おかえりなさい、ねぇさま!!


   ゆ


   ただいま、由乃!!!!


   わ…。


   良い子にしてた?
   夜に熱、出さなかった?


   ちょ、れいちゃ…。


   夜、私が居なくても眠れた?
   ご飯、ちゃんと食べられた?
   由乃は小食だから、心配だったんだよ。


   ……?


   それからそれから…。


   …!


   淋しく、なかった…?


   …い。


   え、なに?


   くさい…!


   え゛…。


   いや、はなれて…!


   えぇ…。


   さわらないで、れいちゃん!


   よ、由乃、な、なんで…。


   こないで!


   よ、由乃ぉ…。


   こないでっていってるの…!!


   な、んで…。


   ばか!!!


   ま、待ってよ、よし


   こ、な、い、で!


   ………なん、で。


   ふぅ。
   れーい。


   ……おねぇさま。


   とりあえず、お帰り?


   …只今戻りました。


   無事で何より?


   …ありがとうございます。


   でも術も利かなさそうなくらい、瀕死な顔、してるわね?


   ……お姉さま。
   由乃はどうして…私、ずっと楽しみにしてて…由乃も屹度、待っててくれてると思って…だから…。


   ええ、待ってたわよ。
   そわそわしすぎて、熱を出したくらい。


   熱、出したんですか…?!


   まぁ、軽くね。
   直ぐに薬湯を飲ませて寝かせたから、大した事にはならなかったわ。


   然う、ですか…。


   で、令。


   ………はい。


   子供は穢れを嫌がる生き物だから。


   ……はい?


   鬼の血、令の血、其の他諸々が染みこんだ装束のまま、抱き締めたら。
   そりゃあ、嫌がられるわよ。
   盛大にね。


   ………あ。


   抱き締めたいのなら、さっぱりしてきなさいな?
   お風呂なら


   はい、お姉さま!
   直ぐに行って参ります!!


   はい、行ってらっしゃい。
   報告、忘れずにね。


   はーい!
   由乃!!


   …。


   さっぱりしてくるからね!
   待ってて!!


   …。


   …え、えと。
   よしのさん、れーさま、いっちゃうよ。


   …れいちゃんの、ばか。


   あはは…。


   …こほん。


   …え?


   ゆみ。


   あ。


   ただいま、ゆみ。


   おかえりなさい、ねぇさま!
   ごぶじでなによりです!


   貴女も良い子にしていて?


   あい!


   はい、でしょう。


   あ…はい!


   宜しい。


   祥子、お帰りなさい。


   …蓉子さま。


   お帰り、祥子。


   ……。


   あら、私は無視?


   …只今戻りました、当主様。


   なーんか、棘があるんだよなぁ。
   いちいち。


   …ゆみ、行きましょうか。


   あ…。


   祥


   ご報告は後でちゃんと致します。


   待って。


   …何でしょう。
   ああ、ゆみの面倒、まことに有難う御座いました。


   …。


   家族だもん、当たり前じゃん。
   お礼を言われることじゃ無いよ。
   ねぇ、蓉子。


   …然うでしたわね。


   あ、あの、ねぇさま。


   …何、ゆみ。


   わたし、よーこさまとせーさま


   聖さまは当主様よ。
   名などでは無くて、当主様とお呼びなさい。


   あ…。


   えー、私は別に気にしないのに。
   寧ろ、


   いいえ、然うはいきません。
   貴女のような人でも一応はこの家の主なのですから。


   刺々しい事、この上無いねぇ。
   妹はこんなに可愛いのに。


   ゆみに触らないで下さい。


   お、と。


   行くわよ、ゆみ。


   ねぇさま…。


   蓉子、良いのかしら?
   行っちゃうわよ。


   …江利子。


   全く。
   どうしちゃったの、蓉子。
   いつまでもなんて、らしくないわよ。


   ……。


   て、軽々しく蓉子の肩を抱くな、でこちん。


   あら、失礼?
   つい手が。


   つい、って顔じゃないっつーの。
   たく。


   …。


   あら、怖い顔ね。
   相変わらず。


   …お言葉ですが江利子さま。
   生憎、これが私の顔ですので。


   ねぇ、祥子。


   …何でしょうか。


   子供は穢れを嫌うわよ。


   存じております。


   ごめんなさいね、うちの妹が先に行ってしまって。


   構いません。
   討伐中もずっとあんな感じだったので。


   然う?


   はい。
   手が空けば、由乃の事ばかりでした。


   貴女も?


   …。


   あ、あの、ねぇさま!


   …大きな声を出さないの。


   あ、あう…。


   で?
   何。


   わたし、よーこさまとせー…とーしゅさまとおふろ、はいりました。


   な…。


   とっても、たのしかったです。


   ……。


   …別に睨み付けなくても良いじゃん。


   どうして貴女まで。


   だって蓉子は私の良人だもん。
   一緒に風呂に入る事ぐらい、あるさ。


   …蓉子さま、何を考えているのですか。


   …。


   ゆみにまで、私と同じ思いを…!


   それは違うわ、祥子。


   何が違うのですか…!


   ひぁッ


   祥子、感情的にならないで。
   祐巳が驚いているわ。


   私は感情的になどなっていませんわ…!


   ね、ねぇさま…。


   おーおー怖いねぇ。
   こんなおっかないねーさまの傍に居るより、さ、こっちへおいで。


   触らないで!!


