おいこら、ブルーアイズ。


   お肉を入れると…また違った味になりそうね。


   (うん、ちがうよ。)


   麺入りのも食べてみたいわ。
   エリスが入れるんでしょう?


   …。


   然う。
   屹度、美味しいのね。


   うん、おいしいよ。
   とっても!


   ふふ、然うなの。
   じゃあ、ナディも好きなんでしょうね。


   だいすき!
   ね、ナディ。


   まぁ、あれはおいしいし…て、おい。


   ああ、然うだわ。
   スープ付きと言うのも良いかも知れないわ。
   あっさりとしたのとこってりしたの、両方揃えて。


   ブルーアイズ。


   何?


   何、じゃないわよ。
   あんた、間違えたでしょ。


   いいえ、種と言う案もあったのよ。


   嘘つけ。
   種がメイン、はいくらなんでも無いっつの。


   南瓜の種のモレソースはおいしいわ。
   エリス、食べた事ある?
   緑色をしているソースなのよ。


   (ない。)


   然う、無いのね。
   私でも分かったわ。


   つかブルーアイズ、いいかげんに


   さて。


   あ?


   …?


   旅をしていると、やっぱり知識って付くものなのね。


   …だから?


   (建設的じゃなくても?)


   こら、エリス。


   (私も、だから。)


   部屋に篭っていても、良い案は出ないと言う事が分かったわ。
   それに場所によって食べる物が違う事も改めて。
   頭では分かっていても、それが生きた知識として活用されるわけじゃない。


   …もう、良い。


   ごちそーさま。


   ん?
   あんた、もう良いの?


   うん。


   そ。
   じゃあ、片付け。


   …。


   (片付け?)


   いえっさ。


   (ありがとう。)


   ん。


   じゃあ、あたしのも宜しく。


   ……。


   なんだろうね、この差。


   …しょうがないから、やってあげる。


   はいはい、ありがと。
   良い子だ。


   …。


   (良い子。)


   えへへ。


   まぁ、良いけどさ。


   ナディ。


   あー?


   これのお肉入りなら、栄養、あるでしょうね。


   …多分、ね。


   まぁ、偏りは良くないけれど。


   …あんたに言われなくても分かってるっつの。


   腐らせるくらいなら、食べてくれた方が良いわ。


   …は?


   どうせ、使えないのならば。
   無駄にするよりはずっと、良いわ。


   …。


   使えるのは、駄目だけれど。


   分かってるわよ。
   大体、そんなコトして引かれたらたまったもんじゃない。


   然う。
   なら、良いわ。








   寝ちゃったわね。


   …ん。


   小さな手でしっかりと掴んで。
   何があっても離すまいと言う感じね。


   最近、一人で寝かせてたから。


   最近?


   あたしとしてはそろそろ、別の部屋で一人で寝かせたいんだけど。
   エリスが、ね。


   …。


   でも未だ良いんじゃない?
   こんなに小さいのだし…。


   …。


   …小さい、ね。


   みっつくらいかしら。
   しっかりしているとは思うけど…最近の子はこうなのかしらしね。
   ませていると言うか…。


   …。


   今年、いつつ。


   …え?


   (…そんなに会ってなかった?)


   みたいねぇ。


   いつつなの、この子?


   ん。


   数え間違えてなければ、ね。


   …信じられない。


   …。


   小さいからって、


   然うじゃなくて。


   あ?


   貴女達、そんなに長い間黙っていたのね。
   それとも隠していたのかしら。


   …。


   …そういうわけじゃないんだけど。
   会う機会、無かったし。


   確かに無かったけれど、


   あんた、いつだって忙しいじゃない。
   こっちに来ることだって、


   それでも!
   教えて欲しかったわ。


   (…ナディ。)


   つか、大きな声出さないでよ。
   折角、大人しく寝てくれたのに。


   子供がいる、それだけでも十分驚いたのに。
   その子はもういつつになるなんて。


   ……。


   ナディ。


   ブルーアイズ。


   …。


   …ここのところ、と言うよりエリスが体調崩してからは寝かしつけるの大変だったから。
   エリスと一緒じゃなきゃイヤだとか、あたしと一緒じゃイヤだとか…一人は当然イヤだとか。


   …。


   だから今夜はこのまま起こさず、大人しく寝かせて欲しいんだけど。


   …悪かったね。
   ごめんなさい。


   分かれば、良い。


   …でもあの貴女が、ね。


   あ、何。


   ちゃんと親なのね。


   は、当たり前でしょ。


   エリス。


   …?


