お姉さま、お茶を煎れて参りました。


   ああ、有難う。


   何をなさっているのですか?


   支度をしているのよ。


   戦の、ですか?


   いいえ。
   そんな予定があるなんて、一言も話していないでしょう?
   此れの支度をしているの。


   …え、と。


   然う言えば貴女は初めてだから知らないのも当然ね。
   形代をね、作っているのよ。


   かたしろ…。


   見てみる?


   見ても宜しいものなのですか?


   質問に質問で返すのは無礼。
   然う、教えた筈よね?


   あ、はい、申し訳ありません…。


   そもそも見てはいけないものだったら貴女にこんな問いは飛ばさないし、
   ましてや、皆が集まる座敷でなんか作ったりしないわ。


   …。


   其れに貴女も作るのよ。


   え、私がですか。


   貴女だけじゃないわ。
   各自、一体ずつ作るのよ。


   各自と言うと…


   勿論、白ちびにも作ってもらうわよ。


   ……。


   言っておくけれど。
   へたに世話を焼いては駄目だからね。
   あの子の為にならないから。




















 桃 ノ 花 、 咲 ク 頃




















   令?


   あ、蓉子さま。
   ごきげんよう。


   ごきげんよう。
   此度は何を作っているの?


   これ、です。


   これは…


   今、貴族の女子の間で流行ってるそうなので私も作ってみようと思って。


   由乃ちゃんに?


   それから祐巳ちゃんにもと思ってます。
   あ、二人には内緒ですよ?


   ふふ、だから二人が午睡中に作っているのね。


   はい。


   確か、ひいな遊びとかって言うのよね。


   はい、良くご存知ですね。


   此の間、聖について行った時に見せて貰ったのよ。


   え、然うなんですか?
   でも…


   あの人達の中で育っても、私達に物怖じしない子も居るものなのよ。


   へぇ…。


   上手に出来ているわね。


   あ、有難う御座います。


   ……。


   蓉子さま?


   もう、三月ね。


   はい、然うですね。


   支度、しておかないと。


   え、何のですか?


   上巳の節句。


   じょーしのせっく?


   ええ。
   ああ、令は知らないわよね。
   五つある節句のうちの一つ、なのだけれど…


   五つの節句のうちの一つ…と言う事は重陽みたいなものですか?


   へぇ。
   重陽なんて、良く知っているわね。


   お姉さまが。
   曰く、菊の露を含んだ綿で赤子だった私の顔を拭いてくれたそうです。


   江利子が?


   はい。
   更に曰く、菊花酒は微妙だったと。


   …ああ、然う言えばそんな事言ってたわね。


   それで蓉子さま、じょーしの節句とは何のお酒を飲むですか?


   あのね、令。
   節句とはそもそも、お酒を飲む為だけの行事では無いのよ。


   え、然うなのですか。


   節とは元々、大陸の暦で定められた季節の変わり目の事を言うのだけれど。
   大陸では暦の中の陽が重なる日は陰になるとして、其れを避ける為に其の季節の旬の植物から命を貰い、
   邪気を祓う行事が行われたのよ。


   はぁ…。


   確かに重陽では長寿を願って菊花酒は飲むけれどね。


   あ、其れが菊の節句と呼ばれる所以ですか?


   九月は菊の花が咲く頃、でもあるでしょう?


   あ、然うか。


   古くは奈良の頃より観菊の宴が催されていた、らしいけれど。
   大陸では菊は不老長寿に結びつくとされていたから。


   へぇ。


   話が逸れたわね。
   其れで上巳の節句の事なのだけれど…


   若しかして桃の節句とか言いませんか?


   え。


   あ、いや、三月になると桃の花が咲くじゃないですか。
   だから…その。


   …。


   あ、ち、違いますよね。


   正解。


   へ?


   上巳の節句、又は、桃の節句。
   三月最初の巳の日に、罪や穢れを祓う為に行う行事なのだけれど。


   お酒も飲むのですか?


   拘るわね。
   言っておくけれど令は未だ駄目よ?


   あ、私じゃなくて、お姉さまが喜ぶかな…て。


   桃花酒。


   とうか?


   菊の花を浮かべて飲むお酒が菊花酒。
   じゃあ、桃の花を浮かべて飲むお酒は?