   …お、と。


   祥子、聖…当主様に手をあげるなど


   ……触ろうとしたのがいけないのです。


   だからって


   …兎も角。
   私が帰ってきた以上、ゆみには手を出さないでくれませんか、当主様。


   手を出すなんて。
   人聞き、悪いなぁ。


   間違った事は言って


   ま、それは兎も角。


   …。


   ……て、さらっと流すか、でこちん。


   今、ゆみちゃんに触らない方が良いのは、祥子の方ね。


   な、何を…。


   言ったでしょう?子供は穢れを嫌うって。
   貴女も、令に負けず劣らず、臭いのよ。
   然う、鼻が曲がってしまうほど。


   …ッ


   なんて。
   本来は蓉子の台詞なんだけどね。
   ねぇ、蓉子。


   ……。


   そういや聞いた事があるかも、それ。


   言われた事は無いけれど。


   私はあるわ。


   でしょうね。
   何しろ、貴女のお姉さまの言葉だから。


   …ええ。


   …。


   …ねぇさま。


   然う言うことだから。
   令の次、入っちゃいなさい。


   …分かってますわ。


   じゃ、それまではこっちにおいで、ちび。


   …で、でも。


   おいで、祐巳。


   はい、よーこさま。


   …!


   お、懐いてるね。
   流石。


   ……。


   あ、今、舌打ちした?


   してませんわ。


   ほんとかなぁ?


   …失礼致します。


   の、前にー。


   …未だ何かありますの。


   挨拶。
   ちゃんとしないとね。


   …?


   お帰り、って言われたでしょや?
   これ、大事なんだよ?


   …。


   蓉子には言ってない。
   でしょ?


   ……。


   ちゃんと言わないと。
   待ってた人間は、心配、だったんだからさ。


   ……。


   でしょう?
   蓉子。


   …聖。


   子供が親の真似をしてるみたいね。


   うっさい、でこちん。


   ……。


   蓉子、もっかい。


   …お帰り、祥子。
   無事で…良かった。


   …。


   祥子、今の蓉子は然うでもないけれど昔の蓉子だったら言うまで家に入れてくれないところよ?


   …江利子、私そこまでじゃ


   ねぇ、天狗面。


   うんうん、然うだった。


   …もう、聖まで。


   へへ。


   ……ま


   ん、何か言った?


   …。


   天狗面はもう、何も言わない方が良さようよ?


   ちぇー。
   てか天狗面言うな、でこっぱち。


   お帰り、祥子。


   …。


   祥子…。


   …ただいま戻りました、お…蓉子さま。


   …はい。








   由乃ー!!


   …げ。


   お待たせ!
   さっぱりしてきたよ!!


   ぎゃ…。


   これでもう、大丈夫だよね?


   ……。


   ふむ。
   凄い顔ねぇ。


   ?
   由乃?


   ばかー!


   え、え?


   ちゃんとふいてよ!


   え…。


   つめたいじゃない、もう…!


   えぇぇ……。


   令、髪の毛から雫が垂れてる。
   その様子じゃ廊下も濡らしたんじゃない?


   ……だって一刻も早く由乃を抱っこしたくて


   いまは、いや。


   ………うぅ。


   まぁ、ちゃんと拭きなさいな。
   風邪、ひいちゃうわよ?


   ……おねぇさまぁ。


   ちなみにわたしも嫌よ?
   濡れたまま抱っこされるのは。


   ………はい。


   ところで。
   祥子には伝えた?


   祥子…?


   お風呂、空いた事。
   あの子も待ってるから。


   あ…。


   でしょうね。


   …言ってきます。


   良いわ。
   私が行く。


   え、けど…。


   良いから。


   …それでは頼んでも宜しいでしょうか。


   好きで行くのだから、わざわざ頼まなくても良いわよ。


   …はぁ。


   …。


   ん、なぁに?
   由乃。


   …べつに。


   若しかして、淋しい?


   …ちがいます。


   じゃ、一緒に行く?


   いきません!


   ああ、然う。


   ……。


   んー?


   …なんでもないです。


   ふぅん?


   …。


   然う言えば。
   今夜からはもう、一緒に眠れないわね?


   …は。


   え、お姉さまと一緒だったんですか?


   そりゃあ、一応ね。


   あ、然うですよね。
   良かったね、由乃。


   …。


   淋しくて眠れなかったのよねー?


   …!


   え、然うなの?
   由乃。


   そ、そんなの…!


   ゆみちゃんは蓉子と、おまけに聖まで居たから。
   大変、にぎやかだったみたいだけれど。


   当主様さま?


   だって蓉子よ?


   あー、然うですね。


   ま、こっちも志摩子に言って三人川の字でも良かったのだけど。


   志摩子に、ですか。


   滅多に無いじゃない?


   無いですね、確かに。
   けど少し、おかしいですね。


   だから、良いんじゃない。


   ……あれ。


   ……。


   まさか、お姉さま。


   ん?


   本当にしたのですか?


   ええ、したわよ。


   …。


   …。


   たまには、ね。


   たまには、ですか。


   …。


   志摩子は良い匂いがしたでしょう、由乃。
   令とは違う、ね。


   ……。


   …と言うかお姉さまと同じお布団では無かったのですか?