   貴女も。


   …。


   でも、然う…私も歳を取るわけね。
   ここ何年かは特に、忙しくて…


   年寄りくさい。


   …減給、して欲しいのかしら。


   そんな歳でも無いでしょ。


   …それ、フォローのつもりかしら?


   さて、エリス。
   あんたももう、寝なさい。


   (…まだ。)


   だーめ。
   ただでさえ今日はいつもより起きてたんだから。


   …。


   今は無理しない。
   オーケイ?


   (……でも。)


   ブルーアイズ。


   何かしら?


   うちにはいつまで?


   然うね…じゃあ、お昼頃までお邪魔させて頂こうかしら。


   だってさ、エリス。
   話がしたいなら、また明日すれば良い。


   …。


   エリス。


   ……ん。


   良し、良い子だ。


   (…ナディじゃないよ?)


   あ、どういう意味だ。


   (…あまえんぼ?)


   人の事言えるかって、何度言わせるつもりだ。


   (…ふふ。)


   ブルーアイズ、あんたのベッドなんだけど。
   しょうがないから、「あたしの」を使って良いわよ。


   有難う。
   でも貴女は?


   あたしは…


   (…やっぱり、あまえんぼ。)


   しょうがないでしょ、二つしか無いんだから。


   二つ?


   そうよ。


   この子用のは無いの?


   …そんなもん、無い。


   でもさっき、一人で……って、ああ。
   何でも無いわ。


   …なんかむかつくんだけど、その顔。


   まぁ、自立させるのには良いかも知れないわね。
   その方が。


   うっせ。


   こっちのベッドはこの子用なのね、本当は。


   (うん、そうなの。)


   エリスも黙れ。


   (仲良し夫婦だから。ひとつで良いの。)


   だから、


   分からないけれど。
   なんとなく、分かる気がするわ。


   …分かるな。


   それにしても。


   …。


   …何よ。


   似ているわね。


   …。


   …。


   …貴女達に、本当に。


   ……ん。


   …。


   それにしたって、卵は無いわ。


   …。


   あ、何が。


   名前。
   卵だなんて、もうちょっと良い名前を…


   子供ってのは、卵みたいなもんでしょ。


   …あのね。
   だからってあまりにも


   ウエボ、じゃないわよ。


   …え?


   それからエッグでもない。


   けれど、エリスが…。


   (…ふふ。)


   …エリス?
   もしかして、貴女…


   (嘘は、言ってないよ。)


   …なんて?


   嘘は言ってない。


   ……どういう事?


   エリス、寝る前の熱、みるよ。


   ん…。


   んー……うん、夜になっても安定してる。
   良かった。


   ナディ、あの子の名前は…


   (…ナディ。)


   エリス…。


   ……。


   …ブルーアイズ。


   …全く、貴女達は。
   おやすみなさい、エリス。








   ……。


   ……ん、……ぃ。


   …ん、今日の分はこれでおしまい。


   …。


   また、明日ね。


   ん…。


   よし。


   (…ナディ。)


   うん?


   …。


   …なに?


   (…大丈夫?)


   何が?


   …。


   …あたしなら、大丈夫。


   …。


   ……あんたがいれば、あたしはいつだって大丈夫。
   だから…心配は、いらない。


   …。


   …そんな顔、あいつの前では絶対にするな?


   …。


   それから…この子の前でも。


   ……ん。


   絶対、だからね?


   (…いえっさ。)


   よしよし。


   …。


   ん、まだあるの?


   (…やきもち?)


   …。


   …。


   …ばぁか。
   だから、そんなんじゃないっつの。


   …?


   …本当だって。


   ……。


   …この子の前でするなって言ったのは、言わなくても分かると思うけど。


   ん…。


   あいつの前でって言ったのは…。


   …。


   ……。


   (…言ったのは?)


   ……とにかく、駄目なもんは駄目。


   (……やきもち。)


   だーかーら、違うって。


   (…面白くないんだ。)


   エリス。


   (……当たり。)


   まだ言うか。


   …。


   ほら、さっさと寝ろ?


   (…行くの?)


   …。


   …。


   すぐ戻ってくるわよ。


   (…本当?)


   やきもち?


