ごきげんよう。 …. ごきげんよう、聖さま。 …あ? 久方ぶりですね。 …。 私をお忘れになられてしまいましたか? ……あぁ。 思い出して頂けましたでしょうか。 何となく。 ええ、それで構いませんわ。 …。 お散歩中ですか。 そんなところ。 宜しければ寄っていかれませんか? いいや、遅くなると蓉子が心配するから。 然うですか。 じゃあ。 お待ち下さいませ。 何? 今日はたまたま、このようなものを持っているのですが。 宜しかったら差し上げます。 んー…? 其れに知らぬ仲では御座いませんし。 まぁ、そうだけど。 貴女様の大事なお方とご一緒にどうぞ。 今宵は屹度、クンネ…月が綺麗でしょうから。 ふぅん。 でもお酒は苦手なんだよなぁ。 大丈夫でしょう。 これならば然程酒精は強く御座いませんし、何より、とても美味しいそうです。 …ふむ。 如何でしょう? うん、じゃ貰う。 はい。 そういや。 はい、何でしょうか。 久しぶりに見たけれど。 どっか、行ってたの? はい、少し京を離れておりました。 故に。 そっか。 また暫くはおりますから。 良ければ尋ねてきて下さると嬉しいです。 気が向いたら。 はい、いつでもお待ちしております。 じゃ、これ有難う。 いいえ。 ではごきげんよう。 ピ リ カ ノ ン ノ うー、さむさむ。 …。 …ふふ、あったかぁい。 …ん。 蓉子。 …せい? どこかに… 蓉子、蓉子。 …。 もう、大丈夫そう? …まだ、するの? ううん。 …。 今宵は月が綺麗らしいから。 …は? でね、貰ったお酒で一寸だけお月見しようと思って。 部屋の隅っこに転がしておいたの、今、取ってきたんだ。 …。 ま、忘れてたんだけど。 けど月見酒なんて、粋でしょ? …から? でも寒いからぴたりとくっついて、ね? …れ、から? 肴はこれと言って無いんだけど、いや、蓉子が居るだけで良いんだけど…やっぱ小腹、空いたかも。 夕餉、早かったし…蓉子の作ったおにぎり、食べたいなぁ。 だれから? ん? だれからもらったの。 …え、と、なんで? せい。 …あー。 えと、まぁ、散歩中にね。 …どこのひとから? お向かいのばーさんからだよ。 …うそ。 や、うそって。 …うそつきは、きらい。 あ、蓉子。 …きらい、きらいよ。 …あー、と。 ……。 正直なコトを申しますと。 芸妓さん、からです。 …。 嘘吐いて、ごめんなさい。 …ばか、せいのばか。 だけど遊んでないよ。 これは本当。 …。 ぷらぷらしてたら、たまたま会って。 で、くれるって言うから。 …うけとったのね。 だって、良い人と飲んでって言うから。 ……。 ほら、甘酒。 蓉子、好きでしょう? …そんなの、いらない。 蓉子…。 …よそのおんなからもらったものなんて、いらない。 でも美味しいって言ってたよ。 …だったらそのひととのめばよかったじゃない。 なんでそうなるのさ。 …。 私は蓉子と飲みたいから貰ったんだよ。 あの人と飲みたいわけじゃない。 …。 ね、蓉 ばか。 わ…。 せいのばか…っ …。 むしんけい、なのよ。 いつも、いつも。 …どうして? 好きな人と飲みたいから貰った、それの何処が悪いの? ……。 蓉子。 ばか…、ばか…。 …蓉子。 …。 ……私には。 貴女だけだよ。 …うそよ。 嘘じゃない。 うそ、んん…。 ……こんな事するのも、したいのも。 貴女だけ。 ……。 …知らないなんて、言わせない。 …。 ねぇ、蓉子。 私は貴女が …しらないひとのおしろい、まとってるときがあるくせに。 …。 くちではいくらでも、なんとでもいえるわ。 …信じてくれないの。 ぁ…。 ……。 