   だって嫌がるんですもの。


   由乃が?


   ええ。
   ねぇ、由乃?


   …だってでこちんが


   だからこっそり、入ってやったわ。


   ……。


   ……あさになるといつも、いっつも!


   は、はは…。


   さて、と。
   ぐずぐずしていると湯が冷めてしまうわね。
   ちょっくら行ってくるわ。








   …。


   …。


   …。


   ふむ。


   …。


   …。


   …とーしゅさま。


   何と言うか、重苦しい雰囲気だねぇ。


   …祥子。


   …何でしょうか。


   家の中に


   穢れた姿で入るわけには参りませんので。


   …然う。


   あの、ねぇさま。


   何かしら、ゆみ。


   さむくは、ありませんか…?
   それにおつかれに…。


   大丈夫よ。


   で、でも


   大丈夫だから。


   ……あい。


   『はい』。


   …はい。


   でもサァ、祥子。


   ……。


   こっちとしては、寒々しいんだよね。
   そんなトコロで突っ立っていられると。


   …気にしなければ良いだけですわ。


   いや、でもねぇ。
   だったら場所変えろ、と言うか。
   何も私達の部屋の前に居なくても。


   …私達。


   然う。
   私と蓉子の、ね?


   …。


   …聖。


   て、実際は未だなんだけどね。


   …ゆみを離してくれませんか。


   別に捕まえているわけではないんだけど。
   ねぇ、蓉子。


   …。


   ちびすけは蓉子のお膝がお気に入りなのよね。


   誰がちびすけですか…!


   て。
   噛み付くトコ、其処?


   ゆみにはちゃんとした名があるのです。
   それを


   じゃあ、祥子。
   このちびの名の字、知ってる?


   ……それは。


   私は知ってるもんねー。


   ……。


   ……聖。


   行く前には決まってたのに。
   聞いていかなかった祥子がいけないんだよ、蓉子。


   それは私が


   何にせよ。
   意固地になればなるほど損するってコトだぁね。


   ……。


   ……。


   てかさ。
   蓉子も、らしくない。


   …分かってるわ。


   よーこさま…?


   何でも無いわ、祐巳。


   そうそう、ちびが気にすることじゃあ無い。


   う、にゃ…。


   うはは、しっかしちっこいなぁ。
   どれ、聖さんの膝にも座らせてみようか


   …ひっ。


   …な?


   ……。


   …うーん、何やら物騒な気配。


   う、うぅ…。


   ……。


   祥子、止めなさい。
   祐巳が


   ……。


   …ちと、やばいかな。


   ……。


   ね、ねぇさ…ま……。


   ……。


   あ、あぁ…。


   祥子、止め


   蓉子。


   聖、でも。


   祥子さぁ、それ以上やったら…


   ……。


   …ちびが、中るよ。


   …ッ。


   止めておけ、て。


   ……く、ぁ。


   …ね?


   は、ぁ……。


   祥子!


   ……はっ、はぁっ。


   聖も止めて!


   やだなぁ。
   ほんの少しだけ、返してやっただけだって。


   ……。


   でも、分かったでしょ。
   鬼の気なんぞ、“外”で出すもんだよ。
   ましてや、家族に中てるもんじゃあ無い。
   然う、蓉子から教わったでしょや?


   ……はぁ。


   祥子、大丈


   …蓉子さまは。


   …。


   そうやって私から…私の大事なものを、奪ってしまわれるおつもりなのですね…。


   奪うだなんて。


   私から、“お姉さま”も”妹”も。
   全て、全て、“当主様”に。


   私はそんな事しない、していない。


   ……だって然うではありませんか。
   貴女は私を





   あー。
   お取り込み中のところ、失礼をするのだけれど。





   なんだ、でこちん。


   祥子、お風呂どうぞ?
   令、出たから。


   ……。


   て、早いなぁ。


   まぁ、由乃の事で頭がいっぱいだから。


   大丈夫なのかよ。


   臭いは無くなってたから。


   ま、どうでも良いけど。


   でしょうね。
   蓉子。


   …うん?


   祥子が出てきたら報告。
   でしょう?


   ええ。


   令にも言っておくから。


   お願いね。


   はいはい、と。
   じゃ祥子、冷めないうちに。


   …。


   祥子。


   ……はい。








   それでは此度の討伐結果について、報告致します。


   うん。
   手短に、ぱぱっとね。


   では。
   此度は土偶器四体、及び、アガラ封印像を討ち果たして参りました。


   うん、お疲れ。


   また、此度の討伐面子は私と祥子の二人だった為、最奥の大将には挑みませんでした。


   うん、無難。
   ま、日数も多く言わなかったしね。


   またおどろ大将を三体。
   あとはだいだら坊を一体。


   うん。


   他、


   まぁ、それなりには稼いできたってコトだね。
   どう、蓉子。


   ええ。
   暫くは大丈夫でしょう。


   だってさ。
   良かった良かった、暫く飯には困らない。


   それから蓉子さま、持ち帰った品が幾つかあるので見て頂けませんか。
   若しかしたら価値のあるものも紛れてるかも知れません。


   ええ、勿論。


   ……。


   んで、祥子は?
   何か言いたい事、ある?


   …いえ、特にはありませんわ。


   祥子、令の報告だけで事足りているの?
   貴女からは何も無いの?