   ああ、其れで桃花酒。


   桃は古来より、邪気を払い百鬼を制す、と言われているから。
   あと菊と同様、長寿を得ると言われているのよね。


   菊と桃っておめでたい花なんですね。


   然うね。


   それで何の支度をするのですか?
   私も手伝います。


   其れ。


   へ?


   穢れを祓うと。
   言ったでしょう?




















   ……。


   せ


   蓉子。


   …はい。


   ふむ、聖はぶきっちょさんねぇ。


   こんなの、簡単なのにねぇ。
   ねぇ、江利ちゃん。


   簡単すぎて詰まりません、お姉さま。


   あはは。
   あ、然うだ。
   見て見て椿、余った布切れでこんなのも作ってみましたー!


   …何かしら、其れは。


   椿を象ったひいなでーす!
   どう、かわいいでしょ?


   …然う。
   貴女は穢れと共に私をも流してしまいたいわけね。


   ええ、ちっがうよーー!


   ああ、ついに本音を洩らしてしまったのね、菊。
   大丈夫、骨はそこら辺の野良犬に呉れてやるわ。


   其処は埋めてやるって言うんじゃないの?!
   つか骨とか言うなー!


   ……。


   此の子は椿を想って作っただけなの!
   だから川に流したりしないし、と言うかそもそも穢れを祓う為なんかじゃないんよー!


   じゃ、どうするつもりなの、其れ。
   …まさか。


   まさか?
   まさかって何、藤花。


   あ、いやね。
   最近、ヒトカタで遊ぶのが流行っているらしいのよね。
   貴族の姫たちの間で。


   で?


   子供なら可愛く遊ぶだろうけど、ねぇ。


   ちょ、何、其の目?


   菊は、何をして、遊ぼうというのかしらね?
   ま、間違ってもやましい事はしないとは思ってるけど。


   はぁぁ!?
   やましいって何ソレ?!


   釘を打たれない事を祈るばかりだわ。


   ちょ、椿まで…!
   ひどいよー!ひどいよーー!!


   お姉さま。


   ね、江利ちゃんもひどいと思わない?
   私は純粋に…


   頭の此処が歪んでいると思います。


   へ…?


   此処のところが。


   え、うそ。


   若干、ですけど。


   …あぁ、言われてみるとそんな気がしてきたー!


   どれどれ貸して。
   んー…。


   うう、言いたいコトがあるならはっきり言えばいーじゃん。


   椿。


   ん?


   頭、歪んでるように見えるかしら?


   ……さぁ、私の目は然う捉えないけれど。


   悔しいけど、私も。
   ほい菊、返すわ。


   はぁ…。
   もっかい、作ろうカナァ…。


   今一度、聞くけれど。
   私に似た形代を作ってどうするつもりだったの。


   別にどーもしないよ。
   ただ面白いかな、て。


   面白い?


   ひとかたを、ただ流すだけなんて勿体無いじゃん。


   其れは穢れを祓う為に…


   其れだけの為に作らなくてもいーじゃん、て話なんだよー。


   ふむ。
   つまりは愛でたいのかしらね?菊は。


   愛でたいというか、そんな人形があっても良いじゃんかってコトだよ。


   なるほど、ねぇ。


   なるほど、て何よ。
   藤花。


   ま、良いんじゃないかしらってね。
   紙で作った形代は流して、布で作ったひいなは家に残しても。


   ひいな…ね。


   菊、ついでだから他のも作りなさいよ。
   私の、とか。


   やだねー。
   次は蓉ちゃんのを作る予定だからー。


   え、私…?


   それじゃあ、また紅じゃない。


   かわいく作ってあげるからね、蓉ちゃん。


   は、はぁ。


   仕方が無い、自分で作ってみようかしら。


   問題は藤花に作れるかよねー。
   白ちびがぶきっちょなのは藤ゆずりだと思うしー。


   あら。
   ここまでぶきっちょじゃないわよ、私。


   ……。


   …せ


   蓉子。


   …だけど、お姉さま。


   蓉子。


   ……。


   返事。


   ……はい。


   …。


   聖。
   どう、出来そう?


   …。


   仕方の無い子ねぇ。


   藤花。


   ごめんなさいね。
   これでも私、聖のお姉さまなのよね。


   知ってるわよ。
   自分で作らないと意味が無いでしょう。


   そんなコト、無いと思うけど。
   ねぇ、蓉子ちゃん。


   ……。


   と、言うわけで。
   お節介をしてあげると、私が嬉しいんだけど。


   …あ、あの。


   蓉子、藤花の言う事は決して聞かなくても良いから。


   …手は出しません。
   だから…


   じゃ、口は出すってコトね。


   あくまでも聖の手で作り上げれば良いと思うのです…。


   …。


   聖、ここは


   うるさい。


   …。


   出た、白ちびの天邪鬼。


   せーい?
   あくまでも一人で作れると言うのかしら?
   本当に?


