…おい、紗枝。 なに、玲。 なに、じゃねぇ。 呼んでおいて? …確か、春物の服だかなんだかが見てぇって言ってたよな。 だから、玲はここにいるのよねぇ。 …無理矢理、引っ張ってきやがったのは誰だよ。 それで、なに? 何ってお前… ……。 玲? …なんで。 うん? ……。 なんで、紗希がいるんだよ。 あたしはむしろ、なんで玲がいるのか知りたいんだけど。 あぁ? なんで、いるの。 あたしだって、好きでいるんじゃねぇ。 じゃあ、帰りなよ。 さようなら。 そうかよ、じゃあ 玲。 …紗枝、紗希がいるなら始めに言えよ。 言ったら、嫌がると思って。 嫌がってもどうせ引っ張ってくるだろ、お前は。 玲のくせに、お姉をお前呼ばわりしないでくれない? と言うか、紗希と約束してんなら、あたしはいらねぇだろうが。 いらないよね、本当に。 保護者ならお姉だけで十分だし。 自分より精神年齢低いのが、保護者なんて、ありえないし。 …紗枝、笑ってねぇでなんか言え。 お姉、早く行こうよ。 玲なんて、ほっといて。 お姉に見てもらいたいんだ。 あーめんどうくせぇ。 紗枝、あたしは 駄目よ? なんでだよ。 今日は玲の奢りだから。 は? 紗希、今日のお昼はパパの奢りよ。 わーい、ありがとうパパー。 パパじゃねぇよ! つか、棒読みかよ!! さぁ、行きましょう。 ね、お父さん? お父さんでもねぇ!! お姉に怒鳴るな! うるせぇ、耳元ででかい声出すな! 玲の方が大きいよ、バカ!! あぁもう、うるせぇ! 紗枝、あたしは 玲。 …うぉ。 お姉、 紗希。 …。 今日は家族三人、楽しくね。 …。 …。 …て、家族じゃねぇし!! はいはい、お父さん。 だから父じゃねぇ!! あとどさくさに紛れて腕組んでじゃねぇ、紗枝! 玲は赤の他人だよね。 赤の他人のクセに、勝手に入ってこないで欲しいんだけど。 あぁ……。 お疲れね? …誰のせいだよ。 こんなんだったら、部屋で寝てた方がマシだったよ。 とか言って、どうせ寝てないくせにね。 少なくともお前らの荷物持ちするよりかはマシだ。 そんなに買ってないけど。 散々、引っ張り回してくれやがって。 楽しかったでしょう? どこがだ。 紗希のヤツにはぶちぶち言われるし、うるせぇし、そのくせ遠慮なく飲み食いしやがって。 成長期かなぁ。 最近、少し背が伸びたみたいだし。 そういう問題じゃねえ。 じゃあ、どういう問題? …兎に角、だ。 お前らとは二度と、買い物には行かねー。 ありがとう。 あ? 今度はいつ、付き合ってくれる? だから、 あれでね。 …あ? 嬉しいのよ、あの子。 嬉しい? 人見知りするのは、知ってるでしょ? …。 だから、友達がなかなか出来なくて。 人見知り以前に、あの性格が問題なんじゃねえのか。 あれは玲の前だけよ。 あぁ? 家にいるだけじゃ、あんな楽しそうな紗希は見られないもの。 …は、どうだかな。 やっぱりお母さんだけじゃ駄目なのかしら。 …は? ね、お父さん? だから、父じゃねえっつってんだろが。 いい加減止めろ、紗枝。 怒る? …。 玲? …疲れた。 お前も部屋に戻れ。 …。 ……。 …ねぇ。 …。 …今度は二人で。 買い物以外だったらな。 …。 …戻れ、紗枝。 ……紗希に。 …。 拗ねられちゃうかも。 …だったら、紗希と行けよ。 …。 …。 …玲は、本当に不器用ね。 もう少し、コミュニケーション能力を上げなきゃ駄目よ? うるせえ、ほっとけ。 ほっとけたら、ここにはいないと思うなぁ。 …ふん。 …。 …て、なんだよ。 さぁ、なんだと思う? 知るか。 …紗希が不貞腐れちゃうかも。 あーくそ、意味が分からねー…。 もしもし? 『あ、お姉? 良かった、繋がった。』 しっかり者の妹に言われましたから。 それで、どうしたの? 『今、大丈夫?』 ええ、大丈夫よ。 一応、自由学習の時間だから。 『…玲は?』 さぁ? 『割と放置してるよね。』 縛って言う事聞くような人じゃないもの。 『するつもりもないんじゃないの?』 しようと思えば出来るけど。 疲れるし。 『……。』 玲の話、聞きたかったの? 『ち、違うよ…!』 そう? 『そうだよ、なんでバカ玲の話なんか!』 うーん、素直じゃない。 『は?』 まぁ、良いけどね。 それで、なぁに? 『え、と……そう、あいつがいじけてるみたいだよ。』 あいつ? 『お姉があいつとの約束、すっぽかしたから。』 ああ、あいつね。 お母さまに慰めてもらってるから大丈夫じゃない? 『あはは、お姉きつい。』 紗希。 『…?