   はい、ありません。


   祥子、本当に


   ま、良いんじゃない。
   無いなら無いで。


   …聖。


   無いんでしょ、祥子。


   はい。


   じゃ二人とも、下がって良いよ。
   ご飯が出来るまで、各自、思うようにゆっくりしてちょーだいな。


   はい、当主様。
   有難う御座います。


   ……。


   あ、然うだ。
   祥子。


   ……はい。


   蓉子、今、言う?


   …え。


   ちびの名の事。


   …然うね。


   お言葉ですが、今は聞きたくありません。


   何で?
   丁度良いじゃん。


   名は大事なものです。
   それをもののついでなどでは聞きたくはありませんわ。


   別についでってわけじゃ無いんだけどなぁ。


   丁度良いと言ったばかりでは御座いませんか。


   だって丁度良いじゃん。
   祥子だって早く知りたいでしょや?


   私はそんないい加減な流れで己の、大事な妹の名を聞きたくはありません。


   いい加減、ねぇ。


   …ねぇ祥子、いい加減素直になりなよ。


   素直にですって?


   だって気になってはいるんでしょ?


   いいえ。


   またそんな無理して


   してないわ。
   口を出さないくれる、令。


   …と言うか、その態度がね。


   当主様、蓉子さま。


   んー?


   …。


   無礼を承知で申し上げますわ。
   今は聞きたくはありません。


   …だってさ、蓉子。


   …。


   え、えと。
   祥子は帰ってきたばかりで疲れてるんです。
   だから


   私は疲れてなど


   …祥子、突っぱねるにはそれなりに理由ってのが必要なんだって。
   ましてや相手は当主様と蓉子さまなんだから。


   …。


   ま、私は別に良いよ。
   けどそろそろ蓉子を解放して欲しいな。


   …解放?


   最近の蓉子は直ぐに沈む。
   祥子のせいだ。


   …聖、何を。


   喧嘩、とは言い難いけれど。
   でも要因は確実に君。
   分かってる?


   ……よくも、いけしゃあしゃあそのような事を、


   あ、あー。
   じゃ、じゃあ、また後で。
   祥子、行こう。


   令、私は


   良いから!
   じゃあ当主様、蓉子さま、失礼致します!!


   うん。
   じゃね、また後で。


   令、離して!


   今の祥子は離せないよ。
   離したら多分、噛み付くもん。


   人を猛犬のように


   祥子。


   ……。


   わ…。


   後で話をしましょう。


   ……。


   夕餉の後、私の部屋に来て頂戴。
   若しも疲れているのなら…


   私も一緒でも良い?


   聖、お願い。


   ……むぅ。


   聖。


   ……夜、一緒なら我慢する。


   ……ええ、良いわ。


   うん、じゃ良いや。


   名については夕餉の時に言うわ。
   皆にも知らせるべき事だから。
   良いわね、祥子。


   ……それは命令なのですか。


   命令ではないわ。
   けれど大事な事だから、皆の前で言うの。


   食事の時に


   それが最も和やかな時間だから、よ。


   ……。


   令もそのつもりで。


   は、はい。


   それじゃ…また夕餉の時に。
   部屋に来るか来ないかは、その時に聞かせて頂戴。


   ……。


   …行こう、祥子。
   ゆみちゃんが待ってるよ。


   ……。








   …。


   …さま。


   …。


   …ぇさま。


   …。


   ねぇさま。


   …え。


   ねぇさま、どうしたんですか?


   ……ああ、ゆみ。


   やっぱり、おつかれなんですか?


   …大丈夫よ。


   けど、あんまりおかおのいろが…。


   大丈夫だから。
   それで。


   あい?


   …。


   …ねぇさま?


   言葉、大分覚えたようね。


   はい、よーこさまといっしょにおべんきょうしました。


   …当主様は?


   あ、はい。
   とーしゅさまもいつもいっしょでした。
   ゆみのこと、いつもからかうです。


   ……然う。


   よーこさまに、おにわのおはなのなまえ、おしえてもらいました。
   はるになったら、あかとしろのうめがさくそうです。
   ちいさくて、とてもかわいいおはななんだそうです。


   ……。


   それからたんぽぽのたねは、わたといっしょに


   ゆみ。


   …?


   …何でも無いわ。


   …。


   ……。


   ……ねぇさま。


   …本は読んだ?


   ほん?


   蓉子…お姉さまが読んで聞かせてはくれなかった?


   あ、はい、おひざのうえでよんでくれました。


   膝の上?


   あ、えと…おひざのうえにおすわりしたです。


   …何を読んで貰ったの。


   ん、と、もうこうねんです。


   …春暁?


   えと、はるはあかつき、なんです。


   春眠、暁を覚えず、ね。


   !
   あい!


   …で?


   たまにせーさま…えと、とーしゅさまがよーこさまをうしろからだっこして、それから


   もう、良いわ。


   あ…。


   …もう、良いから。


   ………あい。


   …。


   ねぇさま…。


   ……。


   祥子、そろそろ夕餉の時間だってさー。


   …あ、れーさま。


   ごきげんよう、ゆみさん。


   あ、ごきげんよーよしのさん!


   …。


   あれ、どうしたの?


   …何でも無いわ。


   あ、分かった。
   お腹が減って元気が無いとか?