   ……。





















   お。


   あ、当主様。
   ごきげんよう。


   ごきげんよー。
   蓉子、見なかった?


   ああ、蓉子さまなら支度をすると仰っていました。


   支度?
   んー…。


   桃の節句、だそうです。


   ああ、あれかー。
   そっか、もうそんな季節かー。
   で、蓉子は?
   何処に行ったの?


   多分、部屋にお戻りになられたのだと思いますけど…。


   居なかったから探してんの。


   …ええ、と。


   ま、いいや。
   蓉子は節句の支度をするって言ってたんだよね。


   はい。


   じゃ、蔵にでも行ってみるかなー。
   そんじゃまたね、令。


   はい、ごきげんよう。


   …時、に。


   はい?


   其れ。


   此れ、ですか。


   若しかしないでも、ひいな?


   あ、然うです。
   良くご存知ですね。


   む、其れってば私を莫迦にしてるのかな?


   あ、ち、違います。


   ほーぉ?


   や、何と言うか、とうちゅさまはあまりご興味が


   噛んでる噛んでる。


   だ、だから、其のぅ…。


   ま、良いけど。
   興味無いし。


   ……はぁ。


   其れ、ちび達にやんの?


   はい。


   ……。


   な、何でしょう…?


   ついでだから私のも作ってよ。


   は…?


   私にも頂戴。


   え、え、でも…。


   興味は無いよ。
   だけど、其の形がある特定のモノだったら別。


   あ、あー…。


   と言うわけで。
   二つ、お願いね。


   え?
   二つ、ですか?


   然うだよ。


   一つで無くて?


   然うだって言ってるじゃん。
   じゃ、宜しくね。


   …あ、あの。


   ん?


   一つは分かります…けど。
   もう一つは…?


   そんなの、決まってるじゃん。


   決まって…?


   私が一つだったら淋しいと思わない?
   令は。


   …あ。


   だったらもう一つは必然的に決まるでしょや。


   ま、まさか…。


   何、其のまさかって。
   先刻は許したけど、此度は許さないよ?


   あ、も、申し訳御座いません…!


   なーんて。
   我ながら少女趣味だとは思ってるからさ。


   ……。


   で?
   作って呉れるの?
   呉れないの?


   あ、はい、しかと承りました。


   そ?
   じゃ、任せた。


   は、はい。




















   良かったわねぇ、聖。


   …。


   形
(ナリ)は少々、てか多分に歪だけれどねー。


   ……。


   菊乃。


   あ、はい、すみません、ごめんなさい。


   あの、聖。


   …ひとりでできるといった。


   ごめんなさい…。


   こぉら、聖。


   ……。


   もちっと素直になれないもんかねー。
   全くもって天邪鬼極まりないっつーの。


   菊花。


   ひ。
   ごめんなさいごめんなさ


   其れについては私も異存は無いわ。


   あ、椿も?
   じゃ、いーや。


   ええ、私も。
   実際、右と言えば左を向くような子だから。


   お姉さまである藤花の責任でもあるのよ。


   と、言われてもねぇ。
   持って生まれたものもある、って言う話だからねぇ。


   …。


   お姉さま方、そんな言い方はひどいです。


   蓉子。
   そもそも貴女が


   聖は…!
   聖はお姉さま方が思っているような子では無いと思います…!!


   お、噛み付いた。


   蓉ちゃんってば、案外、怖いもの知らずだねー。


   …。


   蓉子。


   聖、は…。


   ……。


   ほら、聖。
   ぼさっとしてない。


   ……。


   せめて、裾を握ってあげるくらいしなさい?
   こんなに思って呉れる子なんて、早々現れないんだから。


   ……知ったことでは、ありません。


   あららー。
   たまに口を開いたと思ったらー。


   藤花さま。


   ん?


   聖は所詮、こういう子です。


   あら、江利子ちゃんってばなかなかきついわ。
   菊、どんな育て方したの。


   ふつーに。


   だったら私も普通。


   …貴女達ねぇ。




















   よーこ。


   あ、聖。


   何探してんの?


