最 終 日。

   ミ ン ナ ノ 。










   はい、良し。
   動いても良いわよ。


   はい、ありがとうございます!
   蓉子さま!


   お、祐巳ちゃん。
   良いねぇ、馬子にも衣装だねぇ。


   うるさいです。
   あの、どうですか、お姉さま?


   ええ、良いわね。
   良く似合ってるわ。


   わぁぁ、ありがとうございます!


   …褒めてるのに。


   私のお下がりなのだけど…本当に良かったの?


   はい、勿論です!!
   蓉子さまのお下がりをいただけて、本当に、うれしいです!


   ちょ、一寸、そんな大層なものでは無いのに


   だけど大事にされていたのものなのですよね?


   …まぁ、然うね。


   ふふ、やっぱりうれしいです!


   良かったわね、祐巳。
   私も着てみたかったわ。


   祥子まで…。


   しっかし。
   蓉子が祐巳ちゃんぐらいの頃に着てた着物、ねぇ。


   ええ。
   貴女が未だ、生まれてない頃の話。
   お姉さまがわざわざ、誂えて下さったのよ。


   然うなんだよね。


   残念?


   大分。
   一度良いから見たかったよなぁ、ちっちゃい蓉子。


   ふふ、こればかりはどうしようも無いわね。


   ねぇ、蓉子さ。


   貴女も着替える?


   着付け、して。


   はいはい。










   で、さ。


   うん?
   あ、きつかったら言ってね。


   大丈夫。


   で、何?


   幻灯、無いの?


   幻灯?


   ちっちゃい蓉子が写ってるの。


   さぁ、どうだったかしら。


   蓉子の父上の事だから、絶対、一枚くらいは、絶対ある!


   二度も言わなくても良いじゃない。


   それから椿さまの事だから、やっぱり、一枚は絶対ある!


   お姉さまはあまり、好きではなかったのだけど。


   蓉子だけ写せば、自分は写る必要無いじゃん。
   でもって私ンとことと江利子ンとこのお姉さまだったら、絶対!


   其の自信は何処から来るのよ。


   だってこんなに可愛い蓉子、閉じ込めておきたいでしょやー!


   …貴女の主観は良いから。


   あると思うんだよー。
   絶対にー。


   はいはい、じゃあ今度探してみるから。


   蓉子、本当に知らないの?


   覚えてないのよ。


   本当に?


   あの頃に家族で行った覚えも無いし…。


   ふぅん…。


   でも然うね、探してみたらあるかも知れないわね。


   一緒に探してもい?


   どうぞ。
   でもくれぐれも散らかさないようにね。


   えー、探し物をすると散らかるもんだよ。


   貴女の場合は本当に散らかすだけ、だから。
   言っているの。


   へーい…。


   さ、此れで良いわ。
   きつくない?


   ん、大丈夫。


   そ?
   良かった。


   蓉子はどうするの、着替えるの、着替えようよ。


   問いになっていないじゃない。


   ね、着替えよ?
   んで、一緒に幻灯とろ?


   どうしようかしら。


   ね、ね?


   こら、折角着付けたのに。
   崩れてしまうじゃないの。


   蓉子がうんって言ったら離すー。


   仕方ないわね。


   やたー。
   蓉子大好きー。


   はいはい、分かったから離して頂戴。


   蓉子も蓉子も。


   …甘えたさんね。


   好き?


   好きよ。


   んじゃ、ちゅー。


   こぉら。


   はい、蓉子も。


   着替えたいのだけど?


   ちゅー、してから。


   全く。


   早く、早く。


   はいはい。


   はい、は一回。


   もう…。


   …へへ。


   と、一段落ついたところで。
   一寸、良いかしら?


   ……。


   …いつから、いやがった。


   ちゅー、はうっかり見ちゃったわね。


   うっかり、じゃないだろ、絶対。


   まぁ、良いから。
   そろそろ出掛けない?
   此方の支度は疾うに、終わっているのだけど。


   …然うね。
   然うしましょうか。


   でも蓉子、着替えてない。


   私は良いわよ。


   良くない。
   駄目、絶対に駄目。


   まぁ、あと少しだけ、なら待っていてあげるわ。


   偉そうなんだよ、でこちん。


   偉そうに言ってみたから。
   じゃ、蓉子、さっさとお願いね。


   ええ。
   …聖。


   ん?なに?


   貴女も部屋の外に出ていて。


   着付け、手伝ってあげる。


   結構、よ。
   余計なコト、されそうだから。


   余計なコト?
   余計なコト、ってなに?


   …。


   ん?ん?