   違うわよ、貴女と一緒にしないで。


   ふぅん。
   じゃ、一緒に行こう。








   今日の夕餉は祥子さまと令さまが稼いできて下さったので大奮発!
   なぁんとぉ!お肉です!しかもこのイツ花、腕を振るいまくって鶏肉を照り焼きにしてみました!!
   ご飯のお代わりもありますので、皆様!
   バーンとぉ!食べちゃって下さいネ!!








   ちび。


   …はい?


   こっちにおいでおいで。


   え。


   おいでおいで、今夜は特別に聖さんの膝に乗せてあげよう。


   でもわたしは…。


   良いから良いから。


   で、でも…。


   …。


   さ、おいで。


   …よーこさま。


   聖、祐巳はもう一人で


   今日だけだから、さ?


   聖。


   良いじゃん。
   蓉子だって乗せてたじゃん。


   それは未だ歩けなかった時の話。
   今はもう


   うっそだぁ。
   昨日のお昼とか、お座りさせてたじゃん。


   それは聖が無理に


   て、事だから。
   ちび、おい


   ゆみ。


   は、はい。


   このまま、此処に座っていなさい。
   勿論、一人で。


   …あ


   『はい』。


   ……はい。


   祥子、そりゃ無いよ。


   無駄に甘やかすのは止めて頂けませんか。


   甘やかしてるわけじゃあ無いよ。
   可愛がろうと思ってるだけ。


   それを甘やかしていると言うのです。


   良いじゃん、今夜だけだからさ?


   …。


   祥子ー。


   …ゆみ。
   箸の持ち方が違ってよ。


   あ…。


   おーい。


   それでは上手につかめないわ。


   はい。


   …ちぇー。


   聖、子供達の前。


   仕方無いなぁ。
   じゃ、蓉子おいで。


   …は?


   今夜は特別、聖さんの


   莫迦な事言わないで。


   たまには良いじゃない。
   聖さんの膝に座ってごはん。


   …冗談でも止めて。


   冗談じゃないよ?


   もっとタチが悪いわ。


   一度で良いからやってみたかったんだよね。


   やりません。


   一度だけ。
   ね?


   しません。


   よーこ?


   さっさと食べなさい。


   照れちゃって。


   照れてません。
   大体、私が膝に座ったら貴女が食べ辛くなるわよ。


   あ、何、そっちの心配?


   現実的な問題を言っただけよ。


   もう、蓉子さんったらかわいいな。


   あーもう、うるさい。
   早く食べなさい。


   蓉子さま。


   …え?


   聞かせて頂きますわ。


   …。


   字を。








   祐巳…。


   然う。
   この子の名は“祐巳”。


   …。


   示すは神の意符、右が音符で、助ける意を表す。
   それから貴女の祥の字から付けているの。


   ……。


   祥子の祥は、神が与える幸い…けれど、神に頼らずとも己の力でもって幸いを得られるように。
   祐巳もまた…。


   ……。


   巳は、干支のへび。
   五行では火。
   まもる、と言う意味も持っているわ。


   ……。


   でもって、字画も悪くないんだってさ。


   ……。


   祥子?
   聞いているの?


   ……。


   …ねぇさま。


   先刻からずっと返事無し、だよ。
   気に入らないんかねぇ。


   …それは。


   何?


   それは蓉子さまがお考えになられたのですか。


   …然うよ。


   寝ずに考えてたよねぇ。


   当主様の干渉は一つも無かったと。
   言えるのですね?


   …。


   そりゃ、然うだよ。
   だって当てる字を考えるのは、蓉子の役目じゃん。
   ねぇ、蓉子。


   …いいえ。


   て、蓉子。


   ……矢張り。


   …。


   それで?
   当主様はどういうお考えでこの字にされたのですか。


   考えで、と言うか。
   其の字を考えたのはどこまで行っても蓉子だよ。
   私は本当に一つも考えてないし。
   ね、蓉子。


   …蓉子さま。


   …確かに。
   この字を考えたのは私よ。
   けれど幾つか候補があったの。
   それで…


   夜も寝る時間だって言うのに、蓉子がずっと悩んでるみたいだから、さ。
   これが良いんじゃないって、ね?


   …まさか、適当なのですか。


   いや、違うさ。


   …。


   パッと見、良さそうだったから。


   …!
   それを適当と言うんですわ!!


   違うって。
   ちゃんと良さそうな気がしたもの。


   違いません!
   蓉子さまも蓉子さまですわ!
   そんないい加減な決め方で私の妹の名を…!!


   祥子、私は決していい加減な気持ちでは


   無い、とあくまでも仰るのでしょうけれど。
   信用出来ませんわ。


   祥子…。


   ね、ねぇさま、ゆみは…


   貴女は黙ってなさい。


   ……はい。


   やれやれ、不信も極みだね、こりゃ。


   …誰のせいだと。


   私のせい、でしょ?


   ……。


   だけどさ、それでどうして蓉子にあたるのかな。
   関係無いじゃんか。


   関係ありますわ!


   いや、無いね。


   ならば、別れて下さい。


   は、なんで。


   貴女が蓉子さまから


   嫌だね。


   ……。


   だって家族だもん。
   別れるコトなんて出来ないし、する気も無いよ。


   私が言っているのは


   一寸、良いかしら。


   はい、でこちん。


   結局、決まりなのかしら?