   折り紙よ。


   桃の節句の?


   ええ。
   良く覚えていたわね。


   もっちろん。


   大方、誰かに教えて貰ったんではなくて?


   はっは。


   まぁ、良いわ。
   折角だから手伝って呉れる?


   手伝ったら何か呉れる?


   あげない。


   贅沢なモノは強請んないから。


   答え、分かりきってるもの。


   自覚して呉れていて嬉しいよ。


   邪魔するなら出て行って。


   いや、手伝うよ。
   ご褒美、欲しいもん。


   あげるなんて言ってない。


   言ってないけど、呉れる。
   蓉子は然う言う人だもの。


   あのねぇ…。


   てかさ、去年何処にしまったのさ。


   話を変えて。


   確か先代と蓉子だったでしょ、しまったの。


   此処だと思ったのだけれど…無いのよ。


   ま、去年よか増えたからね。
   モノ。


   イツ花が整頓して呉れるのは助かるのだけど…時たま有りえない所に片付けて呉れるコトもあるから。


   蓉子の管理をすり抜けるから、ある意味、凄いと思うよ。


   茶化さないの。


   はは。


   でも本当に。
   何処に行ってしまったのかしら。


   イツ花に聞いてみたら?


   其れで分かったら苦労なんかしてないわね。


   ま、其れも然うだ。
   どれ、私も探すとしましょうかね。


   ご褒美はあげないわよ。


   はいはい、とな〜。


   もう。




















   はい、蓉ちゃん。


   はい?


   約束、してたでしょー?


   ……?


   これこれ。


   ああ。


   はい、上げるね。


   あ、有難う御座います、菊乃さま。


   其れと。


   …?


   此れと此れも上げる。


   え、これって…。


   ちび達には内緒、ね?


   だけど


   良いから良いから。
   あの子達の事だからどっかやりそうでしょー?


   そんな事は…


   だからね、預かっておいてー。
   そん時が来るまで。


   ……。


   で、さ?
   お願いがあったりすんだけど、聞いてくれるー?


   あ、はい。
   私で良ければ。


   こっそりとで良いからさ。
   来年のと、並べて欲しいんだー。


   え…?


   仲間が増えてたら、で良いから。


   ……。


   てか、増えてたら良いなぁ。


   菊乃さま…。


   あ、此処はしんみりするトコロじゃないから。


   …。


   椿のと私のと藤のは…まぁ、ついでで良いや。


   ついで、なんて…。


   ああ、そんなに重たくとらないでよー。


   菊乃さま、私…。


   無理して作ろうって思わなくても良いから。
   寧ろ、蓉ちゃん以外のちび、出来れば江利ちゃんの後の子が作って呉れたら嬉しい。


   江利子の…?


   私が子供を残すかどーか、未だ分かんないけど。
   それでも黄の血筋の子が作ってくれたら何となく嬉しいじゃんね?
   ま、別に江利ちゃんでも良いんだけどねー。
   何となく、やんなそーだからねー。


   ……。


   そんなわけだからー。
   後、宜しくねー。


   …はい、菊乃さま。
   しかと承りま


   だーかーらー。
   そんなにお堅くならなくても良いんだってばー。


   …はい。




















   あ、あった。


   …。


   あったよ、蓉子。
   一度探したトコロって結構、盲点なもんだよねぇ。


   ……。


   蓉子?


   あ、ああ、ごめんなさい。
   其れで何があったって?


   折り紙。
   此れを探してたんでしょや?


   ああ、然うだったわね。


   然うだったわね、て。
   ちょいと蓉子さんや、大丈夫かね?


   …。


   て、言ってるそばから。


   …ね、聖。


   うん?


   此れ、見て。


   此れ…あ。


   覚えてるかしら。


   …何となく、だけど。


   お姉さまと、藤花さまと、そして菊乃さまのひいな。
   こんなトコロにあっただなんて…。


   てか、お姉さまと菊乃さまの分もあったんだ。
   あん時は確か、椿さまと蓉子の…然うだ。
   蓉子、蓉子のは無いの?


   …ええ。


   なーんだ。
   蓉子の分も作るとかって言ってたのに。


   此処には、ね。


   へ?


   此処には無いのよ。


   此処には。
   てコトは他のトコロにはあるの?