   …。


   ま、間違っても無いけど。
   冗談じゃない。


   (…違うよ。)


   はいはい、そうねぇ。


   (…違うのに。)


   ほっぺた、膨らんでるけど?


   …うぅ。


   ふふ。





   ん……うぅ。





   …。


   …。


   (…起きてない?)


   …ま、一回寝付けば起きないし。
   あんたと一緒なら、特に。


   …。


   …さ、灯り、消すよ。


   …。


   …こら。


   (…おやすみの、は。)


   …。


   (まだ、だよ…。)


   …。


   ん……。


   ……おやすみ、エリス。
   また明日…。


   (…おやすみ、ナディ。)


   それから…


   …。


   …おやすみ、小さな太陽。


   (…良い夢、見られるように。)








   …思えば。


   …。


   旅を暫く休む理由、雨風を凌げる場所を求めた理由。


   …。


   つまりは、こういう事だったのね。


   …さぁ、どうだか。


   エリスの体調が悪かったのは、あの子がお腹に居たから。


   …。


   拾い子、では無いのでしょう?


   …。


   どういう経緯であの子が、エリスのお腹に宿ったのか…


   寝たけりゃ、寝たら。


   貴女達の隣で?


   …嫌なら


   いずれ、あのベッドを動かすのね。


   …。


   別室にするのでしょうから。


   …エリス次第。


   ふふ。


   何よ。


   やきもち?


   は?


   エリスを取られたみたいなんでしょう?


   は、なんであたしが


   そういうものらしいから。


   ……。


   けれどそれは仕方無いわね。
   エリスは…然う、母親なんだから。


   …。


   貴女は…立場的には父親みたいなものでしょう?
   そのうち、リカルドの気持ちが分かるようになるかも知れないわね。


   一緒にすんな。
   なんであいつなんかと。


   リリオ、大きくなったわよ。


   …知ってる。


   言葉も。
   恐らく、リカルドはもう敵わないと思うわ。


   ふん、ざまぁみろ。


   明日は我が身。


   …。


   早いわよ、子供が大きくなるのは。


   さすが、歳を取ってる人は言うコトが違うわね。


   大人、って言って欲しいものね。


   は。


   大人になりなさい、ナディ?


   あんたみたいになるくらいなら、ならなくて良い。


   子供ね。


   言ってろ。


   エリスも大変ね。
   手のかかる子供が二人居て。


   んだとぉ。


   雰囲気、また変わったわ。


   …。


   母親になると…変わるものなのかしらね。


   …さぁ。


   …。


   …。


   …魔女の力を、使ったのでしょう。


   …。


   分かるわよ。
   これでも一応、魔女だから。


   …今となってはもう、そんな力、無いくせに。


   それでも…これだけ近くに居れば、嫌でも分かるわ。


   …。


   …顔色が、あまり良くないわ。


   寝れば、治る。


   …。


   …エリスの体調は良くなってきている。
   あともう少しなのよ。


   …然う。


   エリスを失うわけにはいかない。


   あの子の為にも…貴女の為にも。


   ……。


   …。


   …ブルーアイズ。


   うん?


   …早く寝れば。


   お酒、飲まないのね。


   あ?


   止めたとは聞いたけれど。
   エリスに嫌われるのが嫌で。


   …飲むとしても、


   私と飲むつもりは無いって?


   …エリスが、待ってる。


   …。


   寝るなんて言っても。
   そーいうヤツだから。


   …じゃあ早く、行ってあげないといけないわね。


   …。


   ナディ。


   …なに。


   旅には?


   いつか。


   それは三人で?


   さぁ、ね。


   …。


   …さて。
   あたしも寝るかな…。


   …ナディ。


   …。


   忘れるんじゃないわよ。


   …何を。


   貴女達はあの子の親だという事。
   決して。


   ……。


   それから。
   私は、たとえ貴女達が


   ロント。


   …え?


   それがあいつの、今の名前。


   ロン…?


   やっぱり知らない。


   ……それは?


   そこまでサービスしない。


   …今のって言ったけど。


   しないって、言った。


   …。


   で、あたしは寝るけど?


   私はもう少し、ここで涼んでから寝るわ。
   こんな静かな夜、久しぶりだから。


   あ、そ。
   じゃ、好きにしたら。


   ええ。
   おやすみなさい、ナディ。


   ああ、そうそう。
   人んちのもの、勝手に盗んないでよね。


   盗らないわよ。
   失礼ね。


   ふん。








   (…ナディ。)


   やっぱり、か。
   折角おやすみのキス、してやったってのに。


   (…ブルーアイズは?)