なに?』 大丈夫? 『…なんで?』 聞いてみただけ。 『なにそれ。』 玲、楽しかったみたいよ。 紗希と遊べて。 『あたしは全然、楽しくなかったんだけどー。お姉と二人で遊びたかったのにさぁ。』 ふふ。 『でもまぁ、パンケーキはおいしかったかな。』 それ、玲に言っておく? 『いい、次は違うの奢らせるから。』 次、ね? 『…言っておくけど、仮定の話だからね。誰も玲と遊びたいって言ってるわけじゃないから。』 じゃあ、紗希。 次はどこに行きたい? 『え、連れて行ってくれるの?』 次は…そうね、水族館なんて行ってみる? 『行く行く!お姉と一緒なら 玲も引っ張っていくから。 『…えー。』 次は何を奢ってもらうか、考えておけばいいじゃない? 『……・。』 引っ張り出さないと、剣ばかりなのよ。 あの人。 『…お姉は玲の事になると、ばかになるよね。』 ばかと付き合うには、そうならざる得ないのかも? 『止めて。』 そう? 『そうだよ、と言うかお姉に玲のばかが伝染るとか、ありえないから!』 残念。 『お姉。』 はーい。 『…それで次っていつ?』 紗希の予定は? 『と言うか、お姉たちの予定を聞いた方が早いよ。』 達? 『………。』 玲、首に縄を括ってでも引っ張っていくから。 『…お姉。』 予定、目途がついたら連絡するから。 『うん。』 紗希。 『…なに?』 大丈夫? 『…大丈夫だよ、あたしは大丈夫。』 …そう。 それじゃあ、そろそろ。 『え、もう…?』 学生の本分に戻らないと。 またね、紗希。 『…うん、またね。お姉。』 は? だから、久しぶりに聞きたいなって。 …何をだよ。 玲のピアノ? ……。 この部屋にはないけど。 音楽室に行けばあるわよ? わざわざ行って弾けって? そう聞こえた? そうとしか聞こえねー。 なら、話は早いわ。 誰も行くとは言ってない。 私にはそう聞こえたけど。 どんな耳だよ。 こんな耳かな。 …おい。 どんな耳って言うから。 …あたしは行かねー。 指先を動かすのは呆け防止に良いのよ? 生憎、まだそんな歳じゃねーよ。 年齢なんて関係ないって、玲は知らない? …。 何、弾いてくれる? 話を進めるな。 ああ、折角だから黒鉄さんも呼んじゃおうかな。 なんでだよ! 弟子に師匠の意外な一面を見せるのも 弟子じゃねー! とか言って、可愛がってるくせに。 あの可愛さ、とてもじゃないけど私には真似出来ない。 かわいがってねーし、真似しなくてもいーだろ! …どうして? は? 真似。 …する必要、ねーだろ。 …。 大体、クソチビの真似してどうすんだよ。 意味分かんねー。 …。 …。 …やぁね、玲。 …は? 女心がまるで分からない。 …分からなくて結構だ。 黒鉄さんにね。 …。 玲の嫁って、言われたの。 ……は? 貴女の嫁。 …は、なんだそれ。 玲の嫁だったら。 …。 面倒じゃなかったのにね。 …どーだかな。 でも、それはそれで笑っちゃうけど。 あたしもだ。 …。 …。 …じゃあ、行きましょうか。 は、どこに。 決まってるでしょ? 音楽室。 …お前な。 だって、聞きたいんだもの。 …だもの、じゃねーよ。 …。 …仕方ねーな。 一度だけだからな、紗枝。 ……。 ……。 …紗希、ね。 ……。 …やっぱり楽しそうだったなって。 ……。 ……うちの事情、知ってるでしょ。 ……。 ……私が駄目ならって。 ぶっ潰せ、そんなもん。 ……。 …一度、ぶっ潰したんだ。 どうってこと、ねーよ。 …そうかなぁ。 出来なきゃ、やってやる。 …。 …なんだよ。 なーんか、玲のくせにって。 …は? ……。 ……。 …なんか、吹っ切れた。 あ…? …こっちの話です。 で、玲。 なんだよ。 次は水族館。 は? ペンギン、見たくなっちゃって。 ペンギンってたまかよ。 可愛いじゃない、飛べない鳥。 かわいい…は、分かるけど、なんだよ。 飛べない鳥って。 あら、玲知らないの? ペンギンは鳥なのよ? 知ってるよ。 ただ、あたしは …。 …いや、なんでもねぇ。 なに、玲が濁らすなんて。 槍でも降るんじゃない? 降れるもんなら、降ってみろ。 全部、弾いてやるから。 玲ならやりかねないわねぇ。 は。 ……。 …もう、いいか。 ううん、もう一曲。 はぁぁぁ? アンコール? お前な…。 ……。 …しょうがねぇな。 あと一曲だけだぞ。 玲。 んだよ。 あのまま、玲がピアノを続けていたら。 …。 どっかで、やっぱりぶっ壊してたかもね。 は…違いねーな。 d o r e d d o 3 9 |