   さぁ、どうかしらね。


   其の顔はあるんだなー。
   見せて、見せて。


   だぁめ。


   なんでさ。


   今は、駄目。


   む…。


   其の時になったら見せてあげる。


   其の時っていつさ。


   桃の節句、其の日に。




















   皆、準備は良い?


   いつでも。


   はいなー。


   蓉子、江利子、聖。
   貴女達は?


   はい、大丈夫です。


   …。


   イキオイ余って川に落っこちないようにねー。
   流されたら大変、だからねー。


   寧ろ、お姉さまが気をつけた方が良いと思います。
   朝からはしゃぎっぱなしのようなので。


   ありゃー、江利ちゃんって辛辣ー。


   菊。


   あいなー。


   良かったわね。
   流されたら魚になれるかも知れないわよ。


   其の前に魚の餌になるけどねー。


   藤花、菊乃。
   無駄口はそこまでにして頂戴。


   あーい、すんましぇーん。


   私は一言しか喋ってないけど。




















   むぅー…。


   由乃、大丈夫?
   一人で作れそう?


   これくらい、作れるわよ。


   だけどさっきから同じところで躓いて


   作れるって言ってるでしょ!
   令ちゃんは黙って自分のでも作ってなさいよ!


   いや、もう作り終わっちゃったから…


   ええい!
   とにかく黙って見てればいいのよ、もう!


   …うーん。


   祐巳。


   …お姉さま。


   折る方向が逆よ。


   …え、と。


   だから今折った方の逆に折り直しなさい、と言っているのよ。


   は、はい。


   …。


   志摩子。


   はい?


   なーんだ、もう出来ちゃったのね。
   詰まんない。


   申し訳御座いません、江利子さま。


   天狗面は言わずもがな。
   貴女のお母上もそれはもう、不器用だったのにねぇ。


   お母さまが?


   そういや、なんだかんだ言ってぶきっちょだったなぁ、うちのお姉さま。


   あ、お姉さま。


   ふむ、良く出来てるね。
   感心感心。


   有難う御座います、お姉さま。


   聖。


   あい?


   人の事より、自分はどうなのかしら?


   ふっふーん。
   じゃーん。


   …。


   相変わらず、曲がってるわね。
   心根が曲がってるから仕方が無いのかしら。


   うっせぇぞ、でこ。


   今年は一人で折れたのね。


   然うなの。
   だから褒めて褒めて。


   はいはい、偉い偉い。


   へへ〜。


   ああ、甘い甘い。
   お饅頭なんて目じゃ無いわ。




















   ぷっはぁー。


   品が無いわよ、菊乃。


   いやぁ、穢れを祓った後のお酒は美味しいねー。


   飲みすぎには気をつけなさい。


   はぁーい。


   椿。
   はい。


   有難う、藤花。


   あ、藤ってばずるいなー。
   椿への最初のお酌は私がするつもりだったのにー。


   早い者勝ち、よ。
   それじゃ椿、私にも。


   ええ、どうぞ。


   ああー、もっとずるーーい!!


   …て。
   うるさぁ。


   菊、大きな声を出さないの。


   だって、だって、藤ばっか


   てか椿、今菊って言わなかった?


   言ったかも知れないわね。
   其れがどうかして?


   私も藤って呼んでよ。
   昔みたいに。


   …は?


   ねぇ、椿。


   椿、椿、私もお酌するよ。
   はーい。


   呼んでよ。


   でもって私にもお酌してー。


   ああもう!
   鬱陶しいわね!!


   ……。


   ……詰まんない。
   お姉さま方ばかりで。


   駄目よ、江利子。
   お酒は大人になってから、だから。


   蓉子は堅いのよ。


   堅くて結構。


   聖は飲んでるのに。


   …え?
   あ…!


   …。


   聖、何を飲んでるの…!!


   ……みず。


   一寸貸して…!


   ……。


   …う。


   あーあ、詰まんないわねー。


   せ、聖、此れは水じゃないわ!
   絶対に飲んじゃ駄目!


   …もう、のんだ。


   これ以上、飲んじゃ駄目…!!


   ……よーこ。


   え、あ…。


   よーこ…。


   せ、聖、どうしたの?
   あ、一寸…。


   よーこ、よーこ…。


   せ、聖…。


   ……。


   て、江利子!
   何してるの!?


   ……舐めるくらい、良いと思うのよね。


   だから飲んじゃ駄目だと言って…あん!


   ……んん。


   せ、聖、やめて…あ、だ、だめ。


   ……んー、微妙な味?


