Strange Medicine -after
悔しくて、腹が立って、頭にのぼった血はいっかな下がる気配を見せなくて。思いつく限りの罵詈雑言を喚き散らした心の中では珍しく積もった都会の雪なんて目じゃないくらいブリザードが吹き荒れていた。
ばか、最悪、死んでしまえ。 事実叩きつけた罵倒の数々は、後になればなるほど陳腐な繰り返しになって、まるでこちらが駄々をこねているかのような響きを帯びる。……冗談じゃない。ショルダーの紐を握り締めた手を包む手袋は菜々のプレゼントで、しかめた口を隠すマフラーは令ちゃんの手作りで、ブーツは秋口にふたりの親友と一緒に買ったものだ。やけくそのように早歩きをしてる足は正直でもうだいぶ筋が張っている。だるくて、重い。
昨日の私に、ふざけるな、と言ってやりたかった。 のこのこと魔窟に向かったことからしてそうだし、相変わらずおちょくられっぱなしだし、、湧いて出た苛立ちは全部ぶつけたのにちっとも揺るがなくて、結局あいつに乗せられて、流された。 そう、流されたのだ。腹立たしいことに。
してよ、という声がまだこびりついている。 最中の誘い文句とか、喘ぎ、とか、した後の掠れ気味の声も気持ち悪いくらい艶っぽかった(そしてもちろん私はそれを気持ち悪いと口に出して罵った)けれど、平温のまま、見つめられて、腕を取られた、肌が粟立った。あの瞬間に引きずり落とされたのだ。たぶん。 ……あの、蜘蛛女が。
新しい罵倒を毛糸に埋める。あいつのいいところなんてさっぱりわからないから、令ちゃんも志摩子さんもちっとも理解できない。どこがいいんだか。わかりたくもない。だからずっと堂々巡り。 何も変わらなかった。変わらないままのセックスは、夢見てたわけじゃないのに想像よりずっと現実的だった。会話の応酬もいつも通りで、傷つけてやりたかったけどもう一度噛み付くことはできなくて、ムキになって指を乱暴に動かしたら江利子は高く鳴いた。くずおれてから目を細め、キスをねだるなんて可愛げはなくて自分から塞いで舌まで入れてきた。 正しい応え方なんて知らない。半分やけで呼吸を奪っていたらのしかかられ、体勢は変わったのに役割は変わらないまま二回戦にもつれ込んで。 慣れてる、と思うことは私の大事な人を汚す気がしたから腹が立って仕方ないけど抱いてる彼女のことだけ考えた。江利子、はじめて呼び捨てたとき私は初めて極上の笑顔とやらを見た。他のどんな行動よりも、それなりに積み上げて来た年月の思い出よりも。 ばっかじゃないの。 知りたくなんかなかったのに。
毒づいて、首をぶんと振る。今朝からずっと腹にたまり続けている悔しさの理由は知りたくない、わかりたくない。
……だから、嫌いなんだ。
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