   もう少し涼んでから寝るってさ。


   …。


   ふあぁ。


   (…おおきいあくび。)


   ほっとけ。


   (…入れる?)


   んー……。


   …。


   …もうちょっと、詰めてくれると助かる。


   ん…。


   ありがと。
   んじゃ…。


   …。


   …少し、狭いかな。
   やっぱり。


   …。


   お…。


   ……。


   こらこら…。


   (……ナディ。)


   流石に、今夜は出来ないって。


   …。


   こいつが、真ん中にいるから。


   …ぅぅ。


   しょうがないでしょが。


   …。


   さ、本当に寝ようか。


   (……じゃあ、)


   腕枕は、出来ないけど。


   …。


   手は…繋いでてあげるから。


   …。


   エリス…。


   (…だいすき、ナディ。)


   …。


   (……だいすき。)


   …うん。








   …やれやれ。
   やっぱり、見せ付けてくれるのよね、貴女達は。


   …。


   …ナディ。


   …。


   エリス…。


   ……。


   ……たとえ、貴女達の。


   ……。


   選んだ、その道が……生物として間違っていて、生の根底を狂わせる道だったとしても。
   私はそれを過ちだとは、思わないわ。


   …。


   ……然う、世界がどうであろうと。
   私達は……。


   ………。








   ・








   卵を割ると、何が出てくると思う?


   卵を?


   うん。


   ええと、黄身と白身かしら。


   それは普通の答え。


   普通の?


   卵を割るとね、小さな太陽が出てくるんだって。


   小さな太陽?


   形がね、そう見えるからなんだって。


   …まぁ、見えなくもないかしら。


   卵を片面だけ焼いたの、北の言葉でサニーサイドアップって言うもんね。


   …然う、エリスが?


   目玉焼きは私が勝手に思っただけ。


   …。


   でも、なんかエリスらしいなって。
   だっていつも…


   …。


   いつだって、太陽のことばかり見ているから。


   それは分かるけれど。
   ロントと言う名前と、


   ブルーアイズは知らない?


   何をかしら?


   昔の言葉でね、卵って意味なんだって。


   昔の?


   ナディが教えてくれたんだって。
   忘れてたんだけど、思い出して。


   ……。


   卵と、小さな太陽。
   面白いよね。


   …分からないわよ、そんなの。


   でもブルーアイズも会ったんだ。


   ええ。
   まんまと驚かされたわよ。


   ふふ。


   貴女は知っていたのね?


   ブルーアイズよりも先に、会ったから。


   口止めされていたの?


   ううん。
   でも黙ってた方が面白いかなって。


   …リカルドは?


   知ってるよ。
   パパもかなり吃驚してた。


   …でしょうね。


   ナディとエリスに良く似てるから。
   二人の子供だって言われても、信じちゃうよね。


   …。


   エリス、幸せそうだった。


   …?


   いつか会った時はとても苦しそうだったけど。


   …苦しそう?
   エリスが?


   息をしている筈なのに、カラダに回らない。上手く息が吸う事が出来なくて、もがいてる。
   そんな感じだった。


   …。


   でも、やっぱりナディはナディだった。


   うん?


   エリスを幸せに出来る人ってことだよ。


   …ああ。
   然うね。


   うん。


   そういえば、リリオ。


   なに?


   ロントと言う名前なのだけれど。


   うん。


   今の名前って言ったのだけど、それはどういう意味か分かる?


   今の?


   ええ。
   ナディが言っていたのだけど。


   うーん…。


   貴女にも教えてくれなかった?


   多分、だけど。


   構わないわ。


   ちゃんとした名前。


   ちゃんとした名前?


   もちろん、ロントって名前もちゃんとしているんだけど。


   …。


   それは子供の時だけの名前で、大人になったら…








   んーーーー…今日も、良い天気だ。
   左手の調子も悪くない。


   うーーー。


   お。


   そら、たかい。
   あおい。


   あんたの背丈じゃ、まだまだ、届かないわよ。


   とどいたらこわいから、いいの。


   あ、そ。
   あんたには洗濯、手伝ってもらおうかな。
   今までさぼってくれたから。


   えー。


   えー、じゃない。
   ほら、朝の水汲みに行くわよ。


   うー。


   うー、じゃない。
   ちびのうちから怠けグセがつくと、ロクな大人になれない。


   ナディみたいな?