   え、江利子もぉ!
   駄目なんだってばーー!




















   じゃあみんなー、ちゃんと撫でたカナ?


   はーい。


   一寸、聖。
   言い方が軽いわよ。


   大丈夫、やる事はちゃんとやるから。


   然う言う問題では


   ま、良いじゃない。
   さっさと済ませましょうよ。


   江利子まで。
   良い?
   己に見立てた形代を撫でて穢れを移し、川に流すの。
   だからちゃんと


   つーわけで流すよ。
   くれぐれもイキオイ余って自分が流れないようにねー。


   人が話してる最中に貴女は…!


   あ、由乃。
   そんなに身を乗り出したら危ないよ。


   大丈夫よ。
   本当に令ちゃんは心配しょ


   わ、危ない…!!


   ………ほら、大丈夫だったじゃない。


   私が隣に居たからだよ…!!


   お姉さま。


   何、祐巳。


   ケガレ、ちゃんとはらえるでしょうか?


   祐巳がちゃんとした心持で流したのなら。
   祓えるわ。


   はい!


   ……。


   しけた顔、してるわね。
   志摩子。


   然うですか?


   穢れを祓うどころか、厄が憑いちゃうわよ。


   と、言われても。
   此れは生来の顔なのですけど…。


   蓉子。


   …何よ。


   へへー。


   だから何なのよ。


   んーん、何でもない。


   …何でも無くて、手は繋ぐのね。


   じゃ、用は済んだところで帰ろうかー。




















   も…のめな…い…。


   うぅ…おも…よぉ…くるし…よぉ…。


   調子に乗って。
   此の莫迦どもが。


   …い、た。


   ……ごめん…な…い…う、ぅ…。


   全く。
   蓉子。


   は、はい。


   其方は?


   …申し訳御座いません。
   私が付いていながら…


   ま、良いわよ。
   今日は桃の節句だから。


   け、けれど…


   お神酒だと思えば良いわ。
   其れにそんなに強い酒精では無いから。


   は、はぁ…。


   此処の莫迦どものように調子に乗らなければ良いだけ。


   ……。


   で。


   …はい。


   本当、懐かれたものね。


   ……。


   とりあえず、片付けをしないと。


   あ、お手伝い致しま


   …よ…こ。


   …あ。


   勿論、と言いたいところだけど。
   此度は良いわ。


   け、けど…


   とりあえず。
   貴女は白ちびを布団に寝かせてきなさい。


   …はい。


   それから。


   ………。


   あの、目が据わっているでこちびも何とかなさい。
   流石に怖いわ。


   ……はい。




















   ふむ。
   まぁまぁ、だわね。


   江利子、飲みすぎないでよ。


   はいはい、と。


   て、言ってるそばから。


   よーうこ。
   お酌、して。


   …はいはい。


   わーい。
   …おとと。


   聖も飲みすぎないでね。


   あーい。
   さ、蓉子もどうぞどうぞ。


   はいはい、ありが


   あ、然うだ!
   当主様、当主様!


   わ…。


   きゃ…。


   あ、すみません…。


   …ととと。
   いきなり何、令。


   あ、あの、頼まれていた子達の事なんですが。


   さて、何だったっけ?


   ひいな、です。


   ああ、そういや頼んだっけね。


   聖…?


   もう、出来たの?


   はい。


   じゃ、今貰おうかな。


   今、ですか?


   うん。


   分かりました。
   部屋にあるので取ってきますね。


   うん。


   聖、ひいなって?


   令に頼んでおいたんだ。
   ついで、と思って。


   …ついで?


   令ってば志摩子のひいなを作ってたから。


   志摩子の?


   上手に作ってたなぁ。


   待って、由乃ちゃんと祐巳のは?


   んー?


   私が見た時は二人のを作っていたのよ。


   然うなの?


   幾ら器用とは言え、そんな短時間に…


   あの子ならやるわよー。


   江利子。


   お姉さまに似て、えっらい器用だから。


   えっらい…て。
   一寸江利子、飲みすぎじゃないの?


   此れくらいなら未だ未だ。
   で、令はね、手先がえらく器用なのよ。
   由乃はからっきしなんだけど。
   だから


   はい、御待たせしました。


   お。


   当主様と、蓉子さまのひいなです。
   可愛がって下さると嬉しいです。


   ありがとー。
   おー、本当に出来てる。


   私のもあるの?