だ、だめ…。 …言っても分からないからだよ。 せ…んんっ 分からない、蓉子が悪いんだよ。 せ、せぃ…。 …いつだって、壊してしまいたいのに。 は…、ぁん。 こんな衝動、蓉子にだけなのに。 ……ッ! どれだけ私が! う…。 私が…っ!! ぁ…ぁぁっ 如何でしたか? …なにが。 それとも、飲んで下さらなかったのですか? …。 或いは、貴女様の良いお人は余程の下戸でいらっしゃるとか。 ……。 聖さま。 …なに。 宜しいのですか? …。 お帰りにならなくて。 …良いんじゃない、別に。 このような遅い刻限に姿が見えなかったら。 目が覚めて隣にある筈の温もりが無かったら。 とても だから? ……。 …寝る。 分かりました。 …。 …思えば、初めてですね。 ……。 この部屋に上がって下さるなんて。 いつもはただ、通り過ぎて行かれるばかりなのに。 …。 いつもは見ているばかりなのに。 今は手を伸ばせば直ぐにでも 触るな。 ……匂い、ですか。 私に触れて良いのは一人しか居ない。 だけれど、今、貴女様は此処にいらっしゃる。 良い人のお部屋ではなく、この私の部屋に。 ……。 だったら。 今はただ、何もかも忘れて。 …。 ねぇ、聖さま。 此処は然う言う場所だと、貴女様はご存知の筈です。 ……。 貴女様が私に触れて下さらなくても良いのです。 私が貴女様に もう一度、言う。 私に触るな。 ……然うですか。 ならば、宜しいでしょう。 ……。 此処では屹度、貴女様が望んでいるような眠りを得る事は叶わないと存じますが。 それでも構わないのでしょうから。 …。 けれど、確実に。 この匂いは貴女様を犯します。 そして残り香となって、貴女様の良い人も。 ……。 仮令、今は別の匂いが貴女様の鼻に残っていようとも。 …。 …さて。 私は何をなさりましょう。 …。 触れる事以外に私に出来る事があらば、何なりと。 仰せの通りに。 …歌でも。 はい。 歌でも歌ってれば良いよ。 どんな歌をご所望でしょう? 何でも良い。 何でも、ですか。 …うるさくなければ。 なるほど。 それでは、 …。 失礼ながら、今は無い私の故郷〈クニ〉の歌でも。 …。 意はお分かりにならないと存じます。 ご存知かと思いますが、京の言葉とは違うので。 …それでいい。 ……では …。 …。 …。 …。 …聖。 こんな朝っぱらから家先で修練? 毎度、ご苦労な事だね。 …。 …。 …きのう、は。 …。 …。 …何。 …。 言いたい事があるのならはっきりと言えば? …。 …どうせ、私が言う事は信じてくれないだろうけど。 …っ …。 聖…。 …。 …昨夜は、何処に行っていたの。 …。 みんな、探したのよ。 貴女がいないから。 …みんな? 然うよ。 …みんな、ね。 聖、貴女はこの家の 当主様。 もう何度も聞かされたよ。 だったら 遊ぶのは程ほどにしろって? ……。 私が何処に行こうが、居ようが。 皆には関係ない。 関係はあるわ。 家族なのよ。 蓉子、好きだよね。 え…。 家族って言葉で人を縛るのが。 縛るだなんて…。 だって、然うでしょう。 事がある事に家族家族って。 なんて安い言葉。 そんな事、言わないで。 蓉子と私も所詮、家族、なんだよね。 ……。 ニオイ、するでしょう? 蓉子の嫌いな。 ……どうして。 蓉子は信じてくれない。 私がどんなに言っても。 だったら 聖…。 …そんな顔をして。 全部、蓉子が信じてくれないのがいけないのに。 ……。 私は何もしてない。 触るのも、触られるのも。 許してるのは蓉子だけなのに。 ……。 蓉子が 莫迦じゃないの。 …。 …江利子。 貴女は本当に莫迦ね。 