   あ?


   あらくれものー。


   ふん。


   …わ。


   あたしみたいになると、エリスみたいな嫁が貰える。


   …。


   だから、


   じぶんで、いった。


   あたしだってたまには言うわよ。


   でもかお、あかい。


   赤くない。


   あかいー。


   だから、赤くないっつの。


   まっか、まっか。


   ほら、さっさと行くよ。


   ごまかしたー。


   やかましい。





   ナディ、ロント。





   あ、エリス。


   エリス。


   楽しそうだね。


   あのね、ナディがね、


   やかましいっつの。


   にひひ。


   つかその笑い方、どこで覚えてきたんだ。


   ナディ。


   うん?


   えへへ。


   何、あんたまで…て。


   …えへへ。


   ……だから、なに。


   ううん。
   朝ごはん、作るね。


   ごはん!
   おなかへった!


   ロントはくいしんぼ。


   ナディのほうがくいしんぼ。


   なんだとぅ?


   うん、ナディの方がくいしんぼ。


   つかさ、躰の大きさが違うんだからしょーがないでしょ。


   しょーがなくない。


   こいつめ。


   あう。


   口が減らない。


   うーー。


   たく、こいつは。


   ナディ。


   うん?


   …ナディ。


   ……なに、エリス。


   声、出るようになったよ。


   …うん。


   ……。


   …あんたが元気になったから。


   ん…。


   うー!


   こら、どこへ行くつもりだ。


   どっかー!


   たく、あいつは。


   …ふふ。


   やれやれ。
   また、やかましくなりそうだ。


   …うん。


   ……エリス。


   ん…。


   …本当に、良かった。


   ナディ…。


   …。


   ……ナディ。


   …エリ


   また、いちゃいちゃしてるー。


   …あー。


   してるー。


   別にしてない。
   つか、どっか行ったんじゃないんかい。


   してる、してる。


   してない。


   してるーー。


   してないっつの。
   しつこいヤツだな。


   してるよね、ね、エリス。


   うん、してる。


   …おい、こら。


   仲良し夫婦、だから。


   いや、だからだな…そういうコトは、


   エリス、もうだいじょうぶ?


   うん、大丈夫だよ。


   ねつ、もうでない?


   ん、もう大丈夫。


   やった!


   ね、ロント。


   なぁに?


   お花、ありがとう。
   ずっと、声にして言いたかった。


   …?


   ロント?


   ロント、きこえてたよ。


   …。


   エリスのこえ、きこえてた。


   …そっか。


   えへへ。


   ……まぁ、良いや。


   そういえばナディ、水汲みはどうしたの?


   ああ。
   今、行こうと思ってたんだけど。


   だけど?


   …今、行ってくるわよ。


   行ってらっしゃい。


   ん、行ってきます。
   ロント、行くよ。


   いえっさ!


   ん、素直でよろしい。
   つか、最初からそうだと助かるんだけどな。


   行ってらっしゃい、ロント。


   いってきまっす。


   よし。
   じゃ、


   待って、ナディ。


   ん…ん?


   ……。


   また、いちゃいちゃしてるー。


   ……行ってらっしゃいの、キス。


   あー……だから、エリス。


   ん?


   …もう、良い。


   まっか。


   やかましい。


   真っ赤。


   だから、やかましいって。
   つか、今更これくらいで赤くなるかっつの。


   なってる。


   なってるね?


   ああ、うるさいうるさい。
   ほら、行くよ。


   まっか、まっか、まっか。


   あー、うるさいな。


   ナディ。


   すぐ、戻ってくるから。
   そしたら、


   好きなの、作るね。


   期待、してるから。


   ん。








   あー、お腹いっぱい。


   満足?


   うん、満足満足。
   やっぱりあんたのごはんはおいしい。


   それ、朝も昼も言ってたよ?


   言っちゃ悪い?


   …悪くない。


   なら、良いじゃない。


   うん、良かった。


   ……。


   ロント?
   眠いの?


   ……うー。


   一日中、はしゃいでるからだ。


   …。


   ナディ。


   しょーがないなぁ。


   ……ねむく、ない。


   はいはい、そーねぇ。


   …ねむくない、もん。


   はいはい、分かった分かった。
   よ、と。


   …うぅぅ。


   エリス、あんたも来て。
   あんたがいた方が良い。


   うん。


   うーー…。


   ロント、明日もロントの好きなごはん、作ってあげるね。


   …いも…、チーズ…。


   だって、ナディ。


   あ?