   何が?


   名前。


   決まりでしょ。
   ね、蓉子。


   ……。


   蓉子。


   …聖。


   一生懸命考えてたじゃん。
   そんな顔してちゃ、駄目だって。


   ……。


   祥子。


   ……私は認めませんわ。


   ねぇさま…。


   私は…


   すみません、当主様、蓉子さま、お姉さま。
   少し、良いでしょうか。


   うん、良いよ。


   どうぞ。


   蓉子も良いよね?


   …ええ。


   有難う御座います。
   で。
   祥子は結局、どうしたいの?


   どうしたいって。
   令、これは大事な事なのよ。
   それなのにこの人達は


   だから、蓉子さまは一生懸命考えてくださった。
   それなのに祥子はずっといやだいやだばっかりで、全然、話を聞こうとしない。


   聞いているわ。


   いいや、聞いてないよ。
   ずっと否定ばかりしてる。


   だってそれは


   祥子、私は良いと思うよ。


   …。


   祐巳、ちゃん。
   ほら、良い感じだ。


   感じって何よ。


   感じってあるじゃない。
   何事にも。


   何事にもって。
   ゆみは私の


   妹。
   ここにいるみんな、分かってるよ。
   祥子が大事にしてるってコトも。


   ……。


   ね、祐巳ちゃん。


   は、はい。


   祐巳ちゃんはどうかな?
   いや?


   わ、わたしは…


   貴女は余計な事を言わなくて


   祥子、祐巳ちゃんの声も聞かなきゃ。
   この子の名前なんだから。


   …。


   で、祐巳ちゃん。
   続けてごらん?


   …わたしは、ようこさまがつけてくれたから、


   うん。


   …このじが、すきです。
   このじが、いいです…。


   だってさ。


   …。


   ねぇ、祥子。
   蓉子さまは屹度、色んな事を考えて、この字を考えたんだよ。
   当主様だって適当っぽい事を言っているけれど、良いと思ったのは本当なんだと思う。


   …。


   …私、そんなに適当っぽいかな。


   …適当っぽいわね、大いに。


   …お前には聞いてねぇよ、でこちん。


   祥子、もっと蓉子さまの話を、声を聞きなよ。


   私は聞いてるわ。


   私には然う見えない。
   討伐に行く前から、ずっと。


   令。


   祥子。


   …どうして私ばかり、責められなければいけないの。


   責めてるわけじゃないよ。


   嘘よ。
   みんな、私が悪いと思っているんだわ。


   悪いとかじゃないよ。


   貴女に私の何が分かるのよ!


   分からないよ。


   なのに、いちいち貴女は


   だから、話さないと駄目なんだよ。
   声に、言ノ葉にして。


   ……。


   私も、だけど。
   何より、蓉子さまと。


   ……。


   私は良いと思うよ。
   今の祥子。


   …嘘よ、そんな事少しも思ってもいないくせに。


   だって今までの祥子はいつだって不貞腐れているように、見てることしか、してこなかった。


   …。


   当主様と蓉子さまが仲良くしていらっしゃるのを。
   ずっと、我慢するように、見てただけだった。


   ………。


   どう思っていたのか。
   聞いてもらいなよ。


   ……。


   だって蓉子さまは祥子のお姉さまなんだから、さ?


   ……。


   蓉子さまだって屹度、答えてくれるし、話をしてくれると思うんだ。


   ……。


   ……ふむ、なんだか令じゃないみたいね。


   ……お前なぁ。


   ……。


   …蓉子。


   …大丈夫よ。


   …まぁ、良い機会だわね。


   …ええ、話すつもりよ。


   …蓉子、私も居るよ。


   …心配してくれているのね。


   …当たり前でしょ。


   …でも大丈夫、一人で話すつもりだったから。


   …けど。


   …大丈夫。


   ……分かった。


   当主様、蓉子さま、お姉さま。


   …ん?
   終わった?


   はい。


   然う。
   じゃ、とりあえず今回はお開きとしましょう。


   だな。


   …。


   良いでしょ、蓉子。


   …ええ。








   ……。


   祥子。


   …!


   中に入りなよ。
   待ってるから。


   …貴女に言われなくても。


   …。


   …人の顔を意味も無くじっと見るのは止めて頂けませんか。


   気持ち悪い?


   …。


   妹、ね。
   そんなに良いものなのかね。


   …貴女にも居るでしょう。


   まぁ、居るね。


   …。


   蓉子は。
   いつだって、君の事を心に置いていた。
   君が来た日から。


   …見え透いた嘘を。


   嘘かどうかは、話せば分かる。
   私はずっと、それが気に入らなかったのだから。


   ……。


   さぁ、お入り。
   蓉子は二人で話したいと言ったから、今日だけは。








   ……。


   …祥子。


   ……。


   祐巳は…?