一回、絞め殺してあげたいわ。 な…。 …だったら、突き殺してやるよ。 止めて、二人とも。 殺すだなんて、例え嘘でもそんな言葉を吐いては駄目。 家族だから? …然うよ。 …。 聖、何処へ行くの。 …お前には関係ない。 ええ、無いわね。 だけど蓉子は? 貴女のせいで、夜通し起きて待っていた蓉子は? …。 いい加減にしなさいよ、糞餓鬼。 あんたも誰も居ない褥の冷たさ、もう、知ってるでしょう。 …。 蓉子。 …。 想いは口にしないと、伝わらないわ。 それは十分すぎる程分かって、分かりきっている事ではなかったの。 ……。 兎に角。 …私に触るな。 触りたくて触っているわけでは無いわ。 寧ろ、触りたくも無い。 然う、臭くてたまらないあんたなんか。 …何だと。 白粉がきつすぎる。 在り得ないわ、鼻が曲がりそうよ。 ……。 蓉子、これを連れて己の部屋に行きなさい。 …え。 嫌、は聞かないわ。 これは命令よ。 ……。 私は当主では無いけれど、そんなの知った事では無いわ。 だから何だと言うのよ。 …勝手な事ばかり言いやがって。 勝手なのは貴女達と同じよ。 お前に何が分かる…! 分からないわ。 言ったでしょう、知った事では無いと。 だったら 分かったわ。 …。 聖、私の部屋に来て。 ……嫌だ。 お願いだから。 嫌だ。 …。 聖…。 どうせ、蓉子は私の事なんて信じてないんだから。 …ちがう。 信じてないしょう、私の事なんかさ。 聖、聞いて…。 何を聞けば。 聞いたら、信じてくれるって言うの? どうせ、信じないくせに。 ……。 本当、面倒ね。 ぐ…。 あ。 良いから、とっとと行け。 じゃなきゃ、本当に締め上げるわよ。 …え、えり…こ。 江利子、止めて。 じゃあ、代わるわ。 ちゃんと受け取りなさいね。 え…わ。 …はぁ。 痴話喧嘩なんて犬も食わないんだから、さっさとどうにかなさい。 それまで、朝餉には来なくて良し。 …江利 聖…! ……。 私の部屋に来て。 …。 お願い…聖。 ……せ。 …。 離せ。 ……聖。 …。 聖…っ! ……うるさいな。 ……。 …蓉子の部屋に行くんでしょう。 早くしたらどうなの。 …あ。 蓉子、さっさと行きなさいよ。 う、うん。 待って、聖…。 …。 …たく。 手を焼くのは私の役割じゃないと言うのに。 …。 …。 …で。 信用してない私に何の用があんの。 …。 信用されていないんだからさ。 裏切るとか、そんなの、関係無いよね。 …。 だったら。 …。 やりたい風にしても。 良いよねぇ。 …。 もう、何でも良いや。 どうでも良い。 …。 …黙ってないで。 何か言ったらどうなのさ。 じゃなきゃ… …。 このまま滅茶苦茶に…犯しちゃうよ? ……良いわ。 は! 良く言うよ! …。 嘘吐きは嫌いなくせにさ。 …。 ああでも、信用してないんだっけね。 じゃ、嘘吐きもへたくそも無いや。 …。 …蓉子さ、こんな時でもそんな目するんだよね。 …。 見透かしたような目。 そんな目なんか、いっそ、潰してやりたくなるよ。 ……聖。 でもって喉も耳も潰してさぁ! 私以外、何も感じなくしてやってさぁ…!! 然うだよ、私以外何も何も、何もかも…!!! …。 …ねぇ、本当にそうしてやろうか。 一思いに、さぁ。 ……ぁ。 ふふ。 力を入れたら、簡単に折れてしまいそう。 …。 分かる? 今、蓉子の運命は私如何でどうとでもなるんだよ。 …。 ほら、何か言いなよ。 言ってみなよ。 …聖が思うようにすれば良いわ。 あはははは! そんなこと、微塵も思ってないくせに! …。 …蓉子。 …。 私は蓉子だけなんだよ。 