   はい。
   それからお姉さまのも。


   あら?


   あと、志摩子。


   はい?


   はい、志摩子にもあげる。


   あ、有難う御座います。


   さーちこ。


   …私も?


   と、祐巳ちゃん。


   わ、有難う御座います!
   大事にしますね!!


   由乃。


   ……。


   此れ、由乃に。
   気に入って呉れたら…嬉しい。


   …令ちゃんのばか。


   え…。


   なんで私が一番じゃないのよ。


   あ、そっか…ごめん。


   ばか。


   …うん、ごめんね、由乃。


   それと。


   うん?


   気に入らないわけ、無いじゃないの。
   令ちゃんは本当にばかなんだから。


   …!
   由乃ぉ…!


   え、あ、ちょっと…ッ


   良かった、良かったよぉ…!


   …くさッ
   令ちゃん、お酒くさいわよ…ッ


   ……良かった…良かっ…た。


   あーーーもう!!
   離れてーー!!


   ……。


   あらあら。
   困った子ねー。




















   桃の花を愛でながらと言うのもオツだねー。


   …未だ飲むつもりなの。


   今は夜。
   昼のは大分抜けちゃったー。


   菊は何気に飲むのよね。


   だって美味しいじゃんかー。


   だからって。
   程々にしておきなさい。


   はーい。
   藤はー?
   飲むー?


   然うね。
   貰おうかしら。


   じゃ、お酌してあげる。
   感謝しろー。


   私は椿の方が良いわ。


   んなの、私だって然うだよ。
   だけど敢えて、てヤツ。


   じゃ、仕方が無いわね。


   …どうでも良いけれど。


   ん?


   んー?


   どうして私の部屋で飲むのかしら。


   だって無駄に広いじゃん、此の部屋。


   一人寝は寂しいと思って。


   出てけ。


   えー。


   釣れないわねぇ。


   蓉子を追い出しておいて。
   良く言えたものね。


   まー良いじゃん。


   たまには水入らず、も良いわよ。
   其れに蓉子ちゃんにはうちの妹のお世話を頼んだの。
   熱、出しちゃったから。


   …全く。


   んー、桃の花も綺麗だけど。
   今宵の月も綺麗だねぇ。


   たまには風情のあるコトも言えるのね、菊も。


   椿も飲もーよ。


   私は要らないわ。
   明日もはや


   まぁ、然う言わずにねー。
   はい。


   ……。


   付き合い、て事でね。


   ……全く。


   へへ〜。
   あ、そーうだ。
   はい、椿。


   …?


   此れ、椿にあげる。


   此れ…て。


   椿のひいな。
   でもってこっちは私のひいな。


   て、菊、何気に自分のも作ったの?


   そ。
   一緒に並べる為にねー。


   む。


   へっへー、椿と一緒、だもんねー。
   藤はざんねーん。


   ……。


   ね、椿椿、受け取って呉れるよねー?


   ……。


   え、受け取って呉れない…?


   有難う、菊。
   慎んで頂くわ。


   わーい、やたー!


   ………。


   藤、藤、うらやまし?


   ……別に。


   そっかー羨ましいかー!
   そんな藤の為に特別!
   じゃーーん!!


   ……は。


   はい、藤の分!
   あげるね。


   ………。


   何よぅ、其の面はー。
   もちっと嬉しそうに出来ないのかねー。


   ……ええと。
   此処は一応、有難うって言っておいた方が良いのかしら。


   言っておきなさい。
   泣く子と酔った菊は手に負えないから。


   …なるほど。
  一理、あるわね。


   でー、どーなのさー。


   有難う、菊。


   はーい、どーいたしましてー。


   …程々にしろと言ったのに。


   基本、あんまり酒に強くないのよね。
   好きなだけで。


   で、ちょいと返してー。


   はい?


   は?


   はい、此れでいつでも三人一緒ーー。
   なんて、ねーーー!


   …藤。


   んー。


   此の酔っ払いの後始末、宜しくね。


   えぇ…。


   宜しくね?


   ………はーい。




















   此れ、本当に良く出来てるなぁ。


   菊乃さまもお上手だったけれど…。


   血の為せる技、てヤツ?


   然う言うわけでは無いと思うけど…でも、ああ。


   何?
   一人で納得しちゃって。


   ん、いや…。


   …なに?


   菊乃さま、喜んでいらっしゃるかな、て。


   なんで?