   江利子。


   はーい。


   お願い。


   仕方が無いわね。


   あ、こら、離せ、離せよ。


   みんな、待ってるのよね。
   特に由乃と祐巳ちゃんはお祭なんて、初めてだから。
   そわそわしっぱなしで宥めるのが大変なのよー。


   離せー。


   まぁ、志摩子もなんだけど、あの子は落ち着いちゃってるから。
   なーんか年寄りくさいのよね。


   あー蓉子ー蓉子ぉー。


   直ぐに着替えるから。
   大人しく、待っててね。










   …おぉ。


   お待たせ。


   蓉子ぉ!


   其れはもう、良いから。
   待たせてしまってごめんなさいね、江利子。


   私だけじゃ、無いわよ。


   然うね。
   みんなにも謝らないと。


   蓉子、蓉子。


   ん?


   手、繋ぎたい。


   子供達と繋いで。
   はぐれてしまわないように。


   祐巳ちゃんには祥子が、由乃ちゃんには令が居るじゃん。


   志摩子は?


   あの子なら大丈夫。


   聖、いい加減な事を言っては駄目よ。


   いい加減なコトなんて言ってないよ。


   だったら。


   手を引かれるほど幼くないもん、志摩子は。


   寧ろ、姉の方が幼いわね。


   そうそう。


   聖。
   江利子も。


   良いじゃない、手ぐらい。
   今更、よ。


   何だったら、腕を組んでも良いなぁ…いて。


   どんどん調子に乗るんだから。


   へへ。
   さぁ蓉子さん、お手を。


   もう。









   令ちゃん、あっち、あっちなに?


   ああ、あれは屋台だね。


   やたい?
   やたい、て何?


   お祭の時なんかに出る、ちっちゃなお店だよ。
   あそこはお団子を売ってるみたい。


   見たい!


   あ、こら、由乃。
   一人で行っては駄目だよ。


   令ちゃん、はやくはやく!


   お姉さま。


   良いわよ、行ってきなさいな。


   はい。
   由乃、待って。


   江利子さま。


   ん、志摩子も興味ある?


   いいえ、特には。


   然う?


   それより、其の…。


   ん?


   手、は…。


   見ての通り、聖が蓉子蓉子と騒ぐから。


   私は一人でも大丈夫なので…。


   数的に丁度良いのよ。


   はぁ…。


   ま、たまにはね。


   たまには、ですか。


   そ、たまには。
   満更悪いものじゃ、無いでしょ。


   …然うですね。









   あ!
   お姉さま、げんとうやさんがきてますよ!


   祐巳、人を指で指しては駄


   え、幻灯屋どこどこ?


   …当主様。


   あ、本当だ。
   蓉子、幻灯屋が来てるって!
   丁度良いから早速行ってみようよ!


   あ、こら、聖。


   早く早く!


   手を、手を引っ張らないで…あ。


   あ、蓉子!


   お姉さま…!


   …だから、行ったのに。


   どこか痛いところは?!


   大丈夫。


   本当にどこも痛くない!?


   ええ、平気。
   だけど…。


   …鼻緒、切れちゃってる。


   誰のせい?


   …ごめんなさい。


   お姉さま!
   お怪我は、お怪我はありませんか?!


   蓉子さま!だいじょうぶですか!?


   ええ、大丈夫よ。


   折角のお着物が…。


   ああ、これぐらいだったら払えば済む事だから。
   それよりもこっちが、ね。


   あ、はなおが…。


   とりあえず、応急処置をしないと。


   蓉子。


   え…あ。


   とりあえず、座れるトコに行こう。


   せ、聖…?!


   あら、蓉子。
   楽しそうね。


   た、楽しんで無いわよ!


   お姉さま、如何なされましたか?


   蓉子の鼻緒が切れちゃってね。
   だからあの辺で直そうと思って。


   ああ。


   ああ、じゃないから!
   聖、下ろして!


   けれどお姉さま、一体何で直されるおつもりなのですか?


   そらぁ勿論、手巾で。
   確か懐に…


   では宜しければ此れをお使い下さい。


   お、ありがとう。
   気が利くねぇ。


   恐れ入ります。


   んじゃ皆は適当に回っていてよ。
   くれぐれも私達の邪魔をしないように。


   聖…ッ









   こんなもん、かな。
   蓉子、履いてみて。


   …。


   蓉子。


   聖のばか。


   きつかった?
   じゃ、直すよ。


   然うじゃなくて。


   ん?


   往来でいきなりあんな事して。
   恥ずかしかったんだから。


   あれくらい、何でもないじゃない。


   何でもあるわよ。


   蓉子さんは恥ずかしがり、だね。
   おまけに不意打ちに弱いときてる。


   …あ。


   抱っこぐらいで。
   …可愛いなぁ。


   …聖。


   本当、可愛い…。


   んん……。


   …。


   ふ…ぁ…。


   …先刻は手を引っ張っちゃって。
   ごめんね…?