触れて良いのも、触れたいのも、全部蓉子だけなんだよぉ…! ……せ、い。 なのに、なのに…!! ………。 どうして信用してくれないの、ねぇ、どうしてよ…! ……言葉にしないと、分からない。 そんなこと、もう、分かっていた筈なのに。 分からない、分からないよ…。 教えてよ、蓉子…。 ……ごめんなさい、聖。 …ううう。 私は貴女が他の女の白粉の匂いを纏うが嫌だった。 いえ、其れは今だって。 だけど…! 然う、頭では分かっているの。 けれど、不安になるのよ。 どうしても。 …不安? どうして…? 聖を信用してないわけ、無い。 だけど、だけど、若しも…て、考えてしまうの。 …。 …分かっているわ、分かっているのよ、聖が私を愛してくれている事ぐらい。 けれど、駄目なの。 怖いの、怖くて怖くて仕方が無いのよ…。 ……。 私は…醜いのだわ。 疑心暗鬼に囚われて、愛している人の言を信じられず、疑って。 そして、貴女を追い込んで傷つけた…。 ……。 …でも、お願い。 どうか、信じて。 私は貴女を愛しているの。 誰にも渡したくないの。 …蓉子。 嫌なの、貴女が他の女の匂いを纏うのが。 其の手が私に触れるように他の女を、ん。 …。 …せい。 蓉子。 せい…。 ……蓉子。 私、ずっと嫉妬してた…。 其の匂いに…、其の匂いの主に……いつか、貴女に抱かれるかも知れない、其の人に。 ……。 ごめんなさい…、ごめんなさい、聖…。 ……。 許して…許して、聖…。 ……。 あ…。 …。 待って、聖…離れないで。 …。 …行かないで。 私を嫌いにならないで…。 …なるわけ、無いよ。 せい…。 ごめん、蓉子。 あ、あぁ……。 ごめん…。 せい…、せいぃ…。 ……ごめん。 う…あぁぁ。 あ、あのォ、江利子さま…? 何かしら。 宜しいんでしょうか…て、あー! ふむ。 え、江利子さま、そ、そんないきなり…、イツ花、心の準備が…。 残念だけど、イツ花が期待しているような事は一つも無いわよ。 き、期待だなんてそんな…! 見て。 イツ花はただ、幾ら当主様たちが夫婦同然に過ごされているのを知っているとは言え、 さ、流石にそんな場面を見てしまうのは如何なものかな、と思っただけで…。 ふむ。 この分じゃ、朝餉、要らないわね。 と、とは言え、全く興味が無いわけでは無いのですが…、い、いえ、でも、やっぱりいけません…! こんな覗きのような真似は…! イツ花、二人の分の朝餉は要らないわ。 昼に回して。 け、けど、お二人は本当に好き合ってますよねぇ。 今更ながら先代様のお言葉が イツ花ー。 …へ? 朝餉、二人の分は要らない。 え、ああ、然うですか。 …て、何でですか? これ、見て。 え、え、でもぉ…。 良く寝てるから。 ……は? 安らか過ぎて、莫迦莫迦しくなるわよ。 特に天狗面の方は幼子そのものよ。 ………え、えとぉ。 多分、昼までは起きてこないと思うわ。 一食分、浮いたわね。 な、何と言うか…本当にすやすや寝てますね。 安心しきっているとでも言うのでしょうか…。 二人とも、昨日は寝ていないから。 え、然うなんですか? 蓉子は聖が居なくなった上に、帰ってこないから心配で。 聖は転がり込んだのは良いけれど慣れない場所の上に、 転がり込んだ? ええ、余所の女の部屋に。 え、ええぇぇッ? そ、然うだったんですか?! ええ、然うよ。 で、でも何でですか? いつもだったら蓉子さまと…と言うか蓉子さまと言うお人がいながら…! 我侭な糞餓鬼だから。 ……。 と言うわけで。 転がり込んだのは良いけれど、慣れない場所の上に、 …蓉子さまの肌恋しくて、とか? たった一晩でこのざまよ? 