   ……。


   蓉子。


   聖、一寸放して。


   やだ。


   お願い、本当に一寸だから。


   やだ。


   直ぐに戻るから。
   ね…?


   …ご褒美も呉れる?


   …。


   一寸でも放すんだから。


   ……。


   此の間は貰えなかった。


   …何が欲しいの?


   蓉子からの口付け。


   ……分かったわ。


   絶対、だよ。


   ええ。


   …。


   ……。


   …蓉子、早く。


   …良い子だから。


   ……。


   ……。


   …よう


   ただいま、聖。


   おかえり、蓉子。
   遅いよ。


   …もう、仕方の無い子ね。


   …で、何だったの。


   此れ。


   …此れ、は。


   お姉さまと藤花さまと、菊乃さま。
   それから…


   …此れ、蓉子?


   然うよ。
   あと…


   私と…でこちん。


   ええ。


   ……。


   此れは、子供の頃の私達。


   …懐かしい、と言うべきなのかな。


   今の私達と並べてみる?


   うーん…。


   …。


   …何だか微妙な気持ち。


   ふふ、本当に大きくなったものね。
   あんなに小さかったのに。


   …子供扱い、されるしー。


   聖。


   ん…。


   …ご褒美。


   …。


   ん、ふ…。


   …子供じゃ。
   こんな口付け、出来ないよ?


   …もう。


   一寸、良いかしらー。


   …え。


   こんな夜分に悪いのだけれどー。


   全くだ。


   でもどうせ、起きてるんでしょ。
   入るわよ。


   ま、待って…!


   はい、ごきげんよう。


   ……。


   ごきげんよう、じゃねーよ。


   直ぐに退散するわよ。
   此れを置いたらね。


   …?


   は?
   何、其れ。


   貴女達も貰ったでしょう?
   私の妹から。


   ……。


   …此れを置いていくって?


   今晩だけで良いのよ。


   は、何でだよ。
   お前が貰ったんだろうが。


   一緒に。
   置いてあげて。


   …!


   何とだよ。


   お姉さまが作ったひいな、と。


   ……。


   じゃ、お前のヤツだけ持ってけよ。


   其れじゃ意味が無いのよ。


   は、何だよ其れ。


   江利子。


   ん?


   預かるわ。
   今宵だけで良いのでしょう?


   蓉子?!


   流石、蓉子。
   話が分かる。


   なんでよ、蓉子。


   聖、お願い。
   一晩だけで良いの。


   …理由を話してよ。
   じゃなきゃ、納得はしない。


   …江利子。


   ああ、良いわよ。
   別に。


   貴女、知っているの?


   知らないわよ。


   ……。


   蓉子、話して。


   …菊乃さまの願いなの。


   菊乃さまの…?


   ……。


   来年のひいなと並べて欲しいと。


   …。


   あと…江利子の後の子が作って呉れたら嬉しい、と。


   ……。


   然う言うわけなの。
   だから、宜しくね。


   ……。


   聖。


   …別に今宵じゃ無くても良かったじゃないの。


   だって今日は桃の節句でしょ?
   だから今日なの。


   …なんで?


   お姉さまが然う、望んだから。


   …然うなの?
   蓉子。


   其れは…分からないけれど。


   兎に角、然う言うわけだから。
   折角の逢瀬、邪魔して悪かったわね。
   ごきげんよう。


   ……。


   聖…。


   蓉子の隣は私だから。


   え…。


   昔も今も。


   …。


   どうせ、子供だもの。
   私は。


   …ん。




















   ふふ〜。


   何、気持ち悪いわね。


   来年はどうなってるのかな〜と思って。


   来年の事を言うと鬼が笑うわよ。


   じゃ、私が笑う。
   ふふ〜〜。


   気色、悪い。


   全くだわ。


   お姉さま。


   ああ、蓉子。


   お茶を煎れて参りました。


   有難う。


   蓉ちゃん、私の分は〜?


   はい、どうぞ。


   わーい。


   藤花さまもどうぞ。


   有難う、蓉子ちゃん。
   …ん、美味しい。


   恐れ入りま…


   ……。


   な、何でしょうか…?


   んーん、何でもないよー。
   んふふ〜〜。


   …お姉さま。


   放っておいて頂戴。


   は、はぁ…。


   来年も良いひいな祭になれば良いな〜〜〜。
















 桃 ノ 花 、 咲 ク 頃 了