この想いは時をも止めて、全ての一瞬をきらきらと輝かせる。 私の時間はただ、あなたの笑顔だけを刻んでいく。 部屋に漂ってきたい香りに、ミレイユは雑誌から顔を上げた。 香り高いローズティー。その芳香は抽出すればするほど高まるけれど、それだけ渋くなる。香りと味の兼ね合いが難しい。 けれど、霧香はそれをいとも簡単に美味しくいれてしまうのだ。一人だったときは、あえていれなかった紅茶だが、最近はこれが一番多い。 目をやったところに、ひょっこりと黒い頭が覗く。 「大丈夫?」 「もちろん」 頷けば、わずかに嬉しそうな顔をして、いったんキッチンに消えてから、その手にプレートを持ってやって来た。 新たに買い求めたティーセットは美しい白磁のものだ。どこまでも白い。 テーブルにプレートを置いて、霧香はミレイユの隣に座る。 霧香はそのまま何をするでもなくぼんやりと、ポットを見つめていた。 雑誌に目を戻していたミレイユはじりじりして、それを投げた。 「ねえ」 「ん?」 「もういいんじゃないの?」 ミレイユは綺麗にマニキュアを塗った指で、ポットを指す。 ポットは未だカバーがかかったままだが、十分に香りは高かった。 「まだだよ。もう少し」 「だって渋くなるじゃないの」 「でも、あと一分」 霧香は全く退かない。 普段ならもう少し素直に言うことを聞くのに。 ミレイユは意外に思いながら、肘置きに寄り掛かる。 心はお茶にスタンバイしているから、とても他のことなどできなかった。今はお茶が飲みたいのだ。 だが、霧香の方はのんびりとした顔で待っている。全く苦でなさそうなところがミレイユには不思議だった。 そして本当に霧香は一分を待ってカバーを外した。その間はただ時計の方にぼんやりと視線を遣って過ごしていた。それもミレイユには驚異的だった。 しかし、霧香が注ぐお茶は綺麗な琥珀色をしていて、部屋に香りが広がる。花や香水にも負けない香りだ。 「あんたは焦らないのがいいのね」 一口飲んで、霧香が正解だということを認めたミレイユはカップを置きながら言った。 「私はすぐ食べたいし、すぐ飲みたいから、待てないのよね。レンジも強制終了して終わらせちゃうし」 それで過去何度しまったと思ったことか。待切れない性分のために、レンジのつまみをすぐにゼロにひねってしまうのだ。特に冷凍食品などは惨澹たるものである。 だがそれも、霧香が来てからはなくなったような気がする。霧香はレンジの前に立って待てるのだ。当然、ミレイユには信じられない。 「あんたの煎れるお茶、好きよ」 ミレイユはにっこりと笑った。 霧香は黒い瞳を大きく見開いてから、へへ、と少しだけ笑った。 「私も・・・・」 霧香の細い声は、キッチンでけたたましく沸き上がったヤカンの音にかき消されてしまった。 ヤカンをかけっぱなしにしていた霧香は慌てて立ち上がる。 しかし、ミレイユはその手首を掴んだ。 「何て言ったの?」 霧香のどんな些細な言葉でも聞き逃したくなかった。彼女の言葉は少なく、貴重だったから。 ミレイユに問われて、霧香の瞳が揺れる。 ヤカンはまだ高らかに主張していた。 霧香は決心したような顔をすると、そっとミレイユの耳に口を寄せた。 「 霧香を拘束していた手が緩む。 その隙に、霧香はキッチンへと火を止めに駆けていった。 独り、リビングに残されたミレイユは赤らんだ頬に手をやった。 「馬鹿・・・」 ミレイユはこの仕返しをしなければとキッチンへ向かった。 霧香は沸かした湯をポットに移しかえて、重いポットを安置していた。シンクからはほんのりと湯気が立っている。 ミレイユの気配に気づいて、霧香が振り返った。 「?・・どうしたの?」 「あんたに用があって」 「えっ?」 霧香が怪訝そうに眉を寄せた。 ミレイユは心中で得意気に笑いながら、霧香の傍に寄った。 いざとなると恥ずかしいが、それを堪えて復讐を果たすために息を吸う。 「私もよ」 ミレイユがきっぱりと滑り出した言葉に、曇り顔が一転、花が綻ぶように輝いた。 そのとても幸せそうな顔に、ミレイユは優しく顔を和らげた。 「好きよ」 今度はただ素直に呟く。 その言葉だけで、一欠片の不安も悲しい思い出も塗りつぶせるのなら、幾らでも耳が潰れるまで与えたい。 その顔が曇ることのないように、傍に在るときはただ笑顔でいられるように。 せめて、この一瞬だけは。 ミレイユはそっと霧香に口づけた。 大切なあなたにただ一つの言葉を。 |
−橘花さんより− 2002.11.3 管理人から 心の友である橘花さんから頂きました。 ウチのサイトが一周年ということで書いてくれましたですよ☆ う〜ん、ワンダホ〜!! ちなみに彼女はノワールを見たことがなく、もちろん、ミレ霧のこともよく知らないというのに、 この出来は何なんでしょう、奥さん!! いや、25、6話を見せたことはあったっけか(笑) それにしても。 いや、もういいねぇ!! 読んでいて、つい顔が綻んじゃいましたデスよ? にしても、ミレイユさん、せっかちすぎだって〜(笑) 流石、オトコマエ。(違) そしてお茶の達人、霧香さん。 私にもお茶を淹れて☆って感じ。(馬鹿か) …どこぞの誰かに撃たれそうだけど。 つーかミレイユに飲んでもらうお茶だからこそ、 美味しく淹れられるのかもしれません。 私も、こういうほのぼのとして清々しいものを書いてみたいものです。 …む、無理っぽい。 素敵な小説、ありがちゅ〜〜w もうちょっとしたら、挿絵をつけるからね〜。 そしたらちゃんと送り付けちゃるけんのぉ!(笑) |