本当、莫迦よねぇ。 ……あ、あぁ。 莫迦を通り越して、駄目と言った方が早いわね。 いっそ。 …こんな姿勢で。 良く眠れますね…。 ねぇ。 苦しくないもんなんでしょうか。 特に蓉子さまなんか完全に乗っかられてますよ。 私に聞かれても分からないわね。 はぁ、其れは然うですよね。 ま、蓉子にしてみればこの方が安心するんじゃないの。 重みが感じられて。 そんなもんなんでしょうか…。 ま、そんなわけだから二人の朝餉は無しで。 さ、戻るわよ。 本当に起きないでしょうかねぇ…。 ええ、起きないわね。 けど、若しもお目覚めになられたら… まぁ、あれね。 お互い、昨日は夕餉が早かった上に、今朝は朝餉抜きだから。 目覚めた時が怖いわね。 ……はぁ。 一食半くらいは用意しておいた方が良いかも知れないわ。 聖なんかは二食いけるかも。 …イツ花、気合を入れて支度しようと思います。 朝餉も其の意気で宜しくね。 は、はい、お任せ下さいませ! あ、然うだわ。 イツ花。 はいはい、何でしょう? お風呂の支度もした方が良いと思うわ。 其れは江利子さまが? いいえ? …と、言いますと。 臭いじゃない。 …? 臭いですか? こんなに臭っているのに。 特に片方から。 然うですか? イツ花にはあまり…や、確かに白粉の匂いは少ししますけど。 少しじゃ、無いわよ。 …うーん。 鼻、あまり良くないわね。 イツ花は。 いえいえ、こー見えても結構鼻には自信があるンですよ? でも分からないんじゃ、駄目ね。 むむむ…。 薪、足りないようなら令辺りに手伝ってもらうと良いわ。 あ、いえ、未だ大丈夫だと思います。 いっその事、賀茂川に放り投げてあげた方が手っ取り早いのだけれど。 さ、流石に其れは…。 この季節にそんな事したら、お二人揃って、お風邪を召してしまいますよぅ…。 そ? じゃ、宜しくね。 ま、其の前に朝餉の支度だけれど。 はーい! …ふぅ。 …。 落ちるかな…。 …。 ねぇ、蓉子。 …。 よっこってばー。 …どうしてこんな事になっているのかしら。 どうして、て。 どうして私まで。 一緒に寝てたからじゃない? ……。 匂い、落とさないと。 移っちゃったでしょう? …然う、だけど。 何も一緒に入らなくても。 手っ取り早いじゃん、一緒に入った方がさ。 …昼真っから。 祥子の目が気になる? ……。 溺れるよ、蓉子。 ……私、もう出る。 其の前に。 背中、流してあげるよ。 ありがとう。 でも今はいい。 じゃあ、私の背中を流して。 …。 念入りに洗わないと。 一晩で染み付いた匂いは落ちないと思う。 ……。 そんな顔、しないで。 …。 蓉子… …今は、だめ。 …のぼせちゃうから? …。 それとももう、のぼせちゃった? ばか。 へへ。 ばかって言われてるのに。 何、笑ってるのよ。 ねぇ、蓉子。 …何よ。 うちのお風呂、広くて良かったねぇ。 …無駄に広いわ。 先代達には感謝しないと。 …実際。 この広さにしたのは父だったらしいけれど。 へぇ。 でも何でかな。 詳しい事は知らないわ。 分かっているのは、そのせいでうちのお金回りが更に悪くなったという事。 でもま、おかげで蓉子と一緒出来たから嬉しい。 …。 あー、気持ちいー…。 …いつまでも浸かってるとのぼせちゃうわよ。 じゃ、背中流してくれる? …背中だけ、よ。 わー…あ。 …? ……。 聖? ……聞こえた? 何が? …聞こえないなら良いや。 気になるじゃない。 いや、気にしないで。 然う言われると余計気になるのよ。 ……。 聖。 …いや、まぁ、お腹がね。 お腹? ……其の、お腹空いたな、と。 ……。 朝、食べてないし。 …行った先で夜食、出されなかったの? ……あったけど、食欲無かった ……。 いや…まぁ、そこら辺は察して下さると嬉しいです。 ばか。 二度目。 本当に食べてないの? だって食欲があまり…と言うか、食べたくなかったの。 駄目じゃないの。 然う言われても。 聖は目を離すと、平気で食事を抜くんだから。 …だってさ。 もう少し自分の体の事も考えて。 貴女は食べないと直ぐに痩せてしまうのだから。 蓉子だって細いじゃん。 今は貴女の食事の取り方についての話をしているの。 私の体についてじゃない。 もちっと肉が付いてた方が良いと思うんだよなぁ。 だから。 ここら辺、とか。 …っ 聖…っ だけど。 どんな容姿でも蓉子は蓉子だから好き。 ……。 お風呂上がったら、ご飯かな。 今の私だったらお茶碗二杯はいけそうな気がす どうして食べなかったの。 …。 …食事、出されたのでしょう? ……まぁ。 ご馳走と言っても良いものだったと思う。 じゃあ、どうして。 …だから食欲が無かったんだよ。 食べたくなかった。 …。 兎に角、寝たかったんだ。 …だけど。 …。 眠れなかった。 …。 …やっぱり、駄目だった。 …。 駄目だったんだ…。 …聖、息が。 …。 聖。 こうしていると、蓉子の匂いがして落ち着く。 …。 ようこ…。 …寝ないでね。 うん…。 背中、どうするの…? …今は、このままが良い。 ……聖。 ん…。 このままだと、貴女の匂いがしないわ。 …。 …だから。 早く、消して。 ……。 …じゃないと、落ち着かないから。 …。 ねぇ、せ…ぁ。 …? ……。 …よーこ? ……何でも無い。 然うなの? ええ、何でも無… あ。 ……。 …ふふ。 ………。 よっこ、私と同じ? ……ち、違うわよ。 でも、聞こえちゃった。 ……。 ……心配、してくれた? 当たり前でしょう…! …ん。 ……私、だって。 ……。 …聖のばか。 ん、ごめんなさい。 でも、さ。 …。 …蓉子も私と同じで。 嬉しい。 こ、これは、朝餉を抜いた事なんて今まで無かったから…。 食欲の事だけじゃ、無いよ。 あ…。 …嬉しい。 せ、せい…。 ……。 ……ば、か。 …。 …。 バーンとぉ!食べてくださいネ!! …と、言われてもなぁ。 イツ花、これは…。 腕にふるいをかけてこさえました! 其れを言うのなら、よりをかけて、でしょう…。 ねぇねぇ、蓉子。 此れ、何? …え、と。 海老かれー、ですよ! 海老は殻にも栄養満点! …どうやって食べるの、これ。 …分からないわ。 海老は頭からいっちゃってくださーい! …食べられるの? …多分。 一応、美味しいわよ。 あ、江利子さま。 二人とも、お腹空いてんでしょ。 さっさと食べれば良いじゃないの。 …だからってこれは それとも何? 今度は安心して胸がいっぱいで食べられない? 然う言えばお風呂も随分と長く入っていたようだし。 …。 …。 さぁさぁ、お二方! 安心したところで今度はお腹を満たしちゃいましょう! 腹が減っては営みは出来ませんから! ……。 そ、それを言うのなら戦よ!! あら、イツ花は夜のとは言ってないわよ? …ッ。 まぁ、同じ事だけど。 お、同じじゃ無いわよ! と言うか、食べないと冷めちゃうわよ。 …。 当主さま、蓉子さま、さぁさぁ!! ……じゃあ。 蓉子、食べるの? …食べられないわけでは無いようだし。 ……腹が減っては営みも出来無いし? せ、聖…! でも、間違ってないと思う。 もう…! 当主さまー、蓉子さまー。 冷めちゃいますよーぅ。 ……いただきます。 …蓉子が食べるなら。 はい! たぁんとぉ、召し上がれ! …。 