   ……本当、よ。


   機嫌、直して?


   …直らないわ。


   じゃあもっと、してあげ…む。


   然ういう事ばかりするから、よ。


   むむ。


   鼻緒、直してくれてありがとう。


   …どう、ひたひまひて。


   だけど。
   貴女のせいで、今日は皆を待たせてばかりだわ。


   …それでも。
   もう一寸、くっついていたかったな。


   どうせ家に帰ったらするのだから。


   外には外の醍醐味があるのです。


   ばか。
   さ、行きましょう。










   あ、蓉子さま。
   鼻緒が切れたって聞きましたけど…。


   ええ、誰かのせいでね。


   だれかって、当主様ですか?


   ずばりくるね、由乃ちゃん。


   もう、大丈夫なんですか?


   ええ、誰かのおかげで。


   それもやっぱり、当主様なんですね。


   当たり、由乃ちゃん。


   皆は?


   はい、皆ならあそこに。


   げんとうをとるって。


   実は私達も屋台を見ながらだったので、今、来たところな…


   ああ!


   …て。
   当主様…?


   先を越された!
   蓉子、私達も早く行こう!


   あ、聖…。


   令ちゃん、わたしたちもはやくいこうよ!


   由乃、走っては危ないから。


   と、いけない。
   蓉子、走らずゆっくり行こう。
   幻灯は逃げないもんね。


   一応、反省しているのね。


   令ちゃん!
   はやく!


   危ないよ、由乃!
   …あ!


   あ、思い切りいった。


   由乃ちゃん!


   由乃…!


   いたたた。


   由乃、大丈夫?!


   あー、びっくりした。


   何処か痛くない?
   足、捻らなかった?


   大丈夫よ、これくらい。


   ああ!
   ここ、擦り傷になってるじゃない!
   薬、薬は…あ、でも泉源氏の方が…!!


   おおげさよ。


   ちゃんと治しておかないと!
   ばい菌が入ったら大変なんだから…!!


   令ちゃ


   傷を治せ、泉源氏!


   ……。


   はい、これでもう大丈夫。
   だけど大事をとって


   令ちゃんのばか!


   え。


   もう、いっつもいっつもおおげさなのよ!
   ばか!


   で、でもちゃんと治しておかないと…。


   ばかばかばかばか!
   れいちゃんのばか!


   よ、由乃ぉ…。


   由乃ちゃん、そこまでにしておいてあげて。
   令はただ、由乃ちゃんの事が心配なだけなのだから。


   …だけど、いっつもおおげさで。


   それだけ、由乃ちゃんが大事なのよ。
   ね?


   ……。


   ほーら。
   令もそんなトコで凹んでないでさー。


   当主様…。


   ほらほら。


   …ごめん、由乃。


   …どうして令ちゃんがあやまるのよ。


   だって…。


   あーもう!
   令ちゃん!


   え、何?


   いくわよ。


   え、どこに。


   げんとうやさんにきまってるでしょ!
   ほら、はやくして!


   うん!


   やれやれ。
   蓉子、私達もいこ?


   ええ。


   はい。


   手?


   どさくさで離れちゃったから。


   …ええ。










   遅かったわねー。


   色々と、ね。


   何だったらもう一寸、いちゃいちゃしてきても良かったのに。


   …江利子。


   図星、でしょ?


   でこ、自分のちび達の面倒くらい、見ろよ。


   お言葉ですけど見てるわよ、天狗面。
   大袈裟な事さえ起こらなければ、大丈夫。


   あのなぁ。


   蓉子さま、みてください!


   ん、何を?


   お姉さまといっしょにとったんです!


   あら。


   …祐巳がどうしてもと言うので。


   でも、良い顔をしているわ。


   どれどれ、私にも見せて。


   …。


   お、確かに良い顔してんねー。
   いつもこんな柔らかい顔してりゃ良いのにー。


   余計なお世話ですわ。


   このげんとう、たからものにします!


   大袈裟よ、祐巳。
   幻灯一枚くらいで。


   いや、分かるなぁ。
   祐巳ちゃんの気持ち。


   ぎゃ…ッ


   好きな人と一緒に写った幻灯。
   そりゃあ、大事にするってものさ。


   と、当主様…ッ


   て、わけで。
   蓉子、私達も撮ろう撮ろう。


   …。


   蓉子ってばー。


   え、ああ、うん。


   やったー。


   でも令たちの後よ。


   うん、分かってる。
   と言うか蓉子と撮れるんだったら何番でも良い。


   じゃ、私も蓉子と撮ろうかしら。


   は?!


   だって私も蓉子が好きだもの。


   え?


   ねぇ、蓉子。
   私と一緒のも撮りましょうよ。
   ね?