   チーズ、もう無い。


   あーそういうことね。
   はいはい、買ってくるわよ。


   お願い。


   いえっさ。


   …えへへ。


   ん、なぁに。


   仕合わせ。


   …。


   …しあわせ。


   うん……。


   ……。


   …ドア、開けてくれる?


   うん。


   ……よいしょ、と。


   寝ちゃってるね。


   電池切れってヤツかね。


   ふふ。


   あんたが元気になったの、よっぽど嬉しかったようだから。


   ナディも?


   と…。


   …ナディも?


   ……あんたこそ、何回言わせるつもりだ?


   何度でも、聞きたい。


   …。


   ナディ…。


   …しょーがないなぁ。
   でも、その前に。


   …うん?


   起こしちゃうかもしれないから。


   起きちゃうかな。


   分かんないでしょ。


   …そっか。


   じゃ、行こっか。


   うん。








   …。


   …ん……ん、ふ…。


   ……。


   ナ、ディ……。


   ……エリス。


   もっと…。


   ……。


   ん、んぅ……。


   ……。


   ……ナディ。


   もう、良い…?


   …もっと。


   これ以上、あげたら…ちょっと、きついんだけど。


   …。


   …それでも、良いけど。


   じゃあ、いい…。


   …。


   …また、明日。


   ん、また明日…。


   その代わり…。


   ん、エリス…。


   …普通のキスが、欲しい。


   普通の、ね…。


   …ん。


   ……エリス。


   好き…大好き…。


   ……。


   ……。


   …軽くなった。


   …?


   熱のせいだろうけど…。


   …。


   …取り戻さないとね。


   うん……。


   あいつは重たくなってく。


   …うん。


   エリス…。


   あ…。


   ……嬉しい。


   …。


   あんたが元気になって…あんたの声が聞けて、嬉しい。


   …ナディが、いたから。


   …。


   ナディが、ずっといてくれて…。


   …。


   …私に命を、くれるから。


   元々はあんたのだから…。


   …ううん。


   …。


   ナディのだよ…。


   …。


   ん…くすぐったい。


   …あたしのはあの時、あんたに貰った。


   …。


   だからあたしは、ここにいる…。


   …あの時、ね。


   うん…。


   …私の中にナディの命が流れてきたの。


   え…。


   …ナディの匂い、熱、全部、私に流れてきた。
   だから…。


   エリス…。


   …ナディに撃たれて、私は本当はおしまいだったの。


   …。


   ブルーアイズの力で私が生き返ったのは……


   ……エリス。


   …ナディが、私にくれたから。


   ……。


   ナディが、守ってくれた。


   …撃ったのは、あたしだけど。


   それは私がお願いしたから。


   …お釣りはいらないってね。


   ん……。


   ……。


   …ありがとう、ナディ。


   なにが…?


   私に…家族を、くれて。


   …あんたも。


   ……私に、生きることのしあわせをくれて。


   ……。


   私に、貴女の熱をくれて…あ。


   …エリス。


   ナディ……。


   …それでもあたしの中にあるのは、あんたのだから。


   …。


   あんたが、あたしにくれたものだから…。


   …うん……うん…。


   …。


   …。


   ……。


   …ねぇ、ナディ。


   ん…。


   私の名前、呼んで…。


   …エリス。


   もっと…。


   エリス…エリス…。


   ナディ……。


   ……。


   …ねぇ、したい。


   …。


   したい…。


   ……あたしも、したい。


   じゃあ…。


   …けど。


   …。


   まだ…む。


   ……もう、大丈夫だよ。


   けど…。


   …ずっと、待っててくれた。


   …。


   私が、本当に、元気になるまで。
   ナディは待っててくれたから。


   …当たり前だ。


   他の人のところに、行かなかった。


   行くか、ばか。


   …冗談。


   …。


   …。


   …エリ


   優しく、抱いて。


   ……。


   …私の名前、呼びながら。


   ……あんたも、呼んでよ。


   呼ぶ、から…。


   …。


   …熱、感じたい。


   エリス…。


   ナディを、感じ……んん。


   ……。


   ……ナ、ディ。


   へたくそ、だけど…。


   …知ってる。


   知ってる、ゆーな…。


   ……ふふ。