あ、でもね。 ……っ …よ、蓉子? 辛いから。 確か蓉子、辛いの苦手だったわよね。 早く言えよ、でこちん! み、水…っ あー、惜しかったわねー。 惜しいとか惜しくないって問題か! けほ、けほ…っ 蓉子、大丈夫?! イツ花、早く水を! 然う言われると思ってぇ! じゃーん!! …は? ちゃーんと、用意してありますよ! はい、蓉子さま! ……あ、ありがとう。 おかわりもいっぱいありますからー! どんどん食べて下さいねー! あーあ、食べた食べた。 …。 蓉子? 唇、大丈夫? …一寸、ひりひりする。 舐めてあげようか? …。 冷やす意味を含めて。 …結構よ。 えー、すっごく効くのに。 ばか。 えへへ。 …ところで。 うん? 何処へ連れて行くつもり? 腹をこなしに。 久々に腹いっぱい食べちゃったから、流石に苦しい。 …私はそんなに食べていないのだけど。 蓉子と一緒が良いの。 …私は。 一緒が良いんだ。 ……もう。 それにほら、食べて直ぐ寝たら駄目でしょ? …? 正直、寝たり無い。 …ちゃんと寝てないからよ。 やっぱり蓉子と一緒じゃないと駄目みたい。 …。 さて、どこ行こうか。 蓉子が行きたいトコに行こう。 …別に無いわよ。 寒いなぁ。 春は未だ先だなぁ。 でも私は蓉子のお陰でいつも春だけど。 …。 手、冷たいね。 …貴女はあったかいわね。 うん、蓉子の為にあったかくしておいたんだもの。 …意思でどうにか出来る訳無いじゃないの。 ふふ。 聖。 ん? 行きたいトコ、決まった? 首巻は? …ありゃ、どうりで首元がスースーすると思った。 もう、風邪、ひいちゃうじゃないの。 はは。 全く。 …んお。 ほら、ちゃんと巻いて。 これ、蓉子のじゃない。 然うよ。 いいよ。 だめ。 だって蓉子が 良いから。 む…。 さぁ、ちゃんと巻いて。 …じゃあ、こうしよう。 …? …て。 こうすりゃ、二人であったかい。 …これじゃ動けないじゃないの。 ぴったり、くっついて歩けば平気。 いや、平気じゃないでしょう。 平気平気。 あ、こら。 ほら、蓉子も一緒に歩いて。 一寸、聖。 はい、いち、に、いち、に。 ああ、もう。 ふふ、あったかいな。 ……。 そうだ、蓉子に小物買ってあげる。 そんなお金、無いわよ。 小遣い、あるもん。 無駄使いは 無駄じゃないよ。 蓉子に上げるんだもの。 私は別に 要らない? 要らないとかじゃなくて あげたいの。 …。 蓉子に。 だから。 ……もう。 じゃ、決まり。 あっちあっち。 …全く。 言い出したら聞かないんだから…。 ふふぅ。 でも。 やっぱりこれだと動きづらいから。 これなんてどう? これ? あ、それともこっちの方が良いかな。 どれ? いや、蓉子にはこっちの色も合うなぁ。 こっちの? あーでもそれでも良いなぁ。 …それ? うーん、迷うなぁ。 …聖。 蓉子、蓉子はどれが良い? …。 よーこ? …聖が選んだので良いわよ。 えー。 選んで。 でも蓉子が欲しいのじゃないと。 聖が選んでくれたのなら、嬉しいわ。 う…。 ね? …。 聖? ……。 聖、どうしたの? …あ、いや。 じゃあ…え、と。 うん。 あ、でも…うーん。 ふふ。 …聖さま? …は? …。 ああ、矢張り聖さま。 ん、ああ。 ごきげんよう、聖さま。 奇遇ですね。 そうだね。 お買い物ですか? 然う。 …こちらの方は。 …。 蓉子。 ああ、矢張り然うでしたのね。 然うですか、貴女様が… …初めまして。 初めまして、ごきげんよう。 私は静と申します。 貴女が甘酒を下さったのですか…? はい。 有難う御座います。 いいえ、大したものでは無いので…どうか、御気になさらず。 …。 静も買い物? はい。 聖さまは蓉子さまとご一緒なのですね。 うん。 甘酒、飲んで頂けて嬉しいです。 未だ飲んでない。 …え。 それは… …。 …いえ。 私が詮索する事ではありませんね。 …。 ま、いつか飲むよ。 ありがとーね。 …はい。 …。 蓉子、これにしよう。 …え? これ、買ってあげる。 あ、ああ、ありがとう。 うん! …一寸、聖。 え、なに? その…。 ? だ、だから…。 …ふふ。 なに、蓉子? ……。 伺っていた通りですね。 うん? とても可愛らしいお方で。 でしょう? ちょ、一寸聖…。 笑うと屹度、花が咲いたようになるのでしょう。 ん、そのとーり。 うまいコト言うねぇ。 ……。 これでは…敵いませんね。 うん、何? いいえ。 それでは私はこれにて失礼致しますね。 ごきげんよう。 あ、うん。 ごきげんよう、蓉子さま。 …ごきげんよう。 …。 じゃ蓉子、買ってくるから少し待っててね。 …ええ。 …くすくす。 …何でしょう。 いえ、本当に可愛いお人だと。 聖さまが他の人に目を向けない理由が分かりました。 …からかわないで下さい。 申し訳ありません。 そのつもりでは無かったのですが。 …静さんは では、またいずれに。 ……。 お待たせー。 はい、蓉子。 え、ああ。 ありがとう。 あれ、静? ふふ。 改めましてごきげんよう、カムイ。 うん、じゃね。 …かむ? それから。 スイ ウヌカラ アン ロ、 ノンノ ピリカ。 …?? ……ふふ。 蓉子。 …。 蓉子。 …。 どうしたの、蓉子。 気に入らなかったの? …え、何が。 それ。 ホントはもっと他の方が良かった? あ、いえ、そんな事無いわ。 本当に? ええ。 じゃあ、ちゃんと嬉しい? 嬉しいわ。 ありがとう、聖。 へへへ。 …。 蓉子、手つないでもい? …。 蓉子、つなご。 …。 …蓉子。 え、なに? 手。 あ、うん…。 …どうしたの、蓉子。 ……ねぇ、聖。 …。 あの人…。 京の人じゃ無いよ。 …やっぱり。 昔、セイイ何たらとやらに滅ぼされちゃったんだってさ。 …セイイ? うん。 セイイ……あ。 それって若しかして征夷 ねぇ、蓉子。 え…ん。 …えへへ。 な、何を…! だって。 だ、だって…て! したくなったんだもん。 したくなった、じゃないわよ…! 此処は 天下の往来? 然うよ…! 分かっているなら…! 誰も居ないし、見てない。 だ、だからって、いきなり…! 耳も直ぐ赤くなるよね。 …! 蓉子はかわいい…。 …ぁ。 かわいい、私の芙蓉の花…。 ……。 もっと、綺麗に咲かせてあげる…。 ……も、ぅ。 …ふふ。 さ、もう帰ろうか。 …。 ふあぁぁぁ…。 …。 帰ったら、一緒に少し寝よ? 眠くなっちゃった。 ……寝ないわよ、ばか。 聖さま。 おー。 ごきげんよう。 うん、ごきげんよ。 今日はお一人ですか? うん、お一人。 なかなか一緒には来てくれないんだ。 然うですか。 其れは残念ですね。 甘酒。 はい? なかなかだった。 ああ、飲んで下さったのですね。 うん、蓉子と。 ふふ、如何でしたか。 おかげ様で。 其れはよう御座いましたね。 うん、酔っ払っても可愛いから。 …。 じゃ、お礼は言ったよ。 …わざわざ来て下さったんですか? 蓉子が行け、て。 …然うですか。 出来れば直接、お会いしたかったですね。 いつも忙しくしてるから。 では、宜しくお伝え下さいませ。 うん。 じゃね。 もうお帰りですか。 蓉子が待ってる。 …成る程。 じゃ。 はい、ごきげんよう。 どうか、くれぐれも… 貴女様の ピ リ カ ノ ン ノ 了 |