   …令に。


   …然う。


   ……。


   …座って。


   ……。


   祥子。


   …命令とあらば。


   然うじゃない。


   …。


   どうか、座って…祥子。


   ……はい。


   ……。


   ……。


   …私は聖を、愛している。


   …存じております。


   それは、家族としてでは無く…


   …。


   ずっと、言うべきだった。


   ……。


   聖がこの家に来て、この腕で抱いた時から。
   けれどその時は自覚など、出来ようが無かった。


   …。


   …聖の母親である久遠さまは、自分を見失っていたの。
   自分を失くして、聖をその手にかけようとさえ、したわ。


   …。


   そして後に私の父である勇魚さまがその原因を作ったと聞いた…。
   お二人は互いをとても大切にし、想い合っていた…それ故に、と。


   …。


   とても、悲しかった…。


   …だから、なのですね。


   …。


   先代の二の舞にならぬように、他の者は捨てて。
   ご自分達の想いだけの為に、生きて。


   …然うね。
   然う、見られても仕方が無いわね…。


   ……。


   もう、届かないかも知れない。
   けれど…祥子。


   ……。


   貴女は…私の大事な妹。
   お姉さまの…お姉さまが遺してくれた、大切な人。
   大好きな…妹。


   …ッ。


   …貴女に変わる人なんて、居ない。


   ……。


   ……居ないの。


   …それは。


   …。


   聖さまも、然うなのでしょうね…。


   ……。


   蓉子さまにとって、聖さまは…ともすれば、そのお命よりも。


   ……ええ。


   ……貴女は、自分勝手ですわ。


   …。


   私は、ただ…。


   ……。


   ……この手を、繋いで欲しかった。
   母のようでは無くても良いから…ただ。


   …!


   その瞳に映して欲しかった。
   聖さまのようにじゃなくても良い、ただ妹として…。


   祥子、私は…。


   だけどいつだって、そのお隣には聖さまが居た…。
   私には蓉子さまの…“お姉さま”の隣に立つ場所など、無かった。


   ……。


   ……私、は。


   祥子…。


   あの方さえ、居なければ…と。
   幾度も…然う、幾度も。


   ……。


   そんな事になれば、蓉子さまだって……私の前から居なくなると、分かっていても。
   私は…。


   …。


   ……私は、貴女の隣に立つ事も出来ない。


   ……。


   ……蓉子さま。
   私は本当に貴女の心の中に居るのでしょうか…?


   ……。


   私の居場所は…貴女の中に、あるのでしょうか…?


   ……。


   蓉子さ…ま…。


   ……ごめんなさい、祥子。


   ……ぅ。


   ごめんなさい、祥子…。
   あんなに小さかった貴女に…。


   …。


   今でも、貴女を初めて抱いた温かさを覚えているのに…。


   …。


   …痛みしか、あげられなかった。


   ……。


   聖も、貴女も…大切な命、なのに。
   私は言い訳ばかり探して、天秤に掛けてしまっている事さえも気付かずに…。


   …。


   ……祥子。


   ようこさま…。


   ……。








   ま、どうしようも無い事だと思うけれど。
   実際は。


   …。


   誰かを愛せば、誰かを傷つける。
   想いが叶えば、余計。


   …。


   ましてや、余裕が無ければ。
   ねぇ?


   …


   貴女達は、いいえ、私達は子供だった。
   貴女の親も、蓉子の親も、皆。


   …江利子。


   そして私達は大人にならずに死んでいくわ。
   どこを基準にして、“大人”と決めるのかは知らないけれど。


   ……。


   聖。


   …何。


   蓉子は、死んでしまうわ。


   …何を。


   貴女が居なくなったら、屹度。
   躰だけ残ったとしても、その心が。


   ……。


   …短い生のせい、なんて言わせない。
   でも…。


   ……。


   それだけの事を、貴女はした。
   いいえ、今も尚。
   それを忘れないで。


   …。


   好きで生まれてきたわけじゃない、なんて。
   未だ言うようだったら、殺すわよ。


   …言うかよ、もう。


   そ。
   なら、良いけれど。


   ……。


   何。


   …別に。


   あ、そ。


   ……。








   …?


   ……ゆみ。


   !
   ねぇさま!


   …。


   わ…


   ……ゆみ、ゆみ。


   ど、どうしたんですか…?


   …。


   祥子。


   ……令。


   話、終わったんだね。


   ……。


   ねぇさま…。


   ゆみ…いいえ、祐巳。


   は、はい…。


   貴女は…私、の。


   ……ねぇさま?


   そして…。


   …祥子。


   ……私、ずっと貴女が羨ましかった。


   うん。


   …貴女にはお姉さまが居て。
   私も居る筈なのに…。


   …。


   ずっと、羨ましかったの…。


   …私も羨ましかったよ。


   え…。


   私はお姉さまが大好きだけど…蓉子さまも、大好きだから。
   あの方をお姉さまと呼べる事が、羨ましかった。


   …何よ、それ。


   はは。


   江利子さまの事、大好きなくせに。


   うん。


   ……。


   由乃だって…。


   祐巳ちゃんの事、好きだよ。


   ……欲張りなのよ、貴女。


   然うかな。
   家族、だもの。


   ……。


   当主様と蓉子さまは…家族としての想いだけじゃない、けど。
   でも、始まりは家族なんだよ。


   ……。


   蓉子さまはいつだって、祥子のお姉さま。
   ずっと、ずっと。


   …分かったように。


   だって、然うじゃない。


   ……。


   …ん。


   あ、由乃。


   な、に…?


   ごめん、起きちゃったね。


   …?
   さちこさま…?ゆみさん…?
   なに、してるの…?