   別に良いけど…。


   駄目だー!


   …聖。


   蓉子と二人で撮って良いのは私だけなんだ!


   へぇ?
   其れはいつ、誰が決めたのかしら?
   そして其れは蓉子も認めた事なのかしら?


   蓉子、蓉子は私とだけ撮るんだよ。


   聖、別に


   わたしも蓉子さまととりたいです!


   祐巳ちゃんまで!


   ねぇ、どうせだったら志摩子も一緒に撮ったら?


   私、ですか?


   折角、だし。


   …然うですね。


   志摩子!


   だけど私はお姉さまと蓉子さま、三人で撮りたいです。
   宜しいでしょうか、お姉さま。


   ふぅん。
   ま、志摩子が然う言うのなら。


   てか江利子が決めんな!


   駄目でしょうか、お姉さま。


   あー…。


   聖。
   私は構わないから。


   …まぁ、良いけど。


   有難う御座います。
   それから、江利子さま。


   んー?


   宜しければ、一緒に撮りませんか?


   私と?


   はい。


   良いわよ。


   有難う御座います、江利子さま。










   えと。
   これで良いのかしら、志摩子。


   はい。


   聖の隣でなくて良いの?


   はい、これで良いです。


   けれど。


   良いのです。
   私は、これで。


   …然う。
   志摩子が然う言うのなら…。










   志摩子。


   はい。


   貴女、物好きよね。


   江利子さま程ではありません。


   ふふ、言うわね。


   はい、言いますよ。


   貴女はなかなか面白いわ。


   有難う御座います。










   蓉子。
   あれ、見て。


   …。


   変な顔、してる。


   …本当、仕方の無い人だから。


   だけど、愛しいのね。


   …ええ。


   …。


   江利子?


   これくらい、良いでしょう。


   …益々、変な顔してるわ。


   ねぇ。










   あの、お姉さま。


   うん?


   私は…


   三人で、撮りましょう?
   ね、祐巳ちゃん。


   はい!


   …。


   祐巳ちゃんを真ん中にして。


   ですが私はもう…。


   私も二人と写りたいわ。
   ね、祥子。


   …お姉さまが然う仰るのなら。


   ねぇ、祥子。


   はい。


   笑って?
   ね?


   …。


   祐巳ちゃんと二人で撮った時のように。


   ……はい。










   やっと私達だけの番、だ。


   …然うね。


   でこのやつ、手なんか繋いで。


   貴女、変な顔をしてたわ。


   …だって。


   聖も。
   手、繋ぐのでしょう?


   勿論…あ、いや、やっぱ止めた。


   うん?


   私は、こうする。


   ……。


   もっと、近くによって。


   …これ以上?


   密着、するように。


   してるじゃない。


   もっと、近く。


   じゃあ…、


   …?


   空いている手を前に。
   其の手に、私の手を重ねるわ。
   腰に回されている手に、は、難しいから。


   …うん。


   …聖。


   うん?


   ばか。


   …ん。










   …まるで。
   夫婦、だわね。










   さて、幻灯も撮ったし。
   そろそろ違うところに行こっか。


   待って。


   ん、なに?


   皆にお願いがあるの。


   はい?


   何でしょうか?


   最後に、皆で撮りましょう。


   皆で、ですか。


   其れは家族幻灯という事ですか、お姉さま。


   ええ。
   …駄目、かしら。


   んー、別に良いんじゃない?


   はい、撮りましょう。


   じゃ、とりあえずは並びましょうか。


   聖、良い?


   なんで?


   当主様、だから。


   止めてよ。


   ごめんなさい。


   蓉子が望むのなら。
   叶えてあげないと。


   大仰ね。


   だけど、蓉子は私の隣だからね。


   言うと思った。


   じゃないと、やだ。


   はいはい。


   はいは一回、だよ。


   はい。


   蓉子、天狗面。
   こっちの支度はぼちぼち整ったのだけど。


   ええ、今行くわ。
   聖。


   うん。










































   蓉子さま、あっちいってみましょうよ!





   お姉さま、祐巳がすみません。





   蓉子さま、あの綺麗な花は何と言う名なのでしょう。





   蓉子さま蓉子さま、あれはなんですか?





   蓉子、一寸あれが気になるのだけど。





   蓉子さま、お姉さまが。





   蓉子さま、か…。










   蓉子、物珍しいからと言って余所見をしていては危ないわ。





   蓉ちゃん、あの屋台のお団子、すっごく美味しいんだよー。





   蓉子ちゃん、うちのちびの面倒、宜しくね。





   蓉子、肩車してやるぞー!





   …蓉子ちゃん、どうか、聖を。


















   蓉子、行こう!!















   ミ ン ナ ノ 蓉 子 サ マ 了