   …。


   …蓉子。


   ……せ、い。


   …目、赤くなってる。


   …。


   蓉子。


   ……わたし。


   …。


   わた、し…あ。


   ……蓉子。


   …。


   私、さ。
   祥子が居なければ、て何度も思ったよ。
   なんで先代はって。


   …。


   あんなのが居なければ蓉子の心は私だけのものになるのに、て。


   …。


   そんなわけ、無いのにね。


   ……聖。


   家族は…祥子だけじゃない。
   妹は祥子だけとしても。


   ……。


   誰も傷付けないで生きる事なんて、出来ない。
   私は。


   …聖だけじゃない。


   蓉子の事も、いっぱい傷つけた。
   これからも、傷付けるかも知れない。


   ……。


   …それでも。
   私は蓉子を離さない。


   ……せい…せい。


   だから、蓉子も離さないで。


   …。


   ……祥子の手を離せとは、言わないから。


   …ッ。


   ……。


   せ、い…。


   …でも。


   …。


   蓉子は私の、私だけの人。
   その想いは…変わらない。
   変えられない。


   ……。


   ……だから。










   ・










   あ、ようこさま!


   祐巳。


   おはようございます!


   うん、お早う。


   …。


   …祥子。


   お早う御座います。


   …ん、お早う。


   やぁやぁ、祐巳ちゃん。
   おはよ。


   おはようございます、とうしゅさぎゃぅ!


   おーおー、良いねぇ。


   う、うぅ…。


   当主様。


   ん、何?


   祐巳を潰すおつもりですか。


   んーん?


   お、おも…い…。


   うりうり〜。


   当主さ


   ああ、然うだ。
   お早う、祥子。


   …は?


   挨拶。
   ちゃんとしないと、怒られちゃう。
   ね、蓉子。


   …聖。


   だから、お早う。


   ……お早う御座います。


   うん。


   う、うぅ…。


   …ところで、当主様。


   はいはい、もうお仕舞い。


   …。


   はふぅ…。


   あー、お腹空いたなぁ。
   蓉子、今日の


   当主様。


   うん?


   認めたわけでは、ありません。


   うん、別に良いよ。
   そんな事、しなくても。


   ……。


   …?
   おねぇさま?ようこさま?


   祐巳、だらしなく口を開けっ放しにしないの。


   あ、は、はい!


   おーおー朝っぱらからうるさい事。


   当たり前の事を言ったまでです。
   私は祐巳の、姉なのですから。


   ふぅん。


   然うでしょう?


   …。


   お姉さま。


   …ええ。
   然うよ、祥子。








   …。


   いつもどおりの“顛末”。
   予定調和の如く。


   …果たして、然うでしょうか。


   と、言うと?


   人は生きている限り、


   だから、良いのよ。
   所詮、これからの事は分からないのだから。


   …。


   全てが型に嵌ってしまったら、全てが停滞してしまうわ。
   仮令、最後は予定調和のようでも。


   …。


   そんな世の中、何も面白く無い。


    …。


   何か言いたい事があるのならば、どうぞ。


   …いえ。


   然う。
   詰まらないわね。


   ……申し訳御座いません。


   謝るところ?


   詰まらないと仰ったので。


   冗談よ。


   …。


   母を知らない、子供。


   …?


   それは貴女もなのだけれど。


   …。


   大したものじゃないわよ、そんなもの。


   …いいえ。


   だって所詮、人だもの。


   …。


   仕合わせな希望を抱いて、叶わずと知って、勝手に絶望する。
   自分を失うものも居れば、全てを壊そうとする者も居る。
   全ては自分の責任だと、誰も気付かない。
   人は、誰も変わらない。
   ただ、背負う物が違うだけで。


   ……。


   …それは、さておき。
   蓉子は弱いのよね、然う言うのに。
   自分がそれになれる筈では無いのに。
   今となってはなるつもりすらも、無いし。


   …。


   流石に三人目の面倒までは、手が届かないようだけれど。


   …。


   …全ては一人目の、もっと言えば。


   …。


   聞きたい?


   いえ。


   然う。
   ならば、話さない。


   …私は、この家に来て。


   …。


   家族と呼べる人…人達が、居てくれて。
   仕合わせだと。


   …ふぅん。


   仮令…別離れる日が、来ても。


   来るわよ。
   必ず、ね。


   ……はい。


   しかし。


   …。


   あいつらの餓鬼がどんなもんか、一度で良いから、見てやりかったけれど。


   屹度、叶いませんね。


   詰まらないわ。
   本当に、詰まらない。


   …ふふ。








   おねぇさま。


   何。


   あ、あの…。


   だから、何。
   はっきりと言いなさい。


   は、はい。


   それで。


   わたし、おねぇさまがだいすきです。


   …。


   ようこさまも、とうしゅさまも、えりこさまも、れいさまも、しまこさんも、よしのさんも。
   みんな、みんな、だいすきです。


   …然う。


   おねぇさまは…。


   そんなの、いちいち言わないわ。


   …。


   ゆみさーん。


   …あ、よしのさん。


   おはよ、ゆみさん。


   おはよ、よしのさん。


   祥子、お早う。


   ええ、お早う。


   今日も良い天気だね。


   …ええ、然うね。


   ん、何か良い事でもあった?


   いいえ、何も。


   そっか。


   ええ、然うよ。








  R o s a  C h i n e n s i s 了



姫神「赤道伝説」
Mucas Gracias...!